説明

電力制御方法、電力制御装置および画像形成装置

【課題】電力供給の自由度があってかつ力率をできるだけ高く維持しつつ高調波を抑制すること。
【解決手段】位相制御を行って第1負荷および第2負荷に交流電力を供給するための電力制御方法であって、交流電力の半波において、第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ第2負荷には位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、その際に、位相角φ1および位相角φ2を、第1負荷および第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域EKに入らないように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御方法、電力制御装置および画像形成装置に関する。本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置、およびこれらの複合機などの電子写真方式の画像形成装置などの電力制御に利用される。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた画像形成装置では、用紙上に形成された未定着トナー像を熱で溶融して定着させるために、その熱源としてヒーターを備えている。ヒーターの温度を制御するために、ヒーターに供給する電力が種々の方法によって制御される。そのような電力制御方法として、位相制御、波数制御、またはこれらを組み合わせた制御が従来から用いられている。
【0003】
図15は位相制御について説明するための電圧の波形を示す図であり、図16は波数制御について説明するための電圧の波形を示す図である。
【0004】
位相制御は、負荷に対して、交流電源からの交流電力を半サイクル(半波)内の任意の位相角からゼロクロス点まで電力を供給し、この任意の位相角を変化させることで供給電力を可変にする制御方法である。例えば、負荷であるヒーターには図15に示す波形の電圧が加えられることになる。図15において、半サイクルが1制御周期である。図15に示すように、1制御周期当たりの電圧の印加時間つまり導通角が時間の経過とともに大きくなることによって、ヒーターに供給される電力が徐々に増加していく。
【0005】
位相制御によって、このようなスルーアップ制御が行われる。また、これとは逆に、ヒーターの通電終期において供給電力を時間の経過とともに徐々に減少させるスルーダウン制御も行われる。
【0006】
このような制御によって、ヒーターへの突入電流による一時的な電源電圧の降下を抑制し、蛍光灯のちらつきなどを低減することができる。
【0007】
また、波数制御は、交流電力の半サイクルを1つの単位として、半サイクルごとにONまたはOFFすることで、負荷に対する供給電力を可変にする制御方法である。例えば、負荷であるヒーターには図16に示す波形の電圧が加えられることになる。図16において、4サイクルが1制御周期である。図16に示す例では、1制御周期あたりの電力供給量は50%である。
【0008】
位相制御と波数制御を組み合わせた制御方法の1つが特許文献1に提案されている。
【0009】
しかし、位相制御および波数制御では次のような問題がある。すなわち、位相制御では、交流の半サイクル内でヒーターをオンまたはオフするため、オンする際に生じる急激な電流変動によって高調波電流歪やスイッチングノイズが発生するという問題がある。また、波数制御では、位相制御と比較して交流電源の電圧変動が大きくなる可能性があり、同一電源環境下の蛍光灯などにちらつき(フリッカー)が発生しやすいという問題がある。
【0010】
また、昇圧チョッパなどを用いた電力制御装置もあるが、コストが高くなるという問題がある。
【0011】
位相制御における力率を改善するために、3種類の負荷のうちの1つがオンとなっている場合に他の2つの負荷をオフし、いずれかの負荷に電力を供給するように制御する制御方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−286649号公報
【特許文献2】特開2010−186218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献2に開示された制御方法では、1つの負荷のオン期間が決まると他の負荷をオンできる期間が限られることになるので、各負荷に対する電力供給の自由度があまり高くなく、電力可変性が低い。
【0014】
また、電力制御においては、力率をできるだけ高く維持しつつ高調波を抑制できることが望ましい。
【0015】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされた発明であり、その目的は、電力供給の自由度があってかつ力率をできるだけ高く維持しつつ高調波を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る電力制御方法は、位相制御を行って第1負荷および第2負荷に交流電力を供給するための電力制御方法であって、交流電力の半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には前記位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、その際に、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する。
【0017】
また、本発明に係る画像形成装置は、位相制御により交流電力が供給される第1負荷および第2負荷を備えた画像形成装置であって、前記第1負荷への交流電力の供給を制御する第1スイッチング手段と、前記第2負荷への交流電力の供給を制御する第2スイッチング手段と、前記第1スイッチング手段および前記第2スイッチング手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、交流電力の半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には前記位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、その際に、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する、制御を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、電力供給の自由度があってかつ力率をできるだけ高く維持しつつ高調波を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略の内部構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る画像形成装置の加熱ローラーの内部を示す透視図である。
【図3】画像形成装置の電力制御に関係する部分についてのブロック図である。
【図4】画像形成装置の電力制御装置の構成を示す図である。
【図5】オーバーラップ制御における各部の波形を示す図である。
【図6】改良オーバーラップ制御における禁止領域を示す図である。
【図7】デューティ比が同じであるときの力率および高調波の変化を示す図である。
【図8】図7の一部が拡大して示す図である。
【図9】ブロック制御に用いる制御データの例を示す図である。
【図10】ブロック制御に用いる制御データの具体例を示す図である。
【図11】ブロック制御における各部の波形を示す図である。
【図12】デューティ比が異なるときの力率および高調波の変化を示す図である。
【図13】図12の一部を拡大して示す図である。
【図14】デューティ比が異なる場合のブロック制御における各部の波形を示す図である。
【図15】位相制御について説明するための電圧の波形を示す図である。
【図16】波数制御について説明するための電圧の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔概要〕
以下において、本発明に基づく電力制御方法を採用した画像形成装置1の一実施形態について説明する。実施形態では、画像形成装置1の定着装置に設けられた加熱ローラーを加熱するヒーターに対し、本発明に基づく電力制御方法が適用される。
【0021】
実施形態で説明する電力制御方法では、負荷である2つのヒーターに対し、交流電力の半波において、第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ第2負荷には位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給する。
【0022】
つまり、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップするように制御する。なお、オーバーラップとは、お互いの一部が重なることである。
【0023】
そして、その際に、位相角φ1および位相角φ2を、第1負荷および第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域(不使用範囲)に入らないように設定する。
【0024】
禁止領域として、力率が力率基準値以下であるかまたは高調波が高調波基準値以上である位相角の範囲が設定される。
【0025】
力率基準値は、例えば0.95である。
【0026】
また、1つの半波の全位相角に対する負荷へ電力を供給する位相角の範囲(導通角)の割合をデューティ比と定義したときに、第1負荷についてのデューティ比と第2負荷についてのデューティ比とを同じにする。
【0027】
また、第1負荷についてのデューティ比と第2負荷についてのデューティ比とに差を設け、その差を所定の値とすることもある。
【0028】
また、負荷である2つのヒーターに対して、電源からの交流電力における連続する複数個の半波を1つの周期(制御サイクル)として位相制御を行う。
【0029】
複数個の半波からなるブロックを1つの制御サイクルとして位相制御を行う制御方法を「ブロック制御」ということがある。また、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップするように制御する制御方法を「オーバーラップ制御」ということがある。
【0030】
以下において詳しく説明する。
〔画像形成装置の構成〕
図1は本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の内部構成の例を示す図であり、図2は本実施形態に係る画像形成装置1の加熱ローラー51の内部を示す透視図である。
【0031】
図1に示すように、画像形成装置1はタンデム型のプリントエンジンを内蔵した電子写真方式のフルカラー画像形成装置である。画像形成装置1は、一般に複合機またはMFP(Multi Function Peripherals)と呼ばれる装置であって、コピー、ネットワークプリンティング(PCプリント)、ファックス、およびスキャナなどの機能を集約した装置である。
【0032】
画像形成装置1は、画像形成部20および給紙部60などを備える。給紙部60は、各サイズの用紙YSを収納するための給紙カセット61、および、給紙カセット61に収納された用紙YSを1枚ずつ取り出して搬送路HRへと送るローラー群62〜66を備える。給紙カセット61から搬送路HRへと送られた用紙YSは、矢印M1方向に進む。
【0033】
ローラー群62〜66は、具体的には、ピックアップローラー62、給紙ローラー63、分離ローラー64、搬送ローラー対65、およびレジストローラー対66である。ピックアップローラー62は、給紙カセット61から用紙YSを取り出す。給紙ローラー63は、取り出された用紙YSを搬送路HRへと送る。分離ローラー64は、給紙ローラー63に対して用紙YSを挟んで対向する位置に配置されている。分離ローラー64は、複数枚重なったままの用紙YSが搬送路HRに送られることがないよう、用紙YSを一枚ずつに分離する。搬送ローラー対65は、一枚ずつ送られてくる用紙YSを搬送路HRに沿って送る。レジストローラー対66は、用紙YSを一時待機させた後、所定のタイミングで中間転写部40に供給する。
【0034】
画像形成部20は、電子写真方式によって用紙上に画像を形成するものであって、イメージングユニットU、中間転写部40、および定着部50を備えている。
【0035】
イメージングユニットUは、Y(イエロー)、M(マジェンダ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色にそれぞれ対応するイメージングユニットUY、UM、UC、UKから構成されている。各イメージングユニットUY、UM、UC、UKは、この順で中間転写ベルト41に沿って配置されている。各イメージングユニットUY、UM、UC、UKは、それぞれ、感光体ドラム21、帯電チャージャー22、感光体ドラム21の表面を露光して静電潜像を形成する露光部23、静電潜像を各色のトナーで現像してトナー像を形成する現像部24、トナー像を中間転写ベルト41に転写(一次転写)するための転写チャージャー25、感光体ドラム21の表面をクリーニングするクリーナー26、および、図示しない転写ローラーなどを備えている。イメージングユニットUにより、矢印M2方向に走行している中間転写ベルト41上に各色のトナー像(トナー画像)が、順次、転写位置が合うように重なって転写される。
【0036】
中間転写部40には、トナー像が転写される中間転写ベルト41と、複数のローラー42、43、44と、二次転写ローラー45とが設けられている。中間転写ベルト41は、ローラー42〜44により支持されていて、これらが回転駆動することにより矢印M2方向に走行する。二次転写ローラー45は、中間転写ベルト41を介してローラー44に対向するように配置されている。二次転写ローラー45は、中間転写ベルト41に対して接離可能であり、二次転写ローラー45が中間転写ベルト41に圧接されることで二次転写ローラー45とローラー44との間に転写ニップ部が形成される。
【0037】
用紙YSは中間転写ベルト41の走行と同期して搬送され、転写ニップ部においてトナー像が形成された中間転写ベルト41と接する。二次転写ローラー45にバイアス電圧が加えられることで、中間転写ベルト41上に形成されたトナー像が用紙YS上に転写(二次転写)される。二次転写によってトナー像が転写された用紙YSは定着部50に搬送される。
【0038】
定着部50には、内部に熱源を有する加熱ローラー51、加熱ローラー51と用紙YSを挟んで対向する位置に配置されて加熱ローラー51との間にニップ部を形成する加圧ローラー52、および用紙搬送ガイド53が設けられる。トナー像が形成された用紙YSは定着部50に搬送される。用紙YSは、用紙搬送ガイド53に案内されて搬送路HR上を搬送されて、加熱ローラー51および加圧ローラー52により形成されたニップル部において加熱される。加熱によりトナーが溶融し、トナー像が用紙YSに定着する。
【0039】
加熱ローラー51および加圧ローラー52によってトナー像が定着された用紙YSは、搬送路HR上を搬送されてトレイ70上に排出される。
【0040】
図2に示すように、加熱ローラー51の内部には、熱源である第1ヒーター81および第2ヒーター82が配置されている。第1ヒーター81および第2ヒーター82には、例えばハロゲンヒーターが用いられる。
【0041】
第1ヒーター81は、加熱ローラー51の中央部付近に配置され、加熱ローラー51の軸方向に沿って伸びる棒状の形状であり、加熱ローラー51の中央部付近を加熱する。第2ヒーター82は、加熱ローラー51の両端部付近にそれぞれ配置された2つのヒーター部82a、82bを有し、これら2つのヒーター部82a、82bは互いに離間して設けられている。ヒーター部82a、82bは、例えば、リード線で電気的に直列接続される。さらに、第1ヒーター81および第2ヒーター82のそれぞれには、電力の供給のためのード線L1、L2が接続されている。第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する電力を制御することにより、加熱ローラー51の温度が制御される。
【0042】
また、第1ヒーター81および第2ヒーター82のそれぞれには、これらの温度を測定するための第1温度センサー91および第2温度センサー92が設けられている。第1温度センサー91および第2温度センサー92によって検知された温度検知信号St1、St2は、制御部33に送られる。これら第1温度センサー91および第2温度センサー92として、例えば熱電対または半導体センサーなどが用いられる。
〔画像形成装置の電力制御〕
次に、画像形成装置1における電力制御について説明する。
【0043】
図3には画像形成装置1の電力制御に関係する部分について説明するためのブロック図が、図4には画像形成装置1の電力制御装置30の構成が、それぞれ示されている。
【0044】
図3に示すように、画像形成装置1には、電力制御装置30および制御部33が設けられる。二次側負荷34は、画像形成装置1のうちの直流電力が供給される要素である。
【0045】
つまり、二次側負荷34は、例えば、イメージングユニットU、中間転写部40、定着部50、給紙部60などにおける各ローラーや各ファンを駆動するためのモーターなどである。制御部33の電子回路(電子部品)を動作させるためにも直流電力が供給されることから、これらの電子回路も二次側負荷34に含まれる。また、感光体ドラム21への静電潜像の形成、中間転写ベルト41へのトナー像の転写および用紙YSへのトナー像の転写などの各工程においても直流電力が用いられる。したがって、これらの各工程による負荷も二次側負荷34に含まれることがある。
【0046】
制御部33および電力制御装置30は、位相制御を行って第1負荷(第1ヒーター81)および第2負荷(第2ヒーター82)に、それぞれ所定の交流電力を供給する。なお、第1ヒーター81および第2ヒーター82を、単に「負荷」と記載することがある。
【0047】
制御部33は、加熱ローラー51の表面が所定の温度となるように、温度検知信号St1、St2に基づいて、第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する電力を制御する。
【0048】
交流電源35は、商用電源からの交流電力を画像形成装置1に供給する。電力制御装置30は、交流電源35から交流電力を供給され、供給された交流電力の一部を加熱ローラー51の第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する。また、交流電力の一部は、電力制御装置30により直流電力に変換されて二次側負荷34および制御部33に供給される。
【0049】
二次側負荷34には、各ローラーを回転駆動させるために用いられるモーター、クラッチなどの負荷、ディスプレイを表示させるための負荷などが含まれる。
【0050】
電力制御装置30は、レギュレーター10、第1スイッチング部31、第2スイッチング部32、およびゼロクロス検出回路36を備える。
【0051】
図4に示すように、レギュレーター10は、コンデンサインプット形の整流回路18、トランス13、ダイオード14、第2平滑コンデンサ15、二次側出力回路16、および整流スイッチング回路17を備える。
【0052】
整流回路18は、4本のダイオードにより構成されたブリッジダイオード11および第1平滑コンデンサ12を備える。整流回路18は、交流電源35から入力された交流電力を整流する。交流電力はブリッジダイオード11により全波整流され、第1平滑コンデンサ12により平滑化される。
【0053】
整流回路18からの出力は、整流回路18の後段に接続された回路により、所定の一定の電圧となるように調整される。整流回路18の後段には整流スイッチング回路17を介してトランス13が接続される。二次側出力回路16からの制御信号Sdによって整流スイッチング回路17が所定の間隔でオン/オフを繰り返すことにより、整流回路18の直流出力(脈流出力)は高周波の交流波形となる。整流スイッチング回路17は、例えばバイポーラトランジスターまたはMOSFETなどを用いて構成することができる。
【0054】
高周波の交流波形は、トランス13により変圧され、ダイオード14により整流され、第2平滑コンデンサ15により平滑化されることで、直流電力に変換される。レギュレーター10によって所定の電圧を生成するよう、二次側出力回路16は整流スイッチング回路17の位相制御を行い、フィードバック制御を行う。電力制御装置30により生成された直流電力は二次側負荷34に供給される。
【0055】
ゼロクロス検出回路36は、交流電源35の交流電圧Viのゼロクロスポイントを検出し、検出したゼロクロスポイントをゼロクロス検知信号Szとして制御部33に送る。
【0056】
第1スイッチング部31および第2スイッチング部32は、それぞれ、制御部33から送られてくるヒーター制御信号Sh1、Sh2に応じてオンまたはオフする。
【0057】
第1スイッチング部31および第2スイッチング部32は、それぞれ、制御部33から送られてくるヒーター制御信号Sh1、Sh2に応じてオンまたはオフする。これにより、第1スイッチング部31および第2スイッチング部32は、それぞれ、第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する交流電力の位相制御を行う。第1ヒーター81および第2ヒーター82には、それぞれ、位相制御されたヒーター電流Ih1、Ih2が流れ込む。なお、ヒーター電流Ih1とIh2の合計が後で説明する総合電流Iaである。
【0058】
第1スイッチング部31および第2スイッチング部32は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor )などの自己消弧能力のある素子により構成される。これにより、任意の位相タイミングでオンしまたはオフすることができ、後述のような波形のヒーター電流Ih1、Ih2を生成することができる。
【0059】
制御部33は、例えばCPU、ROM、RAM、インターフェース回路、その他の周辺回路またはハードウエア回路などを用いて構成され、画像形成装置1の各部の動作を制御する。画像形成装置1の各部は、制御部33からの指令を受けて動作し、制御部33は各部の動作状態を各部からの信号などにより把握し管理する。
【0060】
制御部33は、温度検知信号St1、St2に基づいて、加熱ローラー51を所定の温度に維持するために第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給すべき電力(必要電力)Pn1、Pn2を求める。そして、求めた必要電力Pn1、Pn2が第1ヒーター81または第2ヒーター82に供給されるように、制御部33は、制御データTDに基づいて、ヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成する。生成されたヒーター制御信号Sh1、Sh2は、電力制御装置30に出力される。
【0061】
なお、必要電力Pn1、Pn2は、通常は互いに異なるが、互いに同じとなるように制御を行ってもよい。
【0062】
ヒーター制御信号Sh1、Sh2は、第1スイッチング部31および第2スイッチング部32におけるスイッチング素子のオン、オフのタイミング(位相角)、つまり導通角の始点および終点を指定することの可能な信号である。
【0063】
したがって、ヒーター制御信号Sh1、Sh2は、例えば、スイッチング素子の導通角に対応したオンオフ信号であってよい。つまり、スイッチング素子をオンさせる間においてオン(H)となり、オフさせる間においてオフ(L)となる2値信号とすることが可能である。また、スイッチング素子の導通角の始点および終点で立ち上がるパルス信号であってよい。また、第1スイッチング部31に対しては導通角の終点で立ち上がるパルス信号、第2スイッチング部32に対しては導通角の始点で立ち上がるパルス信号であってもよい。または、このような信号を生成することのできる信号、またはこのような信号に対応する信号であってもよい。
【0064】
制御データTDは、第1ヒーター81および第2ヒーター82について、必要電力Pnに対応したヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成するに必要なデータを記録したものである。このような制御データTDは、演算または実験などにより予め取得しておく。制御データTDは、制御部33のメモリ領域または他の適当なメモリ領域に格納されている。また、後述する禁止領域EKについてのデータなども、制御部33のメモリ領域または他の適当なメモリ領域に格納されている。
〔オーバーラップ制御〕
次に、制御部33によって実行されるオーバーラップ制御について説明する。
【0065】
なお、本実施形態の電力制御方法では、オーバーラップ制御を行うことに特徴があるが、それのみではなく、オーバーラップ制御において、力率をできるだけ高く維持しつつ高調波を抑制するように制御を行うことに大きな特徴がある。また、そのような制御を行いつつ、全体としてブロック制御を行うことにも特徴がある。
【0066】
図5には、オーバーラップ制御において第1ヒーター81および第2ヒーター82に印加される電圧波形および総合電流Iaの波形が示されている。図5において、交流電力の半波の期間を1つの区間とし、便宜上順に、第1区間、第2区間、第3区間…として示してある。各区間の始点は位相角0、中央の点は位相角π/2、終点は位相角πである。
【0067】
図5に示される第1区間において、第1負荷である第1ヒーター81には、位相角0から位相角π/2の範囲で交流電力が供給され、第2負荷である第2ヒーター82には、位相角π/2から位相角πの範囲で交流電力が供給される。
【0068】
つまり、第1区間では、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップすることなく、しかも区間の全位相角にわたって欠落することのないように電力が供給される。したがって、第1区間単独での位相制御はオーバーラップ制御ではない。
【0069】
第2区間および第3区間においては、第1負荷に、位相角0から、位相角π/2よりも大きい位相角φ1までの範囲で交流電力が供給され、第2負荷に、位相角π/2よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力が供給される。
【0070】
つまり、第2区間および第3区間では、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップしている。したがって、第2区間および第3区間での位相制御はオーバーラップ制御である。
【0071】
第4区間では、2つの負荷に対する電力の供給が区間の全位相角にわたって行われる。つまり、第4区間単独では位相制御は行われていない。
【0072】
なお、第1区間、第2区間、第3区間、第4区間における電力供給のデューティ比は、それぞれの負荷について、50%(パーセント)、60%、70%、100%である。
【0073】
上に述べた第2区間および第3区間のように、一組の負荷に対してオーバーラップ制御を行い、電力を供給する位相角の範囲つまりデューティ比を変更することによって、それら負荷に対して所望の必要な電力を供給することができる。また、各負荷についてのデューティ比を互いに異ならせることによって、それぞれの負荷に供給する電力を独立して設定することができる。したがって、電力供給の自由度が高い。
【0074】
また、一組の負荷の全体では区間の全位相角にわたって欠落することのないように電力が供給されるので、力率を高く維持することが可能であり、しかも高調波を抑制することができる。
【0075】
さて、オーバーラップ制御においては、デューティ比の値に応じて、力率および高調波の量が変化することが分かった。
【0076】
すなわち、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップしている(重複している)領域が、特定の領域つまり特定の位相角の範囲に入る場合は、高調波が大きくなり、力率が低くなるということが分かった。
【0077】
本実施形態では、位相角φ1、φ2がそのような特定の領域(禁止領域)に入らないように設定して、オーバーラップ制御を行う。以下、このようなオーバーラップ制御を「改良オーバーラップ制御」ということがある。
【0078】
そこで、次に、改良オーバーラップ制御について説明する。
〔改良オーバーラップ制御〕
図6には、改良オーバーラップ制御におけるデューティ比と禁止領域EKとの関係が示されている。図7には、オーバーラップ制御において、2つの負荷に対するデューティ比を互いに同一とし、そのデューティ比を変化させたときの力率および高調波の変化が示されている。図8には、図7の一部が拡大して示されている。
【0079】
図7において、横軸はデューティ比であり、縦軸は力率(右側目盛り)および高調波比率(左側目盛り)である。曲線CV1は力率を示し、曲線CV2は高調波比率を示す。
【0080】
なお、ここでの高調波比率は、シミュレーションにより求めた高調波の検証値の規格値に対する割合、つまり(検証値/規格値)×100%である。検証値は、負荷に流れる電流(合成電流)をフーリエ変換して2次〜40次の高調波を検出した値(検出値)に基づいた値である。規格値は、JIS C61000−3−2:2005で決められた2次〜40次の高調波の値である。2次〜40次の全ての次数について検出値を規格値と比較し、その中で高調波比率が最大となった次数の検出値を、そのデューティ比における検証値とした。
【0081】
図7に示すように、力率および高調波はデューティ比によって変化する。力率は、デューティ比が0のときは力率0であり、デューティ比が50%になると力率1となる。デューティ比が50%を越えると力率がやや低下し、デューティ比が100%になると力率1となる。
【0082】
また、高調波は、デューティ比が0および100のときに0であるが、中間においては、デューティ比が50のときを除き、100を越える部分がある。特にデューティ比が50に満たない場合には、区間の中で負荷に電力が供給されない欠落部分が生じることから、高調波が高いレベルで発生する。しかし、本実施形態では、オーバーラップ制御の対象はデューティ比が50%以上であることから、50%以上の部分のみについて考察する。
【0083】
図8において、禁止領域EKとして、力率が力率基準値である0.95以下であるか、または高調波(高調波比率)が高調波基準値である100以上である範囲が設定されている。図8から分かるように、このような禁止領域EKは、およそ、デューティ比が50%を越え、65以下の範囲である。
【0084】
禁止領域EK以外の領域においては、高調波比率は、高調波基準値である100以下であり、したがって高調波の全ての検出値がJISの規格値を下回る。また、力率については、0.95を上回り、良好な力率が維持されるといえる。
【0085】
改良オーバーラップ制御では、禁止領域EK以外の領域となるように、位相角φ1、φ2を設定して制御を行う。つまり、デューティ比が65%を越えるよう、つまり65%を越えるデューティ比に対応する位相角の範囲において、位相角φ1、φ2が設定される。
【0086】
なお、第1ヒーター81については、デューティ比が0のときは位相角は0であり、デューティ比が50、100のときは、位相角はそれぞれπ/2、πである。デューティ比が65のときは、位相角は65π/100である。このように、デューティ比〔%〕にπ/100を掛けると位相角になる。
【0087】
また、第2ヒーター82については、デューティ比が0のときは位相角はπであり、デューティ比が50、100のときは、位相角はそれぞれπ/2、0である。デューティ比が65のときは、位相角は35π/100である。このように、デューティ比〔%〕から100を引いた値にπ/100を掛けると位相角になる。
【0088】
図6において、1つの区間についての禁止領域EKが示されている。禁止領域EKの範囲は、位相角φ1について、50π/100<φ1≦65π/100の範囲であり、位相角φ2について、35π/100≦φ1<50π/100の範囲である。
【0089】
したがって、第1ヒーター81には、位相角0を始点として、位相角φ1が65π/100を越えるまでの範囲で交流電力が供給される。第2ヒーター82には、位相角φ2がπ/2以下である点を始点として、位相角πまでの範囲で交流電力が供給される。
【0090】
また、オーバーラップするデューティ比(重複デューティ比)は、30〜100%の範囲で可変できる。
【0091】
なお、図6には、デューティ比が70%の場合、つまり、φ1=70π/100、φ2=30π/100の場合が示されている。この場合に、重複デューティ比は40%である。
【0092】
第1ヒーター81および第2ヒーター82に対して、デューティ比が70%のヒーター制御信号Sh1、Sh2により位相制御が行われ、その導通角に対応した電流が流れる。総合電流Iaは、オーバーラップしている部分である位相角φ2〜位相角φ1において加算された波形となる。
【0093】
このような改良オーバーラップ制御を行うことにより、力率を高く維持することができ、高調波を抑制することができる。
〔ブロック制御〕
さて、上に述べたように、改良オーバーラップ制御では、禁止領域EKを設け、位相角φ1、φ2が禁止領域EKに入らないようにするため、通常のオーバーラップ制御に比べてデューティ比が制限され、そのため負荷に供給できる電力が制限される。
【0094】
しかし、次に説明するブロック制御を行うことにより、改良オーバーラップ制御における供給電力の制限が緩和される。
【0095】
すなわち、ブロック制御においては、交流電力における連続する複数個の半波を1つの周期(制御サイクル)として位相制御を行う。
【0096】
また、1つの制御サイクルに含まれる1つの半波については、2つの負荷に対する電力の供給がオーバーラップすることなくかつ全位相角にわたって欠落することのないように制御し、他の半波についてはオーバーラップ制御を行う。
【0097】
なお、本実施形態のブロック制御においては、オーバーラップ制御として改良オーバーラップ制御を行う。
【0098】
図9にはブロック制御に用いられる制御データTD1の例が、図10にはブロック制御に用いられる制御データTD2の具体例が、それぞれ示されている。
【0099】
図9において、制御データTD1は、種々の必要電力Pnについて、制御サイクルの各区間における第1ヒーター81および第2ヒーター82のオン期間のデューティ比を示す。
【0100】
図9に示す制御データTD1によると、例えば、第1ヒーター81は、第1区間において、デューティ比が「Am11」となるように、つまり半波の期間において、位相角0でオンした後、オンが「Am11」で示される期間続いた後である位相角φ1でオフとなる。また、第2ヒーター82は、第1区間において、デューティ比が「Am21」となるように、つまり半波の期間において、位相角φ2でオンし、位相角πでオフとなる。
【0101】
なお、本実施形態では、「Am11」と「Am21」とは同じであり、その結果、位相角φ1,φ2はともにπ/2となり、図5に示す第1区間と同じ状態の位相制御が行われる。
【0102】
すなわち、第1区間については、第1負荷および第2負荷に供給する交流電力の位相角の範囲がオーバーラップすることなく、かつ全位相角にわたって欠落することのないようにする。
【0103】
したがって、第1区間では、いずれかの負荷に連続して電力が供給され、しかも負荷の大きな変動を防げるので、力率が良好でありかつ高調波も少ない。
【0104】
また、ここでは、第1ヒーター81および第2ヒーター82の定格電力は互いに同じであるが、異なっていてもよい。
【0105】
制御データTD1の各数値などは、例えば次のようにして決定される。
【0106】
まず、第1区間におけるデューティ比「Am11」「Am21」が、合計が100パーセントとなるように決定される。例えば、上に述べたように、いずれも50パーセントに決定される。
【0107】
第1ヒーター81および第2ヒーター82の定格電力、交流電源35から供給される交流電力の電圧、およびデューティ比「Am11」「Am21」に基づいて、第1ヒーター81および第2ヒーター82にそれぞれ供給される電力(供給電力)Pr1が求められる。
【0108】
なお、ここでは簡単化するため、第1ヒーター81および第2ヒーター82の定格電力は同じであり、供給電力Pr1も互いに同じである。
【0109】
なお、1つの区間における供給電力Prは、その区間において供給される電力の平均値である。つまり、区間における供給電力Prは、区間における電力波形による面積を区間内において均した高さに等しい。
【0110】
次に、第2区間におけるデューティ比「Am12」「Am22」が、それらによる供給電力Pr2がそれぞれ必要電力Pnと等しくなるように求められる。第2区間においては、2つの負荷に供給する交流電力の位相角の範囲がオーバーラップするので、デューティ比「Am12」「Am22」の合計が100を越える。
【0111】
そして、第3区間におけるデューティ比「Am13」「Am23」が、それらによる供給電力Pr3が次の(1)式を満たすように求められる。
【0112】
Pn=(Pr1+Pr2+Pr3)/3 ……(1)
つまり、第1区間から第3区間までの全ての供給電力Prの平均値が必要電力Pnに等しくなるように、第3区間における供給電力Pr3が算出される。第3区間においても、2つの負荷に供給する交流電力の位相角の範囲がオーバーラップするので、デューティ比「Am13」「Am23」の合計が100を越える。
【0113】
なお、本実施形態では、「Am12」「Am22」「Am13」「Am23」は互いに同じである。また、Pr2、Pr3についても、互いに同じである。
【0114】
なお、制御データTDの作成に当たって、各負荷への供給電力Prは、各負荷の定格電力、交流電源35の電圧、およびデューティ比に基づいて決まるので、供給電力Pr2、Pr3が求められれば、これからデューティ比を算出することができる。
【0115】
図10に具体的な一例を示す制御データTD2では、第1区間についてはデューティ比が50であり、第2区間および第3区間についてはデューティ比がいずれも70である。
【0116】
制御部33は、第1ヒーター81および第2ヒーター82への必要電力Pnに対応して、制御データTD1を参照し、デューティ比を読み出す。読み出したデューティ比に基づいて、各ヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成する。
【0117】
なお、実際の制御において、必要電力Pnに対応した制御データTDがない場合には、その必要電力Pnに近い複数の制御データTDに基づいて、例えば補間演算などを行って、ヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成すればよい。
【0118】
次に、ブロック制御の具体例について説明する。説明中において、デューティ比または電力などについて具体的な数値が示されることがあるが、数値は理解を助けるための例示として挙げたものであり、各パラメータの間で整合性を持ったものではない。
【0119】
図11には、図10に示す制御データTD2を用いた場合のブロック制御における各部の波形が示されている。
【0120】
ここでは、第1ヒーター81および第2ヒーター82に対する必要電力Pnが、いずれも630Wであるとする。この必要電力Pnを供給するためには、ブロック制御でない単純な改良オーバーラップ制御ではデューティ比が63%となり、禁止領域EKに入ってしまう。したがって、このままでは改良オーバーラップ制御を行えない。
【0121】
そこで、3つの区間を1つの制御サイクルとして、1つの制御サイクル内において平均的に630Wの電力を供給するというブロック制御を行う。つまり、デューティ比が禁止領域EKに入るのを避けるために、1つの区間では供給電力Pr1を必要電力Pnよりも小さくし、他の2つの区間では供給電力Pr2,3を必要電力Pnよりも大きくし、それら3つの区間での供給電力Pr1〜3の平均が必要電力Pnに一致するように制御を行う。
【0122】
図11において、第1区間から第3区間までが1つの制御サイクルである。第3区間の後は次の制御サイクルの第1区間が続く。
【0123】
各区間において、第1ヒーター81には位相角0で電力の供給が開始され、第2ヒーター82には位相角πで電力の供給が終了する。
【0124】
第1区間では、第1ヒーター81および第2ヒーター82のデューティ比はそれぞれ50%であり、それぞれのヒーターに500Wの電力が供給される。
【0125】
第2区間では、第1ヒーター81および第2ヒーター82のデューティ比がそれぞれ70%であり、位相角φ1、φ2は禁止領域EKには入らない。これにより、それぞれのヒーターに700Wの電力が供給される。
【0126】
第3区間では、第2区間と同様に、第1ヒーター81および第2ヒーター82のデューティ比がそれぞれ70%であり、それぞれのヒーターに700Wの電力が供給される。
【0127】
第1〜3区間からなる制御サイクルにおける供給電力Prは、いずれのヒーターについても、
Pr=(500+700+700)/3
=633〔W〕
であり、約630Wである。
【0128】
つまり、ブロック制御によって、平均的な供給電力Prは、必要電力Pnである630Wとほぼ等しくなり、目的を達することができる。
【0129】
このような制御サイクルを連続して繰り返すことにより、第1ヒーター81および第2ヒーター82への供給電力を必要電力Pnである630Wに一致させることができる。
【0130】
しかも、改良オーバーラップ制御が行われているので、力率が高く維持され、高調波も抑制される。
【0131】
また、図8から分かるように、デューティ比が50%である場合に、力率は1に近く、高調波も大幅に少ない。そのため、制御サイクルの全体として、力率を向上させることが可能であり、しかも高調波を一層抑制することが可能である。
【0132】
なお、ここでの実施形態では、第2区間および第3区間のデューティ比を70%としたが、必要電力Pnに応じて異なる値とすることができる。また、第2区間と第3区間とを異なるデューティ比とすることも可能である。
【0133】
また、上のようにデューティ比を決めた第1区間、第2区間、第3区間について、この順とは異なる順となるように制御してもよい。例えば、第3区間、第2区間、第1区間の順、第2区間、第1区間、第3区間の順などである。
【0134】
また、連続する2つの制御サイクルにおいて、2つの目の制御サイクルでは区間の順を逆にし、第1区間、第2区間、第3区間、第3区間、第2区間、第1区間の順となるように制御してもよい。または、第2区間、第3区間、第1区間、第2区間、第3区間、第1区間の順となるように制御してもよい。この場合には、6個の半波で1つの制御サイクルを構成したことにもなる。このように、1つの制御サイクルの中に第1区間に相当する半波が2個以上含まれていてもよい。
〔2つの負荷のデューティ比が異なる場合の改良オーバーラップ制御およびブロック制御〕
次に、2つの負荷のデューティ比が異なる場合について、改良オーバーラップ制御およびブロック制御の例を説明する。
【0135】
図12には、オーバーラップ制御において、2つの負荷に対するデューティ比を互いに異ならせ、そのデューティ比を変化させたときの力率および高調波の変化が示されている。図13には、図12の一部が拡大して示されている。
【0136】
本実施形態においては、第1ヒーター81のデューティ比が第2ヒーター82のデューティ比よりも大きく、その差は20%である。
【0137】
例えば、第1ヒーター81のデューティ比が80%である場合に、第2ヒーター82のデューティ比は60%である。第1ヒーター81のデューティ比が61%である場合には、第2ヒーター82のデューティ比は41%である。
【0138】
図12において、曲線CV3はデューティ比の差が20%の場合の力率を示し、曲線CV4はデューティ比の差が20%の場合の高調波比率を示す。
【0139】
つまり、曲線CV3,4は、第1ヒーター81に電力を供給するデューティ比(第1デューティ比)と、第2ヒーター82に電力を供給するデューティ比(第2デューティ比)との差(デューティ比差)を20%とし、デューティ比差を20%に維持したまま第1デューティ比を変化させたときの力率と高調波比率とを示す。
【0140】
なお、図12、13においては、図7、図8で説明したデューティ比が同一の場合の曲線CV1,2についても、比較のために示した。
【0141】
図12によると、デューティ比が異なる場合であっても、力率および高調波比率の変化の傾向はデューティ比が同一である場合と似ていることが分かる。
【0142】
図13において、図8で説明したのと同様に、禁止領域EKとして、力率が力率基準値である0.95以下であるか、または高調波(高調波比率)が高調波基準値である100以上である範囲が設定されている。図13から分かるように、このような禁止領域EKは、およそ、デューティ比が60%を越え、78以下の範囲である。
【0143】
禁止領域EK以外の領域においては、高調波比率は高調波基準値である100以下であり、力率は、0.95を上回る。
【0144】
改良オーバーラップ制御では、禁止領域EK以外の領域となるように、位相角φ1、φ2を設定して制御を行う。つまり、第1ヒーター81については、デューティ比が78%を越えるよう、つまり78%を越えるデューティ比に対応する位相角の範囲において、位相角φ1が設定される。第2ヒーター82については、デューティ比が58%を越えるよう、つまり58%を越えるデューティ比に対応する位相角の範囲において、位相角φ2が設定される。
【0145】
なお、図13に示す禁止領域EKは、デューティ比差が20%の場合において、デューティ比が大きい方についての禁止領域EK(第1禁止領域EKA)であり、デューティ比が小さい方についての禁止領域EK(第2禁止領域EKB)は、この第1禁止領域EKAを低い方へ20%平行移動させたものとなる。つまり、デューティ比が小さい方についての第2禁止領域EKBは、デューティ比が40%を越え、58以下の範囲である。
【0146】
このように、2つの負荷のデューティ比が異なる場合の改良オーバーラップ制御では、第1負荷についての第1禁止領域EKAおよび第2負荷についての第2禁止領域EKBが設定される。第1禁止領域EKAおよび第2禁止領域EKBは、第1負荷についてのデューティ比と第2負荷についてのデューティ比との差に対応する位相角分だけずれて設定されることになる。
【0147】
このように、各負荷についてのデューティ比を互いに異ならせて改良オーバーラップ制御を行うことにより、それぞれの負荷に供給する電力を独立して設定することができるので、電力供給の自由度が高くなる。しかも、力率を高く維持することができ、高調波を抑制することができる。
【0148】
図14には、2つの負荷のデューティ比が異なる場合のブロック制御における各部の波形が示されている。
【0149】
ここでは、第1ヒーター81および第2ヒーター82に対する合計の必要電力Pnが630Wであるとし、デューティ比差を20%とする。必要電力Pnを供給するために、ブロック制御でない単純な改良オーバーラップ制御による場合は、第1ヒーター81のデューティ比が73%、第2ヒーター82のデューティ比が53%となり、禁止領域EKに入ってしまう。したがって、このままでは改良オーバーラップ制御を行えない。
【0150】
図14において、第1区間では、第1ヒーター81および第2ヒーター82のデューティ比はそれぞれ50%であり、合計で500Wの電力が供給される。
【0151】
第2区間では、第1ヒーター81のデューティ比は80%、第2ヒーター82のデューティ比は60%であり、位相角φ1、φ2はそれぞれ禁止領域EKには入らない。これにより、ヒーターに合計で700Wの電力が供給される。
【0152】
第3区間では、第2区間と同様に、第1ヒーター81のデューティ比は80%、第2ヒーター82のデューティ比は60%であり、位相角φ1、φ2はそれぞれ禁止領域EKには入らない。これにより、合計で700Wの電力が供給される。
【0153】
第1〜3区間からなる制御サイクルにおける供給電力Prは、
Pr=(500+700+700)/3
=633〔W〕
であり、約630Wである。
【0154】
つまり、ブロック制御によって、平均的な供給電力Prは、必要電力Pnである630Wとほぼ等しくなり、目的を達することができる。
【0155】
このような制御サイクルを連続して繰り返すことにより、第1ヒーター81および第2ヒーター82への供給電力を必要電力Pnである630Wに一致させることができる。
【0156】
しかも、改良オーバーラップ制御が行われているので、力率が高く維持され、高調波も抑制される。
【0157】
なお、ここでの実施形態では、第2区間および第3区間のデューティ比を同じとしたが、異なるデューティ比とすることも可能である。また、デューティ比差を20%としたが、これ以外の値、例えば、10%、25%、40%などとすることも可能である。
【0158】
上に述べたように、本実施形態に係る画像形成装置1は、改良オーバーラップ制御を行うことから、第1ヒーター81および第2ヒーター82への電力供給において、力率を高く維持することが可能であり、しかも高調波を抑制することができる。さらに改良オーバーラップ制御に加えてブロック制御を行うことから、第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する電力の可変自由度が高い。また、これらの制御は比較的安価な部品により実現可能である。
【0159】
上に述べた実施形態では、禁止領域EKを決定する際に、力率が0.95以下であり、かつ、高調波比率(検証値/規格値)が100パーセント以上であることとしたが、このような条件は画像形成装置1の使用環境や使用状況に応じて適切な条件とすればよい。例えば、力率基準値を、0.94、0.96、または0.98などとしてもよい。高調波基準値を、96パーセントまたは98などとしてマージンを持たせてもよく、102パーセントまたは103パーセントなどとしてもよい。また、高調波基準値を決定するための規格としてJIS規格を用いたが、他の規格、基準、標準、データなどを用いてもよい。
【0160】
上に述べた実施形態では、ブロック制御において、1つの制御サイクルを構成する区間の数は3つに限定されるものではなく、2つの区間、または4つ以上の区間としてもよい。
【0161】
また、画像形成装置1において、第1ヒーター81および第2ヒーター82に供給する電力を可変し、スルーアップ制御およびスルーダウン制御を行うことができる。
【0162】
上に述べた実施形態において、制御部33では、制御データTDを用いてヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成したが、制御データTDに代えて、またはこれとともに、メモリに格納した演算式などを用いてヒーター制御信号Sh1、Sh2を生成してもよい。
【0163】
上に述べた実施形態においては、第1負荷および第2負荷の2つの負荷に対してブロック制御およびオーバーラップ制御を行ったが、3つ以上の負荷に対してもそのような制御を適用することが可能である。
【0164】
上に述べた実施形態では、画像形成装置1において、第1ヒーター81および第2ヒーター82は、ハロゲンヒーターを用いた構成を例示した。しかし、ハロゲンヒーター以外に、カーボンヒーター、電熱線、セラミックヒーターまたは誘導加熱(IH:Induction Heating )コイルなどを用いて、第1ヒーター81および第2ヒーター82を構成してもよい。
【0165】
また、上に述べた説明では、第2ヒーター82を2つのヒーター部82a、82bにより構成したが、1つまたは3つ以上のヒーター部により構成してもよい。また、第1ヒーター81を複数のヒーター部により構成してもよい。このように、ヒーターを複数のヒーター部から構成することにより、精密な温度制御を行うことができるとともに、加熱ローラー51内におけるヒーターの配置の自由度が高まって設計が容易になる。
【0166】
上に述べた実施形態において、電力制御装置30、制御部33、制御データTD、禁止領域EK、デューティ比、または画像形成装置1の全体または各部の構成、構造、形状、寸法、個数、材質、回路構成、処理内容、処理順序、処理タイミングなどは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0167】
1 画像形成装置
30 電力制御装置
31 第1スイッチング部(第1スイッチング手段)
32 第2スイッチング部(第2スイッチング手段)
33 制御部
35 交流電源
36 ゼロクロス検出回路
51 加熱ローラー
81 第1ヒーター(第1負荷)
82 第2ヒーター(第2負荷)
82a、82b ヒーター部(負荷)
Pr 供給電力
Pn 必要電力(所定の交流電力)
EK 禁止領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相制御を行って第1負荷および第2負荷に交流電力を供給するための電力制御方法であって、
交流電力の半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には前記位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、
その際に、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する、
ことを特徴とする電力制御方法。
【請求項2】
前記禁止領域として、前記力率が力率基準値以下であるかまたは前記高調波が高調波基準値以上である位相角の範囲が設定されている、
請求項1記載の電力制御方法。
【請求項3】
前記力率基準値は、0.95である、
請求項2記載の電力制御方法。
【請求項4】
1つの半波の全位相角に対する負荷へ電力を供給する位相角の範囲の割合をデューティ比と定義したときに、前記第1負荷についてのデューティ比と前記第2負荷についてのデューティ比とを同じにする、
請求項2または3記載の電力制御方法。
【請求項5】
前記禁止領域として、50パーセントを越え65以下の前記デューティ比に対応する位相角の範囲が設定されている、
請求項4記載の電力制御方法。
【請求項6】
1つの半波の全位相角に対する負荷へ電力を供給する位相角の範囲の割合をデューティ比と定義したときに、前記第1負荷についてのデューティ比と前記第2負荷についてのデューティ比との差を所定の値とする、
請求項2または3記載の電力制御方法。
【請求項7】
前記禁止領域として、前記第1負荷についての第1禁止領域および前記第2負荷についての第2禁止領域が設定されており、
前記第1禁止領域および前記第2禁止領域は、前記第1負荷についてのデューティ比と前記第2負荷についてのデューティ比との差に対応する位相角分だけずれて設定されている、
請求項6記載の電力制御方法。
【請求項8】
位相制御を行って第1負荷および第2負荷に交流電力を供給するための電力制御方法であって、
前記交流電力における連続する複数個の半波を1つの周期とし、
前記半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、
前記各周期内の1つの半波においては、前記位相角φ1と前記位相角φ2とを同じとして前記第1負荷と前記第2負荷とに供給する交流電力の位相角の範囲がオーバーラップしないようにし、
前記各周期内の前記1つの半波以外の半波においては、前記位相角φ1を前記位相角φ2よりも大きくして前記第1負荷と前記第2負荷とに供給する交流電力の位相角の範囲がオーバーラップするようにし、かつ、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する、
ことを特徴とする電力制御方法。
【請求項9】
位相制御を行って第1負荷および第2負荷に交流電力を供給する電力制御装置であって、
前記第1負荷への交流電力の供給を制御する第1スイッチング手段と、
前記第2負荷への交流電力の供給を制御する第2スイッチング手段と、
前記第1スイッチング手段および前記第2スイッチング手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
交流電力の半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には前記位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、
その際に、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する、制御を行う、
ことを特徴とする電力制御装置。
【請求項10】
位相制御により交流電力が供給される第1負荷および第2負荷を備えた画像形成装置であって、
前記第1負荷への交流電力の供給を制御する第1スイッチング手段と、
前記第2負荷への交流電力の供給を制御する第2スイッチング手段と、
前記第1スイッチング手段および前記第2スイッチング手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
交流電力の半波において、前記第1負荷には位相角0から位相角φ1の範囲で交流電力を供給し、かつ前記第2負荷には前記位相角φ1よりも小さい位相角φ2から位相角πの範囲で交流電力を供給し、
その際に、前記位相角φ1および前記位相角φ2を、前記第1負荷および前記第2負荷についての力率および高調波に関連して設定された禁止領域に入らないように設定する、制御を行う、
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
前記第1負荷および前記第2負荷は、定着装置に設けられたヒーターである、
請求項10記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記第1負荷および前記第2負荷の内の少なくともいずれか1つが複数の負荷によって構成されている、
請求項10または11記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−97602(P2013−97602A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240390(P2011−240390)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】