説明

難燃性樹脂組成物および絶縁電線

【課題】水酸化マグネシウムなどの金属水和物を難燃剤として用いた場合に、耐寒性および耐摩耗性に優れた難燃性樹脂組成物および絶縁電線を提供すること。
【解決手段】金属水和物を主成分とする難燃剤とベース樹脂とを含有し、前記ベース樹脂は、弾性率2000MPa以上のポリオレフィン系樹脂2種以上からなり、少なくとも1種以上のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下である。このとき、メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以上のポリオレフィン系樹脂を含んでいても良く、このポリオレフィン系樹脂としては、官能基を有するポリプロピレン樹脂が好ましい。そして、本発明に係る難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体を導体の周囲に形成してなる絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物および該難燃性樹脂組成物を用いた絶縁電線に関するものであり、特に自動車、電気・電子機器等に好適に使用される難燃性樹脂組成物及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、電子・電気機器等に使用される部材や絶縁材料には、機械特性、難燃性、耐熱性、耐寒性等の種々の特性が要求されている。従来、その材料としてポリ塩化ビニル化合物や、分子中に臭素原子や塩素原子を含むハロゲン系難燃剤を配合したコンパウンドが主として使用されてきた。
【0003】
上記従来の材料は、廃棄の際に焼却処理を行うと多量の腐食性ガスが発生するおそれがある。このため、腐食性ガスの発生するおそれのないノンハロゲン難燃材料が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物として、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を難燃剤として用いた組成物が公知である(例えば、特許文献2〜4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−83612号公報
【特許文献2】特許第3339154号公報
【特許文献3】特許第3636675号公報
【特許文献4】特開2004−189905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を難燃剤として用いたポリオレフィン系樹脂からなるノンハロゲン難燃樹脂組成物は、耐寒性、耐摩耗性を十分備えていないという問題があり、耐寒性及び耐摩耗性を向上させることが要望されている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、水酸化マグネシウムなどの金属水和物を難燃剤として用いた場合に、耐寒性および耐摩耗性に優れた難燃性樹脂組成物および絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る難燃性樹脂組成物は、金属水和物を主成分とする難燃剤とベース樹脂とを含有し、前記ベース樹脂は、弾性率2000MPa以上のポリオレフィン系樹脂2種以上からなり、このうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下であることを要旨とするものである。
【0008】
本発明に係る難燃性樹脂組成物においては、前記ベース樹脂はメルトフローレイト(MFR)が5g/10min超のポリオレフィン系樹脂を含有していること、前記メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂と前記メルトフローレイト(MFR)が5g/10min超のポリオレフィン系樹脂とのメルトフローレイト(MFR)の差が5g/10min以上であること、前記ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が官能基を有するポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0009】
ここで、前記官能基としては、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、および、シラン基から選択された1種または2種以上であることが好ましい。そして、前記官能基を有するポリプロピレン樹脂は、該官能基を有するポリプロピレン樹脂を除く成分100質量部に対し10〜30質量部配合されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る絶縁電線は、上記本発明に係る難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体が導体の周囲に形成されていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂が弾性率2000MPa以上のポリオレフィン系樹脂2種以上からなり、このうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下であることにより、金属水和物を主成分とする難燃剤を含有していても、耐寒性および耐摩耗性に優れる。
【0012】
ここで、さらに、ベース樹脂が、MFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂を含有し、これとMFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂との差が5g/10min以上である場合には、より一層、耐摩耗性に優れる。これは、ポリオレフィン系樹脂どうしが相溶しにくくなる結果、組成物全体の硬さが平均化されにくくなるためと推察される。
【0013】
また、さらに、前記ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が官能基を有するポリプロピレン樹脂である場合には、例えば本発明に係る難燃性樹脂組成物を導体に被覆する場合には、導体との密着性が向上し、より一層、耐摩耗性と耐寒性とを向上させることができる。
【0014】
そして、本発明に係る絶縁電線によれば、本発明に係る難燃性樹脂組成物を用いているため、耐寒性および耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る難燃性樹脂組成物(以下、本組成物ということがある。)は、難燃剤とベース樹脂とを含有するものから構成される。本組成物には、上記成分以外に、耐寒性や耐摩耗性等の物性を損なわない範囲で、必要に応じて、他の添加剤を適宜配合することができる。他の添加剤としては、酸化防止剤や充填剤、顔料等が挙げられる。
【0016】
ベース樹脂としては、塩素、臭素等のハロゲン元素を含まない所謂ノンハロゲン系のプラスチック又はゴムが用いられる。このようなベース樹脂として好ましい材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA等が挙げられる。ベース樹脂は、コストが低減できるなどの観点から、官能基を有さない樹脂が好ましい。
【0017】
ベース樹脂は、異なる種類のポリオレフィン系樹脂2種以上を組み合わせてなるものである。ベース樹脂を構成する2種以上のポリオレフィン系樹脂は、それぞれ弾性率2000MPa以上のものである。さらに、2種以上のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも1種以上のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下である。このような構成とすることにより、本組成物において優れた耐寒性と耐摩耗性とが得られる。弾性率は、JIS K7161に準拠して測定されるものである。また、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K6758に準拠して測定されるものである(温度230℃、荷重2.16Kg)。
【0018】
ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂の弾性率としては、より耐摩耗性の向上を図ることができるなどの観点から、より好ましくは2100MPa以上、さらに好ましくは2200MPa以上である。一方、弾性率の上限としては、低温特性(低温での巻き付け試験で絶縁電線に亀裂が入らないこと)に優れるなどの観点から、好ましくは4000MPa、より好ましくは3500MPa、さらに好ましくは3000MPaである。
【0019】
上記MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂においては、より好ましくはMFRが3g/10min以下、さらに好ましくはMFRが1g/10min以下であると良い。これにより、さらに耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0020】
ベース樹脂のメルトフローレイト(MFR)の下限は、本組成物の流動性が低下しやすく、成形しにくいなどの観点から、好ましくは、0.8g/10min、より好ましくは0.5g/10minである。
【0021】
ベース樹脂は、MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂以外に、MFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。この際、MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂とMFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂とのMFRの差が5g/10min以上であると、ポリオレフィン系樹脂どうしは相溶しにくくなる。これにより、異なるポリオレフィン系樹脂の弾性率が異なる場合において、組成物全体の硬さが平均化されにくくなるため、より弾性率の高いポリオレフィン系樹脂の特性が発揮されやすくなり、耐摩耗性の向上が期待できる。
【0022】
上記MFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂においては、より好ましくはMFRが10g/10min超、さらに好ましくはMFRが15g/10min超であると良い。これにより、MFRの差が大きくなりやすく、MFRの差が大きいほど、より弾性率の高いポリオレフィン系樹脂の特性が発揮されやすくなり、耐摩耗性の向上が期待できる。
【0023】
MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂とMFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂とのMFRの差は、より好ましくは7g/10min以上、さらに好ましくは10g/10min以上である。
【0024】
ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂は、官能基を有しているものであっても良いし、官能基を有していないものであっても良い。より好ましい場合としては、少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が官能基を有する場合である。官能基を有するポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。さらに、官能基を有するポリプロピレン樹脂は、MFRが5g/10min超であることが好ましい。
【0025】
上記官能基としては、例えば、カルボン酸基(カルボキシル基)、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを例示することができる。これらのうち、1種の官能基のみを有していても良いし、2種以上の官能基を有していても良い。ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂が官能基を有することにより、例えば本組成物を電線導体に被覆する場合には、被覆材と導体との密着性が向上する。これにより、低温においても、被覆材は導体から剥がれにくくなるため、耐寒性が向上する。また、被覆材表面に摩擦力(外力)が負荷された場合においても、被覆材と導体との界面は裂けにくくなるため、耐摩耗性も向上する。
【0026】
上記ポリオレフィン系樹脂に官能基を導入する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィン系樹脂にグラフト重合して、グラフト変性オレフィン重合体とする方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法等が挙げられる。
【0027】
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸、又はこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0029】
官能基としてヒドロキシル基を導入する化合物としては、具体的には、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
官能基としてアルケニル環状イミノエーテル基を導入する化合物としては、具体的には、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等が挙げられる。
【0032】
官能基としてシラン基を導入する化合物としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン等の不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0033】
官能基を有するポリオレフィン系樹脂の配合量は、本組成物中における該官能基を有するポリオレフィン系樹脂を除く成分100質量部に対し10〜30質量部であることが好ましい。配合量が10質量部未満では、絶縁電線の絶縁層とした場合に十分な耐摩耗性が得られないおそれがある。また、配合量が30質量部を超えると、絶縁電線の絶縁層とした場合に耐寒性が低下するおそれがある。より好ましい配合量は、本組成物中における該官能基を有するポリオレフィン系樹脂を除く成分100質量部に対し12〜28質量部であり、さらに好ましくは15〜25質量部である。
【0034】
ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂の(重量平均)分子量は、1000〜1000000の範囲内にあることが好ましい。分子量が1000未満では、耐摩耗性の向上効果が低下するおそれがある。一方、分子量が1000000を超えると、加工性が悪くなるおそれがある。
【0035】
難燃剤は、金属水和物を主成分とするものである。金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを例示することができる。より好ましくは、水酸化マグネシウムである。水酸化マグネシウムとしては、天然鉱物を粉砕した天然品であっても良いし、海水から合成して得られる合成品であっても良い。
【0036】
難燃剤の粒径は、平均粒径で0.1〜20μm、好ましくは0.2〜10μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。難燃剤の平均粒径が0.1μm未満では、二次凝集が起り易く、機械的特性が低下しやすい。また難燃剤の平均粒径が20μmを超えると、絶縁電線の絶縁層に用いた場合に、絶縁層の外観不良となるおそれがある。
【0037】
難燃剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対し、通常、30〜250質量部の範囲であれば、自動車等の絶縁電線に要求される難燃性が得られる。好ましい難燃剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対し、50〜200質量部であり、さらに好ましくは60〜180質量部である。
【0038】
難燃剤は、表面が表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、もししくは相互共重合体、あるいはそれらの混合物等が用いられる。また上記の表面処理剤は変性されていてもよい。
【0039】
難燃剤の表面処理剤の変性は、例えば、不飽和カルボン酸やその誘導体等を変性剤として用い、上記のαオレフィン重合体等の重合体にカルボキシル基(酸)を導入して酸変性する方法が挙げられる。上記変性剤としては具体的には、不飽和カルボン酸としてはマレイン酸、フマル酸等が挙げられ、その誘導体としては無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等が挙げられる。変性剤としては、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。またこれらの変性剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。表面処理剤に酸を導入する酸変性方法としては、グラフト重合や直接法等が挙げられる。また、酸変性量としては、変性剤の使用量として、通常、重合体に対して0.1〜20質量%程度であり、好ましくは0.2〜10質量%、更に好ましくは0.2〜5質量%である。
【0040】
難燃剤を表面処理剤で処理する際の表面処理方法は特に限定されず、各種処理方法を用いることができる。難燃剤の表面処理方法としては、例えば、難燃剤の粉砕と同時に行う方法や、予め粉砕した難燃剤と表面処理剤を混合して後から処理する方法が挙げられる。また、処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理方法、溶媒を用いない乾式処理方法のいずれでもよい。
【0041】
難燃剤の湿式処理に用いられる溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素等が用いられる。また、難燃剤の表面処理は、難燃性樹脂組成物の調製時に、難燃剤と樹脂等に表面処理剤を加えて組成物を混練する際に同時に処理を行う方法でもよい。
【0042】
上記難燃性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。難燃性樹脂組成物は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸混練押出機、ロール等の通常の混練機で溶融混練して均一に分散することで製造することができる。
【0043】
難燃性樹脂組成物は、自動車、電子・電気機器に使用される部材や絶縁材料に利用することができ、特に絶縁電線の絶縁層の形成材料として好適に用いられる。
【0044】
本発明の絶縁電線は、通常の絶縁電線の製造に用いられる電線押出成形機等を用いて、上記の難燃性樹脂組成物を導体の周囲に押し出して導体を被覆することで、難燃性樹脂組成物を用いた絶縁層が導体の周囲に形成されているものである。絶縁電線に用いられる導体は、通常の絶縁電線に使用されるものが利用できる。また絶縁電線の導体の径や絶縁層の厚み等は、特に限定されず、絶縁電線の用途などに応じて適宜決めることができる。絶縁層は、単層であっても、2層以上の複数層から構成しても、いずれでもよい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
ベース樹脂として、官能基が導入されていないポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、商品名「FL6H」、MFR=3.0g/10min、弾性率2600MPa)30質量部と、官能基が導入されていないポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、商品名「MA3AHTA」、MFR=12g/10min、弾性率2400MPa)20質量部とを用い、ベース樹脂と、水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名「キスマ5A」)49質量部と、酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」)1質量部とを、二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して難燃性樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを押出成形機により軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積:0.5mm)の外周に0.2mm厚で押出して、難燃性樹脂組成物からなる絶縁層により導体が被覆された絶縁電線を得た。
【0047】
(実施例2〜8、比較例1〜7)
実施例1のベース樹脂を、表1の成分組成の欄に示すポリオレフィン系樹脂の組み合わせからなるベース樹脂とした以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を製造した。
【0048】
実施例及び比較例で得られた絶縁電線を用いて、耐寒性試験及び耐摩耗性試験を行った。試験の結果を表1に示す。耐寒性試験方法及び耐摩耗性試験方法は下記の通りである。
【0049】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3005に準拠して行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とし、試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0050】
〔耐摩耗性試験方法〕
社団法人自動車技術規格「JASO D611−94」に準拠して、ブレード往復法により試験を行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。そして、23±5℃の室温下で試験片の被覆材(絶縁層)に対し軸方向に10mm以上の長さでブレードを毎分50回の速さで往復させ、導体に接するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。回数については400回以上のものを合格(◎)、200回以上400回未満のものを合格(○)、200回未満のものを不合格(×)とした。
【0051】
【表1】

【0052】
・FL6H:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR3.0g/10min、弾性率2600MPa
・FY6C:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR2.4g/10min、弾性率2100MPa
・EA9BT:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR0.5g/10min、弾性率2200MPa
・EC7:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR0.5g/10min、弾性率1200MPa
・MA3H:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR10g/10min、弾性率2000MPa
・CL0785:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR30g/10min、弾性率2800MPa
・J106MG:プライムポリマー社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR15g/10min、弾性率2050MPa
・J108M:プライムポリマー社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR45g/10min、弾性率2000MPa
・MA3AHTA:日本ポリプロ社製、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR12g/10min、弾性率2400MPa
・ポリオレフィン系樹脂<1>:合成品、官能基を有しないポリプロピレン樹脂、MFR4.5g/10min、弾性率2200MPa
・AT2377:三井化学社製、酸無水物基を有するポリプロピレン樹脂、MFR20g/10min、弾性率2200MPa
・水酸化マグネシウム:協和化学工業社製、商品名「キスマ5A」
・酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」
【0053】
表1に示すように、実施例1〜8は、耐寒性が−20〜−30℃と良好であり、耐摩耗性が合格であった。特に、官能基を有するポリオレフィン系樹脂を含有する場合には、より一層、耐摩耗性に優れることが確認できた。これに対し、比較例1は、ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも1つのポリオレフィン系樹脂の弾性率が2000MPa未満であり、耐摩耗性は不合格であった。また、比較例2〜7は、ベース樹脂においてMFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂がなく、実施例と比較して耐寒性に劣っており、耐摩耗性も不合格であった。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水和物を主成分とする難燃剤とベース樹脂とを含有する難燃性樹脂組成物であって、
前記ベース樹脂は、弾性率2000MPa以上のポリオレフィン系樹脂2種以上からなり、このうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が5g/10min超のポリオレフィン系樹脂を含有していることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂と前記メルトフローレイト(MFR)が5g/10min超のポリオレフィン系樹脂とのメルトフローレイト(MFR)の差が5g/10min以上であることを特徴とする請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が官能基を有するポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記官能基は、カルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、および、シラン基から選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記官能基を有するポリプロピレン樹脂は、該官能基を有するポリプロピレン樹脂を除く成分100質量部に対し10〜30質量部配合されていることを特徴とする請求項4または5に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を用いた絶縁体が導体の周囲に形成されていることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2010−174226(P2010−174226A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21763(P2009−21763)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】