説明

電動ポンプユニット

【課題】 軸受装置の軸受支持剛性を高め、モータ軸およびモータロータの傾きを低減できる電動ポンプユニットを提供する。
【解決手段】 ポンプ本体6が、ポンプハウジング8と、ポンプハウジング8の前端側に設けられたポンプレート9とよりなる。ポンプハウジング8の後端側に、ポンプ駆動用電動モータ4を内蔵したモータハウジング7が固定されている。モータ軸18を支持する軸受装置17は、ポンププレート9後面に形成された有底穴9b内に配されてモータ軸18の前端部を支持する第1軸受21と、ポンプハウジング8に形成されてモータハウジング7内にのびる円筒状の軸受保持部15の内側に配されてモータ軸18の中間部を支持する第2軸受22とを有している。ポンプロータ12は、第1軸受21と第2軸受22との間に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば自動車のトランスミッション(変速機)などに油圧を供給する油圧ポンプとして使用される電動ポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションには油圧ポンプにより油圧が供給されるが、省エネルギなどの観点から停車時にエンジンを停止するいわゆるアイドルストップ(アイドリングストップ)を行う自動車では、アイドルストップ時にもトランスミッションへの油圧供給を確保するために、電動油圧ポンプが使用されるようになっている。
【0003】
自動車のトランスミッション用電動油圧ポンプは、車体の限られたスペースに搭載されるため、コンパクト化が要求され、また、軽量化およびコスト低減も要求される。このような要求に応えるため、ポンプ、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータのコントローラが共通のユニットハウジング内に組み込まれた電動ポンプユニットが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
このような従来の電動ポンプユニットでは、ポンプを構成するポンプ本体の後側にモータハウジングが連結され、モータハウジング内に形成された密閉状のモータ室に電動モータおよびコントローラが内蔵されている。電動モータはモータ室内の前側(ポンプ本体側)に配置され、電動モータの後端面にコントローラの基板が固定されている。そして、基板には、コントローラを構成するコンデンサ、FETなどの複数の電装部品(電気部品および電子部品)が取り付けられている。
【0005】
電動モータは、軸受装置により支持されたポンプ駆動モータ軸の後側の自由端部に固定されたモータロータと、モータハウジングに固定されたモータステータとを備えている。ポンプ本体の内部に、ポンプ室が形成されている。ポンプ本体には、モータハウジング内にのびる円筒状の軸受保持部が形成され、この軸受保持部の内側にモータ軸の軸受装置が設けられている。モータ軸の前部は、ポンプ室内に進入し、前側の自由端部にポンプのポンプロータが固定されている。ポンプが内接歯車ポンプの場合、内側ポンプロータであるインナギヤがモータ軸の前端部に固定される。
【0006】
軸受装置は、軸方向に並べて配置された2個の単列深みぞ玉軸受を備えている。ポンプ本体の軸受保持部内には、ポンプ室と軸受装置との間を密封するオイルシールが設けられている。
【0007】
この電動ポンプユニットでは、小型化を図るため、軸受装置の2個の転がり軸受を隣接させている。これにより、モータ軸は、モータロータ側で支持されて、ポンプロータ側が自由端となっている片持ち支持とされている。また、コスト低減を図るため、2個の転がり軸受を単列深みぞ玉軸受とし、さらに、組立コスト削減のため、玉軸受を軸受保持部とモータ軸に対してすきまばめとしている。
【0008】
ポンプが内接歯車ポンプの場合、インナギヤと外側ポンプロータであるアウタギヤのかみ合い部分に対応するポンプハウジングの対称位置に、油吸入ポートと油吐出ポートが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−116914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来の電動ポンプユニットでは、ポンプの作動時、ポンプ室の油吸入ポートは低圧であるが、油吐出ポートは高圧になる。このため、インナギヤが固定された片持ち支持のモータ軸の前端部(ポンプハウジング側端部)に径方向の力が作用する。前記のように、軸受装置の2個の転がり軸受が並べて配置された単列深みぞ玉軸受で、すきまばめであるから、軸受支持剛性が低く、モータ軸に傾きが発生する。モータ軸の傾きにより、インナギヤが傾き、モータハウジングに接触した状態で回転する。このため、騒音が発生したり、モータロータおよびモータハウジングに摩耗が発生したりするおそれがある。
【0011】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、軸受装置の軸受支持剛性を高め、モータ軸およびモータロータの傾きを低減できる電動ポンプユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による電動ポンプユニットは、流体の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体が、ポンプロータを収容したポンプ室が形成されたポンプハウジングと、前記ポンプハウジングの一端側に設けられたポンプレートとを備え、前記ポンプハウジングの他端側に、ポンプ駆動用電動モータを内蔵したモータハウジングが固定され、前記電動モータが、軸受装置により支持されて前記ポンプロータを回転駆動するモータ軸と、前記モータ軸のモータハウジング側端部に固定されたモータロータと、前記モータハウジングに固定されたモータステータとを備えている電動ポンプユニットにおいて、前記軸受装置は、前記ポンププレートに形成された有底穴内に配されて前記モータ軸のポンプハウジング側端部を支持する第1軸受と、前記ポンプハウジングに形成されて前記モータハウジング内にのびる円筒状の軸受保持部の内側に配されて前記モータ軸の中間部を支持する第2軸受とを有し、前記ポンプロータは、前記第1軸受と前記第2軸受との間に配されていることを特徴とするものである。
【0013】
従来自由端であったモータ軸のポンプハウジング側端部が第1軸受で支持されることで、その分、軸受支持剛性が高くなる。それにより、モータ軸およびポンプロータの傾きを減少させることができる。
【0014】
また、モータ軸の配置空間としては従来利用されていなかったポンププレートに、第1軸受の配置空間機能が付与されることで、軸方向の寸法を変更することなく、第1軸受を設けることができる。これにより、軸方向の寸法を変更することなく、軸受支持剛性を高めることができる。
【0015】
第1軸受は、すべり軸受であることが好ましい。
【0016】
第1軸受がブシュのようなすべり軸受とされることで、小スペースへの設置が可能となり、ポンププレートに、吸入ポート、吐出ポート、吸入穴、吐出穴などの設置箇所を容易に確保することができる。
【0017】
ポンプロータは、アウタギアとインナギアとで構成され、インナギアは、モータ軸に軸方向および径方向移動が規制される状態で固定されており、第2軸受は、内輪、外輪および転動体を備えた転がり軸受であって、内輪がモータ軸にしまりばめされていることが好ましい。
【0018】
軸方向および径方向移動が規制される状態でインナギアがモータ軸に固定されることにより、モータ軸のガタが抑制される。また、モータ軸の中間部を支持している第2軸受の内輪がモータ軸にしまりばめされていることにより、軸受支持剛性をさらに高くすることができる。これにより、ポンプロータやモータロータの振れを抑制することができる。
【0019】
内輪がモータ軸にしまりばめされていることに加えて、第2軸受の外輪がポンプハウジングの軸受保持部にしまりばめされていることにより、軸受支持剛性をさらに高くすることができる。
【0020】
第2軸受の外輪は、すきまばめとすることができ、この場合、第1軸受が円筒状金属部材で構成され、モータ軸が第1軸受にすきまばめされるとともに、第2軸受の外輪が前記軸受保持部にすきまばめされており、モータ軸の軸心が金属部材の軸心に対して吐出ポート側に寄せて組み付けられていることが好ましい。
【0021】
すなわち、モータ軸の先端部(第1軸受への嵌め合わせ部)が第1軸受の中央に位置するように組み立てるのではなく、吐出ポート側にモータ軸の先端部が寄るように、ポンププレートに対して、ポンプハウジングを寄せて組み付けることが好ましく、このようにすると、ポンプロータの回転駆動時に生じる低周波音の音圧を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の電動ポンプユニットによれば、上記のように、軸受装置の軸受支持剛性を高めて、モータ軸およびポンプロータの傾きを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、この発明の第1実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、この発明の第2実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。
【図3】図3は、この発明の第3実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。
【図4】図4は、この発明の第1実施形態の電動ポンプユニットの組付け方の好ましい1例を模式的に示す図である。
【図5】図5は、図4に示す組付け方の作用効果を説明する図である。
【図6】図6は、図4に示す組付け方と比較される組付け方の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、この発明を自動車のトランスミッション用電動ポンプユニットに適用した実施形態について説明する。
【0025】
図1は、この発明の第1実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。以下の説明において、図1の左側を前、右側を後とする。
【0026】
電動ポンプユニット(1)は、ユニットハウジング(2)内に、油の吸入および吐出を行うポンプ(3)、ポンプ駆動用電動モータ(4)ならびに電動モータ(4)のコントローラ(5)が一体に組み込まれたものである。この例では、ポンプ(3)は内接歯車ポンプ、モータ(4)は3相巻線を有するセンサレス制御DCブラシレスモータである。
【0027】
ユニットハウジング(2)は、ポンプ(3)のポンプ本体(6)ならびに電動モータ(4)およびコントローラ(5)を内蔵したモータハウジング(7)よりなる。
【0028】
ポンプ本体(6)は、後側のポンプハウジング(8)と前側のポンププレート(9)よりなる。ポンプハウジング(8)は、前後方向と直交する方向に広がりを持つ厚肉板状のものであり、その中心に、前部が開口したポンプ室(10)が形成されている。ポンプハウジング(8)の前面に、ポンププレート(9)がOリング(47)を介して固定され、ポンプ室(10)の前面が塞がれている。ポンプ室(10)内に、外側ポンプロータであるアウタギヤ(11)が回転自在に収容され、アウタギヤ(11)の内側に、これとかみ合う内側ポンプロータであるインナギヤ(12)が配置されている。ポンプハウジング(8)およびポンププレート(9)は、たとえば、アルミニウム合金製である。
【0029】
モータハウジング(7)は、円筒状の合成樹脂製モータケース(13)と、モータケース(13)の後端に固定された円板状の蓋(14)とからなる。モータケース(13)の前端が、Oリング(48)を介してポンプハウジング(8)の後面に固定されている。ポンププレート(9)、ポンプハウジング(8)およびモータケース(13)は、それらの外周から径方向外側に突出するように一体に形成された複数の連結部(9a)(8a)(13a)の部分において、ボルト(16)により互いに固定されている。モータケース(13)の後端開口が、蓋(14)により塞がれている。
【0030】
電動モータ(4)は、前後方向にのびるポンプ駆動軸であるモータ軸(18)を有している。モータ軸(18)は、軸受装置(17)により支持されている。軸受装置(17)は、モータ軸(18)の前端部(ポンプハウジング側端部)を支持する第1軸受(21)と、モータ軸(18)の前後の中間部分を支持する第2軸受(22)とよりなる。
【0031】
第2軸受(22)は、前後に隣接する2個の深みぞ玉軸受(51)(52)からなる。各深みぞ玉軸受(51)(52)は、グリース潤滑の密封型とされており、内輪(51a)(52a)、外輪(51b)(52b)、複数の玉(転動体)(51c)(52c)および1対のシール(51d)(52d)を有している。
【0032】
モータ軸(18)は、段付き状に形成されている。モータ軸(18)の前部は、ポンプハウジング(8)の中央部を貫通してポンプ室(10)内に進入し、その前端部がポンププレート(9)の後面に設けられた有底穴(9b)に嵌め入れられている。
【0033】
第1軸受(21)は、円筒状のブシュ(円筒状金属部材)とされて、ポンププレート(9)後面の有底穴(9b)にしまりばめで固定されている。モータ軸(18)の前端部は、第1軸受(21)内にすきまばめで嵌め入れられている。これにより、第1軸受(21)(ブシュ)の内周面とモータ軸(18)の前端部外周面とが摺動可能とされ、すべり軸受が構成されている。
【0034】
ポンプハウジング(8)の後端面の中心に、モータケース(13)より小径の円筒状の軸受保持部(15)が一体に形成されて、モータケース(13)内にのびている。
【0035】
各深みぞ玉軸受(51)(52)の内輪(51a)(52a)は、モータ軸(18)にしまりばめされ、各深みぞ玉軸受(51)(52)の外輪(51b)(52b)は、軸受保持部(15)にすきまばめされている。
【0036】
第2軸受(22)とインナギヤ(12)との間に、軸受保持部(15)とモータ軸(18)の間を密封するオイルシール(20)が配置されている。
【0037】
インナギヤ(12)は、ポンププレート(9)後面に接するように、モータ軸(18)の前端部近くにしまりばめされている。このしまりばめ(圧入)により、軸方向および径方向移動が規制される状態でインナギヤ(12)がモータ軸(18)に固定されている。
【0038】
軸受保持部(15)より後方に突出したモータ軸(18)の後端部(モータハウジング側端部)に、モータ(4)を構成するモータロータ(23)が固定されている。モータロータ(23)は、円筒状のロータ本体(24)の外周部に合成樹脂製の永久磁石保持部材(25)が固定状に設けられ、保持部材(25)を周方向に等分する複数箇所にセグメント形状の永久磁石(26)が保持されたものである。
【0039】
モータロータ(23)に対向するモータケース(13)の内周に、モータ(4)を構成するモータステータ(27)が固定されている。ステータ(27)は、積層鋼板よりなるステータコア(28)にインシュレータ(合成樹脂製絶縁体)(29)が組み込まれ、インシュレータ(29)の部分にコイル(30)が巻きつけられたものである。この例では、ステータ(27)は、モータケース(13)の内周部に一体にモールドされている。
【0040】
ロータ本体(24)は、モータステータ(27)に対向する円筒部(24a)と、モータ軸(18)の後端から半径方向外方にのびて円筒部(24a)に一体化されたフランジ部(24b)とよりなり、横断面形状がコの字状とされている。
【0041】
インシュレータ(29)の後端に、コントローラ(5)の基板(31)が固定され、基板(31)に、コントローラ(5)を構成する部品(32)が取り付けられている。図1には基板(31)の前面に取り付けられた部品(32)が1個だけ示されているが、部品は基板(31)の前面および後面の少なくとも一方の所定位置に配置される。図1に示された部品(32)は、たとえば電解コンデンサである。
【0042】
ステータコア(28)は、環状部(28a)の内周を周方向に等分する複数箇所に径方向内側に突出した極部(歯部)(28b)が一体に形成されたものである。各極部(28b)の先端部は周方向両側にのび、その内周面は1つの円筒面を形成している。
【0043】
インシュレータ(29)は、前後1対の半体(33)(34)よりなる。各半体(33)(34)は、たとえばPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)などの合成樹脂により成型され、環状部(28a)の外周面と極部(28b)の内周面を除くステータコア(28)の表面を覆うように、ステータコア(28)に前後両側から組み込まれている。各半体(33)(34)には、ステータコア(28)の極部(28b)の内周面を除く部分を覆うコイル装着部(33a)(34a)が形成されている。ステータコア(28)の各極部(28b)において、両半体(33)(34)のコイル装着部(33a)(34a)で覆われた部分に、コイル(30)が巻かれている。後側半体(34)のコイル装着部(34a)の径方向外側の部分を周方向に等分する複数箇所に、後方にのびた基板用突起部(34b)が一体に形成されている。各突起部(34b)の後端部の内側に、内周にめねじが形成された金属製めねじ部材(35)が埋め込まれている。
【0044】
モータケース(13)は、型を用いてたとえばPA66(ポリアミド66)などの合成樹脂をステータ(27)の外周側の部分にモールドすることにより、ステータ(27)と一体化されている。ステータコア(28)の極部(28b)の内周面、インシュレータ(29)のコイル装着部(33a)(34a)の内周面および突起部(34b)の後端面を除いて、ステータ(27)の表面がモータケース(13)で覆われている。モータケース(13)の外周に、複数のピン(36)を備えたコネクタ(37)が一体に形成されている。
【0045】
蓋(14)は、合成樹脂製で、熱溶着などの適宜な手段により、モータケース(13)の後端に固定されている。
【0046】
コントローラ(5)の基板(31)は、インシュレータ(29)の突起部(34b)のめねじ部材(35)にねじはめられたねじ(39)によりインシュレータ(29)に固定されている。図示は省略したが、インシュレータ(29)とモータケース(13)の成型体には複数のバスバーが組み込まれており、これらのバスバーを用いて、ステータ(27)のコイル(30)が互いに電気的に接続されるとともに、基板(31)に電気的に接続されている。コネクタ(37)のピン(36)も、基板(31)に電気的に接続されている。
【0047】
ポンプ(3)のインナギヤ(12)とアウタギヤ(11)のかみ合い部分(この例では下側のかみ合い部分)に対応するポンプハウジング(8)とポンププレート(9)の対向壁に、油吸入ポート(40)(41)が形成されている。ポンプ(3)のインナギヤ(12)とアウタギヤ(11)のかみ合い部分(この例では上側のかみ合い部分)に対応するポンプハウジング(8)とポンププレート(9)の対向壁に、油吐出ポート(42)(43)が形成されている。ポンププレート(9)には、油吸入ポート(41)に連通する油吸入穴(44)および油吐出ポート(43)に連通する油吐出穴(45)が形成されている。ポンプ室(10)に面するポンプハウジング(8)の壁に、モータ軸(18)が挿通されている穴(19)と油吸入ポート(40)を連通する油逃がしみぞ(46)が形成されている。
【0048】
電動モータ(4)によりポンプ(3)が駆動されて、インナギヤ(12)およびアウタギヤ(11)が回転するとき、油吸入ポート(40)(41)は低圧で、油吐出ポート(42)(43)は高圧になる。このため、インナギヤ(12)は、径方向(この例では下向き)の力を受ける。
【0049】
上記の実施形態では、第2軸受(22)によってモータ軸(18)の前後の中間部分が支持されているとともに、モータ軸(18)の前端部が第1軸受(21)により支持されているので、軸受支持剛性が向上し、インナギヤ(12)に油圧による径方向の力が作用した際であっても、モータ軸(18)が傾くことが防止され、これにより、ポンプ(3)の倒れを抑制でき、音や摩耗を低減できる。
【0050】
また、第1軸受(21)がブシュのようなすべり軸受とされることで、小スペースへの設置が可能となり、ポンププレート(9)に、油吸入ポート(41)、油吐出ポート(43)、油吸入穴(44)、油吐出穴(45)などの設置箇所を容易に確保することができる。
【0051】
また、インナギヤ(12)がモータ軸(18)にしまりばめされているので、モータ軸(18)の軸方向移動が規制されて、ガタが抑制される。したがって、各深みぞ玉軸受(51)(52)の外輪(51b)(52b)を軸受保持部(15)にすきまばめにしてもよく、外輪(51b)(52b)間にサークリップを設ける必要もない。このため、軸受(51)(52)の組込みが容易となり、組立性が向上する。ただし、軸受支持剛性をさらに向上させるために、各深みぞ玉軸受(51)(52)の外輪(51b)(52b)を軸受保持部(15)にしまりばめすることもできる。
【0052】
図2は、この発明の第2実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。この第2実施形態は、軸受装置を含む回転部分の構成が第1実施形態と相違しており、以下では、第1実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
この実施形態では、電動モータ(4)のモータ軸(60)を支持する軸受装置(61)は、モータ軸(60)の前端部を支持する第1軸受(63)と、モータ軸(60)の前後の中間部分を支持する第2軸受(64)とよりなり、第1軸受(63)が第1実施形態と同じブッシュとされ、第2軸受(64)は、1個の深みぞ玉軸受とされている。
【0054】
モータ軸(60)は、第1実施形態のものが段付き状に形成されているのに対し、円柱状とされている。また、モータ軸(60)の軸方向長さは、第2軸受(64)が1個の深みぞ玉軸受とされたことから、第1実施形態ものに比べて短くなされている。
【0055】
ポンプハウジング(8)に一体に形成されている軸受保持部(62)は、前側の厚肉部(62a)と、後側の薄肉部(62b)とよりなる。厚肉部(62a)は、薄肉部(62b)よりも内径が小さくかつ外径が大きいものとされている。厚肉部(62a)と薄肉部(62b)との境界部分内周には、内向きのフランジ部(62c)が設けられている。
【0056】
厚肉部(62a)の内周に、第2軸受(64)が配置され、薄肉部(62b)の内周に、軸受保持部(62)とモータ軸(60)の間を密封するオイルシール(65)が配置されている。オイルシール(65)のしめ代は、第1実施形態のものに比べて若干小さくなされている。
【0057】
第2軸受(64)は、第1軸受(63)との間にインナギヤ(12)(ポンプロータ)を挟むように配置されている。第2軸受(64)は、内輪(64a)、外輪(64b)および複数の玉(転動体)(64c)を有する開放型深みぞ玉軸受とされて、内輪(64a)がモータ軸(60)の中間部にしまりばめされ、外輪(64b)が軸受保持部(62)の厚肉部(62a)にしまりばめされている。
【0058】
モータ軸(60)は、その前端寄りの部分がノックピン(66)によってインナギヤ(12)と結合されている。ノックピン(66)は、モータ軸(60)とインナギヤ(12)とが一体で回転しかつ軸方向に相対移動しないように結合するための結合部材であり、これにより、軸方向および径方向移動が規制される状態でインナギヤ(12)がモータ軸(60)に固定されている。結合部材としては、ノックピン(66)に代えて、スパイロールピンなどのピンやキーを使用することもできる。
【0059】
モータロータ(67)は、モータ軸(60)の後端部(モータハウジング側端部)に固定されており、モータステータ(27)は、第1実施形態と同じ位置に設けられている。モータロータ(67)のロータ本体(68)は、モータステータ(27)に対向する円筒部(68a)と、モータ軸(61)の後端から半径方向外方にのびて円筒部(68a)に一体化されたフランジ部(68b)とよりなる。モータ軸(60)の軸方向長さが第1実施形態ものに比べて短くなされていることにより、ロータ本体(68)は、フランジ部(68b)が円筒部(68a)の軸方向略中央部に固定された形状(横断面形状がI型)とされている。
【0060】
この第2実施形態では、第1実施形態と同様、第2軸受(64)によってモータ軸(60)の前後の中間部分が支持されているとともに、モータ軸(60)の前端部が第1軸受(63)により支持されているので、軸受支持剛性が向上し、インナギヤ(12)に油圧による径方向の力が作用した際であっても、モータ軸(60)が傾くことが防止され、これにより、ポンプ(3)の倒れを抑制でき、音や摩耗を低減できる。しかも、第2軸受(64)の内外輪(64a)(64b)がしまりばめであるため、軸受支持剛性がさらに向上している。
【0061】
また、ノックピン(66)によってモータ軸(60)とインナギヤ(12)とが結合されているので、モータ軸(60)の軸方向移動が規制されて、ガタが抑制される。
【0062】
また、ロータ本体(68)のフランジ部(68b)が円筒部(68a)の軸方向略中央部に固定されているので、フランジ部(24b)が円筒部(24a)の後端部に固定されている第1実施形態のものに比べてバランスがよく、モータロータ(67)の振れを防止することができる。
【0063】
軸受保持部(62)は、モータロータ(67)との干渉を避けるために、その後部が薄肉部(62b)とされている。そして、モータロータ(67)と干渉しない前部が厚肉部(62a)とされている。第2軸受(64)の外輪(64b)は厚肉部(62a)にしまりばめされていることから、軸受保持部(62)と外輪(64b)とのしめ代を十分にとることができる。したがって、別途の抜け対策(サークリップを使用しての軸方向移動の防止など)を実施する必要がない。また、内向きフランジ部(62c)により剛性が上がることで、オイルシール(65)を圧入するときの軸受保持部(62)の変形が防止され、しめ代が安定する。
【0064】
図3は、この発明の第3実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。この第3実施形態は、オイルシールを含めた軸受装置の構成が第2実施形態と相違しており、以下では、第1および第2実施形態と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
この実施形態の軸受装置(71)は、第1および第2実施形態と同様に、第1軸受(73)および第2軸受(74)よりなる。
【0066】
ポンプハウジング(8)に一体に形成されている軸受保持部(72)は、前側の厚肉部(72a)と、後側の薄肉部(72b)とよりなり、厚肉部(72a)は、内径が薄肉部(72b)と等しく、外径が薄肉部(72b)より大きいものとされている。厚肉部(72a)の前端部には、内向きのフランジ部(72c)が設けられている。厚肉部(72a)の内側に、オイルシール(75)が配置され、薄肉部(72b)の内側に、第2軸受(74)が配置されている。
【0067】
第1軸受(73)は、第1および第2実施形態と同様のブシュとされ、第2軸受(74)は、内輪(74a)、外輪(74b)、複数の玉(転動体)(74c)および1対のシール(74d)を有するグリース潤滑の密封型深みぞ玉軸受とされている。
【0068】
第2軸受(74)は、第1軸受(73)との間にインナギヤ(12)(ポンプロータ)およびオイルシール(75)を挟むように配置されている。第2軸受(74)は、内輪(74a)がモータ軸(60)の中間部にしまりばめされ、外輪(74b)が軸受保持部(72)の薄肉部(72b)にしまりばめされている。
【0069】
この第3実施形態のものでは、オイルシール(75)と第2軸受(74)との位置関係が、第2実施形態と逆にされており、これにより、第2軸受(74)がモータ軸(60)の後端部近くに配置されて、第2実施形態に比べて、第1軸受(73)と第2軸受(74)との距離が大きくなっている。これにより、軸受支持剛性がさらに高められている。
【0070】
モータロータ(67)は、第2実施形態と同様で、横断面形状がI型とされており、モータロータ(67)の振れを防止する点で有利となっている。
【0071】
上記第1実施形態において、第2軸受(22)を構成している2個の深みぞ玉軸受(51)(52)の外輪(51b)(52b)とポンプハウジング(8)の軸受保持部(15)とは、すきまばめとされており、また、第1軸受(21)とモータ軸(18)の先端部ともすきまばめとされている。この場合の好ましい組付け方の1例を図4に示す。
【0072】
図4において、モータ軸(18)の軸心(18a)が第1軸受(21)の軸心(21a)に対して吐出ポート側に寄せて組み付けられている。なお、すきまばめで形成される隙間の大きさは、実際には数十μm程度(例えば、第1軸受(21)側で20μm程度、第2軸受(22)側で10μm程度)であるが、図4においては、隙間を誇張して模式的に示している。
【0073】
上記の組付けは、通常、図6(a)に示すように、モータ軸(18)の先端部が吸入ポート(41)と吐出ポート(43)との中央に位置するように、第1軸受(21)の軸心(21a)とモータ軸(18)の軸心(18a)とが一致する組み方とされるのに対し、図4および図5(a)に示すように、モータ軸(18)の先端部を吐出ポート側に寄せて組むようになされているもので、これにより、油圧作用時には、吸入ポート側油圧<吐出ポート側油圧となるのに対し、油圧作用前における隙間が、吸入ポート側隙間>吐出ポート側隙間となっている。
【0074】
この発明の電動ポンプユニット(1)におけるポンプ(3)は、車両がアイドリングストップして、エンジンが停止した際に、動作するポンプであり、ポンプ(3)以外で、駆動している部品が無く、ポンプ(3)から発生する音圧が大きいと、運転者に不快感を与える可能性がある。よって、ポンプ(3)が発生する音のレベルの低減が必要となっている。
【0075】
図6(a)のようにして組むと、油圧が作用していない状態で、モータ軸(18)の軸心(18a)と第1軸受(21)の軸心(21a)とが一致することになり、油圧作用時には、吐出ポート側が高圧となることで、図6(b)に示すように、モータ軸(18)の先端部が吸入ポート側へ押される。これにより、吸入ポート側において、第1軸受(21)とモータ軸(18)とが摺動することがあり、この摺動音が低周波(281〜2245Hz)音圧を増加させるおそれがある。
【0076】
一方、図5(a)のようにして組むと、油圧が作用していない状態で、予め、吐出ポート側に寄っていることになり、油圧作用時には、吐出ポート側が高圧となることで、図5(b)に示すように、モータ軸(18)の先端部分が吸入ポート側へ押され、この際、隙間が小さかった吐出ポート側において、隙間が増加する。この隙間が10μm以上あれば、油膜が形成され、モータ軸(18)と第1軸受(21)とは、互いに擦れ合うことなく回転する。これにより、モータ軸(18)と第1軸受(21)との間の摺動音に起因する低周波(281〜2245Hz)音圧を低減することができる。
【0077】
図5(a)に示すような隙間を得るには、例えば、5〜30Nの荷重をモータ軸(18)にかけて吐出ポート側に寄せるようにすればよい。
【0078】
このような組付けとすることで、低周波音を低減できるほか、組立て位置のバラツキ低減により、音圧の変動が抑えられ、また、第1軸受(21)とモータ軸(18)との擦れが低減することで、耐久性を向上することができる。
【0079】
上記の各実施形態では、軸受装置(17)(61)(71)の第1軸受(21)(63)(73)がすべり軸受としてのブッシュ、第2軸受(22)(64)(74)が深みぞ玉軸受とされているが、これに限定されるものではなく、第1軸受は、転がり軸受としてもよく、第2軸受は、深みぞ玉軸受以外の転がり軸受としてもよい。第1軸受を転がり軸受とする場合には、針状ころ軸受が好ましい。針状ころ軸受は、例えば、円筒形状の外輪と、外輪の内径面に沿って配置される複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器とを備えているものとされて、外輪が有底穴(9b)の周壁に圧入固定される。第1軸受を玉軸受でなく針状ころ軸受とすることで、転がり軸受を使用してかつ組立性とポートのスペースを確保することが容易となる。
【0080】
電動ポンプユニットの全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0081】
また、この発明は、トランスミッション用電動ポンプユニット以外の電動ポンプユニットにも適用できる。
【符号の説明】
【0082】
(1):電動ポンプユニット、(3):ポンプ、(4):電動モータ、(6):ポンプ本体、(7):モータハウジング、(8):ポンプハウジング、(9):ポンププレート、(9b):有底孔、(10):ポンプ室、(11):アウタギヤ、(12):インナギヤ(ポンプロータ)、(15):軸受保持部、(17):軸受装置、(18):モータ軸、(21):第1軸受、(22):第2軸受、(23):モータロータ、(27):モータステータ、(51)(52):深みぞ玉軸受(転がり軸受)、(51a)(52a):内輪、(51b)(52b):外輪、(51c)(52c):玉(転動体)、(60):モータ軸、(61):軸受装置、(62):軸受保持部、(63):第1軸受、(64):第2軸受、(64a):内輪、(64b):外輪、(64c):玉(転動体)、(67):モータロータ、(71):軸受装置、(72):軸受保持部、(73):第1軸受、(74):第2軸受、(74a):内輪、(74b):外輪、(74c):玉(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体が、ポンプロータを収容したポンプ室が形成されたポンプハウジングと、前記ポンプハウジングの一端側に設けられたポンプレートとを備え、前記ポンプハウジングの他端側に、ポンプ駆動用電動モータを内蔵したモータハウジングが固定され、前記電動モータが、軸受装置により支持されて前記ポンプロータを回転駆動するモータ軸と、前記モータ軸のモータハウジング側端部に固定されたモータロータと、前記モータハウジングに固定されたモータステータとを備えている電動ポンプユニットにおいて、
前記軸受装置は、前記ポンププレートに形成された有底穴内に配されて前記モータ軸のポンプハウジング側端部を支持する第1軸受と、前記ポンプハウジングに形成されて前記モータハウジング内にのびる円筒状の軸受保持部の内側に配されて前記モータ軸の中間部を支持する第2軸受とを有し、前記ポンプロータは、前記第1軸受と前記第2軸受との間に配されていることを特徴とする電動ポンプユニット。
【請求項2】
前記第1軸受は、すべり軸受であることを特徴とする請求項1の電動ポンプユニット。
【請求項3】
前記ポンプロータは、アウタギアとインナギアとで構成され、前記インナギアは、前記モータ軸に軸方向および径方向移動が規制される状態で固定されており、前記第2軸受は、内輪、外輪および転動体を備えた転がり軸受であって、前記内輪が前記モータ軸の中間部にしまりばめされていることを特徴とする請求項1または2の電動ポンプユニット。
【請求項4】
前記第2軸受の外輪が前記軸受保持部にしまりばめされていることを特徴とする請求項3の電動ポンプユニット。
【請求項5】
前記第1軸受が円筒状金属部材で構成され、前記モータ軸が前記第1軸受にすきまばめされるとともに、前記第2軸受の外輪が前記軸受保持部にすきまばめされており、モータ軸の軸心が金属部材の軸心に対して吐出ポート側に寄せて組み付けられていることを特徴とする請求項3の電動ポンプユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64395(P2013−64395A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19831(P2012−19831)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】