説明

難燃性ポリアミド樹脂組成物及び成形品

【課題】難燃性が極めて高く、かつ優れた離型性及び機械的特性を有する、電気・電子分野部品や自動車電装部品に好適な、難燃性ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供すること。
【解決手段】(A)キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を60重量%以上含むポリアミド樹脂 20〜70重量%、(B)無機充填材 20〜60重量%、(C)難燃剤((a)特定構造で表されるホスフィン酸塩及び/又は特定構造で表されるジホスフィン酸塩、(b)メラミンとリン酸との反応生成物、(c)硼酸金属塩の各成分の配合重量比率(a)/(b)/(c)/が100〜30/0〜70/0〜20)3〜20重量%の合計100重量部に対して、(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩を0.01〜1重量部配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物及び成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。さらに詳しくは、電気・電子分野のコネクター、ブレーカー、マグネットスイッチ等の各種部品や、自動車分野の電装部品等の材料として適した難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。とりわけ、本発明は、離型性が改善され成形加工性に優れ、難燃性及び機械的特性が極めて高く、さらに、燃焼時に腐食性の高いハロゲン化水素ガスの発生がない、難燃性ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂は、機械的強度、耐熱性などに優れることから、自動車部品、機械部品、電気・電子部品などの分野で使用されている。特に、電気・電子部品用途においては、難燃性に対する要求レベルがますます高くなり、本来ポリアミド樹脂の有する自己消火性よりもさらに高度な難燃性が要求されている。この為、難燃レベルの高度化検討、具体的には、アンダーライターズ・ラボラトリーのUL94規格のV−0レベルに適合する材料の検討が数多くなされてきており、特に無機充填材を配合した組成物に対しても、時代の趨勢として、非ハロゲンタイプ難燃剤を使用した開発の要望が強くなってきている。さらに、これらの部品に対する軽量化要求に伴い、部品の小型化、薄肉化が進み、材料としては、薄肉部品に対応できる離型性が重要視されるようになってきた。
【0003】
これらの課題を解決する方法として、例えば、特許文献1には、第1の成分として、特定構造で表されるホスフィン酸塩および/または特定構造で表されるジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーを含む成分と、第2の成分として、メラミンの縮合生成物及び/またはメラミンとリン酸との反応生成物及び/またはメラミンの縮合生成物とリン酸との反応生成物及び/またはこれらの混合物、を含む難燃剤コンビネーションおよび熱可塑性ポリマーの難燃化について提案されている。具体的には、ガラス繊維30%含有強化ポリアミド樹脂に、ホスフィン酸塩(第1の成分)とメラミンポリホスフェート(第2の成分)からなる難燃剤コンビネーションを配合した、難燃性UL94規格V−0レベル(厚み1/16インチ)を満足するポリアミド樹脂組成物が例示されている。しかし、実施例で例示されているポリアミド樹脂組成物は、難燃性に関するデータのみであり、成形性、機械的特性等の他の特性については一切言及されていない。
【0004】
特許文献2においては、特許文献1に記載の難燃剤コンビネーション(第1の成分と第2の成分をそれぞれ1〜30重量%)と、5〜40重量%の無機充填材(ガラス繊維、ウォラストナイト、タルク、焼成カオリン、マイカ等)を配合した難燃ポリアミド樹脂組成物が開示されている。具体的には、ガラス繊維を20重量%および30重量%含有し、UL94規格V−0レベル(厚み1/32インチ)の難燃性およびCTIが550〜600Vのトラッキング特性を発揮できるポリアミド樹脂組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、メタキシリレンアジパミド単位を主たる構成成分とするポリアミド樹脂30〜85重量%、特許文献1に記載の難燃剤コンビネーション(第1の成分と第2の成分をそれぞれ1〜15重量%)と、無機充填材5〜40重量%からなるポリアミド樹脂組成物が示されている。特許文献1の技術に対する問題として、押出加工時のストランドの発泡や多量のガス発生、成形加工時の金型汚染の発生、流動性及び離型性の低下等を挙げており、これらの問題点の中で、押出加工性、成形加工性は改良される旨の記載はある。しかし、同時に挙げられている流動性や離型性の改善方法についてはなんら提案されておらず、この様な薄肉化に対応する流動性や離型性の観点でみると、特許文献2、3に記載の技術も未だ十分ではなかった。また、特許文献2、3には、好ましい難燃助剤として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫化亜鉛、酸化鉄、酸化硼素、硼酸亜鉛等を配合してもよいとの記載があるが、その配合量や添加による効果等については一切言及されておらず、難燃助剤を配合した樹脂組成物については、具体的に例示されていない。
【0006】
さらに、特許文献3に記載のようなメタキシリレンアジパミド系ポリアミド樹脂は、ポリアミド6やポリアミド66に代表される脂肪族系ポリアミド樹脂に比べ結晶化速度が遅いため、成形時に離型不良が発生しやすく、生産性を著しく阻害するといった問題もあり、このため、UL94規格V−0レベルの難燃性と離型性をともに満足する材料の開発が望まれており、これは、産業上の利用可能性を高めるためには極めて重要な課題である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−72978号公報
【特許文献2】特開2004−292755号公報
【特許文献3】特開2004−300189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような状況に鑑みなされたものであり、その目的は、難燃性及び機械的特性が極めて高く、かつ優れた離型性を有し、さらに、燃焼時に腐食性の高いハロゲン化水素ガスの発生がない、難燃性ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定のポリアミド樹脂に特定の難燃剤と特定の離型剤を配合することにより、高度な難燃性及び機械的特性を低下させることなく、離型性、金型汚染性を向上させることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
(A)メタキシリレンジアミン55〜100モル%及びパラキシリレンジアミン45〜0モル%とからなるキシリレンジアミン混合物と、α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を60重量%以上含むポリアミド樹脂 20〜70重量%、(B)無機充填材 20〜60重量%、(C)次の(a)、(b)及び(c)成分を含む難燃剤 3〜20重量%の合計100重量部に対して、(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩を0.01〜1重量部配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、上記(C)難燃剤の各成分の配合重量比率(a)/(b)/(c)/が100〜30/0〜70/0〜20であることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(a)以下の式(I)で表されるホスフィン酸塩及び/又は以下の式(II)で表されるジホスフィン酸塩
(b)メラミンとリン酸との反応生成物
(c)硼酸金属塩
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

(式(I)及び(II)中、R及びRは同一か又は異なり、線状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル及び/又は炭素数6〜10アリール、Rは線状もしくは分枝状の炭素数1〜10のアルキレン、炭素数6〜10のアリーレン、炭素数7〜10のアルキルアリーレン又は炭素数7〜10のアリールアルキレン、MはCa、Mg、Al及び/又はZn、mはMの価数を表し、2n=mxであり、nは1又は3、xは1又は2である)
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性が極めて高く及び機械的特性に優れ、さらに離型性が向上し薄肉成形性に優れるため、高い難燃性が要求される電気・電子分野のコネクター、ブレーカー、マグネットスイッチ等の各種部品や、自動車分野の電装部品等の材料に好適であり、中でも、薄肉成形性が必要な部品用材料として特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ポリアミド樹脂:
本発明におけるポリアミド樹脂とは、ポリアミド樹脂中の60重量%以上が、メタキシリレンジアミン55〜100モル%及びパラキシレンジアミン45〜0モル%、好ましくはメタキシリレンジアミン60〜100モル%及びパラキシレンジアミン0〜40モル%とからなる混合ジアミンと、α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(以下、「MXナイロン」と略記することもある)である混合ポリアミド樹脂である。パラキシリレンジアミンの比率を45モル%以下とすることにより、得られるポリアミドの融点を低くすることができ、重合及び成形加工が容易になるため好ましい。特に、パラキシリレンジアミンの比率を10モル%以上45モル%以下とすることにより、結晶化速度を改善でき、後述の成形サイクルを短縮する目的で配合する脂肪族ポリアミド樹脂の配合量を少なくすることができるため、より好ましい。
また、該混合ジアミン中には、上記キシリレンジアミン以外のジアミン、例えば、テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式ジアミン等を含んでいてもよく、該キシリレンジアミン以外のジアミンの割合は、好ましくは全ジアミンの10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0015】
上記α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸としては炭素数6〜20のα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸が好ましく、例えばアジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸等が好適に使用できる。成形性、成形物性能などのバランスを考慮すると、アジピン酸が特に好適である。
【0016】
MXナイロンの具体例としては、例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド樹脂(ポリアミドMXD6)や、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド樹脂(ポリアミドMP6)等が挙げられる。
(A)ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の割合は60重量%以上である必要があり、好ましくは55重量%以上である。このような範囲とすることにより、難燃性、成形性及び機械的物性のバランスを良好に保つことができる。
【0017】
該MXナイロンは、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド9T等の脂肪族ポリアミド樹脂に比べて結晶化速度がやや遅いため、成形サイクルを短縮するために、該MXナイロンに脂肪族ポリアミド樹脂を配合して用いることが好ましい。上記成形サイクルを短縮する目的で配合する場合に用いられる脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド9T等の結晶化速度の速いポリアミド樹脂や、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6T/6I等の高融点のポリアミド樹脂が挙げられ、経済的な観点からポリアミド66又はポリアミド6が好ましい。成形性及び物性のバランスから、その脂肪族ポリアミド樹脂の配合比率は、ポリアミド樹脂中の40重量%未満、好ましくは30重量%未満である。このような配合比率とすることにより難燃性の低下を抑制することができる。
【0018】
ポリアミド樹脂の数平均分子量は、好ましくは6,000〜40,000であり、より好ましくは10,000〜20,000である。当該分子量を6,000以上とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の脆化を防ぐことができ、40,000以下とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性を良好とすることができ成形加工が容易になるため好ましい。
【0019】
(B)無機充填材:
本発明における無機充填材とは、ガラス系充填材(ガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等)、ケイ酸カルシウム系充填材(ワラストナイト等)、マイカ、タルク、カオリン、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、炭素繊維等、通常熱可塑性樹脂に使用されるものでよく、これらの2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明において、特に機械的強度を必要とする場合は、ガラス繊維の使用が好ましい。
ガラス繊維は、一般に樹脂強化用に使用されるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)などから選択して用いることができ、その平均繊維径は6〜15μmが一般的である。また、平均繊維長は、特に制限されないが、0.1〜20mmが好ましく、1〜10mmがより好ましい。平均繊維長を0.1mm以上とすることにより、ガラス繊維による補強効果がより効果的に発現され、平均繊維長を20mm以下とすることにより、(A)ポリアミド樹脂との溶融混練や強化ポリアミド樹脂組成物の成形がより容易になる。
【0021】
ケイ酸カルシウム系充填材の代表的なものとしてワラストナイトが知られている。ワラストナイトは、白色針状結晶の鉱物であり、通常、SiOを40〜60重量%、CaOを40〜55重量%含有し、その他にFe、Al、MgO、NaO、KO等の成分を含有する。なお、ワラストナイトは、天然に存在するものを粉砕、場合によっては分級したものであってもよいし、合成品であってもよい。また、ハンター白色度が60以上で、ポリアミド樹脂への耐候性を悪化させないために、高純水へ10%スラリーとした際のスラリーのpH値が6〜8のものがより好ましい。
【0022】
無機充填材の平均サイズ(l)は、限定されないが、通常10〜300μmである。平均サイズ(l)を10μm以上とすることにより、機械的強度や耐熱性を効果的に改善することができ、300μm以下とすることにより、優れた難燃性及びグローワイヤー性を発揮することができる。電気・電子部品用途で要求される難燃性、グローワイヤー性、及び耐トラッキング性に適合するためには、平均サイズが10〜100μmの無機充填材がより好ましく、15〜65μmの無機充填材がさらに好ましい。
【0023】
平均サイズ(l)とは、充填材の最大寸法の数平均値を示し、形状の異なる充填材が併用された場合は、形状毎の数平均サイズに、形状毎の配合比率を掛け合わせて平均化した値である。
また、上記最大寸法とは、ガラス繊維、粉砕ガラス繊維、ワラストナイト等の繊維状物の場合は繊維方向の最大長、ガラスフレーク、マイカ等の板状物の場合は板の最大直径、ガラスビーズ等の球状物の場合は球の最大径とする。また、最小寸法とは、繊維状物の場合は、繊維に垂直方向の径であり、板状物の場合は板の厚み、球状物の場合は球の最小径とする。この最小寸法を数平均化した値を平均径(d)とする。
【0024】
無機充填材のアルペクト比(l/d)は、1.5〜8が好ましく、2〜7がより好ましい。アスペクト比を1.5以上とすることにより、機械的強度が向上し、アスペクト比を8以下とすることにより、難燃性により優れた樹脂組成物とすることができる。
【0025】
無機充填材の平均サイズ(l)及び平均径(d)の測定は、樹脂組成物ペレットを500℃の電気炉で30〜60分間加熱して完全に灰化することにより得られる粒子に対して行う。灰化後、得られた充填材粒子を3重量%中性洗剤水溶液に適量加え、攪拌し、得られた充填材粒子の分散液をピペットでガラス板に採取し、実体顕微鏡を用いて写真撮影を行う。その写真画像に対して、デジタイザーを用いて1000個の個別粒子ごとの最大寸法と最小寸法を測定し、上記の方法により平均化する。
【0026】
無機充填材は、表面処理剤や集束剤による処理がなされていることが機械的強度面から好ましい。無機充填材は予め表面処理されていてもよく、また、本発明の樹脂組成物の製造時に、未処理の無機充填材とは別に表面処理剤や集束剤を添加し、表面処理してもよい。
【0027】
表面処理剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン等のクロロシラン系化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系化合物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物、エポキシ系化合物等が挙げられる。
【0028】
集束剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
【0029】
前述のガラス繊維は、上記の集束剤による処理がなされていることが好ましい。集束剤でガラス繊維を処理することにより、ガラス繊維の取扱い性を向上させ、ガラス繊維の損傷を防ぐことができる。
【0030】
上記の表面処理剤や集束剤は2種以上を併用してもよく、その使用量は、無機充填材重量に対し、10重量%以下が好ましく、0.05〜5重量%がより好ましい。使用量を10重量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、経済的である。
【0031】
(B)無機充填材の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量%中の20〜60重量%であり、好ましくは20〜55重量%である。配合量を20重量%以上とすることにより、機械的特性を十分に発揮でき、難燃性及び離型性を十分に改善することができる。また、配合量を60重量%以下とすることにより、難燃性、成形品外観の低下を抑制し、樹脂組成物の成形加工を容易にすることができる。特に、機械的強度が要求される用途に使用する場合は、30重量%以上配合することがより好ましい。
【0032】
(C)難燃剤:
本発明における難燃剤に含まれるの成分の一つは、以下の式(I)で表されるホスフィン酸塩及び/又は以下の式(II)で表されるジホスフィン酸塩である。以下、両者を「(ジ)ホスフィン酸塩」と示すことがある。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

(式(I)及び(II)中、R及びRは同一か又は異なり、線状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル及び/又は炭素数6〜10アリール、Rは線状もしくは分枝状の炭素数1〜10のアルキレン、炭素数6〜10のアリーレン、炭素数7〜10のアルキルアリーレン又は炭素数7〜10のアリールアルキレン、MはCa、Mg、Al及び/又はZn、mはMの価数を表し、2n=mxであり、nは1又は3、xは1又は2である)
【0035】
及びRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基等が挙げられる。Rとしては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−オクチレン基、n−ドデシレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。Mとしては、好ましくは、Ca、Al又はZnである。
【0036】
(ジ)ホスフィン酸塩は、例えば、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物を用いて水性媒体中で製造されたものが挙げられる。該(ジ)ホスフィン酸塩は、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩となる場合もある。
【0037】
ホスフィン酸としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸及びジフェニルホスフィン酸等が挙げられる。また、上記のホスフィン酸塩を反応させる金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/又は亜鉛イオンを含む金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物が挙げられる。
【0038】
ホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。
【0039】
ジホスフィン酸塩としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
上記の(ジ)ホスフィン酸塩の中でも、特に、難燃性の観点から、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0040】
本発明においては、成形品の機械的強度や外観の点で、(ジ)ホスフィン酸塩の数平均粒子径が100μm以下であることが好ましく、80μm以下がより好ましい。特に、0.5〜50μmの粉末を使用することにより、高い難燃性を発現するばかりでなく、成形品の強度が著しく向上するのでより好ましい。さらに、(ジ)ホスフィン酸塩中のリン原子の割合は5〜40重量%のものが、成形加工時に成形金型に汚染性物質が付着する現象が少なく特に好ましい。該(ジ)ホスフィン酸塩は難燃剤として作用するが、後述の(b)メラミンとリン酸との反応生成物と併用することにより、優れた難燃性を発現することができる。
【0041】
(a)成分の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量%中の0.5〜18重量%であることが好ましく、0.8〜15重量%であることがより好ましく、1〜13重量%であることがさらに好ましい。(a)成分の配合量を0.5重量%以上とすることにより、難燃性を十分に改良することができ、18重量%以下とすることにより、離型不良やモールドデポジットの発生等、成形加工時のトラブルを回避することができる傾向にある。
【0042】
本発明に用いられる(C)難燃剤に含めてもよい成分の一つは、(b)メラミンとリン酸との反応生成物である。これは、メラミン又はメラミンの縮合生成物と、リン酸、ピロリン酸、もしくはポリリン酸との実質的に等モルの反応生成物を意味し、製法には特に制約はない。通常、リン酸メラミンを窒素雰囲気下、加熱縮合して得られるポリリン酸メラミン(化学式「(C・HP0」(ここでnは縮合度を表す))を挙げることができる。
【0043】
リン酸メラミンを構成するリン酸としては、具体的にはオルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられるが、特にオルトリン酸、ピロリン酸を用いたメラミンとの付加物を縮合したポリリン酸メラミンが難燃剤としての効果が高く、好ましい。特に耐熱性の点から、かかるポリリン酸メラミンの縮合度nは5以上が好ましい。
また、ポリリン酸メラミンはポリリン酸とメラミンの等モルの付加塩であってもよく、上記ポリリン酸とメラミンの全てが付加塩を形成しているものには限られず、これらの混合物であってもよい。すなわち、メラミンとの付加塩を形成するポリリン酸として、いわゆる縮合リン酸と呼ばれる鎖状ポリリン酸、環状ポリメタリン酸を用いてもよい。これらポリリン酸の縮合度nには特に制約はなく通常3〜50であるが、得られるポリリン酸メラミン付加塩の耐熱性の点で、ここに用いるポリリン酸の縮合度nは5以上が好ましい。
かかるポリリン酸メラミン付加塩は、メラミンとポリリン酸との混合物を例えば水スラリーとなし、よく混合して両者の反応生成物を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、洗浄、乾燥し、さらに必要であれば焼成し、得られた固形物を粉砕して得られる粉末である。
【0044】
また、該ポリリン酸メラミンは、リン酸とメラミン縮合生成物の付加塩であってもよく、上記リン酸とメラミン縮合生成物の全てが付加塩を形成しているものには限られず、これらの混合物であってもよい。リン酸と付加塩を形成するメラミン縮合生成物としては、メレム、メラム、メロン等が挙げられる。
【0045】
本発明においては、成形品の機械的強度や外観の点で、ポリリン酸メラミンの数平均粒子径は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。特に、0.5〜20μmの粉末を用いることにより、高い難燃性を発現するばかりでなく、成形品の強度が著しく向上するので特に好ましい。又、ポリリン酸メラミンは必ずしも完全に純粋である必要はなく、未反応のメラミン、メラミン縮合物、あるいはリン酸、ポリリン酸が多少残存していてもよい。さらに、ポリリン酸メラミン中のリン原子の割合は10〜18重量%のものが、成形加工時に成形金型に汚染性物質が付着する現象が少なく特に好ましい。
【0046】
成分(b)の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量%中の12.5重量%以下であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましく、1〜8重量%であることがさらに好ましい。(b)成分の配合量を12.5重量%以下とすることにより、難燃性を良好なものとし、ガスの発生を低減でき、離型不良や金型汚染等の成形加工時のトラブル発生を回避できるので好ましい。
【0047】
本発明における(C)難燃剤に含めてもよい成分の一つは、(c)硼酸金属塩である。硼酸金属塩としては、通常の処理条件下で安定であり、揮発成分のないものが好ましい。硼酸金属塩としては硼酸のアルカリ金属塩(四硼酸ナトリウム、メタ硼酸カリウム等)あるいはアルカリ土類金属塩(硼酸カルシウム、オルト硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム、硼酸亜鉛等)等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、2ZnO・3B・xHO(x=3.3〜3.7)で示される水和硼酸亜鉛塩であり、より好ましくは、2ZnO・3B・3.5HOで示されるものであり、さらに好ましくは260℃又はそれより高い温度まで安定なものである。
本発明においては、成形品の機械的強度や成形品外観の点で、硼酸金属塩の数平均粒子径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。特に、1〜20μmの粉末を用いることにより、機械的衝撃強度が安定するため好ましい。
【0048】
(c)成分の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量%中の10重量%以下であることが好ましく、0.01〜8重量%であることがより好ましく、0.1〜5重量%であることがさらに好ましい。(c)成分の配合量を10重量%以下とすることにより、耐トラッキング性の低下を抑制し、また、成形加工が容易になるため好ましい。難燃性、グローワイヤー性、耐トラッキング性、機械的特性のバランスの点より、特に好ましくは0.2〜5重量%である。本発明においては、該(c)硼酸金属塩を配合しない場合でも、後述の特定の離型剤を配合することにより離型性の向上効果は認められるが、(c)成分を上記範囲内で配合した場合は、(a)及び(b)成分の配合量を削減できる場合があるため、離型性がより向上する。
【0049】
本発明においては、上記の各成分の配合重量比率(a)/(b)/(c)が、100〜30/3〜70/0〜20であることが好ましく、(a)/(b)/(c)が100〜30/5〜65/1〜10であることがより好ましい。(b)成分の配合重量比率を上記範囲内とすることにより、成形時のガスの発生を防ぎ、難燃性を十分に改善することができる。(c)成分の配合重量比率を上記範囲内とすることにより、必要以上に配合することなく、十分な難燃性を発揮することができる。
【0050】
本発明に用いられる(C)難燃剤には、上記(a)、(b)、(c)成分以外の成分として、(a)、(b)、(c)成分以外の難燃剤、例えば、トリアジン系、リン酸エステル系、金属水和物系、シリコーン系等の難燃剤及び金属酸化物(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム等)ならびにその水和物、金属水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム等)の難燃助剤を含むことができる。これらの中で好ましい難燃剤はトリアジン系難燃剤であり、さらに好ましくはシアヌル酸メラミン、好ましい難燃助剤は水酸化マグネシウムである。
上記のようなその他の難燃剤及び難燃助剤を含む場合、(C)難燃剤中の(a)、(b)及び(c)成分の合計重量比率は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。各成分の合計重量比率を上記範囲にすることにより、難燃性及び電気的特性の改善効果が大きいため好ましい。
【0051】
(C)難燃剤の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量%中の3〜20重量%であり、好ましくは5〜20重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%である。配合量を3重量%以上とすることにより、優れた難燃性とすることができ、20重量%以下とすることにより、機械的強度を良好に保ち、離型性の低下を防ぎ成形加工が容易となる。また、該(C)難燃剤の配合量は、(B)無機充填材の配合量や平均サイズによって、適宜調整する必要がある。無機充填材の配合量が多い場合、また無機充填材の平均サイズが小さい場合は、難燃剤の配合量を増加させることにより、UL94規格V−0の達成が可能となる。
【0052】
本発明においては、樹脂組成物成形時の離型性及び流動性を向上させ、成形加工を容易にするために、離型剤として(D)カルボン酸アミド系ワックス/又は脂肪族カルボン酸金属塩を配合する必要がある。本発明においては、本発明の(C)難燃剤と(D)離型剤を併用することで、他の難燃剤や離型剤の組合わせでは発揮し得ない、優れた離型性と流動性を発揮することが可能となった。また、本発明の(D)離型剤は、樹脂組成物中の難燃剤の分散性をより高めることができるため、離型剤の配合により、より優れた難燃性を発揮することができ、難燃剤の凝集による機械的特性の低下をも抑制することができる。
【0053】
カルボン酸アミド系ワックスとしては、高級脂肪族モノカルボン酸及び/又は多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が挙げられる。
高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸及び、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸及び、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0054】
カルボン酸アミド系ワックスは、その製造に使用する高級脂肪族モノカルボン酸に対して、多塩基酸の混合割合を変えることにより、軟化点を任意に調整することができる。多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して、0.18〜1モルの範囲が好適である。また、ジアミンの混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して1.5〜2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量に従って変化する。
【0055】
カルボン酸アミド系ワックスとしては、ステアリン酸とセバシン酸とエチレンジアミンを重縮合してなる化合物が好ましく、ステアリン酸2モルとセバシン酸1モルとエチレンジアミン2モルを重縮合させた化合物がさらに好ましい。また、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミドやN,N’−エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミンと脂肪族カルボン酸を反応させて得られるビスアミド系ワックスの他、N,N’−ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジカルボン酸アミド化合物も好適に使用し得る。
【0056】
脂肪族カルボン酸金属塩とは、好ましくは炭素数16〜36の高級脂肪族モノカルボン酸の金属塩であり、例えば、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられる。
【0057】
(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩の配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材及び(C)難燃剤の合計100重量部に対し0.01〜1重量部であり、好ましくは0.05〜0.5重量部である。配合量を0.01重量部以上とすることにより、十分な離型効果を発揮し成形性を高めることができ、1重量部以下とすることにより、樹脂組成物中の難燃剤の分散性を高め、より優れた難燃性、グローワイヤー性、耐トラッキング性を発揮することができ、難燃剤の凝集による機械的特性の低下を抑制することができる。これらの(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩は2種以上併用してもよい。
【0058】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、上述の成分の他、本発明の樹脂組成物の特性を損なわない範囲で添加剤を配合することができる。
成形サイクルを短縮させ成形性を向上させるためには、結晶核剤を添加することが好ましい。結晶核剤としては特に制限はなく、無機核剤、有機核剤等公知のものが使用可能である。無機核剤を使用する場合、平均サイズ(l)が0.005〜10μmのものが好ましく、0.01〜7μmのものがより好ましい。平均サイズを10μm以下とすることにより、重量当たりの結晶核剤としての効果が大きい。
中でも、タルクや窒化ホウ素を添加することがより好ましい。上述の(B)無機充填材として、平均サイズが10μm以上のタルクや窒化ホウ素を配合する場合は、(B)成分の一部、例えば、(B)成分中の0.4〜40重量%程度を、平均サイズの小さいもの、例えば、平均サイズが1〜10μm程度のものに代えてポリアミド樹脂組成物に配合することが好ましい。
結晶核剤は2種以上を併用してもよく、その配合量は、(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材、及び(C)難燃剤の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜7重量部がより好ましい。配合量を0.01重量部以上とすることにより、機械的強度や離型性の低下を防ぎ、結晶核剤としての効果を十分に発揮することができ、配合量を10重量部以下とすることにより、異物効果となって成形品の衝撃強度が低下したり、表面外観が悪化したりするのを抑制することができるため好ましい。本発明においては、結晶核剤として、特に窒化ホウ素が、少量の添加でも結晶核剤としての効果が大きく好ましい。
【0059】
また、本発明においては、本発明の樹脂組成物の特性を阻害しない範囲で、上述の必須成分及び必要に応じて配合される成分以外に、ポリアミド樹脂組成物に一般に用いられる各種添加剤、例えば、ハロゲン化銅系(例えば、ヨウ化銅、塩化銅、臭化銅)及び/又はハロゲン化アルカリ金属系(例えば、ヨウ素カリウム、臭化カリウム等)等の安定剤や、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系等の酸化防止剤、顔料、染料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐衝撃改良剤及びその他の周知の添加剤を2種以上配合することができる。
【0060】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、(A)ポリアミド樹脂の一部として他の樹脂を含んでいてもよい。配合できる熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、及び、ポリエステル系、ポリオレフィン系、SEBS等の変性、未変性エラストマー等が挙げられる。配合できる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。この様な他の樹脂を含む場合の他樹脂の配合量は、好ましくは(A)ポリアミド樹脂中の50重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0061】
(A)ポリアミド樹脂に、(B)無機充填材、(C)難燃剤、(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩、及び必要に応じて配合されるその他の成分を配合する方法としては、最終成形品を成形する直前までの任意の段階で、周知の種々の手段によって行うことができる。最も簡便な方法は、上記(A)〜(D)の各成分及び必要に応じて配合されるその他の成分を単にドライブレンドする方法である。さらには、上記ドライブレンド物を溶融混合押出にてペレットとする方法も簡便で好ましい。また、溶融混合押出に際しては、(A)ポリアミド樹脂と(C)難燃剤、(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩、及び必要に応じて配合されるその他の成分を押出機のホッパー口から一括して供給し、(B)無機充填材をサイドフィード口より供給するのが、安定した混合ができ、より好ましい。別の方法としては、(A)ポリアミド樹脂の一部に所定の配合比率より多い難燃剤又は無機充填材を練り込んだマスターペレットを予め調整し、これを残りの成分とドライブレンドしたのち溶融混合押出することによっても、本発明におけるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0062】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて、電気・電子部品や自動車電装部品等の成形品を製造するにあたっては、前期ドライブレンド物やペレット等のポリアミド樹脂組成物を射出成形機等の各種成形機に供給して、金型に流し込み、冷却、取り出しをするという常法に従って実施することができる。中でも、生産性、製品性能の観点から、射出成形法を使用することが好ましい
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性が極めて高く、機械的特性にも優れ、さらに離型性が改善され薄肉成形性に優れるため、高い難燃性が要求される電気・電子分野のコネクター、ブレーカー、マグネットスイッチ等の各種部品や、自動車分野の電装部品等の材料に好適であり、中でも、薄肉成形性が必要な部品用材料として特に適している。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の記載の例における、使用した各成分の特性及び得られた組成物の評価試験方法は次の通りである。
【0064】
<実施例及び比較例に使用した成分>
(A)ポリアミド樹脂:
(A−1)ポリアミドMXD6;メタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド樹脂、三菱ガス化学株式会社製「商品名:MXナイロン6000」、数平均分子量16,000
(A−2)ポリアミドMP6;メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド樹脂、三菱ガス化学株式会社製、「商品名:N−MP6」、数平均分子量16,400
(A−3)ポリアミド66;東レ社製、「商品名:アミランCM3001−N」、数平均分子量17,000
(A−4)ポリアミド6;三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製品「商品名:ノバミッド(登録商標)1007J」、数平均分子量11,000
【0065】
(B)無機充填材:
(B−1)ガラス繊維;日本電気硝子社製「商品名:T296GH」、カット長(平均サイズ)3mm、繊維径(平均径)9.5μm、アミノシラン処理品
(B−2)ワラストナイト;NYCO社製「商品名:NYAD400−10012」、平均サイズ30μm、平均径8μm、アミノシラン処理品
(B−3)タルク;林化成社製「商品名:ミクロンホワイト#5000A」、平均粒子径(D50)4.1μm
(B−4)窒化硼素;電気化学工業社製「商品名:SP−2」、数平均粒子径1μm
【0066】
(C)難燃剤:
(C−a)以下の製造法で得られた1,2−エチルメチルホスフィン酸アルミニウム塩;平均粒子径30〜40μm、リン含有量23重量%
[1,2−エチルメチルホスフィン酸アルミニウム塩の製造法]
2106g(19.5モル)のエチルメチルホスフィン酸を6.5リットルの水に溶解し、507g(6.5モル)の水酸化アルミニウムを激しく撹拌しながら加え、混合物を85℃に加熱した。混合物を80〜90℃で合計65時間撹拌し、その後60℃に冷却し、吸引濾過した。重量が一定となるまで120℃の真空乾燥キャビネット中で乾燥した。得られた微粒子粉末2140gであり、300℃以下では溶融しなかった。
(C−b)ポリリン酸メラミン;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「商品名:melapur 200/70」、数平均粒子径5〜10μm、リン含有量約13重量%、窒素含有量約43重量%
(C−c)硼酸亜鉛、ボラックス・ジャパン社製「商品名:ファイヤーブレイクZB」、2ZnO・3B・3.5HO、数平均粒子径7〜9μm
(C−d)以下の製造法で得られたフェノキシホスファゼン化合物
[フェノキシホスファゼン化合物の製造法]
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、フェノール123.0g(1.30モル)を入れ、テトラヒドロフラン500ミリリットルを加え、撹拌して均一に溶解した。次に、液温を25℃以下として金属ナトリウム7.6gを投入し、この後1時間を要して内温を62℃まで昇温し、ナトリウムフェノラート溶液を調製した。この反応と並行して、58g(0.5ユニットモル)のジクロロホスファゼンオリゴマー(3量体59重量%、4量体12重量%、5及び6量体11重量%、7量体3重量%、8量体以上15重量%の混合物)を含む20重量%クロロベンゼン溶液290gを、容量2リットルの四つ口フラスコに入れ、この中へ、25℃以下で撹拌下、上記で調製したナトリウムフェノラート溶液を滴下した。滴下終了後、撹拌下71〜73℃の温度範囲で、15時間反応させた。反応終了後、反応混合物を濃縮し、500ミリリットルのクロロベンゼンに再溶解させた後、水洗し、5%水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を3回、5%硫酸による洗浄、5%重曹水による洗浄及び水洗をそれぞれ3回、順次行い、濃縮乾固させて淡黄色のワックス状の生成物108gを得た。生成物の収率は98.5%であり、生成物のGPC分析による重量平均分子量はポリスチレン換算で810であり、生成物中の残存塩素量は0.09%であり、リンおよびCHN元素分析法により、生成物は「N=P(OPh)2.00」の化学構造式を有する化合物であることを確認した。なお、−Phはフェニル基である。
(C−e)臭素化ポリスチレン;グレートレイクスケミカル日本社製「商品名:PDBS−80」
(C−f)三酸化アンチモン;日本精鉱社製「商品名:PATOX−M」
(C−g)水酸化マグネシウム;味の素ファインテクノ社製「商品名:ポリセーフMG−2」
【0067】
(D)離型剤:
(D−1)カルボン酸アミド系ワックス;共栄社化学社製「商品名:WH255」
(D−2)モンタン酸カルシウム、クラリアント・ジャパン社製「商品名:CAV102」
(D−3)ポリエチレン系ワックス;三井化学社製「商品名:ハイワックス110P」
【0068】
<ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造方法>
表1、2に示す配合割合で、(B)無機充填材以外をドライブレンド後、日本製鋼所社製2軸押出機「TEX−30HCT」(バレル12ブロック構成)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数250rpmの条件下、(B)無機充填材はホッパー側から数えて9番目のブロックからサイドフィード方式で供給し溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物のペレットを製造した。
【0069】
<評価方法>
[難燃性]
得られた樹脂組成物ペレットを80℃で12時間乾燥した後、ファナック社製射出成形機「ROBOSHOTα−100iA」にて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃の設定条件で射出成形を行い、5×1/2×1/16インチの大きさの燃焼試験片を作製した。得られた試験片を用い、試験法UL−94規格に準じて難燃性の評価を行った。
[機械的特性]
得られた樹脂組成物ペレットを80℃で12時間乾燥した後、ファナック社製射出成形機「ROBOSHOTα−100iA」にて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃の設定条件で射出成形を行い、ISO試験片を作製した。得られた試験片を用い、試験法ISO178規格に準じて曲げ試験を、試験法ISO179規格に準じてノッチ付きシャルピー衝撃試験を行った。
[離型性]
得られた樹脂組成物ペレットを80℃で12時間乾燥した後、ファナック社製射出成形機「ROBOSHOTα−100iA」にて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃、射出速度50mm/秒、保持圧力500kgf/cm、保圧時間5秒の設定条件で、12.6mm×12.6mm×50mmの大きさの角柱成形品をサイドゲートで射出成形した。射出成形に際し、冷却時間の設定を10秒から2秒間隔で短縮していった時の離型不良(ゲート切れや突き出しピンによる成形品の変形)が起こった冷却時間を判定基準とした。離型不良が起こる冷却時間が10秒以上の場合を×、6秒以上10秒未満の場合を△、6秒未満の場合を○とし、評価した。また、得られた成形品の突き出しピンの跡も観察した。突き出しピンが成形品を突き抜けてしまったものを×、突き出しピン跡が凹となったものを△、凹みはないが突き出しピンから若干剥がれにくかったものを○、何ら問題なく金型から離型したものを◎とし、評価した。
[金型汚染]
得られた樹脂組成物ペレットを80℃で12時間乾燥した後、ファナック社製射出成形機「ROBOSHOTα−100iA」にて、シリンダー温度280℃、金型温度120℃の設定条件で100×100×3mmの大きさの試験片を連続100ショット射出成形し、100ショット成形後の金型表面の汚れを観察した。付着物がないものを◎、付着物がほとんどない(付着物が存在している面積が金型表面積の5%未満)ものを○、付着物がやや多い(付着物が存在している面積が金型表面積の5%以上20%未満)ものを△、付着物が多い(付着物が存在している面積が金型表面積の20%以上)ものを×とし、評価した。
[ペレット発生ガス]
得られた樹脂組成物ペレット5gを量り取り、加熱脱着ガスクロマトグラフ(加熱冷却脱着装置:Parkin Elmer社製「ATD400」、GC−MS system 島津製作所社製「QP5050」)で測定を行った。第1ガラス管に量り取ったペレットを詰め、ヘリウムガスを50ml/sで流し、300℃で10分間加熱した。吸着剤TENAXを充填剤した第2ガラス管を−15℃に冷却し、発生したガスを捕集した。さらに、第2ガラス管を急加熱して吸着されたガスを脱離し、GC−MSに導入し、発生ガスの同定を行った。ハロゲン化水素ガスが検出されなかったものを「ND」、検出されたものを「D」と表記した。
【0070】
評価結果を表1、2に示す。尚、表1、2における、(A−1)〜(A−4)、(B−1)〜(B−4)及び(C−a)〜(C−g)成分は、これら成分の合計中における配合割合(単位:重量%)として示しており、(D−1)〜(D−3)の配合割合(単位:重量部)は、上記(A−1)〜(A−4)、(B−1)〜(B−4)及び(C−a)〜(C−g)成分の合計100重量部に対する値として示している。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例1〜13の結果から、本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定の難燃剤と及び離型剤を特定の割合で配合することにより、難燃性、機械的特性及び離型性の全てに優れ、成形時の金型汚染やハロゲン化水素発生ガスもないポリアミド樹脂組成物であることが分かる。
比較例1〜3、8及び9は、本発明の離型剤を含まない樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、離型性が劣り、難燃性も低下する場合があることが分かった。特に、比較例2は、本発明の離型剤のかわりにポリエチレン系の離型剤を配合した樹脂組成物の例であるが、本発明の離型剤以外の離型剤を配合した場合では、離型性の改善効果がないことが分かる。
比較例4は、難燃剤の各成分の配合比率が本発明の範囲外の樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、離型性が低下し、金型汚染も発生することが分かった。
比較例5は、本発明の難燃剤を配合せず、本発明で規定する難燃剤とは異なる難燃剤を配合した樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、金型汚染が発生し、ハロゲン化水素ガスも検出された。
比較例6、7、10及び11は、ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の割合が本発明の範囲外である樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、難燃性が満足できないことが分かった。
比較例12は、無機充填材の配合量が本発明の範囲より少ない樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、本発明の難燃性を満足できないことが分かった。
比較例13は、無機充填材の配合量が本発明の範囲を越える樹脂組成物の例であるが、このような樹脂組成物は、溶融混練時に安定した押出ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上詳細に説明したとおり、本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性が極めて高く、燃焼時に腐食性の高いハロゲン化水素ガスの発生がなく、機械的特性及び離型性に優れる。とりわけ、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いることにより、成形時の離型不良や金型汚染等が改善され薄肉成形性が向上するため、高い難燃性が要求される電気・電子分野のコネクター、ブレーカー、マグネットスイッチ等の各種部品や、自動車分野の電装部品等の材料に好適であり、中でも、薄肉性が必要な部品用材料として特に適しており、産業上の利用価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メタキシリレンジアミン55〜100モル%及びパラキシリレンジアミン45〜0モル%とからなるキシリレンジアミン混合物と、α,ω−直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を60重量%以上含むポリアミド樹脂 20〜70重量%、(B)無機充填材 20〜60重量%、(C)次の(a)、(b)及び(c)成分を含む難燃剤 3〜20重量%の合計100重量部に対して、(D)カルボン酸アミド系ワックス及び/又は脂肪族カルボン酸金属塩を0.01〜1重量部配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、上記(C)難燃剤の各成分の配合重量比率(a)/(b)/(c)/が100〜30/0〜70/0〜20であることを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(a)以下の式(I)で表されるホスフィン酸塩及び/又は以下の式(II)で表されるジホスフィン酸塩
(b)メラミンとリン酸との反応生成物
(c)硼酸金属塩
【化1】

【化2】

(式(I)及び(II)中、R及びRは同一か又は異なり、線状もしくは分枝状の炭素数1〜6のアルキル及び/又は炭素数6〜10アリール、Rは線状もしくは分枝状の炭素数1〜10のアルキレン、炭素数6〜10のアリーレン、炭素数7〜10のアルキルアリーレン又は炭素数7〜10のアリールアルキレン、MはCa、Mg、Al及び/又はZn、mはMの価数を表し、2n=mxであり、nは1又は3、xは1又は2である)
【請求項2】
(B)無機充填材が、ガラス系充填材及び/又はケイ酸カルシウム系充填材である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)無機充填材中の0.1〜40重量%が、タルク及び/又は窒化ホウ素である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2009−91532(P2009−91532A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266411(P2007−266411)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】