説明

電動パワーステアリング装置

【課題】電動パワーステアリング装置のアシストトルクを伝達するためのモータ出力軸と減速機構入力軸との嵌合部で発生する騒音を低減させたり、或いは、車輪からの過大入力がモータへ伝達されてモータが損傷することを防止する電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】モータの出力トルクを磁力を利用して伝達することによって、モータの出力軸と減速機構部の入力軸とを非接触にして、さらに、、磁力を調整することによりトルクリミッタの効果を持たせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関し、特に、モータと減速機構部との連結部で発生する騒音を低減する電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置をモータの回転力で補助力(アシストトルク)を付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機構部を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸にアシストトルクを付勢するようになっている。このような電動パワーステアリング装置の簡単な構成の一例を図6を参照して説明する。操向ハンドル101のステアリングシャフト102(ステアリングシャフト102a、ステアリングシャフト102b)は減速機構部103、ユニバーサルジョイント104a及び104b、ピニオンラック機構105を経て操向車輪のタイロッド106に結合されている。ステアリングシャフト102aには,操向ハンドル101の操舵トルクを検出するトルクセンサ107が設けられており、操向ハンドル101の操舵力を補助するモータ108が、減速機構部103を介してステアリングシャフト102bに連結されている。
【0003】
このような電動パワーステアリング装置において、アシストトルクを発生するモータ108の出力軸と減速機構部103の入力軸との嵌合は、スプライン嵌合で接触式が主であり、操向車輪からの逆入力に対してステアリングシャフトが微少回転するごとに、減速機構部を介して、モータの出力軸まで到達して異常音(騒音)を発生する恐れがあった。このような騒音の大きさを低減するため、特許文献1では、モータ108の出力軸と減速機構部103の入力軸との間に弾性体を設置することにより騒音を低減する改善策を施していた。
【0004】
また、電動パワーステアリング装置のトルク伝達経路には、車輌の運転操舵中の路面状態によって外部から大きな衝撃トルクが加わる恐れがあり、その衝撃トルクを遮断するために、特許文献2では、電動パワーステアリング装置のモータにトルクリミッタを取り付けて遮断するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−198829号公報
【特許文献2】特開平9−84300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した弾性体による騒音の低減策を実施した電動パワーステアリング装置では、期待するほどに騒音を低減できなかったり、また、外部からの衝撃トルクの課題に対しては、取り付けるトルクリミッタのコストが高いことや、トルクリミッタ自体の慣性により衝撃トルクが増幅されるという問題がある。
【0007】
本発明は上述のような事情から成されたものであり、本発明の目的は、モータの出力軸と減速機構部の入力軸で発生する騒音を充分低減し、また、外部からの衝撃トルクに関し、車輌からの振動が剛体を介してモータへ伝達しない、逆に、モータからの振動が剛体を介して機構部へ伝達しない電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステアリング機構に操舵補助力を付与するモータと、前記モータの出力軸に発生するトルクを前記ステアリング機構に伝達する減速機構部とを備えた電動パワーステアリング装置に関するものであり、本発明の上記目的は、前記モータの出力軸と前記減速機構部の入力軸とが非接触で嵌合され、前記モータの出力軸に発生したトルクを前記減速機構部の入力軸に伝達するトルク伝達手段を備えたことによって達成される。
また、上記目的は、前記トルク伝達手段が、磁力を介して前記トルクを伝達することによって効果的に達成される。
また、上記目的は、前記伝達されるトルクの量に制限を課するために前記磁力の強さを所定量とすることによってさらに効果的に達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、モータの出力軸と減速機構部の入力軸が非接触なので、騒音が発生しない電動パワーステアリング装置を提供できる。
また、伝達に利用する磁力の量に制限を課するので、衝撃トルクが操向車輪からモータへ伝達しない、或いはモータからの振動が機構部へ伝達せず、モータなどの破壊を防止できる電動パワーステアリング装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施の形態を図を参照して以下説明する。
図1は、本発明を適用したモータ108と減速機構部103を示した図である。操向ハンドル101に接続されるモータステアリングシャフト102bには、これに回転方向に一体となるようにウォームホイール10が同軸に固定されており、このウォームホイール10と噛み合うウォーム11が、ハウジング12内に軸受12a,12bによって回転自在に支持されている。即ち、ウォーム11を回転方向及び軸方向に一体となるように減速機構部103の減速機構入力軸2が貫通しており、その減速機構入力軸2の一端部が軸受12aを介してハウジング12内に回転自在に支持され、減速機構入力軸2の他端部よりも若干内側に入った位置が軸受12bを介してハウジング12内に回転自在に支持されている。そして、モータ108のモータ出力軸1と減速機構部103の減速機構入力軸2は、図1に示すように、非接触で嵌合されている。この非接触であることが本発明の重要な点である。
【実施例1】
【0011】
次に、モータ108の出力トルクを減速機構部103に非接触で伝達する手段を説明する。この実施例では、そのトルク伝達手段として、磁力を利用しており、具体的には、永久磁石の磁力を利用している。図2(A)は、モータ出力軸1と減速機構入力軸2の嵌合部Aを拡大したものである。そして、図2(B)は、図2(A)の矢印X−Xの断面図である。図2において、モータのモータ出力軸1には、モータ出力軸1の中心軸を対称にして永久磁石3−1(S極)と3−2(N極)とが埋め込まれている。一方、減速機構部103の減速機構入力軸2の先端部2aには、永久磁石3−1と3−2にそれぞれ対向する位置に永久磁石3−3(N極)と3−4(S極)が埋め込まれている。なお、永久磁石3−3(N極)と3−4(S極)は、外周に貼り付けられてあっても良い。図2(A)と図2(B)に示すように、永久磁石3−1,3−2,3−3,3−4の形状は、実施例の一例として、筒状の一部を切り取った形状をしている。
【0012】
このように構成されたモータ出力軸1の回転トルクが、どのようにして減速機構入力軸2に伝達されるかを以下説明する。モータ出力軸1が回転すると、それに伴ってモータ出力軸1に埋め込まれた永久磁石3−1(S極)と3−2(N極)が回転する。永久磁石3−1と3−2が回転すると、それらに対向する位置にある永久磁石3−3(N極)と3−4(S極)は、永久磁石3−1と3−2との吸着力によって回転する。永久磁石3−3と3−4に回転力が加わると、永久磁石3−3と3−4が埋め込まれた減速機構入力軸2も一緒に回転する。このようにしてモータ出力軸1の回転トルクは、減速機構入力軸2の回転へと伝達される。ただし、伝達できるトルクには以下説明する理由により限界がある。
【0013】
モータ出力軸1から減速機構入力軸2への伝達できるトルクの強さは、永久磁石3−1,3−2,3−3,3−4の磁力の強さ、或いは、永久磁石3−1と3−3、永久磁石3−2と3−4との距離Dによって決定される。永久磁石の磁力が強いほど、磁石間の距離Dが短いほど伝達できるトルクは強くなる。従って、伝達すべきトルクの最大値(所定量)を考慮して、永久磁石3−1,3−2,3−3,3−4の磁力の強さ、或いは距離Dを決定すべきである。
【0014】
このように、モータ出力軸1と減速機構入力軸2とが非接触となることで、騒音が発生せず、また、トルクリミッタとしての機能を有するので、車輪からの過大入力に対してモータの損傷などを防止する効果が得られる。
【実施例2】
【0015】
図3は、モータ出力軸1と減速機構入力軸2とのトルク伝達手段の構成が異なった実施例である。この実施例では、モータ出力軸1と減速機構入力軸2の先端部1bと先端部2bは、円柱の形状をしており、先端部1bに永久磁石3−5(S極)と3−6(N極)が埋め込まれ、それぞれに対向するように先端部2bに永久磁石3−7(N極)と3−8(S極)が埋め込まれている。
【0016】
この構成の場合も、永久磁石3−5と永久磁石3−7との吸着力、及び永久磁石3−6と永久磁石3−8との吸着力により、モータ出力軸1が回転すると減速機構入力軸2が回転してトルクが伝達される。
【0017】
この実施例の場合も、モータ出力軸1から減速機構入力軸2への伝達できるトルクの強さは、永久磁石3−9,3−6,3−7,3−8の磁力の強さ、或いは、永久磁石3−5と3−7、永久磁石3−6と3−8との距離Dによって決定される。永久磁石の磁力が強いほど、磁石間の距離Dが短いほど伝達できるトルクは強くなる。従って、伝達すべきトルクの最大値(所定量)を考慮して、永久磁石3−5,3−6,3−7,3−8の磁力の強さ、或いは距離Dを決定すべきである。
【0018】
このように、モータ出力軸1と減速機構入力軸2とが非接触となることで、騒音が発生せず、また、トルクリミッタとしての機能を有するので、車輪からの過大入力に対してモータの損傷などを防止する効果が得られる。
【実施例3】
【0019】
図4は、モータ出力軸1と減速機構入力軸2とのトルク伝達手段の構成がさらに異なった実施例である。この実施例では、モータ出力軸1の先端部1cは、板状の形状をしており、一方、減速機構入力軸2の先端部2cは、先端部1cと嵌合されるように、円柱を平面で刳りぬいた形状をしている。先端部1cに板状の永久磁石3−9(S極)と3−10(N極)が埋め込まれ、それぞれに対向するように先端部2cに板状の永久磁石3−11(N極)と3−12(S極)が埋め込まれている。
【0020】
この構成の場合も、永久磁石3−9と永久磁石3−11との吸着力、及び永久磁石3−10と永久磁石3−12との吸着力により、モータ出力軸1が回転すると減速機構入力軸2が回転してトルクが伝達される。
【0021】
この実施例では、回転方向には、機械的抑制手段を有しておりながら、モータ出力軸と減速機構入力軸は非接触とすることができる。
【実施例4】
【0022】
図5は、図2の実施例のモータのモータ出力軸1の軸表面に三角錐の突起物を付設した構造になっている。一方、及減速機構部の減速機構入力軸2の形状が、上記突起物と互い違いとなる三角錐の突起物が入力軸の内側に付設されている。モータのモータ出力軸1には、モータ出力軸1の中心軸を対称にして永久磁石3−13(S極)と3−14(N極)とが埋め込まれている。一方、減速機構部の減速機構入力軸2の先端部には、永久磁石3−13と3−14にそれぞれ対向する位置に永久磁石3−15(N極)と3−16(S極)が埋め込まれている。この場合もモータ出力軸1の回転に伴い、各永久磁石の吸着力によって、減速機構入力軸2も回転トルクが伝達される。
【0023】
この実施例では、回転方向には、機械的抑制手段を有しておりながら、モータ出力軸と減速機構入力軸は非接触とすることができる。
【0024】
なお、磁力によるトルク伝達方式では、永久磁石の強さ(磁力の強さ)や永久磁石同士の距離の関係で、伝達できるトルク以上の過大なトルクが加わった場合は、トルクは伝達することなく空転する。従って、永久磁石の強さ(磁力の強さ)や永久磁石同士の距離を調整することにより、設定トルク値(所定量)以上の過大なトルクが加わった場合は空転するように永久磁石の強さや距離を調整すればトルクリミッタの機能も持たせることができる。
【0025】
以上説明したように、非接触でモータの出力トルクを減速機構部へ伝達できるので騒音を発生しない効果がある。また、非接触なので部品同士の摩耗なども発生しない効果も期待できる。また、トルクリミッタの機能をもたせ逆入力によるモータ軸の破損を防止できる効果がある。
【0026】
なお、以上の説明では、磁力の発生手段として永久磁石を用いたが、電磁石を用いても同じ効果を得ることができる。また、モータの出力軸と減速機構部の入力軸が非接触である場合、両者の間に空気以外の気体が存在しても、同じ効果を得ることができる。また、両者の間に液体、例えば冷却用の油などが存在しても同じ効果を得ることができる。また、磁石の形状に制限はなく、例えば、四角い形状の磁石を円弧状に並べても良い。また、モータ出力軸、減速機構入力軸の形状にも制限はなく、三角,四角、その他の多角形でも同じ効果を得ることができる。また、実施例のモータ出力軸と減速機構入力軸の形状(オス、メスの関係)を入れ替えても同じ効果を得ることができる。
【0027】
以上説明したように、本発明を用いれば、非接触でモータの出力トルクを減速機構部に伝達できるので、騒音が発生しない、或いは、部品の摩耗を生じない効果がある。さらに、車輪からの過大入力が剛体を介してモータへ伝達されない、或いは、モータからの振動が剛体を介して機構部に伝達しない効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】モータと減速機構部の関係を示す構成図である。
【図2】実施例1におけるモータ出力軸と減速機構入力軸との関係を示す図である。
【図3】実施例2におけるモータ出力軸と減速機構入力軸との関係を示す図である。
【図4】実施例3におけるモータ出力軸と減速機構入力軸との関係を示す図である。
【図5】実施例4におけるモータ出力軸と減速機構入力軸との関係を示す図である。
【図6】電動パワーステアリング装置の構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1 モータ出力軸
2 減速機構入力軸
2a 先端部
1b、2b 先端部
1c、2c 先端部
3−1,3−3、3−5,3−7,3−9,3−11、3−14,3−15 N極磁石
3−2,3−4、3−6,3−8,3−10,3−12、3−13,3−16 S極磁石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構に操舵補助力を付与するモータと、前記モータの出力軸に発生するトルクを前記ステアリング機構に伝達する減速機構部とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータの出力軸と前記減速機構部の入力軸とが非接触で嵌合され、前記モータの出力軸に発生したトルクを前記減速機構部の入力軸に伝達するトルク伝達手段を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記トルク伝達手段が、磁力を介して前記トルクを伝達する請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記伝達されるトルクの量に制限を課するために前記磁力の強さを所定量とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−51913(P2006−51913A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236707(P2004−236707)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】