説明

電力変換装置

【課題】電力変換装置においてノイズモード変換によって発生するノイズを低減できる手段を提供する。
【解決手段】上アーム及び下アームを構成する複数のスイッチング素子130,140を有した電力変換装置において、上アーム側のスイッチング素子130のみが少なくとも1つ搭載され、搭載されたスイッチング素子130のドレインが接する上アーム側パターン配線40を設ける。また、下アーム側のスイッチング素子140のみが1つ搭載され、搭載されたスイッチング素子140のソースが接する複数の下アーム側パターン配線50を設ける。そして、スイッチング素子130,140の少なくとも2つは、互いに近接して配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力から交流電力への変換や、交流電力から直流電力への変換を行う電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機などの冷凍装置では、電動機に電力を供給するために、電力変換装置(インバータ回路など)が用いられる。この電力変換装置は、直流電力から交流電力への変換や、交流電力から直流電力への変換を行う装置である。このような電力変換装置には、複数のスイッチング素子で上アームと下アームを構成し、該スイッチング素子のオンオフ動作により所定の電力を得るようになっているものがある。このようなスイッチング素子は、ベアチップとして形成してプリント基板上に搭載し、上アームと下アームの両方を含んだモジュール(パワーモジュール)として構成するのが一般的である。そして、これらのスイッチング素子は動作中に発熱するので、スイッチング素子を冷却するためのヒートシンクがパワーモジュールに設けられる場合がある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−99677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のパワーモジュールでは、スイッチング素子が取り付けられているパターン配線と、ヒートシンクとがコンデンサを構成するので、ヒートシンクが電気的に接地されていると、スイッチング素子のオンオフ動作で発生した電圧変動によって高周波電流がそのコンデンサに流れ、それがノイズ(例えばコモンモードノイズ)として流出することになる。特に、下アームのスイッチング素子の高電圧側のノード(コレクタ)がパターン配線に接続されていると、その部分でより大きな高周波電流が発生する可能性がある。特に、SiC(Silicon Carbide,炭化ケイ素)を主材料に用いたスイッチング素子を電力変換装置に採用して、高速なスイッチングを行うと、前記コモンモードノイズはより顕著になると考えられる。
【0005】
そして、電力変換装置において電流経路のインピーダンスにバラツキがあると、前記のコモンモードノイズがノーマルモードノイズに変換される、いわゆるノイズモード変換が起こり、ノーマルモードノイズのレベルも増大する可能性がある。
【0006】
本発明は上記の問題に着目してなされたものであり、電力変換装置においてノイズモード変換によって発生するノイズを低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、第1の発明は、
上アームと下アームとを構成する複数のスイッチング素子(130,140)と、
上アーム側の前記スイッチング素子(130)のみが少なくとも1つ搭載され、直流の正側ノードに繋がる上アーム側パターン配線(40)と、
下アーム側の前記スイッチング素子(140)のみが1つ搭載される複数の下アーム側パターン配線(50)と、
を備え、
前記スイッチング素子(130,140)の少なくとも2つは、互いに近接して配置されていることを特徴とする。
【0008】
この構成では、スイッチング素子(130,140)の少なくとも2つが互いに近接しているので、近接したスイッチング素子(130,140)に係る電流経路の長さの差を小さくすることが可能になる。これにより、本発明では、交流の各相に係る電流経路のインピーダンス差を低減することが可能になる。
【0009】
また第2の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
前記スイッチング素子(130,140)は、前記上アーム毎及び下アーム毎に互いに近接して一列に並んで配置されていることを特徴とする。
【0010】
この構成では、上アームのスイッチング素子(130)が一列に配置されることにより、上アームにおける電流経路の差を効果的に低減できる。同様に、下アームのスイッチング素子(140)が一列に配置されることにより、下アームにおける電流経路長の差を効果的に低減できる。
【0011】
また第3の発明は、
第2の発明の電力変換装置において、
前記上アーム側のスイッチング素子(130)と前記下アーム側パターン配線(50)とをそれぞれ接続する複数の上アーム側ワイヤ配線(70)をさらに備え、
前記上アーム側のスイッチング素子(130)は、1つの前記上アーム側パターン配線(40)上に一列に並んで配置され、
前記複数の上アーム側ワイヤ配線(70)は、接続される上アーム側スイッチング素子(130)の位置が前記直流の正側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さいことを特徴とする。
【0012】
この構成では、上アーム側のスイッチング素子(130)が、1つの前記上アーム側パターン配線(40)上に一列に並んで配置されるともに、上アーム側ワイヤ配線(70)は、接続される上アーム側スイッチング素子(130)の位置が直流の正側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さくなっている。それゆえ、上アーム側のスイッチング素子(130)から下アーム側パターン配線(50)に至る各電流経路のインピーダンス差をより効果的に低減できる。
【0013】
また第4の発明は、
第2又は第3の発明の電力変換装置において、
直流の負側ノードに繋がるグランド側パターン配線(30)と、
前記下アーム側のスイッチング素子(140)と前記グランド側パターン配線(30)とをそれぞれ接続する複数のグランド側ワイヤ配線(60)と、
をさらに備え、
前記複数のグランド側ワイヤ配線(60)は、接続される下アーム側スイッチング素子(140)の位置が前記負側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さいことを特徴とする。
【0014】
この構成では、グランド側ワイヤ配線(60)は、接続される下アーム側スイッチング素子(140)の位置が前記負側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さくなっているので、下アーム側スイッチング素子(140)からグランド側パターン配線(30)に至る各電流経路のインピーダンス差を低減できる。
【0015】
また第5の発明は、
第1から第4の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記上アーム側及び下アーム側スイッチング素子(130,140)は、それぞれの被制御端子(131,132,141,142)間において双方向の電流を許容するスイッチング素子であることを特徴とする。
【0016】
この構成では、各スイッチング素子(130,140)として、いわゆる双方向スイッチを用いているので、後述の同期整流が可能になる。すなわち、この構成では、還流ダイオードを省略できる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、第1の発明によれば、電流経路のインピーダンス差を低減することが可能になるので、従来のインバータ回路と比べ、コモンモードノイズから変換されたノーマルモードノイズのレベルを低減させることが可能になる。
【0018】
また、第2の発明によれば、上アーム及び下アームにおける電流経路長の差を効果的に低減できるので、コモンモードノイズから変換されたノーマルモードノイズのレベルを効果的に低減させることが可能になる。
【0019】
また、第3の発明によれば、上アーム側のスイッチング素子(130)から下アーム側パターン配線(50)に至る電流経路のインピーダンス差を低減できるので、コモンモードノイズから変換されたノーマルモードノイズのレベルをより効果的に低減させることが可能になる。
【0020】
また、第4の発明によれば、下アーム側スイッチング素子(140)からグランド側パターン配線(30)に至る電流経路のインピーダンス差を低減できるので、コモンモードノイズから変換されたノーマルモードノイズのレベルをより効果的に低減させることが可能になる。
【0021】
また、第5の発明によれば、還流ダイオードを省略できるので、上アーム側パターン配線(40)や下アーム側パターン配線(50)の面積を低減させて、各スイッチング素子(130,140)のオンオフ動作によって発生するコモンモードノイズを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同期整流の基本的な概念を示す図である。
【図3】インバータ回路におけるスイッチング素子の実装状態を模式的に示す図である。
【図4】インバータ回路におけるノイズ(コモンモードノイズ)の発生原理を説明する図である。
【図5】本実施形態のインバータ回路における電流経路の一例を示す図である。
【図6】本実施形態の変形例にかかるスイッチング素子の実装状態を模式的に示す平面図である。
【図7】他の配置例1に係るスイッチング素子等の実装状態を模式的に示す図である。
【図8】他の配置例2に係るスイッチング素子等の実装状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0024】
《発明の実施形態の概要》
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。この電力変換装置(1)は、交流電源(2)をコンバータ回路(110)によって整流し、その直流をインバータ回路(120)によって三相交流に変換してモータ(3)に供給するものである。このモータ(3)は、例えば、空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動するものである。
【0025】
なお、以下において、「2つの素子(チップ)が近接している」とは、2つの素子の間に、他の素子が存在せずに接近していることを意味している。
【0026】
また、「複数の素子(チップ)が一列に並ぶ」とは、所定の方向からそれらの素子を見て、何れの素子も、他の何れかの素子と重なって見える状態を意味している。
【0027】
また、「電力変換装置」とは、本実施形態のようにコンバータ回路(110)とインバータ回路(120)の両方を含んだものの他、例えばインバータ回路のみで構成された装置も含む概念である。
【0028】
《インバータ回路(120)》
インバータ回路(120)は、上アームを構成する3つの上アーム側スイッチング素子(130)と、下アームを構成する3つの下アーム側スイッチング素子(140)とを備え、これら6個のスイッチング素子(130,140)によって同期整流を行うように構成されている。これらのスイッチング素子(130,140)は、それぞれのドレイン・ソース間(これらの端子を被制御端子と呼ぶ)において双方向の電流を許容するスイッチング素子(いわゆる双方向スイッチング素子)である。具体的には、それぞれのスイッチング素子(130,140)は、ワイドバンドギャップ半導体を用いたユニポーラ素子(ここでは、SiC MOSFET)である。また、本実施形態では、1つのスイッチング素子(130,140)は、1つのベアチップとして形成され、ベアチップの一方の面にドレイン電極が形成され、もう一方の面にソース電極とゲート電極が形成されている。
【0029】
また、インバータ回路(120)は、各スイッチング素子(130,140)の逆導通特性を利用し、同期整流を行う。図2は、同期整流の基本的な概念を示す図である。同期整流とは、図2に示すように、寄生ダイオード(133,143)に逆方向電流が流れる際に、スイッチング素子(130,140)をオンにし、該スイッチング素子(130,140)側に逆方向電流を流す制御方法である。これにより逆方向電流が流れた際の導通損失を低減できる。
【0030】
〈インバータ回路(120)におけるスイッチング素子の実装〉
図3は、インバータ回路(120)におけるスイッチング素子(130,140)の実装状態を模式的に示す図である。
【0031】
この例では、各スイッチング素子(130,140)は、絶縁基板(10)上に実装され、電力出力端子(20)を介して交流電力を出力する。具体的には、このインバータ回路(120)では、3相交流の各相(U,V,W)に対応した3つの電力出力端子(20)が設けられている。これらの電力出力端子(20)は、例えばリードフレームによって構成される。
【0032】
そして、このインバータ回路(120)では、各スイッチング素子(130,140)等は、絶縁基板(10)上のパターン配線やワイヤ配線によって電気的に接続されている。具体的には、この絶縁基板(10)には、パターン配線として、グランド側パターン配線(30)、上アーム側パターン配線(40)、及び下アーム側パターン配線(50)が設けられている。また、このインバータ回路(120)ではワイヤ配線として、グランド側ワイヤ配線(60)、及び上アーム側ワイヤ配線(70)が設けられている。これらのワイヤ配線は、いわゆるワイヤボンディングにより、各パターン配線(30,40,50)やスイッチング素子(130,140)と接続されている。
【0033】
〈パターン配線〉
また、本実施形態の上アーム側パターン配線(40)は、長方形の形態を有し、1つのみが絶縁基板(10)上に設けられている。上アーム側パターン配線(40)の一端は、コンバータ回路(110)の正側ノードに接続されている。そして、この上アーム側パターン配線(40)には、3つの上アーム側スイッチング素子(130)が実装されている。より具体的には、それぞれの上アーム側スイッチング素子(130)は、互いに近接して一列に並ぶように上アーム側パターン配線(40)に搭載され、それぞれ上アーム側スイッチング素子(130)は、ドレイン(131)側の面を上アーム側パターン配線(40)側にして、該ドレイン(131)が上アーム側パターン配線(40)と電気的に接続されている。
【0034】
グランド側パターン配線(30)は、この上アーム側パターン配線(40)に平行して配置され、その一端がコンバータ回路(110)の負側ノードに接続されている。
【0035】
また、下アーム側パターン配線(50)は、絶縁基板(10)上に3箇所に設けられ、前記電力出力端子(20)と1対1に電気的に接続されている。これらの下アーム側パターン配線(50)は、図3に示すように、前記グランド側パターン配線(30)に並行して一列に並んで配置されている。この例では、各下アーム側パターン配線(50)は、1つの下アーム側スイッチング素子(140)を搭載できるだけの大きさを有し、それぞれの下アーム側パターン配線(50)には、下アーム側スイッチング素子(140)のみが1つ搭載されている。詳しくは、それぞれの下アーム側パターン配線(50)には、下アーム側スイッチング素子(140)が、ドレイン(141)側の面を該下アーム側パターン配線(50)側にして搭載され、該ドレイン(141)が下アーム側パターン配線(50)と電気的に接続されている。上記のような下アーム側パターン配線(50)の配置により、下アーム側スイッチング素子(140)も、一列に並んで配置されることになる。これらの下アーム側パターン配線(50)の間には素子が配置されていない。すなわち、所定の下アーム側スイッチング素子(140)同士は互いに近接することになる。
【0036】
なお、下アーム側パターン配線(50)の列と上アーム側パターン配線(40)との間にはグランド側パターン配線(30)が存在するが、上アーム側スイッチング素子(130)と下アーム側スイッチング素子(140)の間に他の素子は存在せず、これらのスイッチング素子(130,140)は互いに接近している。
【0037】
〈ワイヤ配線〉
グランド側ワイヤ配線(60)は、下アーム側スイッチング素子(140)毎に設けられている。この例では、1つの下アーム側スイッチング素子(140)に対して2本のグランド側ワイヤ配線(60)が設けられている。それぞれのグランド側ワイヤ配線(60)は、対応した下アーム側スイッチング素子(140)のソース(142)と、グランド側パターン配線(30)とを電気的に接続している。
【0038】
また、上アーム側ワイヤ配線(70)は、上アーム側スイッチング素子(130)毎に設けられている。この例では、1つの上アーム側スイッチング素子(130)に対して2本の上アーム側ワイヤ配線(70)が設けられている。それぞれの上アーム側ワイヤ配線(70)は、図3に示すように、上アーム側スイッチング素子(130)のソース(132)と下アーム側パターン配線(50)とを1対1に接続している。
【0039】
上記のように絶縁基板(10)上に形成されたインバータ回路(120)は、コンバータ回路(110)や駆動回路(図示は省略)とともに、所定のパッケージ(図示は省略)に収容されてパワーモジュールを構成している。
【0040】
《インバータ回路(120)におけるコモンモードノイズ》
図4は、インバータ回路(120)におけるノイズ(コモンモードノイズ)の発生原理を説明する図である。この例ではインバータ回路(120)が収容されたパッケージにヒートシンク(150)が取り付けられ、ヒートシンク(150)は電気的に接地させられている。このヒートシンク(150)は、各スイッチング素子(130,140)等を空冷するものであり、前記パッケージ外面部材(例えば金属板など)を介して、絶縁基板(10)に熱的に接続されている。
【0041】
このような構成では、絶縁基板(10)上のパターン配線(30,40,50)とヒートシンク(150)とが絶縁体(絶縁基板(10))を介して対向することになる。すなわち、絶縁基板(10)のパターン配線(30,40,50)とヒートシンク(150)との間にコンデンサが形成されることになる。この状態で、各スイッチング素子(130,140)がオンオフ動作を繰り返すと、このコンデンサの両端で電圧変動が起こり、高周波電流が図4に破線で示す経路にコモンモードノイズとして流れる。このとき、インバータ回路(120)において電圧変化率が比較的大きなノードは、下アーム側スイッチング素子(140)のドレイン(141)側である。つまり、絶縁基板(10)のパターン配線(30,40,50)のうち、電圧変化率が比較的大きな配線パターンは、下アーム側パターン配線(50)ということになる。したがって、このインバータ回路(120)でのコモンモードノイズの大きさは、下アーム側パターン配線(50)とヒートシンク(150)とによって構成されたコンデンサ(C)を流れる高周波電流の大きさが支配的になる。そして、スイッチング動作で発生する高周波電流は、該コンデンサ(C)の容量が大きいほど大きくなる傾向にある。
【0042】
〈コモンモードノイズの大きさ〉
ところで、一般的なインバータ回路では、各スイッチング素子に対し、還流ダイオードが逆並列接続される(以下、説明の便宜上このようなインバータ回路を、従来のインバータ回路と呼ぶ)。そして、このような還流ダイオードは、例えば下アーム側のスイッチング素子に対しては、下アーム側スイッチング素子と同じパターン配線上に配置したり、あるいは還流ダイオード用のパターン配線を設けて下アーム側スイッチング素子とワイヤ配線で接続したりするのが一般的である。例えば、下アーム側スイッチング素子と同じ下アーム側パターン配線上に配置すると、この還流ダイオードは、該下アーム側パターン配線を介して下アーム側スイッチング素子のドレインと電気的に繋がることになる。
【0043】
しかしながら、還流ダイオードを下アーム側スイッチング素子と同じパターン配線上に配置した場合も、還流ダイオード用のパターン配線を設けた場合も、実質的に前記コンデンサ(C)を構成する下アーム側パターン配線の面積が増大し、その結果、該コンデンサ(C)の容量が増大することになる。これにより、下アーム側パターン配線(あるいはさらに還流ダイオード用のパターン配線)とヒートシンクとによって構成されたコンデンサ(C)の容量が増大し、該コンデンサ(C)を流れる高周波電流(コモンモードノイズ)も増大することになる。
【0044】
《本実施形態におけるコモンモードノイズに関する効果》
その点、本実施形態では、上アーム側及び下アーム側スイッチング素子(130,140)の少なくとも2つは、互いに近接して配置されている。この例では、上アーム側パターン配線(40)に、3つの上アーム側スイッチング素子(130)を互いに近接させて搭載している。また、下アーム側パターン配線(50)に、1つの下アーム側スイッチング素子(140)のみを搭載している。しかも、本実施形態では、上アーム側及び下アーム側スイッチング素子(130,140)としていわゆる双方向スイッチング素子を採用し、上アームと下アームの各スイッチング素子(130,140)には、外付けの還流ダイオードを設けていない。それゆえ、上アーム側及び下アーム側パターン配線(40,50)の面積を最小限にとどめることが可能になるのである。したがって、本実施形態によれば、スイッチング素子のオンオフ動作によって発生するコモンモードノイズを低減することが可能になる。
【0045】
《ノイズモード変換》
図5は、インバータ回路(120)における電流の経路を説明する図である。このインバータ回路(120)には交流の3相に対応した電流経路がある。具体的には、上アーム側パターン配線(40)とコンバータ回路(110)の正側との接続ノードから、上アーム側パターン配線(40)、上アーム側スイッチング素子(130)、上アーム側ワイヤ配線(70)、及び下アーム側パターン配線(50)を経て電力出力端子(20)に至る電流経路が3相分ある。また、電力出力端子(20)、下アーム側パターン配線(50)、下アーム側スイッチング素子(140)、グランド側ワイヤ配線(60)、及びグランド側パターン配線(30)を経て、該グランド側パターン配線(30)とコンバータ回路(110)の負側との接続ノードに至る電流経路が3相分ある。図5では、これらの電流経路のうち、U相,W相についての経路を矢印で示してある(図中のA1、A2、B1、B2)。そして、電流経路(A1)のインピーダンスと電流経路(A2)のインピーダンスとが異なっていたり、電流経路(B1)のインピーダンスと電流経路(B2)のインピーダンスとが異なっていたりすると、上記のコモンモードノイズがノーマルモードノイズに変換される場合がある。
【0046】
《本実施形態におけるノイズモード変換に関する効果》
本実施形態では、各パターン配線(40,50)には、スイッチング素子(130,140)以外の素子が搭載されていないので、各スイッチング素子(130,140)を近接して配置することができる。この例では、図3に示すように、3つの上アーム側スイッチング素子(130)同士は、互いに近接して一列に並んで配置されている。同様に、3つの下アーム側スイッチング素子(140)同士も互いに近接して一列に並んで配置されている。そして、上アーム側スイッチング素子(130)の列と、下アーム側スイッチング素子(140)の列とは近接して配置されている。これにより、例えば、絶縁基板上、すなわちパターン配線上に外付けのダイオードが搭載されたインバータ回路(従来のインバータ回路と呼ぶ)よりも、各相の電流経路の長さの差を小さくすることが可能になる。すなわち、本実施形態では、各相の電流経路のインピーダンス差を低減することが可能になるのである。したがって、本実施形態によれば、従来のインバータ回路と比べ、コモンモードノイズからノーマルモードノイズへの変換を抑制することができ、回路の誤動作等を防ぐことが出来る。
【0047】
《本実施形態の変形例》
本実施形態の変形例では、ノイズモード変換によるコモンモードノイズをさらに効果的に低減できる実装例を説明する。図6は、本変形例にかかるスイッチング素子の実装状態を模式的に示す平面図である。
【0048】
このインバータ回路ではワイヤ配線として、さらに出力端子側ワイヤ配線(80)が設けられている。この例では、出力端子側ワイヤ配線(80)は、下アーム側パターン配線(50)毎に設けられている。詳しくは、出力端子側ワイヤ配線(80)は、1つの下アーム側パターン配線(50)に対し、2本ずつが設けられ、それぞれの出力端子側ワイヤ配線(80)は、対応した下アーム側パターン配線(50)と電力出力端子(20)とを電気的に接続している。
【0049】
そして、この例では、正側ノード(P)からU相用の上アーム側スイッチング素子(130)に至る電流経路のインピーダンスをZ1、U相用の上アーム側スイッチング素子(130)からU相の電力出力端子(20)に至る電流経路のインピーダンスをZ2、前記正側ノード(P)からW相の電力出力端子(20)に至る電流経路のインピーダンスをZ3とした場合に、Z1+Z2=Z3となるように、上アーム側パターン配線(40)の長さや、各ワイヤ配線(60,70,80)の長さを調整している。
【0050】
具体的には、図6に示すように、上アーム側スイッチング素子(130)は、右上がりの直線上に一列に配置され、下アーム側スイッチング素子(140)は、右下がりの直線上に一列に配置されている(ここで、右とは図6における右方向)。そして、上アーム側ワイヤ配線(70)は、接続される上アーム側スイッチング素子(130)の位置が正側ノード(P)から遠いものほど、インピーダンスが小さくなるように、それぞれの長さが調整されている。すなわち、各上アーム側ワイヤ配線(70)は、接続される上アーム側スイッチング素子(130)の位置が正側ノード(P)から遠いものほど、それぞれの長さが短くなっている。このようにすることで、電流経路(A1)のインピーダンスと電流経路(A2)のインピーダンスとが揃うことになる。
【0051】
また、グランド側ワイヤ配線(60)は、接続される下アーム側スイッチング素子(140)の位置が負側ノード(N)から遠いものほど、インピーダンスが小さくなるように、それぞれの長さが調整されている。すなわち、各グランド側ワイヤ配線(60)は、接続される下アーム側スイッチング素子(140)の位置が負側ノード(N)から遠いものほど、短くなっている。このようにすることで、電流経路(B1)のインピーダンスと電流経路(B2)のインピーダンスとが揃うことになる。したがって、ノイズモード変換によって生ずるノーマルモードノイズをより確実に低減させることが可能になる。
【0052】
《その他の配置例》
なお、上記実施形態における各パターン配線(30,40,50)の配置や形態は例示である。例えば、以下に例示する配置も可能である。
【0053】
〈1〉図7は、他の配置例1に係るスイッチング素子(130,140)等の実装状態を模式的に示す図である。本配置例でも1つの上アーム側パターン配線(40)上に、3つの上アーム側スイッチング素子(130)が搭載されている。また、下アーム側パターン配線(50)は3つ設けられ、それぞれの下アーム側パターン配線(50)には1つの下アーム側スイッチング素子(140)のみを搭載している。この例でも下アーム側パターン配線(50)は、一列に並ぶように、上アーム側パターン配線(40)の下方(図7おける下方)に配置されている。また、電力出力端子(20)は、上記実施形態と比べ、各下アーム側パターン配線(50)から離れた位置にあり、電力出力端子(20)を構成するリードフレームを各下アーム側パターン配線(50)の近傍まで伸ばしている。そして、この配置例では、ワイ出力端子側ワイヤ配線(80)を設けていない。
【0054】
〈2〉図8は、他の配置例2に係るスイッチング素子(130,140)等の実装状態を模式的に示す図である。この配置例は、グランド側パターン配線(30)の配置が前記実施形態と異なっており、本配置例のグランド側パターン配線(30)は、下アーム側パターン配線(50)の列と、電力出力端子(20)の列との間に配置されている。また、この例でも、ワイヤ配線として、さらに出力端子側ワイヤ配線(80)が設けられている。詳しくは、出力端子側ワイヤ配線(80)は、1つの下アーム側パターン配線(50)に対し、2本ずつが設けられ、それぞれの出力端子側ワイヤ配線(80)は、対応した下アーム側パターン配線(50)と電力出力端子(20)とを電気的に接続している。
【0055】
《その他の実施形態》
〈1〉なお、上記の実施形態等では、交流電源(2)を単相交流としているが、三相交流としてもよい。
【0056】
〈2〉また、上記のコモンモードノイズの低減の効果は、空冷用のヒートシンク(150)以外の冷却機構を用いてスイッチング素子(インバータ回路(120))を冷却する構成の電力変換装置でも得ることができる。例えば、空冷用ヒートシンク以外の冷却機構としては、冷凍装置(冷媒回路)を循環する冷媒でパワーデバイスを冷却する構成の冷却機構等が上げられる。
【0057】
〈3〉また、電流経路のインピーダンスをワイヤ配線で調整する場合には、長さで調整するほか、太さや材料や本数で調整してもよい。
【0058】
〈4〉また、上アーム側パターン配線(40)や下アーム側パターン配線(50)は、複数に分割して設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、直流電力から交流電力への変換や、交流電力から直流電力への変換を行う電力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 電力変換装置
30 グランド側パターン配線
40 上アーム側パターン配線
50 下アーム側パターン配線
60 グランド側ワイヤ配線
70 上アーム側ワイヤ配線
130 上アーム側スイッチング素子(スイッチング素子)
140 下アーム側スイッチング素子(スイッチング素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アームと下アームとを構成する複数のスイッチング素子(130,140)と、
上アーム側の前記スイッチング素子(130)のみが少なくとも1つ搭載され、直流の正側ノードに繋がる上アーム側パターン配線(40)と、
下アーム側の前記スイッチング素子(140)のみが1つ搭載される複数の下アーム側パターン配線(50)と、
を備え、
前記スイッチング素子(130,140)の少なくとも2つは、互いに近接して配置されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置において、
前記スイッチング素子(130,140)は、前記上アーム毎及び下アーム毎に互いに近接して一列に並んで配置されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2の電力変換装置において、
前記上アーム側のスイッチング素子(130)と前記下アーム側パターン配線(50)とをそれぞれ接続する複数の上アーム側ワイヤ配線(70)をさらに備え、
前記上アーム側のスイッチング素子(130)は、1つの前記上アーム側パターン配線(40)上に一列に並んで配置され、
前記複数の上アーム側ワイヤ配線(70)は、接続される上アーム側スイッチング素子(130)の位置が前記直流の正側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さいことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3の電力変換装置において、
直流の負側ノードに繋がるグランド側パターン配線(30)と、
前記下アーム側のスイッチング素子(140)と前記グランド側パターン配線(30)とをそれぞれ接続する複数のグランド側ワイヤ配線(60)と、
をさらに備え、
前記複数のグランド側ワイヤ配線(60)は、接続される下アーム側スイッチング素子(140)の位置が前記負側ノードから遠いものほど、インピーダンスが小さいことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記上アーム側及び下アーム側スイッチング素子(130,140)は、それぞれの被制御端子(131,132,141,142)間において双方向の電流を許容するスイッチング素子であることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−29262(P2011−29262A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171190(P2009−171190)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】