説明

難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネス

【課題】難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れた絶縁電線を実現できる難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】エチレン系重合体を含むオレフィン樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、を含有し、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが、オレフィン樹脂100質量部に対して50〜150質量部の割合で含まれている難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電子機器においては、部品間の電気的接続を可能とするため絶縁電線が用いられる。このような絶縁電線は、導体と、導体を被覆する絶縁層とを備えており、絶縁層を構成する絶縁材料としては、難燃性、耐油性、耐水性、絶縁性等に優れた特性を有することから、ポリ塩化ビニル樹脂が最も一般的に用いられている。近年では、環境や人体への影響の懸念から安定剤として鉛を使用しない非鉛ポリ塩化ビニル樹脂が主流となっている。
【0003】
しかしながら、上記絶縁材料は、分子構造中にハロゲンである塩素原子を含有し、焼却時に有毒、有害な塩素ガスを発生する。そのため、より安全性の高いいわゆるエコマテリアルを使用した塩化ビニル電線代替品が検討されている。
【0004】
このようなエコマテリアルとして、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及びエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)などのエチレン系材料や、それらとポリプロピレン(PP)、エチレンプロピレンゴム(EPゴム)、スチレン系エラストマなどのポリオレフィンをブレンドした複合樹脂をベースに、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を多量に添加してなるものが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3358228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、絶縁電線は、難燃性、耐摩耗性及び耐外傷性に優れることが望ましい。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の絶縁材料においては、難燃剤である金属水酸化物が多量に含まれている。このため、高い難燃性を実現することが可能であるものの、機械的強度の低下が誘起されるために十分な耐摩耗性が得られず、また、外的要因によって電線被覆材表面に外傷が発生することがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れた絶縁電線を実現できる難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、金属水酸化物と特定の樹脂との界面に特定の物質を介在させ、この特定の物質と金属水酸化物との合計量が上記特定の樹脂に対して特定の比率で含まれるようにすることによって、金属水酸化物が多量に含まれていても、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性をも効果的に向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち本発明は、エチレン系重合体を含むオレフィン樹脂と、金属水酸化物粒子と、前記金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、を含有し、前記金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、前記オレフィン樹脂100質量部に対して50〜150質量部の割合で含まれていること、を特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0010】
この難燃性樹脂組成物によれば、金属水酸化物粒子の表面にβ−カルボキシアクリル酸アルキルが付着している。即ち、金属水酸化物粒子とオレフィン樹脂との界面には、β−カルボキシアクリル酸アルキルが介在している。そして、このような構成の難燃性樹脂組成物を用いて絶縁電線を製造することにより、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れた絶縁電線を実現することが可能となる。
【0011】
上記効果が得られる理由はいまだ明らかではないが、本発明者らは、β−カルボキシアクリル酸アルキルによって、オレフィン樹脂とβ−カルボキシアクリル酸アルキルとの間、及び金属水酸化物粒子とβ−カルボキシアクリル酸アルキルと間のイオン的な分子間相互作用が強まり、オレフィン樹脂と金属水酸化物粒子との結合が補強される結果、オレフィン樹脂自体の硬度を高めなくても、難燃性樹脂組成物の耐摩耗性及び耐外傷性を向上させることができるのではないかと推測している。
【0012】
なお、金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルがオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部未満の割合で含まれていると、その難燃性樹脂組成物を用いて絶縁電線が製造される場合、その絶縁電線の難燃性が著しく低下する。また金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルがオレフィン樹脂100質量部に対して150質量部を超える割合で含まれていると、その難燃性樹脂組成物を用いて絶縁電線が製造される場合、その絶縁電線の引張破断強度が低下して耐外傷性が顕著に低下するとともに、耐摩耗性も顕著に低下する。
【0013】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されること、を特徴とする絶縁電線である。また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなることを特徴とする絶縁電線であってもよい。
【0014】
これらの絶縁電線は、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れたものとなる。
【0015】
さらに本発明は、上述した絶縁電線を少なくとも1本有すること、を特徴とするワイヤーハーネスである。
【0016】
自動車や電子機器などの内部空間においてワイヤーハーネスを引き回す場合、自動車や電子機器の内部空間は狭いため、ワイヤーハーネスは自動車や電子機器の内壁と接触しやすい。本発明のワイヤーハーネスは、上述した絶縁電線を少なくとも1本有しており、上述した絶縁電線は、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れる。このため、本発明のワイヤーハーネスによれば、自動車や電子機器内での引回し作業に際して、ワイヤーハーネスが自動車や電子機器の内壁に接触することを気にせずに作業を行うことができ、ワイヤーハーネスの引回し作業を効率よく行うことができる。
【0017】
上記難燃性樹脂組成物において、前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、β−カルボキシアクリル酸エチルであることが好ましい。
【0018】
また上記難燃性樹脂組成物において、前記エチレン系重合体が、分子骨格中に酸素原子が含有されているエチレン系重合体、又は、このエチレン系重合体とエチレンプロピレンジエンゴムとの混合物であることが好ましい。
【0019】
このように、分子骨格中に酸素原子が含有されているエチレン系重合体が用いられると、その酸素原子と、β−カルボキシアクリル酸アルキルのカルボニル基とのイオン的な分子間相互作用が強まり、分子骨格中に酸素原子を有しないエチレン系重合体を用いる場合に比べて、絶縁電線の耐摩耗性及び耐外傷性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れた絶縁電線を実現できる難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図1を用いて詳細に説明する。
【0022】
(絶縁電線)
図1は、本発明に係る絶縁電線の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の絶縁電線10は、導体1と、導体1を被覆する絶縁層2とを備えている。絶縁層2は、難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなるものである。ここで、上記難燃性樹脂組成物は、エチレン系重合体を含むポリオレフィン樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有する。そして、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルからなる粒子が、上記オレフィン樹脂100質量部に対して50〜150質量部の割合で含まれている。
【0023】
上記難燃性樹脂組成物においては、金属水酸化物粒子の表面にβ−カルボキシアクリル酸アルキルが付着している。即ち、金属水酸化物粒子とオレフィン樹脂との界面には、β−カルボキシアクリル酸アルキルが介在している。そして、絶縁電線10は、上記難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなるものである。この結果、絶縁電線10は、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れたものとなる。
【0024】
このような効果が得られる理由として、ポリオレフィン樹脂が架橋処理されたことも挙げられるが、本発明者らは、上述したようにポリオレフィン樹脂の架橋体と金属水酸化物粒子との結合がβ−カルボキシアクリル酸アルキルによって強められたためではないかと推測している。
【0025】
なお、絶縁層2において、金属水酸化物粒子及びβ-カルボキシアクリル酸アルキルからなる粒子は、ポリオレフィンの架橋体100質量部に対して、50〜150質量部の割合で含まれていることが好ましい。この場合、絶縁電線10の耐摩耗性及び耐外傷性をより向上させることができる。
【0026】
上述した絶縁電線10は以下のようにして製造される。
【0027】
(導体)
まず導体1を準備する。導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0028】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、エチレン系重合体を含むポリオレフィン樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有するものである。
【0029】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂は、エチレン系重合体を含むものである。エチレン系重合体は、エチレンに由来する構造単位を含むものであればよく、このようなエチレン系重合体としては、例えばポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレンジエンゴム(以下、「EPDM」と呼ぶ)を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
中でも、エチレン系重合体としては、β-カルボキシアクリル酸アルキルとのイオン的な分子間相互作用をより強めることができ、耐摩耗性や耐外傷性をより向上させることができることから、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」と呼ぶ)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体などの分子骨格中に酸素原子を含むエチレン系重合体、EPDM又はこれらの混合物が好ましい。
【0031】
中でも、分子骨格中に酸素原子が含有されているエチレン系重合体、又はこれとEPDMとの混合樹脂が特に好ましい。
【0032】
このように、分子骨格中に酸素原子が含有されているエチレン系重合体が用いられると、その酸素原子と、β−カルボキシアクリル酸アルキルのカルボニル基とのイオン的な分子間相互作用が強まり、分子骨格中に酸素原子を有しないエチレン系重合体を用いる場合に比べて、絶縁電線の耐摩耗性及び耐外傷性をより向上させることができる。
【0033】
エチレン系重合体としてEVAとEPDMとの混合樹脂が用いられる場合、EVAとしては、VAに由来する構造単位を20質量%含有するものが好ましく、EPDMとしては、エチレンに由来する構造単位を70質量%以上含有するものが好ましい。ここで、EVAとEPDMとの混合樹脂を100質量%とした場合、EVAが30〜70質量%の割合で含まれ、且つEPDMが30〜70質量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0034】
この場合、EVAやEPDMの含有率等が上記数値範囲を外れる場合に比べて、難燃性、耐摩耗性、耐外傷性のみならず、耐熱性をより向上させることができる。
【0035】
なお、上記ポリオレフィン樹脂は、エチレン系重合体のほか、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン等のポリオレフィンを特性に影響の無い範囲で含んでいてもよい。
【0036】
ポリオレフィン樹脂中のエチレン系重合体の含有率は、特に限定されるものではないが、例えば40〜100質量%であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂中のエチレン系重合体の含有率が上記範囲内にあると、上記範囲を外れる場合に比べて、金属水酸化物粒子を混合した場合の伸び低下が少なく、難燃性がより向上するという利点が得られる。
【0037】
(金属水酸化物粒子)
金属水酸化物粒子は金属水酸化物からなるものであり、金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。中でも、水酸化マグネシウムが好ましい。これは、β-カルボキシアクリル酸アルキルとのイオン的な分子間相互作用をより強めることができ、耐摩耗性や耐外傷性をより向上させることができるためである。
【0038】
(β−カルボキシアクリル酸アルキル)
β−カルボキシアクリル酸アルキルとしては、β−カルボキシアクリル酸メチル、β−カルボキシアクリル酸エチル、β−カルボキシアクリル酸プロピルなどが例示できる。中でも、β−カルボキシアクリル酸エチルが最も好ましい。
【0039】
金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルからなる粒子は、上述したように、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50〜150質量部の割合で含まれている。金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルがポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部未満の割合で含まれていると、絶縁電線10の難燃性が顕著に低下してしまう。また金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルがポリオレフィン樹脂100質量部に対して150質量部を超える割合で含まれていると、耐摩耗性、耐外傷性、引張破断強度及び引張破断伸びが顕著に低下する。
【0040】
金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルは、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して70〜100質量部の割合で含まれることが、耐摩耗性及び耐外傷性をより向上させることから好ましい。
【0041】
金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させる方法としては、例えば金属水酸化物粒子をβ−カルボキシアクリル酸アルキルで表面処理する方法が挙げられる。金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させたものは、具体的には、金属水酸化物粒子にβ−カルボキシアクリル酸アルキルを添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザなどにより粉砕することによって得ることができる。
【0042】
ここで、金属水酸化物粒子に対するβ−カルボキシアクリル酸アルキルの付着量は、特に制限されるものではないが、金属水酸化物100質量部に対して0.1〜3質量部であることが耐外傷性、耐摩耗性の向上という理由から好ましく、1〜3質量部であるとさらに好ましい。
【0043】
上記難燃性樹脂組成物は、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、帯電防止剤、加工助剤、着色剤、滑剤、架橋助剤、無機充填剤などの充填剤を含んでもよい。
【0044】
上記難燃性樹脂組成物は必要に応じて上記ポリオレフィン樹脂及び、金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させたもの等を混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ロール等の混練機で行うことができる。
【0045】
次に、上記難燃性樹脂組成物で導体1を被覆する。難燃性樹脂組成物の被覆は、例えば難燃性樹脂組成物を押出成形によりチューブ状に押し出して導体1の表面に密着させたり、上記難燃性樹脂組成物を収容したダイスに導体1を通したりすることによって行うことができる。
【0046】
次に、難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理する。この架橋処理により、ポリオレフィン樹脂は架橋体とされ、導体1を被覆する絶縁層2が得られる。こうして絶縁電線10が得られる。架橋処理時の電子線照射量は、ポリオレフィン樹脂が架橋される量であれば特に限定されないが、10〜200kGyであると、絶縁層2の硬度がより高められ、耐外傷性及び耐摩耗性をより向上させることができる。
【0047】
上述したように、本実施形態に係る絶縁電線10は、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れる。このため、絶縁電線10は、ワイヤーハーネスを構成する少なくとも1本の絶縁電線に特に有用である。
【0048】
即ち、自動車や電子機器などの内部空間においてワイヤーハーネスを引き回す場合、自動車や電子機器の内部空間は狭いため、ワイヤーハーネスは自動車や電子機器の内壁と接触しやすい。その点、絶縁電線10は、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性にも優れるため、自動車や電子機器内での引回し作業に際して、絶縁電線10を有するワイヤーハーネスが自動車や電子機器の内壁に接触することを気にせずに作業を行うことができ、ワイヤーハーネスの引回し作業を効率よく行うことができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、絶縁層2は、難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理することによって得られているが、難燃性樹脂組成物に対して、電子線照射による架橋処理は必ずしも必要ではなく、導体1上に難燃性樹脂組成物を被覆した状態で難燃性、耐摩耗性及び耐外傷性が十分に高いならば、難燃性樹脂組成物に対して、電子線照射による架橋処理は行わなくてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
EVA、EPDM及びβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理した水酸化マグネシウム(以下、「水酸化マグネシウム」を「水酸化Mg」と呼ぶ)粒子又は表面処理していない水酸化Mg粒子を、表1及び表2に示す配合比で配合し、バンバリーミキサによって140℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。
【0052】
このとき、EVAとしては、V−5274(商品名、三井・デュポンポリケミカル(株)製、VAに由来する構造単位の含有率:1.7質量%)を用い、EPDMとしては、EPT4021(商品名、三井化学(株)社製、エチレンに由来する構造単位の含有率:51質量%)を用いた。また、水酸化Mg粒子としては、キスマ5L(商品名、協和化学社製)を用い、β−カルボキシアクリル酸エチルとしては、C−800(商品名、ルーブリゾール社製)を用いた。なお、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された水酸化Mg粒子は、次のようにして得た。即ち、まず水酸化Mg粒子100質量部に対しβ−カルボキシアクリル酸エチルを3質量部の割合で添加して撹拌しながら混合し混合物を得た。次に、この混合物を60℃にて50分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサーにより粉砕した。こうして、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された水酸化Mg粒子を得た。
【0053】
その後、押出機にて難燃性樹脂組成物をチューブ状に押し出し、導体(素線数58本/素線径0.26mm)上に、厚さ0.7mmとなるように難燃性樹脂組成物を被覆した。そして、難燃性樹脂組成物に対して電子線照射による架橋処理を行った。このときの電子線の照射量は、20kGyとした。こうして絶縁電線を得た。

【表1】

【表2】

【0054】
上記のようにして得られた実施例1〜3及び比較例1〜3の絶縁電線について、耐摩耗性、耐外傷性、難燃性および耐熱性の評価、並びに引張破断強度及び引張破断伸びの測定を以下のようにして行った。
【0055】
(耐摩耗性)
耐摩耗性の評価は、スクレープ試験(ISO6722)に基づいて以下の手順で行った。即ち、φ0.45mmのニードルを、荷重7Nで絶縁電線の表面に押し当てながら、その絶縁電線の表面上を往復摩耗させた。そのときニードルが絶縁電線内の導体に接触するまでの往復回数を測定した。そして、絶縁電線をニードルに対して移動させた後、その長手方向を中心軸として90°回転させ、そのときニードルに対向する個所でも上記と同様に往復回数を測定した。この操作を12回繰り返して行い、その平均値を求めた。そして、この測定した往復回数の平均値が3000回以上である絶縁電線を合格とし、3000回未満である絶縁電線を不合格とした。
【0056】
(耐外傷性)
平面上に置かれている絶縁電線に対して、金属製のハーネス末端端子のエッジを500gの荷重で絶縁電線の表面に押し当てた状態で、絶縁電線を引き抜いたときの絶縁電線表面の傷の具合を観察することによって絶縁電線の耐外傷性を評価した。このとき、削れ屑が発生した絶縁電線は不合格とし、削れ屑が発生しない絶縁電線は合格とした。
【0057】
(引張破断強度)
引張速度200mm/min、標線間距離20mmの試験条件で絶縁電線の引張破断強度を測定した。そして、引張破断強度が10MPa以上である絶縁電線を合格とし、10MPa未満である絶縁電線を不合格とした。
【0058】
(引張破断伸び)
引張速度200mm/min、標線間距離20mmの試験条件で絶縁電線の引張破断伸びを測定した。そして、引張破断伸びが150%以上である絶縁電線を合格とし、150%未満である絶縁電線を不合格とした。
【0059】
(難燃性)
ISO6722の45度傾斜燃焼試験に基づき、以下のようにして絶縁電線の難燃性評価を行った。即ち、70秒以内で消火し、500mm中の上部50mmが残っている絶縁電線を合格とし、そうでない絶縁電線を不合格とした。
【0060】
(耐熱性)
ISO6722に基づいて、以下のようにして絶縁電線の耐熱性を評価した。即ち、125Lのオーブン中に絶縁電線を設置し、1.1Nの荷重で4時間、0.7mm幅のブレードを電線の長さ方向に対して直角に押し当てた。そして、エッジを押し当てた部分をφ6mmのマンドレルに巻き付けた後に耐電圧試験を行った。このとき、絶縁破壊が生じない絶縁電線を合格とし、絶縁破壊が生じる絶縁電線を不合格とした。
【0061】
なお、耐摩耗性、耐外傷性、引張破断強度、引張破断伸び、難燃性および耐熱性の評価結果については、表1及び表2中、合格である場合には「○」で表示し、不合格である場合には「×」で表示した。
【0062】
表1及び表2に示す結果より、実施例1〜3の絶縁電線は、比較例1〜3の絶縁電線と比較して、難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性についても優れることが分かった。
【0063】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、絶縁電線の難燃性のみならず、耐摩耗性及び耐外傷性をも向上させることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の絶縁電線の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1…導体、2…絶縁層、10…絶縁電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系重合体を含むオレフィン樹脂と、
金属水酸化物粒子と、
前記金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、
を含有し、
前記金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、前記オレフィン樹脂100質量部に対して50〜150質量部の割合で含まれていること、
を特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、β−カルボキシアクリル酸エチルであること、
を特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン系重合体が、分子骨格中に酸素原子が含有されているエチレン系重合体、又は、このエチレン系重合体とエチレンプロピレンジエンゴムとの混合物であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成されること、
を特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなること、
を特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の絶縁電線を少なくとも1本有すること、
を特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−275192(P2009−275192A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130221(P2008−130221)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】