説明

電力変換器の制御装置

【課題】
電力変換器運転定格点または基準点以外の運転領域においても運転指令値通りの運転量が得られる制御手段を提供する。
【解決手段】
本発明の電力変換器の制御装置は定電流制御(ACR)や定電圧制御(AVR)の各制御系入力にバイアス値を設定値として与え、1次進み遅れ制御または1次遅れ制御のフィードバック制御における定常偏差を低減するものである。更に、本発明の電力変換器の制御装置は定電流制御(ACR)や定電圧制御(AVR)の各制御系入力に与えるバイアス値を、電力指令値(Pdp),直流電流指令値(Idp),直流電圧指令値(Vdp)に比例することに基づいて一次関数として、自動計算により算出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換器における制御装置に係わり、特に定電流制御や定電圧制御に1次遅れ制御や1次進み遅れ制御のフィードバック制御方式を使用した制御装置及びそれに関連する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力変換器の制御方式においてフィードバック制御を用いる場合、一次進み遅れ形で構成することが多い。これは積分系制御では、電力変換器の制御角が大きくなっても電流マージンが大きくならないのでリップル電流の影響を受けやすい等の現時点での課題があるためである。フィードバック制御を一次進み遅れ形で構成した場合は、定常偏差を生ずるために運転電力指令値と実運転電力は完全に一致しない。通常、この定常偏差を補正するために定格運転点において定格出力が得られるようにACRおよびAVRの各制御系入力にバイアス値(固定値)を入力して対応していた。制御系の入力に加算するバイアス値は、定格運転点において定格出力が得られるよう設定することとしており、このバイアス値の算出は、電力変換器を構成する機器の運転諸量と定格運転点における機器損失等の各種条件により導出できる制御量(制御角)と制御系ゲインとの関係から理論設定値を算出していた。このため、運転点が定格点から外れるにしたがって、バイアス値分が定常偏差に加算されるために運転指令値と実運転電力が一致しないという問題点がある。上記従来技術としては特開昭58−75224号公報が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−75224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、定格運転時でバイアス値を設定していたことから、定格点から外れた運転点においては運転指令値通りの運転量が得られないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は定格点または基準点以外の運転領域においても運転指令値通りの運転量が得られる制御手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の電力変換器の制御装置は定電流制御(ACR)や定電圧制御(AVR)の各制御系入力にバイアス値を設定値として与え、1次進み遅れ制御または1次遅れ制御のフィードバック制御における定常偏差を低減するものである。
【0007】
更に、本発明の電力変換器の制御装置は定電流制御(ACR)や定電圧制御(AVR)の各制御系入力に与えるバイアス値を、電力指令値(Pdp),直流電流指令値(Idp),直流電圧指令値(Vdp)に比例することに基づいて一次関数として、自動計算により算出するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の制御装置は、運転指令値に応じた理論バイアス値をフィードバック制御に対して補正できるので、運転電力指令値に対して偏差が少ない制御量(運転量)を得ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
図2は電力変換器の主回路構成と制御方式の一例を示す構成図である。電力変換器31は変換用変圧器21を介して交流系統11に、電力変換器32は変換用変圧器22を介して交流系統12に接続されている。電力変換器31と32は直流送電線51,52を介して接続されており、直流送電線51の線路中には直流リアクトル41,42が設けられている。
【0011】
図2では、直流送電(HVDC)設備の主回路構成例としているが、異系統直流連係(FC,BTB)設備においては直流送電線51,52を介せず、直流リアクトル1台を介して接続される構成となる。
【0012】
各電力変換器は、半導体素子としてサイリスタを用いた他励式の変換器で、それぞれ制御装置から与えられる点弧信号に応じてサイリスタをON,OFFし、交流電力を直流電力に、あるいは直流電力を交流電力に変換する。
【0013】
図2では、例として電力変換器31を交流電力を直流電力に変換する順変換器、電力変換器32を直流電力から交流電力に変換する逆変換器とした場合を示している。
【0014】
順変換器である電力変換器31,逆変換器である電力変換器32の間にある閉回路は直流回路であり、サイリスタ導通方向に流れる直流電流検出値(Id)61,順変換器側の電力変換器が出力する直流電圧検出値(Vd)62によって、直流電力(Pd)が決定される。
【0015】
直流電力(Pd)は電力設定器(Pdp)70により、設定された直流電力となるように制御される。
【0016】
電力設定器(Pdp)70では、設定された電力指令値に基づき直流電流指令値(Idp),直流電圧指令値(Vdp)を生成し、順変換器側および逆変換器側の制御装置に対して出力する。
【0017】
図2では、順変換器側に直流電流指令値(Idp)81,逆変換器側に直流電圧指令値(Vdp)82を図示しているが、指令値自体は順変換器側,逆変換器側それぞれにIdp,Vdpを出力している。
【0018】
通常、電力変換器の制御システムは順変換器側で定電流制御(ACR)を選択実施し、逆変換器側で定電圧制御(AVR)を選択実施することで直流電力を制御する構成としている。図2では、順変換器側に定電流制御(ACR)71,逆変換器側に定電圧制御(AVR)72を図示しているが、制御回路自体は順変換器側,逆変換器側それぞれにACR,AVRの各制御系が実装されている。
【0019】
図2の定電流制御(ACR)71は、図1に示すように直流電流検出値Id61から、直流電流指令値Idp81を減算しさらに直流電流バイアス値91を加算して定電流制御(ACR)一次進み遅れ制御回路の入力としている。この直流電流バイアス値91は、従来、固定値入力としており、定格運転点で調整するのが一般的であった。このため、運転点が調整点から外れるにしたがって、バイアス値分が定常偏差に加算されるために電流指令値と実運転電流が一致しないという問題点があった。
【0020】
本発明は、図1におけるバイアス補正回路101を付加することで、直流電流バイアス値91を従来の固定値入力から、直流電流指令値Idp81に応じた理論バイアス値入力とすることで定常偏差を低減するものである。
【0021】
バイアス補正回路101には、あらかじめ各運転電力と理論バイアス値の関係から直線近似により求めた傾きaと切片bを設定値として与えておき、直流電流指令値Idp81を入力に対しての一次関数の自動計算結果を直流電流バイアス値91として制御回路に加算する構成としている。これにより、運転点に応じたバイアス値とすることが可能である。
【0022】
同様にして定電圧制御(AVR)のバイアス値もVdpの関数とすることが可能であり、補正回路を付加した制御回路を図3に示す。
【0023】
図3に示すように直流電圧検出値Vd62から、直流電圧指令値Vdp82を加算しさらにバイアス補正回路102の自動計算結果である直流電圧バイアス値92を減算して定電圧制御(AVR)一次遅れ制御回路の入力とすることで定常偏差を低減することができる。
【0024】
あらかじめ設定する傾きaと切片bの手法は、一般的には運転諸量の計算式から求められる理論バイアス値から算出する。
【0025】
理論バイアス値は、元々フィードバック制御系を一次進み遅れ形または一次遅れ形で構成した場合に生じる定常偏差を補正する値であり、算出するための運転諸量は変換器制御角α、変換用変圧器2次電圧E2,変換用変圧器インピーダンスIX,機器損失による電圧降下VLoss,変換器ブリッジ段数ns,制御系フィードバックループゲインGACRまたはGAVR等の要素により構成されている。この運転諸量には機器損失等の運転電力に比例した要素が含まれており、理論バイアス値と運転電力(運転電力指令値)は比例した関係であることから、直線近似した一次関数として傾きaと切片bをあらかじめ算出することができる。
【0026】
以下に運転諸量と理論バイアス値の関係式を示す。
【0027】
理論バイアス値であるIdB,VdBは(1)〜(5)式を用いて反復計算により求めることができる。
【0028】
(1)順変換器側運転諸量
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
(2)逆変換側運転諸量
【0032】
【数3】

【0033】
【数4】

【0034】
【数5】

【0035】
α:変換器制御角,γ:変換器余裕角,u:重なり角
E2:変換用変圧器2次電圧,ns:変換器ブリッジ直列段数
IX:変換用変圧器インピーダンス,VLoss:機器損失による電圧降下
GACR:ACR制御フィードバックループゲイン
GAVR:AVR制御フィードバックループゲイン
Id:直流電流,Vd:直流電圧
Idp:直流電流指令値,Vdp:直流電圧指令値
IdB:直流電流理論バイアス値,VdB:直流電圧理論バイアス値
【0036】
図4は、ACR制御系において運転指令値と運転量の定常偏差(IdpとIdの偏差ΔId)を固定値(補正回路なし)として与えた場合と自動計算値(補正回路有り)として与えた場合の偏差量を比較した一例として示したものである。
【0037】
運転指令値であるIdpと制御出力Idの偏差ΔIdは、定格点である1puで誤差が無いよう調整されている。
【0038】
補正回路が無い場合、最小運転点である0.1puでΔIdが約+0.7%の誤差が生じているが、このΔId曲線を点線の如く直線近似しておき、一次関数として補正回路を付加した場合、偏差ΔIdは、0.1%以下に低減することができる。
【0039】
また、電力変換器運転中に運転指令値がリアルタイムに変化するシステムにおいては、指令値の過渡変化に対する理論バイアス値の応答を定電流制御(ACR)または定電圧制御(AVR)と協調をとる必要がある。
【0040】
これは理論バイアス値がフィードバック制御回路に直接入力されていることから、理論バイアス値の過渡変化に対して定電流制御(ACR)または定電圧制御(AVR)が応答し、制御干渉による不安定現象の恐れがあるためである。
【0041】
理論バイアス値は制御安定時の定常偏差を補正する目的であり、過渡変化に対する応答は、定電流制御(ACR)または定電圧制御(AVR)に対し遅いほうが望ましく、故に運転指令値の変化に対し定電流制御(ACR)または定電圧制御が追従した後、理論バイアス値による偏差を補正することが必要とされる。
【0042】
図5は、図1の定電流制御(ACR)の補正回路に入力する直流電流指令値(Idp)に過渡応答防止用として一次遅れ回路を付加したものである。
【0043】
この一次遅れ回路の遅れ時定数を、定電流制御(ACR)の遅れ時定数に対し十分に大きくしておくことで、直流電流指令値(Idp)の急峻な変化に対してもバイアス補正回路の計算結果である理論バイアス値の応答は、十分な遅れを持った補正が可能であり、制御干渉による不安定現象を防止できるため、運転指令値がリアルタイムに変化するシステムにおいても適用できる構成としている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例(定電流制御ACR)を示す図。
【図2】本発明の実施形態の電力変換システムの一例を示す図。
【図3】本発明の実施例(定電圧制御AVR)を示す図。
【図4】本発明の効果例を示す図。
【図5】過渡応答防止機能を付加した実施例(定電流制御ACR)を示す図。
【符号の説明】
【0045】
11,12 交流系統
21,22 変換用変圧器
31,32 電力変換器
41,42 直流リアクトル
51,52 直流送電線
61 直流電流検出値Id
62 直流電圧検出値Vd
70 電力設定器
71 定電流制御(ACR)
72 定電圧制御(AVR)
81 直流電流指令値Idp
82 直流電圧指令値Vdp
91 直流電流バイアス値
92 直流電圧バイアス値
101,102 バイアス補正回路
111 一次遅れ回路(過渡応答防止用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力を直流電力にまたは直流電力を交流電力に変換する電力変換器の制御装置で、電力設定器から与えられる電力指令値(Pdp)および直流電流指令値(Idp)又は直流電圧指令値(Vdp)に応じて電力制御のための定電流制御(ACR)や定電圧制御(AVR)を1次進み遅れ制御または1次遅れ制御のフィードバック制御方式で構成している電力変換器の制御装置において、前記定電流制御(ACR)や前記定電圧制御(AVR)の各制御系入力にバイアス値を設定値として与えることで、1次進み遅れ制御または1次遅れ制御のフィードバック制御における定常偏差を低減することを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換器の制御装置において、前記定電流制御(ACR)や前記定電圧制御(AVR)の各制御系入力に与えるバイアス値を、前記電力指令値(Pdp)、前記直流電流指令値(Idp)、前記直流電圧指令値(Vdp)に比例することに基づいて一次関数として、自動計算により算出することを特徴とする電力変換器の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−217762(P2009−217762A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63458(P2008−63458)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】