説明

電力増幅器

【課題】 ドライブ増幅器を組み合わせた電力増幅器であって、電力増幅器全体の効率を向上させると共に、ドハティ増幅器の効率を低下させることなくAM−AM変換特性及びAM−PM変換特性を改善することができる電力増幅器を提供する。
【解決手段】 ドハティ増幅器の入力段にET方式で動作するドライブ増幅器204を備え、入力電力レベルを検出する検波回路105と、入力された補正信号に基づいて、ドライブ増幅器204にドレイン電圧を出力する電源回路107と、予め記憶された情報に基づいて、検出された入力電力レベルに応じて、ドライブ増幅器204が飽和に近い状態で動作し、且つ、ドライブ増幅器204の出力信号のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器におけるゲイン特性及び位相特性の逆特性となるよう、電源回路107に最適なドレイン電圧を出力させるための補正信号を出力する波形整形回路106とを備えた電力増幅器としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドハティ増幅器にドライブ増幅器を組み合わせた電力増幅器に係り、特に電力増幅器全体の効率を向上させると共に、ドハティ増幅器の効率を低下させることなくAM−AM変換特性及びAM−PM変換特性を改善することができる電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:図8]
従来、CDMA(Code Division Multiple Access)信号やマルチキャリア信号を電力増幅する場合、共通増幅器に歪補償手段を付加し、共通増幅器の動作範囲を飽和領域付近まで広げることで低消費電力化を図っていた。
このような増幅器における歪補償手段としては、フィードフォワード歪補償(FF;Feed Forward)やプリディストーション歪補償(DPD;Digital Pre Distortion)などがあるが、歪補償だけでは低消費電力化に限界が近づいている。そのため近年、高効率増幅器としてドハティ(Doherty)増幅器が注目されている。
【0003】
一般的なドハティ増幅器について図8を用いて説明する。図8は、一般的なドハティ増幅器の構成を示す回路図である。
図8に示すように、一般的なドハティ増幅器は、入力端子1と、分配器2と、移相器3と、キャリア増幅器4と、ピーク増幅器5と、ドハティ合成部6と、λ/4変成器7と、出力端子8とから構成されている。
【0004】
更に、キャリア増幅器4は、入力整合回路41と、増幅素子42と、出力整合回路43とから構成され、ピーク増幅器5は、入力整合回路51と、増幅素子52と、出力整合回路53とから構成されている。
入力整合回路41,51は、それぞれ、増幅素子42,52の入力側と整合をとる。
出力整合回路43,53は、それぞれ、増幅素子42,52の出力側と整合をとる。
また、ドハティ合成部6は、λ/4変成器61と、合成点62とを備えている。
【0005】
そして、入力端子1から入力された信号は、分配器2で分配され、その一方はキャリア増幅器4に入力されて、増幅素子42で増幅され、出力整合回路43を介してλ/4変成器61でインピーダンス変換される。
【0006】
分配器2で分配されたもう一方の信号は、移相器3で位相をキャリア増幅器4に合わせて調整された後、ピーク増幅器5に入力され、増幅素子52で増幅されて出力整合回路53でインピーダンス変換されて出力される。
【0007】
合成点62ではλ/4変成器61からの出力とピーク増幅器5からの出力が合成され、更にλ/4変成器7で出力負荷9に整合するためインピーダンス変換されて出力端子8から出力され、出力負荷9に接続される。
【0008】
キャリア増幅器4の増幅素子42はAB級にバイアスされ、ピーク増幅器5の増幅素子52はB級又はC級にバイアスされている。そのため、入力レベルが低く増幅素子52が動作しない内は増幅素子42が単独で動作する。そして、増幅素子42が飽和領域に入る、つまり増幅素子42の線形性が崩れ始めると、増幅素子52が動作し始め、増幅素子52の出力が負荷に供給され、増幅素子42と共に負荷を駆動する。このとき出力整合回路43の負荷線は、高い抵抗から低い抵抗へ移動するが、増幅素子42は飽和領域にあるので効率は良い。
入力端子1からの入力が更に増加すると、増幅素子52も飽和し始めるが、増幅素子42、52ともに飽和しているのでこのときも効率は良い。
これにより、ドハティ増幅器では、出力レベルが最大出力レベルよりも低い場合でも、高い効率が得られるものである。
【0009】
[ドライブ増幅器の効率]
また、ドハティ増幅器の前段に、ドハティ増幅器への入力レベルを調整するドライブ増幅器を設けた構成がある。
ドハティ増幅器の効率を向上させた場合、前段に用いるドライブ増幅器の効率が、増幅器全体の効率低下の原因になることがある。
【0010】
具体的な例を示す。
例えば、出力電力が1000Wでドレイン効率25%(消費電力は4000Wとなる)のAタイプのドハティ増幅器と、同じく出力電力が1000Wでドレイン効率50%(消費電力は2000Wとなる)のBタイプのドハティ増幅器について考える。
必要なドライブ増幅器の出力電力が100Wでドレイン効率5%(消費電力2000W)であったとする。
【0011】
この場合、Aタイプにドライブ増幅器を含めたトータル効率は16%となり、Bタイプにドライブ増幅器を含めたトータル効率は25%となる。つまり、ドハティ増幅器単体の効率に比べて、Aタイプでは効率劣化が9%であるのに対し、高効率のBタイプでは、効率劣化が25%となっている。
すなわち、ドハティ増幅器を高効率化すると、ドライブ増幅器の消費電力がトータル効率の劣化量に一段と大きく影響することがわかる。
【0012】
つまり、増幅器全体の効率劣化を抑えるためには、ドライブ増幅器も高効率化することが必要である。Bタイプにドライブ増幅器を組み合わせた場合のトータル効率劣化を10%以下に抑えようとすると、ドライブ増幅器のドレイン効率を20%以上に上げる必要がある。
【0013】
[ET方式]
電力増幅器の効率を向上させる制御方式として、ET(Envelope Tracking)方式がある。
ET方式は、電力増幅器のドレイン電圧を入力電力(入力信号の包絡線の振幅)に応じて変化させることにより、入力電力が変動しても常に飽和に近い状態で増幅器を動作させることができ、高効率化を実現するものである。
特に、CDMAや、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)の変調信号のように、平均電力とピーク電力の比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)が大きい信号の増幅において高い効率が得られる。
【0014】
[相互変調歪]
また、ドハティ増幅器においては、効率化と低歪化はトレードオフの関係になっており、効率を上げると相互変調歪が劣化して、AM−AM変換特性やAM−PM変換特性が劣化することが知られている。
実際には、装置仕様の相互変調歪やスプリアスの規格を満たすために、歪を重視し、効率を犠牲にする場合がある。
【0015】
[関連技術]
電力増幅器の制御に関する先行技術としては、特開2004−104194号公報(出願人:株式会社日立製作所、特許文献1)がある。
特許文献1には、電力効率の高いEER(Envelope Elimination and Restoration)方式を、線形性の高い線形方式と組み合わせ、低出力レンジでは線形方式を用い、高出力レンジでEER方式を用いるようにして、線形性の要求を満たしつつ電力効率を改善することが記載されている。
また、ドハティ増幅器に関する先行技術としては、特開2008−125044号公報(出願人:株式会社日立国際電気、特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−104194号公報
【特許文献2】特開2008−125044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来のドハティ増幅器にドライブ増幅器を組み合わせた場合に、ドライブ増幅器の効率の影響で、増幅器全体の効率が低下してしまうという問題点があった。
また、従来のドハティ増幅器では、電力変換効率を向上させると相互変調歪が劣化してしまうという問題点があった。
【0018】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、ドライブ増幅器の効率を向上させて増幅器全体の効率低下を防ぎ、また、ドハティ増幅器における高効率化と低歪化を同時に実現することができる電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、AB級で動作する第1の増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する第2の増幅素子を有するピーク増幅回路とを備え、キャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力するドハティ増幅器と、ドハティ増幅器の入力段に設けられたドライブ増幅器とを有する電力増幅器であって、ドライブ増幅器は、入力信号を増幅する増幅素子と、入力電力レベルを検出する検波回路と、入力された補正信号に基づいて、増幅素子にドレイン電圧を出力する電源回路と、予め記憶された情報に基づいて、検出された入力電力レベルに対応する補正信号を電源回路に出力する波形整形回路とを備えたことを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、AB級で動作する第1の増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する第2の増幅素子を有するピーク増幅回路とを備え、キャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力するドハティ増幅器と、ドハティ増幅器の入力段に設けられたドライブ増幅器とを有する電力増幅器であって、ドライブ増幅器は、入力信号を増幅する増幅素子と、入力電力レベルを検出する検波回路と、入力された補正信号に基づいて、前記増幅素子にドレイン電圧を出力する電源回路と、予め記憶された情報に基づいて、検出された入力電力レベルに対応する補正信号を出力する波形整形回路とを備え、前記波形整形回路は、前記増幅素子が飽和に近い状態で動作し、且つ、入力信号に対するドライブ増幅器のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器で発生するゲイン歪及び位相歪の一方又は両方を補償するような特性となるよう、前記電源回路に補正されたドレイン電圧を出力させるための補正信号を出力することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、AB級で動作する第1の増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する第2の増幅素子を有するピーク増幅回路とを備え、キャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力するドハティ増幅器と、ドハティ増幅器の入力段に設けられたドライブ増幅器とを有する電力増幅器であって、ドライブ増幅器は、入力信号を増幅する増幅素子と、入力電力レベルを検出する検波回路と、入力された補正信号に基づいて、増幅素子にドレイン電圧を出力する電源回路と、予め記憶された情報に基づいて、検出された入力電力レベルに対応する補正信号を電源回路に出力する波形整形回路とを備えた電力増幅器としているので、波形整形回路が、検出された入力電力レベルに応じて、ドライブ増幅器の増幅素子が飽和に近い状態で動作し、且つ、入力信号に対するドライブ増幅器のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器におけるゲイン特性及び位相特性の逆特性となるような最適なドレイン電圧を電源回路に出力させる補正信号を出力することにより、ドライブ増幅器の電力変換効率を向上させて電力増幅器全体の効率を向上させると共に、ドハティ増幅器の効率を低下させることなく、ドハティ増幅器で発生する歪を補償して、良好なゲイン特性及び位相特性とすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力増幅器の構成ブロック図である。
【図2】ドライブ増幅器をET方式とした場合のドレイン効率を示す説明図である。
【図3】ドライブ増幅器のドレイン効率特性を示す模式説明図である。
【図4】ドレイン電圧の違いによる入力電力に対するゲイン特性を示す模式説明図である。
【図5】ドレイン電圧の違いによる入力電力に対する位相特性を示す模式説明図である。
【図6】本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−AM変換特性の例を示す模式説明図である。
【図7】本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−PM変換特性の例を示す模式説明図である。
【図8】一般的なドハティ増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る電力増幅器は、ドハティ増幅器の前段にドライブ増幅器を備え、更に、入力信号の電力レベルを検出し、検出された電力レベルに応じて、ドライブ増幅器のバックオフが小さくなるよう、且つドライブ増幅器の出力信号が、電力変換効率が良好な状態のドハティ増幅器におけるAM−AM特性及びAM−PM特性の逆特性を備えた信号となるよう、ドライブ増幅器のドレイン電圧を制御する電源制御回路を備えた電力増幅器であり、ドライブ増幅器をET方式で動作させて効率を向上させ、増幅器全体の効率向上を図ることができ、また、終段のドハティ増幅器における効率を低下させることなくAM−AM特性及びAM−PM特性の劣化を防ぐことができるものである。
【0024】
[実施の形態に係る電力増幅器の構成:図1]
図1は、本発明の実施の形態に係る電力増幅器の構成ブロック図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る電力増幅器(本電力増幅器)は、図8に示した一般的なドハティ増幅器に加えて、入力端子1とドハティ増幅器との間に、方向性結合器101と、遅延回路102と、電源制御回路103と、ドレイン端子104と、ドライブ増幅器204とを備え、ドライブ増幅器204の出力がドハティ増幅器に入力される構成となっている。
ドハティ増幅器部分は、図8と同じ構成及び動作であるため、ここでは説明を省略するが、ドハティ増幅器部分は、単体で十分高い効率が得られるよう調整されているものである。また、キャリア増幅器4、ピーク増幅器5は、それぞれ、請求項に記載したキャリア増幅回路、ピーク増幅回路に相当する。
【0025】
本電力増幅器の特徴部分について説明する。
方向性結合器101は、入力端子1から入力される入力信号を2つに分岐する。
遅延回路102は、方向性結合器101で分岐された信号の一方を、電源制御回路103における処理時間に合わせて遅延する。
【0026】
ドライブ増幅器204は、入力整合回路201と、増幅素子202と、出力整合回路203とを備えている。本電力増幅器の特徴として、ドライブ増幅器204はET方式で動作するものであり、ドレイン端子104から入力信号の電力レベルに応じた電源電圧(ドレイン電圧)の供給を受けると共に、入力整合回路201及び出力整合回路203は、電源電圧が変化しても効率が低下しないように整合をとっている。
【0027】
電源制御回路103は、本電力増幅器の特徴部分であり、方向性結合器101で分岐された他方の信号を入力し、当該信号に基づいて増幅素子202のドレイン端子104に印加するドレイン電圧を生成するものである。電源制御回路103は、検波回路105と、波形整形回路106と、電源回路107とを備えている。
【0028】
電源制御回路103の検波回路105は、一般的な検波ダイオード等で構成され、方向性結合器101で分岐された入力信号の入力電力を検出する。
【0029】
波形整形回路106は、後述するように、検波回路105からの検波信号のレベル(入力信号の電力レベル)に応じて信号を補正して、補正信号を出力するものである。波形整形回路106には、予め検波信号レベルに対応して補正するための情報(補正情報)が格納されており、適切な補正信号を出力する。補正情報は、例えば、検波信号レベルに対応した補正信号がテーブル等の形式で格納されている。波形整形回路106における補正については、後述する。
【0030】
電源回路107は、補正信号に応じた電圧を増幅素子202のドレイン端子104に出力する。
尚、ドハティ増幅器の前段に設けられた方向性結合器101、遅延回路102、ドライブ増幅器204、電源制御回路103を含む構成全体を「ドライブ増幅器」と称する場合もあり、請求項に記載した「ドライブ増幅器」はこれらの構成を含むものに相当している。
【0031】
[波形整形回路106における補正]
本電力増幅器の特徴として、波形整形回路106は、2つの要素を考慮して総合的な補正を行い、増幅素子202のドレイン電圧の制御を行う。
[第1の要素]
まず第1に、波形整形回路106は、ドライブ増幅器204の効率を向上させるために、ET方式で制御する。
つまり、波形整形回路106は、電源回路107からのドレイン電圧が入力信号の電力レベル(検波信号のレベル)に応じた電圧となるような補正信号を電源回路107に出力する。
これにより、入力信号の電力レベルが変動しても、ドライブ増幅器204の増幅素子202を常に飽和に近い状態で動作させて、電力変換効率を向上させることができるものである。
【0032】
[第2の要素]
第2に、本電力増幅器の波形整形回路106は、ドライブ増幅器204の出力信号を、後段のドハティ増幅器で発生する相互変調歪によって劣化するゲイン特性及び位相特性の逆特性を備えた信号とするよう、ドレイン電圧を制御する。尚、波形整形回路106は、ドライブ増幅器204のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器で発生するゲイン歪又は位相歪のどちらか一方を補償するように補正してもよい。
つまり、波形整形回路106は、ドライブ増幅器204がドハティ増幅器で発生する歪とは逆特性の歪を発生するようなドレイン電圧を、電源回路107が出力するよう、検波出力を補正する。
これにより、ドライブ増幅器204からの出力信号を後段のドハティ増幅器で増幅する際に、ドライブ増幅器204の出力に含まれる逆特性の歪とドハティ増幅器で発生する歪とが相殺され、歪が補償されるものである。
【0033】
[総合的な補正]
そして、波形整形回路106は、上述した2つの要素を総合的に考慮して最適なドレイン電圧となるような補正情報を記憶しており、検波信号レベルに応じて適切な補正を行って、電源回路107に補正信号を出力する。
具体的には、ドライブ増幅器204ができるだけ飽和に近い状態で動作する(バックオフを小さくする)よう、且つ、ドライブ増幅器204の出力におけるゲイン特性及び位相特性が、十分高効率なドハティ増幅器におけるゲイン特性及び位相特性の逆特性となるよう、最適なドレイン電圧とする補正信号を出力する。
【0034】
最適なドレイン電圧を出力させるための補正情報は、予め計算や実験によって求めておき、検波入力レベルに対応する補正情報として記憶しておき、それを用いてもよいし、更に、動作中に本電力増幅器の出力における歪成分を検出して、当該歪が最小となるように波形整形回路106の補正情報に対する微調整を行う制御部を設けて、動的な制御を行うことも可能である。
【0035】
[ドライブ増幅器をET方式とした場合の効率:図2]
ここで、ドライブ増幅器をET方式とした場合の効率について図2を用いて説明する。図2は、ドライブ増幅器をET方式とした場合のドレイン効率を示す説明図である。
図2では、ドハティ増幅器単体と、ET方式のドライブ増幅器とドハティ増幅器とを組み合わせた増幅器と、ドハティ増幅器と一般的なAB級ドライブ増幅器とを組み合わせた増幅器について、ドレイン効率を比較している。
【0036】
従来のように一般的なAB級ドライブ増幅器とドハティ増幅器とを組み合わせた場合には、ドハティ増幅器単体と比較した場合に、飽和領域以外における効率の劣化が著しいが、ドライブ増幅器のドレイン電圧を入力電力レベルに応じて変化させてET方式で制御することにより、ドハティ増幅器と組み合わせた場合の効率の劣化をかなり軽減することができるものである。
【0037】
[ドライブ増幅器のドレイン効率の特性:図3]
次に、ドライブ増幅器のドレイン効率特性について図3を用いて説明する。図3は、ドライブ増幅器のドレイン効率特性を示す模式説明図である。
図3では、ET方式のドライブ増幅器と、一般的なAB級増幅器におけるドレイン効率を示している。
図3に示すように、AB級増幅器では、ドレイン電圧が一定であり、出力電力の大きい飽和領域においては効率が良いものの、出力電力が小さい領域ではバックオフが大きくなり効率は低くなってしまう。
それに対して、ET方式の増幅器では、どの入力レベルにおいてもバックオフが小さくなるようドレイン電圧を制御すると共に、電源電圧が変化しても効率が低下しないように整合をとっており、低出力から高出力まで、広い電力範囲に亘って安定して良好な効率が得られている。
【0038】
本増幅器では、ドライブ増幅器204が、入力電力レベルに応じてできるだけバックオフの小さい領域で動作するようドレイン電圧を制御して、ドライブ増幅器204をET方式の増幅器として動作させることにより、広い出力電力範囲で効率を向上させるものである。
【0039】
[ドレイン電圧とゲイン特性:図4]
ここで、一般的な増幅器におけるドレイン電圧とゲイン特性との関係について図4を用いて説明する。図4は、ドレイン電圧の違いによる入力電力に対するゲイン特性を示す模式説明図である。
図4に示すように、どの入力レベルでも、ドレイン電圧が大きくなるとゲインも大きくなる傾向にあることがわかる。
【0040】
つまり、ゲインを大きくしたい場合にはドレイン電圧を大きくし、ゲインを小さくしたい場合にはドレイン電圧を小さくするよう制御することが可能である。本電力増幅器の波形整形回路106はこのことを利用して、ドライブ増幅器204の出力が、ドハティ増幅器におけるAM−AM特性の逆特性となるように制御するものである。
【0041】
[ドレイン電圧と位相特性:図5]
次に、一般的な電力増幅器におけるドレイン電圧と位相特性との関係について図5を用いて説明する。図5は、ドレイン電圧の違いによる入力電力に対する位相特性を示す模式説明図である。
図5に示すように、どの入力電力レベルにおいても、ドレイン電圧が大きくなると位相が+方向に回転することがわかる。
本電力増幅器の本電力増幅器の波形整形回路106はこのことを利用して、ドライブ増幅器204の出力が、ドハティ増幅器におけるAM−PM特性の逆特性となるように制御するものである。
【0042】
[ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−AM変換特性の例:図6]
次に、本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−AM変換特性の例について図6を用いて説明する。図6は、本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−AM変換特性の例を示す模式説明図である。
図6(b)に示すように、ドハティ増幅器のAM−AM変換特性は、入力電力が増加するに従ってゲインが減少する。ドハティ増幅器は、十分効率が高くなるよう調整されている。
図6(a)は、(b)に示した特性の逆特性であり、ドライブ増幅器204の増幅素子202の電源を電源制御回路103で制御し、ドライブ増幅器204(図中「ET」と示す)のゲイン特性が図6(a)となるようにする。
これにより、本電力増幅器では、終段ドハティ増幅器の効率を犠牲にすることなく、AM−AM変換特性を補償するものである。
【0043】
[ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−PM変換特性の例:図7]
次に、本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−PM変換特性の例について図7を用いて説明する。図7は、本電力増幅器における終段ドハティ増幅器とドライブ増幅器のAM−PM変換特性の例を示す模式説明図である。
図7(b)に示すように、ドハティ増幅器のAM−PM変換特性は、入力電力が増加するに従って位相がマイナス方向に回転する。ドハティ増幅器は、十分効率が高くなるよう調整されている。
図7(a)は、(b)に示した特性の逆特性であり、ドライブ増幅器204の出力信号のAM−PM変換特性が(a)の特性となるよう、電源制御回路103で増幅素子202の電源を制御する。
これにより、終段ドハティ増幅器の効率を低下させずに、AM−PM変換特性を補償するものである。
【0044】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る電力増幅器によれば、ドハティ増幅器の入力段にET方式で動作するドライブ増幅器204を備え、電源制御回路103が、入力電力レベルを検出し、検出された入力電力レベルと記憶されている補正情報とに基づいて、ドライブ増幅器204が当該入力電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作し、且つ、ドライブ増幅器204の出力信号のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器における各特性の逆特性となるよう、最適な電圧を生成してドライブ増幅器204の増幅素子202にドレイン電圧として印加する電力増幅器としているので、ドライブ増幅器204の電力変換効率を向上させて電力増幅器全体の効率を大幅に向上させることができるると共に、ドハティ増幅器における効率を低下させることなく、ゲイン特性及び位相特性の劣化を防ぐことができる効果がある。
【0045】
また、本発明の実施の形態に係る電力増幅器によれば、電源制御回路103が、入力信号の入力電力レベルを検出する検波回路105と、入力された補正信号に基づいて、ドライブ増幅器204にドレイン電圧を出力する電源回路107と、予め記憶された情報に基づいて、検出された入力電力レベルに応じて、ドライブ増幅器204が飽和に近い状態で動作し、且つ、ドライブ増幅器204の出力信号のゲイン特性及び位相特性が、ドハティ増幅器におけるゲイン特性及び位相特性の逆特性となるよう、電源回路107に最適なドレイン電圧を出力させるための補正信号を出力する波形整形回路106とを備えており、波形整形回路106に、入力電力レベルに応じて最適な補正信号を出力する補正情報を記憶しておけば、簡易な制御で、電力増幅器全体の効率を向上させ、ゲイン特性及び位相特性の劣化を防ぐことができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ドライブ増幅器を組み合わせた電力増幅器であって、特に電力増幅器全体の効率を向上させると共に、ドハティ増幅器の効率を低下させることなくAM−AM変換特性及びAM−PM変換特性を改善することができる電力増幅器に適している。
【符号の説明】
【0047】
1…入力端子、 2…分配器、 3…移相器、 4…キャリア増幅器、 5…ピーク増幅器、 6…ドハティ合成部、 7…λ/4変成器、 8…出力端子、 9…出力負荷、 41,51…入力整合回路、 42,52…増幅素子、 43,53…出力整合回路、 101…方向性結合器、 102…遅延回路、 103…電源制御回路、 104…ドレイン端子、 105…検波回路、 106…波形整形回路、 107…電源回路、 201…入力整合回路、 202…増幅素子、 203…出力整合回路、 204…ドライブ増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB級で動作する第1の増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する第2の増幅素子を有するピーク増幅回路とを備え、前記キャリア増幅回路と前記ピーク増幅回路の出力を合成して出力するドハティ増幅器と、前記ドハティ増幅器の入力段に設けられたドライブ増幅器とを有する電力増幅器であって、
前記ドライブ増幅器は、
入力信号を増幅する増幅素子と、
入力電力レベルを検出する検波回路と、
入力された補正信号に基づいて、前記増幅素子にドレイン電圧を出力する電源回路と、
予め記憶された情報に基づいて、前記検出された入力電力レベルに対応する補正信号を前記電源回路に出力する波形整形回路とを備えたことを特徴とする電力増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−49858(P2012−49858A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190556(P2010−190556)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】