説明

電力変換装置

【課題】インバータ電圧を指令する際の基準周波数を変化させることで、簡単に直流電圧のリップルを抑制するようにした電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置は、直流電源11を三相交流出力に変換するインバータ回路14、交流出力電圧を平滑化して三相負荷回路16に出力するLCフィルタ回路15、直流電源を平滑化してインバータ回路14に供給するコンデンサ13、三相負荷回路16に出力された交流出力電圧を検出し、その検出結果に基づいてインバータ回路14に対する電圧指令を生成するインバータ制御装置20、コンデンサ13での直流入力電圧を検知し、特定の周波数帯域の高調波信号成分を通過させるバンドパスフィルタ25を備えている。これにより、インバータ制御装置20からインバータ回路14に対する電圧を指令する際の基準周波数を、直流電源11の電圧値に追従させて増減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線からパンタグラフを通して供給される直流電源から所望する電圧値の交流電力に変換する電力変換装置に関し、とくに直流電車用の補助電源装置として使用される直流電源から三相交流電源に変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の電力変換装置の構成を示すブロック図である。この電力変換装置は、直流電源11を三相交流電源に変換するインバータシステムを構成している。直流電源11には、インダクタ12と直流電圧を平滑するコンデンサ13を介してインバータ回路14が接続されている。このインバータ回路14は直流電圧を所定の大きさの交流電圧に変換して、その交流出力を平滑化するLCフィルタ回路15を介して接続されている三相負荷回路16に供給されている。
【0003】
インバータ回路14には直流電圧Vcがコンデンサ13の両端電圧として供給され、その電圧値を電圧検出器17によって検出するように構成されている。検出された直流電圧Vcは過電圧保護回路18で監視する。また、三相負荷回路16に供給された交流電圧VU,VV,VWは、電圧検出器19によって検出され、インバータ制御装置20に出力される。このインバータ制御装置20は、三相負荷回路16への供給電圧を一定電圧値に制御するためのものであって、ここからインバータ回路14にゲート制御信号を供給することによって、所望する一定電圧・一定周波数の交流電力に変換するように制御している。
【0004】
インバータ制御装置20は、過電圧保護回路18の他、インバータ電圧指令作成回路21、AVR指令作成回路22、PWM信号作成回路23、及びデッドタイム(DT)生成回路24を備え、以下のようにゲート制御信号を生成している。
【0005】
まず、インバータ電圧指令作成回路21は、定電圧回路31、積分器33、正弦波発生器34U,34V,34W、120°位相をずらす定電圧回路35および加算器36a,36bによって構成され、ここでは基準位相からそれぞれ120°ずつ位相の異なる3つの電圧指令を作成している。一方、AVR指令作成回路22では、電圧検出器19からフィードバックされた交流電圧VU,VV,VWに基づいてPI制御し、AVR指令信号を作成する。PWM信号作成回路23では、AVR指令信号を乗算器41U,41V,41Wにより3つの電圧指令とそれぞれ掛け合わせてPWM指令信号が生成され、このPWM指令信号と三角波発生器43からのキャリア三角波をコンパレータ42U,42V,42Wで比較することによってそれぞれPWM信号が形成される。これらのPWM信号は、アーム短絡防止のためのデッドタイム生成回路24を通してゲート制御信号となり、インバータ回路14を制御するようにしている。
【0006】
図6は、従来のインバータシステムの制御動作を示す信号波形図である。
同図(A)は、インバータ電圧指令作成回路21の定電圧回路31により生成される基準位相(360°)の電圧信号Freqを示しており、この電圧信号Freqが積分器33に入力される。同図(B)は、積分器33で生成される鋸歯状の位相指令Intを示しており、この位相指令Intが正弦波発生器34Uに入力されることで、同図(C)に示すように正弦波発生器34Uから一定周期でインバータ電圧指令Usineが出力される。
【0007】
図5のような電力変換装置では、インバータ回路14の出力側にLCフィルタ回路15が設けられており、インバータ電圧指令Usineの周波数は図6(C)に示すように一定周期の正弦波であった。いま、図6(D)に示すように、あるタイミングで入力電圧Vinが10%急変するものと考える。急変の要因として、近くの他の電車が回生動作を行うとき、架線電圧が上昇しコンデンサ13の直流電圧が急変することなどがあり、直流電圧Vcにリップルが発生する。
【0008】
図7は、従来の電力変換装置における入力電圧(Vin)急変時の直流電圧(Vc)およびインバータの交流出力電圧(VU)の各波形を示す図であり、(A),(B)は定格時の電圧で規格化して表示している。
【0009】
ここでは、同図(A)に示すように、時刻0.2秒の経過直後に入力電圧Vinが1.1倍に上昇し、その後、再び時刻0.8秒に定格に戻った場合を想定している。
このとき、コンデンサ13の直流電圧Vcは、図7(B)に示すようなリップルが生じる。
【0010】
そこで、直流電圧に発生するリップルを抑制するため直流電源に接続されているインダクタに抵抗を並列に設置する方法が考えられていた(特許文献1参照)。
図8は従来の直流電圧に発生するリップルを抑制する電力変換装置の概略構成図の一例である。図8において、直流電源から所望する電圧値の交流電力に変換する電力変換装置には、直流電源11、インダクタ12、コンデンサ13、インバータ回路14、LCフィルタ回路15、絶縁変圧器160、インダクタ12に並列に接続された抵抗18aが設けられている。そして、直流電圧に発生したリップルを抵抗18aで消費させることで、リップルを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−81975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
直流電車用の補助電源装置にインバータシステムを用いた場合に、インバータの入力となる直流電源に継続してリップル電流が発生すると、周囲の機器の誤動作を招く恐れがある。すなわち、電車の軌道周辺には様々な信号があり、軌道に流れるリップル電流の高調波成分が信号系統を誤動作させる恐れがあった。
【0013】
たとえば、踏切制御器、列車検知などの信号制御系統において使用されている信号周波数に近い成分の高調波が発生すると、信号制御系統で誤検知が生じて間違った信号を出力するようになるなど、電車の運行にも支障をきたすことになる。そこで、リップルの影響を直流電源側に及ぼすことは極力避ける必要があった。
【0014】
ところが、上述したインバータシステムにおいては、直流電源からの入力電圧が急変した場合、図7(B)に示すように、直流電圧Vcにリップルが発生し、それが長期間継続してしまう。一方、上述した図8に示す先行技術では、新たな部品としてインダクタ12に並列に接続された抵抗18aを追加して対応するか、あるいは既存の回路構成を変更して対処しなければならず、簡単には直流電圧Vcに発生するリップルを抑制することができなかった。
【0015】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、インバータ電圧指令の基準周波数を変化させることで、直流電源からの入力電圧に発生するリップル成分を簡単に低減できる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、上記問題を解決するために、架線からパンタグラフを通して供給される直流電源から所望する電圧値の交流電力に変換する電力変換装置が提供される。この電力変換装置は、前記直流電源を三相交流出力に変換するインバータ部と、前記インバータ部の出力側に設けられ、交流出力電圧を平滑化して負荷に出力するLCフィルタ部と、前記インバータ部の入力側に設けられ、前記直流電源から入力された電圧を平滑化して前記インバータ部に供給するコンデンサ部と、前記負荷に出力された交流出力電圧を検出し、その検出結果に基づいて前記インバータ部に対する電圧指令を生成するインバータ制御部と、前記インバータ制御部に設定される基準位相の定電圧信号に対して、前記直流電源の入力電圧に含まれるリップル成分を加算するダンピング制御部と、を備え、前記ダンピング制御部では、前記インバータ制御部から前記インバータ部に対する電圧を指令する際の基準周波数を、前記直流電源の電圧値に追従させて増減するように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電力変換装置では、インバータ制御部内でインバータ電圧指令を作成する際に、ダンピング制御部からバンドパスフィルタを通した直流電圧Vcを積分器に入力することにより、位相指令を直流電圧Vcのリップルに応じて変化させ、電圧指令の基準周波数を増減させている。これにより、新たな部品を追加せず、あるいはソフトウェアにてバンドパスフィルタを実現することが可能であれば、回路変更をしないでも、既存回路の構成のままで直流電圧のリップルを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1におけるインバータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明のインバータ制御方法を示す信号波形図である。
【図4】本発明の電力変換装置における入力電圧急変時の直流電圧および交流電圧の各波形を示す図である。
【図5】従来の電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来のインバータシステムの制御動作を示す信号波形図である。
【図7】従来の電力変換装置における入力電圧急変時の直流電圧およびインバータの交流出力電圧の各波形を示す図である。
【図8】従来の直流電圧に発生するリップルを抑制する電力変換装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。図1の電力変換装置では、図5に示す従来装置の構成要素に対応する部分に同じ符号を付けて、それらの詳細な説明を省略する。
【0020】
図1の電力変換装置は、ダンピング制御回路を構成するバンドパスフィルタ25および加算回路32が追加されている点で、従来の電力変換装置と異なっている。ここでは、電圧検出器17によって検出された直流電圧Vcが過電圧保護回路18に供給されるだけでなく、バンドパスフィルタ25にも入力されている。バンドパスフィルタ25は、コンデンサ13の電圧を検出した直流電圧Vcに含まれるリップル成分から特定の周波数帯域の高調波信号成分を通過させている。また、加算回路32では、インバータ電圧指令作成回路21の定電圧回路31で生成される基準位相の定電圧信号に対して、入力電圧に含まれるバンドパスフィルタを通したリップル成分を加算するようにしている。なお、電圧検出器17の出力信号に対するバンドパスフィルタ25は、ソフトウェアによるフィルタ演算として実現でき、インバータ制御装置20に含まれる演算手段によって構成され、システム自体、あるいはハードウェア自体の構成は一切変更しないで実現可能である。
【0021】
図2は、図1におけるインバータ制御装置の要部構成を示すブロック図である。
バンドパスフィルタ25および加算回路32は、ダンピング制御部30を構成している。インバータ電圧指令作成回路21は、一相分の正弦波発生器34Uについてだけ示している。したがって、PWM信号作成回路23についても、乗算器41Uとコンパレータ42U、および三角波発生器43だけを示した。PWM信号作成回路23では、AVR指令作成回路22の電圧信号の大きさと正弦波発生器34Uの正弦波信号とが掛け合わせられ、コンパレータ42Uで三角波と比較される。
【0022】
図3は、本発明のインバータ制御方法を示す信号波形図である。
従来の電力変換装置における制御では、インバータ電圧指令作成回路21の定電圧回路31から積分器33への入力は、それが閾値を超えるとリセットされ、その大きさは360°一定であった。そのため、積分器33からの位相指令は360°毎にリセットするため、正弦波発生器34Uの出力であるインバータ電圧指令Usineは、図6(C)に示すように一定周期の正弦波であった。
【0023】
これに対して、本発明によるダンピング制御が導入されたものでは、積分器33の入力が360°一定から直流電圧Vcのある帯域の周波数成分を加算、あるいは減算した値となって、図3(A)に示すように、直流電圧Vcに応じて変動する。すなわち、入力電圧Vinに変化が生じると、加算回路32から積分器33へ入力する電圧信号は定電圧回路31での一定電圧を前後するように揺らぎが生じる。そのため、積分器33から出力される位相指令は、図3(B)に示すように鋸歯状の位相指令の傾斜は、入力電圧の大きさに比例して緩やかになる。したがって、正弦波発生器34UからPWM信号作成回路23に出力されるインバータ電圧指令Usineは、図3(C)に示すように、直流電圧Vcに応じて周波数が変動する正弦波となる。
【0024】
図1に示す本発明の電力変換装置のように、インバータ回路14の出力にLCフィルタ回路15があると、電圧指令の周波数が変動する時に、LCフィルタ回路15のLC成分に蓄積されているエネルギーとコンデンサ13の間で電力のやりとりが起こり、直流電圧Vcに発生するリップルを低減することが可能である。
【0025】
図4は、本発明の電力変換装置における入力電圧急変時の直流電圧および交流電圧の各波形を示す図である。
この図4では、直流電圧Vcが0.2秒経過直後、および0.8秒経過して急変する場合のシミュレーション例を示している。図3で説明したように、直流電源からの入力電圧Vinの急変時には、直流電圧Vcに発生したリップル成分が時間とともに収束するから、本発明によるダンピング制御を導入することで、図4(C)に示すように、直流電圧Vcの急変直後でのみ、インバータ交流出力電圧に電圧指令変動の影響が表れるだけで、その後は確実にリップルが低減されていることを確認できる。
【0026】
以上、本発明の電力変換装置では、インバータ制御装置内でインバータ電圧指令を作成する際に、ダンピング制御部からバンドパスフィルタを通した直流電圧Vcを積分器に入力することにより、位相指令を直流電圧Vcのリップルに応じて変化させ、電圧指令の基準周波数を増減させている。これにより、新たな部品を追加せず、あるいはソフトウェアにてバンドパスフィルタを実現できれば回路変更をしないでも、既存回路の構成のままで直流電圧のリップルを抑制できる。
【符号の説明】
【0027】
11 直流電源
12 インダクタ
13 コンデンサ
14 インバータ回路
15 LCフィルタ回路
16 三相負荷回路
17,19 電圧検出器
18 過電圧保護回路
20 インバータ制御装置
21 インバータ電圧指令作成回路
22 AVR指令作成回路
23 PWM信号作成回路
24 デッドタイム(DT)生成回路
25 バンドパスフィルタ
30 ダンピング制御回路
31,35 定電圧回路
32 加算回路
33 積分器
34U,34V,34W 正弦波発生器
41U,41V,41W 乗算器
42U,42V,42W コンパレータ
43 三角波発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線からパンタグラフを通して供給される直流電源から所望する電圧値の交流電力に変換する電力変換装置において、
前記直流電源を三相交流出力に変換するインバータ部と、
前記インバータ部の出力側に設けられ、交流出力電圧を平滑化して負荷に出力するLCフィルタ部と、
前記インバータ部の入力側に設けられ、前記直流電源から入力された電圧を平滑化して前記インバータ部に供給するコンデンサ部と、
前記負荷に出力された交流出力電圧を検出し、その検出結果に基づいて前記インバータ部に対する電圧指令を生成するインバータ制御部と、
前記インバータ制御部に設定される基準位相の定電圧信号に対して、前記直流電源の入力電圧に含まれるリップル成分を加算するダンピング制御部と、
を備え、
前記ダンピング制御部では、前記インバータ制御部から前記インバータ部に対する電圧を指令する際の基準周波数を、前記直流電源の電圧値に追従させて増減するようにしたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記ダンピング制御部は、前記コンデンサ部での直流入力電圧を検知する検出回路と、前記検出回路の出力信号から特定の周波数帯域の高調波信号成分を通過させるバンドパスフィルタ回路と、を含むことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記検出回路は、前記インバータ制御部における過電圧保護のための検出手段を構成するものであることを特徴とする請求項2記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−228132(P2012−228132A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95885(P2011−95885)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】