説明

雰囲気置換方法

【課題】真空室においてパーティクルが基板に付着することを低減する雰囲気置換方法を提供する。
【解決手段】真空環境下で基板を処理する処理装置の真空室の雰囲気を置換する方法であって、前記真空室内に設置された保持ユニットで前記基板を保持する工程と、前記真空室の雰囲気を排気又は給気によって置換する工程とを有し、前記真空室の雰囲気を置換する工程では、前記真空室内に設置された集塵ユニットの温度が前記基板の温度よりも低い温度に調節された状態で、前記真空室の圧力を10Pa以上10000Pa以下の範囲で10秒以上600秒以下維持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧環境に配置された基板収納部から基板を受け取って真空環境で処理する処理室に搬入する、あるいは処理済の基板を処理室から受け取って基板収納部に搬出するロードロック室は従来から知られている。この場合の処理室とは、EUV(Extreme Ultraviolet:極紫外)露光装置やプラズマ処理装置である。
【0003】
ロードロック室は、内部空間の雰囲気を大気圧環境と真空環境との間で置換する機能を有する。具体的には、基板を処理室に搬入する際には雰囲気を大気圧環境から真空環境に雰囲気を置換し(排気過程)、基板収納部に搬出する際には真空環境から大気圧環境へと雰囲気を置換する(給気過程)。ロードロック室はゲートバルブを介して処理室と接続され、基板搬送機構を有する。
【0004】
しかし、給排気時に、ゲートバルブや基板搬送機構から発生するパーティクルが巻き上げられるため、これが基板に付着を低減又は防止する手段が必要となる。そこで、熱泳動力(Thermophoretic Force)を利用して基板へのパーティクル付着を低減する方法が提案されている。かかる方法は、特許文献1に記載されているように、基板を保持する保持部を周辺温度より高い温度に加熱すると共に、周辺温度よりも低い温度に維持された低温粒子収集器によりパーティクルを収集する。
【0005】
熱泳動力の原理は、粒子の周囲の気体に温度勾配が存在すると、粒子は低温側の気体分子よりも大きな運動エネルギーを高温側の気体分子より与えられ、粒子は高温側の物体から低温側へ移動するというものである。熱泳動力Fxは、非特許文献1に記載された熱泳動係数の式を変形して得られる以下の式で与えられる。
【0006】
【数1】

【0007】
但し、数式1は、粒子が球形で流体は理想気体である、と仮定している。ここで、Dpは粒子直径、Tは気体温度、μは粘性係数、ρは気体密度、Knはクヌーセン数で2λ/Dp、λは気体の平均自由工程でη/{0.499P(8M/πRT)1/2}、Mは分子量、Rは気体定数、Kはk/kpである。また、kは平行移動のエネルギーのみによる気体の熱伝導率、kpは粒子の熱伝導率、Csは1.17、Ct=2.18、Cm=1.14、ΔT/Δxは温度勾配である。
【特許文献1】特登録2886521
【非特許文献1】奥山喜久夫、増田弘昭、諸岡成治 共著「新体系化学工学 微粒子工学」オーム社出版、1992年5月、P106−107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロードロック室の大きさは半導体業界の統一規格によって規定されているゲート開口寸法(W360mm×H80mm)に制約されているため、基板外形程度に小さくすることができない。従って、基板保持部近傍の熱泳動力はロードロック室の形状に依存せざるを得ず、熱泳動力を最大限に利用することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、真空室においてパーティクルが基板に付着することを低減する雰囲気置換方法に関する。なお、本発明で「真空室」とは、EUV露光装置の露光室のように減圧状態が原理的に必要な装置、基板搬送装置のロードロック室のように一時的に減圧状態が保持されている装置を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面としての雰囲気置換方法は、真空環境下で基板を処理する処理装置の真空室の雰囲気を置換する方法であって、前記真空室内に設置された保持ユニットで前記基板を保持する工程と、前記真空室の雰囲気を排気又は給気によって置換する工程とを有し、前記真空室の雰囲気を置換する工程では、前記真空室内に設置された集塵ユニットの温度が前記基板の温度よりも低い温度に調節された状態で、前記真空室の圧力を10Pa以上10000Pa以下の範囲で10秒以上600秒以下維持することを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真空室において浮遊するパーティクルが基板に付着することを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例の処理装置について説明する。なお、本実施例は、真空環境下で基板を処理する処理装置としてEUV露光装置を使用するが、本発明の処理装置はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は実施例1の露光装置の概略断面図である。図1において、1は励起レーザーであり、YAG固体レーザー等を用いる。励起レーザー1は、光源の発光点となる光源材料をガス化、液化または噴霧ガス化させたポイントに向けてレーザー光を照射して、光源材料原子をプラズマ励起することにより発光させる。2は露光用光源の光源発光部で、内部は真空に維持された構造を持ち、2Aは露光用光源の発光ポイントである。2Bは光源ミラーで、発光ポイント2Aからの全球面光を発光方向に揃え集光反射するために、発光ポイント2Aを中心に半球面状のミラーとして配置される。発光ポイント2Aには、発光元素として液化Xe、液化Xe噴霧体またはXeガスを不図示のノズルにより噴出させ、かつ、励起レーザー1からの光が照射される。
【0015】
3は、光源発光部2と接続された露光室(処理室)である。露光室3は排気ユニット(真空ポンプ)4Aにより真空環境下に維持される(即ち、減圧可能に構成される)。このように、露光室3は、EUV露光に適した真空圧力を維持することが可能な真空室である。5は光源発光部2からの露光光を導入して成形する照明光学系で、ミラー5A〜5Dにより構成され、露光光を均質化し、かつ整形する。6はレチクルステージで、レチクルステージ上の可動部には、露光パターンの反射原版であるレチクル(原版)6Aが静電吸着保持されている。
【0016】
7はレチクル6Aから反射した露光パターンを縮小投影する投影光学系であり、レチクル6Aにより反射された露光パターンをミラー7A〜7Eに順次反射し最終的に規定の縮小倍率比でウエハ8A上に縮小投影する。8はウエハステージで、レチクルパターンを露光するSi基板であるウエハ8Aを露光位置に位置決めするために、XYZの各軸方向、X軸及びY軸回りのチルト、Z軸回りの回転方向の6軸駆動可能に位置決め制御される。
【0017】
9は支持体でレチクルステージ6を床に対して支持する。10は支持体で投影光学系7を床に対して支持する。11は支持体でウエハステージ8を床に対して支持する。また、レチクルステージ6と投影光学系7との間、投影光学系7とウエハステージ8との間の相対位置を位置計測し連続的に維持する制御ユニット(不図示)が設けられている。また、支持体9乃至11には、床からの振動を絶縁するマウント(不図示)が設けられている。
【0018】
16は大気側のウエハ搬送ユニット17Aにより搬送されたウエハ8Aを一旦装置内部に保管するウエハストッカーである。ウエハストッカー16は複数枚のウエハ8Aを保管する。ウエハストッカー16から露光処理するウエハ8Aを選定し、真空室内(ロードロック室26内)に設置された保持ユニット18へ搬送する。19は遮蔽体(集塵ユニット)でありウエハ8Aの周囲を囲う。20Dはウエハストッカー16がある空間とロードロック室26を連結するゲートバルブで、ロードロック室26が大気圧の状態の時に開閉する。20Eも同じくロードロック室26と露光室3とを連結するゲートバルブで、ロードロック室26が真空の状態での時に開閉する。ウエハ8Aの真空搬送が可能なウエハ搬送ユニット17Bにより、保持ユニット18から露光室(処理室)内の不図示のウエハメカプリアライメント温調器へ搬送する。ウエハメカプリアライメント温調器はウエハ8Aの回転方向の送り込み粗調整を行うと同時に、ウエハ温度を露光装置の基準温度に温調する。ウエハ搬送ユニット17Bは、ウエハメカプリアライメント温調器にてアライメントと温調されたウエハ8Aをウエハステージ8に送り込む。
【0019】
ウエハ8Aを露光室3から搬出する工程はロード手順と逆になる。
【0020】
27はデバイス工場の中でレチクルカセットを搬送するために用いられるミニエンバイロメントであるSMIFポッドである。31はSMIFポッドの中に保持されているレチクルカセットであり、SMIFインデクサ34によりSMIFポッドが開閉されると同時に露光装置内にレチクルカセット31は引き込まれレチクル搬送ユニット14Aにより搬送可能となる。24はレチクルカセット31を大気雰囲気から真空雰囲気へ変換させるためのロードロック室であり、内部にカセット保持ユニット28を備える。
【0021】
20Aはレチクルカセット31が存在する空間とロードロック室24とを連結するゲートバルブで、ロードロック室24が大気圧の状態の時に開閉する。レチクル6AをSMIFインデクサ34からロードロック室24の保持ユニットへ搬入するゲート開閉機構である。20Bも同じくゲートバルブで、ロードロック室24が真空の状態での時に開閉する。20Cも同じくゲートバルブであり、露光室3へレチクル6Aを搬送するときのみ開閉する。
【0022】
12は装置外部から一旦装置内部にレチクル6Aをレチクルカセット31に入れた状態で保管するレチクルストッカーで、異なるパターンおよび異なる露光条件に合わせたレチクル6Aが多段に保管されている。
【0023】
14Aはロードロック室24からレチクルストッカー12へレチクルカセット31を搬送するレチクル搬送ユニットである。レチクル搬送ユニット14Bはレチクル搬送室13に配置され、レチクルストッカー12から使用するレチクルを選択してレチクルカセット31をカセット上蓋とカセット下皿とに分離する蓋明け機構13Aへ搬送する。また、レチクル搬送ユニット14Bは蓋開け機構13Aにより分離された状態のカセット下皿をレチクルステージ6端部に設けられたレチクルアライメントスコープ15に搬送する。これにより、投影光学系7の筐体に設けられたアライメントマーク15Aに対してレチクル6A上をXYZ軸回転方向に微動してアライメントする。
【0024】
アライメントを終了したレチクル6Aはカセット下皿から直接レチクルステージ6上にチャッキングされる。このときアライメント部のカセット支持部とレチクルステージ6の相対位置を近接すべくカセット支持部の上昇或いはレチクルステージの下降の少なくとも一方が行われる。また、そのときにレチクル6Aとレチクルステージ6の傾き調整も行われる。レチクルステージ6にレチクル6Aを受け渡した後空のカセット下皿はレチクル搬送ユニット14Bによって蓋開け機構13Aまで引き戻され、蓋を閉めたのち空のままレチクルストッカー12に保管される。
【0025】
図2はロードロック室26の概略断面図であり、集塵ユニットとしての遮蔽体19を駆動ユニット21で下方向へ移動し、遮蔽体19がウエハ8A表面を囲った状態の図である。駆動ユニット21は、温調ユニット22A及び22Bが遮蔽体19のウエハ8Aに対向する面の温度を調整した後で、保持ユニット18と遮蔽体19の少なくとも一方を他方に対して近づける機能を有する。
【0026】
遮蔽体19を移動することで、ウエハ表面と遮蔽体19との距離が0.5cm以下の狭い空間を作ることができる為、従来の真空室よりもウエハ表面近傍の空間の温度勾配を大きくすることができる。
【0027】
ロードロック室26は、露光室3とはゲートバルブ20Eで仕切られ、ロードロック室内が真空になったことを圧力検出ユニット32で検出し、ゲートバルブ20Eを開いて露光室3へウエハ8Aを搬入、あるいは搬出する。ロードロック室26は排気ユニット4Bによって内部空間が排気又は減圧され、給気ユニット29によって内部空間が給気又は加圧可能に構成される。このように、ロードロック室26は、内部空間の雰囲気を真空環境と大気圧環境との間で置換する。
【0028】
排気ユニット4Bとロードロック室26の排気口との間の配管23には排気流量及び給気流量を調節する流量可変弁33Aが設置されている。給気ユニット29とロードロック室26の給気口との間の配管23には排気流量及び給気流量を調節する流量可変弁33Bが設置されている。圧力検出ユニット32と排気/給気給気ユニットを制御する制御ユニット30によって、配管23に流れる気体の流量を任意に変更することができる。
【0029】
このように、処理前/処理後のウエハ8Aをロードロック室26に出し入れするたびに給気と排気が繰り返される。このため、ロードロック室26内のゲートバルブから発生するフッ素微粒子やウエハ搬送機構から発生する銀メッキ微粒子等のパーティクルが排気/給気の過程で巻き上げられてウエハ8Aに付着するおそれがある。そこで、ロードロック室26の排気/給気の過程でウエハ8Aに付着する微粒子を低減することが重要である。
【0030】
ウエハ8Aを保持する保持ユニット18は、支持ピン18Aを含む全部材が第1の温調ユニット22Aによって第1の温度(23℃)に温調されている。この温度は、保持ユニット18が搬送するウエハ8Aの温度と同じである。本実施例は保持ユニット18の内部に熱媒体を循環させることで保持ユニット18全面を均等に温調している。ウエハ表面をパーティクルから保護する為の遮蔽体19は、ウエハ表面に対向する面を第2の温調ユニット22Bにより第2の温度(13℃)に温調している。遮蔽体19表面の第2の温度は第1の温度よりも10℃低く温調されている。このように、温調ユニット22A及び22Bは、遮蔽体19のウエハ8Aに対向する面の温度をウエハ8Aの温度よりも低い温度に調整可能である。これにより遮蔽体19は、集塵部を持つ集塵ユニットとして動作する
図3は温度勾配が10[K/cm]の時にフッ素微粒子に作用する熱泳動力と重力を示したグラフであり、縦軸は力[m/s]、横軸はロードロック室26の圧力[Pa]である。熱泳動力の曲線は数式1に気体温度と固体温度の温度飛躍を考慮することにより求められる。図3より、10Pa以上10000Pa以下の範囲の圧力で微粒子に作用する力が最大となることが理解される。
【0031】
本実施例は空間の温度勾配が10K/cm以上となるように遮蔽体19を温調及び位置制御しながら、ロードロック室26の圧力を制御する。
【0032】
図4は、ロードロック室26のウエハ8Aの近傍に浮遊する直径0.1〜1.5μmのフッ素微粒子の速度を示したグラフであり、縦軸は微粒子の速度[m/s]、横軸はロードロック室26の圧力[Pa]である。速度は重力方向を正として表している。また、ウエハ表面近傍に浮遊する微粒子の速度Vは実線、ウエハ裏面近傍に浮遊する微粒子の速度Vは一点鎖線で示されている。表面近傍に浮遊する微粒子の速度は、次式によって表すことができる。
【0033】
【数2】

【0034】
また、熱泳動速度は次式によって表すことができる。
【0035】
【数3】

【0036】
ここで、熱泳動係数Kthは次式で与えられる。
【0037】
【数4】

【0038】
νは気体の動粘度、αは比熱比であり、気体の熱伝導比/粒子の熱伝導比で与えられる。層流場におけるウエハ8Aへの平均沈着速度は次式で与えられる。
【0039】
【数5】

【0040】
ここで、Dは拡散係数でCkT/(3πμD)で与えられる。Lはウエハ直径、uはウエハ8Aから十分離れた距離における気流の平均流速、Sはシュミット数でν/Dで与えられる。kはボルツマン係数、vは重力沈降速度=DρgC/(18μ)、ρは微粒子の密度、gは重力加速度、Cはカニンガムの補正係数で1+K[1.25+0.4exp(−1.1/K)]で与えられる。
【0041】
なお、数式2乃至4は、服部毅 監修「新版シリコンウェーハ表面のクリーン化技術」リアライズ理工センター出版、2000年5月、P72−74に開示されている。
【0042】
図5は、実施例1のウエハ処理のフローチャートである。また、図6(a)は実施例1によるロードロック室26の排気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室26の圧力[Pa]、横軸は排気時間[秒]である。図6(b)は実施例1によるロードロック室26の給気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室26の圧力[Pa]、横軸は給気時間[秒]である。図6(a),(b)において、縦軸の「E±XX」は「×10±XX」を表す。
【0043】
実施例1は直径1.0μmのフッ素微粒子を低減するのに好適である。図4に示すように、ロードロック室26に浮遊する直径1.0μmのフッ素微粒子の移動速度がウエハ8Aと反対の向きに最大となるのは圧力が3.0E+04〜5.0E+04Paである。このときウエハ8Aから遮蔽体19までの距離0.05mmを移動するのに要する時間は27秒である。従って、3.0E+04〜5.0E+04Paの圧力状態を27秒以上維持することによって、ウエハ表面と遮蔽体19の間に浮遊する直径1.0μmのフッ素微粒子は最低1回遮蔽体19に衝突する。この衝突により、微粒子は遮蔽体19に付着するためウエハ表面への微粒子付着を低減することができる。このため、本実施例は3.0E−4〜5.0E−4Paの圧力を第1の圧力として、この圧力範囲にて発生する熱泳動力を利用して微粒子がウエハ8Aに付着することを低減している。本実施例では微粒子とは比重2130kg/mのフッ素微粒子を代表として説明している。但し、比重のことなる他の微粒子においても本実施例は適用可能である。
【0044】
図5において、S100はレジスト塗布工程であり、塗布工程を経たウエハ8Aが露光装置へ搬送される。S101はウエハ8Aが露光装置のウエハストッカー16にウエハ8Aがロードされる工程である。
【0045】
S102はウエハストッカー16から保持ユニット18に搬入されるウエハ8Aより1℃程度低い温度24℃に保持ユニット18を温調し、遮蔽体19を4℃に温調する工程である。ウエハ8Aより低い温度で保持することで熱泳動力によりウエハ8Aに微粒子が付着することを防ぐ効果がある。S103は保持ユニット18及び遮蔽体19の温調が完了していることを不図示の温度センサにより検出し、判断する。温調が完了している場合に次工程へ進む。温調が完了していない場合には前工程S102へ戻る。
【0046】
S104はロードロック室26が排気される前、すなわち大気圧である状態に、ゲートバルブ20Dを開け、ウエハ8Aを保持ユニット18に搬送し保持する工程である。ウエハ8Aの搬送後、ゲートバルブ20Eを閉じる。ロードロック室26が大気圧の時、直径1.0μm以下の微粒子は重力落下せず、気流、ブラウン運動により浮遊している。直径1.0μmより大きい微粒子は重力方向に移動しウエハ8Aに付着するがロードロック室26のウエハ8Aは遮蔽体19によって囲われているため、ウエハ8Aへの付着確率を低減する。
【0047】
遮蔽体19とウエハ8Aとの間の空間に浮遊する微粒子とそれ以外の空間に浮遊する微粒子密度は同じである場合、遮蔽体内側のウエハ8A近傍の体積と遮蔽体外側の体積比が大きいほど効果は大きくなる。本実施例では体積比は約0.003である。従って、ロードロック室内で重力方向に移動する微粒子が1000個のときウエハ8Aに付着する微粒子はその中の3個だけであるため、ウエハ8Aへの微粒子付着数は低減する。
【0048】
S105は遮蔽体19を保持ユニット18の方向へ移動する工程である。遮蔽体19をウエハ8Aと接近させ、全体を囲う。遮蔽体19とウエハ8Aとの表面の間に0.5cm程度のごく小さな空間でウエハ8Aの全体を囲う。このとき遮蔽体19はロードロック室26と同時に排気/給気が可能な程度のコンダクタンスに設計されたスキマを意図的に設ける。このため、遮蔽体19の内側の排気/給気をロードロック室26全体と同時に行うことができる。本実施例では遮蔽体19とウエハ8Aとの間の空間の温度勾配が40[K/cm]となるように遮蔽体19を温調、位置制御する。
【0049】
S106は第1の排気工程である。ロードロック室26の圧力が大気圧の状態から5.0E+04Paになるまで排気ユニット4Bで排気する。従来のロードロック室26が減圧されると直径1.0μm以下の微粒子も重力方向に移動し始める。しかし、本実施例によるロードロック室26は直径1.0μm以下の微粒子は熱泳動力により、重力方向ではなく遮蔽体19の方向へ移動する。また、図4のグラフが示す通り直径1.5μm以上の微粒子は重力が熱泳動力を上回る為、遮蔽体19の方向へ移動することはできない。
【0050】
S107は第2の排気工程である。図6(a)に示す通りロードロック室26の圧力が5.0E+04〜3.0E+04Paまで一定の排気速度で減圧することで熱泳動力の効果が得られる最小限の時間だけ第1の圧力に維持する。本実施例においては第1の排気工程より排気速度を下げるために、ロードロック室26の圧力が5.0E+04Paに達したときに流量可変弁33Aの開口度を小さくするように制御している。遮蔽体19に衝突した微粒子の一部はファンデルワールス力による付着力によって遮蔽体19に付着する。
【0051】
本実施例では1.0μmのフッ素微粒子を0.5cm上方の遮蔽体19へ移動するための時間を40秒とした。すなわち40秒で5.0E+04〜3.0E+04Paまで減圧し、微粒子を集塵している。時間はウエハ8Aの処理工程でもっとも問題となる微粒子の比重によって変更することが好ましい。
【0052】
S108は第3の排気工程である。第1の圧力である5.0E+04〜3.0E+04Paから、第2の圧力である1.0E−04Paまで真空排気する。S109は遮蔽体19を保持ユニット18と反対の方向へ移動する工程である。遮蔽体19は適当な位置に退避し、ウエハ8Aを搬送ユニット17Bが搬送可能な状態とする。
【0053】
なお、一般には、第2の排気工程は、10Pa以上10000Pa以下の範囲の圧力を10秒以上600秒以下維持した状態でロードロック室内に設置された遮蔽体19の温度を基板の温度よりも低い温度に調節すれば足りる。「10Pa以上10000Pa以下の範囲の圧力」としたのは、図3から得られる熱泳動力が最大又は最大値の98%となる範囲であるからである。また、「10秒以上」としたのは、10秒が直径1.0μmのフッ素微粒子が遮蔽体19に移動するのに必要な最短時間であるからである。このときの条件は、ウエハ8Aと遮蔽体19との距離を0.2cmで、遮蔽体19とウエハ8Aとの間の空間の温度勾配が100[K/cm]である。また、「600秒以下」としたのは、600秒が直径1.0μmのフッ素微粒子が遮蔽体19に移動するのに必要な最長時間であるからである。このときの条件は、ウエハ8Aと遮蔽体19との距離を1.0cmとして遮蔽体19とウエハ8Aとの間の空間の温度勾配が10[K/cm]である。また、図6(a)では第2の排気工程の排気速度は単調に減少しているがこの傾きは問わない。図6(a)では、第2の排気工程の排気速度は第1の排気工程と第3の排気工程と異なる傾きを有しているが、第1乃至第3の排気工程が単調に減少してもよい。これは、図7(a)及び図8(a)を参照して後述する実施例2及び3にも当てはまる。
【0054】
S110は真空搬送工程である。ロードロック室26が真空排気された後、すなわち第2の圧力である状態にゲートバルブ20Eを開け、ウエハ8Aを搬送ユニット17Bにより露光室3に搬送する。搬送後、ゲートバルブ20Eを閉じる。この工程ではロードロック室26に浮遊している微粒子はほとんどないため、搬送してもウエハ8Aに付着する可能性は低い。
【0055】
S111は露光処理である。S112はS102と同じである為、説明を省略する。S113は露光室3から保持ユニット18へ搬入されるウエハより1℃程度低い温度22℃に保持ユニット18を温調し、遮蔽体19を12℃に温調する工程である。S114は真空搬送工程である。ロードロック室26が第2の圧力である状態にゲートバルブ20Eを開け、ウエハ8Aを搬送ユニット17Bによりロードロック室26の保持ユニット18に搬送して保持する。搬送後、ゲートバルブ20Eを閉じる。
【0056】
S115は遮蔽体19を保持ユニット18の方向へ移動する工程であり、S105と同じであるため、説明を省略する。S116は第1の給気工程である。第1の給気工程はロードロック室26内の圧力が第2の圧力1E−04Paから第1の圧力である3.0E+04Paになるまで給気する。
【0057】
S117は第2の給気工程である。ロードロック室26の圧力が5.0E+04Paになるまで給気する。第1の給気工程でロードロック室内に巻き上げられた微粒子が落下するが、ウエハ8Aの近傍では熱泳動力が作用し、遮蔽体19へ移動するためウエハ8Aへの付着を低減する。本実施例では1.0μmのフッ素微粒子を0.5cm上方の遮蔽体19へ移動するための時間をS107と同じく40秒とした。
【0058】
S118は第3の給気工程である。ロードロック室26の圧力が大気圧になるまで給気する。この工程では第1、第2の給気工程で巻き上げられた微粒子が浮遊している。遮蔽体19によってウエハ8Aを囲っている為、ウエハ8Aへの微粒子の付着を低減できる。S119はロードロック室26のウエハ8Aをウエハストッカー16に大気搬送する工程である。S120はレジスト塗布工程である。
【0059】
なお、一般には、第2の給気工程も、第2の排気工程と同様に、10Pa以上10000Pa以下の範囲の圧力を10秒以上600秒以下維持した状態でロードロック室内に設置された遮蔽体19の温度を基板の温度よりも低い温度に調節すれば足りる。「10Pa以上10000Pa以下の範囲の圧力」、「10秒以上600秒以下」とした理由も、第2の排気工程と同様である。また、図6(b)では第2の給気工程の給気速度は増加に減少しているがこの傾きは問わない。図6(b)では、第2の給気工程の給気速度は第1の給気工程と第3の給気工程と異なる傾きを有しているが、第1乃至第3の給気工程が単調に増加してもよい。これは、図7(b)及び図8(b)を参照して後述する実施例2及び3にも当てはまる。
【0060】
以上の説明により、ロードロック室26の排気/給気の工程において、第1の圧力5.0E+04〜3.0E+04Paの範囲に一定時間維持することで熱泳動力を最大限に利用し、ウエハ表面への微粒子付着を低減できる。
【実施例2】
【0061】
本実施例はS107の第2の排気工程及びS117の第2の給気工程でロードロック室26の圧力が一定の圧力範囲で変動してよい点が、実施例1と異なる。図7(a)は、実施例2によるロードロック室26の排気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室26の圧力[Pa]、横軸は排気時間[秒]である。図7(b)は、実施例2によるロードロック室26の給気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室26の圧力[Pa]、横軸は排気時間[秒]である。
【0062】
S107の第2の排気工程を説明する。ロードロック室26の圧力を3.0E+04〜5.0E+04Paに減圧するための排気を行う。ロードロック室26の圧力が100Paに達したところで排気バルブを閉じ、排気を一時停止する。このため、微粒子に作用する気体のブラウン運動が小さくなり、相対的な熱泳動力を高めることができる。ロードロック室26の圧力はアウトガス、リークにより次第に上昇するが、この圧力範囲において熱泳動力の効果が大きい為、微粒子の付着を低減できる。この圧力範囲では、遮蔽体19の内側の微粒子は重力落下せず、熱泳動力によって遮蔽体19に向かって移動し、遮蔽体19に付着する。
【0063】
実施例2におけるS117の第2の給気工程を説明する。ロードロック室26の圧力が100Paになるまで給気する。ロードロック室26の圧力が100Paに達したところで流量可変弁33Bを閉じ、給気を一時停止する。このため、微粒子に作用する気体のブラウン運動が小さくなり、相対的な熱泳動力を高めることができる。よって実施例2はウエハ8Aへの微粒子付着を低減できる。
【実施例3】
【0064】
本実施例は直径1.0μmのフッ素微粒子を低減するのに好適である。本実施例は第2の排気工程でロードロック室26の排気バルブの開口度を制御し、排気流量を制御し4.0E+04Paに維持する点で実施例1と異なる。本実施例における第1の圧力は4.0E+04Paである。
【0065】
図4に示すように、ロードロック室26の圧力が4.0E+04Paのとき重力と反対方向の速度が最大となる。このときウエハ8A表面から遮蔽体19までの距離0.05mmを移動するのに要する時間は215秒である。従って、4.0E+04Paの圧力状態を215秒維持することによって、ウエハ表面と遮蔽体19の間に浮遊する微粒子は最低1回遮蔽体19に衝突する。この衝突により、微粒子は遮蔽体19に付着するためウエハ表面への微粒子付着を低減することができる。
【0066】
微粒子の移動時間はロードロック室26の圧力が3.0E−04Paとなると221秒かかり、5.0E−04Paとなると230秒を要するため、装置のスループットを低下させる。このため、本実施例においては、4.0E+04Paの圧力を第1の圧力として、この圧力範囲において発生する熱泳動力を利用して微粒子がウエハ8Aに付着することを低減することにより直径及び質量が大きな微粒子を最小の時間で低減する。
【0067】
図8(a)は実施例3によるロードロック室26の排気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室26の圧力[Pa]、横軸は時間[秒]である。ウエハ8Aの搬送、遮蔽体19の移動工程を含め、大気搬送工程、第1の排気工程、第2の排気工程、第3の排気工程、真空搬送工程に分けて示している。本実施例は第2の排気工程が実施例1と異なる。
【0068】
以下、第2の排気工程について説明する。ロードロック室26の圧力が500Paに達したところで、スロー排気に切り替え500Paに維持されるようにスロー排気及びスロー給気する。排気ユニット4Bとロードロック室26の間に設置された流量可変弁33Aの開口度を制御することで、ロードロック室26の排気流量を制御する。さらに給気ユニット29とロードロック室26の間に設置された流量可変弁33Bの開口度を制御することでロードロック室26の給気流量を制御する。
【0069】
図8(b)は本実施例によるロードロック室26の給気工程を示したグラフであり、縦軸はロードロック室の圧力[Pa]、横軸は時間[秒]である。ウエハ8Aの搬送、遮蔽体19の移動工程を含め、真空搬送工程、第1の給気工程、第2の給気工程、第3の給気工程、大気搬送工程に分けて示している。本実施例は第2の給気工程が実施例1と異なる。第2の給気工程と同じ制御によりロードロック室26を500Paに維持する。
【0070】
第3の実施例のロードロック室26は常に最大の熱泳動力を発生することができるため、第1、実施例2によるロードロック室26よりも微粒子の付着低減効果が大きい。よって第3の実施例はウエハ8Aへの微粒子付着を低減できる。
【0071】
上述の実施例はシリコン基板である半導体ウエハへの適用例であるが、本発明が適用される基板はウエハに限定されない。また、真空室は、基板の表面近傍に浮遊するパーティクルに熱泳動力が作用し、基板表面へのパーティクル付着を低減することができる。また、本実施例では基板の表面を重力と垂直な方向に配置しているが、本発明は基板の向きを限定するものではない。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1による露光装置の概略断面図である。
【図2】図1に示すロードロック室の概略断面図である。
【図3】図1に示すロードロック室に浮遊するフッ素微粒子に作用する熱泳動力を示したグラフである。
【図4】フッ素微粒子の移動速度と圧力の関係を示したグラフである。
【図5】本発明の実施例1によるフローチャートである。
【図6】本発明の実施例1によるロードロック室の圧力曲線を示したグラフである。
【図7】本発明の実施例2によるロードロック室の圧力曲線を示したグラフである。
【図8】本発明の実施例3によるロードロック室の圧力曲線を示したグラフである。
【符号の説明】
【0074】
3 露光室(真空室)
4B 排気ユニット
18 保持ユニット
19 遮蔽体
21 駆動ユニット
22A、22B 温調ユニット
24 ロードロック室(真空室)
29 給気ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空環境下で基板を処理する処理装置の真空室の雰囲気を置換する方法であって、
前記真空室内に設置された保持ユニットで前記基板を保持する工程と、
前記真空室の雰囲気を排気又は給気によって置換する工程とを有し、
前記真空室の雰囲気を置換する工程では、前記真空室内に設置された集塵ユニットの温度が前記基板の温度よりも低い温度に調節された状態で、前記真空室の圧力を10Pa以上10000Pa以下の範囲で10秒以上600秒以下維持することを特徴とする雰囲気置換方法。
【請求項2】
前記保持ユニットに保持された前記基板と前記集塵ユニットの一方を他方に近づける工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の雰囲気置換方法。
【請求項3】
前記近づける工程では、前記保持ユニットに保持された前記基板と前記集塵ユニットとの間の空間の温度勾配が10K/cm以上となるように、前記保持ユニットに保持された前記基板と前記集塵ユニットの一方を他方に近づけることを特徴とする請求項2に記載の雰囲気置換方法。
【請求項4】
前記真空室は、前記基板を処理する処理室にゲートバルブを介して連結されたロードロック室であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の雰囲気置換方法。
【請求項5】
真空環境下の処理室で基板を処理する工程と、
前記基板を処理する処理室にゲートバルブを介して連結されたロードロック室の雰囲気を請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の雰囲気置換方法を用いて置換する工程と、
前記ゲートバルブを介して前記処理室と前記ロードロック室との間で前記基板を移動させる工程と、を有することを特徴とする基板の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−277779(P2008−277779A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75897(P2008−75897)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】