説明

難燃性シートおよび該難燃性シートを用いた電子機器

【課題】UL94−Vtm試験法で良好な難燃性能を持ち、かつ、ハロゲンを含まない難燃性シートを提供できる。得られるシートは、適度な柔軟性や豊かな感触を有し、表皮材として使用できることは元より、良好な難燃性を有する電磁波シールド材等としても使用できる。
【解決手段】導電性繊維集合体に対してポリウレタン樹脂を含浸した難燃性シートであって、難燃剤として、少なくとも膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムを含み、該難燃性シートに対するそれら3種の重量割合の合計が32〜43wt%である難燃性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維集合体にポリウレタン樹脂を含浸したシートであって、特に、電子機器の筐体内等に用いられる導電性シート(電磁波シールド材)に対し、難燃剤を添加した難燃導電性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維集合体にポリウレタン樹脂を含浸させたシートは、人工皮革などの用途として幅広く使用されている。近年、そのシートに導電性を持たせて、電子機器等の筐体内に付けることで、電磁波シールド材として用いられるものも出てきている。電子・電気機器には、その物自体が電波ノイズを出しやすい回路構成を含む為、漏洩を防ぐ目的でシールドを施す場合や、外来の電磁妨害波による誤動作を惹起させないよう、必要に応じて電磁波シールドを施す場合がある。シールド材料には、金属箔そのものや、金属メッキ繊維による布帛(メッシュ)・不織布を単体で使用する場合や、クッション性が要求される用途では、ウレタンスポンジとの併用、導電性粉体を練り込んだゴム等が適宜使用される。
【0003】
ところで、電子・電気機器類には、多くの場合、その材料自体に燃えにくいことが要求され、難燃性を付与するために、難燃剤を塗布したり、練り込んだりすることが必要となる。クッション性を有する高分子素材の中でも汎用性の高いポリウレタン樹脂は、酸素指数が21程度であり、例えば塩化ビニルや塩化ビニリデン等のハロゲンを構造中に含んだポリマーに較べて燃えやすい構造となっており、多量の難燃剤を添加する必要が生じる。その手法として一般的なのが、構造中にハロゲンを有した難燃剤を添加したり、また、同時にアンチモン等の無機系難燃剤を併用することで、難燃剤添加量を可能な限り少なくし、ウレタンの優れた機械物性を損なわないように配合するのが一般的であった。
しかし、近年、ハロゲン化合物が、ダイオキシン発生源になる等、地球環境への影響という観点から、非ハロゲン難燃処方の確立が望まれており、例えば、RoHS規制の様に、特定のハロゲン系難燃剤の使用を規制する動きもあり、非ハロゲン難燃剤の使用が一層強く求められるようになってきている。
【0004】
このような動きに対し、非ハロゲン難燃剤として、リン系化合物を使用することが開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開平1−203468号公報)には、難燃剤として、耐水性の高いポリリン酸化合物を使用した合成樹脂組成物が開示されている。
しかしながら、ポリウレタン樹脂組成物の難燃性を良好なものとするためには、リン系化合物だけでは足りず、他の難燃剤との組み合わせが必要となる。
そこで、リン系化合物以外に、膨張黒鉛や、他のリン系化合物を含んだものが開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2(特開2003−247164)には、メッキ布帛に膨張黒鉛とリン系難燃剤を有する樹脂層を設けたものが開示されている。
また、特許文献3(特開2005−133054)には、トリクレジルフォスフェート(リン系化合物)、膨張黒鉛、ポリリン酸アンモニウムの3種を併用したポリウレタン組成物で、EMI対策製品に使用されるものが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平1−203468号公報
【特許文献2】特開2003−247164号公報
【特許文献3】特開2005−133054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2で使用される難燃剤は、基本的には、粉末状であるため、溶剤を用いずに樹脂とともに繊維集合体に含浸させることは極めて困難であった。
また、特許文献3で使用される難燃剤は、熱硬化性樹脂と難燃剤との相溶性が悪く、シート表面に浮き出てきてしまう(ブリードアウトしてしまう)という問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、導電性繊維集合体にポリウレタン樹脂を含浸することによって得られるシートに対し、複数の難燃剤を特定量配合することにより、UL94−Vtm試験法で良好な難燃性能を付与できるノンハロゲン難燃剤処方を提供するものである。
【0010】
即ち、本発明は、
[1]導電性繊維集合体に対してポリウレタン樹脂を含浸した難燃性シートであって、難燃剤として、少なくとも膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムを含み、該難燃性シートに対するそれら3種の重量割合の合計が32〜43wt%である難燃性シート、
[2]前記芳香族縮合リン酸エステルの該難燃性シートに対する重量割合が、14.5〜19.5wt%であることを特徴とする[1]の難燃性シート、
[3]前記ポリリン酸アンモニウムの該難燃性シートに対する重量割合が、7.0〜9.5wt%であることを特徴とする[1]又は[2]の難燃性シート、
[4]前記芳香族縮合リン酸エステルが、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)であることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の難燃性シート、
[5]前記ポリウレタン樹脂が、熱硬化性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の難燃性シート、
[6]前記ポリリン酸アンモニウムが、シラン処理されていることを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の難燃性シート、
[7]導電性繊維集合体が、銀メッキを施した繊維を含んだ不織布であることを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の難燃性シート、及び、
[8][1]から[7]のいずれかに記載の難燃性シートを具備することを特徴とする電子機器、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、UL94−Vtm試験法で良好な難燃性能を持ち、かつ、ハロゲンを含まない難燃性シートを提供できる。得られるシートは、適度な柔軟性や豊かな感触を有し、表皮材として使用できることは元より、良好な難燃性を有する電磁波シールド材等としても使用でき、シールド性を有したパッキン材やガスケットとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態にかかる難燃性シートを説明する。
本発明の難燃性シートは、導電性繊維集合体に対してポリウレタン樹脂を含浸した難燃性シートであって、難燃剤として、少なくとも膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムを含み、該難燃性シートに対するそれら3種の重量割合の合計が32〜43wt%である難燃性シートである。
【0013】
導電性繊維集合体とは、導電性細線から構成されたものや、表面を導体で被覆、塗装した繊維やカーボンファイバー等であり、電気を通すものであれば良い。
【0014】
導電性繊維集合体は、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の合成繊維にメッキを施したものや、カーボンファイバーにメッキを施したものが好適である。その理由は、均一に金属層を形成できるので品質が安定化しやすく、電気的な性能をコントロールしやすい為である。ポリエステル合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、汎用性のあるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0015】
合成繊維に施されるメッキとしては、一般的に銅やニッケル等が用いられるが、これらは、高温高湿度の環境下では比較的腐蝕しやすく、経時的に表面抵抗が上昇して性能を劣化させる恐れがある。一方、銀メッキは、元々、貴な金属であり錆びに強く性能変化を起こしにくいため、好適に用いられる。このような繊維集合体として、例えば、金井重要工業社製EM3300Dなどを使用することができる。
【0016】
導電性繊維集合体の形状は、不織布が好ましい。不織布は、織編物に較べ、繊維の集合組織の状態がルーズなため、粘度を有した液体が含浸しやすく、含浸した液体が保持されやすい。
【0017】
導電性繊維集合体を構成する導電性細線の直径は、50μm以下とすることが好ましく、特に10〜30μm程度が好適である。50μm以下とすることで、クッション性及び電気抵抗値が優れたものとなる。
【0018】
導電性繊維集合体の重量(目付)は、10〜300g/mが好ましい。重量が10g/m未満であると疎な組織となり、保持される含浸液が少なくなる結果、見栄えの悪いシートになり、加えて導電性効果や電磁波シールド効果が低くなる。一方、重量が300g/mを超えると、原料混合物が含浸しにくくなり、含浸に時間が掛かったり、含浸ロール数を増やす等、操作性が悪くなる。
【0019】
導電性繊維集合体の厚さは、所望する導電性クッション材料の厚みにより種々変更すれば良いが、静置で0.2〜5mmが好ましい。
【0020】
導電性繊維集合体を構成する導電性細線の繊維長は、20〜80mmが好ましい。繊維長が20mmより短いと、繊維の絡みが悪く、不織布としての強度が低下してしまい、強く引っ張ると破壊される恐れがある。また、80mmよりも長いと、カーディング工程での操作性が悪く、ウエブ化が困難である。更に好適な繊維長は30〜55mmである。
【0021】
ポリウレタン樹脂は、一般に汎用されているものを適宜使用することができるが、特に、熱硬化性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0022】
熱硬化性ポリウレタン樹脂を使用すると、該樹脂を構成する原料配合比を適宜変更することで、所望の物性、特に硬度や発泡性を容易に変更できる等の利点があり、かつ、溶剤を使用することなく所望のシートを得ることができ、シートの表面状態をコントロールしやすく、加えて環境面で有利である。
【0023】
熱硬化性ポリウレタン樹脂としては、多官能ポリオール成分や多官能低分子化合物或いは、多官能イソシアネート化合物を種々組み合わせて使用するものが好適である。
【0024】
熱硬化性ポリウレタン樹脂の配合量は、繊維集合体の重量に対して0.5〜10倍程度が好ましい。配合量が0.5倍よりも少ないと、繊維を結束する力が弱くなってしまい、10倍を超えると、表面の外観が悪くなってしまう。特に好ましくは4〜10倍である。
【0025】
熱硬化性ポリウレタン樹脂の原料であるポリオール成分としては、25℃下において液体であるものを使用する。そうすることにより、ポリオール成分を含む主剤と硬化剤との混合物の粘度を、導電性繊維集合体に含浸するのにふさわしい値としやすい。
【0026】
ポリオール成分としては、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、3−メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの開環重合物等のエーテル系ポリオール、そしてそれらの多官能性化合物、または、ポリカプロラクトンポリオール及び多官能性化合物、3-メチル−1,5−ペンタンジオールのアジピン酸の重縮合物を代表としたポリエステルポリオール類が使用できる。なお、1,4−ブタンジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン等の3官能化合物を適宜ブレンドして使用してもよい。
【0027】
さらに好ましくは、ポリオール単独、或いは、ブレンドした状態で2官能以上の官能基数となることが挙げられ、好適な範囲は、f=2〜3である。
【0028】
また、イソシアネート成分としては、TDI(トリレンジイソシアネート類)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、及びそのカルボジイミド変性体、またそれらの多量体等が例示できる。特に好適なものとして、MDIのカルボジイミド変性体がある。ポリオール成分とイソシアネート成分は、モル比でNCO/OH=1.2〜1.6程度で配合するのが好ましい。
【0029】
また、本発明においては、ポリウレタン樹脂に導電性充填材を添加して、シートのポリマー部(導電性繊維集合体以外のゾーン)の導電性を補足することもできる。導電性充填材を含有することにより、繊維集合体の有する導電性と相俟って、シートの導電性を向上させることができる。なかでも、金属粒子(銀粉等)や、カーボン系として、炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、黒鉛、膨張黒鉛等を適宜用いることができる。
【0030】
導電性充填材は、カーボン系の中でも、導電性や価格の面からカーボンブラックが好ましく、その中でもアセチレンガスを原料としたアセチレンブラックが好適である。
【0031】
導電性充填材の配合量は、カーボンブラック単独の場合、主剤に占める割合で1〜10wt%程度が好ましい。
【0032】
また、本発明の難燃剤シートは、難燃剤を添加して燃えにくくする必要があり、分散使用可能な非ハロゲン難燃剤として、少なくとも膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムの3種を使用する。これら3種を併用することで、実質上ウレタン化反応に支障が出ない粘度を維持しつつ、全体的に難燃剤合計量を減らすことが可能となり、かつ、ブリードアウトしないといったバランスの取れた性能が得られる。ただ、所望の難燃性能を達成するため、これら以外の難燃剤を添加することも可能である。
【0033】
膨張黒鉛は、主に、中国で産出されるリンペン状の黒鉛が使用できる。リンペン状黒鉛は、採掘後、粉砕、水分級の工程を経てカーボン含有量を高め、更に、強酸で洗浄、高温下アルカリ中で焼結せしめ、再度洗浄後、不純物を取り除いた物に対して、黒鉛の層間に化学品を挿入(インターカーレーション)した物が使用できる。膨張黒鉛の種類により、膨張開始温度、膨張容積、粒子径等が変わる。特に粒子径は、同一重量比で調合した場合、主剤の粘度を変化させる可能性がある。粒子径が好適な範囲は、40〜300μmであり、更に好ましくは、150〜200μmである。好適に使用できる膨張黒鉛は、三洋貿易製SYZR802(200℃膨張、膨張容積150〜250ml/g、目安径180μm)を挙げることができる。理由は、粒子径と膨張容積、膨張開始温度のバランスが良好であるためである。
【0034】
芳香族縮合リン酸エステルは液状であるため、他の粉末状の難燃剤(膨張黒鉛・ポリリン酸アンモニウム)を導電性繊維集合体に含浸させやすい量に調整することが容易であり、好適に用いられる。具体的には、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が上げられる。芳香族縮合リン酸エステルは、芳香族リン酸エステル類(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等)に較べて高分子量で、熱硬化性ポリウレタンとの混和性も良好で、ブリードアウトをしにくい為、使用しやすい。中でも最も好適なのが、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)である。
1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)は、1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)に較べて、リン含有量が高いので添加量を減じることができる。
この芳香族縮合リン酸エステルは、液状であるため、導電性繊維集合体への含浸のさせ易さという点からは、多量に含有させることが好適のように思われるが、多量に入れ過ぎてしまうとブリードアウトや物性低下が顕著となってしまうため、他の混合物とのバランスをとりながら配合するのが良い。
【0035】
ポリリン酸アンモニウムは、ポリウレタン原料に分散させやすい点から、粒子径を1〜50μmとするのが好ましい。更に好適には10〜30μmである。ただし、ポリリン酸アンモニウムは、経時的に水分と反応することで徐々に変質することがあり、所望の難燃性能を発揮しない場合がある。この観点から、粒子表面を疎水性へ改質した(シラン処理した)ものが特に好ましい。なお、シラン処理とは、シランカップリング剤等により、粒子表面に被膜を構成する処理をいう。
【0036】
膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムの配合量は、難燃性シート全体に対し32〜43wt%とする。特に、芳香族縮合リン酸エステルを14.5〜19.5wt%、ポリリン酸アンモニウムを7.0〜9.5wt%、または、膨張黒鉛を10.5〜14wt%含有するのが好ましい。
【0037】
難燃剤全体の配合割合が、32wt%より少ないと、充分な難燃効果を得ることができない。逆に、43wt%を超えると、含浸時の主剤(ポリオール成分を主とする原液)の粘度が高くなりすぎてハンドリングが悪くなり、またポリウレタン反応が阻害される可能性がある。そこで、粘度調整のため、液状の芳香族縮合リン酸エステルの配合量を増加することが考えられるが、その場合には、シート自身が脆くなってしまい、好ましくない。
【0038】
その他、ポリウレタン樹脂への添加剤として、シリコーン整泡剤、反応促進・泡化触媒等をブレンドしても良く、これらは目的に応じて適宜使用することができる。
【0039】
難燃性シートの目付量は、100〜3000g/mとする。この範囲とすることにより、目付量10〜300g/mの導電性繊維集合体に対するポリウレタン樹脂の含浸度合いを適切なものとすることができ、良好な難燃性シートを得ることができる。
【0040】
また、本発明の難燃性シートは、その表面粗さRaを20μm以下とするのが好ましく、更に好ましくは15μm以下である。この範囲とすることにより、難燃性シートとして好ましく使用できる。
【0041】
また、難燃性シートにクッション性を付与するため、シート内には、空洞が多数存在することが望ましい。シート中に含まれる空洞は、その密度により把握することが可能であるが、そのシート密度は0.1〜1g/cmであることが望ましい。
【0042】
次に、この実施の形態にかかる難燃性シートの製造方法について説明する。
難燃性シートの製造方法は、ポリウレタン樹脂を導電性繊維集合体に含浸させ、該シートを製造するものであって、図1に示すように、(a)複数の離型シート4,4によって導電性繊維集合体3を両側から挟み込んで層状物を形成する工程と、(b)導電性繊維集合体3と離型シート4の間にポリウレタン樹脂含浸液10を流し込んで導電性繊維集合体3に含浸させる工程と、(c)導電性繊維集合体3に含浸液10を含浸させる際に、前記層状物を加圧する工程と、を有する。このような工程を経ることにより、ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解せずとも、導電性繊維集合体に対し、適当量を含浸させることができる。
【0043】
上記(a)に係る工程では、導電性繊維集合体を挟み込むために、離型シートが使用される。該離型シートとしては、紙、フィルム等、シートを離型できる機能を有するものであれば、特に限定されないが、ポリプロピレンをコーティングされた離型紙が好適に用いられる。
また、凹凸の文様などが施された離型シートを用いることで、難燃性シート表面に、その文様を表すこともでき、意匠性に富んだシートを製造することも可能である。
上記(b)に係る工程では、含浸液を導電性繊維集合体に含浸させる。その含浸液の粘度・物性等は、使用する導電性繊維集合体の形態等により、適宜調整することが必要である。
上記(c)に係る工程では、層状物を加圧する。加圧する方法としては、対向したマングルロール5、5の間を通過させる等の方法が考えられる。
【0044】
次に、難燃性シート1の製造方法を、ポリウレタン樹脂として熱硬化性ポリウレタン樹脂を使用して不織布に含浸する場合を例にとり、さらに詳細に説明する。
【0045】
(1)含浸液の調整:熱硬化性ポリウレタン樹脂の主剤として、ポリオール類、難燃剤類、シリコン等を配合したものを準備する。また、それとは別に、硬化剤として、イソシアネート化合物を準備する。両者を、含浸液調整装置6中で、所定割合にて高速混合することにより含浸液を調整する。主剤の粘度(B型回転粘度)は、100〜20000cpが好ましく、更に好ましくは、1000〜10000cpである。この範囲に調整することにより、不織布への含浸を良好なものとすることができる。
【0046】
主剤の調製に際して、ポリオール類、シリコン化合物、芳香族縮合リン酸エステル等、液状の物質を先行して計量混合し、次いで膨張黒鉛やポリリン酸アンモニウム等の粉体を計量し混合する。混合には、公知の混合装置を用いる事ができ、目視により未分散状態でない事を確認できればよい。
【0047】
(2)含浸:図1に示すように、ローラとして、左右方向に対向するようにマングルロール5,5を配置し、左右のマングルロール5、5間に、2枚の離型シート4,4に挟まれた不織布3(以下、層状物という)を通過させ、通過させる際に、離型シート4,4と不織布3の隙間に含浸液(熱硬化性ポリウレタン樹脂原料混合物)10を流し込みながら、層状物に加圧する。このようにすれば、所定量の含浸液10を、一定量、かつ、全体に均一に不織布3に含浸(Nip−Dip)させることができる。
【0048】
このとき、離型シート4を用いずに、マングルロール5上へ直接、含浸液10を流し込んでしまうと、マングルロール5に付着した含浸液10が順次、マングルロール5上で硬化し始めてしまい、難燃性シート1の製造を続けることが不可能となる。また、供給する前記調整液の量が多すぎると、離型シート4上で熱硬化性ポリウレタン樹脂の硬化が始まってしまうため、供給量が適量となるように調節する必要がある。
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、この離型シートに挟み込んだ状態で凝固させる方法を取ろうとしても、熱可塑性ポリウレタン樹脂の溶媒である溶剤を抜き取ることができず、シート状に固化することはできない。
【0049】
(3)硬化:調整液を含浸させた不織布3を、高温で乾燥させて熱硬化性ポリウレタン樹脂を発泡硬化させることで、難燃性シート1を得る。乾燥条件は、目的により適宜設定できる。
【0050】
このように、難燃性シート1は、ポリウレタン樹脂2及び不織布3を双方から離型シート4,4で挟み込んで作製するため、難燃性シート表層近辺の不織布は、その端部(例えば、繊維13)が起毛した状態ではなく、表面で横になった状態(寝た状態)で多く存在する。また、離型シート4,4で挟んだ状態で熱硬化性ポリウレタン樹脂を発泡させるため、難燃性シート1の表面に開口した孔が形成されることが抑制され、熱硬化性ポリウレタン樹脂内に内包された空洞を比較的多く形成することができる。
そうすることにより、難燃性シート表面の粗さを適度に抑えることができ、電子機器内に適用するに際し、機器内でのショートの原因となるメッキ不織布等のはがれを防止することができる。
【0051】
上記のように、本発明の難燃性シート1は、良好な難燃性を有するものであり、高い難燃性能を求められる電子機器内に具備される電磁波シールド材等として、好適に使用できるものである。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の難燃性シートの実施例について説明するが、本発明は、本実施例に特に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
導電性繊維集合体として、銀メッキしたポリエステル短繊維を含む不織布(金井重要工業製EM3300D、目付66g/m)を、100×200mmに切り取って使用した。
【0054】
次に、不織布に含浸する熱硬化性ポリウレタン樹脂原料混合物(含浸液)の調整について述べる。
まず、ポリオール成分として、主剤Aを調整した。その材料と配合割合を以下に示す。
・ポリオキシプロピレングリコール 30.30重量部
(三洋化成製ニューポールPE62、平均分子量約1750、液状)
・ポリカプロラクトントリオール 2.28重量部
(ダイセル化学製プラクセル303、分子量約300、液状)
・ポリオキシプロピレングリコール 4.42重量部
(三洋化成製サンニックスPP200、分子量約200)
・1,4−ブタンジオール 2.04重量部
(BASF製)
・1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート) 25.66重量部
(難燃剤、丸菱油化工業製ノンネンR0111−10、液状)
・シリコーン整泡剤 1.54重量部
(東レ・ダウコーニングシリコーン製SF2904)
・反応調整剤 0.67重量部
【0055】
上記原料を、ジャケット付攪拌装置を用いて窒素雰囲気下30℃、150rpmにて15分間攪拌した。
その混合液に、以下のカーボンブラックを投入し、10分攪拌した。
・カーボンブラック 2.57重量部
(導電性充填材、電気化学工業製デンカブラックHS100)
次いで、以下の膨張黒鉛を投入し、10分攪拌した。
・膨張黒鉛 18.35重量部
(難燃剤、三洋貿易製SYZR802、目安粒径180μm)
さらに、以下のポリリン酸アンモニウムを投入して、60分攪拌した。
・ポリリン酸アンモニウム 12.19重量部
(難燃剤、丸菱油化工業製R056−7、シラン処理を施したもの)
このようにして得られた主剤Aは、均一に混合されていることを目視で確認できた。25℃下におけるB型回転粘度計の粘度は10000cpであった。
【0056】
イソシアネート成分(硬化剤B)として、カルボジイミド変性MDI(ダウ・ケミカル日本製イソネート143LP)を用いた。
【0057】
以下、難燃性シートの製造工程を、図1を参照して説明する。
1.含浸液の投入
前記主剤Aをジャケット付耐圧容器7に、前記硬化剤Bをジャケット付き耐圧容器8に、それぞれ投入した。これらの耐圧容器7、8内の温度を30℃として、窒素圧0.1Mpaをかけて主剤A及び硬化剤Bを別々に封入した。
【0058】
次に、それぞれの耐圧容器7、8から、フレキシブル配管11、12を通じて、図示しないギアポンプにより、予め設定した量の主剤A及び硬化剤Bを含浸液調整装置6内に送った。また、これらの配合比は、主剤A:硬化剤B=3.54:1とした。
含浸液調整装置6内に投入された主剤A及び硬化剤Bを、前記含浸液調整装置6内に設けたミキシングヘッド6aにより、攪拌混合した。ミキシング速度は1250rpm、攪拌量は500g/分とした。
【0059】
2.含浸
先ず、ローラの表面にフッ素コート加工が施され、ローラの幅を250mmとした2つのマングルロール5、5を対向するように設置した。これらのマングルロール5、5間のクリアランスを0.3mmに調整し、マングルロール5、5の回転速度は、周速0.5m/分に設定した。
【0060】
また、ポリプロピレンを片面にコーティングした離型紙4(PPコート紙)を用意した。
そして、前記不織布3の両側に離型紙4、4が配されるように、対向する2本のマングルロール5、5を回転させ、不織布3の両側から離型紙4、4を不織布3の表裏面に沿うように送り、その際、図示のように、含浸液調整装置6から導かれた含浸液10を、離型紙4及び不織布表面3aの間、離型紙4及び不織布裏面3bの間に、それぞれ供給した。
表裏面に含浸液10が付着した上記層状物を、マングルロール5、5の回転に伴って順次送りながら加圧し、不織布3の全体に含浸液10を練り込むようにして含浸させた。
【0061】
3.硬化・発泡
含浸後の層状体(離型紙4、不織布3、離型紙4)を、縦400mm×横400mm、厚み2mmのステンレス板上に、皺を作らないように展長させた。次いで、前記ステンレス板と同サイズとした別のステンレス板を層状体の上に被せ、その上に5kgの錘を載せた。
このような状態で、層状体を予め100℃に昇温させてある乾燥機内に入れ、30分加熱して乾燥させた。この層状体を放冷後、上記の二枚のステンレス板を取り外し、さらに、不織布3の表裏面に付着した離型紙4、4を除去して難燃性シート1を得た。
得られたシートの目付は、250g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、32.2wt%であった。
【0062】
[実施例2]
マングルロールのクリアランスを0.4mmとした以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
得られたシートの目付は、350g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、35.5wt%であった。
【0063】
[実施例3]
主剤Aの配合割合を次のとおりとし、主剤Aと硬化剤Bの配合比を4.05:1とし、更に、マングルロールのクリアランスを0.5mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
・ポリオキシプロピレングリコール 26.47重量部
・ポリカプロラクトントリオール 1.99重量部
・ポリオキシプロピレングリコール 3.86重量部
・1,4−ブタンジオール 1.78重量部
・1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート) 28.06重量部
・シリコーン整泡剤 1.50重量部
・反応調整剤 0.59重量部
・カーボンブラック 2.49重量部
・膨張黒鉛 19.95重量部
・ポリリン酸アンモニウム 13.31重量部
得られたシートの目付は、500g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、42.7wt%であった。
【0064】
[実施例4]
導電性繊維集合体として、銀メッキしたポリエステル短繊維を含む不織布(金井重要工業社製EM3100D、目付45g/m)を使用し、マングルロールのクリアランスを0.3mmとした以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
得られたシートの目付は、320g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、37.6wt%であった。
【0065】
[比較例1]
難燃剤として、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)の代わりに、トリクレジルホスフェート25.66重量部を使用し、マングルロールのクリアランスを0.4mmとした以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
得られたシートの目付は、350g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、35.5wt%であった。
【0066】
[比較例2]
マングルロールのクリアランスを0.2mmとした以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
得られたシートの目付は、200g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、29.3wt%であった。
【0067】
[比較例3]
主剤Aの配合割合を次のとおりとし、主剤Aと硬化剤Bの配合比を4.40:1とし、更に、マングルロールのクリアランスを0.5mmとした以外は、実施例1と同様にして、難燃性シート1を得た。
・ポリオキシプロピレングリコール 24.34重量部
・ポリカプロラクトントリオール 1.83重量部
・ポリオキシプロピレングリコール 3.55重量部
・1,4−ブタンジオール 1.64重量部
・1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート) 29.45重量部
・シリコーン整泡剤 1.47重量部
・反応調整剤 0.54重量部
・カーボンブラック 2.45重量部
・膨張黒鉛 20.86重量部
・ポリリン酸アンモニウム 13.87重量部
得られたシートの目付は、500g/mであり、シート全体に対する難燃剤3種の配合割合は、45.4wt%であった。
【0068】
(評価)
上記実施例・比較例で得られた難燃性シートの各々の性能を以下の表1に示す。
なお、本実施例における各物性・評価の測定方法は、以下のとおりである。
(1)燃焼性
UL94Vtm法(第5版)に準拠した。
(2)経時粘着性(ブリード特性)
80×50mmのサンプルを70℃×90RH%の環境下で7日間放置し、25℃のデシケータ中で乾燥後、表面の粘着性を触感で確認し、以下のとおり評価した。
○:処理前後の変化が概ね無い。
×:処理後に表面がべとつく。
(3)表面抵抗率
80×50mmのサンプルを5枚用意し、ロレスターEP測定機(三菱化学製EPSプローブ)により、一枚につき任意の9点で測定し、その平均値を算出した。(JIS K7194準拠)
(4)電磁波シールド性能
KEC法に準拠し、アンリツMA8602Bを用いて算出した。
(5)硬度
アスカーC型デュロメーターを用いた。シートは、80×50mmに切り取り、約40枚程度重ねて、総厚みが20mm以上となる様に調整した。上記硬度計に1kgの重力にて押し付け、硬度を読み取った。測定は、5回の平均で評価した。なお、シート表面の凹凸が激しく、硬度計に適正に配置することが困難な場合は、「評価不能」とした。
(6)密度
エー・アンド・デー社製電子比重計(ED−120T型)を用いた。水中における重量(浮力)を測定して値を求めた。試料は、30mm角に切り取り、5回の平均値で評価した。なお、シート表面の凹凸が激しいために測定時に不要な泡が発生してしまい、正しく計測することが困難な場合は、「評価不能」とした。
(7)表面粗さ
3次元表面粗さ形状解析システム(東京精密製サーフコム570A−3DF)を用いて、JIS B0601(1994)に準拠して、算術平均粗さRaを測定した。カットオフ値は8mm、評価長さは40mmとした。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の難燃性シートは、電子機器に用いられる電磁波シールド材料として使用できる。電磁波シールド材料は、電子機器内部で発生した電磁波が筐体外へ漏洩するのを防ぐため、或いは、外部の不特定周波数電磁波の浸入を防ぐため、必要部位に取り付けられる。
電磁波の漏洩を防ぐ必要のある部位は、例えば、携帯電話であれば、液晶表示装置の枠体部分が挙げられる。この部分は、場合によっては導電性を有した緩衝材が必要とされる部位である。また、各種筐体のパッキン材として使用可能である。
例えば、携帯電話に適用される電磁波シールド材としては、硬度JIS A硬度で60以下程度のクッション性能が求められる。電子機器の表示部に通常用いられる液晶部材は、ガラス等で出来ているために脆く、装着される液晶部材が大きくなればなるほど、筐体から伝わる振動を緩衝する必要が増える。シールド性能としては40db以上、遮蔽率で99%以上を必要とされる場合が多い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】難燃性シートの製造工程の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 難燃性シート
2 充填材を分散したポリウレタン樹脂
3 導電性繊維集合体
4 離型シート
5 マングルロール
6 含浸液調整装置
6a ミキシングヘッド
7 ジャケット付耐圧容器
8 ジャケット付耐圧容器
10 含浸液(弾性樹脂液)
11 フレキシブル配管
12 フレキシブル配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維集合体に対してポリウレタン樹脂を含浸した難燃性シートであって、難燃剤として、少なくとも膨張黒鉛、芳香族縮合リン酸エステル、及びポリリン酸アンモニウムを含み、該難燃性シートに対するそれら3種の重量割合の合計が32〜43wt%である難燃性シート。
【請求項2】
前記芳香族縮合リン酸エステルの該難燃性シートに対する重量割合が、14.5〜19.5wt%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性シート。
【請求項3】
前記ポリリン酸アンモニウムの該難燃性シートに対する重量割合が、7.0〜9.5wt%であることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性シート。
【請求項4】
前記芳香族縮合リン酸エステルが、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の難燃性シート。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂が、熱硬化性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の難燃性シート。
【請求項6】
前記ポリリン酸アンモニウムが、シラン処理されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の難燃性シート。
【請求項7】
導電性繊維集合体が、銀メッキを施した繊維を含んだ不織布であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の難燃性シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の難燃性シートを具備することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【公開番号】特開2007−269944(P2007−269944A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96418(P2006−96418)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】