説明

電力増幅器

【課題】ミリ波帯、マイクロ波帯における電力増幅器において、増幅器としての特性を損なうことなく、安定した出力特性を得る。
【解決手段】入力端子(IN)と出力端子(OUT)との間に増幅器2が設けられた電力増幅器において、入力端子(IN)と増幅器2との間に、安定化回路1を設けるようにした。安定化回路1は、線路L、L、Lを有し、Lはグラウンド(GND)に接続されている。このとき、線路Lの長さlを、使用周波数帯域の波長λの3/4以上とする。上記構成とすることにより、使用帯域近傍の低周波側の周波数において、出力特性を安定化させることができる。これにより、増幅器としての特性を損なうことなく、安定した出力特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力増幅器に関し、特に、ミリ波帯およびマイクロ波帯における電力増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波回路のミリ波帯やマイクロ波帯の電力増幅器では、通常、安定動作のためにトランジスタの近傍に安定化回路が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−353745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電力増幅器において安定化回路を設ける場合、トランジスタの特性の変動を考慮しないと、充分に安定化できない可能性がある。つまり、充分な安定化のためには、トランジスタの特性の変動を考慮する必要がある。しかし、安定性と増幅器としての特性は通常トレードオフの関係にある。このため、特にミリ波帯でトランジスタの特性に余裕がない場合には、トランジスタの特性が変動しても安定性を維持するように安定化回路を設けると、増幅器としての特性を引き出しきれない可能性がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、増幅器としての特性を損なうことなく、かつ、安定した出力特性を維持できる電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電力増幅器は、入力端子および出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に設けられた増幅器とを有し、前記入力端子と前記増幅器との間に、使用周波数帯域の波長の3/4以上の線路長を有し、グラウンドに接続された線路を含む安定化回路を設けたことを特徴とする。本発明のその他の特徴については、以下において詳細に説明する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば増幅器としての特性を損なうことなく、かつ、安定した出力特性を維持できる電力増幅器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して、その説明を簡略化ないし省略する。
【0009】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る電力増幅器の回路構成を図1に示す。入力端子(IN)と出力端子(OUT)との間に、増幅器2が設けられている。さらに、入力端子(IN)と増幅器2との間に、安定化回路1が設けられている。安定化回路1は、L、L、Lの線路を有し、それぞれの線路長は、l、l、lである。入力端子(IN)側から増幅器2側に向かって線路L、Lが直列に接続され、線路Lは増幅器2に接続されている。線路LとLとの間に、線路Lの一方の端子が接続されている。線路Lの他方の端子は、グラウンド(GND)に接続、すなわち接地されている。ここで、線路Lの長さlは、使用周波数帯域の波長λの3/4以上とする。線路L、Lの特性インピーダンスは、系の特性インピーダンス(通常は50Ω)と等しくする。しかし、これらの線路の特性のインピーダンスは、増幅器2の特性を調整する整合に用いるために、上記以外の値としても良い。
【0010】
図1に示した増幅器2の構成を図2に示す(この図では、図1の安定化回路1の部分は省略している)。入力端子(IN)と出力端子(OUT)との間に、入力端子(IN)側から、整合回路2a、安定化回路2b、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;以下、「FET」という)2c、整合回路2dが順次接続されている。
【0011】
ここで、トランジスタのMAG(Maximum Available Gain;最大有能電力利得)、MSG(Maximum Stable Gain;最大安定利得)の周波数特性例を、図3に示す。トランジスタのMAG領域(安定領域)とMSG領域(不安定領域)の境界付近の周波数を使用帯域とする増幅器を設計する場合を考える。MAG領域Aはトランジスタ単体で安定な領域であり、増幅器の出力特性を安定化させる必要はない。しかし、MSG領域Bはトランジスタ単体で不安定な領域であるため、増幅器の出力特性を安定化させる必要がある。このとき、トランジスタの特性がばらついてMSG領域BとMAG領域Aとの境界が変動しても、増幅器の出力特性の安定性を維持できるように設計する必要がある。
【0012】
しかし、一般的に増幅器の出力特性の安定性と、増幅器としての特性とは、トレードオフの関係にある。そのため、特にミリ波帯でトランジスタ本体の利得など特性に余裕がない場合、出力特性の安定性を過度に重視すると、増幅器としての特性が充分に得られない可能性がある。逆に増幅器としての特性を重視すると、条件によっては、増幅器の出力特性が不安定になり得る。そこで、本実施の形態では、増幅器2(図2参照)のトランジスタ2c近傍の安定化回路2bによる安定性は最低限に抑えて設計し、入力端子(IN)と増幅器2との間に安定化回路1(図1参照)を設けるようにした。
【0013】
図1の安定化回路1単体の通過特性を図4に示す。このとき、増幅器の使用周波数は77GHzである。このときの波長をλとすると、線路Lの配線長l=(7/4)・λとした場合が示されている。このようなミリ波帯の周波数を使用する場合、使用帯域の近傍で低周波側に不安定な領域が残る可能性が高い。このため、配線長lは少なくとも波長λの1/2倍より長くする必要があり、実際に適用する場合には波長λの3/4倍以上は必要である。
【0014】
図4に示すように、安定化回路1は、周期的な帯域通過フィルタ特性を有している。本フィルタ特性はDC、低周波領域で遮断特性を示し、lが波長λの1/2になる周波数、すなわち22GHz付近で遮断特性を示す。さらに、その整数倍の周波数(44GHz、66GHz、88GHz・・)では周期的な遮断特性を示している。遮断特性を示す周波数の中間点(11GHz、33GHz、55GHz、77GHz・・)では全通過となる。
【0015】
このため、安定化回路1は、使用帯域(76GHz-77GHz)では、ほぼ全通過の特性を示す。すなわち、安定化回路1は、使用帯域内の利得を劣化させることはない。また、使用帯域内の整合、反射特性にもほとんど影響を与えない。従って、使用帯域内の増幅器としての特性を損なうことなく、増幅器の出力特性の安定化を図ることができる。なお、本回路の特性は、Lの線路長lでほぼ決まるパッシブな回路である。このため、一度試作を行って特性を把握すれば、極めて安定に製造することが可能である。
【0016】
次に、安定化回路1を設けない場合と、設けた場合との、増幅器の小信号の出力特性について比較を行った。安定化回路1を設けない場合の、77GHz帯増幅器の小信号特性を図5に示す。安定化回路1を設けない場合は、使用帯域(77−78GHz)近傍の低周波側の周波数、特に67〜70GHz付近でK値が低下している。
【0017】
また、安定化回路1を設けた場合の77GHz帯増幅器の小信号特性を図6に示す。安定化回路1を設けた場合は、設けない場合(図5参照)と比較すると、65〜75GHzの周波数でK値の低下が抑えられている。従って、安定化回路1を設けることにより、使用帯域近傍の低周波側の周波数でK値が向上し、増幅器の出力特性を安定化できることが分かる。
【0018】
本実施の形態では、66GHz付近の遮断特性を利用して、使用帯域近傍の低周波側の周波数において、増幅器を安定化させるようにした。しかし、遮断特性を示す他の周波数(11GHz、33GHz、55GHzなど)近傍の低周波側の周波数であっても同様に、増幅器の出力特性を安定化させることができる。
【0019】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る電力増幅器の回路構成を図7に示す。ここでは、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。図7に示すように、安定化回路1の線路Lとグラウンド(GND)との間に、容量素子Cが設けられている。この容量素子Cの容量値を所定の範囲でシフトさせた場合の、安定化回路1の通過特性を図8に示す。
【0020】
図8に示すように、容量素子Cの容量値をシフトさせると、全通過する周波数、遮断特性を示す周波数が、容量値に応じてシフトしていることが分かる。従って、素子容量Cの容量値を所望の値とすることにより、所望の周波数において、増幅器の出力特性を安定化させることができる。
【0021】
上述した容量素子Cを、FETにより構成した例を図9に示す。線路Lとグラウンド(GND)との間にFET(T)が設けられている。Tのソース/ドレイン端子の一方の端子は線路Lに接続され、他方の端子はグラウンドに接続されている。すなわち、この電力増幅器は、図7に示した容量素子Cとして、ソース/ドレイン間のオフ容量を用いたものである。これにより、図7の電力増幅器と同様に、上記オフ容量を所望の値とすることにより、所望の周波数において、増幅器の出力特性を安定化させることができる。
【0022】
本実施の形態に係る電力増幅器によれば、実施の形態1で得られる効果に加えて、所望の周波数において、増幅器の出力特性を安定化させることができる。
【0023】
実施の形態3.
本実施の形態に係る電力増幅器は、実施の形態1で示した安定化回路1の線路Lの線路長lを、使用周波数帯域の波長λの3/4以上とすることに置き換えて、所望の周波数の波長に応じて選択されるようにしたものである。つまり、安定化させたい所望の周波数の波長において、増幅器の出力特性が安定化されるように、線路Lの線路長lを任意に変化させるようにしたものである。従って、安定化したい周波数の波長に応じて、lの長さを選択すればよい。
【0024】
例えば、実施の形態1では、77〜78GHz帯を使用する増幅器に対して、帯域66GHz付近の遮断特性を利用して、使用帯域近傍の低周波側の出力特性を安定化した。このため、配線長Lは、少なくとも波長λの1/2倍より長くする必要があった。これに対して本実施の形態に係る電力増幅器は、増幅器の使用周波数帯域がどこであっても、安定化回路1を接続しない場合に不安定な領域があれば、適切な線路長を選択して、その周波数付近の出力特性を安定化することができる。
【0025】
本実施の形態に係る電力増幅器によれば、実施の形態1で得られる効果に加えて、所望の周波数において、増幅器の出力特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態1の電力増幅器を示す図。
【図2】実施の形態1の電力増幅器を示す図。
【図3】MAG/MSGの周波数特性を示す図。
【図4】安定化回路の通過特性を示す図。
【図5】安定化回路を設けない場合の電力増幅器の出力特性を示す図。
【図6】安定化回路を設けた場合の電力増幅器の出力特性を示す図。
【図7】実施の形態2の電力増幅器を示す図。
【図8】安定化回路の通過特性を示す図。
【図9】実施の形態2の電力増幅器を示す図。
【符号の説明】
【0027】
1 安定化回路、2 増幅器、2a、2d 整合回路、2b 安定化回路、2c FET、L〜L 線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子および出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に設けられた増幅器とを有し、
前記入力端子と前記増幅器との間に、使用周波数帯域の波長の3/4以上の線路長を有し、グラウンドに接続された線路を含む安定化回路を設けたことを特徴とする電力増幅装置。
【請求項2】
前記線路と前記グラウンドとの間に、容量素子が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電力増幅装置。
【請求項3】
前記容量素子として、電界効果トランジスタのオフ容量が用いられていることを特徴とする請求項2に記載の電力増幅装置。
【請求項4】
入力端子および出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に設けられた増幅器とを有し、
前記入力端子と前記増幅器との間に、所望の周波数の波長に応じて選択される線路長を有し、グラウンドに接続された線路を含む安定化回路を設けたことを特徴とする電力増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−150419(P2007−150419A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338509(P2005−338509)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】