説明

難燃性積層体およびそれを用いたフレキシブルフラットケーブル

【課題】ハロゲン系化合物等を含有せず、難燃性、機械特性、表面特性に優れた難燃性積層体およびフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が30℃以下であり、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下であるポリエステル系樹脂(A)とメラミンとの混合物を主成分とするA層の少なくとも1表面上に、B層を有する積層体であり、A層の全質量におけるメラミンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする難燃性積層体および当該難燃性積層体を含むフレキシブルフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、機械特性、表面特性に優れた難燃性積層体に関するものである。具体的には、フレキシブルフラットケーブル、電気絶縁材、メンブレンスイッチ回路印刷基材、複写機内部部材、面状発熱体基材、FPC(フレキシブルプリントサーキット)補強板等に好適に使用可能な難燃性積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABSなどの汎用プラスチックは燃焼しやすいため、難燃性を付与するために主としてハロゲン系、特に臭素系化合物が使用されてきた。しかし、ハロゲン系化合物からは燃焼時にダイオキシン類のような有害ガスが発生する場合があり、廃棄物焼却処理やサーマルリサイクルの際の安全性には課題がある。ハロゲン系化合物の代替としてはリン系化合物が挙げられるが、安全性や環境調和性が不十分で、更に成形性や耐熱性等の実用面に悪影響を与えるものがある。ポリエステル系樹脂に関しても、ハロゲン系、又はリン系化合物を配合することによる難燃化の手法が開示されているが(特許文献1及び2)、ハロゲン系難燃剤の安全性問題、および、リン系難燃剤によるポリエステル系樹脂の耐熱性低下等の問題がある。上記問題を解決するものとして非ハロゲン、非リンでの難燃化が近年検討されている。
【0003】
公知のものとしては、ポリエステル系樹脂を内層として、両外層にポリアミド酸からなるイミド化率50%以上の耐熱性樹脂層を有する積層フィルムが開示されている(特許文献3、特許文献4)。しかしながら、ポリアミド酸からなるイミド化率50%以上の耐熱性樹脂層を最外層とした場合、耐熱性、難燃性は向上するものの、塗装性、インキ密着性等の表面特性が著しく損なわれる場合がある。
【0004】
また、耐熱性樹脂層を最外層とする積層フィルムを製造するためには、ポリアミド酸を溶媒中に分散させた溶液をポリエステル樹脂層に塗布、乾燥する必要があるため、溶媒による作業環境の汚染等が懸念される。
【0005】
また、ポリエステルフィルムの両面に非可燃性ガスを発生させる樹脂層が積層されたポリエステルフィルムに関する技術が開示されている(特許文献5)。しかしながら、前記ポリエステルフィルムでは、積層フィルムの表面に難燃化層を設置することにより難燃性は付与されるものの、引張強度、衝撃強度等に代表される機械強度の低下が生じるため、実用上十分な技術とは言い難いという問題点があった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本積層体は、ポリエステル系樹脂(A)とメラミンとの混合物を主成分とするA層とA層の少なくとも1表面上に、ポリエステル系樹脂(B)を主成分とするB層を有することを特徴とする。ここで、本発明でいう「表面上に」とは、A層表面上に、直にB層を設ける場合、及びA層表面上に単層または多層である他の層を設け、前記他の層上にB層を設けることを意味するものである。
【0013】
本積層体は、A層と少なくとも1表面上にB層を有する構成である。本積層体のA層は、主にポリエステル系樹脂(A)とメラミンから構成されており、B層は主にポリエステル系樹脂(B)で構成されている。尚、本発明でいう、「主成分」とは層の全質量に対して主成分の質量%が50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上のことをいう。
【0014】
本積層体は、ガラス転移温度が30℃以下であり、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下であるポリエステル系樹脂(A)とメラミンの混合物からなるA層の少なくとも1表面上に、B層形成してなる構成とすることを特徴とする。A層は優れた難燃性を有するため、特に難燃剤を含有しないB層を片側または両側に積層した場合においても、積層体全体として優れた難燃性を発現することが可能である。
【0015】
難燃剤を含有しないB層としては特に限定されないが、耐熱性、機械特性、表面特性を付与する目的であれば、ポリエステル系樹脂(B)を用いることが好ましい。また、さらに他の材料との接着性を向上し、粘着テープ等の用途へ用いる目的であれば、ゴム系、アクリル系、ビニルエーテル系等の溶剤型、あるいは、エマルジョン型の粘着剤を用いることが好ましい。
【0016】
<ポリエステル系樹脂(A)>
本積層体で使用されるポリエステル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が30℃以下であり、かつ結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下であることが重要である。この条件を満たすことにより、ポリエステル系樹脂(B)との接着性が良好であり、2次加工、及び、使用時における層間での剥離を生じることのない積層体を提供することができる。また、本発明におけるポリエステル系樹脂(A)は、単一の樹脂であっても、二種類以上の樹脂の混合物であってもよい。ポリエステル系樹脂(A)の具体例としては、多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる芳香族ポリエステル乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0017】
本積層体に用いるポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度は、30℃以下、好ましくは20℃以下であり、さらに好ましくは10℃以下である。かつ、本積層体に用いるポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmは、40J/g以下、好ましくは25J/g以下、さらに好ましくは、20J/g以下である。ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が30℃以下、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下であれば、成形時、二次加工時、及び、使用時において、ポリエステル系樹脂(B)との剥離という問題が発生しない。
尚、本積層体に用いるポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度の下限値、及び結晶融解熱量ΔHmの下限値は特に限定されるものではないが、前記ガラス転移温度が−100℃以上であり、結晶融解熱量ΔHmが0J/g以上であれば、全ての実用温度域において、ポリエステル系樹脂(B)との優れた接着強度が得られる。
【0018】
上記ポリエステル系樹脂(A)としては、ガラス転移温度が30℃以下であり、かつ結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下である脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、またはポリエステル系ホットメルト接着剤等を単独、または混合することによって使用することができる。
【0019】
前記多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる脂肪族、芳香族ポリエステルに用いられる多価カルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
また多価アルコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などが挙げられる。これらの多価アルコール成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
本積層体に用いる脂肪族ポリエステルとしては、コハク酸、1,4−ブタンジオール、及び、アジピン酸を重合して得られるポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体(三菱化学社製「GSPla(登録商標)」ADシリーズ、昭和高分子社製「ビオノーレ(登録商標)」#3000シリーズ)等が挙げられる。
【0022】
本積層体に用いる芳香族脂肪族ポリエステルとしては、アジピン酸、1,4―ブタンジオール、及び、テレフタル酸を重合して得られるポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体(BASF社製「エコフレックス(登録商標)」シリーズ、Eastman Chemicals社製の「Eastar Bio(登録商標)」シリーズ)等が挙げられる。
【0023】
上記脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、通常50,000以上、好ましくは80,000以上、さらに好ましくは100,000以上であり、芳香族脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は通常400,000以下、好ましくは300,000以下さらに好ましくは250,000以下である。芳香族脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が、50,000以上であれば、使用時における機械物性等の低下が発生せず、芳香族脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が、400,000以下である場合には、加工時における粘度が最適となり、積層体の厚み不良、あるいは、メラミンの分散不良という問題が発生しない。
【0024】
尚、上記重量平均分子量は、次の方法で測定を行なった。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、溶媒としてクロロホルムを使用し(溶液濃度0.2wt/vol%、溶液注入量200μl、溶媒流速1.0ml/分、溶媒温度40℃)て測定を行い、ポリスチレン換算で、ポリエステル系樹脂の重量平均分子量を算出した。用いた標準ポリスチレンの重量平均分子量は、2,000,000、430,000、110,000、35,000、10,000、4,000、600である。
【0025】
本積層体に用いるポリエステル系ホットメルト接着剤としては、二塩基酸とグリコールとの重縮合ポリマーであるポリエステル系ホットメルト樹脂を主成分として含有する樹脂組成物(東亞合成社製「アロンメルト(登録商標)PES120L、140H、111E、126E」、東洋紡績社性「バイロン(登録商標)」シリーズ)等が挙げられる。ポリエステル系ホットメルト接着剤の原料モノマーとして用いられる二塩基酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、グリコールの具体例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシレングリコール等が挙げられる。本積層体においては、アジピン酸や1,4−ブタンジオール等を分子骨格に含むポリエステル樹脂からなるホットメルト樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
上記ポリエステル系ホットメルト接着剤の数平均分子量は、通常10,000以上、好ましくは12,000以上、さらに好ましくは15,000以上であり数平均分子量は、50,000以下、好ましくは40,000以下、さらに好ましくは24,000以下である。ポリエステル系ホットメルト接着剤の質量平均分子量が10,000以上、50,000以下の範囲であれば、実用上十分な機械特性を有し、かつ、溶融粘度が適当であるために、成形加工に問題が発生する可能性が低い。
【0027】
<メラミン>
メラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)とは、有機化合物であり、構造の中心にトリアジン環を持つ有機窒素化合物の一種である。
【0028】
本積層体で使用するメラミンの平均粒径は、通常10μm以下、好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。メラミンの平均粒径を10μm以下とすることにより、本積層体の難燃性および機械強度を向上させることができる。尚、前記平均粒径は、メラミンを投影面積円相当径として計算した値である。
【0029】
また、表面処理を施したメラミンを使用することもできる。表面処理を施す場合の表面処理剤の具体例としては、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、高級脂肪酸等が挙げられる。これらの表面処理剤でメラミンを処理することによって、メラミンの分散性を向上し、本発明の積層体の難燃性をさらに向上することができる。
【0030】
前記した表面処理を施したメラミンを使用する場合には、表面処理を施したメラミンと表面処理を施していないメラミンとを混合して使用してもよいし、表面処理を施したメラミンのみで使用してもよい。表面処理を施したメラニンの含有率は、本積層体の全メラミン成分の質量に対して、通常1質量%以上、このましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、通常100質量%以下、このましくは80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。10質量%以上であれば、表面処理により優れた分散性を付与することができ、100質量%以下であれば機械物性の低下、粘度上昇という問題が発生しない。
【0031】
上記ポリエステル系樹脂(A)の全質量に対するメラミンの含有率は、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、80質量%以下、好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下であることがより好ましい。ポリエステル系樹脂(A)の全質量に対するメラミンの含有率が10質量%以上である場合には、十分な難燃性を付与することができる。一方、メラミンの含有率が80質量%以下である場合には、難燃性が無い層の機械物性が著しく低下しなく、積層体全体としての機械物性を損なうことがない。
【0032】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、メラミンと他の難燃剤、難燃助剤を併用しても構わない。他の難燃剤の具体例としては、リン酸エステル、リン酸エステルアミド、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ポリリン酸塩等のリン系化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物、酸化スズ水和物等の金属水酸化物が挙げられ、難燃助剤の具体例としては、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、硝酸鉄、硝酸銅、スルホン酸金属塩等の金属化合物、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、フッ素シリコーン等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が挙げられる。これらの難燃剤、難燃助剤を併用することで、本発明の積層体の難燃性をさらに向上することができる。
【0033】
<混合物>
本積層体のA層は、ポリエステル系樹脂Aとメラミンとの混合物を主成分としている。ポリエステル系樹脂Aとメラミンとの混合物は、前記した配合割合により構成され、単軸または2軸押出機により、押出すことにより混合物を作製し、A層を形成する。
【0034】
<B層>
本積層体を構成するB層は、特に限定されず、公知の層を構成することが可能な材料を使用することが可能である。例えば、熱可塑性樹脂、金属等が挙げられる。
【0035】
B層に使用する熱可塑性樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、またはポリメチルペンテンなどポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂は、A層との密着性および積層体の製造において好ましい。また、他の材料との接着性を向上させるために、B層としてゴム系、アクリル系、ビニルエーテル系等の溶剤型、あるいは、エマルジョン型の粘着剤を用いることもできる。
【0036】
B層に使用する金属としては、例えばアルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、又はプラチナ、チタン、タンタル、タングステンのいずれか1種または複数種を混合したものが挙げられる。
【0037】
<ポリエステル系樹脂(B)>
本積層体に用いるポリエステル系樹脂(B)としては、ガラス転移温度が50℃以上、かつ、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以上であることが好ましい。この条件を満たすことにより、優れた耐熱性を有する積層体を提供することができる。ポリエステル系樹脂(B)の具体例としては、多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる芳香族ポリエステル、乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0038】
本積層体に用いるポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度は、50℃以上、好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。かつ、本積層体に用いるポリエステル系樹脂(B)の結晶融解熱量ΔHmは、40J/g以上、好ましくは45J/g以上、さらに好ましくは、50J/g以上である。ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が50℃以上、かつ、結晶融解熱量ΔHmが、40J/g以上であれば、二次加工時、及び、使用時における、耐熱性不足という問題が発生しない。
尚、本積層体に用いるポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度の下限値、及び結晶融解熱量ΔHmの上限値は特に限定されるものではないが、前記ガラス転移温度が100℃以下であり、結晶融解熱量ΔHmが90J/g以下であれば、十分な耐熱性を備えた積層体が得られる。
【0039】
前記多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる脂肪族、芳香族ポリエステルに用いられる多価カルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
また多価アルコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などが挙げられる。これらの多価アルコール成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
前記多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とにより構成されるポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート等が挙げられる。この中でも特に耐熱性の点からポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。
【0042】
前記多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られるポリエステル系樹脂(B)の重量平均分子量は、通常30,000以上、好ましくは35,000以上、さらに好ましくは40,000以上であり、通常80,000以下、好ましくは75,000以下、さらに好ましくは70,000以下である。重量平均分子量が30,000以上であれば、適度な樹脂凝集力が得られ、積層体の強伸度が不足したり、脆化したりすることを抑えることができる。一方、重量平均分子量が80,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、製造、生産性向上の観点からは好ましい。
【0043】
本積層体に用いる乳酸系樹脂としては、構造単位がL乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL乳酸及びD乳酸である、ポリ(DL−乳酸)やこれらの混合体をいい、さらには、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。しかし、この時、D−乳酸の割合が0.1%以上、3.0%未満であることが重要であり、0.5%以上、2.0%未満であることがより好ましい。かかる範囲を下回る場合、生産性が悪く、かかる範囲を上回る場合、射出成形体の耐熱性が得られにくく用途が制限されることがある。乳酸系樹脂の代表的なものとしては、三井化学社製「レイシア」シリーズ、Nature Works社製「Nature Works」シリーズ等が挙げられる。
【0044】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0045】
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0046】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲、すなわち、乳酸系樹脂成分を90質量%以上含有する範囲で、少量共重合成分としてテレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用できる。
【0047】
乳酸系樹脂に共重合される上記の他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシn−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0048】
乳酸系樹脂に共重合される上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0049】
乳酸系樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲としては、50,000〜400,000、好ましくは100,000〜250,000であり、この範囲を下回る場合は実用物性がほとんど発現されず、上回る場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣る。
【0050】
本積層体の全層厚に対するA層の層厚の割合は、通常20%以上、好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であり、通常95%以下、好ましくは85%以下、さらに好ましくは70%以下である。A層の層厚の割合を20%以上にすることにより、本発明の積層体に十分な難燃性を付与することが可能である。一方A層の層厚の割合を70%以下にすることにより本発明の積層体に十分な機械特性を付与することができる。
【0051】
<カルボジイミド化合物>
本積層体にさらに耐加水分解性を付与するために、カルボジイミド化合物を配合することができる。
カルボジイミド化合物は、下記一般式の基本構造を有するものが挙げられる。
−(N=C=N−R−)n
(上記式において、nは1以上の整数を示す。Rはその他の有機系結合単位を示す。これらのカルボジイミド化合物は、Rの部分が、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかでもよい。)
通常nは1〜50の間で適宜決められる。
【0052】
具体的には、例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、および、これらの単量体が挙げられる。該カルボジイミド化合物は、1種、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0053】
前記カルボジイミド化合物の配合量としては、ポリエステル系樹脂(A)または/およびポリエステル系樹脂(B)100質量部に対して、0.5〜10質量部配合することが好ましく、1〜5質量部配合することがより好ましい。かかる範囲を下回る場合、耐久性を付与する効果が低く、かかる範囲を上回る場合、樹脂組成物の軟質化を生じるため耐熱性を損なう場合がある。
【0054】
また本積層体の効果が阻害されない範囲内で、各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。
【0055】
これらの中でも無機の粒子、例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾ
ル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末などを添加した場合には易滑性、耐傷性などが向上するので好ましい。無機粒子の平均粒子径は0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜1μm程度である。また、その添加量は、ポリエステルフィルム、樹脂層、プライマー層のそれぞれに対して、0.05〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%である。添加量が多すぎる場合には、成型加工性が低下する場合がある。
【0056】
本積層体のA層B層の剥離強度は、23℃で通常3N/cm以上であり、好ましくは4N/cm以上、より好ましくは5N/cm以上である。A層とB層が3N/cm以上であれば積層体として、一体として様々な用途に使用可能である。
【0057】
本積層体の引張強度は、通常80MPa以上であり、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上である。本籍層体の引張強度が80MPa以上であれば、2次加工時における加工性の低下、及び、使用時における積層体の破断等を生じることがない。
【0058】
本積層体の引張伸度は、通常80%以上であり、好ましくは100%以上であり、より好ましくは120%以上である。本積層体の引張伸度が80%以上であれば、使用時における積層体の破断等を生じることがない。
【0059】
<成形方法>
本積層体の成形方法について以下に示す。
本積層体のA層の成形方法としては、公知の方法により成形することが出来る。具体的には、ポリエステル系樹脂(A)とメラミンを前記した混合比になるよう混合、混錬して、単軸または2軸押出機により押出すことにより、A層を成形する。また、B層の成形方法は、上記A層の成形方法において、メラミンを混合せずに、ポリエステル系樹脂(A)をポリエステル系樹脂(B)に変更して行なう。
【0060】
本積層体におけるA層とB層の積層方法としては、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等により積層することができる。
【0061】
共押出の場合、A層とB層を、複数台の押出機を用いてフィードブロックやマルチマニホールドダイを通じ樹脂を合流させ、積層体を成形する。本層体にさらに耐熱性、機械強度を付与するには、前記工程にて得られた積層体をロール法、テンター法、チューブラー法等を用いて一軸、もしくは、二軸に延伸することができる。
【0062】
押出ラミネートの場合、ポリエステル系樹脂(B)を単軸、あるいは、二軸押出機を用いてTダイ、Iダイ等から押出を行った後、ロール法、テンター法、チューブラー法等を用いてB層となる単層体を得る。続いて、ポリエステル系樹脂(A)とメラミンとの混合物を主成分とするA層の両面に、A層のキャスティングと同時に前記B層をラミネートすることで積層体を得ることができる。
【0063】
熱ラミネート、およびドライラミネートの場合、ポリエステル系樹脂(A)とメラミンの混合物を単軸、または二軸押出機を用いてTダイ、Iダイ等から押出し、A層となる単層体を得る。また、同様の方法を用いてポリエステル系樹脂(B)からなるB層を作製する。続いて、A層、およびB層を加熱下、または層間に接着層を配置することでラミネートを行い、A層とB層からなる積層体を得ることができる。
【0064】
なお、本積層体を延伸した場合、いずれの場合も積層体の熱収縮を抑制するために、延伸後シートを把持した状態でヒートセットを行うことが好ましい。通常、ロール法では延伸後加熱ロールに接触させてヒートセットを行い、テンター法ではクリップでシートを把持した状態でヒートセットを行う。ヒートセット温度は使用する樹脂の種類によるが、使用する樹脂の融点よりも約10〜100℃低い温度でヒートセットを行うことが好ましい。また、両外層となるポリエステル樹脂層のインキ密着性をさらに向上させる目的で、コロナ処理などの放電処理、火炎処理などの表面処理を施すことができる。
【0065】
本積層体は、優れた難燃性、機械特性、表面特性を兼ね備えているため、電気絶縁材、メンブレンスイッチ回路印刷基材、複写機内部部材、面状発熱体基材、FPC補強板等の用途に用いることができる。
【0066】
<ガラス転移温度、結晶融解熱量の測定>
本積層体で使用するポリエステル系樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B)ついてのガラス転移温度および結晶融解熱量の測定方法について、以下に説明する。
1. ポリエステル系樹脂(A)またはポリエステル系樹脂(B)を5mm直径の10mg程度の鱗片状にして、試験サンプルとする。
2.前記1.で得られた試験サンプルを、示差走査熱量計(DSC)によりJIS−K7121に基づいて試験片を200℃で2分保持した後、10℃/分の速度にて−40℃まで降温した。次いで、−40℃から200℃まで10℃/分にて昇温測定を行う。なお、一連の測定は窒素雰囲気下にて行なった。
示差走査熱量計:パーキンエルマー製DSC−7
3.前記2.の測定により得られたサーモグラムよりガラス転移温度および結晶融解熱量を読み取る。
【0067】
本発明の難燃性積層体は、優れた難燃性、表面特性を兼ね備えているため、電気絶縁材、メンブレンスイッチ回路印刷基材、複写機内部部材、面状発熱体基材、FPC補強板等の用途に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す結果は以下の方法で評価を行った。
【0069】
(1)難燃性
<UL94VTM>
本積層体の難燃性の評価は、以下のようにUL94垂直燃焼試験により評価を行なった。すなわち、長さ200mm×幅50mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプルを用いて、Underwriters Laboratories社の安全標準UL94垂直燃焼試験の手順に基づき、試験回数5回にて燃焼試験を実施した。UL94垂直燃焼試験UL94VTMの判定基準に基づき、VTM−0規格を満たす積層体を合格とした。
【0070】
<燃焼時間>
前記UL94VTM試験において、燃焼時間を以下の手順に従って評価した。
<1> バーナーの炎の長さが20mm±1mmとなるように調整し、試験積層体に炎が10mm±1mm接するようにして、所定の時間接炎する。
<2> 次に、前記バーナーの炎を試験積層体から外し、試験積層体の燃焼時間をt1とする。
<3> 前記<2>での燃焼時間終了後、所定の時間、前記<1>と同様の方法で接炎する。
<4> 次に、<3>での接煙を外した後の、試験積層体の燃料時間をt2とする。さらに試験積層体の無煙燃焼時間をt3とする。
【0071】
尚、表1および2に記載してある燃焼時間は、実施例、比較例に記載してある構成の試験積層体5組のt1、t2およびt3の合計時間を記載した(VL94VTM試験準拠)。
【0072】
(2)剥離強度
剥離強度は、引張試験機(株式会社インテスコ製:恒温槽付き材料試験器201X)を用いて、A層およびB層間の剥離強度を測定した。測定方法は、T型はく離試験により測定を行なった(JISK6854−3 1999)。評価用サンプル10mm幅のものを使用し、雰囲気温度23℃、剥離速度10mm/分でT型剥離試験を実施した。剥離強度は4N/10mm以上を合格とした。
【0073】
(3)引張強度、引張伸度
長さ200mm×幅15mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプルを用いて、JIS C 2318に基づき、引張破断強度、引張破断伸度の測定を行った。破断時の強度と伸びを測定しn=5での平均値を求めた。雰囲気温度23℃、相対湿度50%、引張り速度100mm/min、つかみ間隔100mmにて測定を行い、破断時の強度と伸度を測定し、n=5での平均値を求めた。引張強度は80MPa以上、引張伸度は50%以上を合格とした。
(4)耐熱性
長さ100mm×幅100mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプルをベーキング試験装置(大栄科学精器製作所製DKS−5S)内に静置し、100℃で15分間加熱した。加熱後のサンプルの外観を目視にて観察し、加熱前と変化がないものを○、収縮、シワ、変形等が生じているものを×とした。
【0074】
<B層の作製>
「B層−A」
ポリエステル系樹脂として三菱化学社製ノバペックス(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート、IV:0.65、ΔHm=55J/g)を用い、先ず、ノバペックスを40mm直径単軸押出機にて260℃で混練した後、口金から押出し、次いで約40℃のキャスティングロールにて急冷し、厚さ225μmの非晶シートを作製した。次いで、三菱重工株式会社製逐次2軸テンターに通紙し、95℃でMD(長手方向)に延伸倍率で3倍に延伸を行い、続いて、110℃でTD(横手方向)に延伸倍率で3倍に延伸を行った。さらにその後、160℃で15秒熱処理を行い、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0075】
「B層−B」
ポリエステルフィルムAと同様の方法、条件で厚さ108μmの非晶シートを作製した後、ポリエステルフィルムAと同様の方法、条件で延伸を行い、厚さ12μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0076】
「B層−C」
ポリエステル系樹脂としてイーストマンケミカル社製coplyester6763(ポリエチレンテレフタレートグリコール、ガラス転移温度=81℃、ΔHm=0J/gを用い、coplyester6763を40mm直径単軸押出機にて260℃で混練した後、口金から押出し、次いで約40℃のキャスティングロールにて急冷し、厚さ25μmの非晶シートを作製した。
【0077】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロンGM−443(テレフタル酸:26.5mol%、イソフタル酸:19.8mol%、アジピン酸:4.7mol%
、1,4−ブタンジオール:50mol%、ガラス転移温度:26℃、結晶融解熱量ΔHm:22.8J/g)、難燃剤として、日産化学社製微粒径メラミン(平均粒径5μm)を用い、バイロンGM−443と微粒径メラミンを混合質量比80:20でドライブレンドした後、40mm直径同方向二軸押出機を用いて200℃で混練し、Tダイより押出すと同時に、B層−Aをキャストロール側から貼り合わせることにより、層構成がA層/B層となる厚さ50μmの積層体(A層=25μm、B層−A=25μm)を得た。得られた積層体について、難燃性、剥離強度、引張強度、及び、引張伸度の評価を行った結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
A層として、バイロンGM−443と微粒径メラミンの混合質量比を60:40とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
A層として、バイロンGM−443と微粒径メラミンの混合質量比を40:60とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A層=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
A層として、バイロンGM−443と微粒径メラミンの混合質量比を25:75とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A層=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0081】
(実施例5)
バイロンGM−443と微粒径メラミンを混合質量比60:40でドライブレンドした後、40mm直径同方向二軸押出機を用いて200℃で混練し、Tダイより押出すと同時にB層−Aをキャストロール側とニップロール側から貼り合わせることにより、層構成がB層−A/A層/B層−Aとなる厚さ70μm(A層=20μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0082】
(実施例6)
B層−Aの代わりにB層−Bを用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ40μm(A層=28μm、B層−B=12μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0083】
(実施例7)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロンGA−1300(テレフタル酸:32.8mol%、イソフタル酸:5.1mol%、アジピン酸:12.1mol%、1,4−ブタンジオール:50mol%、ガラス転移温度=−6℃、ΔHm=23.7J/g)を用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0084】
(実施例8)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロン30P(テレフタル酸:27.0mol%、イソフタル酸:23.0mol%、エチレングリコール:50mol%、ガラス転移温度=−28℃、ΔHm=9.0J/g)を用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0085】
(実施例9)
A層として、バイロンGM−443、バイロン30P、及び、微粒径メラミンを質量比20:40:40で混合した後、実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A層=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0086】
(実施例10)
ポリエステル系樹脂(A)として、三菱化学社製GSPla AD92W(ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ガラス転移温度=−40℃、ΔHm=35J/g)を用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0087】
(実施例11)
ポリエステル系樹脂(A)として、BASF社製エコフレックスF(ポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ガラス転移温度=−30℃、ΔHm=21J/g)を用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0088】
(実施例12)
ポリエステル系樹脂(A)として、三菱化学社製GSPla AD92W(ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ΔHm=35J/g)、を同様の方法でを用いた以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0089】
(実施例13)
A層として、GSPla AD92Wとメラミンの混合質量比を40:60とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μmの積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0090】
(実施例14)
GSPla AD92Wとメラミンを混合質量比60:40でドライブレンドした後、40mm直径同方向二軸押出機を用いて200℃で混練し、Tダイより押出すと同時に層(B)−Aをキャストロール側とニップロール側から貼り合わせることにより、層構成がB層−A/A層/B層−Aとなる厚さ100μmの積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0091】
(実施例15)
B層−Aの代わりにB層−Bを用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μmの積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0092】
(実施例16)
B層−Aの代わりにB層−Cを用いた以外は実施例2と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−C=25μm)の積層体を得た。得られた積層体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0093】
(実施例17)
B層−Aの代わりにB層−Cを用いた以外は実施例10と同様の方法で厚さ50μmの積層体を得た。得られた積層体について実施例10と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0094】
表1

【0095】
(比較例1)
バイロンGM−443と微粒径メラミンを混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で、B層を張り合わせない厚さ50μmのシートを得た。得られた単層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0096】
(比較例2)
A層として、バイロンGM−443と微粒径メラミンの混合質量比を95:5とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0097】
(比較例3)
ポリエステル系樹脂(A)の代わりに、三菱ガス化学社製IUPEC PEC−350(ポリブチレンサクシネート・カーボネート共重合体、ΔHm=55J/g)を用い、IUPEC PEC−350と微粒径メラミンの混合質量比を60:40でドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0098】
(比較例4)
微粒径メラミンの代わりに日産化学工業社製MC−600(メラミンシアヌレート)を用い、バイロンGM−443とMC−601を混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。;得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0099】
(比較例5)
微粒径メラミンの代わりに日本軽金属社製BF013ST(水酸化アルミニウム)を用い、バイロンGM−443とBF013STを混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。;得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0100】
(比較例6)
GSPla AD92Wと微粒径メラミンを混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で、B層を張り合わせない厚さ50μmのシートを得た。得られた単層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0101】
(比較例7)
A層として、GSPla AD92Wと微粒径メラミンの混合質量比を95:5とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ50μm(A層=25μm、B層−A=25μm)の積層体を得た。得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0102】
(比較例8)
メラミンの代わりに日産化学工業社製MC−600(メラミンシアヌレート)を用い、GSPla AD92WとMC−600を混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で厚さ50μmの積層体を得た。;得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0103】
(比較例9)
メラミンの代わりに日本軽金属社製BF013ST(水酸化アルミニウム)を用い、GSPla AD92WとBF013STを混合質量比60:40でブレンドした後、実施例1と同様の方法で厚さ50μmの積層体を得た。;得られた積層体に関して実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0104】
表2

【0105】
表1より、実施例1〜17の本積層体の難燃性は、UL94VTMを合格し、燃焼時間が少なく良好である。また、実施例1〜15の本積層体は、A層とB層と間の剥離強度が十分にあり、引張強度、引張伸度、耐熱性が良好であり、機械特性に優れている。実施例16および17の本積層体は、難燃性が良好であるものの、B層にB層−Cを使用している為に耐熱性が優れていなかった。
【0106】
一方、比較例1は、B層が無い為に、本積層体に比べて、引張強度、引張伸度、耐熱性が劣っている。比較例2は、メラミンの含有率が5質量%と少ない為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例3は、ポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmが50J/gである為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例4は、メラミンの変わりにメラミンシアヌレートを使用している為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例5は、メラミンの変わりに水酸化アルミニウムを使用している為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例6は、比較例1と同様にB層が無い為に、本積層体に比べて、引張強度、引張伸度、耐熱性が劣っている。比較例7は、メラミンの含有率が5質量%と少ない為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例8は、メラミンシアヌレートを使用している為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。比較例9は、メラミンの変わりに水酸化アルミニウムを使用している為に、難燃性が本積層体に比べて劣っている。
【0107】
上述したように、本積層体は、特定のポリエステル樹脂を使用し、特定の分量の特定のメラミンを使用しているので良好な、難燃性、機械特性を有する。本積層体は、特に、フレキシブルフラットケーブル、電気絶縁材、メンブレンスイッチ回路印刷基材、複写機内部部材、面状発熱体基材、FPC補強板等用途に好適に利用できる。
【0108】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制電性樹脂成形体および該成形体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が30℃以下であり、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以下であるポリエステル系樹脂(A)とメラミンとの混合物を主成分とするA層の少なくとも1表面上に、B層を有する積層体であり、A層の全質量におけるメラミンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする難燃性積層体。
【請求項2】
B層が、ガラス転移温度が50℃以上であり、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以上であるポリエステル系樹脂(B)であることを特徴とする請求項1記載の難燃性積層体。
【請求項3】
A層の厚みが、難燃性積層体の全層の厚みに対して20〜95%を占めることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性積層体。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂(A)がポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性積層体。
【請求項5】
ポリエステル系樹脂(B)がポリエチレンテレフタレート、乳酸系樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の難燃性積層体。
【請求項6】
A層およびB層の少なくとも1層にカルボジイミド化合物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性積層体。
【請求項7】
メラミンの平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性積層体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性積層体を含むフレキシブルフラットケーブル。


【公開番号】特開2009−255543(P2009−255543A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34116(P2009−34116)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】