説明

電位差法を用いた深い亀裂に対する亀裂深さ測定手法および装置

【課題】
深い亀裂に対して高い精度で亀裂深さを測定する装置を提供する。
【解決方法】
配管表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する配管の亀裂検出装置であって、前記一対の電流供給用電極、前記一対の電位差測定用電極の電極間隔、及び供給する電流値を所定の値に設定して亀裂の深さを測定する装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば配管等に発生する亀裂の大きさを測定する装置に関し、特にいわゆる電位差法と呼ばれる方法により亀裂の大きさを測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電プラントにおいては、プラント構成機器の保守点検等のために配管等に発生する亀裂の非破壊検査が実施されている。例えば表面亀裂に対する非破壊検査としては浸透探傷検査や磁粉探傷検査が用いられているが、これらはきずの長さが判明するだけである。きずの深さを測定するには超音波検査や電位差法を用いた測定装置によって測定することが効果的である。
【特許文献1】特許第3116123号
【特許文献2】特許第3586413号
【特許文献3】特開2004−271218号
【特許文献4】特開2004−177274号
【特許文献5】特開2003−177117号
【特許文献6】特開2003−14658号
【特許文献7】特開2002−12990号
【特許文献8】特開2001−281167号
【特許文献9】特開平11−281591号
【特許文献10】特開平09−297074号
【特許文献11】特開平06−201632号
【特許文献12】特開平06−109684号
【特許文献13】特開平06−82412号
【特許文献14】特開平05−288725号
【特許文献15】特開平05−322829号
【特許文献16】特開昭60−137564号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超音波検査では一般に斜角探傷による1回反射法や表面波法が用いられるが、被検査体の幾何学的な形状によっては、検査が困難であったり測定精度が低下したりする場合がある。また被検査体の材質毎に基準感度試験片が必要になるほか、材質によっては超音波が拡散、減衰し測定精度が低下する問題がある。一方、電位差法は、被検査体の材質や形状に関わらず適用することが可能であるが、深い亀裂を測定するためには大電流を必要としており、電極先端や亀裂先端部での発熱に基づく電気抵抗率変化の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
これに対し本発明は、電極間隔、電流値に関する検討をし、亀裂深さに応じて適切な電極間隔を選択することにより極力小さな電流を用いて高感度化を図る方法および装置である。また、電極先端や亀裂先端部の発熱による電気抵抗率の変化を極力抑えることができ、測定する亀裂深さの精度をより向上させることができる。
【0005】
より詳細には本発明は、直流を用いた電位差法において配管表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する配管の亀裂検出装置であって、前記一対の電流供給用電極、前記一対の電位差測定用電極の電極間隔、及び供給する電流値を所定の値に設定して亀裂の深さを測定する装置を提供する。この装置により亀裂の深さに対して最適な電極間隔、電流値で測定することができ測定精度も向上する。
【0006】
上記のような電極間隔、電流値はそれぞれ次のようになる。亀裂深さが0〜5mmに対して電流供給用電極の間隔は2mmから10mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから9mmの範囲であり、供給電流値は0.1Aから10Aの範囲である。亀裂深さが5〜15mmに対して電流供給用電極の間隔は10mmから30mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから20Aの範囲である。亀裂深さが15〜30mmに対して電流供給用電極の間隔は20mmから60mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。亀裂深さが30〜60mmに対して電流供給用電極の間隔は30mmから100mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。このような値にすることによって上記のように測定精度を向上させることができる。
【0007】
また幾何学的な形状に対して測定する場合には、前記一対の電流供給用電極と前記一対の電位差測定用電極はそれぞれ別体である装置を提供する。このことによって従来は不可能であった幾何学的な形状での亀裂を高い精度で測定できるようになる。
【0008】
このような装置によって亀裂深さを測定するには、配管表面に一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを接触させ、電位差法を用いて亀裂の深さを測定する方法であって、前記一対の電流供給用電極、前記一対の電位差測定用電極の電極間隔、及び供給する電流値を所定の値に設定して亀裂の深さを測定する方法を提供する。
【0009】
さらに、表面が幾何学的な形状での測定は、配管表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する配管の亀裂検出方法であって、前記一対の電流供給用電極と前記一対の電位差測定用電極はそれぞれ別体であり、各電極を曲面に接触させて亀裂の深さを検出する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することにより、深い亀裂の亀裂深さの変化に対応した高精度測定ができるようになり、さらに幾何学的な形状に対しても高精度で亀裂の深さが測定できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施例を図を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は本発明の装置において、電流供給用電極4と電位差測定用電極3が設けられたセンサ部2を示した図である。図のように、各電位差測定用電極3を挟むように電流供給用電極4が2つ配置されている。またこれらの電極は同一直線上に配置されることが好ましい。
【0013】
図2は本発明の電極部分を拡大して示した図である。ここでは亀裂を測定する対象として配管を想定する。しかしながら本発明は配管に限定されるものではない。電位差測定用電極3が亀裂1の両側に一対配置され、さらに該電位差測定用電極3を挟むように電流供給用電極4が一対配置される。これらの電極は亀裂の長さ方向に対して直角に配置されることが好ましい。この状態で電流供給用電極4に所定の電流を流して、亀裂1の両側の電位差を電位差測定用電極3で測定する。詳細は後述するが、電流供給用電極4の間隔6、電位差測定用電極3の間隔5は亀裂の深さによって適切な値が存在するため、あらかじめ各電極間隔に設定したセンサ部2をいくつか用意する。このような構成において、本願発明者らは深い亀裂に対して高い精度で測定できる各電極の間隔および供給電流値を見いだした。
【0014】
ここで電位差測定用電極3の電極間隔5がamm、電流供給用電極4の電極間隔6がbmmのセンサを「b−aセンサ」と表記する。図3(a)、(b)では、あるb−aセンサについて亀裂の深さと測定される電圧との関係を示した。図3(a)では亀裂深さが0〜3mmの範囲でグラフの傾きが大きいため、この範囲の亀裂に対しては測定精度がよい。一方で、図3(b)に示したように亀裂深さが4mm以上になると傾きが小さくなるため測定精度も低くなる。よってb−aセンサでは4mm以上の亀裂の測定には適さない。このようにして、亀裂深さと電流供給用電極4の間隔6、電位差測定用電極3の間隔5、および供給電流値を変化させることによって精度の高い測定ができる電極間隔を知ることができる。
【0015】
上記のようにして本願発明者らが見いだした電流供給用電極4の電極間隔6、電位差測定用電極3の電極間隔5および供給電流値を以下の表に示す。表からわかるように、亀裂深さ1が0〜5mmに対して電流供給用電極の間隔は2mmから10mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから9mmの範囲であり、供給電流値は0.1Aから10Aの範囲である。以下同様に亀裂深さ1が5〜15mmに対して電流供給用電極の間隔は10mmから30mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから20Aの範囲である。亀裂深さ1が15〜30mmに対して電流供給用電極の間隔は20mmから60mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。亀裂深さ1が30〜60mmに対して電流供給用電極の間隔は30mmから100mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。以降同様にして、さらに深い範囲に対しても「電流供給用電極の間隔」、「電位差測定用電極の間隔」及び「供給電流値」の各々の値を変化させることにより精度の高い測定ができることは、当業者によれば類推が可能な内容である。尚下の表において「可」とは十分高い精度で測定できることを意味しており、「やや可」とは十分高い精度ではないが、測定可能であることを意味している。「不可」とは測定結果に大きな誤差を含んでおり測定には適さないことを意味する。
【表1】

また、より精度を高く測定するには、各電極間隔、電流値をさらに限定し、以下の表2のようになる。
【表2】

【0016】
次に本発明の装置により亀裂深さを測定する方法を説明する。まず図4は亀裂1を横から見たときの断面図である。通常、亀裂1は図のように概略楕円の形状で進展していくことが知られている。従って表面から見た場合に亀裂1の長さから、概略的な亀裂の深さ7を推定することができる。このことは最初に使用するセンサ部2を選択するときに、適切なセンサ部を見積もることに応用できる。次に前記のように亀裂1の両側に各電極が配置されるように表面8に各電極を接触させる。このとき、各電極が配置されている直線が、亀裂の長さ方向に対して直角になるように接触させることが好ましい。
図5には装置の全体図を示している。本発明による装置は電極間隔の異なる交換可能なセンサ部2があり、詳細は後述するが測定に際して最終的に適切なセンサ部2が選択される。該センサ部2には電気的な接続を図るための第1端子10がセンサ本体9に設けられており、この第1端子10をケーブル側の第1ソケット11に差込むことによって電気的に接続される。ケーブル16は他端に第2ソケット14を有しており、本体17の第2端子15に接続される。その他に本体17は操作部12とディスプレー13があり、操作部12によって電流値を設定し測定を開始する。これら第1、第2ソケット11、14あるいは第1、第2端子10、15の形状は任意の形状にすることができ、本実施例に限定されるものではない。
【0017】
このようにして最初に亀裂深さを測定する。次に測定の手順をフローチャートを用いて説明する。図6に示したように最初にセンサを選択18する。これは任意に選択したセンサを用いる。測定結果がその電極間隔で測定できる範囲の数値であるか否かの測定可能範囲の確認19を行う。もし測定可能範囲内であればその値を測定値として測定終了20とする。もし測定可能範囲外の数値、つまり上記表中の「不可」に相当する数値であれば、大きな誤差を含んでいることになるので測定可能範囲の比較21へ進む。数値が測定可能範囲より大きければ処理22へ進み1段階深い測定範囲のセンサに取り替える。また、数値が測定可能範囲より小さければ処理23へ進み1段階浅い測定範囲のセンサに取り替える。次に再度処理19に戻り測定する。このようにして、センサ部2を変更しながら測定することによって深い亀裂の亀裂深さの変化に対応した高精度測定ができる。
本実施例の測定方法において図6の参照番号21で示した処理は、測定した亀裂深さが測定可能範囲より大きいか否かを判定する処理であるが、測定可能範囲より小さいか否かを判定する処理でもよい。このような場合には「YES]、「NO」の分岐が逆になることは当業者であれば容易に理解できる。さらには、分岐の判断に「YES]、「NO」つまり真偽を判定する論理演算を用いる代わりに、測定可能範囲と比較して「大きい」、「小さい」を判定する数値的な演算を用いることもできる。このような処理は当業者であれば様々な方法が考えられるが、全て本発明の範囲に含まれる。本発明では上記のように最初は任意のセンサを選択しているが、処理18であらかじめきずの長さを測定し対応するセンサを選択してもよい。
【0018】
本発明では電流供給用電極4と電位差測定用電極3を別体とすることで幾何学的形状に対しても高精度で亀裂深さを測定することができる。このような構造のセンサ部2を図8に示した。図示したように亀裂1に対して電位差測定用電極3を接触させ、別体の電流供給用電極4を表面8に接触させる。このように配置することで曲面のような幾何学的形状でも亀裂深さを測定できる。このとき、電流供給用電極4は溶接等で表面8に固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の装置のセンサ部を示した図である。
【図2】図2は各電極を表面に接触させたときの図である。
【図3】図3(a)、(b)はb−aセンサの測定結果を示したグラフであり、(a)は亀裂深さが3mm、(b)は亀裂深さが16mmまでの測定結果である。
【図4】図4は亀裂を横から見たときの断面図である。
【図5】図5は本発明の装置の全体図を交換用のセンサ部と共に示している。
【図6】図6は本発明の方法による測定手順の流れを示している。
【図7】図7は本発明のセンサの他の実施例を示している。
【符号の説明】
【0020】
1 亀裂
2 センサ部
3 電位差測定用電極
4 電流供給用電極
5 電位差測定用電極の間隔
6 電流供給用電極の間隔
7 亀裂の深さ
8 表面
9 センサ本体
10 第1端子
11 第1ソケット
12 操作部
13 ディスプレー
14 第2ソケット
15 第2端子
16 ケーブル
17 本体
18 センサを選択
19 測定可能範囲の確認
20 測定終了
21 測定可能範囲の比較
22 1段深い測定範囲のセンサの選択
23 1段浅い測定範囲のセンサの選択

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する亀裂検出装置であって、前記一対の電流供給用電極、前記一対の電位差測定用電極の電極間隔、及び供給する電流値を所定の値に設定して亀裂の深さを測定する装置。
【請求項2】
前記一対の電流供給用電極、一対の電位差測定用電極、及び供給する電流値は亀裂の深さによって以下のように設定する請求項1に記載の装置。
亀裂深さが0〜5mmに対して電流供給用電極の間隔は2mmから10mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから9mmの範囲であり、供給電流値は0.1Aから10Aの範囲である。
亀裂深さが5〜15mmに対して電流供給用電極の間隔は10mmから30mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから20Aの範囲である。
亀裂深さが15〜30mmに対して電流供給用電極の間隔は20mmから60mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。
亀裂深さが30〜60mmに対して電流供給用電極の間隔は30mmから100mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。
【請求項3】
表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する亀裂検出装置であって、前記一対の電流供給用電極と前記一対の電位差測定用電極はそれぞれ別体である請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
表面に一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを接触させ、電位差法を用いて亀裂の深さを測定する方法であって、前記一対の電流供給用電極、前記一対の電位差測定用電極の電極間隔、及び供給する電流値を所定の値に設定して亀裂の深さを測定する方法。
【請求項5】
前記一対の電流供給用電極、一対の電位差測定用電極、及び供給する電流値は亀裂の深さによって以下のように設定する請求項4に記載の方法。
亀裂深さが0〜5mmに対して電流供給用電極の間隔は2mmから10mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから9mmの範囲であり、供給電流値は0.1Aから10Aの範囲である。
亀裂深さが5〜15mmに対して電流供給用電極の間隔は10mmから30mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから20Aの範囲である。
亀裂深さが15〜30mmに対して電流供給用電極の間隔は20mmから60mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。
亀裂深さが30〜60mmに対して電流供給用電極の間隔は30mmから100mmの範囲であり、電位差測定用電極の間隔は1mmから20mmの範囲であり、供給電流値は1Aから50Aの範囲である。
【請求項6】
表面に接触される一対の電流供給用電極と、一対の電位差測定用電極とを有する亀裂検出方法であって、前記一対の電流供給用電極と前記一対の電位差測定用電極はそれぞれ別体であり、各電極を曲面に接触させて亀裂の深さを検出する請求項4又は5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−308324(P2006−308324A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128297(P2005−128297)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】