説明

難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物を用いた成形体及び難燃性樹脂組成物の製造方法

【課題】弾性率、曲げ強度および耐衝撃強度等の機械的強度に優れ、かつ十分な難燃性、特に自己消火性を有し、安全性、環境特性にも配慮された樹脂組成物、及びその樹脂組成物を用いて成形した成型体とその樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】芳香環を有するリン化合物(A)を5質量%以上15質量%以下含有し、2種以上の高分子化合物からなるマトリックス構成高分子化合物(B)と靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物を用いた成形体及びその難燃性樹脂組成物の製造方法に関し、更に詳しくは機械、電気・電子機器、建材等に使用される熱可塑性の難燃性ポリエステル樹脂組成物、該難燃性樹脂組成物を用いた成形体及びその難燃性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂は、その優れた機械的強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性などにより、事務機器、情報・通信機器、電気・電子機器、家庭用電化製品、自動車分野、建築分野等の様々な分野において樹脂成型品として幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、これらの用途に用いられる樹脂成型品は、難燃性であることが要求されている。熱可塑性樹脂を難燃性化するために一般に樹脂に難燃剤を添加することが知られている。難燃剤としては、従来ハロゲン系の難燃剤が知られている。しかし、近年、各国の環境意識の高まりの中で、ハロゲン系の難燃剤は次第に規制が厳しくなり、使用することが困難になってきている。
【0004】
難燃剤を熱可塑性樹脂に混合するためには、一般に一軸、若しくは二軸の混練機等を用いて樹脂と難燃剤とを混合することにより、熱可塑性樹脂中に難燃剤が微粒子状に均一に分散混合される。この分散状態が良好でないと、例えばハロゲン系の難燃化剤を添加して難燃性化した熱可塑性樹脂を射出成形等によって成形体とする時に、熱溶融した樹脂の溶融流動性が悪く、成型体の外観性能が劣ったり、また部分的に歪みが生じたり、十分な強度が得られない、あるいは必要な寸法精度が得られないなどの問題を生じる。また、分散性を向上するために混練強度を上げると熱可塑性樹脂の分子鎖が切断し分子量が小さくなって、必要な強度が得られないなどの問題を生じてしまう。
【0005】
また、近年容器包装リサイクル法や国等による「環境物品等の調達の推進等に関する法律」(通称、グリーン購入法)などが相次いで施行され、このような熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物の成形加工製品のマテリアルリサイクルに対する関心が高まってきている。中でも、PETボトルに使用されているポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)やCD、CD−R、DVD等に使用されているポリカーボネート(以下、PCということがある)を材料とする光学記録媒体製品(光ディスク)の普及に伴い、これらの成形加工時に出る端材の再利用方法や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層等を剥離した後に得られる透明なPC素材を再利用するためのマテリアルリサイクル技術の確立は急務となっている。
【0006】
しかしながら、市場から回収されたポリエステル樹脂や光ディスク等のポリカーボネート樹脂の成形加工製品は、加水分解や熱分解等により劣化している場合が多い。例えばこれらの成形加工製品を粉砕したものを再度成形しようとしても溶融粘度の低下が著しいため、まったく成形できないか、またはたとえ成形が出来たとしても、機械的強度が脆弱で容易に破損してしまうため、実用に耐える成形加工品への再生利用は極めて困難なのが実情である。
【0007】
廃棄された成形加工製品からリサイクル用樹脂を回収して再利用する技術として、例えば、ポチエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂又はその樹脂組成物の成形加工製品の粉砕片に、エポキシ基含有エチレン共重合体を溶融混練する方法(例えば特許文献1、2参照)やエポキシ化ジエン系共重合体を溶融混練する方法(例えば特許文献3参照)などが提案されている。また、R−PET(リサイクルしたPET)の耐衝撃強度を改善するためにゴム状重合体を組み合わせた材料技術が提案されている(例えば特許文献4、5参照)。
【0008】
しかし、これら公知の技術では、PETの結晶化速度が遅いために外観不良が生じたり、溶融粘度が低いために射出成型が難しい。あるいは高い防火性能を得るためにハロゲン原子を含有する難燃剤を使用するが、ハロゲン原子を含有する難燃剤を添加したときに耐衝撃強度は十分に改善されなかった。そのため、ハロゲン原子を含有する難燃剤の添加量を抑制すると、難燃性能の不良などを生じることがあり、その結果、用途拡大の障害になっている。しかも、ハロゲン原子を含有する難燃剤はハロゲン原子のために環境や人体に対する安全性に問題があった。
【0009】
また、ハロゲン原子を含まない難燃剤としてホスファゼン化合物を用いる技術が開示されている(例えば特許文献6参照)。しかし、これらにおいてもポリエステル樹脂を10質量%以上含有する場合には、難燃性と耐衝撃強度などの樹脂の機械的強度とを高いレベルで両立させるという要請に対しては、必ずしも十分と言えるものでは無かった。
【0010】
一方、樹脂組成物を混合、分散する方法として、平行な2つの平面からなる間隙を通過させることによって高分子化合物の樹脂物性を損なうことなく均一に混合、分散処理出来る間隙通過処理が提案されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−247328号公報
【特許文献2】特開平6−298991号公報
【特許文献3】特開平8−245756号公報
【特許文献4】特開2003−221498号公報
【特許文献5】特開2003−231796号公報
【特許文献6】特開2010−31097号公報
【特許文献7】特開2010−143970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように近年、安全性や環境意識の高まりの中で、従来のハロゲン系の難燃剤の使用が禁止されたり、また成型体への再生樹脂の使用が義務づけられるなど、様々な制約が加えられてきている。このような状況の中で、安全性や環境規制に配慮し、機械特性、難燃性にも優れた成型体を形成しうる樹脂組成物が望まれている。
【0013】
可燃性樹脂に高度な難燃性、例えばUL94−V0等を付与する方法としては、難燃剤を5質量%以上添加する方法がある。しかし、難燃剤が粒子として存在する場合には、凝集粒子が破壊の起点となり、靭性低下を招き、その結果、引張り強度や曲げ強度が低下する。難燃剤が液体である場合にはマトリックス高分子と相溶せず、分散してもブリードアウトの問題や可塑化効果により弾性率が低下し、その結果、引張り強度や曲げ強度が低下する。従って、従来技術では、可燃性樹脂に高度な難燃性を付与しようとすると物性の低下が避けられず、高度な難燃性と曲げ強度、耐衝撃強度等の機械的強度と安全性、環境特性との両立は極めて困難であった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み成されたもので、即ち、事務機器や情報・通信機器、電気・電子機器、家庭用電化製品等の成型体に使用される樹脂組成物であって、弾性率、曲げ強度および耐衝撃強度等の機械的強度に優れ、かつ十分な難燃性、特に自己消火性を有し、安全性、環境特性にも配慮された樹脂組成物、及びその樹脂組成物を用いて成形した成型体とその樹脂組成物の製造方法を提供することを目的としている。また代表的な回収素材であるPETボトルの粉砕品やポリカーボネート樹脂製の光ディスク粉砕品等の再生樹脂を使用してもこれらの特性が損なわれることのない樹脂組成物、その成型体及び樹脂組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は以下の構成とすることによって解決される。
1.
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、2種以上の高分子化合物からなるマトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物であって、該芳香環を有するリン化合物(A)を5質量%以上15質量%以下含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
2.
前記芳香環を有するリン化合物(A)が、2成分以上の混合物であって、少なくとも1成分が下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であり、該一般式(1)で表わされる構造を有する化合物が、該芳香環を有するリン化合物(A)の5質量%以上90質量%以下含有することを特徴とする前記1に記載の難燃性樹脂組成物。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す)
3.
前記難燃性樹脂組成物は、前記マトリックス構成高分子化合物(B)を50質量%以上90質量%以下含有するものであり、該マトリックス構成高分子化合物(B)が、少なくともポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とから構成されるのであることを特徴とする前記1または前記2に記載の難燃性樹脂組成物。
4.
前記ポリエステル樹脂が、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共縮合した共縮合ポリエステル樹脂を含有し、全ポリエステル樹脂中に該共縮合ポリエステル樹脂を1質量%以上30質量%以下含有することを特徴とする前記1から前記3の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
5.
前記靭性改良高分子化合物(C)が、ポリオレフィンであることを特徴とする前記1から前記4の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
6.
前記靭性改良高分子化合物(C)が、ゴムであることを特徴とする前記1から前記4の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
7.
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、マトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物を用いて形成される成形体であって、少なくとも、該芳香環を有するリン化合物(A)と、該マトリックス構成高分子化合物(B)と、該靭性改良高分子化合物(C)から成る難燃性樹脂組成物を射出成形により製造したことを特徴とする成形体。
8.
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、マトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも、該芳香環を有するリン化合物(A)と、該マトリックス構成高分子化合物(B)と、該靭性改良高分子化合物(C)とを一軸混練機、または二軸混練機で混練した後、溶融状態で、面間距離xが5mm以下の平行な2つの面の間隙を通過させて製造されることを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以上の構成とすることによって、回収した成形加工製品や成形加工時の端材等から得られたポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂の再生樹脂を使用する場合においても難燃性に優れ、弾性率、曲げ強度、耐衝撃強度等の機械的強度に優れた樹脂組成物、および成形体を得ることができる。また、ハロゲン系の難燃剤を使用しないため安全性、環境特性に優れた樹脂組成物、および成形体を得ることが出来る。
【0019】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、所定の間隙通過処理を行って製造されることにより、自己消火性、ならびに弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能を顕著に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)は、本発明の難燃性樹脂組成物を製造するための装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図2】(A)は、本発明の難燃性樹脂組成物を製造するための装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図3】(A)は、本発明の難燃性樹脂組成物を製造するための装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図4】(A)は、本発明の難燃性樹脂組成物を製造するための装置の一例の概略見取り図であり、(B)は、(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
難燃剤を添加した時に生じる樹脂の可塑化による物性低下の原因は、難燃剤で構成されるドメイン(海島構造の島に相当)の弾性率が低いためと推定される。そのため難燃剤だけで構成されるドメインを無くせば弾性率の低下を防ぐことが可能となる。一つの方法として、難燃剤を分子レベルで樹脂中に分散することが考えられる。一般的には、モノマー構造が異なる分子どおし、あるいは高分子化合物とモノマー構造が異なる低分子化合物を分子レベルで分散することは難しく、従来技術では、高度な難燃性と良好な力学物性の両立は困難であった。本発明では、マトリックス樹脂を構成する高分子化合物としてポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂を用い、該高分子化合物と相溶しうる難燃剤を用いることにより、その両立を可能とするものである。
【0022】
即ち、本発明の難燃性樹脂組成物は、従来から広く用いられてきたハロゲン系の難燃剤を使用せず、その構造中に、芳香環を有するリン化合物(A)をマトリックス構成高分子化合物(B)に含有させることで自己消火性を達成するものである。またマトリックス構成高分子化合物(B)として、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂の混合物を用い、難燃剤がマトリックス構成高分子化合物(B)と相溶されていることが好ましく、これによって破壊の起点となる難燃剤の凝集粒子を形成させないことで機械的強度を得、更に靭性改良高分子化合物(C)をドメイン(島状)として含有させることで本発明の目的を達成するものである。
【0023】
〔難燃性の説明〕
ここで、難燃性及びその指標のひとつである自己消化性について説明する。
【0024】
難燃性とは、耐燃性の一つで、燃焼する速さは遅いが、ある程度は燃え続ける性質を指す。耐燃性の評価については、JIS、ASTMなどがあるが、一般には、特にUL規格が重視されている。UL規格とはアメリカの「Underwriters Laboratorie社」が定め、同社によって評価される規格である。一般的にはUL94にて規定される試験片に炎を当て燃焼時間と滴下物の有無を確認する試験法を用い、遅燃性物質は「UL94−HB」、自己消火性物質は程度により「UL94−V2」、「UL94−V1」、「UL94−V0」、「UL94−5V」という区分のいずれかに分類される。自己消化性とは、難燃性の性質のうち、火源があれば燃え続けるが、火源を取り除けば自ら消火する性質を言う。
【0025】
一般に事務機器、情報・通信機器、電気・電子機器、家庭用電化製品、自動車分野、建築分野等の様々な分野において、使用される材料については、使用部品においてUL−94で規定された難燃性を持つことが要求されている。
【0026】
〔芳香環を有するリン化合物(A)〕
一般に樹脂を難燃化するためには、難燃剤が添加される。本発明で用いられる難燃剤はその構造中に芳香環を有するリン化合物(A)(以下「難燃剤(A)」ともいう)で、該リン化合物を2種以上組み合わせて用いることが好ましいが、少なくともその一つは下記一般式(1)で表される骨格を有するホスファゼン化合物であることが好ましい。ホスファゼン化合物を用いない場合には、15質量%まで含有しても難燃性について本発明の目的を達成できないばかりか、力学物性の低下を生じるので好ましくない。
【0027】
【化2】

【0028】
ここで、式中、Xはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。
【0029】
本発明の(A)成分として用いる一般式(1)で表されるホスファゼン化合物は、具体的には、下記一般式(2)または一般式(3)で表されるものであり、Xの少なくとも1つに芳香環が含まれていればよい。
【0030】
【化3】

【0031】
ここで、式中、nは3〜20が好ましい。Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。
【0032】
前記一般式(1)において−P=N−構造は一般式(2)の環状であっても一般式(3)の鎖状であってもよい。
【0033】
前記一般式(1)においてXは、相互に同一であっても、異なっていてもよい。
【0034】
前記アルキル基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6のアルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基などが挙げられる。
【0035】
前記アリール基としては、炭素原子数6〜11のアリール基が好ましい。また、アリール基は、炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0036】
前記アルコキシ基としては、炭素原子数1〜10、特に炭素原子数1〜6のアルコキシ基が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0037】
前記アリールオキシ基としては、炭素原子数1〜10のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、アントラセノキシ基などが挙げられる。また、アリールオキシ基は、アリール部分に置換基を有していてもよい。前記置換基としては、炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0038】
前記一般式(2)において、環状化合物の場合には、nが3以上20以下が好ましい。またnが3以上20以下の環状化合物の混合物でもよい。混合物の場合、nが3の環状化合物が50質量%未満でも本発明に好適に用いることが可能であるが、50質量%未満であると融点が低くなり、樹脂へ混練するプロセスにおいてフィーダー部分で凝集しやすくなる。好ましくは、nが3と4の環状化合物が90質量%以上含まれている混合物が好ましく、n=3の環状化合物100%であるものが最も好ましい。すなわち、下記一般式(4)で表されるシクロホスファゼンオリゴマーが好ましい。
【0039】
【化4】

【0040】
(式中、X〜Xは、前記一般式(1)におけるXと同義である)
一般式(4)において、X〜Xが、アルコキシ基、又はフッ素原子、アリールオキシ基、アルコキシ基が好ましく、特にフッ素原子、フェノキシ基、エトキシ基、又はメトキシ基が好ましい。
【0041】
一般式(2)あるいは一般式(3)において、マトリックス構成高分子化合物(B)あるいは高残炭率高分子化合物(C)との相溶の観点から、Xの50%以上は、アリール基あるいはアリールオキシ基が好ましい。さらに好ましくはフェノキシ基、ナフトキシ基、アントラセノキシ基などが挙げられる。
【0042】
芳香環を有するリン化合物(A)のもう一つの成分としては、リン酸エステル系化合物や縮合リン酸エステル系化合物、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジメチルフェニルホスフェート、メチルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性させた化合物があり、本発明の目的を達成するのに特に好ましいのは下記一般式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物である。
【0043】
【化5】

【0044】
ここで、式中、Ra、Rb、Rc、及びRdはそれぞれ独立してアリール基であり、その一つ以上の水素が置換されていてもいなくてもよい。nは自然数、Xaは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。
【0045】
この中でも最も好ましいのは下記構造式で表される縮合リン酸エステル化合物である。
【0046】
【化6】

【0047】
二つ目の(A)成分として用いられるリン酸エステル化合物は、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、およびホスホン酸のエステル化物等が使用される。
【0048】
亜リン酸エステルの具体例として、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0049】
リン酸エステルの具体例として、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0050】
亜ホスホン酸エステルの具体例として、例えば、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスホナイト等が挙げられる。
【0051】
ホスホン酸エステルの具体例として、例えば、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸エステル等が挙げられる。
【0052】
リン酸エステル化合物は、亜リン酸、リン酸およびホスホン酸のエステル化物が好ましく、特にリン酸エステルが好ましい。
【0053】
一般式(2)、若しくは一般式(3)で表される芳香環を有するホスファゼン化合物(A)の具体例としては、例えば、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン、(ポリ)メチルナフチルオキシホスファゼン等の環状、鎖状のアルキルアリールオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシメチルナフチルオキシホスファゼン等が例示出来る。
【0054】
これらの芳香環を有するホスファゼン化合物やリン酸エステル化合物としては、例えば下記のものが市販品として入手出来る。
【0055】
SPS100 大塚化学(株)製ホスファゼン
【0056】
【化7】

【0057】
PX200 大八化学(株)製リン酸エステル系難燃剤
〔(CHO〕P(O)OCOP(O)〔OC(CH
PX202 大八化学(株)製リン酸エステル系難燃剤
PX200の重合度を上げたもの
TPP トリフェニルホスフェート
O=P(OC
TCP 大八化学(株)製トリクレジルフォスフェート
TXP 大八化学(株)製トリキシレニルホスフェート
CDP 大八化学(株)製クレジルジフェニルホスフェート
NDPP 大八化学(株)製2−ナフチルジフェニルホスフェート
O=P(OCOC10
PX−110 大八化学(株)製クレジル−2,6−キシレニルホスフェート
CR−733S 大八化学(株)製芳香族縮合リン酸エステル
CR−741 大八化学(株)製芳香族縮合リン酸エステル
【0058】
【化8】

【0059】
本発明では上記ホスファゼン誘導体やリン酸エステル化合物から選ばれる2成分以上を混合して用いると好適である。組み合わせは、1成分が、前記一般式(1)で表わされる骨格を有し、少なくとも難燃剤全量の5質量%以上90質量%以下含有すると本発明の効果が確実に現れる。すなわちホスファゼン誘導体とリン酸エステル化合物の組み合わせが好適である。
【0060】
これらの芳香環を有するホスファゼン化合物とリン酸エステル化合物と赤リンなどの他の難燃剤を併用しても好適な結果が得られるので、その組み合わせる難燃剤については特に制限をしないが、本発明に関しては環境適合を考慮した発明であるので、組み合わせる難燃剤はハロゲン原子を含まない化合物が好適である。例えば、赤リンや無機リン酸塩である。
【0061】
赤リンとしては、一般の赤リンの他に、その表面をあらかじめ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物及び熱硬化性樹脂からなる被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜の上に熱硬化性樹脂の被膜で二重に被覆処理されたものなどが挙げられる。
【0062】
無機系リン酸塩としては、例えばポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0063】
これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
難燃剤(A)の添加量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物全体で、5質量%以上15質量%以下添加される。これ以上添加すると機械的物性、特に衝撃強度が低下してしまう。また2質量%以上の添加で自己消火性となる場合もあるが、安定な難燃性能を得るためには5質量%以上添加がされる。好ましくは7質量%から12質量%以下で有り、難燃剤(A)の添加量がこの範囲にあると、難燃性、耐熱性、及び曲げ強度、耐衝撃強度等の機械的強度に優れた成形体を提供可能な組成物を得ることができる。
【0065】
〔マトリックス構成高分子化合物(B)〕
本発明で、マトリックス構成高分子化合物とは、本発明の樹脂の主要構成部分を担う樹脂を意味している。ここで、マトリックス構成高分子化合物(B)(以下「(B)成分」ともいう)は、ポリカーボネート樹脂を分散したポリエステル樹脂で本発明の熱可塑性樹脂組成物に50質量%以上85質量%以下含まれている。ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂の組成比は、特に制限はなく、本発明で、ポリエステル樹脂の割合がポリカーボネート樹脂の含有率より低くてもその目的を達成することが可能であるが、射出成型時の粘度が高くなり、特に薄肉での成形が難しくなるのでポリカーボネート樹脂の含有率が高くなりすぎるのは好ましくない。マトリックス構成高分子化合物(B)中のポリエステル樹脂含有量/ポリカーボネート樹脂含有量の比は0.15以上100以下が好ましく、さらに好ましくは1以上10以下である。ポリカーボネート樹脂の量が減少すると弾性率が低下するので100以下、更に好ましくは10以下である。ポリカーボネート樹脂の量が増加すると樹脂粘度が高くなるので0.15未満は射出成形時の粘度の観点から好ましくない。
【0066】
〔ポリエステル樹脂〕
ポリエステル樹脂は特に限定されるものではなく、ジカルボン酸単位又はエステル形成能を持つそれらの誘導体と、ジオール単位又はエステル形成能を持つそれら誘導体とを公知の方法で重縮合して得られるポリエステル樹脂である。
【0067】
ジカルボン酸単位の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、3,3′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、こはく酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及びそれらのエステル形成性誘導体(例えばメチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル等)などから誘導されるジカルボン酸単位を挙げることができる。
【0068】
ジオール単位の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオール等の炭素数2〜10の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の分子量6000以下のポリアルキレングルコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などから誘導されるジオール成分単位を挙げることができる。
【0069】
これらジカルボン酸単位及びジオール単位は共に上記化合物を各々単独で使用しても2種又はそれ以上組み合わせて使用してもよい。更に、本発明のポリエステル樹脂は、全構造単位に基づいて1モル%以下であれば、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上のモノマーから誘導される構造成分単位を有していてもよい。
【0070】
ポリエステル樹脂は、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、芳香族ジカルボン酸又はエステル形成能を持つそれらの誘導体と、脂肪族ジオール又はエステル形成能を持つそれら誘導体とを重縮合して得られる芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0071】
ポリエステル樹脂の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、これをPETということがある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、これをPBTということがある)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(以下、これをPENということがある)、ポリブチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、およびそのコポリマー、ポリカプロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸系ポリエステル、ポリアリレート系樹脂等を挙げることができる。
【0072】
本発明では、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジオール成分(エチレングリコール)を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えた時に、CHDMへの置換割合が、0.0001mol%以上50mol%未満をPETG、50mol%以上100mol%までPCT(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)と呼ぶ。
【0073】
これらの中でも、ジオール成分として、エチレングリコールを使用したPET、PETG、PEN、および1,4−シクロヘキサンジメタノールを共縮合成分として含有したPCTGがその結晶化挙動、熱的性質、機械的性質等の物性バランスの面から特に好ましい。またジオール成分として、ブチレングリコールを使用したPBTも成形性、機械的性質等のバランスがとれ好ましい。ポリエステル樹脂としては、PETとPBTとの混合物も好適に使用できる。本発明では、PETとPETGとの混合物が好ましく、ポリエステル樹脂中のPETG樹脂の割合が、1質量%以上50質量%以下の混合物が好ましい。
【0074】
ポリエステル樹脂の固有粘度に特に制限はないが、本発明においては、好ましくは0.50〜1.50dl/g、更に好ましくは0.65〜1.30dl/gの範囲である。固有粘度が小さすぎると十分な耐衝撃性が得られず、また耐薬品性も低下するおそれがある。逆に固有粘度が大きすぎると流動粘度が増大し混練温度を高く設定しなければならず他の組み合わせる添加剤に好ましくない温度で混練することになる。
【0075】
本明細書中、固有粘度は、JIS K7367−5に従い、フェノール/テトラクロロエタン(質量比:1/1)混合溶媒を用いて30℃で測定したときの値である。
【0076】
本発明に用いるポリエステル樹脂は通常、融点が180〜300℃、好ましくは220〜290℃であり、ガラス転移温度(Tg)が50〜180℃、好ましくは60〜150℃である。
【0077】
本明細書中、融点は、示差走査熱量計(DSC)による昇温測定時に発現する結晶融解吸熱ピークの終点温度をいうものとする。
【0078】
ガラス転移温度は、融点と同様の測定において、ベースラインが階段状に変化した部分の温度のことをいう。詳しくは、ガラス転移温度は、融点と同様の測定において、階段状に変化している部分の前後の各ベースラインから延長した直線から縦方向に等距離にある直線と、階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度のことをいう。
【0079】
ポリエステル樹脂として、廃棄されたポリエステル樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片を用いることができる。特に、固有粘度が上記範囲にあるPETとして、使用済みの廃棄PETボトル等のPET製品の粉砕品も好適に用いることができる。廃棄物として回収されたPET製品であるボトル、シート、衣類、およびこれら成形品を成形した時に出た成形屑や繊維屑などを、適当な大きさに粉砕した樹脂片を使用することができる。中でも、量的に多い飲料用ボトルの粉砕品を好適に使用することができる。PETボトルは一般に、分別回収後、異材質除去、粉砕、洗浄工程を経て大きさ5〜10mmの透明なクリアフレークに再生される。通常、かかるクリアフレークの固有粘度の範囲は概ね0.60〜0.80dl/gである。
【0080】
廃棄されたポリエステル樹脂製品のポリエステル樹脂片は、粉砕して洗浄、乾燥後、一旦、180℃以上260℃以下の温度で混練し、冷却・粉砕して得ることもできる。バージンのポリエステル樹脂はペレット状の形態で市販されているが、これらをガラス転移温度以上の温度でプレスしたり、または押出機等で一旦溶融させ、溶融ストランドを冷却水中でローラーに通して押し潰し、通常のペレタイザーでカッティングしたりすることで、樹脂片として用いることができる。
【0081】
ポリエステル樹脂を樹脂片として用いることにより、樹脂組成物の製造時において混練機への供給を容易にし、また溶融までの混練において、混練装置への負荷が少なくなる。ポリエステル樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。樹脂片の好ましい最大長は30mm以下であり、より好ましくは20mm、さらにこのましくは10mm以下である。最大長が30mmを超える樹脂片が入っていても混練は可能であるが、供給過程で詰まることがあり好ましくない。しかし、供給装置を改善すれば防止できるので本発明の目的を損なわない限り特に制限をしない。
【0082】
ポリエステル樹脂は構成単位および/または固有粘度が異なる2種類以上のポリエステル樹脂の混合物であってよく、例えばPETとPENの混合物、PETとPETGとの混合物、あるいはPETの一次結合にPEN成分が入っているPETとPENのコポリマーなどがあるが、その場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0083】
〔ポリカーボネート樹脂〕
ポリカーボネート樹脂(以下、PCということがある)は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネートである。その製造方法は公知の方法が採用でき、例えば、二価フェノールにホスゲン等のカーボネート前駆体を直接反応させる方法(界面重合法)、又は二価フェノールとジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体とを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが知られている。
【0084】
二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び核にアルキル基やハロゲン原子などが置換しているこれらの誘導体などが挙げられる。特に好適な二価フェノールの代表例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス{(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)フェニル}スルホンなどが挙げられ、これらは単独又はそれ以上を混合して使用できる。これらの中で、特にビスフェノールAの使用が好ましい。
【0085】
カーボネート前駆体としては、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ホスゲン等のカルボニルハライド、二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジフェニルカーボネートを使用する。これらカーボネート前駆体もまた、単独でもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
ポリカーボネート樹脂は、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種又はそれ以上を混合した混合物であってもよい。
【0087】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量で1×10〜1×10程度であるが、本発明で用いるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は10,000〜40,000程度が好ましく、12,000〜35,000が更に好ましい。
【0088】
本明細書中、粘度平均分子量は、液体クロマトグラフ(島津製作所社製)を用い、CBM−20AliteシステムとGPCソフトウェアー(島津製作所社製)によって測定された値である。
【0089】
ポリカーボネート樹脂は通常、ガラス転移温度が120〜290℃、好ましくは140〜270℃である。
【0090】
ポリカーボネート樹脂として、廃棄されたポリカーボネート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片を用いることができる。特に、上記分子量の範囲にあるポリカーボネートとして、廃棄された光ディスク等の粉砕品も好適に用いることができる。CD、CD−R、DVD、MD等の光ディスクや光学レンズを成形加工した時に出る端材や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層等を剥離したものなどを10mm以下の適当な大きさに粉砕した樹脂片であれば特に限定なく、本発明において使用できる。一般に、これら光ディスク用のポリカーボネート樹脂は高流動タイプで、粘度平均分子量が13,000〜18,000の低分子量のものが用いられている。
【0091】
廃棄されたポリカーボネート樹脂製品のポリカーボネート樹脂片は、粉砕洗浄後、一旦、180℃以上260℃以下の温度で混練し、冷却・粉砕して得ることもできる。
【0092】
バージン(未使用)のポリカーボネート樹脂はペレット状の形態で市販されているが、これらをガラス転移温度以上の温度でプレスしたり、または押出機等で一旦溶融させ、溶融ストランドを冷却水中でローラーに通して押し潰し、通常のペレタイザーでカッティングしたりすることで、樹脂片として用いることができる。
【0093】
ポリカーボネート樹脂を樹脂片として用いることにより、樹脂組成物の製造時において混練機への供給を容易にし、また溶融までの混練において、混練装置への負荷が少なくなる。ポリカーボネート樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。樹脂片の好ましい最大長は30mm以下であり、より好ましくは20mm以下、さらにこのましくは10mm以下である。最大長が30mmを超える樹脂片が入っていても混練は可能であるが、供給過程で詰まることがあり好ましくない。しかし、供給装置を改善すれば防止できるので本発明の目的を損なわない限り特に制限をしない。
【0094】
(B)成分の配合量は、本発明の難燃性樹脂組成物全量に対して50質量%以上85質量%以下であり、弾性率と難燃性のさらなる向上の観点から、好ましくは50質量%以上60質量%以下である。(B)成分の配合量が少なすぎると、機械的特性、特に曲げ強度が低下する。当該配合量が多すぎると、難燃性が低下し、自己消火性がなくなる。2種以上のポリカーボネート樹脂を組み合わせて用いてもよいが、そのときには(B)成分として合計配合量を上記範囲内とする。
【0095】
〔靭性改良高分子化合物(C)〕
靭性とは、物質の粘り強さを表す用語で、脆性、あるいは延性とも表現されることがあり、衝撃試験や抗折力試験などで評価される。
【0096】
靭性改良高分子化合物(C)(以下「(C)成分」とも言う)は、ポリオレフィン及び/またはゴム(以下ゴム状重合体とも言う)が好ましい。
【0097】
本発明に用いられるポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン系ポリマーが挙げられる。
【0098】
(C)成分としてのゴムは、本発明の樹脂組成物の耐衝撃性付与のために必要な成分であって、「ゴム技術入門」(日本ゴム協会編丸善株式会社2004年発行)や「熱可塑性エラストマーの材料設計と成形加工」(山下晋三監修技術情報協会2007年発行)に記載されたゴム状重合体が使用可能である。
【0099】
ゴム状重合体とは、20℃以下に少なくとも一つのガラス転移点(Tg)を有する重合体である。
【0100】
ゴム状重合体の数平均分子量は、小さすぎると重合体自体の破断時の強度、伸度等の機械的性質が低下し、組成物とした場合にその強度を低下させるおそれがあり、また大きすぎると加工性が悪くなり、十分な性能を有する組成物が得られないおそれがあるので、数平均分子量は30,000〜500,000の範囲にあるのが好ましく、更に好ましくは50,000〜300,000の範囲である。
【0101】
そのようなゴム状重合体として、例えば、共役ジエン系ゴム、ウレタンゴム(UR)、シリコーンゴムが使用可能である。
【0102】
共役ジエン系ゴムは、共役ジエン系単量体を含有する単独重合体または共重合体ゴムである。共役ジエン単量体の含有量は通常、全モノマー成分に対して10質量%以上、好ましくは10〜50質量%である。
【0103】
共役ジエン系ゴムの具体例として、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ブタジエン−スチレン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−(ジエンメチレン)共重合体ゴム(EPDM)、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム(IIR)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンラジアルテレ共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体ゴム、ポリクロロプレン(CR)などが挙げられる。上記具体例のうち、共重合体ゴムは、グラフト共重合体ゴムおよびブロック共重合体ゴムを包含して意味するものとする。
【0104】
ウレタンゴム(UR)の具体例として、例えば、ゴム状の性質を発現するソフトセグメントとしてポリエーテル系のURやポリエステル系のURが挙げられる。
【0105】
シリコーンゴムの具体例として、例えば、ミラブルタイプのシリコーンゴムやLIMSタイプのシリコーンゴムがあり、本発明に好ましいのは架橋基を有するミラブルタイプのシリコーンゴムであるが、LIMSタイプでも架橋反応させて製造したゴムを粉砕したものであれば使用可能である。
【0106】
例えば、シリコーンゴムの一種ポリジメチルシリコーンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリクロロプレン(CR)のような1種類のモノマーからなるゴム状重合体はTgを一つだけ有し、当該Tgが20℃以下である。
【0107】
また例えば、ウレタンゴム、のような熱可塑性エラストマー、およびブタジエン−スチレングラフト共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン−アクリロニトリルグラフト共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−(ジエンメチレン)グラフト共重合体ゴム(EPDM)、イソブチレン−イソプレングラフト共重合体ゴム(IIR))、スチレン−ブタジエン−スチレングラフト共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンラジアルテレグラフト共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−スチレングラフト共重合体ゴムのような2種類以上のモノマーからなるグラフト共重合体ゴムはTgを一つだけ有し、当該Tgが20℃以下である。
【0108】
また例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンラジアルテレブロック共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム、ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン−アクリロニトリルブロック共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−(ジエンメチレン)ブロック共重合体ゴム(EPDM)、イソブチレン−イソプレンブロック共重合体ゴム(IIR)のような2種類以上のモノマーからなるブロック共重合体ゴムは各ブロックのセグメントごとのTgが観察されるので、Tgを二つ以上有し、そのうち少なくとも一つのTgが20℃以下であり、他のTgは20℃以下であってもよいし、または20℃を超えていてもよい。
【0109】
上記したゴム状重合体の中で、共役ジエン系ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムが、成形体の外観の観点から好ましく使用される。共役ジエン系ゴム、特に、BR、SBR、EPDM、IIRは混練時に容易に架橋するので好ましい。
【0110】
ゴム状重合体は、どのような製造方法で得られたものであってもよいし、または市販品として入手したものであってもよい。
【0111】
共役系ジエン系ゴムの市販品として、例えば、EPDM(ダウ(株)製;Nordel IP、JSR(株)製;1101B)、エスプレン(Esprene;住友化学工業社製)、Royalene(Uniroyal Chemical社製)が使用可能である。
【0112】
ウレタンゴムの市販品として、例えば、アイアンラバー(ユニマテック株式会社製)、E885PFAAアジペート系(日本ミラクトラン社製)が使用可能である。
【0113】
シリコーンゴムの市販品として、例えば、一液型RTVゴム(信越化学社製)、シリコーンワニス等(信越化学社製)、ミラブル型シリコーンゴム(モメンティブ社製)が使用可能である。
【0114】
(C)成分の配合量は、本発明の難燃性樹脂組成物全量に対して5〜30質量%であり、難燃性および機械的性能のさらなる向上の観点から、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%である。(C)成分の配合量が少なすぎると、機械的特性、特に衝撃強度が低下する。当該配合量が多すぎると、自己消火性が低下し、機械的特性、特に曲げ強度が低下する。
【0115】
ゴムを加硫するために加硫剤を添加するとゴムが島状に分散しやすくなるので好ましい。加硫剤としては「JSR HANDBOOK」(JSR(株)1993年9月発行)に記載されている、有機加硫・架橋剤や架橋促進剤を用いることができる。この中で有機過酸化物やフェノール樹脂が好適である。
【0116】
有機過酸化物としては、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)−ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、t−ブチルパーオキシ−1−プロピルカーボネートなどが例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0117】
フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂と、あるいはノボラック型フェノール樹脂とを含んでいてもよい。ノボラック型フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂に比べ、合成する際に未反応のフェノール及びホルムアルデヒドの残存が少ないため、樹脂に含まれる未反応フェノールおよびホルムアルデヒドを低減出来る。また混練時に粉体で供給可能なノボラック型フェノール樹脂がコンパウンド製造時の取り扱いを考慮すると好ましい。しかし限定されるものではなく、通常使用されているものを使用することができる。
【0118】
レゾール型フェノール樹脂は、特に限定されないが、油変性レゾール型フェノール樹脂を含むことが好ましい。油変性レゾール型フェノール樹脂としては、例えば桐油、アマニ油、クルミ油等の乾性油変性レゾール型フェノール樹脂、大豆油、綿実油、サフラワー油等の半乾性油変性レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0119】
ノボラック型フェノール樹脂は、例えばフェノールノボラック型樹脂、ビスフェノールAノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノールFノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、アルキルフェノールノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フェノールノボラック型樹脂、ビスフェノールFノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0120】
これら加硫剤の添加量は通常量とすることができ、具体的には上記有機過酸化物を本発明の組成物に対し0.1〜5質量%、特に0.5〜2質量%配合することができる。この場合、上記有機過酸化物の配合量が少ないと、加硫が十分に進行せずにゴム相が粒子状に分散しないので弾性率の低下を招くので好ましくない。また配合量が多いと樹脂を劣化させる要因として機能し、樹脂強度が低下する。
【0121】
上記加硫剤と共に共架橋剤としてアクリル酸亜鉛が配合されてもよい。このアクリル酸亜鉛の配合量は、特に制限されるものではない。また添加しなくともよい。また、本発明においては加硫剤としてのフェノール樹脂は後述する高残炭率高分子化合物としても機能する。
【0122】
〔その他の添加剤(D)〕
本発明の難燃性樹脂組成物には、必要に応じて、その他の添加剤を添加することができる。その他の添加剤として、高残炭率高分子化合物が挙げられる。残炭率とは、熱天秤(TGA)を用いて樹脂を不活性雰囲気下10℃/minの昇温速度で650℃まで加熱した際に残る炭素質量の加熱前の樹脂の質量に対する割合(質量%)を意味する。残炭率としては、10質量%以上が好ましく、本発明では、残炭率の高い化合物、即ち高残炭率高分子化合物(以下「高残炭率成分」ともいう」として、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSということがある)および/またはフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0123】
PPSは、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして有用なポリフェニレンスルフィドである。PPSは軟化点(Tm)が240〜300℃、好ましくは240〜290℃のものが使用される。
【0124】
本明細書中で軟化点はDSC7020(セイコーインスツル社製)によって測定された値である。
【0125】
PPSは、公知の方法によって製造したものを用いてもよいし、または市販品として入手したものを用いてもよい。
【0126】
PPSの市販品として、例えば、トレリナ(東レ社製)、PPS(DIC社製)等が入手可能である。
【0127】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との付加・縮合で得られる高分子物質である。フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−アルキルフェノール、p−フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールA、フェノールスルホン酸、レゾルシン等が挙げられる。
【0128】
アルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、フルフラール等が挙げられる。
【0129】
フェノール樹脂は、その原料に基づいて、例えば、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・ホルマリン樹脂、変性フェノール樹脂、フェノール・フルフラール樹脂、レゾルシン樹脂等が知られている。
【0130】
フェノール・ホルマリン樹脂としては、さらに製造方法に基づき、酸性触媒で前駆物質を製造し、アルカリ触媒で硬化反応を行うノボラック型、アルカリ触媒で前駆物質を製造し、酸触媒で硬化反応を行うレゾール型のものが挙げられる。
【0131】
フェノール樹脂は、フェノール・ホルマリン樹脂、特にノボラック型のフェノール・ホルマリン樹脂が好ましく使用される。
【0132】
フェノール樹脂は、粉末のものでも液状のものでも本発明の目的を達成可能である。好ましいフェノール樹脂は、室温で粉末のフェノール樹脂である。秤量時に取り扱い性が優れているためである。そのようなフェノール樹脂の融点は、30℃以上150℃以下がゴム状重合体の架橋剤として使用可能なので好ましい。さらに好ましくは60℃120℃以下である。
【0133】
フェノール樹脂は、公知の方法によって製造したものを用いてもよいし、または市販品として入手したものを用いてもよい。
【0134】
フェノール樹脂の市販品として、例えば、PR−HF−3(住友ベークライト社製)、フェノール樹脂SP90(旭有機材工業社製)等が入手可能である。
【0135】
自己消火性の観点から少なくともフェノール樹脂を用いることが好ましく、フェノール樹脂とPPSとを併用することが更に好ましい。
【0136】
高残炭率成分の配合量は、本発明の難燃性樹脂組成物全量に対して0.5質量%〜15質量%であり、難燃性能のさらなる向上の観点から、好ましくは2質量%〜10質量%、より好ましくは2質量%〜5質量%である。高残炭率成分の配合量は、特に0.5質量%以上であると、得られる樹脂組成物で製造された成形体は自己消火性を示し、2質量%以上であると、燃焼速度も遅くなり、マッチの火を近づけても着火しにくくなる。高残炭率成分の配合量が少なすぎると、機械的特性、特に衝撃強度、曲げ強度が向上するが自己消火性が低下する。当該配合量が多すぎると、機械的特性、特に衝撃強度、曲げ強度が低下する。PPSおよびフェノール樹脂それぞれは種類および/または軟化点・融点が異なる2種類以上のポリマーの混合物であってよく、またPPSまたはフェノール樹脂を単独でまたは組み合わせて使用してもよい。その場合それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0137】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本発明の難燃性樹脂組成物は上記構成から成るもので、これらは、通常一般的な一軸、二軸の押出混練機によって、均一に混合分散することによって作製される。
【0138】
本発明に係る難燃性樹脂組成物の好ましい製造方法は、少なくとも上記した(A)〜(C)成分を含む高分子混合物を溶融状態で間隙通過処理することを特徴としている。
【0139】
間隙通過処理とは、高分子混合物を溶融状態で、面間距離xが5mm以下の平行な2つの面の間隙に通過させる処理であり、本実施形態において当該間隙通過処理を1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上行う。これによって、高分子混合物に含まれる各成分の十分に均一な混合・分散が達成され、その結果、ハロゲン原子含有難燃剤を含有しなくとも、より一層優れた難燃性、特に自己消火性を示し、しかも弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能が顕著に向上した樹脂組成物が得られる。そのような効果は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体においても得られる。当該間隙通過処理の回数を増やすほど、自己消火性および機械的性能は顕著に向上する。例えば、当該間隙通過処理の回数を1回から2回に増やすと、自己消火性および機械的性能はより一層、顕著に向上する。当該間隙通過処理の回数を2回から3回に増やすと、自己消火性および機械的性能はさらに一層、顕著に向上する。当該間隙通過処理の回数の上限は通常、1000回、特に100回である。高分子混合物を面間距離xが5mmを超える間隙に通過させても、難燃性ならびに弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能は顕著に向上するわけではない。たとえ、そのような間隙における高分子混合物の移動方向の距離を長くしても、難燃性および機械的性能は顕著に向上するわけではない。間隙通過処理は、一軸あるいは二軸混練機で混練後に行うことによりその回数を減らすことが可能で、例えば二軸混練機の吐出口に取り付けた装置で間隙通過処理を連続的に行う場合には、3から10回まで回数を減らすことができる。
【0140】
難燃性および機械的性能が顕著に向上する効果が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。溶融状態の高分子混合物が間隙に入るとき、高分子混合物が受ける圧力および高分子混合物の移動速度が大きく変化する。このとき、溶融物に対して剪断作用、伸長作用および折りたたみ作用が有効に働くものと考えられる。そのため、そのような変化を高分子混合物が受けることにより、結果として各成分の十分に均一な混合・分散が有効に達成され、難燃性および機械的性能の顕著な向上効果が得られるものと考えられる。
【0141】
間隙通過処理を2回以上行う場合、間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されてもよいし、または間隙を1ヶ所だけ有する装置を用いて2回以上処理を繰り返すことによって達成されてもよい。連続運転の効率性の観点からは、間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されることが好ましい。
【0142】
1以上の間隙における平行な2つの面間距離xはそれぞれ独立して5mm以下、特に0.05〜5mmであり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは、0.5〜5mmが好ましく、より好ましくは0.5〜3mmである。
【0143】
1以上の間隙における高分子混合物の移動方向MDの距離yはそれぞれ独立して2mm以上であればよく、処理の効果のさらなる向上の観点からは、3mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。距離yの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、高分子混合物を移動方向MDで移動させるための圧力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離yはそれぞれ独立して2〜100mmが好ましく、より好ましくは3〜50mm、さらに好ましくは5〜30mmである。
【0144】
1以上の間隙における幅方向WDの距離zは特に制限されず、例えば、20mm以上であり、通常は100〜1000mmである。
【0145】
高分子混合物が溶融状態で間隙を通過するときの流速は間隙の断面積1cmあたりの値で1g/分以上であればよく、本実施形態において上限は特に制限はないが、あまり大きくなると、高分子混合物を移動方向MDで移動させるための圧力を大きくする必要があり経済的ではない。好ましくは10〜5000g/分、より好ましくは10〜500g/分である。
【0146】
本明細書中、断面積とは、移動方向MDに対する垂直断面における面積を意味するものとする。
【0147】
流速は吐出口から吐出される高分子混合物の吐出量(g/分)を間隙の断面積(cm)で除することによって測定できる。
【0148】
間隙通過処理時の高分子混合物の粘度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、加熱温度によって制御できる。当該粘度は例えば、1〜10000Pa・sであり、好ましくは10〜8000Pa・sである。
【0149】
高分子混合物の粘度は粘弾性測定装置MARS(ハーケー社製)によって測定された値を用いている。
【0150】
溶融状態の高分子混合物を移動方向MDに移動させるための圧力は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、大気圧力との差圧で示される樹脂圧力で0.1MPa以上が好ましい。樹脂圧力は間隙における樹脂の吐出口から1mm以上内側で計測した高分子混合物の圧力であり、圧力計で直接計測することによって測定できる。圧力は高いほど効果的であるが樹脂圧力が高すぎると著しい剪断発熱が生じ、高分子の分解に至る場合があるので、樹脂圧力は500MPa以下が好ましく、より好ましくは50MPa以下である。この樹脂圧力については、良好な物性を示す高分子組成物を製造するための目安を示したもので、記載した樹脂圧力以外で本実施形態の目的を達成できるならばこれに制限を加えるものではない。
【0151】
間隙通過処理時の高分子混合物の温度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、400℃を超える高温度では高分子の分解が生じるので400℃以下が推奨される。また当該高分子混合物温度は、高分子のTg以上の温度であると樹脂圧力が著しく高くならないので好ましい。2種類以上の高分子を使用する場合、それらの割合と各Tgから加重平均により算出される値をTgとする。例えば、高分子AのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であり、高分子BのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であるとき(R+R=100)、「(Tg×R/100)+(Tg×R/100)」をTgとする。
【0152】
間隙通過処理時の高分子混合物温度は、当該処理を行う装置の加熱温度を調整することによって制御できる。
【0153】
本実施形態において通常は、間隙通過処理の直前に、高分子混合物を押出混練機により溶融・混練し、混練後に押し出された溶融状態の高分子混合物に対して間隙通過処理を所定回数で行う。溶融・混練方法は特に制限されず、例えば、剪断力を利用した公知の押出混練機が使用できる。具体的には、例えば、二軸押出混練機KTX30、KTX46(神戸製鋼社製)等のような押出混練機を用いることができる。
【0154】
溶融・混練条件は、特に制限されず、例えばスクリュー回転数は50〜1000rpmが採用可能であり、溶融混練温度は上記した間隙通過処理時の高分子混合物の温度と同様の温度が採用可能である。
【0155】
以下、間隙通過処理を行う高分子組成物の製造装置を示す図面を用いて、間隙通過処理方法について具体的に説明する。そのような高分子組成物の製造装置は、被処理物を流入させるための流入口および処理された物を吐出させるための吐出口を備え、当該流入口と吐出口との間の被処理物の流路において、平行な2つの面の間隙を1ヶ所以上で有するものである。
【0156】
例えば、間隙通過処理を1回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)は、間隙2aを有さないこと、および溜まり部1aと溜まり部1bとがそれらの溜まり部の最大高さと同様の高さで連通していること以外、後述する図1に示す装置と同様であるため、当該装置の説明は省略する。
【0157】
例えば、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を図1に示す。図1(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図1(B)は、図1(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図1の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図1の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図1の装置は押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶこともできる。
【0158】
図1の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を2ヶ所(2a、2b)で有する。通常はさらに、間隙2a、2bそれぞれの直前に断面積が当該間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1bを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図1の装置10Aにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過し、吐出口6から吐出される。
【0159】
本明細書中、溜まり部の断面積は、移動方向MDに対する垂直断面における当該溜まり部の最大の断面積を意味する。
【0160】
図1において間隙2a、2bにおける平行な2つの面間距離x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0161】
図1において間隙2aにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2bにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0162】
図1において間隙2a、2bにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0163】
図1において溜まり部1a、1bにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2bの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して3〜100mm、好ましくは3〜50mmである。
【0164】
本明細書中、溜まり部の最大高さは、直方体形状の装置の場合、幅方向WDに対する垂直断面における最大高さを意味するものとする。
【0165】
図1において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aおよび間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bはそれぞれ独立して1.1以上、特に1.1〜1000であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは2〜100が好ましく、より好ましくは3〜15である。
【0166】
図1において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して1mm以上であればよく、連続運転の効率の観点からは、2mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。距離mおよびmの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、流入口5に連結される押出混練機の押出力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離mおよびmはそれぞれ独立して1〜300mmが好ましく、より好ましくは2〜100mm、さらに好ましくは5〜50mmである。
【0167】
また例えば、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を図2に示す。図2(A)は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図2(B)は、図2(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図2の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図2の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図2の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0168】
図2の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を3ヶ所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図2の装置10Bにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
【0169】
図2において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0170】
図2において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0171】
図2において間隙2a、2b、2cにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0172】
図2において溜まり部1a、1b、1cにおける最大高さh、h、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2b、2cの面間距離x、x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図1における最大高さh、hと同様の範囲内である。
【0173】
図2において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2a、間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図1における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0174】
図2において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図1における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0175】
本明細書中、「平行」は、2つの平面の間で達成される平行関係だけでなく、2つの曲面の間で達成される平行関係も含む概念で用いるものとする。すなわち、図1および図2において間隙2a、2b、2cは平行な2つの平面からなっているが、これに制限されるものではなく、例えば、図3に示す間隙2aや図4に示す間隙2a、2b、2cのように、平行な2つの曲面からなっていてもよい。「平行」は、2つの面の関係において、それらの間の距離が一定であることを意味し、装置製造時の精度を考慮して、厳密に「一定」であることを要さず、実質的に「一定」であればよい。従って、「平行」は本実施形態の目的が達成される範囲内で「略平行」であってよい。略直方体形状の装置において、幅方向WDに対する垂直断面における間隙の形状および位置は幅方向において変わらないものとする。略円柱体形状の装置において、軸を通る断面における間隙の形状および位置は装置の軸を中心軸とした周方向において変わらないものとする。
【0176】
図3は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を示す。図3(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図3(B)は、図3(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図3の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図3の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図3の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0177】
図3の装置は、間隙2aが平行な2つの曲面からなること以外、図1の装置と同様であるため、図3の装置の詳しい説明を省略する。
【0178】
図4は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置(ダイ)の一例を示す。図4(A)は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置の概略見取り図であり、図4(B)は、図4(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図である。図4の装置は全体として略円柱体形状を有し、装置の小型化を可能にする。図4の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図4の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0179】
図4の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの曲面からなる間隙を3ヶ所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図4の装置10Dにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、半径方向に広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび周方向PDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
【0180】
図4において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0181】
図4において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0182】
図4において溜まり部1aにおける最大高さhは特に制限されるものではなく、通常は1〜100mm、好ましくは1〜50mmである。
【0183】
図4において溜まり部1b、1cにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2b、2cの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図1における最大高さh、hと同様の範囲内である。
【0184】
本明細書中、溜まり部の最大高さは、略円柱体形状の装置の場合、装置の軸を通る断面における直径方向の最大高さを意味するものとする。
【0185】
図4において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aは1.2以上、特に1.2〜10であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは1.2〜7が好ましく、より好ましくは1.2〜5である。
【0186】
図4において間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図1における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0187】
図4において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図1における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0188】
図1〜図4に記載の装置は、通常、樹脂の混練装置および押出装置の分野で従来から吐出口に取り付けて使用されるダイの製造に使用される材料から製造される。
【0189】
間隙通過処理後は、間隙通過処理された高分子混合物を急冷する。間隙通過処理によって達成された各種成分の十分に均一な混合・分散形態が急冷によって、有効に維持される。
【0190】
急冷は、間隙通過処理によって得られた溶融状態の高分子組成物をそのまま0〜60℃の水に浸漬することによって達成できる。−40℃〜60℃の気体で冷却するか、−40℃〜60℃の金属に接触させることによって、急冷を達成してもよい。急冷は必ずしも行わなければならないというわけではなく、例えば放置冷却するだけでも、各種成分の十分に均一な混合・分散形態は維持できる。
【0191】
冷却された高分子組成物は、次工程での処理を容易にするために、通常、粉砕によってペレタイズされる。
【0192】
本実施形態においては、高分子混合物を間隙通過処理する直前に行われる溶融・混練処理のさらに前に、高分子混合物を構成する全成分を予め混合処理してもよい。例えば、全成分を予め混合処理した後で、間隙通過処理直前の溶融・混練処理を行い、さらにその後で間隙通過処理を所定回数で行う。そのような混合処理の後、溶融・混練処理の直前においては、ポリエステル樹脂の加水分解反応及びポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を抑制させる観点から、高分子混合物を十分に乾燥させることが好ましい。
【0193】
混合方法としては、所定の成分を単に乾式で混合するドライブレンド法を採用してもよいし、または所定の成分を従来の溶融混練方法によって溶融混練、冷却および粉砕する溶融混練法を採用してもよい。溶融混練法を採用する場合、前記と同様の押出混練機が使用可能で、このとき押出混練機は吐出口に従来から公知のダイが取り付けられて使用されてよい。
【0194】
上記した間隙通過処理によって製造された樹脂組成物において、靭性改良高分子化合物(C)は平均粒径1nm〜20μmで分散されており、衝撃強度と弾性率の観点から好ましい分散粒径は1nm〜15μmであり、より好ましくは10nm〜10μm、さらに好ましくは100nm〜5μm、最も好ましくは400nm〜2.5μmである。そのような分散粒径は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体においても維持される。
【0195】
上記した間隙通過処理を行うことなしに製造された樹脂組成物、すなわち単なる溶融混練法によって製造された本発明の樹脂組成物において、靭性改良高分子化合物(C)は通常、平均粒径0.1〜5μmで分散されていることが好ましい。そのような平均粒径で靭性改良高分子化合物(C)が分散された樹脂組成物であっても、前記(A)〜(C)成分が含有されている限り、本発明の効果は得ることができる。
【0196】
本発明の樹脂組成物においては、芳香環を有するリン化合物(A)がマトリックス構成高分子化合物(B)と相溶している。また、マトリックス構成高分子化合物(B)において、このマトリックス構成高分子化合物(B)を構成するポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のどちらかと芳香環を有するリン化合物(A)が相溶していることが好ましい。
【0197】
ここで、本発明において「相溶している」とは、本発明の樹脂組成物(ペレット)または当該樹脂組成物を用いて得られた成形体を電子顕微鏡用薄片切出機によりカットし、電子顕微鏡観察した時に、芳香環を有する燐化合物(A)が粒子として観察されないことを言う。具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)JEM3100F(日本電子(株)製)を用いて、50μmから1nmの極薄の樹脂切片を作成し2000倍で観察する。極薄の切片の作成は、例えば大和光機工業(株)製のミクロトームが使用出来る。
【0198】
靭性改良高分子化合物(C)の分散粒径は、前述のように平均粒径0.1〜5μmが好ましく、平均粒径は体積基準のメディアン径(D50)であり、以下の方法によって測定できる。本発明の樹脂組成物(ペレット)または当該樹脂組成物を用いて得られた成形体を電子顕微鏡用薄片切出機によりカットし、その断面において靭性改良高分子化合物(C)を四酸化オスミウムなどにより染色する。断面を走査型電子顕微鏡により倍率2000〜10000倍にて観察する。染色された靭性改良高分子化合物(C)の粒子の最大長を任意の100個の粒子について測定し、平均値を求める。
【0199】
〔難燃性樹脂組成物の用途〕
以上の方法で製造された本発明の樹脂組成物は通常、冷却・粉砕されてペレットの形態を有しているので、当該ペレットを、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、吹込成形法、射出圧縮成形法などの公知の各種成形法に適用することによって、任意の形状が付与された成形体を製造できる。ポリエステル樹脂の加水分解反応及びポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を抑制させる観点から、成形前において、樹脂組成物は十分に乾燥させることが好ましい。
【0200】
別法として、間隙通過処理された溶融状態の本発明の樹脂組成物を冷却・粉砕することなく、上記した公知の各種成形法に連続的に適用することによって、任意の形状が付与された成形体を製造することもできる。
【0201】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、優れた難燃性、特に自己消火性、ならびに優れた弾性率、曲げ強度および衝撃強度等の機械的性能が活かされる用途の成形材料または構成材料として有用である。そのような用途として、例えば、容器、包装用フィルム、家庭用雑貨、事務機器、AV機器、電気・電子部品、自動車部品などが挙げられる。
【実施例】
【0202】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例によりその範囲が限定されるものではないことはいうまでもない。
【0203】
先ず、以下の実施例及び比較例で用いた原材料、混練装置及び間隙通過処理に用いたダイについて説明する。
【0204】
〈原材料〉
(1)「(A)成分」:芳香環を有するリン化合物(A)
SPS100 大塚化学(株)製ホスファゼン
PX200 大八化学(株)製リン酸エステル系難燃剤
(2)「(B)成分」:ポリエステル樹脂
R−PET(回収ポリエチレンテレフタレート);リサイクルPET(ウツミリサイクルUK31C)固有粘度0.68dl/gの使用済みの廃棄PETボトルの大きさ2〜8mmのフレーク状粉砕品(洗浄品)。なお、このPETフレークの昇温速度20℃/分におけるDSC法(セイコーインスツルメント社製DSC7000使用)による結晶融解ピークの終点の温度(融点)は263℃であった。また、同DSC法によるガラス転移温度は69℃であった。
【0205】
PET:固有粘度0.78dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット。前記同様のDSC法による融点は267℃で、ガラス転移温度は73℃であった。
【0206】
PEN:固有粘度1.1dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂ペレット。前記同様のDSC法による融点は269℃で、ガラス転移温度は113℃であった。
【0207】
PETG:ポリエチレンテレフタレート樹脂と1,4−シクロヘキサンジメタノールの共縮合体(KODAK PETG:イーストマンコダック社製)固有粘度0.72dl/gのポリエチレンテレフタレートとポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートコポリマー樹脂ペレット。前記同様のDSC法による融点は256℃で、ガラス転移温度は71℃であった。1,4シクロヘキサンジメタノールの共縮合体の含有率が多くなるとPCTと呼ばれる。
(3)「(B)成分」:ポリカーボネート樹脂
PC:ポリカーボネート樹脂(ユーピロン:三菱ガス化学社製)
R−PC(回収ポリカーボネート):廃棄コンパクトディスクより反射層、記録層等を剥離後、大きさ1〜5mmのフレーク状に粉砕したもの(基板のPCは三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ユーピロンH4000、分子量約15,000)。前記同様のDSC法によるガラス転移温度は148℃であった。
(4)「(C)成分」:靭性改良高分子化合物
PE :ポリエチレン(ノバテックHD:日本ポリエチレン(株)製)
EPDM :エチレン−プロピレン−ジエンゴム(1101B:JSR(株)製)(エチレン−プロピレンに2重結合を有する第3成分を共重合させたもの)
(5)「加硫剤」
Ph :レゾール型フェノール樹脂(住友デュレス社製)
〈混練装置〉
混練装置は(株)神戸製鋼所製の減圧ベント付き二軸押出機KTX30を用いた。この装置のシリンダ部は温調ブロックごとにC1〜C9の9ブロックから成り、C1部に原材料供給口を、C3部及びC7部にローターとニーダーのスクリューの組み合わせを配置し、C8にベントを設置した。また、吐出口には所定のダイを取り付けて用いた。いずれのダイを用いる場合においても、以下の条件で混練装置を用いた。
【0208】
シリンダ設定温度:C1〜C2/C3〜C9/ダイ=120℃/220℃/260℃
スクリュー回転数:250rpm
〈間隙通過処理用ダイ〉
本発明の難燃性樹脂組成物の間隙通過処理には以下のダイを用いた。
【0209】
1.ダイA1;間隙部を3ヶ所で有する図2に示すダイ
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=10cm、移動方向距離m=20mm
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=20mm
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=20mm
間隙2c;面間距離x=1mm、断面積S2c=6cm、移動方向距離y=30mm。
【0210】
2.ダイA2;間隙部を3ヶ所で有する図2に示すダイ。
【0211】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=10cm、移動方向距離m=20mm
間隙2a;面間距離x=2mm、断面積S2a=12cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=20mm
間隙2b;面間距離x=2mm、断面積S2b=12cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=20mm
間隙2c;面間距離x=2mm、断面積S2c=12cm、移動方向距離y=30mm。
【0212】
3.ダイB1;間隙部を2ヶ所で有する図1に示すダイ。
【0213】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=50mm
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=6cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=50mm
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=6cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm。
【0214】
4.ダイB2;間隙部を2ヶ所で有する図1に示すダイ。
【0215】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=50mm
間隙2a;面間距離x=3mm、断面積S2a=18cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=50mm
間隙2b;面間距離x=3mm、断面積S2b=18cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm。
【0216】
5.ダイC1;間隙部(面間距離=1mm)を1ヶ所で有するダイ。当該ダイは、間隙2aを有しておらず、溜まり部1aと溜まり部1bとが間隙2aの代わりに高さ10mmおよび幅方向距離300mmの連絡路で連通していること以外、図1に示すダイと同様である。
【0217】
6.ダイC2;間隙部(面間距離=3mm)を1ヶ所で有するダイ。当該ダイは、間隙2aを有しておらず、溜まり部1aと溜まり部1bとが間隙2aの代わりに高さ10mmおよび幅方向距離300mmの連絡路で連通していること以外、図1に示すダイと同様である。
【0218】
7.ダイD1;間隙部(面間距離=8mm)を1ヶ所で有するダイ。当該ダイは、間隙2aを有しておらず、溜まり部1aと溜まり部1bとが間隙2aの代わりに高さ10mmおよび幅方向距離300mmの連絡路で連通していること、および間隙2bの面間距離xが8mm、断面積S2bが24cmであること以外、図1に示すダイと同様である。
【0219】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上述した方法により作製することが出来る。
【0220】
また本発明の難燃性樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、注型成形等の各種の成形方法を用いて成形体とすることができる。これらのなかでも、射出成形が最も簡便な方法であり、好ましい。射出成形において、アロイを溶融させ、加工する際の加工温度は250℃から350℃が好ましい。本実施例、比較例では260℃とした。
【0221】
<実施例1〜42>
表1、表2に示す成分を所定の質量分率でV型混合器を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で100℃、4時間乾燥させた。乾燥させた混合物を二軸混練機(KTX30)の原材料供給口から投入し、吐出量30kg/時および樹脂圧力4MPaの条件にて溶融混練した。詳しくは二軸混練機から吐出された樹脂組成物は溶融状態で、所定のダイに流入口から流入した後、所定の間隙部を通過し、吐出口から吐出した。ダイから吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、樹脂組成物を得、下記評価を行った。結果を表3に示した。
【0222】
<比較例1〜10>
表2に記載の成分とダイを用い、実施例と同様の方法により樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物について、実施例と同様の方法により、下記評価を行った。結果を表4に示した。
【0223】
【表1】

【0224】
【表2】

【0225】
<評価>
(1)樹脂組成物の機械物性
ペレット状樹脂組成物を100℃で4時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製、J55ELII)を用いて、シリンダ設定温度280℃、金型温度40℃で、100mm×10mm×4mmの短冊型試験片を成形した。試験片について、JIS−K7111に準拠してアイゾット衝撃試験(Uノッチ、R=1mm)を、JIS−K7171に準拠して曲げ試験を行った。弾性率は曲げ試験の初期歪の結果から求めた。以下の基準に従ってランクを付けた。
【0226】
(弾性率)
◎◎;2500MPa以上
◎ ;2200MPa以上2500MPa未満
○ ;2000MPa以上2200MPa未満
△ ;1800MPa以上2000MPa未満(実用上問題なし)
× ;1.8GPa未満;(実用上問題あり)。
【0227】
(曲げ強度)
◎◎;64MPa以上
◎ ;60MPa以上64MPa未満
○ ;56MPa以上60MPa未満
△ :52MPa以上56MPa未満(実用上問題なし)
× ;52MPa未満;(実用上問題あり)。
【0228】
(アイゾット衝撃強度)
◎◎;80J/m以上
◎ ;60J/m以上80J/m未満
○ ;40J/m以上60J/m未満
△ ;30J/m以上40J/m未満(実用上問題なし)
× ;30J/m未満;(実用上問題あり)。
(2)難燃性試験
(限界酸素指数:LOI値)
当該混練装置を用いてストランド状に押し出し、冷却した。ストランドを10cmの長さに切りそろえ、その試料を用いてLOI値(限界酸素指数:Limited Oxygen Index)を測定した。
【0229】
(UL試験評価)
UL94V0に準拠し、試料片を射出成形で製造し評価した。
【0230】
【表3】

【0231】
【表4】

【0232】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜42の本発明の樹脂組成物は、比較例1〜10の樹脂組成物に比べて、優れた機械物性と難燃性を有することが分かる。また、本発明の成形体は、成形性に優れ、大型・薄肉成形が容易であり、得られた成形体はマトリックス構成高分子化合物(A)の優れた特徴を損なうことのなく外観特性も良好な成形体を得ることができる。
【符号の説明】
【0233】
5 流入口
6 吐出口
WD 幅方向
MD 移動方向
P−Q 断面
幅方向WDの距離
1a、1b、1c 溜まり部
2a、2b、2c 間隙
、h、h 溜まり部の最大高さ
、x、x 面間距離
、y、y 間隙の移動方向の距離
、m、m 溜まり部の移動方向の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、2種以上の高分子化合物からなるマトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物であって、該芳香環を有するリン化合物(A)を5質量%以上15質量%以下含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香環を有するリン化合物(A)が、2成分以上の混合物であって、少なくとも1成分が下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であり、該一般式(1)で表わされる構造を有する化合物が、該芳香環を有するリン化合物(A)の5質量%以上90質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す)
【請求項3】
前記難燃性樹脂組成物は、前記マトリックス構成高分子化合物(B)を50質量%以上90質量%以下含有するものであり、該マトリックス構成高分子化合物(B)が、少なくともポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とから構成されるのであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共縮合した共縮合ポリエステル樹脂を含有し、全ポリエステル樹脂中に該共縮合ポリエステル樹脂を1質量%以上30質量%以下含有することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記靭性改良高分子化合物(C)が、ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記靭性改良高分子化合物(C)が、ゴムであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、マトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物を用いて形成される成形体であって、少なくとも、該芳香環を有するリン化合物(A)と、該マトリックス構成高分子化合物(B)と、該靭性改良高分子化合物(C)から成る難燃性樹脂組成物を射出成形により製造したことを特徴とする成形体。
【請求項8】
少なくとも、芳香環を有するリン化合物(A)と、マトリックス構成高分子化合物(B)と、靭性改良高分子化合物(C)とから成る難燃性樹脂組成物の製造方法であって、少なくとも、該芳香環を有するリン化合物(A)と、該マトリックス構成高分子化合物(B)と、該靭性改良高分子化合物(C)とを一軸混練機、または二軸混練機で混練した後、溶融状態で、面間距離xが5mm以下の平行な2つの面の間隙を通過させて製造されることを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184374(P2012−184374A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49990(P2011−49990)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】