説明

電力変換装置および電源システム

【課題】複数相の電源の中性点と複数相の負荷の中性点とが結合された構成において、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給し、かつ小型化を図ることが可能な電力変換装置および電源システムを提供する。
【解決手段】複数相の電源EU,EV,EWの中性点NP1と複数相の負荷LA,LB,LCの中性点NP2とが共通の安定電位に結合された電源システム201における電力変換装置101であって、複数相の電源EU,EV,EWから供給される交流電力を変換して複数相の負荷LA,LB,LCにそれぞれ供給するマトリックスコンバータMXと、複数相の負荷LA,LB,LCの中性点NP2における零相電圧を検出し、検出した零相電圧に基づいてマトリックスコンバータMXの電力変換を制御する制御部10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置および電源システムに関し、特に、複数相の電源の各々から供給される各相の交流電力を変換して複数相の負荷にそれぞれ供給する電力変換装置および電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周波数および振幅が変動する複数相の交流電力から任意の周波数および任意の振幅を有する複数相の交流電圧または交流電流を生成する電源システムが開発されている。
【0003】
このような電源システムでは、一般的に、以下のようなAC−DC−AC間接変換方式が採用されている。すなわち、交流電源からの交流電力を半導体スイッチを用いた整流器により直流電力に変換し、安定した電圧または電流を生成する。これにより、直流部にエネルギーを蓄積する。この直流部からのエネルギーすなわち電力をインバータにより任意の周波数および任意の振幅を有する交流電圧または交流電流に変換する。
【0004】
このようなAC−DC−AC間接変換方式を採用する電力変換装置として、たとえば、特許文献1には、以下のような構成が開示されている。すなわち、エンジンにより駆動される交流発電機と、整流回路と、インバータとを備える定周波電源において、中性点をグランドに接続した交流発電機の出力を整流して得られる直流電源を3組の単相インバータにより中性点接地型3相4線式交流電源に変換する。この3相4線式交流電源の各相出力が所定の仕様を満足するように、3組の単相インバータを制御する。
【0005】
また、AC−DC−AC間接変換方式を採用する電力変換装置として、たとえば、特許文献2には、以下のような構成が開示されている。すなわち、交流電源を整流して直流電圧に変換する整流部と、変換された直流電圧をスイッチング素子の導電率を制御することにより交流に変換するインバータとを備えるモータ駆動装置に使用されるノイズフィルタにおいて、モータ駆動装置の入力側ノイズフィルタと、モータ駆動装置の出力側ノイズフィルタとを一体構造にしている。そして、入力側ノイズフィルタは雑音端子電圧低減フィルタであり、出力側ノイズフィルタはコモンモード電流低減フィルタである。雑音端子電圧低減フィルタは、交流電源とモータ駆動装置との間に直列に接続されたコモンモードチョークコイルと、モータ駆動装置の入力部とコモン線との間に並列に接続されたコンデンサとを含む。出力側ノイズフィルタは、モータ駆動装置の出力部とモータとの間に直列に接続されたコモンモードチョークコイルと、モータとコモン線との間に並列に接続されたコンデンサと、コモンモードチョークコイルに並列に接続された抵抗とを含む。そして、入力側ノイズフィルタのコモンモードチョークコイルおよび出力側ノイズフィルタのコモンモードチョークコイルを共通コア上に設けている。また、交流電源の中性点が接地されており、モータのフレームが接地されている。
【0006】
ところで、電源システムが航空機等に組み込まれる場合には、電源システムの小型化が特に要求される。電源システムの小型化を図る技術としては、AC−DC−AC間接変換方式と比べて部品点数が少なくなるAC−AC直接変換方式が知られている(たとえば非特許文献1参照)。このAC−AC直接変換方式では、交流電力を交流電力に直接変換するマトリックスコンバータを用いることにより、任意の周波数および任意の振幅を有する交流電圧または交流電流を生成する。マトリックスコンバータを用いることにより、入力電流の力率を1に制御することができるため、電源システムの小型化を図ることができる。
【0007】
このようなAC−AC直接変換方式を採用する電力変換装置として、たとえば、特許文献3には、以下のような構成が開示されている。すなわち、マトリックスコンバータの交流電源側に設けられた入力用三相交流リアクトルと、入力用三相交流リアクトルとマトリックスコンバータとの接続点に並列接続された入力用コンデンサからなる受動フィルタと、マトリックスコンバータの出力側に設けられた出力用三相交流リアクトルとを備える。出力用三相交流リアクトルの一端はマトリックスコンバータに接続され、他端は出力用三相コモンモードチョークコイルに接続される。出力用三相コモンモードチョークコイルが有する出力用三相交流リアクトルとは反対側の端子にモータなどの負荷を接続し、かつ出力用三相コモンモードチョークコイルと負荷との接続点に並列に出力用コンデンサを接続する。入力用コンデンサおよび出力用コンデンサはそれぞれの三相分が星型結線でありかつこれらの星型結線の中性点同士を接続線で接続している。
【0008】
また、AC−DC−AC間接変換方式およびAC−AC直接変換方式の両方が適用可能な電力変換装置として、たとえば、特許文献4には、以下のような構成が開示されている。すなわち、インバータおよびマトリクスコンバータ等に代表されるような電力変換装置を用いたモータ駆動装置に使用されるノイズフィルタにおいて、モータ駆動装置の入力側ノイズフィルタと、モータ駆動装置の出力側ノイズフィルタとを一体構造にしている。入力側ノイズフィルタは、電源と電力変換装置との間に直列に接続されたコモンモードチョークコイルと、このコモンモードチョークコイルおよび電力変換装置の間に各R、S、T相それぞれに配置された接地用コンデンサと、各R、S、T相間にY結線された複数のコンデンサとを含む。入力側ノイズフィルタにおけるY結線された各コンデンサの中性点に出力側ノイズフィルタのバイパス回路部が接続されている。また、交流電源の中性点が接地されており、モータのフレームが接地されている。
【0009】
ところで、マトリックスコンバータは、通常、中性点をグランドに接続する必要のない三相3線式の給電方式の負荷を対象としている。たとえば、マトリックスコンバータは、モータ駆動用のインバータとして用いられる。一方、マトリックスコンバータを定電圧源として使用する場合には、三相3線式の給電方式の負荷に限らず、負荷中性点のグランド接続が要求された三相4線式の給電方式の負荷にも対応する必要がある。すなわち、電源システムとしては、入力電源の中性点と負荷の中性点とが接続された回路構成に対応する必要がある。
【特許文献1】特開平4−331470号公報
【特許文献2】特開2005−130575号公報
【特許文献3】特開2005−295676号公報
【特許文献4】特開2007−68311号公報
【非特許文献1】石田宗秋他著、「入力力率可変正弦波入出力PWM制御サイクロコンバータの波形制御法」、電気学会論文誌、第107巻−D、第2号、pp.239−246、1987年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、非特許文献1には、任意の周波数および任意の振幅を有する交流電圧または交流電流を生成するための、マトリックスコンバータにおけるスイッチ群のオン・オフ制御方法が開示されている。このような制御方法については、各研究機関および各企業から様々な方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、非特許文献1に記載された制御方法は、三相平衡負荷の中性点を接地しない三相3線式の構成を対象としており、電圧利用率を上げるために負荷の中性点における電圧すなわち零相電圧を歪ませ、マトリックスコンバータから正弦波状の線間電圧を出力させる。このため、非特許文献1に記載された制御方法を上記のような三相4線式の構成にそのまま適用すると、零相電圧が変動するため、低周波の中性点電流が三相平衡負荷の中性点から三相交流電源の中性点へ流れてしまう。
【0012】
この低周波の中性点電流が三相交流電源へ流れ、三相交流電源の入力電流に重畳されると、入力電流波形が歪むことにより入力力率の悪化が生じ、さらには、電源システムの破損および誤動作を生じさせる場合がある。また、入力電流波形の歪みによって負荷への出力電圧波形も歪むため、負荷である機器の破損を生じる恐れもある。
【0013】
それゆえに、本発明の目的は、複数相の電源の中性点と複数相の負荷の中性点とが結合された構成において、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給し、かつ小型化を図ることが可能な電力変換装置および電源システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力変換装置は、複数相の電源の各々から供給される各相の交流電力を変換して複数相の負荷にそれぞれ供給し、かつ複数相の電源の中性点と複数相の負荷の中性点とが共通の安定電位に結合された電源システムにおける電力変換装置であって、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷にそれぞれ供給するマトリックスコンバータと、複数相の負荷の中性点における電圧である零相電圧を検出し、検出した零相電圧に基づいてマトリックスコンバータの電力変換を制御する制御部とを備える。
【0015】
このような構成により、制御部の制御演算によって零相電圧の変動を相殺することができるため、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給することができる。また、マトリックスコンバータを用いることにより、AC−DC−AC間接変換方式と比べて電力変換装置の小型化を図ることができる。
【0016】
また、複数相の負荷の中性点から複数相の電源の中性点へ流れる零相電流を抑制することができるため、以下の(1)〜(3)の効果が得られる。
【0017】
(1)小型化および軽量化ならびに制御性能の向上
零相電流を抑制することにより、入力電流に零相電流が重畳されて入力電流が大きく歪むことを防止することができる。その結果、電力変換装置が入力フィルタを備える場合、この入力フィルタの遮断周波数を高く設定することができるため、入力フィルタの小型化および軽量化を図ることができる。また、入力力率制御および出力電圧制御の応答性が向上し、電源システムとしての制御性能を向上させることができる。
【0018】
(2)他の電子機器の誤動作の防止
零相電流が発生すると零相電圧が変動し、中性線の電位に対して影響を与える。その結果、同電位の中性線に他の電子機器が接続されている場合、この電子機器の誤動作を誘発する場合がある。零相電流を抑制することで、同電位の中性線に接続された電子機器の誤動作を防止することができる。
【0019】
(3)漏電遮断器の誤作動防止
漏電時にマトリックスコンバータの出力等を停止する漏電遮断器を電力変換装置が備える場合、零相電流は漏れ電流としてこの漏電遮断器を誤作動させる恐れがある。零相電流を抑制することで、この漏電遮断器の誤作動を防止することができる。
【0020】
好ましくは、制御部は、マトリックスコンバータの入力電圧に対する入力電流位相の指令値と、マトリックスコンバータの出力電圧の振幅および周波数の指令値と、検出された零相電圧とに基づいてマトリックスコンバータの電力変換を制御する。
【0021】
より好ましくは、制御部は、零相電圧の角周波数が複数相の電源から供給される交流電力の角周波数と等しく、かつマトリックスコンバータの入力電圧に対する入力電流位相の指令値がゼロであるとしてマトリックスコンバータの電力変換を制御する。
【0022】
このような構成により、制御部の制御演算における変数を減らすことが可能となる。すなわち、相殺すべき零相電圧に応じて、零相電圧の振幅を示す変数を逐次変更するだけの簡易な制御演算となる。また、制御演算において零相電圧を簡易に表わすことができる。
【0023】
好ましくは、制御部は、検出した零相電圧に基づいて零相電圧の指令値を補正し、補正した零相電圧の指令値に基づいてマトリックスコンバータの電力変換を制御する。
【0024】
好ましくは、制御部は、検出した零相電圧に基づいてPWM制御信号を生成し、マトリックスコンバータは、生成されたPWM制御信号に基づいて交流電力の変換を行なう。
【0025】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電源システムは、安定電位に結合された中性点を有する複数相の負荷に電力を供給する電源システムであって、安定電位に結合された中性点を有し、複数相の交流電力を供給する複数相の電源と、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷にそれぞれ供給するマトリックスコンバータと、複数相の負荷の中性点における電圧である零相電圧を検出し、検出した零相電圧に基づいてマトリックスコンバータの電力変換を制御する制御部とを備える。
【0026】
このような構成により、制御部の制御演算によって零相電圧の変動を相殺することができるため、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給することができる。また、マトリックスコンバータを用いることにより、AC−DC−AC間接変換方式と比べて電源システムの小型化を図ることができる。
【0027】
この発明のある局面に係わる電力変換装置は、マトリックスコンバータを備える。AC−DC−AC間接変換方式と比べてマトリックスコンバータの優れる点は、以下の(1)〜(4)のとおりである。
【0028】
(1)小型化および軽量化が可能
電力変換装置の入力および出力間に挿入される半導体素子数が少なくて済むので、入力および出力間の電流経路上の半導体素子の損失が低減でき、これにより電力変換装置の損失を低減することができる。従って、ヒートシンクなどに代表される冷却部品を小型軽量化できるので、マトリックスコンバータを適用した電力変換装置はAC−DC−AC間接変換方式と比べて小型軽量化を図ることができる。
【0029】
また、マトリックスコンバータは、入力電流の位相を制御できることが知られている(非特許文献1参照)。従って、入力電圧と同位相になるように入力電流位相を制御した場合、入力力率を1にすることができる。一般的に、AC−DC−AC間接変換方式におけるAC−DC変換方式は、ダイオード整流器を適用する方式およびPWM整流器を適用する方式に大別される。ダイオード整流器を適用する方式は、安価で構成が容易であり、かつ高効率であるが、入力力率が比較的悪いという欠点を持っている。また、PWM整流器を適用する方式は、マトリックスコンバータと同様に入力力率1を実現することができるが、高価であり、構成が複雑であり、かつ損失が大きいという欠点を持っている。
【0030】
以上のことから、マトリックスコンバータはダイオード整流器を適用したAC−DC−AC間接変換方式と異なり、力率1を実現することができる。これにより、マトリックスコンバータの入力電源設備容量、たとえば入力電源および発電機などの容量を低減できるため、マトリックスコンバータの入力電源設備の小型化を図ることができる。さらに、マトリックスコンバータは、PWM整流器を適用したAC−DC−AC間接変換方式と比べて損失が小さくなる。
【0031】
なお、入力電源設備容量Sは、一般的に、以下の式で表わされる。
S[VA]=P[W]÷η÷PF
ただし、Pはマトリックスコンバータの出力電力すなわち負荷が要求する電力であり、ηはマトリックスコンバータの効率であり、PFはマトリックスコンバータの入力力率である。
【0032】
さらに、マトリックスコンバータは入力力率を1にすることができる為、ダイオード整流器を適用したAC−DC−AC間接変換方式と比べて入力電流を小さくすることができる。これにより、入力電源設備およびマトリックスコンバータ間の配線を細くすることができるため、小型化および軽量化を図ることができる。
【0033】
なお、三相の場合における入力電流Iは、一般的に、以下の式で表わされる。
I[A]=S[VA]÷V[V]
ただし、Vはマトリックスコンバータの入力電圧すなわち入力電源設備の出力電圧である。
【0034】
また、単相の場合における入力電流Iは、一般的に、以下の式で表わされる。
I[A]=S[VA]÷V[V]/3
航空機においては機器重量が重視され、少しでも軽量化を図ることが重要であり、従って、上記のように配線が少しでも細くなることが好ましく、電力変換装置が少しでも小さくかつ軽くなることが好ましい。
【0035】
(2)長寿命化が可能
マトリックスコンバータは、交流電力から交流電力へ直接変換するため、主回路内に直流部を有さないことが知られている(非特許文献1参照)。
【0036】
これに対して、AC−DC−AC間接変換方式では、入力交流電力を一旦直流電力に変換し、再度任意の交流電力を生成する方式であるため、直流部を有する。この直流部では、一般的に容量の大きい電解コンデンサ等を設けることにより、入力交流電力を直流電力に変換している。
【0037】
一般的に、電解コンデンサの寿命は、抵抗器および半導体素子などの電力変換装置を構成する部品と比べて短い。そのため電力変換装置の寿命は当該電解コンデンサの寿命と同一視される場合もある。
【0038】
これに対して、マトリックスコンバータは、上記の通り主回路内に直流部を有さないことから、電解コンデンサが不要である。したがって、装置の長寿命化を図ることができる。
【0039】
なお、一般的な観点から、電力変換装置の寿命が長くなることは、システムに組み込まれた電力変換装置の交換回数が少なくなる場合があるため、好ましい。
【0040】
(3)電力回生機能がある
マトリックスコンバータは、エネルギーの伝達方向の制約がない為、負荷で発生したエネルギーを入力側に回生できることが知られている。
【0041】
これに対して、ダイオード整流器を適用したAC−DC−AC間接変換方式では、ダイオード整流器によりエネルギーの伝達方向はある一方向に制限される。
【0042】
なお、一般的に、ダイオード整流器を適用したAC−DC−AC間接変換方式においては、負荷の端部に放電用の抵抗器を設けることにより、負荷で発生したエネルギーを放電する。この場合、負荷のエネルギーを抵抗器の熱に変換するので、負荷のエネルギーは有効に利用されない。更には、放電用の抵抗器を別途設ける必要があり、小型軽量化を妨げる。
【0043】
なお、負荷でエネルギーが発生する例としては、以下のようなものがある。すなわち、電車などを駆動するインバータにおいては、インバータにより電動機を駆動して、この電動機によって電車が走行する。電車の加速時などはインバータを介して、その加速に要するエネルギー相当分を電動機に供給する。そして、電車の減速時において、電動機が発電機のようにエネルギーを発生する。
【0044】
(4)低ノイズ化
AC−DC−AC間接変換方式は、前述の通り直流部を有する。一般的に、インバータは直流部の電圧を受けて、FET(Field Effect Transistor)およびIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などに代表される半導体素子によって、直流部の電圧を当該半導体素子でスイッチングすることにより、任意に設定された出力電圧および出力周波数へ変調する。
【0045】
この場合、直流部の電圧を当該半導体素子のスイッチングによりオン・オフした矩形波電圧が生じる。この矩形波電圧の最大値は、スイッチングサージなどを除き、理想的には直流電圧振幅になる。
【0046】
従って、電圧変動率dv/dtにおいて、dvがマトリックスコンバータに比べて大きく、dtは当該半導体素子の特性によって概ね決定されることから、当該半導体素子の電圧変動率dv/dtは大きくなる。そうすると、当該半導体素子の電圧の変動によって発生するノイズを低減するために、各所にノイズフィルタを挿入する等のノイズ対策が必要になり、電力変換装置が大型かつ高重量になってしまう。
【0047】
これに対して、マトリックスコンバータは、前述の通り直流部を有さない為、FETおよびIGBTなどに代表される半導体素子を用いて、任意に設定された出力電圧および出力周波数に変調する場合に、当該半導体素子の電圧変動率dv/dtは前述のAC−DC−AC間接変換方式と比べて小さくなる。
【0048】
即ち、AC−DC−AC間接変換方式における半導体素子の電圧変動は、直流部の電圧を受けた半導体素子を導通させた場合の半導体素子のオン電圧(一般的に数V)に対してスイッチングすなわちオン・オフを繰り返した形になる。
【0049】
これに対して、マトリックスコンバータは、入力電圧の任意の相の電圧を半導体素子によって変調する為、半導体素子の電圧変動が、入力電圧の任意の相の電圧と半導体素子を導通させた場合の半導体素子のオン電圧(一般的に数V)とをスイッチングによって繰り返す形になる。
【0050】
このため、マトリックスコンバータでは、AC−DC−AC間接変換方式に比べて半導体素子の電圧変動dv/dtを抑制できることから、挿入するノイズフィルタの数量が少なくなり、サイズが小さくなる場合がある。従って、マトリックスコンバータは、AC−DC−AC間接変換方式に比べて小型軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、複数相の電源の中性点と複数相の負荷の中性点とが結合された構成において、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給し、かつ小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0053】
<第1の実施の形態>
[構成および基本動作]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【0054】
図1を参照して、電源システム201は、交流電源EU,EV,EWと、電力変換装置101と、負荷部LUと、中性線5とを備える。電力変換装置101は、入力フィルタFLX1と、出力フィルタFLY1と、マトリックスコンバータMXと、制御部10とを含む。入力フィルタFLX1は、単相リアクトルLIU1,LIV1,LIW1と、コンデンサCIU2,CIV2,CIW2とを含む。出力フィルタFLY1は、単相リアクトルLOA1,LOB1,LOC1と、コンデンサCOA1,COB1,COC1とを含む。マトリックスコンバータMXは、双方向スイッチSA1,SA2,SA3,SB1,SB2,SB3,SC1,SC2,SC3を含む。負荷部LUは、負荷LA,LB,LCを含む。制御部10は、減算器6と、零相電圧補正量演算部7と、PWM(Pulse Width Modulation)制御演算部8と、零相電圧検出部9とを含む。
【0055】
以下、交流電源EU,EV,EWの各々を交流電源Eと称する場合がある。負荷LA,LB,LCの各々を負荷Lと称する場合がある。単相リアクトルLOA1,LOB1,LOC1の各々を単相リアクトルLO1と称する場合がある。
【0056】
電源システム201は、航空機および建設機械等に搭載される。電源システム201において、交流電源EU,EV,EWの中性点NP1と負荷LA,LB,LCの中性点NP2とが中性線5を介して共通の安定電位SPに結合されている。ここで、安定電位とは、電源システム201における他の部分と比べてインピーダンスが小さく電位変動が微小な部分の電位であり、たとえば航空機のフレームグランドすなわち機体の電位である。ここで、機体は、導電性を有する材質からなる。また、航空機等の大型機に電源システム201が組み込まれる場合には、中性点NP1および中性点NP2の距離が大きくなることから、中性点NP1と機体は、接続経路のインピーダンスが最小となる箇所において接続されることが好ましい。中性点NP2と機体も、接続経路のインピーダンスが最小となる箇所において接続されることが好ましい。
【0057】
電力変換装置101は、交流電源EU,EV,EWの各々から供給されるU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換して負荷LA,LB,LCにそれぞれ供給する。
【0058】
入力フィルタFLX1は、交流電源EU,EV,EWとマトリックスコンバータMXとの間に設けられている。より詳細には、単相リアクトルLIU1,LIV1,LIW1は、U相,V相,W相に対応して設けられ、対応の相の交流電源EとマトリックスコンバータMXとの間に接続されている。コンデンサCIU2,CIV2,CIW2はΔ結線されている、すなわち単相リアクトルLIU1,LIV1,LIW1とマトリックスコンバータMXとの間におけるU相,V相,W相の配線間にそれぞれ接続されている。
【0059】
出力フィルタFLY1は、マトリックスコンバータMXと負荷LA,LB,LCとの間に設けられている。より詳細には、単相リアクトルLOA1,LOB1,LOC1は、A相,B相,C相に対応して設けられ、対応の相の負荷LとマトリックスコンバータMXとの間に接続されている。コンデンサCOA1,COB1,COC1はY結線されている、すなわち、A相,B相,C相に対応して設けられ、マトリックスコンバータMXおよび対応の相の単相リアクトルLO1の接続ノードと中性線5すなわち安定電位SPとの間に接続されている。
【0060】
マトリックスコンバータMXにおいて、双方向スイッチSA1は、単相リアクトルLIU1と単相リアクトルLOA1との間に接続されている。双方向スイッチSA2は、単相リアクトルLIV1と単相リアクトルLOA1との間に接続されている。双方向スイッチSA3は、単相リアクトルLIW1と単相リアクトルLOA1との間に接続されている。双方向スイッチSB1は、単相リアクトルLIU1と単相リアクトルLOB1との間に接続されている。双方向スイッチSB2は、単相リアクトルLIV1と単相リアクトルLOB1との間に接続されている。双方向スイッチSB3は、単相リアクトルLIW1と単相リアクトルLOB1との間に接続されている。双方向スイッチSC1は、単相リアクトルLIU1と単相リアクトルLOC1との間に接続されている。双方向スイッチSC2は、単相リアクトルLIV1と単相リアクトルLOC1との間に接続されている。双方向スイッチSC3は、単相リアクトルLIW1と単相リアクトルLOC1との間に接続されている。
【0061】
双方向スイッチSA1,SA2,SA3,SB1,SB2,SB3,SC1,SC2,SC3の各々は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)およびダイオードを直列接続した回路を2つ用意し、互いの導通方向が逆向きになるようにこの2つの回路を並列接続した構成である。あるいは、これらの双方向スイッチは、逆耐圧性能を有する2つの逆阻止IGBTが、互いの導通方向が逆向きになるように並列接続されている構成であってもよい。
【0062】
入力フィルタFLX1は、交流電源EU,EV,EWからそれぞれ受けたU相,V相,W相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力をマトリックスコンバータMXへ出力する。
【0063】
マトリックスコンバータMXは、制御部10から受けたPWM制御信号に基づいて双方向スイッチSA1,SA2,SA3,SB1,SB2,SB3,SC1,SC2,SC3をそれぞれオン・オフすることにより、入力フィルタFLX1を通過したU相,V相,W相の交流電力を任意の周波数および任意の電圧/電流振幅を有するA相,B相,C相の交流電力に変換し、出力フィルタFLY1へ出力する。
【0064】
出力フィルタFLY1は、マトリックスコンバータMXから受けたA相,B相,C相の交流電力に含まれる所定周波数以上のノイズを減衰させ、減衰後の交流電力を負荷LA,LB,LCへそれぞれ出力する。
【0065】
電源システム201では、交流電源EU,EV,EWの中性点NP1および負荷LA,LB,LCの中性点NP2が中性線5を介して共通の安定電位SPに結合されている。このような構成により、交流電源EU,EV,EWの電位が不定になることを防ぐことができるため、負荷LA,LB,LCの誤動作を防ぐことができる。
【0066】
なお、電力変換装置101は、転流失敗時などに発生する過電圧および過電流から機器を保護するための保護回路を備える構成であってもよい。
【0067】
[制御方法]
次に、マトリックスコンバータMXにおけるスイッチ群の制御方法について詳細に説明する。
【0068】
制御部10は、負荷LA,LB,LCの中性点NP2における零相電圧を検出し、検出した零相電圧に基づいてマトリックスコンバータMXの電力変換を制御する。より詳細には、制御部10は、マトリックスコンバータMXの入力電圧に対する入力電流位相の指令値X1〜X3と、マトリックスコンバータMXの出力電圧の振幅および周波数の指令値Y1〜Y3と、零相電圧指令値vg_refと、検出した零相電圧vg_detとに基づいてPWM制御信号を生成し、マトリックスコンバータMXへ出力する。
【0069】
より詳細には、入力電圧vu0,vv0,vw0すなわち交流電源EU,EV,EWの出力電圧は、以下の式(1)で表わされる。
【0070】
【数1】

【0071】
ここで、ωおよびVsは交流電源EU,EV,EWの出力電圧の角周波数および振幅である。
【0072】
入力フィルタFLX1を通過したU相,V相,W相の電圧vu,vv,vwは以下の式(2)で表わされる。
【0073】
【数2】

【0074】
ここで、Vは入力フィルタFLX1の出力側の電圧振幅であり、δは入力フィルタFLX1によって生じる位相遅れ角である。
【0075】
制御部10は、サンプリング周期Tsごとにスイッチングパターンを更新する。ここで、制御法則を定式化するための制御関数a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3を考える。時刻tnからtn+1の期間にいて双方向スイッチSA1がオンしている期間をTsa1とすると、たとえばa1を以下の式(3)に示すように定義する。
【0076】
a1(tn)=Tsa1/Ts ・・・(3)
ここで、マトリックスコンバータMXでは、入力側の各相配線の短絡および出力側の各相配線の開放が許されないため、以下の式(4)および式(5)のような拘束条件が必要になる。
【0077】
【数3】

【0078】
0≦an≦1,0≦bn≦1,0≦cn≦1(n=1,2,3) ・・・(5)
制御部10は、制御関数が以下の式(6)になるように制御を行なう。
【0079】
【数4】

【0080】
ただし、Y1+Y2+Y3=0である。また、AはマトリックスコンバータMXの電圧振幅変調率である。hu,hv,hwは式(4)の拘束条件を満足させるために導入した関数である。
【0081】
ここで、関数X1,X2,X3はそれぞれ以下の式(7)で表わされる。
【0082】
【数5】

【0083】
ここで、ψsはマトリックスコンバータMXの入力電圧に対する入力電流位相の指令値である。すなわち、出力側関数X1,X2,X3は入力電流位相指令値である。
【0084】
以下、関数X1,X2,X3を入力側関数と呼び、関数Y1,Y2,Y3を出力側関数(出力電圧指令波形)と呼ぶ。
【0085】
マトリックスコンバータMXのA相,B相,C相の出力電圧をva,vb,vcとすると、期間Tsにおけるva,vb,vcの平均値は、式(2)、式(6)および式(7)から、以下の式(8)のように表わされる。
【0086】
【数6】

【0087】
ただし、v0=hu×vu+hv×vv+hw×vwである。
式(8)の第1項は求めるマトリックスコンバータMXの出力電圧である。すなわち、マトリックスコンバータMXの出力電圧の波形は、出力側関数Y1,Y2,Y3で表される波形となる。このため、出力側関数Y1,Y2,Y3は出力電圧指令値すなわち出力電圧の位相および振幅に対する指令値となる。式(8)の第2項は関数hu,hv,hwによって現れる零相電圧成分であり、マトリックスコンバータMXの線間電圧には現れない。
【0088】
以上は非特許文献1に記載された制御方法と同様の内容であるが、低周波の中性点電流を負荷LA,LB,LCの中性点NP2から交流電源EU,EV,EWの中性点NP1へ流さないようにするためには、非特許文献1に記載された制御方法において意図的に発生させている零相電圧を発生させないようにする必要がある。
【0089】
このため、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、零相電圧を表す式(6)の第2項であるhu,hv,hwを以下のように定める。すなわち、式(6)は式(4)および式(5)の拘束条件を満足する必要がある。また、式(8)より、マトリックスコンバータMXの出力電圧が三相平衡であるためには、式(8)の第2項のA相,B相,C相の成分は同じ数式となる必要がある。したがって、式(6)の第2項である零相電圧成分を以下の式(9)のように与える。
【0090】
hu=hv=hw=1/3 ・・・(9)
式(9)を上記した制御法に適用すれば、理論的には零相電圧は発生しない。しかしながら、式(9)を用いたとしても、マトリックスコンバータMXの入力リップル電圧などの影響により、わずかながら零相電圧が発生し、低周波の中性点電流が三相平衡負荷の中性点から三相交流電源の中性点へ流れてしまう。
【0091】
そこで、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、零相電圧を抑制するための制御を、制御部10の制御演算に組み込むことにより上記問題点を解決する。
【0092】
すなわち、前述した零相電圧成分の条件である式(9)に基づき、式(6)の第2項である零相電圧成分を以下の式(10)のように与える。
【0093】
【数7】

【0094】
ここで、kは零相電圧の振幅であり、ωgは零相電圧の角周波数である。零相電圧のレベルをvgとすると、零相電圧vgは式(8)および式(10)から以下の式(11)のように表わされる。
【0095】
【数8】

【0096】
すなわち、式(11)により、理論的に任意の零相電圧を生成することが可能となる。式(11)によって得られる零相電圧vgが実際の零相電圧として現れる低周波成分の逆相ならば、制御部10の制御演算によって零相電圧の変動を相殺することが可能となる。
【0097】
ここで、零相電圧の角周波数ωgが交流電源Eの出力電圧の各周波数ωと等しい場合には、式(11)から以下の式(12)が成立する。
【0098】
【数9】

【0099】
したがって、ωg=ωとすることにより、制御部10の制御演算における変数を減らすことが可能となる。すなわち、相殺すべき零相電圧に応じて逐次kの値のみを変更するだけの簡易な制御演算となる。
【0100】
また、ψs=0ならば式(6)で表わされる制御関数の零相電圧成分は以下の式(13)のように簡易に表わすことができる。
【0101】
【数10】

【0102】
したがって、式(6)で表わされる制御関数のhu,hv,hwの項に式(13)を適用し、零相電圧に対して簡易なフィードバックループを構成するだけで、制御演算上で零相電圧を抑制することが可能となる。すなわち、ωg=ωかつψs=0とすることにより、制御演算をさらに簡易化することができる。
【0103】
図1を参照して、制御部10において、零相電圧検出部9は、零相電圧すなわち中性点NP2における電圧を検出し、検出電圧値vg_detを減算器6へ出力する。
【0104】
減算器6は、零相電圧指令値vg_refから検出電圧値vg_detを減算し、減算結果を零相電圧補正量演算部7へ出力する。
【0105】
零相電圧補正量演算部7は、減算器6から受けた減算結果をたとえば比例積分することにより零相電圧振幅kを算出し、PWM制御演算部8へ出力する。
【0106】
PWM制御演算部8は、零相電圧補正量演算部7から受けた零相電圧振幅k、入力電流位相指令X1〜X3、および出力電圧指令値Y1〜Y3に基づいて、上記式(1)〜式(13)で示される制御演算を行なうことによってPWM制御信号を生成し、マトリックスコンバータMXへ出力する。
【0107】
[実験結果]
次に、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いて実験を行なった結果について説明する。
【0108】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた実験回路を示す図である。
【0109】
図2を参照して、負荷LA,LB,LCを抵抗負荷とし、中性線5を抵抗Rgで模擬し、抵抗Rgの両端電圧Vgを零相電圧vg_detとして検出することにより、本発明の第1の実施の形態に係る電力システムのフィードバックループを構成している。
【0110】
また、本実験の条件は以下のようになる。すなわち、マトリックスコンバータMXの入力電圧のレベルおよび周波数がそれぞれ50Vrmsおよび60Hzであり、マトリックスコンバータMXの出力電圧の周波数が30Hzであり、マトリックスコンバータMXのスイッチング周波数が15kHzである。また、単相リアクトルLIU1,LIV1,LIW1のインダクタンスが7mHであり、コンデンサCIU2,CIV2,CIW2のキャパシタンスが0.8μFであり、単相リアクトルLOA1,LOB1,LOC1のインダクタンスが3.5mHであり、コンデンサCOA1,COB1,COC1のキャパシタンスが2.5μFであり、負荷LA,LB,LCの抵抗値が5.3Ωであり、中性線5の抵抗値が0.1Ωであり、入力電流位相の指令値ψsが0であり、電圧振幅変調率Aが0.17であり、零相電圧の周波数が60Hzであり、零相電圧検出部9に含まれる図示しないローパスフィルタの時定数が3.2×10-5であり、零相電圧補正量演算部7における比例積分演算の比例ゲインおよび積分ゲインがそれぞれ1.1および150である。
【0111】
図3は、従来の電力変換装置を用いた場合における零相電流の測定結果を示す図である。図4は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合における零相電流の測定結果を示す図である。
【0112】
図5は、図3の測定結果をFFT(First Fourier Transform)解析した図である。図6は、図4の測定結果をFFT解析した図である。
【0113】
図7は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による零相電流の低周波成分の減衰効果を示す図である。図7は、図5および図6のFFT解析結果に基づいて零相電流の低周波成分の減衰量を算出した結果を示している。
【0114】
図3〜図7を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による零相電圧抑制制御により、零相電流の抑制、特に零相電流の低周波成分の抑制について従来と比べて劇的な効果が得られていることが分かる。すなわち、図7に示すように、零相電圧のうち、90Hzの周波数成分が6dB以上減衰されており、150Hz、180Hzの周波数成分が15dB以上減衰されており、30Hz、60Hz、120Hzの周波数成分が20dB以上減衰されており、零相電圧の低周波成分が従来と比べて大幅に低減されていることが分かる。
【0115】
図8は、従来の電力変換装置を用いた場合におけるA相の出力電圧の測定結果を示す図である。図9は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合におけるA相の出力電圧の測定結果を示す図である。
【0116】
図10は、図8の測定結果をFFT解析した図である。図11は、図9の測定結果をFFT解析した図である。
【0117】
図12は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による出力電圧の低周波成分の減衰効果を示す図である。図12は、図10および図11のFFT解析結果に基づいてA相の出力電圧の低周波成分の減衰量を算出した結果を示している。なお、A相の出力電圧の基本波成分は30Hzである。
【0118】
図8〜図12を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による零相電圧抑制制御により、A相の出力電圧の高調波の抑制、特に高調波のうちの低周波成分の抑制について従来と比べて劇的な効果が得られていることが分かる。すなわち、図12に示すように、A相出力電圧の高調波のうち、90Hzの周波数成分が約2dB減衰されており、120Hzの周波数成分が約3dB減衰されており、60Hzの周波数成分が約7dB減衰されており、180Hzの周波数成分が23dB減衰されており、A相の出力電圧の低周波成分が従来と比べて大幅に低減されていることが分かる。
【0119】
図13は、従来の電力変換装置を用いた場合におけるU相の入力電流の測定結果を示す図である。図14は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合におけるU相の入力電流の測定結果を示す図である。
【0120】
図15は、図13の測定結果をFFT解析した図である。図16は、図14の測定結果をFFT解析した図である。
【0121】
図17は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による入力電流の低周波成分の減衰効果を示す図である。図17は、図15および図16のFFT解析結果に基づいてU相の入力電流の低周波成分の減衰量を算出した結果を示している。なお、U相の入力電流の基本波成分は60Hzである。
【0122】
図13〜図17を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による零相電圧抑制制御により、U相の入力電流の高調波の抑制、特に高調波のうちの低周波成分の抑制について従来と比べて劇的な効果が得られていることが分かる。すなわち、図17に示すように、U相入力電流の高調波のうち、150Hzの周波数成分が約9dB減衰されており、120Hzの周波数成分が約12dB減衰されており、90Hzおよび180Hzの周波数成分が約14dB減衰されており、30Hzの周波数成分が約21dB減衰されており、U相の入力電流の低周波成分が従来と比べて大幅に低減されていることが分かる。
【0123】
このように、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置は、出力電圧波形および入力電流波形を改善することができるため、力率および効率の向上に関して非常に有効である。また、出力電圧の制御性を向上させることができる。
【0124】
ところで、非特許文献1に記載された制御方法を三相4線式の構成にそのまま適用すると、零相電圧が変動するため、低周波の中性点電流が三相平衡負荷の中性点から三相交流電源の中性点へ流れてしまう。しかしながら、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、制御部10が、零相電圧を検出し、検出した零相電圧の逆相分を零相電圧指令波形すなわち零相電圧指令値vg_refに重畳する。これにより、制御部10の制御演算によって零相電圧の変動を相殺することが可能となる。したがって、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、複数相の電源の中性点と複数相の負荷の中性点とが結合された構成において、複数相の電源から供給される交流電力を変換して複数相の負荷に安定して供給することができる。また、マトリックスコンバータを用いることにより、AC−DC−AC間接変換方式と比べて電源システムの小型化を図ることができる。
【0125】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、従来の電力変換装置に零相電圧検出部9を追加し、かつ制御部10の制御演算を変更するだけの簡易な構成で、零相電圧の低周波成分を低減することができる。
【0126】
なお、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムでは、交流電源EU,EV,EWを備える構成であるとしたが、これに限定するものではなく、複数相の交流電源の代わりに複数相の発電機を備える構成であってもよい。
【0127】
次に、本発明の他の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0128】
<第2の実施の形態>
本実施の形態は、第1の実施の形態に係る電源システムと比べて零相電圧の検出方法を変更した電源システムに関する。以下で説明する内容以外は第1の実施の形態に係る電源システムと同様である。
【0129】
図18は、本発明の第2の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
図18を参照して、電源システム202は、本発明の第1の実施の形態に係る電源システムと比べて、電力変換装置101の代わりに電力変換装置102を備える。電力変換装置102は、入力フィルタFLX1と、出力フィルタFLY1と、マトリックスコンバータMXと、制御部11とを含む。制御部11は、減算器6と、零相電圧補正量演算部7と、PWM制御演算部8と、零相電圧検出部9と、零相電流検出部20とを含む。
【0130】
零相電流検出部20は、零相電流すなわち中性点NP2から中性点NP1へ流れる電流を検出し、検出電流値を零相電圧検出部9へ出力する。
【0131】
零相電圧検出部9は、零相電流検出部20から受けた検出電流値に基づいて、オームの法則を用いて零相電圧を算出し、算出した零相電圧値vg_detを減算器6へ出力する。
【0132】
その他の構成および動作は第1の実施の形態に係る電源システムと同様であるため、ここでは詳細な説明を繰り返さない。
【0133】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた実験回路を示す図である。
【図3】従来の電力変換装置を用いた場合における零相電流の測定結果を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合における零相電流の測定結果を示す図である。
【図5】図3の測定結果をFFT解析した図である。
【図6】図4の測定結果をFFT解析した図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による零相電流の低周波成分の減衰効果を示す図である。
【図8】従来の電力変換装置を用いた場合におけるA相の出力電圧の測定結果を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合におけるA相の出力電圧の測定結果を示す図である。
【図10】図8の測定結果をFFT解析した図である。
【図11】図9の測定結果をFFT解析した図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による出力電圧の低周波成分の減衰効果を示す図である。
【図13】従来の電力変換装置を用いた場合におけるU相の入力電流の測定結果を示す図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置を用いた場合におけるU相の入力電流の測定結果を示す図である。
【図15】図13の測定結果をFFT解析した図である。
【図16】図14の測定結果をFFT解析した図である。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置による入力電流の低周波成分の減衰効果を示す図である。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0135】
5 中性線、6 減算器、7 零相電圧補正量演算部、8 PWM制御演算部、9 零相電圧検出部、10,11 制御部、20 零相電流検出部、101,102 電力変換装置、201,202 電源システム、EU,EV,EW 交流電源、LU 負荷部、FLX1 入力フィルタ、FLY1 出力フィルタ、MX マトリックスコンバータ、CIU2,CIV2,CIW2,COA2,COB2,COC2 コンデンサ、LIU1,LIV1,LIW1,LOA1,LOB1,LOC1 単相リアクトル、SA1,SA2,SA3,SB1,SB2,SB3,SC1,SC2,SC3 双方向スイッチ、LA,LB,LC 負荷、Rg 抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の電源の各々から供給される各相の交流電力を変換して複数相の負荷にそれぞれ供給し、かつ前記複数相の電源の中性点と前記複数相の負荷の中性点とが共通の安定電位に結合された電源システムにおける電力変換装置であって、
前記複数相の電源から供給される交流電力を変換して前記複数相の負荷にそれぞれ供給するマトリックスコンバータと、
前記複数相の負荷の中性点における零相電圧を検出し、前記検出した零相電圧に基づいて前記マトリックスコンバータの電力変換を制御する制御部とを備える電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記マトリックスコンバータの入力電圧位相に対する入力電流位相の指令値と、前記マトリックスコンバータの出力電圧の振幅および周波数の指令値と、前記検出された零相電圧とに基づいて前記マトリックスコンバータの電力変換を制御する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記零相電圧の角周波数が前記複数相の電源から供給される交流電力の角周波数と等しく、かつ前記マトリックスコンバータの入力電圧位相に対する入力電流位相の指令値がゼロであるとして前記マトリックスコンバータの電力変換を制御する請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出した零相電圧に基づいて前記零相電圧の指令値を補正し、前記補正した零相電圧の指令値に基づいて前記マトリックスコンバータの電力変換を制御する請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出した零相電圧に基づいてPWM制御信号を生成し、
前記マトリックスコンバータは、前記生成されたPWM制御信号に基づいて前記交流電力の変換を行なう請求項1から4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
安定電位に結合された中性点を有する複数相の負荷に電力を供給する電源システムであって、
前記安定電位に結合された中性点を有し、複数相の交流電力を供給する複数相の電源と、
前記複数相の電源から供給される交流電力を変換して前記複数相の負荷にそれぞれ供給するマトリックスコンバータと、
前記複数相の負荷の中性点における零相電圧を検出し、前記検出した零相電圧に基づいて前記マトリックスコンバータの電力変換を制御する制御部とを備える電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−148334(P2010−148334A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326383(P2008−326383)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月6日〜10日 社団法人電気学会の「The International Conference on Electrical Engineering 2008」および平成20年9月18日〜19日 電気学会東海支部、電子情報通信学会東海支部、情報処理学会東海支部、照明学会東海支部、映像情報メディア学会東海支部、日本音響学会東海支部、電気設備学会中部支部、IEEE名古屋支部の「平成20年度電気関係学会東海支部連合大会」において文書をもって発表
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】