説明

電力用半導体装置および電力用半導体装置の製造方法

【課題】 信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させた電力用半導体装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 絶縁性の基板1と、絶縁性の基板1の主面1fに形成された複数の配線2と、複数の配線2のうちの第1の配線2aに接合された半導体素子3と、半導体素子3の第1の配線2aとの接合面と反対側になるソース電極3fの一部と、複数の配線2のうちの第2の配線2bとを電気的に接続するワイヤ4と、を備え、ソース電極3fには、複数の金属塊5が分散して接合され、複数の金属塊5のそれぞれは、ソース電極3fとの接合面以外が絶縁物7で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体スイッチング素子及びダイオードからなる電力用半導体装置に関し、とくに短絡事故時に発生する大電流に対する耐量(短絡耐量)を向上させるための構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバーターなどのパワーエレクトロニクス機器の省エネのためには、これらの機器に使用されるスイッチング素子(IGBT、MOSFET等)での電力損失を低減する必要がある。電力損失は、素子のいわゆるON抵抗により決定され、ON抵抗を低減するためにSiCなどの新しい半導体材料を用いる開発が進められている。一方、事故時(負荷短絡時)に素子に流れる電流値は、ON抵抗値に反比例して大きくなるので、ON抵抗値の小さい素子ほど、自己発熱により破損しやすくなる(短絡時の耐量の低下)。つまり、トレードオフの関係にある損失低減と短絡時の耐量向上を両立させることが、低ON抵抗素子の実用化に求められている技術課題である。
【0003】
例えば、SiCのようなワイドバンドギャップ半導体の場合、Siと異なり、温度上昇による半導体自体の性能劣化はほとんどなく、高温に対しての耐性は高い。しかし、回路との接続には金属電極が使用され、例えば、金属電極にアルミニウムを用いる場合、半導体と金属電極の境界面の温度がアルミニウムの融点(660℃)を超えると、金属電極の溶融が起こり、電極の信頼性に重大な問題を生じる。従って、ワイドバンドギャップ半導体を用いる場合には、Siを用いる場合とは異なる放熱設計や損失制御を行う必要があり、金属電極と半導体の境界面がある一定の温度以下になるように、負荷短絡時の発生損失と放熱条件を設定しなければならない。
【0004】
そこで、ワイドバンドギャップ半導体よりなる半導体素子部の表側の面(ソース電極面に相当)に50μm以上の厚さの金属電極を形成し、放熱効果を高めて短絡時の温度上昇を抑制する半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−319213号公報(段落0032、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体素子本体(半導体材料)と金属電極(金属)とでは、線膨張率が異なるので、金属電極全体が厚くなっていると、使用時のヒートサイクルのたびに金属電極と半導体素子本体との間に発生する応力によって金属電極の剥離が発生し、長期的な信頼性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させた電力用半導体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電力用半導体装置は、絶縁性の基板と、前記絶縁性の基板の主面に形成された複数の配線と、前記複数の配線のうちの第1の配線に接合された半導体素子と、前記半導体素子の前記第1の配線との接合面と反対側に形成されるソース電極の一部と、前記複数の配線のうち第2の配線とを電気的に接続するワイヤと、を備え、前記ソース電極には、複数の金属塊が分散して接合され、前記複数の金属塊のそれぞれは、前記ソース電極との接合面以外が絶縁物で覆われていることを特徴とする。
【0009】
本発明の電力用半導体装置の製造方法は、絶縁性の基板の主面に複数の配線を形成し、前記複数の配線のうちの第1の配線に半導体素子を接合し、ボンディング用ワイヤを前記半導体素子のソース電極の一部に第1ボンドによりボンディングし、前記複数の配線のうちの第2の配線に第2ボンドによりボンディングすることにより前記ソース電極と前記第2の配線とを電気的に接続し、前記ソース電極においてそれぞれ異なる位置に、前記ボンディング用ワイヤを第1ボンドによりボンディングし、当該ボンディングにより形成された圧縮根を残して切り離すことにより、前記ソース電極上に複数の金属塊を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電力用半導体装置および電力用半導体装置の製造方法によれば、半導体素子のソース電極の表面に、複数の金属塊を接合させたので、負荷短絡時の熱を金属塊が吸収して温度上昇を抑制するとともに、金属塊がソース電極との接合面以外が絶縁物で覆われているので、ヒートサイクルを受けても信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させた電力用半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の半導体素子の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置における温度上昇低減効果を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置における構成を最適化するための試験データを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2の変形例にかかる電力用半導体装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置について、図に基づいて説明する。図1と図2は、本発明にかかる実施の形態1にかかる電力用半導体装置を説明するためのもので、図1は、電力用半導体装置のうち、半導体素子部分の平面構成を示す図であり、図2は、電力用半導体装置を半導体素子のソース電極部分との関連で説明するため平面図と断面図である。
【0013】
本実施の形態1にかかる電力用半導体装置に用いる半導体素子は、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いたワイドバンドギャップ半導体であり、種類としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect-Transistor)のようないわゆるスイッチング素子である。半導体素子3の表側の面には、図1に示すように、図における上端中央部には、外部の制御回路(図示せず。)からゲート電圧が印加されるゲートパッド3GPが形成されている。又、MOSFETのセルの集合体領域であるセル領域内に、MOSFETの各セルのソース電極3Sが形成されている。そして、ソース電極3Sの周囲を全体的に取り囲むゲートフィンガー電極3GFが、ゲートパッド3GPと構造的に繋がった状態で、半導体素子3の外周部に沿って形成されている。
【0014】
図2(a)は、本発明の特徴を説明するために電力用半導体装置のソース電極部分を抽出して簡略化した図である。なお、半導体素子全体の構成を示す図1においてはソース電極を3Sと表示しているが、ソース電極3Sは、半導体素子3における発熱を伴う代表的な面であるので、以降、半導体素子のうちの他の部分の記載を省略し、ソース電極(の主面)を3fと表記する。図2(b)は図2(a)のIIb−IIb線で切断した断面図である。図において、電力用半導体装置は、絶縁性のパッケージ基板1と、基板1の主面1fの異なる位置に形成された複数の配線2と、複数の配線2のうちの第1の配線2aに接合された半導体素子3と、半導体素子3の第1の配線2aとの接合面と反対側になるソース電極3fの一部と、複数の配線2のうちの(第1の配線2aと異なる)第2の配線2bとを電気的に接続するため、ボンディング用ワイヤ(図示せず)をソース電極3fの一部に第1ボンドによりボンディングし、第2の配線2bに第2ボンドによりボンディングすることにより形成されたワイヤ4と、を備え、半導体素子のソース電極3fには、複数の金属塊5bが分散して接合されている。
【0015】
なお、ソース電極3fの表面には、接続を良くするための図示しない厚さ数μmの薄いアルミニウムの下地が形成されており、上述したワイヤ4や金属塊5bは、アルミニウムの下地を介してソース電極3fに接続されており、各金属塊5bは同電位となっている。なお、厚み数μm程度の金属の下地は、特許文献1に示すような厚い金属電極と異なり、ヒートサイクル時に応力を及ぼすものではないので、以降下地部分も半導体材料とみなし、ソース電極3f上にワイヤ4や金属塊5bが接合されているとして説明する。
【0016】
そして、複数の金属塊5bのそれぞれは、ソース電極3fにおいてそれぞれ異なる位置に、ワイヤ4を形成する時と同様にボンディング用ワイヤを第1ボンドによりボンディングし、当該ボンディングにより形成された圧縮根を残してボンディングワイヤを切り離すことにより形成する。最終的に、ソース電極3fや配線2b等を含め、半導体装置の表面は絶縁物7で覆われており、金属塊5bもソース電極3fとの接合面以外は絶縁物7で覆われている。図では、ソース電極3f部分を覆う絶縁物7の一部分のみ示しているが、実際には電力用半導体装置のほぼ全面が絶縁物7により覆われている。なお、金属塊5bのソース電極3fとの接合面以外は、全て「もの」としての絶縁物7により覆われている必要はなく、空隙(真空または電気的に不活性なガス雰囲気)であってもよく、その場合も絶縁物で覆われているとみなして説明する。
【0017】
ボンディングワイヤとしては、直径300μmのアルミニウム(Al)を用い、バードピークボンディングにより接続している。これにより、金属塊5bやワイヤ4のソース電極3fとの接合面を広くとることができるとともに、ボンディングワイヤの切断を連続的に行うことができるので、多数の金属塊5bを容易に形成することができる。
【0018】
なお、本実施の形態1では、直径300μmのアルミニウムを用いていたが、直径300μm以外のアルミニウムを用いたとしても同様の効果が期待できる。また、ワイヤ以外の材料を用いたボンディング(例えばリボンボンディング)を用いても同様の効果を得ることができる。また、ボンディングワイヤに金(Au)を用いてもよく、その場合は第1ボンドを接合強度の高いネイルヘッドボンディングで行ってもよい。
【0019】
次に動作について説明する。
通常使用時の動作については、従来の電力用半導体装置と同様なので、ここでは、負荷短絡(異常)が発生した時の動作について説明する。負荷短絡が発生した場合、半導体素子3には電源電圧が加わった状態で負荷が短絡されるので、半導体素子3には素子抵抗及び負荷抵抗(この場合は殆ど0になる)及び電源電圧で決まる電流が流れることになる。その電流値は、通常電流値より1桁以上大きく、その結果、素子の内部抵抗と電流値で半導体素子3の内部(主にソース電極)で発熱が発生し、素子温度が上昇する。素子温度が上昇して金属電極の溶融が起こると、電力用半導体装置が破損する。
【0020】
ここで、短絡が長期間にわたって継続する場合、発生した熱を継続して放出する必要があり、特許文献1に示されるような外部との効率的な熱伝導経路を形成する必要がある。しかし、通常のインバーター制御システムにおいては、外部制御回路系に保護回路を設け、負荷電流値が一定電流以上になるとゲート電圧を低減してソース電極に流れる電流値を抑制し、発生熱量を制限するようにしている。したがって、IGBTやMOSFETのような電力用半導体装置は、負荷短絡時に保護回路が動作するまでの短い期間において、高電圧、大電流のストレス状態に耐えられるようにすればよい。電力用半導体装置に求められる負荷短絡耐量の規格としては、素子の絶対定格の2/3の電源電圧において、通常オン状態のゲート電圧が印加されたときに、10μ秒以内に素子が破壊しないこと、となっている。
【0021】
そこで、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置では、半導体素子3のソース電極3f上に配線2aとの電気接続に用いるワイヤ4以外に、複数の金属塊5bを設け、短絡が始まってから保護回路が動作するまでの10μSの間の発熱を複数の金属塊5b(の熱容量により)に吸収させて、半導体素子3の温度上昇を抑制する。金属塊5bは、ワイヤボンディングに通常用いられるアルミニウムないしは金などの熱伝導度が良好で熱容量も大きい金属体で形成されているので、発熱部であるソース電極3fの直上に(短期間機能する)ヒートシンクを構成していることと同等の状況を形成できる。このように発熱部の近傍に保護回路が動作するまで実質的にヒートシンクとして機能する金属塊5bを分散して配置したことにより短絡による発熱量が大きくなったとしても温度上昇を低減することが可能である。つまり、通常のシステムでは10μs程度で保護回路が動作することになるので、このように限られた時間内(瞬間的な)の温度上昇を抑制することにより、電力用半導体装置の破損を防止することができる。
【0022】
しかも、それぞれの金属塊5bはアイランド状に配置されており、ソース電極3fとの接合面以外は絶縁物7(空隙も含めて)で覆われている。ここで、金属塊の表面を覆っている絶縁物7は、もともとソース電極3f上を全面的に覆った場合でも、ヒートサークルのたびにソース電極3fに対して応力を与えてしまわないような性質を有している。したがって、複数の金属塊5bのそれぞれは、ヒートサイクルの際、ソース電極3f全体の面積に対してソース電極3fに対して応力をかけることはない。しかも、各金属塊5bとソース電極3fとの接合面は小さいので、ヒートサイクル時にそれぞれの金属塊5bとソース電極3fとの接合面間にかかる応力は小さく、接合面の剥離を誘発することはない。
【0023】
したがって、ヒートサイクル時に線膨張率の差により歪が生ずる領域が、それぞれの金属塊5bの接合面というごく小さな領域に限定されるとともに、金属塊5bの膨張収縮等による機械的変形も金属塊5bの周りの絶縁物7により吸収される。これは、各金属塊5bに、それぞれヒートサイクル時のストレスに対する遊びが設けられていることになり、各金属塊5bのそれぞれにかかった力が他の金属塊5bに影響することがない。そのため、使用時のヒートサイクルのたびに接合面にかかる応力が無視できる程度に小さくなり、接合面の剥離の発生が抑制され、長期的な信頼性が向上する。
【0024】
また、半導体素子3と配線2bとを電気接続するワイヤ4を形成するときに用いたワイヤボンディング工程の一部を金属塊5bの形成に応用したので、複雑な製造工程を追加する必要がなく、電気接続配線を形成する際の連続した工程の中で金属塊5bを形成することができる。つまり、スループットが向上し、製造コストや製造時間を大きく増大させることなく、負荷短絡耐量を向上させることができる。
【0025】
一方、金属塊5bに配線との電気接続を担わせようと、例えば、特開2005−50961号公報(段落0053、図12))のように、バンプ電極と半導体素子の表面を導電性の接着材で覆うようにした場合、上面から電気接続を行うために圧力をかける必要がある。また、電流を流すための導電性接着材の場合、導電材料を密に充填する必要があるため、接着剤自体が金属と同様の性質を持つことになり、各バンプ電極がつながった1枚の板のように作用して、特許文献1と同様にヒートサイクル時に接合面に応力がかかり、剥離等を起こす可能性がある。
【0026】
しかし、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置では、金属塊5bのそれぞれが、ソース電極3fとの接合面以外を絶縁物で覆うようにしたので、ヒートサイクル時に実質的に各金属塊5bが機械的な拘束を受けることがないので、ヒートサイクル時に接合面にかかる応力が小さくなり、剥離の発生を抑制することができる。
【0027】
また、金属塊5bやソース電極3fに直接触れる絶縁物として、例えばゲル状のエポキシ材料のように流動性のある絶縁物を用いれば、各金属塊5bのソース電極3fとの接合面以外は機械的に解放されることになるので、ヒートサイクル時に接合面にかかる応力がさらに小さくなり、剥離の発生を効果的に抑制することができる。
【0028】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置によれば、絶縁性の基板1と、絶縁性の基板1の主面1fの異なる位置に形成された複数の配線2と、複数の配線2のうちの第1の配線2aに接合された半導体素子3と、半導体素子3の第1の配線2aとの接合面と反対側になるソース電極3fの一部と、複数の配線2のうちの第2の配線2bとを電気的に接続するワイヤ4と、を備え、ソース電極3fには、複数の金属塊5bが分散して接合され、複数の金属塊5bのそれぞれは、ソース電極3fとの接合面以外を絶縁物で覆うように構成したので、信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させた電力用半導体装置を得ることができる。
【0029】
とくに、絶縁物7としてゲル状の絶縁物を用いたので、より信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させた電力用半導体装置を得ることができる。
【0030】
また、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の製造方法によれば、絶縁性の基板1の主面1fに複数の配線2を形成し、複数の配線2のうちの第1の配線2aに半導体素子3を接合し、ボンディング用ワイヤを半導体素子3のソース電極3fの一部に第1ボンドによりボンディングし、複数の配線2のうちの第2の配線2bに第2ボンドによりボンディングすることによりソース電極3fと第2の配線2bとを電気的に接続し、ソース電極3fにおいてそれぞれ異なる位置に、前記ボンディング用ワイヤを第1ボンドによりボンディングし、当該ボンディングにより形成された圧縮根5bを残して切り離すことにより、ソース電極3f上に複数の金属塊5bを形成する、ように構成した。つまり、ワイヤ4は、ボンディング用ワイヤをソース電極3fの一部に第1ボンド4aによりボンディングし、第2の配線2bに第2ボンド4bによりボンディングすることにより形成し、複数の金属塊5bは、ソース電極3fにおいてそれぞれ異なる位置に、前記ボンディング用ワイヤをワイヤ4と同様に第1ボンドによりボンディングし、当該ボンディングにより形成された圧縮根を残して切り離すことにより形成するように構成したので、スループットが向上し、製造コストや製造時間を大きく増大させることなく、負荷短絡耐量を向上させることができる。
【0031】
なお、本実施の形態1ではワイヤ4を1本設けた場合の例を示しているが、ワイヤ4を複数本設けても同様の効果が得られる。また副次的な効果としては、本構成をとることにより、通常のソース電極3fのように表面が下地のAl膜(厚み数μm程度)のみの場合に対して、第1ボンドにより形成した金属塊5b(圧縮根)が面内に多数存在することにより、ソース電極3fの表面を流れる電流の経路の抵抗値が低減し素子の動作特性が改善される。従来はこの点を改善するために複数本のワイヤを形成する必要があった。
【0032】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる電力用半導体装置では、金属塊として実施の形態1において用いたワイヤボンディングの第1ボンドの圧縮根5bの代わりに、金属膜5mを使用するようにした。図3は、本実施の形態2にかかる電力用半導体装置の構成を示す図で、図3(a)は電力用半導体装置の平面図、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線で切断した断面図である。図において、電力用半導体装置は、半導体素子3の第1の配線2aとの接合面と反対側になるソース電極3f上には、金属塊としての厚み30μmの複数のアルミニウムによる金属膜5mが、面内に分散するように形成されている。そして、半導体素子3と第2の配線2bとを電気的に接続するために金属膜5mのひとつと、第2の配線2bとをワイヤボンディングにより接続したワイヤ4と、を備えている。なお、説明の簡略化のため、図3では絶縁物7の記載を省略しているが、各金属膜5mのソース電極3fとの接合面以外は実施の形態1と同様に絶縁物7で覆われており、以降の図でも同様である。
【0033】
本実施の形態2では、ソース電極3f上に分散し、それぞれ接合面以外が絶縁物で覆われている金属塊として、図示しないマスキングを用いて、厚さ30μmの複数(図では20個)のアルミニウムの金属膜5mをアイランド状に形成した。各金属膜5mを微細なアイランド状に形成することにより、半導体素子3が高温状態と低温状態を繰り返すヒートサイクルにさらされた場合でも、熱膨張率の差により金属膜5mと半導体素子3のソース電極(ソース電極面)に加わる熱応力を低減することができる。この結果として熱応力に強い電力用半導体装置を得ることができる。つまり、本実施の形態2のように金属塊として金属膜5mを用いた場合でも、熱サイクルによる膜はがれの問題を生じさせることなく、短絡時の温度上昇を低減することができる。
【0034】
なお、本実施の形態2として厚さ30μmのアルミニウムの膜を用いているが、本実施の形態2のような金属膜5により金属塊を形成する場合では、マスクを用いてスパッタ―ないしは蒸着方法によりアイランド状の金属膜を形成することが可能であり、信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させる電力用半導体装置を得ることができるという効果を有する。また、マスクを通してアルミニウムの金属塊を形成しているが、前述の方法もしくは印刷法、ディッピング、メッキ法等により一様な膜を形成後にエッチングにより膜をアイランド状に形成したとしても、信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させる電力用半導体装置を得ることができ、更に、印刷法により直接的にパターンを形成しても、信頼性が高く、損失低減と短絡時の耐量向上を両立させる電力用半導体装置を得ることができる。
【0035】
なお、本実施の形態2においては、ワイヤ4を金属膜5mの一部の上にボンディングするようにしたが、ワイヤ4をボンディングする部分には金属膜5mを形成せず、ソース電極3fの露出面(下地のAl膜)にボンディングするようにしてもよい。この場合、金属膜5mの材料としてワイヤよりも融点の低い材料を用い、ワイヤ4よりも先に金属膜5mを融解させるようにして、金属膜5mの融解熱により温度上昇を抑制するようにしてもよい。
【0036】
つぎに、上述した実施の形態1や実施の形態2における金属塊の形状等の好適範囲について検討を行った。
【0037】
<金属塊の厚みの最適化>
図4は、短絡を10μS間生じさせたときのAl面の温度上昇(金属膜5mの膜断面内の最大温度上昇:縦軸)と金属膜5m(Al)の膜厚(横軸)の関係を示している。基本的に膜厚みを厚くするほど、Al層の温度上昇を低く抑えることができるが、膜厚みを30μm以上にしたとしても温度上昇を抑える効果は少なくなる。また、Al膜厚を3μmにした場合、650K程度の温度上昇が予想されるが、膜厚みを10μm以上にすることで上昇を100K程度抑制することが可能となる。このとき使用雰囲気を200℃とすると最大温度は750℃となる。
【0038】
なお、特許文献1においては、「アルミニウム(Al)を用いる場合、半導体とアルミニウム電極の境界面の温度がアルミニウムの融点、すなわち660℃を超えないようにしなければならない。660℃を超えると、素子破壊が生じなくても、アルミニウム電極の溶融が起こり、電極の信頼性に重大な問題を生じる」と記載されている。しかし、図4に示す上昇温度は、膜の断面内の最も温度が高い点の温度上昇を示しているのであって、短絡が発生してから10μs以内に短絡状態が解除されれば、最高点の温度は周辺への熱拡散により急速に冷却される。このことを考慮すると、最高点の温度が750℃(上所温度550K)になったとしても先行技術に示されるように電極の溶融が発生することはない。つまり、保護回路の動作が開始されるまでの10μsという期間での温度分布およびその後の温度分布の変化を考慮すると、最高点の温度は融点より100K程度高い値まで許容できることになる。したがって、膜厚みを10μm以上にすることにより、実用上は金属電極の溶融を引き起こすことなく、電力用半導体装置の信頼性を保つことができる。
【0039】
つまり、金属塊5の厚みを10μm以上としたので、短絡が発生して保護回路が動作するまでの間の発熱による電力用半導体装置の故障を確実に防止することができる。
【0040】
また、金属塊5の厚みを30μm以下としたので、金属塊5(とくに金属膜5m)を形成する工程を短く抑えることができ、安価で迅速に電力用半導体装置を製造することができる。そのため、低コストで、しかも短絡が発生して保護回路が動作するまでの間の発熱による電力用半導体装置の故障を確実に防止することができる。
【0041】
なお、金属塊として圧縮根5bを使用する場合でも、ボンディング用ワイヤの径を調整することで厚みを調整することはできる。
【0042】
<金属塊の配置の最適化>
つづいて、金属塊の配置について検討を行った。図5は、図3における円V部分の拡大図で、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。配置について図3及び図5を用いて説明する。図3で示しているのは、各金属膜5mが方形であり、縦横に整列配置している例である。実際の配置は後述するように様々な配置が考えられるが、ここでは、説明のしやすい図3の配置で説明する。また、金属塊としては形状がはっきりしている実施の形態2における金属膜5mの図を用いているが、実施の形態1における第1ボンドの圧縮根5bでも同様の考え方ができるので、金属膜5mや圧縮根5bを総称して金属塊5として説明する。
【0043】
図5(a)にてわかるように、各金属塊5を格子状に配置した場合、半導体素子3のソース電極3f上で、金属塊5が接合されていない露出部分が碁盤目のように存在する。露出部分のうち、金属塊5が接合されている部分と最も距離を有する部分は、碁盤目の中央にあたる位置Pfとなる。この位置Pfから金属塊5との最短距離をDPfとすると、本実施の形態では、DPfが50μm以下になるように、金属塊5の間隔D55(図5(b)に示すようにソース電極3fとの接合部分での間隔)を70μm(≒50×2/20.5:(DPFの最大値)×(対角と辺の換算))に設定した。
【0044】
図6は、先ほどの最短距離DPfを求めるために行った試験結果を示している。図6下部は、短絡試験を行った素子表面状態の写真で、上部は写真の各領域を説明するための模式図である。試験は半導体素子の一部に電流を流し(図中13f(模式図の網掛部に相当する))、それ以外の部分(図中15の領域(2点鎖線VIa-VIaより右上側で、模式図の網
掛を行っていない部分))には電流を流していない。ここで、電流を流した部分13fは半導体素子3の第1主面3fでの露出領域とみなし、電流の流れていない部分15はヒートシンクとして作用するので、半導体素子3の第1主面3fでの金属塊5が接合されている部分と同様の部分であるとみなすことができる。
【0045】
試験の結果、図中に示される一点鎖線VIb-VIbの左下側は発熱によるダメージを受けて、表面に形成されているAl面(本試験では厚みは3μm)が熱のため変色している。このとき、電流の流れていない領域15からダメージを受けずに済んだ領域の幅(2点鎖線VIa-VIaと一点鎖線VIb-VIbとの間隔)が50μmであった。
【0046】
したがって、ヒートシンク(金属塊5)がある場合、そこ(接合部分)から50μmの範囲はヒートシンクの熱吸収効果により素子温度の上昇が抑制されていることが判る。したがって、ソース電極3fの露出部分における金属塊5との最短距離DPfが50μm以下になるように、例えば、本実施の形態では金属塊5同士の間隔D55を70μmとした。しかし、間隔D55を100μmとしても、高温になるのは碁盤の目の中央部のごくわずかな
領域のみとなるので、金属塊5を密に形成することが困難な場合、実用的には、金属塊5同士の間隔D55を100μm以下と設定してもよい。あるいは、どのような配置パターンを用いても最短距離DPfが50μm以下となるように、金属塊5同士の間隔D55を50μm以下と設定するようにしてもよい。
【0047】
上記のように、露出部分における金属塊5との最短距離DPfが所定値以下に保たれるのであれば、各金属塊の接合部分の形状が方形である必要はなく、円形や六角形など、様々な形状でもその効果に差異はない。さらに、配置パターンも千鳥状であったり、亀甲状であったり、あるいはランダム形状でもよい。また、本実施の形態では金属塊5を20個のアイランドに分割しているが、熱応力によりAl膜が破損(剥離)する事象の発生は、素子の動作温度、冷却方法、膜の製造方法、積層構造(バリアメタルの配置等)に依存する。従って使用環境によって、分割個数は適宜調整すればよいが、いずれの個数に分割しようと、分割しない場合(面全体を接合)に対して、ヒートサイクル時の剥離の発生を抑制して信頼性を向上させる効果を有する。
【0048】
実施の形態3.
上記各実施の形態では、発熱パターンに関係なく、金属塊5をソース電極3f内で、ほぼ均等に分散配置した例を示したが、本実施の形態3では、発熱分布に応じて金属塊5の配置を変化させるようにした。例えば、図7に示すように電流経路からの大きな電流が流れ、発熱が大きくなるワイヤ4の接続部分4a近傍で金属膜5mの形状を大きな形状5mL
とし、4aから離れるに従って中間の形状の金属膜5mM、小さな形状の金属膜5mSと発熱部からの距離が近いほど金属塊5の熱容量が大きくなるように配置した。
【0049】
なお、本実施の形態3では、説明が容易になるように金属膜5mの大きさで熱容量を変化させた場合を示したが、例えば、圧縮根5bを用いる場合、ボンディングを行う位置を調整することにより、発熱量の多いところほど、金属塊5の個数密度を上げるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:絶縁性の基板、 2:配線、 2a:第1の配線、2b:第2の配線、 3:(ワイドバンドギャップ)電力用半導体素子、 3S(3f,13f):ソース電極、 4:ワイヤ、 5:金属塊(5b:ワイヤボンドの第1ボンドによる圧縮根、 5m:金属膜)、 7:絶縁物、
Pf:ソース電極の露出部分において、金属塊またはワイヤが接している部分からの距離が最も遠くなる位置、 DPf:位置Pfから金属塊またはワイヤが接している部分との最短距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板と、
前記絶縁性の基板の主面に形成された複数の配線と、
前記複数の配線のうちの第1の配線に接合された半導体素子と、
前記半導体素子の前記第1の配線との接合面と反対側に形成されたソース電極の一部と、前記複数の配線のうちの第2の配線とを電気的に接続するワイヤと、を備え、
前記ソース電極には、複数の金属塊が分散して接合され、前記複数の金属塊のそれぞれは、前記ソース電極との接合面以外が絶縁物で覆われていることを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
前記複数の金属塊同士の間隔が50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
前記複数の金属塊の厚みは、10μm以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
絶縁性の基板の主面に複数の配線を形成し、
前記複数の配線のうちの第1の配線に半導体素子を接合し、
ボンディング用ワイヤを前記半導体素子のソース電極の一部に第1ボンドによりボンディングし、前記複数の配線のうちの第2の配線に第2ボンドによりボンディングすることにより前記ソース電極と前記第2の配線とを電気的に接続し、
前記ソース電極においてそれぞれ異なる位置に、前記ボンディング用ワイヤを第1ボンドによりボンディングし、当該ボンディングにより形成された圧縮根を残して切り離すことにより、前記ソース電極上に複数の金属塊を形成する、
ことを特徴とする電力用半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−18841(P2011−18841A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163786(P2009−163786)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】