説明

難聴を治療する組成物及び方法

難聴を治療するための組成物は、異なる生物学的機序によって機能して個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える相加的作用を生じる成分を含む。この組成物は、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤の生物学的に有効な量を含む。難聴を治療する方法は、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤の生物学的に有効な量を含む組成物を哺乳動物にこの哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の3日以内に内部的に投与する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願
本特許出願は、2006年1月19日に出願した米国仮特許出願第60/760,055号の優先権とすべての利益を主張する。
政府実施許諾権利
米国政府は、本発明の一括払いライセンスを有し、国立衛生研究所-国立聴覚・伝達障害研究所(NIH-NIDCD)により授与された認可番号DC04058の条件により与えられる、適当な条件で他者に実施権を許諾することを特許権者に要請する限られた状況での権利を有する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、一般的には、難聴を治療するための組成物に関する。より詳細には、本発明は、異なる生物学的機序によって機能して個々の成分の作用の合計と等しいか又はその合計を超える相加的作用を生じる成分を含む難聴を治療するための組成物、及びこの組成物を哺乳動物に内耳に対する外傷の3日前又は3日以内に投与する段階を含む難聴を治療する方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
難聴を治療するための組成物について、種々の組成物を用いて難聴を治療する方法と共に、広範囲な研究が行われてきた。特に、抗酸化剤は、数多くの他の成分の中で騒音性難聴の予防に役割を果たすことがわかった。動物モデルにおける騒音性難聴を減少させるのに部分的に有効であることが示された個々の抗酸化剤としては、グルタチオン(GSH)/グルタチオンモノエチルエステル、N-アセチルシステイン(NAC)、レスベラトロール、アロプリノール、R-フェニルイソプロピルアデノシン、ビタミンA、ビタミンC、及びビタミンEが挙げられる。上記の個々の食物抗酸化剤の耳保護作用は、当該技術において周知である。
抗酸化剤に加えて、多くの他成分も別途研究され、難聴を治療するのに幾分有効であることがわかった。血管拡張剤は、難聴を予防するのにやや有効であった成分の一種である。高レベルの騒音が内耳への血流の減少を生じることは、当該技術において既知であるが、この騒音による減少の基礎にある機序はごく最近まで明らかでなかった。減少が認められたことに基づいて、この血流の減少が耳の渦巻管内の感度が良い有毛細胞の細胞死につながるものであり、従って、血流の増加によって、騒音が誘発した死から内耳細胞を保護することができることは長く推測されてきた。ある血管拡張剤は、内耳への血流増加を促進するので、高レベルの騒音の結果として外傷から内耳を保護するのを援助する。難聴を部分的に予防することがわかった血管拡張剤の具体例としては、マグネシウム、ベタヒスチン、ヒドロキシエチルデンプン(HES)が挙げられる。
今日まで、難聴を治療するための既知の成分の多くを組み合わせることによって相加的作用が存在することは、たとえあったとしても、ほとんど見られなかった。本明細書に用いられる相加的作用は、個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える作用を意味する。ほとんどの場合、組成物において最も有効な個々の成分の作用より難聴を治療するのに有効である異なる成分の多くを組み合わせることによってより大きい作用は認められていない。即ち、薬剤の組合わせは、単独で送達される最も有効な単剤程度の効果しかない。例えば、図1は、アルファ-トコフェラールの水溶性類似体である、Trolox(登録商標) (ビタミンE)と、ベタヒスチンの相加的作用に相対する実験の結果を示すグラフである。実験条件は、下記の実施例の項に更に詳述される。図1から明らかなように、難聴に相関する閾値シフトを最小限にするのにTrolox(登録商標)とベタヒスチンの合計の作用は、一定のいかなる実験に対してもTrolox(登録商標)又はベタヒスチン単独の最も有効な作用を超えない。このように、Trolox(登録商標)とベタヒスチンの組合わせは、難聴を治療するのに相加的作用を生じない。
難聴を治療するか又は予防する種々の抗酸化剤の働きがより明らかになってきたので、補足的であるが異なる生化学機序を経て作用するある種の抗酸化剤の組合わせが、個々の抗酸化剤単独より有効になることができることがわかった。しかしながら、難聴に影響を及ぼすことが知られる成分の容積及び種類だけでなく、成分が機能する個々の機序と相対する知識がないことを考えれば、成分間の相加的作用は今日まで認識されなかった。
【0004】
各種成分間の相加効果が今日まで認識されなかったという事実にもかかわらず、ある開示には、難聴を治療するための全ての既知の成分を大体ひとまとめにすることがなされている。これらの開示は、難聴を治療するのに相加的作用を示す個々の成分の組合わせを充分な特異性と共に教示していない。例えば、米国特許第6,093,417号は、耳疾患を治療する組成物に関する。この組成物は、聴力障害を治療するために外耳道に局所的に適用される。第6,093,417号特許は、ビタミンA、C及びEを血管拡張剤とマグネシウム塩とともに含む、難聴のみを減退させるのに幾分有効であることが知られる多くの成分を含むことができる組成物に関するが、成分のいずれの間にも相加的作用の認識がない。図1と関連する上記説明から明らかなように、成分の多くの組合わせは、相加的作用を示さない。このように、第6,093,417号特許に開示される薬剤のランダムな組合わせは、組成物に含まれる場合に難聴を治療するのにより大きな作用を生じることを必ずしも予想していない。更にまた、個々の成分の有効性は、経口投与、静脈内投与、及び局所投与間で著しく変化し、難聴を治療するための組成物は、企図された投与方法によっては異なる方法で処方される。最後に、第6,093,417号特許は、各種成分間の相加的作用はいうまでもなく、個々に作用を生じるのに充分である各成分の生物学的に有効な量を充分な特異性と共に教示していない。従って、第6,093,417号特許の開示は、成分のそれぞれについてすでにわかっていること、即ち、個々に用いられる場合、各成分が難聴を予防することにやや有効であること以外を更に教示していない。
難聴を治療するか又は予防するために用いられる成分の多くが他の有益な機能を与え且つ総合ビタミン剤中に含まれるが、既知の総合ビタミン剤には、難聴を治療するか又は予防するのに充分な生物学的に有効な量の成分が含まれていない。更にまた、総合ビタミン剤は、一般的には、通常の食事療法の一部として用いられ、騒音又は他の応力によって誘発される難聴を予防する成分の個々の組合わせと濃度を含む総合ビタミン剤の使用を示唆するデータもない。
視力障害を予防する食物抗酸化剤の使用が米国特許第6,660,297号に開示されている。第6,660,297号特許には、ビタミンA、C、及びEが難聴を治療するか又は予防するのに生物学的に有効になることができる量で詳しく開示されている。しかしながら、ビタミンA、C及びEのみの組合わせは、騒音誘発難聴に対して臨床的に有意な保護を得るのに充分でなく、第6,660,297号特許に開示される亜鉛と銅の添加は、難聴を減少させることを予想していない。更にまた、第6,660,297号特許には視覚障害を治療する以外のものに組成物を用いることが示唆も教示もされていない。
従って、生物学的に有効な量で用いた場合に難聴を治療するのに個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える相加的作用を有する成分の特定の組合わせを含む組成物を投与する段階を含む難聴を治療する組成物及び方法を提供することが求められている。
【0005】
発明の開示
本発明は、異なる生物学的機序によって機能して個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える相加的作用を生じる成分を含む難聴を治療するための組成物を提供する。この組成物は、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤(donor antioxidant)、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤(vasodilator)の生物学的に有効な量を含む。少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーは、難聴の原因となるフリーラジカルを減少させるために存在する。供与体抗酸化剤は、難聴の原因となるペルオキシルラジカル(peroxyl radical)を減少させ、脂質過酸化の増大(propagation)を阻害するために存在する。血管拡張剤は、難聴の原因となる蝸牛の血流と酸素化双方の減少を予防するために存在する。
本発明は、また、難聴を治療する方法を提供する。この方法は、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤の生物学的に有効な量を含む組成物を哺乳動物にこの哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の3日以内に内部的に投与する段階を含む。
少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤の生物学的に有効な量での組合わせは、難聴を治療する際に個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える相加的作用を与える。更に、本発明の組成物は、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の三日後に投与した場合にも難聴を治療するのに有効でなければならない。結果として、本発明の難聴を治療する組成物及び方法は、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷から生じる難聴を最小限にするのを援助するのに極めて有望である。世界規模の一般集団における騒音性難聴の高発生率を考えれば、騒音性難聴のために持続している社会経済的影響を最小限にするために本発明の難聴を治療する組成物及び方法は極めて必要なことである。
本発明の他の利点は、添付の図面と共に考慮される場合、以下の詳細な説明によってより良く理解されるので、容易に理解されるであろう。
【0006】
発明を実施するための最良の形態
難聴を治療するための組成物は、異なる生物学的機序によって機能して個々の成分の作用の合計と等しいか又はその合計を超える相加的作用を生じる成分を含む。この組成物は、典型的には、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷から生じる難聴を治療するのに用いられる。外傷は、更に、機械的誘発性代謝性外傷、機械的/代謝性外傷、応力外傷、ストレス誘発性損傷、又は環境ストレスとして定義することができる。しかしながら、この組成物が、例えば、年齢関連性難聴、抗生物質誘発性難聴、及び化学療法誘発性難聴を含む、他の種類の難聴を治療するか又は予防するために用いることができることも可能である。この組成物は、更に、中耳又は内耳に行われる回復手術の間の難聴を予防するために用いることができる。
騒音性外傷、又は他のストレッサ、例えば、上記の年齢や薬剤の一つの結果が、代謝性外傷と関連があるそのフリーラジカルの形であることがわかった。フリーラジカルは、耳の中の感度が良い構造、例えば、有毛細胞を損傷させる。血管収縮もまた、騒音の結果として生じ、中耳と内耳への血流が減少することになり、難聴になる細胞死を引き起こす。血管収縮の基礎にある原因が騒音誘発性フリーラジカル形成であることがわかった。詳しくは、フリーラジカルの存在の結果として内耳に形成される分子の一つが8-イソプロスタン-2Fアルファであり、これは生物活性物質である。生物活性物質は、内耳の血管の収縮を誘発し、血流の減少が引き起こされる。フリーラジカル形成と血管収縮を妨げるために、本発明の組成物は、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤を含む。予想外に、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤を含む組成物がこれらの成分単独のいずれか一つの作用を超えるだけではなく、成分のそれぞれの作用の合計に少なくとも等しいか又はその合計を超える相加的作用を生じることがわかった。
抗酸化剤は、種々の機序によって作用する。少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー及び供与体抗酸化剤は、異なる機序によって作用する異なる二種類の抗酸化剤である。第三の抗酸化剤、典型的には一重項酸素のスカベンジャーは、異なる機序によって作用する異なる抗酸化剤であってもよい。一重項酸素のスカベンジャーは、難聴の原因となるフリーラジカルを減少させる。より詳しくは、フリーラジカルを減少させることによって、一重項酸素のスカベンジャーは、他の損傷作用の中で、脂質と反応して脂質ヒドロペルオキシドを形成することから一重項酸素を防止する。脂質ヒドロペルオキシドは、難聴を引き起こすことに役割を果たす。
【0007】
一重項酸素のスカベンジャーの種類の中でさえ、種々の抗酸化剤が体内の異なる部位で、特に、細胞内で反応して、フリーラジカル形成を弱めると考えられる。例えば、一重項酸素のスカベンジャの一つは、典型的にはビタミンAである。ビタミンAは、レチノール又はカロチノイドの生物活性を有する多くの分子を表現する総称である。ビタミンA/レチノールの基本的な食事の形としては、レチノールエステルやベータカロテンが挙げられる。ベータカロテンは、メチル分枝がポリエン鎖に沿って隔置された11個の共役二重結合のポリエン鎖からなり、1,1,5-トリメチル置換を有するシクロヘキセニル環が両端にキャップされている。ビタミンAの他の形としては、キサントフィル、アスタキサンチン、カントキサンキシン(canthxanxin)、ルテイン、ゼアキサンチンが挙げられ、これらには、シクロヘキセニル環の一つ以上についてヒドロキシル及び/又はカルボニル置換を有するベータカロテンの骨格鎖が含まれている。本発明のために、ビタミンAは、典型的にはベータカロテンとして存在する。ベータカロテンは、一重項酸素だけでなく、酸化窒素やペルオキシナイトライトの強力なスカベンジャーであり、ミトコンドリア膜の親油性コンパートメント内の脂質ペルオキシルラジカルを捕捉ことができる。ベータカロテンは、ほとんどの組織に存在する正常な生理的条件下のフリーラジカルの優れたスカベンジャーである。
ビタミンAに加えて、他の一重項酸素のスカベンジャーが本発明の組成物中に存在することもできる。例えば、存在することができる他の一重項酸素のスカベンジャーは、レスベラトロールである。レスベラトロールは、ビタミンCよりヒドロキシルラジカルを捕捉するのにより効率的であり、ビタミンAにレスベラトロールを追加すると、相加的作用を有することができる。他の抗酸化剤と組合わせたレスベラトロールの使用(ビタミンA、C、又はEでなく、血管拡張剤マグネシウム又は他のいかなる血管拡張物質でもない)は、年齢関連性難聴を軽減させるために当該技術において既知である。
一重項酸素の少なくとも一つのスカベンジャーは、生物学的に有効な量で組成物中に存在する。本発明のための生物学的に有効な量は、更に、他の抗酸化剤とマグネシウムと組合わせて用いられる場合に閾値移動の減少において相加的作用を生じるのに充分である量として定義される。本明細書に用いられる相加的作用は、個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える作用を意味する。相加的作用を生じるために、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーは、典型的には、成人の用量について少なくとも830国際単位(IU)、より好ましくは830〜120,000IU、最も好ましくは約2,100〜70,000IUの合計量で組成物中に存在する。
【0008】
組成物中に存在するビタミンAの量は、用いられるビタミンAの形に左右される。例えば、一実施態様において、ビタミンAは、レチノールとして少なくとも830IU、より好ましくは830〜10,000IU、最も好ましくは2,100〜5,900IUの量で存在する。当該技術において既知のように、ビタミンAについてIUの質量への変換は、3.33IU/μgである。従って、少なくとも830国際単位(IU)が少なくとも0.25mgのビタミンAに等価であり、830〜10,000IUのビタミンAが0.25〜3mgのビタミンAに等価であり、2,100〜5,900IUのビタミンAが0.62〜1.8mgのビタミンAに等価である。
或はまた、ビタミンAは、レチノールとは反対に、ベータカロテンとして組成物中に存在することができる。プロビタミンAカロテノイドであるベータカロテンへのレチノール変換のためのレチノール活性当量(RAE)は、1mg〜12mgである。レチノールとして組成物中に存在するビタミンAのベータカロテンとして組成物中に存在するビタミンAへの上記量の変換に関して、ベータカロテンとして少なくとも3.0mg又は少なくとも10,000国際単位(IU)のビタミンA、より好ましくはベータカロテンとして3.0〜36mg又は10,000〜120,000IUのビタミンA、最も好ましくはベータカロテンとして約7.5〜21mg又は25,000〜70,000IUのビタミンAの全量は、典型的には、成人の用量である。
組成物中に存在するビタミンAの個々の量は、哺乳動物の体重に左右されてもよい。一具体例において、組成物中にレチノールとして存在するビタミンAの量は、約0.0178mg/kg体重である。従って、平均ヒト体重が約70kgである場合、組成物中にレチノールとして存在するビタミンAの量は、約1.25mgであるのがよく、ビタミンAがベータカロテンの形である場合には、ベータカロテンは、約15mgの量であるのがよい。
レスベラトロールのような追加の一重項酸素のスカベンジャーがビタミンAに加えて組成物中に存在する場合、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーが上記の量で存在する限り、一重項酸素のスカベンジャの合計量が、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーについて上で示した範囲より大きくなってもよいことはを理解すべきである。更に、他の一重項酸素のスカベンジャーは、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーの量が上記量の範囲内である限り、ビタミンAの代わりに用いることができる。レスベラトロールが存在する場合、典型的には少なくとも1mgの量で、より典型的には10mg〜1500mgの量で、最も典型的には15mg〜1000mgの量で組成物中に含まれる。
【0009】
少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーが過酸化脂質の最初の形成を防止するが、供与体抗酸化剤は、ペルオキシルラジカルを減少させ、難聴の原因となる脂質過酸化反応の増加を阻害する。より詳しくは、供与体抗酸化剤は、ペルオキシルラジカルと反応して減少させるので、連鎖切断機能の役に立ち、脂質過酸化反応の増大を阻害する。脂質過酸化反応の供与体抗酸化剤の連鎖切断機能から明らかなように、供与体抗酸化剤は、細胞膜内で機能する。本発明の組成物に用いるのに企図される個々の供与体抗酸化剤は、ビタミンEである。ビタミンEは、全てのトコール及びアルファトコフェロールの生物活性を有するトコトリエノール誘導体の総称である。ビタミンEの基本的な食事の形としては、ビタミンE自体やアルファトコフェロールが挙げられる。Trolox(登録商標)、スイス、バーゼルのHoffman-Laroche, Ltd.から市販されているアルファトコフェラールの水溶性類似体は、ビタミンEの原料として典型的に用いられる研究物質である。
供与体抗酸化剤は、典型的には少なくとも75IU、より好ましくは75IU〜1500IU、最も好ましくは150IU〜800IUの量で組成物中に存在する。当該技術において既知であるように、IUのビタミンEの質量への変換は、0.66mg/IUである。従って、供与体抗酸化剤がビタミンEである場合、少なくとも75IUのビタミンEが少なくとも50mgのビタミンEに等価であり、75〜1500IUのビタミンEが50〜1000mgのビタミンEに等価であり、150〜800IUのビタミンEが150〜600mgのビタミンEに等価である。ビタミンAの量と種類と同様に、組成物中に存在するビタミンEの個々の量は、哺乳動物の体重に左右されてもよい。一具体例において、組成物中に存在するビタミンEの量は、約2.6mg/kg体重である。従って、平均ヒト体重が約70kgの場合、組成物中に存在するビタミンEの量は、約182mgであるのがよい。
少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーと供与体抗酸化剤に加えて、組成物は、更に、第三の抗酸化剤を含む。第三の抗酸化剤が一重項酸素のスカベンジャーであってもよいが、第三の抗酸化剤は、異なる機序によって機能する抗酸化剤であってもよい。第三の抗酸化剤が一重項酸素のスカベンジャーである場合、一重項酸素の少なくとも一つのスカベンジャーは、第三の抗酸化剤からの個別成分として組成物中になお存在し、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーについて上で示した量で組成物中になお存在する。他の一重項酸素のスカベンジャーである第三の抗酸化剤の結果として、得られた組成物は、少なくとも二つの一重項酸素のスカベンジャーを有する。
【0010】
第三の抗酸化剤は、典型的にはビタミンCであり、一重項酸素のスカベンジャーと反応性窒素化学種である。第三の抗酸化剤が典型的にはビタミンCであるが、他の抗酸化剤がビタミンCの代わりに用いられてもよく、他の抗酸化剤がビタミンCと異なる機序によって機能してもよい。用語ビタミンCは、抗壊血病活性を有し、二つの化合物及びそれらの塩: L-アスコルビン酸(一般にアスコルビン酸と呼ばれる)やL-デヒドロアスコルビン酸が挙げられる物質にあてはまる。アスコルビン酸やL-アスコルビン酸として知られるのに加えて、ビタミンCは、2,3-ジデヒドロ-L-トレオヘキサノ-1,4-ラクトン、3-オキソ-L-グルオフラノラクトン、L-トレオヘキサ-2-エノン酸ガンマラクトン、L-3-ケトトレオヘキスロン酸ラクトン、L-キシロアスコルビン酸、抗壊血病ビタミンとしても知られる。ビタミンCは、活性酸素種と反応性窒素化学種双方を捕捉することが知られる。それは、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシラジカル及びニトロキシドラジカルだけでなく、一重項酸素、ペルオキシナイトライト、次亜塩素酸塩のような非ラジカル反応種が挙げられる、ほとんどの反応性酸素や窒素化学種によって酸化することができる。従って、ビタミンCは、脂質過酸化反応、酸化的DNA損傷、及び酸化的タンパク質損傷を阻害する。
ほとんどの組織に示される条件下で最良に機能するビタミンAとは対照的に、水溶性ビタミンCは、水相中で優れたフリーラジカルスカベンジャーであり、これにより、ビタミンAと異なる部位でフリーラジカルを減少させる。より詳しくは、アスコルビン酸は、フリーラジカルが細胞膜に達する前に、細胞質流体及び/又は血液のような流体中のフリーラジカルを減少させるように機能する。
第三の抗酸化剤は、典型的には少なくとも4,000IU、より好ましくは6,000〜40,000、最も好ましくは8,000〜20,000IUの量で存在する。ビタミンCを用いた第三の抗酸化剤についてIUを質量単位に変換する一例として、当該技術において既知であるように、ビタミンCについてIUの質量への変換は、0.05mg/IUである。従って、少なくとも4,000IUのビタミンCは、少なくとも200mgのビタミンCに等価であり、6,000〜40,000IUのビタミンCは、300〜2,000mgのビタミンCに等価であり、8,000〜20,000IUのビタミンCは、400〜1,000mgのビタミンCに等価である。ビタミンAやビタミンEと同様に、組成物中に存在するビタミンC又は他の第三の抗酸化剤の個々の量は、哺乳動物の体重に左右されてもよい。一具体例において、組成物中に存在するビタミンCの量は、約7.14mg/kg体重である。従って、平均ヒト体重が約70kgである場合、組成物中に存在するビタミンCの量は、約500mgであるのがよい。
【0011】
上記のように、組成物は、更に血管拡張剤を含む。典型的には、血管拡張剤としては、マグネシウムが挙げられる。しかしながら、本発明のための血管拡張剤は、マグネシウムの代わりに又はマグネシウムに加えて他の血管拡張剤を含んでもよく、マグネシウムだけを含んでもよい。血管拡張剤は、難聴を予防するのに用いることが当該技術において既知である。マグネシウムを含む血管拡張剤は、蝸牛血流及びカルシウム濃度とプロスタグランジンの変化に関与する生化学機序による酸素化の減少を防止する。不充分な蝸牛血流及び酸素化の欠徐は、耳の蝸牛内の感度が良い有毛細胞において細胞死を引き起こすことによって難聴の原因となる要因である。マグネシウムを含む血管拡張剤は、また、突発性難聴から回復において免疫抑制治療又はカルボジェン吸入療法の効力を改善することがわかった。更にまた、マグネシウムの不足によって、カルシウムチャネル浸透性が増大して蝸牛有毛細胞へのカルシウムの流入がより大きくなり、グルタミン酸塩放出が増大し、且つ聴神経興奮毒性が生じ、それぞれが中耳及び内耳の健康状態に役割を果たしていることがわかった。血管拡張剤が難聴を治療するために当該技術において既知であるが、血管拡張剤、特にマグネシウムは、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、及び第三の抗酸化剤の生物学的に有効な量と組合わせた場合、特に、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーがビタミンAであり、供与体抗酸化剤がビタミンEであり、第三の抗酸化剤がビタミンCである場合に予想外の相加的作用を示す。相加的作用は、難聴を治療するための最も有効な成分を超えるだけではなく、典型的には、難聴を治療するための成分の各々の作用の合計を超える。マグネシウム以外の血管拡張剤が本発明のために想定されるが、相加的作用は、全ての血管拡張剤において見出されるものではない。例えば、他の既知の血管拡張剤であるベタヒスチンは、図1から明らかなように、相加的作用を示さない。難聴を治療する際の本発明の組成物の個々の作用を以下に詳述する。
【0012】
マグネシウムを含む血管拡張剤としては、典型的にはマグネシウム塩又はマグネシウム塩複合体、より詳しくは、硫酸マグネシウム又はクエン酸マグネシウムが挙げられる。本発明のために適するものであるマグネシウムを含む他の血管拡張剤としては、酢酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、フマル酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、乳酸マグネシウム、酸化マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムが挙げられる。他の代表的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、タウリン酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩及びラウリルスルホン酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。
典型的には、血管拡張剤は、少なくとも50mgの量で組成物中に存在する。例えば、血管拡張剤がマグネシウムである場合、マグネシウムは、典型的には50〜450mg、最も好ましくは100〜350mgの量で存在する。ビタミンA、C及びEと同様に、組成物中に存在する血管拡張剤の個々の量は、哺乳動物の体重に左右されてもよい。一具体例において、組成物中に存在するマグネシウムを含む血管拡張剤の量は、約2.14mg/kg体重である。従って、平均ヒト体重が約70kgの場合、組成物中に存在するマグネシウムを含む血管拡張剤の量は、約150mgであるのがよい。
組成物中に含まれる典型的な成分の量を、より好ましい量と最も好ましい量とともに、下記の表1にまとめる。
【0013】
表1

【0014】
人体実験は今日まで行われていないが、抗酸化剤及び血管拡張剤に指定される量は、生物学的有効性に関して、モルモットの動物研究に用いられる量に相関する。更にまた、抗酸化剤と血管拡張剤の生物学的に有効な量が、小児用のより少ない米国推奨の一日の許容量と最大摂取レベルに基づいて、ヒト平均用より小児用の上記の範囲内でより少なくてもよいことは理解されるべきである。このことは、mg/kgによる表1の典型的な用量に基づき明らかである。
抗酸化剤と血管拡張剤に加えて、他の成分が、難聴を治療するための組成物中に存在してもよい。例えば、一実施態様において、組成物は、更に、ウィタノライドを含む。ウィタノライドは、抗炎症性、抗腫瘍、細胞毒性、及び免疫学的適用に用いることが提唱されてきた。本発明の組成物中に含むことができる個々のウィタノライドの一例は、デイリリー植物から抽出されるウィタノライドである。抽出物は、聴神経の求心路遮断によって開始される細胞死経路を中断することによって内耳における細胞死を防止するのに有効なものである強力な天然抗酸化剤である。組成物中に含まれる場合、ウィタノライドは、少なくとも10ppm、より好ましくは10〜1000ppmの量であるのがよい。
難聴を治療する方法は、本発明の組成物を哺乳動物に内部的に投与する段階を含む。より詳しくは、組成物は、哺乳動物に、例えば、錠剤、液体、ゲル等の形で経口的に投与されるのがよい。或はまた、組成物は、哺乳動物に組成物のIV又は注射によって静脈内に投与されるのがよい。組成物は、また、蝸牛の蝸牛窓膜を経て局所的に投与されるのがよい。具体例として、ビタミンA、C、及びE、マグネシウム含む血管拡張剤、及び所望による成分を最初に混合して組成物を形成することができ、その後、組成物が哺乳動物に投与される。或はまた、ビタミンA、C、及びE、マグネシウムを含む血管拡張剤及び所望による他の成分は、別々に投与されてもよく、その場合、組成物は、哺乳動物の中で形成する。
本発明のための難聴は、閾値移動の差異に関して客観的に測定される。モルモットの研究において、難聴及び難聴を治療するための本発明の組成物の効力は、未処理対照と比較して、4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズ(Octave Band Noise)に5時間のさらした後の4kHz、8kHz及び16kHzにおけるベースライン閾値感受性からの閾値移動の平均的差異(average difference in threshold shift from baseline threshold sensitivity)として測定される。閾値移動のより大きな差異は、難聴がより少なく難聴を治療するための組成物の効力がより大きいことに相関する。
有毛細胞損失が閾値移動に相関することがわかった。例えば、一過性閾値移動から回復するモルモット耳において、形態学的損傷は、外有毛細胞(OHC)の第三列の不動毛の先端に限られるが、永続的な閾値移動をもつ動物からの耳は、OHCの三列全てに損傷があり、場合によっては、内有毛細胞(IHC)の不動毛の長さ全体だけでなく有毛細胞の本体に損傷がある。
【0015】
本発明の組成物は、永続的な閾値移動を改善するために哺乳動物に哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の3日以内に投与される。外傷の3日以内に組成物を投与することによって、外傷前の治療も本発明の方法によって企図されることは理解されるべきである。動物研究からデータは、外傷の24時間後に測定した一過性閾値移動が永続的な閾値移動に充分に相関していることを示している。一過性閾値移動と永続的な閾値移動間の関係を考えれば、一過性閾値移動を減少させることは臨床的に有益である。このように、組成物は、好ましくは、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の一日以内に投与される。それでも、本発明の組成物による三日以内の治療は、一日以内の治療と同様に永続的な閾値移動を最小限にするのに実質的に有効であることが予想される。
哺乳動物が予想外の大きな騒音又は他の外傷によって中耳又は内耳に対して外傷が持続した場合、3日以内の治療が最も適切である。理想的には、中耳又は内耳に対する外傷前に組成物が哺乳動物に投与される。哺乳動物が中耳又は内耳に対して外傷を持続させる準備をしている場合、外傷前の治療が最も実行可能である。例えば、中耳又は内耳に行われる回復手術の前に組成物を投与するのがよい。他の例として、人が武器を焼成するか又はロックコンサートのようなイベントに参加することがある場合には、人は、最良の結果を得るために中耳又は内耳に対する外傷を持続させる前に治療を開始するのがよい。
組成物の最初の投与後、典型的には、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷後の少なくとも5日間毎日組成物が哺乳動物に投与される。このような治療によって優れた結果が達成されるが、本発明のために他の治療法が有効であってもよいことは理解されるべきである。
下記の実施例の項で詳述されるように、4kHz、8kHz及び16kHzのベースライン閾値感受性から哺乳動物の閾値移動の平均的差異は、未処理の対照と比較して、4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズに5時間のさらした後に少なくとも25デシベルである。より詳しくは、本発明の組成物で治療される哺乳動物の閾値移動は、対照の食塩水で処理される哺乳動物における閾値移動より少なくとも25デシベル小さいことが予想される。これらの結果を得るために、騒音にさらす1時間前に組成物を経口的に投与し、騒音にさらした後の5日間毎日再度投与する。閾値移動は、聴性脳幹反応(ABR)検査を用いて騒音にさらした後の10日間測定される。聴覚又は感覚細胞機能の他の代替的測定、例えば、放出が測定する心理物理学的検査又は耳音響放射測定を用いて同様の結果が予想される。
更に、外有毛細胞損失及び内有毛細胞損失は、蝸牛全体と蝸牛の外傷領域双方において測定される。本発明の方法の治療後、蝸牛全体の外有毛細胞損失は、10%未満であり、蝸牛全体の内有毛細胞損失は、5%未満である。外傷領域の外有毛細胞損失は、20%未満であり、外傷領域の内有毛細胞損失は、10%未満である。
本明細書に示される以下の実施例は、本発明を具体的に説明するものであり、限定するものではない。
【0016】
実施例
本発明の組成物で難聴を治療する方法を、騒音性難聴に関する研究を含む聴覚研究の広範囲な使用のために、また、それらが開発によってヒトと類似したモデルを与えることから、モルモット(NIH異種交配株、250-350グラム)で行う。6匹のモルモットが本発明の組成物による治療を受ける。難聴を治療する際の本発明の組成物の効力を決定するために、モルモットのベースライン閾値感受性を、4kHz、8kHz及び16kHzでの聴性脳幹反応検査を用いて両耳で測定する。次に、モルモットをビタミンA、C、E及びマグネシウム(図2には“ACEMg”として示される)で表2に示した量で処理する。表2に示した量は、ヒトに相対してモルモットのより速い代謝に基づいて予想されるヒト用量の約10倍である。
【0017】
表2

【0018】
1時間後に、モルモットを、5時間の4kHzに中心がある120dBのSPLオクターブバンドノイズにさらして、モルモットの中耳又は内耳に外傷を引き起こす。騒音は、永続的な閾値移動、即ち、永続的な難聴を引き起こすのに充分である。本発明の組成物を騒音にさらした直後に投与し、外傷後の5日間毎日再度投与する。外傷の10日後、ABRを用いて聴覚感受性を測定する。ABR検査のために、モルモットに40mg/kgのケタミンと10mg/kgのキシラジンを麻酔し、音が弱められた室内の温かい加温パッドに入れる。ABR閾値を4kHz、8kHz及び16kHzの周波数で求める。ABR閾値を検査するために、10msのトーンバースト/時間(0.5msの上/下)を17/secの速度で示す。1024の応答まで集め、各信号周波数について平均して、各周波数で閾値移動を測定する。閾値移動デシベルに関して図2に示した永続的な難聴の評価を、耳全体と周波数全体の平均閾値移動として算出する。
ABR検査後、モルモットを深部に麻酔し、断頭する。側頭骨を急速に除去し、切開し、4%パラホルムアルデヒドで固定する。翌日、耳嚢、側壁、及び蓋膜を除去し、骨の蝸牛軸を注意深く切り離す。蝸牛軸に付着したコルチ器官組織を0.3%トリトン-Xで透過処理し、リン酸緩衝生理食塩水で1:100に希釈したローダミンファロイジンとインキューベートする(30分)。組織を洗浄した後、コルチ器官からの個々の変化を切開し、顕微鏡スライドに取り付け、ライカDMRB落射蛍光顕微鏡を用いて調べ写真に撮る。有毛細胞数を計数し、サイトコクレオグラム(cytocochleogram)を当該技術において既知のように調製する。図3と図4を参照すると、損失内有毛細胞(IHC)と外有毛細胞(OHC)のパーセントが有毛細胞数に基づいて求められる。
【0019】
比較例1
本発明の組成物の効力を他の組成物と比較するためにモルモットを他の組成物で処理する。例えば、モルモットを、上記実施例において指定した同様の方法で以下の組成物で別々に処理する: 対照としての食塩(NaCl)組成物、有効成分として硫酸マグネシウム(2.85ミリモル/kg)のみを含む組成物、又は有効成分としてビタミンA(2.1mg/kgのベータカロテン)、C(71.4mg/kgのアスコルビン酸)、及びE(26mg/kgのTrolox(登録商標))(“ACE”)のみを含む組成物。閾値移動と有毛細胞損失に関する情報を与える上記実施例に記載したように、モルモットを同様のABR検査に供し、耳の成分を切開する。他の組成物による処理から得られる閾値移動と有毛細胞損失を図2-図4に示す。
比較例2
モルモットを、ビタミンEのみ、ベタヒスチンのみ、ベタヒスチンとビタミンEの組合わせの組成物で処理して、マグネシウムを含む本発明の組成物によって達成されるものと同様の結果がマグネシウムをベタヒスチンに置き換えることによって達成され得るかを求める。ビタミンE、ベタヒスチン、又はビタミンEとベタヒスチンの組合わせによる処理の結果を図1に示す。一比較例において、モルモットを、100mg/kgのビタミンE(Trolox(登録商標))、30mg/kgのベタヒスチン、又は100mg/kgのTrolox(登録商標)と30mg/kgのベタヒスチンの組合わせで一日一回処理する。五匹のモルモットを異なる組成物のそれぞれで処理する。他の比較例において、四匹のモルモットを、50mg/kgのTrolox(登録商標)で一日二回、18mg/kgのベタヒスチン(騒音にさらす直前に一回服用)、又は50mg/kgのビタミンE(Trolox(登録商標))と18mg/kgのベタヒスチン(N=4動物/グループ)の組合わせで別々に処理する。対照データは、IP(N=11)か又はIV(N=7)で送達した食塩水で処理した18匹の動物からのものである。閾値移動と有毛細胞損失に関する情報を与えるために共に上記実施例で記載したように、モルモットをABR検査に供し、耳の成分を切開する。
【0020】
図2-図4を参照すると、ビタミンA、C、E、及びマグネシウムを含む本発明の組成物で難聴を治療する際の作用が、マグネシウムのみ又はビタミンA、C、及びEのみを含む組成物の有効性と関連したことを超えていることは明らかである。より詳しくは、本発明の組成物による処理によって全ての周波数全体の平均である20デシベル未満の閾値移動が得られ、対照の食塩水による治療によって約45の閾値移動が得られる。このように、本発明の組成物による処理と食塩水の対照による処理との間の閾値移動の差異は、25デシベルを超える。更に、本発明の組成物と対照食塩水との間の閾値移動の差異は、マグネシウム又はビタミンA、C、及びE単独と対照食塩水との閾値移動の差異の合計を超える。詳しくは、マグネシウムとビタミンA、C、及びE単独との閾値移動の差異の合計は、約12デシベルである。騒音性難聴の減少と一致して、有毛細胞数は、Mg又はA、C、及びEによる感覚細胞死が著しく減少したことを示し、ビタミンA、C、E、及びマグネシウムによる処理後により大きな保護が認められた。より詳しくは、Mg及びビタミンA、C、及びEを含む本発明の組成物による処理後に蝸牛全体で10%未満の外有毛細胞と5%未満の内有毛細胞が損失する。外傷領域において、Mg及びビタミンA、C、及びEを含む本発明の組成物による処理後に蝸牛全体で20%未満の外有毛細胞と10%未満の内有毛細胞が損失する。図3及び図4で示したように、本発明の組成物で処理した後の損失有毛細胞のパーセントの低下は、食塩水が用いられる場合の有毛細胞損失のパーセントに比較してマグネシウム又はビタミンA、C及びEが単独て用いられる場合に認められる損失有毛細胞の減少の合計を超える。
更にまた、図1に示したように、ビタミンE、ベタヒスチン、又はビタミンEとベタヒスチンの組合わせが用いられる比較例は、マグネシウムがビタミンと組合わせて血管拡張剤として用いられる場合に認められる同様の相加的作用を明らかに示さない。より詳しくは、食塩処理対照動物(白い棒)は、騒音10日後に難聴が最も大きい。ビタミンEで処理した動物(Trolox: 100mg/kg一日一回又は50mg/kg一日二回、斜線の棒)は、対照動物より永続的な難聴が少ない。血管拡張剤ベタヒスチンで処理した動物(30mg/kg、一日一回、縦縞の棒; 又は騒音前に一回18mg/kg服用、横縞の棒)は、ビタミンEで処理したものとほぼ同じ量の防御を示す。ビタミンEとベタヒスチンの組合わせで処理した動物(50mg/kgのTrolox一日二回+18mg/kgのベタヒスチン一日二回、又は100mg/kgのTrolox一回/日+30mg/kgのベタヒスチン一回/日; 白い斜線のある黒い棒を参照)は、いずれの単剤単独を超える付加的防御がない。このように、全ての血管拡張剤は、ビタミンと組合わせたマグネシウムほど有効でない。
本発明は、例示的方法で記載してきており、用いられた用語が限定の用語よりむしろ説明の用語の性質を帯びているものであることは理解されるべきである。本発明の多くの修正や変更が上記の教示を考慮して可能であり、且つ本発明が特に記載されたものと別の方法で実施されてもよいことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズに5時間さらした後の4kHz、8kHz及び16kHzのベースライン閾値感受性からモルモットにおける閾値移動の減少に関するTrolox(登録商標)(ビタミンE)とベタヒスチンを含む難聴を治療するために用いられる組成物の比較例の影響を示すグラフである。
【図2】図2は、4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズに5時間さらした後の4kHz、8kHz及び16kHzのベースライン閾値感受性からモルモットにおける閾値移動の平均減少に関する、ビタミンA、C及びEとマグネシウムとを含む本発明の組成物及びいくつかのそれらの成分の一部だけを含む組成物の比較例の影響を示すグラフである。
【図3】図3は、上記図2に指定した騒音にさらした後に最も損傷した蝸牛の領域における損失有毛細胞の量に関する本発明の組成物及び図2の組成物の比較例の影響を示すグラフである。
【図4】図4は、上記図2に指定した騒音にさらした後に蝸牛全体における損失有毛細胞の量に関する本発明の組成物及び図2の組成物の比較例の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難聴を治療する方法であって、少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー、供与体抗酸化剤、第三の抗酸化剤、及び血管拡張剤の生物学的に有効な量を含む組成物を哺乳動物にこの哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の3日以内に内部的に投与して、個々の成分の作用の合計に等しいか又はその合計を超える相加的作用を得る段階を含む、前記方法。
【請求項2】
組成物を内部的に投与する段階が、組成物を哺乳動物に経口的に投与する段階として更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物を内部的に投与する段階が、組成物を哺乳動物に静脈内に投与する段階として更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物を内部的に投与する段階が、哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の前に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組成物を内部的に投与する段階が、組成物を哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷の1日以内に内部的に投与する段階として更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組成物を哺乳動物にこの哺乳動物の中耳又は内耳に対する外傷後の少なくとも5日間毎日内部的に投与する段階を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
4kHz、8kHz、及び16kHzのベースライン閾値感受性からの哺乳動物における閾値移動の平均的差異が、未処理対照と比較して、外傷が4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズに5時間さらすことから生じる場合に少なくとも25デシベルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一重項酸素のスカベンジャーの一つが、ビタミンAとして更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第三の抗酸化剤が、ビタミンCとして更に定義される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一重項酸素のスカベンジャーの一つが、レスベラトロールとして更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャーが、少なくとも830IUの量で組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第三の抗酸化剤が、少なくとも4,000IUの量で組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
供与体抗酸化剤が、ビタミンEとして更に定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ビタミンEが、アルファトコフェラールの水溶性類似体として更に定義される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
供与体抗酸化剤が、少なくとも75IUの量で組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
組成物が、ウィタノライドを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
血管拡張剤が、マグネシウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
血管拡張剤が、少なくとも50mgの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
異なる生物学的機序によって機能して個々の成分の作用の合計を超える相加的作用を生じる成分を含む難聴を治療するための組成物であって、
難聴の原因となるフリーラジカルを減少させるために少なくとも830IUの量で存在する少なくとも一つの一重項酸素のスカベンジャー;
ペルオキシルラジカルを減少させ且つ難聴の原因となる脂質過酸化の増大を阻害するために少なくとも75IUの量で存在する供与体抗酸化剤;
少なくとも4,000IUの量で存在する第三の抗酸化剤; 及び
難聴の原因となる蝸牛血流と酸素化の減少を防止するために少なくとも50mgの量で存在する血管拡張剤
を含む、前記組成物。
【請求項20】
前記一重項酸素のスカベンジャーの一つが、ビタミンAとして更に定義される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記第三の抗酸化剤が、ビタミンCとして更に定義される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記一重項酸素のスカベンジャーの一つが、レスベラトロールとして更に定義される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記供与体抗酸化剤が、ビタミンEとして更に定義される、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記ビタミンEが、アルファトコフェラールの水溶性類似体として更に定義される、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記血管拡張剤が、マグネシウムを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
ウィタノライドを更に含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
4kHzに中心がある120デシベルのSPLオクターブバンドノイズに5時間さらした後に、未処理対照と比較して、少なくとも25デシベルの4kHz、8kHz及び16kHzにおけるベースライン閾値感受性からの哺乳動物における閾値移動の平均的差異を生じる、請求項19に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−523811(P2009−523811A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551412(P2008−551412)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/001422
【国際公開番号】WO2008/010852
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(594201294)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (3)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THEUNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】