説明

電動パワーステアリング制御装置

【課題】高次の車輪回転振動を抑制して操舵フィーリングを向上させる
【解決手段】電動パワーステアリングシステム1は、振動抑制補償量演算部22が、電動パワーステアリングシステム1における路面反力に対するモータ6の速度の特性について、基本アシスト量を振動抑制補償量で補正せずにモータ6を駆動させた場合の特性よりも、タイヤ10が1秒間で回転する回転数と一致する周波数(以下、基本車輪速周波数という)の1,2,3,4,5倍に一致する周波数で大きさが振動する路面反力に対してモータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすように振動抑制補償量を演算する。これにより、上記仕様を満たすように、ハンドル2の操作を補助するためのアシスト操舵力を制御するため、基本車輪速周波数の2,3,4,5倍に一致する高次車輪速周波数を有する車輪回転振動がタイヤ10からハンドル2に伝達されるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるハンドル操作をモータにて補助する電動パワーステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者による車両のハンドル操作(操舵)をモータにて補助する電動パワーステアリング制御装置では、ハンドル操作に応じて適切な操舵力をモータに発生させるために、操舵によりハンドルに加えられる操舵トルクなどに基づいてアシスト操舵力を演算する。
【0003】
従来、車輪の回転に起因して発生し車輪の回転速度(以下、車輪速という)に比例して周波数が大きくなる振動(以下、車輪回転振動という)が車輪からハンドルに伝達されることにより操舵フィーリングが悪化するという問題を解決するために、車輪速に対応した周波数を演算し(例えば、車輪速が7[回転/秒]である場合には周波数は7Hzと演算される)、この周波数に一致する振動を除去するようにアシスト操舵力の演算結果を補正する電動パワーステアリング制御装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−335228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車輪回転振動には、車輪速に対応した周波数(以下、車輪速周波数という)に一致した周波数を有する1次振動だけではなく、車輪速周波数の整数倍(2,3,4倍など)に一致した周波数を有する2,3,4次などの高次振動が存在する。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、上記の高次振動が除去されないために、依然として車輪回転振動がハンドルに伝達されるという問題があった。
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、高次の車輪回転振動を抑制して操舵フィーリングを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、車両のハンドルに連結され、ハンドルが操作されることにより入力されるハンドルトルクによってハンドルとともに回転する入力軸と、入力軸の回転を操舵輪に伝達することにより操舵輪を操舵させる入力伝達手段と、入力軸と操舵輪のねじれによる操舵トルクを検出するトルク検出手段と、ハンドルの操作による操舵輪の操舵時にハンドルの操作を補助するためのアシスト操舵力を発生させるモータとを備えた電動パワーステアリングシステムに設けられ、モータを制御することによりアシスト操舵力を制御する電動パワーステアリング制御装置である。
【0008】
また、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置では、基本アシスト量演算手段が、トルク検出手段により検出された操舵トルクに基づいてハンドルの操作を補助するための基本アシスト量を演算するとともに、アシスト補償量演算手段が、基本アシスト量演算手段により演算された基本アシスト量を補正するためのアシスト補償量を演算する。その後に、アシスト量補正手段が、基本アシスト量演算手段により演算された基本アシスト量を、アシスト補償量演算手段により演算されたアシスト補償量によって補正することにより、補正後アシスト量を演算し、モータ駆動手段が、アシスト量補正手段からの補正後アシスト量に基づいてモータを駆動させる。
【0009】
そして、アシスト補償量演算手段は、操舵輪が1秒間で回転する回転数を基本車輪速周波数とし、2以上の整数値となるように予め設定された値を高次設定値とし、基本車輪速周波数に高次設定値を乗じた値と一致する周波数を高次車輪速周波数とし、操舵輪が車両の走行路面から受ける力を路面反力として、電動パワーステアリングシステムにおける路面反力に対するモータの速度の特性について、基本アシスト量をアシスト補償量で補正せずにモータを駆動させた場合の特性よりも、高次車輪速周波数で大きさが振動する路面反力に対してモータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすようにアシスト補償量を演算する。
【0010】
このように構成された電動パワーステアリング制御装置によれば、高次車輪速周波数で大きさが振動する路面反力に対してモータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすように、ハンドルの操作を補助するためのアシスト操舵力を制御するため、操舵輪の回転速度(以下、車輪速という)に対応した基本車輪速周波数の整数倍に一致した周波数を有する高次の車輪回転振動のうち、基本車輪速周波数に高次設定値を乗じた値と一致する周波数(高次車輪速周波数)を有する車輪回転振動が操舵輪からハンドルに伝達されるのを抑制することができる。これにより、車輪回転振動のうち1次の車輪回転振動のみを抑制できる場合と比較して、操舵フィーリングを向上させることが可能となる。
【0011】
また、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置において、請求項2に記載のように、車両速度検出手段が車両の速度を検出し、さらにアシスト補償量演算手段では、設定値補償量演算手段が、電動パワーステアリングシステムにおける路面反力に対するモータの速度の特性について、基本アシスト量をアシスト補償量で補正せずにモータを駆動させた場合の特性よりも、少なくとも2つ以上の予め設定された補償量演算用車輪速のそれぞれについて補償量演算用車輪速に対応する基本車輪速周波数に高次設定値を乗じた値と一致する周波数で大きさが振動する路面反力に対してモータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすようにアシスト補償量を演算するとともに、線形補間手段が、設定値補償量演算手段により演算された少なくとも2つ以上の補償量演算用車輪速に対応したアシスト補償量に基づいて、線形補間演算により、車両速度検出手段により検出された車両の速度に対応した車輪速におけるアシスト補償量を算出し、この算出値を、アシスト補償量演算手段により演算されるアシスト補償量とする。
【0012】
このように構成された電動パワーステアリング制御装置によれば、少なくとも2つの車輪速に対応した高次車輪速周波数を有する車輪回転振動を抑制するためのアシスト補償量を演算した後に線形補間演算を実行することによって、現在の車輪速に対応した高次車輪速周波数を有する車輪回転振動を抑制するためのアシスト補償量を算出することができる。つまり、最低2つの車輪速に対応した高次車輪速周波数について上記仕様を満たすようにアシスト補償量を演算する手段を設けることによって、当該車両の走行可能な全車速範囲にわたってアシスト補償量を算出することができる。
【0013】
したがって、上記仕様を満たすようにアシスト補償量を演算する手段を、当該車両の走行可能な車速範囲の全体を網羅するために多数設ける必要がなくなり、電動パワーステアリング制御装置の構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電動パワーステアリングシステム1の概略構成を示す構成図である。
【図2】振動抑制補償量演算部22の構成を示すブロック図である。
【図3】1次振動抑制補償量演算部31の構成を示すブロック図である。
【図4】演算部41の周波数特性とシステム1の閉ループ特性を示すボード線図である。
【図5】車輪回転振動の伝達経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
図1は、本発明が適用された実施形態の電動パワーステアリングシステム1の概略構成を示す構成図である。
【0016】
電動パワーステアリングシステム1は、運転者によるハンドル2の操作をモータ6によってアシスト(補助)するものである。ハンドル2は、ステアリングシャフト3の一端に固定され、ステアリングシャフト3の他端にはトルクセンサ4が接続されており、このトルクセンサ4の他端には、インターミディエイトシャフト5が接続されている。
【0017】
トルクセンサ4は、操舵トルクを検出するためのセンサである。具体的には、ステアリングシャフト3とインターミディエイトシャフト5とを連結するトーションバーを有し、このトーションバーのねじれ角に基づいてそのトーションバーに加えられているトルクを検出する。
【0018】
モータ6は、ハンドル2の操舵力をアシスト(補助)するものであり、その回転軸の先端にウォームギアが設けられ、このウォームギアが、インターミディエイトシャフト5に設けられたウォームホイールと噛み合っている。これにより、モータ6の回転がインターミディエイトシャフト5に伝達される。逆に、ハンドル2の操作や路面12からの反力(路面反力)によってインターミディエイトシャフト5が回転されると、その回転がモータ6に伝達されてモータ6も回転されることになる。
【0019】
インターミディエイトシャフト5における、トルクセンサ4が接続された一端とは反対側の他端は、ステアリングギアボックス7に接続されている。ステアリングギアボックス7は、図示しないラックとピニオンギアからなるギア機構にて構成されており、インターミディエイトシャフト5の他端に設けられたピニオンギアに、ラックの歯が噛み合っている。そのため、運転者がハンドル2を回すと、インターミディエイトシャフト5が回転(すなわち、ピニオンギアが回転)し、これによりラックが左右に移動する。ラックの両端にはそれぞれタイロッド8が取り付けられており、ラックとともにタイロッド8が左右の往復運動を行う。これにより、タイロッド8がその先のナックルアーム9を引っ張ったり押したりすることで、タイヤ10の向きが変わる。
【0020】
また、車両における所定の部位には、車両速度を検出するための車速センサ11が設けられている。
このような構成により、運転者がハンドル2を回転させると、その回転がステアリングシャフト3、トルクセンサ4、およびインターミディエイトシャフト5を介してステアリングギアボックス7に伝達される。そして、ステアリングギアボックス7内で、インターミディエイトシャフト5の回転がタイロッド8の左右移動に変換され、タイロッド8が動くことによって、左右の両タイヤ10が操舵される。
【0021】
電動パワーステアリングECU(Electric Power Steering Electronic Control Unit)20(以下、EPSECU20という)は、図示しない車載バッテリからの電力によって動作し、トルクセンサ4にて検出された操舵トルク、および車速センサ11にて検出された車両速度に基づいて、アシスト操舵力を演算する。そして、その演算結果に応じてモータ6を駆動制御することにより、運転者がハンドル2を回す力(延いては両タイヤ10を操舵する力)のアシスト量を制御するものである。
【0022】
具体的には、EPSECU20は、基本アシスト量を演算する基本アシスト量演算部21と、車輪回転振動抑制補償量(以下、振動抑制補償量という)を演算する車輪回転振動抑制補償量演算部22(以下、振動抑制補償量演算部22という)と、基本アシスト量と振動抑制補償量を加算することによりアシスト指令値を演算する加算部23と、加算部23からのアシスト指令値に基づいてモータ6を駆動するモータ駆動回路24とを備えている。
【0023】
基本アシスト量演算部21は、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクおよび車速センサ11にて検出された車両速度に基づき、基本アシスト量を演算する。具体的には、操舵トルクが大きいほど基本アシスト量が大きく(すなわち、モータ6の、ハンドル2の回転をアシストする方向のトルクが大きく)なるよう、また、車両速度が大きいほど基本アシスト量は小さくなるよう、例えば予め用意した操舵トルク−基本アシスト量マップを参照すること等によって、基本アシスト量を演算する。
【0024】
振動抑制補償量演算部22は、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクおよび車速センサ11にて検出された車両速度に基づき、基本アシスト量演算部21により演算された基本アシスト量を補正するための振動抑制補償量を演算する。
【0025】
モータ駆動回路24は、基本アシスト量に振動抑制補償量が加算されて得られたアシスト指令値に基づき、モータ6に電流を供給してモータ6を駆動する。
その他、EPSECU20は、基本アシスト量の安定性を高めるための位相補償部、操舵トルクの変化に対する応答速度を高めるためのフィードフォワード制御部、アシスト指令値(電流指令値)とモータ6の実際の電流値との偏差に基づくフィードバック制御(例えばPI制御など)によってモータ駆動回路24に与える最終的な電流指令値を決定するフィードバック制御部など、種々の機能ブロックを備えているが、図1ではこれらの図示を省略している。
【0026】
図2は、振動抑制補償量演算部22の構成を示すブロック図である。
振動抑制補償量演算部22は、図2に示すように、1次振動抑制補償量演算部31、2次振動抑制補償量演算部32、3次振動抑制補償量演算部33、4次振動抑制補償量演算部34、5次振動抑制補償量演算部35、および加算部36を備えている。
【0027】
まず1次振動抑制補償量演算部31は、タイヤ10の回転に起因して発生しタイヤ10が1秒間で回転する回転数と一致する周波数(以下、基本車輪速周波数という)を有する振動(以下、1次車輪回転振動という)を抑制するための1次振動抑制補償量を、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクおよび車速センサ11にて検出された車両速度に基づいて演算する。なお本実施形態では、タイヤ10が1秒間で回転する回転数を車輪速とする。したがって、車輪速の単位は[回転/秒]である。
【0028】
また、2,3,4,5次振動抑制補償量演算部32,33,34,35はそれぞれ、タイヤ10の回転に起因して発生し基本車輪速周波数の2,3,4,5倍に一致する周波数を有する振動(以下、2,3,4,5次車輪回転振動という)を抑制するための2,3,4,5次振動抑制補償量を、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクおよび車速センサ11にて検出された車両速度に基づいて演算する。
【0029】
また加算部36は、1,2,3,4,5次振動抑制補償量演算部31,32,33,34,35から出力された1,2,3,4,5次振動抑制補償量を加算し、この加算値を、振動抑制補償量として出力する。
【0030】
図3は、1次振動抑制補償量演算部31の構成を示すブロック図である。
1次振動抑制補償量演算部31は、図3に示すように、1次低速振動抑制補償量演算部41と1次高速振動抑制補償量演算部42と線形補間部43とを備えている。
【0031】
まず、1次低速振動抑制補償量演算部41は、車両が低速(本実施形態では約10km/h)で走行しているときの1次車輪回転振動(本実施形態では1.5Hzの振動)を抑制するための低速1次振動抑制補償量を、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクに基づいて演算する。
【0032】
また、1次高速振動抑制補償量演算部42は、車両が高速(本実施形態では約150km/h)で走行しているときの1次車輪回転振動(本実施形態では22Hzの振動)を抑制するための高速1次振動抑制補償量を、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクに基づいて演算する。
【0033】
また線形補間部43は、1次低速振動抑制補償量演算部41から出力された低速(約10km/h)1次振動抑制補償量の値と、1次高速振動抑制補償量演算部42から出力された高速(約150km/h)1次振動抑制補償量の値とから、線形補間演算により、車速センサ11にて検出された車両速度で車両が走行しているときにおける1次車輪回転振動を抑制するための1次振動抑制補償量を算出し、算出した1次振動抑制補償量を出力する。
【0034】
例えば、車速センサ11にて検出された車両速度が50km/hである場合には、低速(約10km/h)1次振動抑制補償量の値と、高速(約150km/h)1次振動抑制補償量の値との間で線形補間することで、50km/hで走行しているときの1次振動抑制補償量を算出する。
【0035】
図4(a)は、1次低速振動抑制補償量演算部41の周波数特性の具体例を示すボード線図である。図4(a)の上図はゲイン特性を示し、図4(a)の下図は位相特性を示す。
【0036】
1次低速振動抑制補償量演算部41は、例えば図4(a)に示すように、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクの周波数が1.5Hzである場合に最も大きいゲインを有するように設計されている(図中点線で囲んだ領域を参照)。
【0037】
そして図4(b)は、電動パワーステアリングシステム1の閉ループ特性の具体例を示すボード線図であり、路面反力に対するモータ速度の特性を示す周波数特性である。なお、図4(b)の上図はゲイン特性を示し、図4(b)の下図は位相特性を示す。
【0038】
図4(b)では、図4(a)に示す周波数特性を有する1次低速振動抑制補償量演算部41により振動抑制補償を行った場合の特性を1点鎖線(線L1,L3を参照)で示し、1次低速振動抑制補償量演算部41による振動抑制補償を行っていない場合の特性を実線(線L2,L4を参照)で示している。
【0039】
図4(b)に示すように、1次低速振動抑制補償量演算部41による振動抑制補償を行った場合には、振動抑制補償を行っていない場合と比較して、操舵トルクの周波数が1.5Hzである場合のゲインが小さくなっている(図中点線で囲んだ領域と線L1,L2を参照)。
【0040】
すなわち、振動抑制補償を行っていない場合には、図5に示すように、タイヤの回転に起因して発生し基本車輪速周波数と一致する周波数(図5では1.5Hz)を有する外乱がタイヤから入力してインターミディエイトシャフト等を伝達することによって、トルクセンサが、基本車輪速周波数(図5では1.5Hz)で振動する。これに対して、1次低速振動抑制補償量演算部41による振動抑制補償を行うことにより、タイヤ10から入力される外乱がトルクセンサ4に伝達されないようにモータ6を制御し、基本車輪速周波数と一致する周波数を有する振動(1次車輪回転振動)を抑制する。
【0041】
なお、1次高速振動抑制補償量演算部42は、高速走行時の1次車輪回転振動(本実施形態では22Hzの振動)を抑制するために、操舵トルクの周波数が22Hzである場合に最も大きいゲインを有するように設計されている(図示を省略)。
【0042】
また、図示を省略するが、2,3,4,5次振動抑制補償量演算部32,33,34,35はそれぞれ、1次低速振動抑制補償量演算部41と同様に、2,3,4,5次低速振動抑制補償量演算部と2,3,4,5次高速振動抑制補償量演算部と線形補間部とを備えている。
【0043】
そして、2,3,4,5次振動抑制補償量演算部32,33,34,35はそれぞれ、1次低速振動抑制補償量演算部41と同様にして、2,3,4,5次低速振動抑制補償量演算部から出力された低速(約10km/h)2,3,4,5次振動抑制補償量の値と、2,3,4,5次高速振動抑制補償量演算部から出力された高速(約150km/h)2,3,4,5次振動抑制補償量の値とから、線形補間演算により、車速センサ11にて検出された車両速度で車両が走行しているときにおける2,3,4,5次車輪回転振動を抑制するための2,3,4,5次振動抑制補償量を算出し、算出した2,3,4,5次振動抑制補償量を出力する。
【0044】
例えば、3次振動抑制補償量演算部33が備える3次低速振動抑制補償量演算部は、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクの周波数が4.5Hz(1.5×3Hz)である場合に最も大きいゲインを有するように設計されている。また、3次振動抑制補償量演算部33が備える3次高速振動抑制補償量演算部は、操舵トルクの周波数が66Hz(22×3Hz)である場合に最も大きいゲインを有するように設計されている。
【0045】
このように構成された電動パワーステアリングシステム1では、振動抑制補償量演算部22が、電動パワーステアリングシステム1における路面反力に対するモータ6の速度の特性について、基本アシスト量を振動抑制補償量で補正せずにモータ6を駆動させた場合の特性よりも、基本車輪速周波数の1,2,3,4,5倍に一致する周波数で大きさが振動する路面反力に対してモータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすように振動抑制補償量を演算する。
【0046】
したがって、本実施形態の電動パワーステアリングシステム1によれば、タイヤ10が1秒間で回転する回転数と一致する周波数(基本車輪速周波数)だけではなく、基本車輪速周波数の2,3,4,5倍に一致した周波数(以下、高次車輪速周波数という)で大きさが振動する路面反力に対してモータ6の速度が抑制された特性となる仕様を満たすように、ハンドル2の操作を補助するためのアシスト操舵力を制御するため、高次車輪速周波数を有する車輪回転振動がタイヤ10からハンドル2に伝達されるのを抑制することができる。これにより、車輪回転振動のうち1次の車輪回転振動のみを抑制できる場合と比較して、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0047】
また、1,2,3,4,5次振動抑制補償量演算部31,32,33,34,35は、1,2,3,4,5次低速振動抑制補償量演算部により演算された低速1,2,3,4,5次振動抑制補償量の値と、1,2,3,4,5次高速振動抑制補償量演算部により演算された高速1,2,3,4,5次振動抑制補償量の値とから、線形補間演算により、車速センサ11にて検出された車両速度で車両が走行しているときにおける1,2,3,4,5次車輪回転振動を抑制するための1,2,3,4,5次振動抑制補償量を算出する。
【0048】
これにより、2つの車輪速に対応した高次車輪速周波数について上記仕様を満たすように振動抑制補償量を演算する演算部を設けることによって、当該車両の走行可能な全車速範囲にわたって振動抑制補償量を算出することができる。
【0049】
したがって、上記仕様を満たすように振動抑制補償量を演算する演算部を、当該車両の走行可能な車速範囲の全体を網羅するために多数設ける必要がなくなり、電動パワーステアリングシステム1の構成を簡略化することができる。
【0050】
以上説明した実施形態において、ステアリングシャフト3は本発明における入力軸、タイヤ10は本発明における操舵輪、インターミディエイトシャフト5とステアリングギアボックス7とタイロッド8とナックルアーム9は本発明における入力伝達手段、トルクセンサ4は本発明におけるトルク検出手段、EPSECU20は本発明における電動パワーステアリング制御装置、基本アシスト量演算部21は本発明における基本アシスト量演算手段、振動抑制補償量演算部22は本発明におけるアシスト補償量演算手段、加算部23は本発明におけるアシスト量補正手段、モータ駆動回路24は本発明におけるモータ駆動手段、車速センサ11は本発明における車両速度検出手段、1,2,3,4,5次振動抑制補償量演算部31,32,33,34,35が備える低速振動抑制補償量演算部と高速振動抑制補償量演算部は本発明における設定値補償量演算手段、1,2,3,4,5次振動抑制補償量演算部31,32,33,34,35が備える線形補間部は本発明における線形補間手段である。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記実施形態においては、1,2,3,4,5次車輪回転振動を抑制するための1,2,3,4,5次振動抑制補償量を演算するものを示したが、これに限定されるものではなく、1〜5次車輪回転振動のうち、抑制する必要がある車輪回転振動についてのみ振動抑制補償量を演算するようにしてもよい。例えば、振動抑制補償量演算部22は、1〜5次振動抑制補償量演算部31〜35のうち、1,2次振動抑制補償量演算部31,32のみを備えるようにしてもよいし、1次振動抑制補償量演算部31のみ又は2次振動抑制補償量演算部32のみ備えるようにしてもよい。
【0052】
また上記実施形態においては、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクを用いて振動抑制補償量を演算するものを示したが、モータ6のモータ速度を用いて振動抑制補償量を演算するようにしてもよいし、操舵トルクとモータ速度の両方を用いて振動抑制補償量を演算するようにしてもよい。
【0053】
また上記実施形態においては、1次振動抑制補償量演算部31が、1次低速振動抑制補償量演算部41と1次高速振動抑制補償量演算部42と線形補間部43とを備えているものを示した。しかし、2つの振動抑制補償量演算部を備えているものに限定されるものではなく、3つ以上の振動抑制補償量演算部を備えるようにしてもよい。例えば、1次振動抑制補償量演算部31は、車両が中速(例えば約70km/h)で走行しているときの1次車輪回転振動を抑制するための中速1次振動抑制補償量を、トルクセンサ4にて検出された操舵トルクに基づいて演算する1次中速振動抑制補償量演算部を備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…電動パワーステアリングシステム、2…ハンドル、3…ステアリングシャフト、4…トルクセンサ、5…インターミディエイトシャフト、6…モータ、7…ステアリングギアボックス、8…タイロッド、9…ナックルアーム、10…タイヤ、11…車速センサ、12…路面、20…EPSECU、21…基本アシスト量演算部、22…車輪回転振動抑制補償量演算部、23…加算部、24…モータ駆動回路、31…1次振動抑制補償量演算部、32…2次振動抑制補償量演算部、33…3次振動抑制補償量演算部、34…4次振動抑制補償量演算部、35…5次振動抑制補償量演算部、36…加算部、41…1次低速振動抑制補償量演算部、42…1次高速振動抑制補償量演算部、43…線形補間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のハンドルに連結され、前記ハンドルが操作されることにより入力されるハンドルトルクによって前記ハンドルとともに回転する入力軸と、
前記入力軸の回転を操舵輪に伝達することにより前記操舵輪を操舵させる入力伝達手段と、
前記入力軸と前記操舵輪のねじれによる操舵トルクを検出するトルク検出手段と、
前記ハンドルの操作による前記操舵輪の操舵時に前記ハンドルの操作を補助するためのアシスト操舵力を発生させるモータと
を備えた電動パワーステアリングシステムに設けられ、前記モータを制御することにより前記アシスト操舵力を制御する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記トルク検出手段により検出された操舵トルクに基づいて前記ハンドルの操作を補助するための基本アシスト量を演算する基本アシスト量演算手段と、
前記基本アシスト量演算手段により演算された前記基本アシスト量を補正するためのアシスト補償量を演算するアシスト補償量演算手段と、
前記基本アシスト量演算手段により演算された前記基本アシスト量を、前記アシスト補償量演算手段により演算された前記アシスト補償量によって補正することにより、補正後アシスト量を演算するアシスト量補正手段と、
前記アシスト量補正手段からの前記補正後アシスト量に基づいて前記モータを駆動させるモータ駆動手段とを備え、
前記アシスト補償量演算手段は、
前記操舵輪が1秒間で回転する回転数を基本車輪速周波数とし、2以上の整数値となるように予め設定された値を高次設定値とし、前記基本車輪速周波数に前記高次設定値を乗じた値と一致する周波数を高次車輪速周波数とし、前記操舵輪が車両の走行路面から受ける力を路面反力として、前記電動パワーステアリングシステムにおける前記路面反力に対する前記モータの速度の特性について、前記基本アシスト量を前記アシスト補償量で補正せずに前記モータを駆動させた場合の特性よりも、前記高次車輪速周波数で大きさが振動する前記路面反力に対して前記モータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすように前記アシスト補償量を演算する
ことを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
前記車両の速度を検出する車両速度検出手段を備え、
前記アシスト補償量演算手段は、
前記操舵輪の回転速度を車輪速とし、前記電動パワーステアリングシステムにおける前記路面反力に対する前記モータの速度の特性について、前記基本アシスト量を前記アシスト補償量で補正せずに前記モータを駆動させた場合の特性よりも、少なくとも2つ以上の予め設定された補償量演算用車輪速のそれぞれについて前記補償量演算用車輪速に対応する前記基本車輪速周波数に前記高次設定値を乗じた値と一致する周波数で大きさが振動する前記路面反力に対して前記モータの速度が抑制された特性となる仕様を満たすように前記アシスト補償量を演算する設定値補償量演算手段と、
前記設定値補償量演算手段により演算された少なくとも2つ以上の前記補償量演算用車輪速に対応した前記アシスト補償量に基づいて、線形補間演算により、前記車両速度検出手段により検出された前記車両の速度に対応した前記車輪速における前記アシスト補償量を算出し、この算出値を、前記アシスト補償量演算手段により演算される前記アシスト補償量とする線形補間手段とから構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60045(P2013−60045A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198344(P2011−198344)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】