説明

電動ブレーキ倍力装置

【課題】 電動モータの出力が最大となったときに、ストロークが伸びることを抑制する電動ブレーキ倍力装置を提供すること。
【解決手段】 電動モータの出力が最大となったときに、連結機構により主ピストンとブーストピストンとを連結するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキアシスト力を付与する電動ブレーキ倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、プッシュロッドに押圧力が作用すると、電動機によってブーストピストンを移動させてブレーキ液圧を発生させるものが開示されている。また、電動機が動かないときには、プッシュロッドと一体に摺動する主ピストンが所定量ストロークすると、主ピストンとブーストピストンとが当接して、ブーストピストンをストロークさせるようにしている。
【特許文献1】特開平10−138909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術では、電動モータ(電動機)の出力が最大となると、主ピストンとブーストピストンとが当接するまでストロークが伸びてしまいドライバに違和感を与えるおそれがあった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、電動モータの出力が最大となった場合であっても、ブレーキペダルのストロークが伸びることなく、ドライバに違和感を与えることのない電動ブレーキ倍力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、電動モータの出力が最大となったときに、連結機構により主ピストンとブーストピストンとを連結するようにした。
【発明の効果】
【0006】
そのため、電動モータの出力が最大となったときでも、ブレーキペダルのストロークが伸びることなく、ドライバの違和感を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の電動ブレーキ倍力装置を実現する最良の形態を、実施例1または実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
実施例1の電動ブレーキ倍力装置1は、運転者のブレーキ操作に応じて電動モータ40によりアシスト力を付与するとともに、運転者のブレーキ操作に関わらず自動ブレーキを行うことができる装置である。
【0009】
[電動ブレーキ倍力装置の構成]
図1は、電動ブレーキ倍力装置1のシステム図である。電動ブレーキ倍力装置1は、マスタシリンダ2のプライマリピストンとして用いている主ピストン8、ブーストピストン9と、ブーストピストン9に推力を付与する電動モータ40を備えている。これらを車室壁に固定したハウジング5が内部に収装している。
【0010】
ブーストピストン9は、その中空部に主ピストン8を相対移動可能に収装している。主ピストン8は、前端(マスタシリンダ2側)に小径部8aを有し、後端に大径部8bを有している。主ピストン8は、大径部8bにブレーキペダルBPから延ばしたプッシュロッド80を連結し、ブレーキペダルBPの操作により進退移動するようになっている。
【0011】
ブーストピストン9の内周には、前端に小径中空部9aを有し、後端に大径中空部9bを有している。主ピストン8の小径部8aは、ブーストピストン9の小径中空部9aの径よりも小径であり、小径中空部9a内に位置している。主ピストン8の大径部8bは、ブーストピストン9の小径中空部9aの径よりも大径であって、大径中空部9bの径よりも小径であり、大径中空部9b内に位置している。主ピストン8の小径部8aは、ブーストピストン9の小径中空部9aの内周面と摺動するシール部材8dを有している。
【0012】
ブレーキが作動していない状態において、主ピストン8の大径部8bの前端面8cと、ブーストピストン9の後端面9cとは軸方向に距離Dだけ離間して位置している。これにより、自動ブレーキ作動時にブーストピストン9が前後進しても、ブレーキペダルBPが移動しないようにしている。
【0013】
また、ブーストピストン9に対して、主ピストン8が距離Dだけ前進すると、主ピストン8の大径部8bの前端面8cと、ブーストピストン9の後端面9cとが当接して、主ピストン8とブーストピストン9は一体に進退移動する。
【0014】
電動モータ40は、中空のDCブラシレスモータであって、ハウジング5の内壁に固定したステータ40aと、内周側にボールねじ溝40cを有するロータ40bを備えている。またレゾルバ41を設け、電動モータ40の回転位置を検出している。
【0015】
ブーストピストン9の後端の外周はボール30を回転自在に保持し、このボール30とロータ40bのボールねじ溝40cが噛合している。電動モータ40が駆動すると、ロータ40bの回転力が、ボールねじ溝40cとボール30によってブーストピストン9に軸方向の推力として伝達する。
【0016】
マスタシリンダ2は、有底のシリンダ本体20とリザーバタンク21を有している。シリンダ本体20内の奥側は、プライマリピストンとしての主ピストン8、ブーストピストン9と対を成すセカンダリピストン6を、シリンダ本体20の内壁に対して摺動可能に収装している。ブーストピストン9とセカンダリピストン6はシリンダ本体20の内周面と摺動するシール部材9d、6aをそれぞれ有している。
【0017】
主ピストン8、ブーストピストン9とセカンダリピストン6とは、シリンダ本体20内を2つの圧力室11,12に隔成している。ブーストピストン9とセカンダリピストン6との間、セカンダリピストン6とシリンダ本体20の底面との間は、スプリング7a,7bを有し、セカンダリピストン6がブーストピストン5の端面とシリンダ本体20の底面との中央付近に位置するように付勢している。
【0018】
主ピストン8、ブーストピストン9とセカンダリピストン6の移動に応じて、各圧力室11,12内に封じ込めているブレーキ液が油圧回路13を介して各のホイールシリンダ15に移動する。
【0019】
主ピストン8は、大径部8bの外周に連結機構16を有している。この連結機構16は電磁石を有しており、非通電時には主ピストン8とブーストピストン9とを相対移動可能にし、通電時には一体移動可能に切り替えることができる。
【0020】
電動モータ40、連結機構16は、コントロールユニット50によって制御する。このコントロールユニット50は、ブレーキストロークセンサ10からブレーキペダルBPのストローク情報と、レゾルバ41から電動モータ40の回転位置情報とを入力し、これらの情報から各装置に指令信号を出力する。
【0021】
[コントロールユニットの構成]
図2はコントロールユニット50の制御ブロック図である。コントロールユニット50は、電動モータ制御部50aと、電動モータ最大出力判断部50bと、連結機構制御部50cとを有する。
【0022】
電動モータ制御部50aは、ブレーキストロークセンサ10からブレーキストローク情報とレゾルバ41から電動モータ40の回転位置情報を入力する。このブレーキストローク情報と電動モータ40の回転位置情報に基づいて電動モータ40の指令信号を演算し、演算した指令信号を電動モータ40と電動モータ最大出力判断部50bに出力する。
【0023】
電動モータ最大出力判断部50bは、電動モータ制御部50aから電動モータ40の指令信号を入力する。この電動モータ40への指令信号から電動モータ40の出力が最大であるか否かを判断し、その判断結果を連結機構制御部50cに出力する。
【0024】
連結機構制御部50cは、電動モータ最大出力判断部50bの判断結果を入力する。電動モータ40の出力が最大であるときには、連結機構16に連結指令信号を出力する。
【0025】
[電動ブレーキ倍力制御処理]
次に、コントロールユニット50の制御処理の流れについて説明する。図3は、コントロールユニット50の制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0026】
ステップS1では、ブレーキストロークセンサ10からブレーキストローク情報を入力して、ステップS2へ移行する。
ステップS2では、レゾルバ41から電動モータ40の回転位置情報を入力してステップS3へ移行する。
【0027】
ステップS3では、ブレーキストローク情報と電動モータ40の回転位置情報とに基づいて電動モータ40を駆動する指令信号を演算、出力して、ステップS4へ移行する。
ステップS4では、電動モータ40が最大出力か否かの判断を行い、最大出力である場合にはステップS5へ移行し、最大出力でない場合にはリターンへ移行する。
ステップS5では、連結機構16に連結を行う指令信号を出力して、リターンへ移行する。
【0028】
[電動ブレーキ倍力制御作用]
次に、電動ブレーキ倍力装置1の制御の作用について説明する。
図4はブレーキペダルストロークに対するブレーキペダル踏力、電動モータ出力、減速度の関係を示すグラフである。図4(a)はブレーキペダルストロークに対するブレーキペダル踏力の関係、図4(b)は電動モータ出力の関係、図4(c)はブレーキペダル踏力と電動モータ出力の和の関係、図4(d)は減速度の関係を示す。実線は電動モータ40の出力が最大となったときに、締結機構16によって主ピストン8とブーストピストン9とを連結した場合を示す。点線は電動モータ40の出力が最大となったときに、締結機構16によって主ピストン8とブーストピストン9とを連結しなかった場合を示す。なお、図4の各関係は説明のため概略を示したものである。
【0029】
(電動モータ最大出力前)
電動モータ40の出力が最大になる前においては、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→リターンへと移行する。
【0030】
例えば、ブレーキペダルストロークがSt1のときには、ブレーキペダル踏力はFp1となり(図4(a))、電動モータ40の出力はFm1となり(図4(b))、ブレーキペダル踏力と電動モータ40の出力の和Fp1+Fm1がマスタシリンダ2に作用している(図4(c))。
【0031】
(電動モータ最大出力後)
大きな減速度を要するときやフェードの発生によりブレーキストロークが大きくなる。例えば図4(b)において、ブレーキペダルストロークがSt2となると、電動モータ40の出力が最大となり、それ以上ブレーキペダルBPがストロークしても電動モータ40の出力は増加しない。このとき、ブレーキペダル踏力を増加しようとすると、電動モータ40の最大出力よりもブーストピストン9への反力が大きくなりブーストピストン9は後退する。
【0032】
すなわち、電動モータ40の出力が最大となると、主ピストン8とブーストピストン9とが当接するまでは、ブレーキペダル踏力は増加しないままブレーキストロークが増加するため(St2〜St3)、ドライバに違和感を与える虞がある。電動モータ40の最大出力を十分に大きくすれば、上記の問題は生じないが、電動モータ40の最大出力を大きくすると、電動モータ40の大型化やコストの増加につながる。
【0033】
そこで実施例1では、電動モータ40の出力が最大となったときに、連結機構16によって主ピストン8とブーストピストン9とを連結して一体移動可能にするようにした。
【0034】
電動モータ40の出力が最大となった後においては、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→リターンへと移行する。
【0035】
ステップS5において、連結機構16に連結指令信号出力すると主ピストン8とブーストピストン9とが一体にストロークする。そのため、マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧の増加は電動モータ40の出力が最大となる前と同様となり、主ピストン8に作用する反力や減速度も増加する。
【0036】
そのため、図4(a)に実線で示すように電動モータ40が最大出力となった後にも、ブレーキペダルストロークが急激に増加することない。したがって、ドライバへ与える違和感を抑制することができる。
【0037】
また、連結機構16を電磁石により構成したため、主ピストン8とブーストピストン9とを連結するときにのみ電磁石に電流を流すため、電力消費を抑制することができる。
【0038】
[実施例1の効果]
次に実施例1の効果について、以下に列記する。
【0039】
(1)ブレーキペダルBPに連結された主ピストン8と、電動モータ40により推力を発生するブーストピストン9と、主ピストン8および/またはブーストピストン9の作動により液圧を発生させるマスタシリンダ2と、電動モータ40の出力が最大になったことを判断する電動モータ最大出力判断部50bと、電動モータ40の出力が最大となったときに、主ピストン8とブーストピストン9とを一体移動可能に連結可能な連結機構16と、を設けた。
よって、電動モータ40が最大出力となった後にも、ブレーキペダルストロークが急激に増加することなく、ドライバへ与える違和感を抑制することができる。
【0040】
(2)連結機構16を電磁石により構成した。よって、主ピストン8とブーストピストン9とを連結するときにのみ電磁石に電流を流すため、電力消費を抑制することができる。
【0041】
(3)電動モータ40の出力が最大となったときに、ブレーキペダルBPへの踏力によりマスタシリンダ2に液圧を発生させる主ピストン8と、電動モータ40の推力によりマスタシリンダ2に液圧を発生させるブーストピストン9とを一体移動するようにした。
よって、電動モータ40が最大出力となった後にも、ブレーキペダルストロークが急激に増加することなく、ドライバへ与える違和感を抑制することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、実施例2の電動ブレーキ倍力装置1について説明する。以下では、実施例1と同じ構成については、同一の符号を付して説明を省略する。実施例1では連結機構16を電磁石によって構成したが、実施例2ではブーストピストン9の大径中空部9bの内周面に係合孔9eを形成し、主ピストン8の大径部8bに係合孔9eと係合する係合部16aを設けた点で異なる。
【0043】
[電動ブレーキ倍力装置の構成]
図5は実施例2の電動ブレーキ倍力装置1のシステム図であり、図6は連結機構16の拡大図である。
【0044】
連結機構16は、係合部16aと、磁石16bと、コイル16cと、バネ16dとから有している。
係合部16aは、ブーストピストン9の大径中空部9bの内周面に設けた係合孔9eに係合可能に形成している。バネ16dは、係合部16aを係合孔9eと係合する方向に付勢している。磁石16bは、係合部16aを係合孔9eから離間する位置に吸引している。
【0045】
コイル16cの非通電時には、図6(a)に示すように、バネ16dによる係合部16aへの付勢力に対して、磁石16bによる係合部16aの吸引力を強く設定する。そのため、コイル16cの非通電時には係合部16aと係合孔9eとは非係合状態となる。
【0046】
コイル16cは、通電すると磁石16bの磁力を打ち消す方向に磁力を発生する。コイル16cの通電時には、図6(b)に示すように、磁石16bが係合部16aを吸引する力が低下し、バネ16dによる係合部16aへの付勢力に対して、磁石16bによる係合部16aの吸引力を弱くなるように設定している。そのため、コイル16cの通電時には係合部16aと係合孔9eとは係合状態となる。
【0047】
[実施例2の効果]
次に実施例2の効果について、以下に列記する。
【0048】
(4)連結機構16を、ブーストピストン9に形成した係合孔9eと、主ピストン8に設けた係合孔9eと係合する係合部16aとから構成した。
係合部16aが係合孔9eに係合することで、確実に主ピストン8とブーストピストン9を連結することができる。
【0049】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1または実施例2に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1または実施例2に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0050】
なお実施例1または実施例2において、電動モータ最大出力判断部50bは最大出力判断手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の電動ブレーキ倍力装置のシステム図である。
【図2】実施例1のコントロールユニットの制御ブロック図である。
【図3】実施例1のコントロールユニットの制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1のブレーキペダルストロークに対する各要素の関係を示すグラフである。
【図5】実施例2の電動ブレーキ倍力装置のシステム図である。
【図6】実施例2の連結機構の拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 電動ブレーキ倍力装置
2 マスタシリンダ
8 主ピストン
9 ブーストピストン
9e 係合孔
16 連結機構
16a 係合部
40 電動モータ
50 コントロールユニット
50b 電動モータ最大出力判断部(最大出力判断手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルからの入力により作動する主ピストンと、
電動モータにより推力を発生するブーストピストンと、
前記第主ピストンおよび/または前記ブーストピストンの作動により液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記電動モータの出力が最大になったことを判断する最大出力判断手段と、
前記電動モータの出力が最大となったときに、前記主ピストンと前記ブーストピストンとを一体移動可能に連結可能な連結機構と、
を設けたことを特徴とする電動ブレーキ倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ倍力装置において、
前記連結機構を電磁石により構成したことを特徴とする電動ブレーキ倍力装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ブレーキ倍力装置において、
前記連結機構は、前記主ピストンまたは前記ブーストピストンの一方に設けた係合孔と、他方に設けた前記係合孔と係合する係合部とから構成することを特徴とする電動ブレーキ倍力装置。
【請求項4】
ブレーキペダルへの踏力によりマスタシリンダに液圧を発生させる主ピストンと、電動モータの推力によりマスタシリンダに液圧を発生させるブーストピストンとを備え、前記電動モータの出力が最大となったときに、前記主ピストンとブースとピストンとを一体移動するようにしたことを特徴とする電動ブレーキ倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−208524(P2009−208524A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51444(P2008−51444)
【出願日】平成20年3月1日(2008.3.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】