説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

難燃性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂100重量部;(B)昇華性充填剤(Sublimational filler)約1〜40重量部;(C)難燃剤約1〜30重量部を含む。前記熱可塑性樹脂組成物は、従来の充填剤の添加による高比重化及び難燃性低下という問題を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、熱可塑性樹脂に高温で昇華する昇華性物質を充填剤として添加することによって、従来の充填剤添加による高比重化及び難燃性低下問題が解消できる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に熱可塑性樹脂は、加工性及び機械的性質に優れていて電子製品をはじめ様々な製品に広く適用されている。このような熱可塑性樹脂のうちの一部は、使用中の火災の危険性を減少させるために、難燃剤を添加して難燃樹脂として用いられてきた。最も多く適用されている一般的な難燃化方法は、熱可塑性樹脂に難燃剤としてハロゲン系化合物又は燐系化合物を添加することである。しかしながら、難燃剤自体は十分な難燃性を付与できないので、難燃剤は、難燃補助剤とともに用いられる。例えば、難燃性を付与するために、臭素系化合物はアンチモン系化合物とともに用いることができるし、燐系化合物はポリカーボネート樹脂又はポリフェニレンエーテル樹脂等のチャー(char)形成剤とともに用いることができる。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂の原料費を節減し、加工性を向上させるために、充填剤も添加される。一般的に熱可塑性樹脂の充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。しかしながら、充填剤は比重が高いため、充填剤の添加は、組成物の比重、体積あたりの重量、そして最終的に成形物の重量を増加させることになる。したがって、充填剤添加は、充填剤によるコスト削減効果を著しく損なう可能性がある。
【0004】
また、充填剤を樹脂に添加する場合、難燃性が著しく減少して、難燃樹脂中で所望の難燃性を確保することが難しくなる。
【0005】
よって、本発明者らは、難燃性樹脂への充填剤添加によって生じる高比重化及び難燃性低下を抑制するために、高温で昇華する低比重の昇華性充填剤を添加して、低比重で難燃性に優れた難燃性樹脂組成物を開発してきた。
【発明の概要】
【0006】
技術的課題
本発明の目的は、火に対して安定性があり難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、難燃性樹脂への充填剤添加によって生じる高比重化及び難燃性低下を抑制するために、高温で昇華する昇華性充填剤を添加することによって、低比重の熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、低比重であり耐衝撃性及び難燃性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、加工性を向上させることができ、原料コストを節減できる難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、上記難燃性熱可塑性樹脂組成物を利用して優れた難燃性及び低比重を有する成形品を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、高温で昇華する充填剤を添加して難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、昇華性充填剤を用いて難燃性を改善する方法を提供することである。
【0013】
本発明のその他の目的および利点は、以下の開示および添付の特許請求の範囲から明白であろう。
【0014】
技術的解決方法
本発明の一実施形態は、難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂100重量部と、(B)昇華性充填剤約1〜40重量部と、(C)難燃剤約1〜30重量部とを含んでなる。
【0015】
本発明の実施形態では、熱可塑性樹脂(A)としては、芳香族ビニル系樹脂、ゴム変性芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。本発明の一実施形態では、熱可塑性樹脂(A)は、芳香族ビニル系樹脂約50〜90重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂約10〜50重量%を含む。
【0016】
昇華性充填剤(B)としては、昇華温度が約200〜500℃のものを用いることができる。また、昇華性充填剤(B)としては、平均粒径が約1〜150μmで、そのうち全体積分率の90%が約1〜20μmの平均粒径であるものを用いることができる。
【0017】
昇華性充填剤(B)としては、テレフタル酸、イソフタル酸又はこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
難燃剤(C)は、燐系難燃剤でありうる。燐系難燃剤の例としては、赤燐、リン酸塩(ホスフェート)、ホスホン酸塩(ホスホネート)、ホスフィン酸塩(ホスフィネート)、ホスフィンオキシド、ホスファゼン及びこれらの金属塩などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0019】
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤でありうる。ハロゲン系難燃剤の例としては、デカブロモジフェニルオキシド、デカブロモジフェニルエタン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−エポキシオリゴマー、臭素化エポキシオリゴマー、オクタブロモトリメチルフェニルホスフェート、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、1,2,3,4,7,8,9,10,13,13,14−ドデカクロロ−1,4,4a,5,6,6a,7,10,10a,11,12,12a−ドデカヒドロ−1,4,7,10−ジメタノジベンゾ(a,e)シクロオクテンなどが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0020】
本発明の実施形態では、難燃性樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤と共に酸化アンチモンをさらに含むことができる。酸化アンチモンは、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜10重量部で用いることができる。本発明の他の実施形態では、熱可塑性樹脂組成物は、燐系難燃剤と共に酸化アンチモンをさらに含むことができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、難燃補助剤、可塑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、離型剤、滑剤、衝撃改質剤、カップリング剤、帯電防止剤、分散剤、耐候安定剤、顔料、染料、無機充填剤等の他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0022】
本発明の他の実施形態は、該熱可塑性樹脂組成物用いて製造される成形品を提供する。成形品は、難燃性熱可塑性樹脂組成物を押出して製造される。成形品は、ASTM D792基準で測定した比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0でありうる。本発明の他の実施形態では、成形品は、ASTM D256基準に従って23℃、厚さ1/8″で測定したアイゾット衝撃力が約6.8〜約15kgf・cm/cmであり、ASTM D792に従って測定した比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0でありうる。
【0023】
本発明の他の実施形態は、難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。上記方法は、熱可塑性樹脂100重量部、昇華性充填剤約1〜40重量部及び難燃剤約1〜30重量部を含む熱可塑性樹脂組成物を約120〜280℃で押出する段階を含む。
【0024】
本発明の他の実施形態は、昇華温度が約200〜500℃の昇華性充填剤を、熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む難燃性樹脂に加えて難燃性を向上させる方法を提供する。
【0025】
本発明を、下記の発明の詳細な説明中で詳述する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明を実施するための最良の形態
(A)熱可塑性樹脂
本発明で用いられるのに適した熱可塑性樹脂としては、熱可塑性を有するすべての樹脂を用いることができ、特に制限されるものではない。熱可塑性樹脂の例としては、制限されるものではないが、芳香族ビニル系樹脂、ゴム変性芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が約10,000以上の高分子を含むことができる。
【0028】
芳香族ビニル系樹脂としては、芳香族ビニル系モノマーのホモポリマー又は芳香族ビニル系モノマー及びゴム質重合体のゴム変性芳香族ビニル系樹脂が挙げられる。ゴム変性芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル系モノマーとゴム質重合体とを重合させて製造されることができる。ゴム質重合体の例としては、限定されるものではないが、ブタジエンゴム類、イソプレンゴム類、スチレン/ブタジエンゴム類、アルキルアクリレート等のアクリル系ゴム類、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム類、シリコン系ゴムなどが挙げられる。ゴム質重合体は、単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。また、ゴム質重合体は、粒子の大きさが約0.1〜約4.0μmでありうる。ゴム質重合体は、約3〜30重量%、好ましくは約5〜15重量%で用いることができる。
【0029】
芳香族ビニル系モノマーは、約70〜97重量%、好ましくは約85〜95重量%で用いることができる。芳香族ビニル系モノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0030】
また、芳香族ビニル系モノマーと共重合可能な他の単量体を用いることもできる。芳香族ビニル系モノマーと共重合可能な単量体の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド及びエポキシ基含有単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。共重合可能な単量体の添加される量は、芳香族ビニル系樹脂全体に対して約40重量%以下、好ましくは約0.01〜40重量%であり、より好ましくは約0.1〜25重量%である。
【0031】
本発明の実施形態では、芳香族ビニル系樹脂の例としては、GPPS、sPS、HIPS、ABS、ASA、SAN、MSAN及びMABSなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0032】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、難燃性及び耐熱性を向上させるために添加されることができる。ポリフェニレンエーテル系樹脂の例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体、及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリ(2,3,5−トリエチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの重合度は特に制限されるものではないが、樹脂組成物の熱安定性や作業性を考慮して、25℃のクロロホルム溶液で測定された固有粘度が約0.2〜0.8であることが好ましい。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が約10,000〜200,000のポリカーボネート樹脂を用いることができる。ポリカーボネート樹脂としては、1種のジハイドリックフェノール系化合物を用いた単一重合体や2種以上のジハイドリックフェノール系化合物を用いた共重合体又はこれらの混合物を用いることができる。また、線状ポリカーボネート樹脂、分岐型ポリカーボネート樹脂又はポリエステルカーボネート共重合体樹脂を用いることができる。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のテレフタル酸エステル樹脂も用いることができる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂としては、メタクリレート系樹脂を用いることができる。メタクリレート系樹脂は、メチルメタクリレート(MMA)約50〜100重量%及び単官能性不飽和単量体約0〜50重量%の共重合体である。単官能性不飽和単量体の例としては、共重合可能な単量体であり、特に制限されるものではないが、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、及びグリシジルメタクリレートのようなメタクリレートモノマー類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、及び2−エチルへキシルアクリレートのようなアクリレートモノマー類;メタクリル酸のような不飽和カルボン酸モノマー類、無水マレイン酸のような酸無水物、ならびにスチレン、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルのような一官能性ビニル基含有単量体などを用いることができる。これらの単量体は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0036】
本発明の他の実施形態では、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリオレフィンは、グリシジル基または(メタ)アクリレート基で変性されたものとして用いることもできる。ポリエチレンは、HDPE、LDPE,LLDPEなどのいずれの形態も可能であり、アタクチック、シンジオタクチック、イソタクチックなどのいずれの構造も用いることができる。ポリオレフィンは、他のエチレン性不飽和基を有するモノマーと共重合していてもよい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂は、上記樹脂に限定されるものではなく、単独で又は2種以上ブレンドしてアロイ形態としても適用されることができる。本発明の一実施形態では、熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル系樹脂約50〜90重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂約10〜50重量%を含む。本発明の他の実施形態では、熱可塑性樹脂は、ゴム変性芳香族ビニル系樹脂約50〜90重量%及びポリフェニレンエーテル樹脂約10〜50重量%を含む。本発明のさらに他の実施形態では、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート系樹脂約60〜90重量%及びゴム変性芳香族ビニル系樹脂約10〜40重量%を含む。本発明のさらに他の実施形態では、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート系樹脂約55〜90重量%及びメタクリレート系樹脂約10〜45重量%を含む。
【0038】
(B)昇華性充填剤
昇華性充填剤は、高温で昇華し、燃焼時に発生する燃焼熱を吸収するが、さもなくば、燃焼による樹脂の分解後に燃焼熱により、生成物が生ずる。この特性が、良好な難燃性をもたらす。昇華性充填剤は、温度が上昇するにつれ、固体から液体、次いで気体に相変化する一般的な物質と異なり、固体から気体に直ちに相変化するので、昇華性充填剤は、相変化の間に多くの量の熱を吸収することができる。
【0039】
一般的に、昇華性を有する物質としては、ドライアイス、ヨード、ナフタリン、ベンゾ酸、イソフタル酸、テレフタル酸などがある。これらの中で、昇華温度の低い昇華性物質は、常温及び高分子の製造工程中に昇華するので、難燃樹脂に適用することは難しい。したがって、本発明では昇華温度が約200℃以上の物質、好ましくは昇華温度が約210〜500℃、より好ましくは約250〜500℃、最も好ましくは約290〜500℃の昇華温度を有する物質を用いることができる。本発明の実施形態では、昇華性充填剤として、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0040】
本発明の実施形態では、昇華温度約300℃、昇華熱約139kJ/mol、溶融温度約450℃を有するテレフタル酸を用いることができる。テレフタル酸は、昇華温度が約300℃なので、テレフタル酸は、押出・射出のような製造工程中に安定した固体状態で樹脂に添加することができる。また、昇華性充填剤は、燃焼時には、約300℃の温度で約139kJ/molの熱を吸収することができる。一般的な燃焼工程において、燃焼熱は高分子樹脂を分解する燃料ガスを供給する役割を果たす。一方、燃焼熱を吸収することによって、テレフタル酸は燃焼できる燃料ガスが高分子樹脂を分解しないようにすることができる。テレフタル酸の昇華熱は、ポリオレフィン系難燃剤として広く用いられ、吸収熱が約298kJ/molのアルミニウムヒドロキシドの吸収熱の約2分の1である。また、テレフタル酸の昇華温度はアルミニウムヒドロキシドの分解温度である約180〜200℃より高いことから、押出・射出のような製造工程を行っても良好な外観を得ることができ、加工温度の高い製品にも適用可能である。
【0041】
本発明で用いる昇華性充填剤は、平均粒径が約1〜150μm、好ましくは約1〜50μm、より好ましくは約1〜20μm、最も好ましくは約1〜10μmである。本発明の実施形態では、体積分率90%が約1〜120μm、約1〜100μm又は約1〜95μmの粒径を有することができる。本発明の他の実施形態では、体積分率の90%が約1〜20μm、約1〜15μm又は約1〜13μmの粒径を有することができる。
【0042】
本発明において、昇華性充填剤(B)は、熱可塑性樹脂100重量部に対して約1〜40重量部、好ましくは約3〜30重量部、より好ましくは約3〜20重量部、最も好ましくは約3〜15重量部である。昇華性充填剤の量が約1重量部未満の場合、燃焼熱の吸収効果が落ち、昇華性充填剤の量が約40重量部を超過する場合、機械的物性が低下する場合がある。
【0043】
(C)難燃剤
本発明の一実施形態では、難燃剤として燐系難燃剤を用いることができる。燐系難燃剤の例としては、限定されるものではないが、赤燐、リン酸塩(ホスフェート)、ホスホン酸塩(ホスホネート)、ホスフィン酸塩(ホスフィネート)、ホスフィンオキシド、ホスファゼン及びこれらの金属塩などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上混合して適用されることができる。
【0044】
本発明の一実施形態では、燐系難燃剤としてホスフェートを用いることができる。ホスフェートは、下記化学式1で表示される芳香族燐酸エステル化合物である。
【0045】
【化1】

【0046】
上記で、R、R及びRは独立して水素又はC−Cのアルキル基であり、Xはレゾルシノール、ヒドロキノール及びビスフェノール−A由来の、C−C20のアリール基又はアルキル置換C−C20のアリール基であり、nは約0〜4である。
【0047】
nが0の場合、上記化学式1に該当する化合物の例としては、トリフェニルホスフェート、トリ(2,6−ジメチル)ホスフェートなどがある。nが1の場合、化合物としては、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノールビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノールビス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。これらの芳香族燐酸エステル化合物は、単独で又はそれぞれの混合物として適用することができる。
【0048】
本発明の他の実施形態では、難燃剤として、ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤や塩素系難燃剤がある。好ましくは所望の機械的物性及び難燃性を考慮して、臭素又は塩素含量が50%以上のハロゲン系難燃剤が用いられる。ハロゲン系難燃剤の例としては、デカブロモジフェニルオキシド、デカブロモジフェニルエタン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−エポキシオリゴマー、臭素化エポキシオリゴマー、オクタブロモトリメチルフェニルホスフェート、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、1,2,3,4,7,8,9,10,13,13,14−ドデカクロロ−1,4,4a,5,6,6a,7,10,10a,11,12,12a−ドデカヒドロ−1,4,7,10−ジメタノジベンゾ(a,e)シクロオクテンなどがある。これらは単独で又は混合して適用することができる。
【0049】
本発明の難燃剤は、約1〜30重量部、好ましくは約5〜27重量部、より好ましくは約10〜25重量部を用いることができる。約30重量部を超過する場合、衝撃強度が落ちる場合がある。
【0050】
本発明のさらに他の実施形態では、難燃剤と共に難燃補助剤を用いることができる。一実施形態では、ハロゲン系難燃剤とともに難燃補助剤として酸化アンチモンを用いることができる。本発明の他の実施形態では、燐系難燃剤と共に酸化アンチモンを適用することができる。酸化アンチモンとしては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン又はこれらの混合物が挙げられる。本発明の一実施形態では、酸化アンチモンとしては、アンチモン含量が約75〜90重量%含まれたものを用いることができる。三酸化アンチモンの場合、50%粒度が0.01〜6μm、好ましくは0.02〜3.0μmのものを用いることができ、五酸化アンチモンの場合、50%粒度が0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μmのものを用いることができる。酸化アンチモンは、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜10重量部、好ましくは2.5〜7重量部で用いることができる。酸化アンチモンの量が10重量部を超えると、樹脂の物性均衡が損なわれる場合がある。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、可塑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、離型剤、滑剤、衝撃補強剤、カップリング剤、帯電防止剤、分散剤、耐候安定剤、顔料、染料、無機充填剤等の他の添加剤をさらに含むことができる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。添加剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して約0.01〜30重量部の量で用いることができる。無機充填剤の例としては、限定されるものではないが、ガラス繊維、タルク、セラミック及び硫酸塩などが挙げられる。
【0052】
本発明の他の実施形態は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。製造方法は、熱可塑性樹脂100重量部、昇華性充填剤約1〜40重量部及び難燃剤約1〜30重量部を含む熱可塑性樹脂組成物を約120〜280℃で押出する段階を含んでなる。一実施形態では、熱可塑性樹脂の押出は、約150〜280℃で行う。本発明の他の実施形態では、押出は約180〜250℃で行うことができる。好ましくは、押出は、昇華性充填剤の昇華温度より低い温度で行うことができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、前記構成成分と選択した添加剤とをミキサー中で同時に混合した後、従来の押出機内で混合物を溶融押出することによって、ペレット状に製造することができる。樹脂ペレットは、押出成形、射出成形、真空成形、キャスティング成形等の成形方法を用いて様々な成形品に成型される。
【0054】
本発明の他の実施形態では、樹脂組成物から製造された成形品を提供する。一実施形態では、成形品は、ASTM D792基準で測定した比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−1又はV−0である。他の実施形態では、ASTM D792基準で測定した比重が約1.1〜1.3であり、UL94 VBに従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0である。他の実施形態では、成形品は、ASTM D256基準で厚さ1/8″で測定した衝撃強度が約6.8〜15kgf・cm/cmであり、比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0でありうる。
【0055】
本発明に係る成形品は、機械的物性、難燃性、加工性に優れ、比重が低いので、小さいな日用品および身の回り品/アメニティのみでなく自動車精密部品、構造材、インテリア品、TV筐体、コンピューター、オーディオセット、エアコン等の電気電子製品、OA機器筐体などに適している。
【0056】
本発明は下記実施例によってさらによく理解されることができるが、下記実施例は本発明の例示目的のためのものであり、添付された特許請求の範囲によって規定される保護範囲を制限しようとするものではない。
【実施例】
【0057】
燐系難燃剤の適用
実施例1〜12及び比較例1〜3で用いた成分の仕様を、以下に詳述する。
【0058】
(A)熱可塑性樹脂
(a1)HIPS:韓国のCheil Industries社製のHIPS樹脂(商品名:HG−1760S)を用いた。
【0059】
(a2)ABS:韓国のCheil Industries社製のg−Aa2Sを用いた。
【0060】
(a3)ポリフェニレンエーテル樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製のポリ(2,6−ジメチル−フェニルエーテル)(商品名:PX−100F)を用いた。
【0061】
(a4)ポリカーボネート樹脂:日本のTEIJIN社製の重量平均分子量が25,000g/molであり、ビスフェノール−A型線状ポリカーボネート樹脂(PANLITE L−1250WP)を用いた。
【0062】
(a5)PMMA樹脂:韓国のLG Chem社製のPMMA IH 830を用いた。
【0063】
(B)昇華性充填剤:韓国のSK Chemical社の平均粒径50μmの精製テレフタル酸(Purified Terephthalic Acid)を粉砕した平均粒度3μmの製品を用いた。
【0064】
(C)燐系難燃剤:日本の大八化学社製のビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート(商品名:CR741S)を用いた。
【0065】
実施例1〜9
表1に示される成分を通常のミキサーで混合し、混合物を通常の二軸押出機で200〜280℃の温度範囲でペレット状に押出した。次いで樹脂ペレットを80℃で2時間乾燥させた後、10Oz射出成形機を用いて、バレル温度40〜80℃の条件で180〜260℃で物性および難燃性評価用の試験片に成形した。その後、試験片について、UL94 VB規定に従って厚さ1/12″で難燃度を測定し、比重はASTM D792基準で測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
比較例1〜3
比較例1は昇華性充填剤を添加しないことを除いては実施例1と同様に行ったものである。比較例2は昇華性充填剤を添加しないことを除いては実施例4と同様に行ったものである。比較例3は昇華性充填剤を添加しないことを除いては実施例7と同様に行ったものである。物性の結果ならびに実施例及び比較例の成分の添加量は、表2,3及び4に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表1〜4の結果から、昇華性充填剤を添加した場合、低比重でありながら難燃性に優れていることが分かる。
【0072】
実施例10〜12
実施例10〜12は、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン、ポリアミド及びポリエチレンテレフタレートをそれぞれ100重量部で用いたことを除いて、実施例1と同様に行った。V−1以上の難燃度及び比重が1.1〜1.5の範囲にあることを確認した。
【0073】
ハロゲン系難燃剤の適用
実施例1〜12及び比較例1〜3で用いた各成分は、次のようである。
【0074】
(A)熱可塑性樹脂
(a1)HIPS−1:韓国のCheil Industries社製のHIPS(商品名:HG1760S)を用いた。
【0075】
(a2)HIPS−2:韓国のCheil Industries社製のHIPS(商品名:HG1690H)を用いた。
【0076】
(a3)ABS:韓国のCheil Industries社製のABS(商品名:HR5330)を用いた。
【0077】
(B)昇華性充填剤
F−1:SK Chemicals社製の、平均粒径が50μmの精製テレフタル酸(Purified Terephthalic Acid)を用いた。
【0078】
F−2:F−2は、F−1を平均粒径5μmに粉砕することによって得た。
【0079】
用いられた精製テレフタル酸の粒度分布を下記表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
F−3:タルク、UPN HS−T 0.5(Hayashi社製)
F−4:炭酸カルシウム、OMYA BSH(OMYA GmbH社製)
F−5:マイカ、MICA 20−S(SUZORITE MICA社製)
F−6:硫酸バリウム、BALIUM SULFATE(日本ソルベイ社製)
(C)ハロゲン化合物
HF−1:デカブロモジフェニルエタン
HF−2:2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン
HF−3:臭素化エポキシオリゴマー、Non−Capping型(Kukdo chemical社、商品名:YDB−406)
HF−4:臭素化エポキシオリゴマー、Capping型(Kukdo chemical社、商品名:KB−560)
(D)酸化アンチモン
Ilsung社製のANTIS N、三酸化アンチモンを用いた。
【0082】
実施例13〜20及び比較例4〜12
上記した(A)熱可塑性樹脂、(B)昇華性充填剤、(C)ハロゲン化合物及び(D)酸化アンチモンを表6及び7に記載の含量で混ぜ、混合物を通常の二軸押出機で190〜230℃の温度範囲でペッレト状に押出した。次いで、樹脂ペレットを70℃で3時間乾燥した後、6Oz射出成形機を用いて、バレル温度30〜50℃の条件で180〜220℃で、物性及び難燃性評価用の試験サンプルに成形した。
【0083】
その後、試験サンプルの難燃性をUL94 VB規格に従ってサンプル厚さ1/12″で測定し、衝撃強度をASTM D256(厚さ1/8″、切り欠き(notched)、kgf・cm/cm)に従って測定し、比重をASTM D792に従って測定した。その結果を下記表6及び7に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
表6及び7に記載されたように、難燃性熱可塑性樹脂に昇華温度の高い昇華性充填剤を添加した場合、優れた難燃性を維持しながら、既存の充填剤を添加する場合の問題点である高比重化の問題点が解決できる難燃性熱可塑性樹脂組成物が得られることが確認できた。
【0087】
上記のように、具体的な好ましい実施形態に基づいて本発明を説明したが、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の思想および範囲から逸脱することなく、多様な変更および改変を加えることができることは、当業者にとって明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂100重量部、(B)昇華性充填剤約1〜40重量部、及び(C)難燃剤約1〜30重量部を含んでなる、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)は、芳香族ビニル系樹脂、ゴム変性芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記昇華性充填剤(B)は、昇華温度が約200〜500℃である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記昇華性充填剤(B)は、平均粒径が約1〜150μmであり、前記昇華性充填剤(B)の総体積分率の90%が約1〜20μmの平均粒径である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記昇華性充填剤(B)は、テレフタル酸、イソフタル酸又はこれらの混合物である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記難燃剤(C)は、燐系難燃剤である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃剤は、ハロゲン系難燃剤である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記燐系難燃剤は、赤燐、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィナート、ホスフィンオキシド、ホスファゼン、これらの金属塩及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1である、請求項6に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ハロゲン系難燃剤は、デカブロモジフェニルオキシド、デカブロモジフェニルエタン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA,テトラブロモビスフェノールA−エポキシオリゴマー、臭素化エポキシオリゴマー、オクタブロモトリメチルフェニルホスフェート、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、1,2,3,4,7,8,9,10,13,13,14−ドデカクロロ−1,4,4a,5,6,6a,7,10,10a,11,12,12a−ドデカヒドロ−1,4,7,10−ジメタノジベンゾ(a、e)シクロオクテン及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1である、請求項7に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
酸化アンチモン1〜10重量部をさらに含む、請求項7に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記ホスフェートは、下記化学式1:
【化1】

この際、R、R及びRは独立して水素又はC−Cのアルキル基であり;Xは、レゾルシノール、ヒドロキノール、及びビスフェノール−A由来の、C−C20のアリール基又はアルキル基が置換されたC−C20のアリール基であり;nは約0〜4である:
で表示される、請求項8に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂組成物は、難燃補助剤、可塑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、離型剤、滑剤、衝撃補強剤、カップリング剤、帯電防止剤、分散剤、耐候安定剤、顔料、染料及び無機充填剤から選択される添加剤をさらに一つ以上含む、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
ASTM D792に従って測定した比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を押出して製造される成形品。
【請求項14】
ASTM D256に従って厚さ1/8″で測定したアイゾット衝撃力が約6.8〜15kgf・cm/cmであり、ASTM D792に従って測定した比重が約1.1〜1.5であり、UL94に従って厚さ1/12″で測定した難燃度がV−0である、請求項10に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を押出して製造される成形品。
【請求項15】
熱可塑性樹脂組成物を120〜280℃で押出する段階を含み、この際、前記熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部、昇華性充填剤約1〜40重量部及び難燃剤約1〜30重量部を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む難燃性樹脂に、昇華温度が約200〜500℃の昇華性充填剤を添加することによって、難燃性を向上させる方法。

【公表番号】特表2011−508044(P2011−508044A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540551(P2010−540551)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005906
【国際公開番号】WO2009/084800
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】