説明

電動ミラー装置

【課題】2個のモータを使用した場合であっても、低消費電力であって、且つデザイン上の制約を受けることのない電動ミラー装置を提供する。
【解決手段】第1駆動モータM1によって第1調整機構が作動されてミラー12の上下方向への偏向位置が調整される。また、回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力を享受しつつもケースK(ミラーハウジング)を回動させるための回転力を生じさせない第1作動領域にあるとき、第2駆動モータM2によってミラー12の左右方向への偏向位置が調整される。そして、回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づきケースKを回動させるための回転力を生じさせる第2作動領域にあるとき、第2駆動モータM2によってケースKが通常位置と格納位置との間で回動制御される。これにより、ミラー12の上下方向及び左右方向の各偏向位置は、ミラーハウジングの回動制御と独立して調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーの上下方向及び左右方向の角度調整と、ミラーハウジングの通常位置から格納可能とした電動ミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のサイドドア等に取り付けられる電動ミラー装置は、ミラーを支持するミラーハウジング内に、該ミラーハウジングを格納位置及び通常位置に回動制御するための格納用駆動モータと、ミラーの偏向位置を調整するための2つの偏向用駆動モータを内蔵したものが知られている。この2つのミラー偏向用駆動モータのうちの一方は、ミラーの上下方向への偏向位置を調整する上下偏向用駆動モータであり、他方はミラーの左右方向への偏向位置を調整する左右偏向用駆動モータである。そして、各偏向用駆動モータは、それぞれ独立して駆動制御されるようにしている。
【0003】
また、近年、ミラーハウジングの格納及び通常位置の制御と、ミラーの左右方向への偏向位置の調整を一つの駆動モータで制御するようにした電動ミラー装置が提案されている。この電動ミラー装置では、従来の電動ミラー装置に比べて駆動モータの数を1つ減らすことができることから、部品点数を少なくする上で有利である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−238320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記電動ミラー装置では、左右偏向用駆動モータを駆動させると、ミラーハウジングもミラーと一体に回動しながらミラーの左右方向への偏向位置が調整される。このため、左右偏向用駆動モータには、ミラーの負荷に加えてさらにミラーハウジングの分の負荷が加わることから、左右偏向用駆動モータは高トルクのモータを使用する必要が生じる。この結果、モータの大型化及び消費電力の増大を招いてしまうという問題があった。また、ミラーの左右方向の偏向位置を調整すると、それに伴ってミラーハウジングも回動することから、デザイン上の制約も受けてしまう。
【0005】
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであって、2個のモータを使用した場合であっても、低消費電力であって、且つデザイン上の制約を受けることのない電動ミラー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ミラーベース上に設けられミラーを連結支持するミラーハウジングを通常位置と格納位置とに回動制御する回動制御機構と、前記ミラーの上下方向への偏向位置を調整する第1調整機構と、前記ミラーの左右方向への偏向位置を調整する第2調整機構とを備えた電動ミラー装置において、前記ミラーハウジング内にケースを備え、そのケース内に前記第1調整機構を制御して前記ミラーの上下方向への偏向位置を調整する第1駆動モータと、前記回動制御機構及び前記第2調整機構を制御して、前記ミラーハウジングの回動位置及び前記ミラーの左右方向への偏向位置をそれぞれ調整する第2駆動モータとを備え、前記回動制御機構は、前記第2駆動モータの回転駆動力を享受しつつも前記ミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせない第1作動領域と、前記第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づき前記ミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせる第2作動領域とが連続して構成されていることをその要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動ミラー装置において、前記回動制御機構は、前記ミラーベースに支持連結された固定係合部と、前記ケースに支持され前記第2駆動モータの駆動により回転するカム部材とを備え、前記カム部材は、その外周における周方向の一部に該カム部材の回転方向に沿って直線状に形成された第1係合部と、該周方向におけるその他の部分に前記第1係合部と繋がって形成された第2係合部とを有し、前記カム部材が回転することにより前記固定係合部と係合する部位が前記第1係合部と第2係合部とに連続的に切り替わるように構成され、前記第1作動領域は、前記第1係合部が前記固定係合部と係合関係にある状態で前記カム部材が回転する領域であり、前記第2作動領域は、前記第2係合部が前記固定係合部と係合関係にある状態で前記カム部材が回転する領域であることをその要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動ミラー装置において、前記第2調整機構は、前記第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づいて連続的に前記ミラーを左右方向に傾動させることをその要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動ミラー装置において、前記ミラーの左右方向への偏向位置を調整する際に前記回動制御機構が前記第2作動領域に移行できないような低トルクで前記第2駆動モータを駆動制御する制御装置を備えてなることをその要旨とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動ミラー装置において、調整された後の前記ミラーの左右方向への偏向位置を与える位置情報を検出して記憶するとともに、前記ミラーハウジングが前記格納位置から前記通常位置に回動した後に、前記ミラーの左右方向への偏向位置を、記憶した前記調整をした後のミラーの左右方向への偏向位置と一致するように前記第2駆動モータを駆動制御する制御装置を備えたことをその要旨とする。
【0011】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、第1駆動モータによって第1調整機構が作動されてミラーの上下方向への偏向位置が調整される。また、回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力を享受しつつもミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせない第1作動領域にあるとき、第2駆動モータによってミラーの左右方向への偏向位置が調整される。回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づきミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせる第2作動領域にあるとき、第2駆動モータによってミラーハウジングが通常位置と格納位置との間で回動制御される。従って、2個の駆動モータを使用して、ミラーの上下方向及び左右方向の各偏向位置をミラーハウジングの回動制御と独立して調整することができる。この結果、ミラーの左右方向への偏向位置の調整時において、第2駆動モータにはミラー調整に必要な負荷のみが加わることから、第2駆動モータの回転トルクを小さくすることが可能となる。このため、2個のモータを使用した場合であっても、電動ミラー装置の低消費電力化を図ることができる。また、ミラーの上下方向及び左右方向の各偏向位置は、ミラーハウジングと独立して調整されることから、デザイン上の制約を受けることはない。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、カム部材が回転することによりミラーベースに支持連結された固定係合部と係合する部位が第1係合部と第2係合部とに連続的に切り替わるように構成される。そして、第1作動領域は第1係合部が固定係合部と係合関係にある状態でカム部材が回転する領域であり、第2作動領域は第2係合部が前記固定係合部と係合関係にある状態で前記カム部材が回転する領域である。このため、1つのカム部材に第1係合部及び第2係合部を形成することにより第1作動領域及び第2作動領域を構成することができ、これにより、電動ミラー装置の部品点数を減らすことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、第2調整機構は第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づいて連続的にミラーを左右方向に傾動させるように構成され、ミラーハウジングの回動制御を行う第2作動領域での作動でもミラーを左右方向に傾動させるため、ミラーの左右方向への傾動を行わないようにするための構成が不要となり、第2調整機構を簡単な構成とすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、制御装置はミラーの左右方向への偏向位置を調整する際に、第1作動領域から第2作動領域に移行できないような低トルクで第2駆動モータを駆動させる。ここで、第1作動領域から第2作動領域に移行するとき、第2駆動モータにはミラーのみならずミラーハウジング全体を回動させるための負荷が加わるため、第2駆動モータを低トルクで駆動した場合、第2作動領域への移行が規制される。従って、ミラーの左右方向への偏向位置を調整する際にはミラーの左右方向への傾動のみに規制することができるため、回動制御機構に第1,第2作動領域を連続して設けるもののミラーの左右方向への偏向位置の調整のみを確実に行うことができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、ミラーハウジングが格納位置から通常位置に回動した後に、ミラーの偏向位置が調整後のミラーの偏向位置に制御される。従って、ミラーハウジングを格納位置から通常位置に回動した後に、再度、ミラーの偏向位置を調整する必要のない電動ミラー装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
従って、上記記載の発明によれば、2個のモータを使用した場合であっても、低消費電力であって、且つデザイン上の制約を受けることのない電動ミラー装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を自動車の電動ミラー装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態に係る電動ミラー装置10を車体後方よりみたときの斜視図であり、図2は、その電動ミラー装置10を車体前方よりみたときの斜視図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、電動ミラー装置10は、車両のサイドドアCに固設されたミラーベース11上に支持されている。ミラーベース11上には、ミラー12を連結支持するケースKを備えている。ケースKの外周には、図示しないミラーハウジングがケースKを覆うようにしてケースKに対して固定されている。そして、電動ミラー装置10は、そのケースKの下側部にて前記ミラーベース11に連結されている。
【0019】
詳述すると、ミラーベース11から突出形成された支持軸13に対してケースKの基端部側の底壁部が回動可能に支持連結されている。そして、ケースKは、支持軸13の中心軸を中心に回動し、図3に示す通常位置(使用位置)と、図6に示す格納位置との間を回動するようになっている。
【0020】
ミラー12とケースKは、連結部材Hによって連結されている。連結部材Hは、その一端がボールジョイントを介してミラー12の裏面12aの略中央部に連結されるとともに、他端がケースKに連結されている。そして、連結部材Hによってミラー12はケースKに対して上下方向及び左右方向に傾動可能に支持連結されるようになっている。
【0021】
ケースKの内壁には、第1駆動モータM1が固設されている。第1駆動モータM1の出力軸は、第1ウォーム軸14で構成され、その第1ウォーム軸14は、第1ウォームギアG1と噛合している。第1ウォームギアG1は、ケースKに対して回転可能かつ回転中心軸線に沿って移動不能に支持されている。従って、第1ウォームギアG1は、第1駆動モータM1が正逆回転すると、支持された箇所で正逆回転する。
【0022】
第1ウォームギアG1は、その中心部が連結部材HとケースKとの連結位置の直上位置となるように配置され、その中心部にはネジ孔が形成され、そのネジ孔にはスクリューネジ15が螺合されている。そのスクリューネジ15は、その一端が継ぎ手(図示せず)を介してミラー12の裏面12aに対して上下方向に傾動可能かつ回転不能に連結されている。従って、第1ウォームギアG1が第1駆動モータM1によって正逆回転すると、スクリューネジ15は第1ウォームギアG1の回転力にて、ケースKに対して相対移動する。詳述すると、スクリューネジ15は、ミラー12の裏面12aの中心部(連結部材H)を傾動中心に、ミラー12を前方(ケースKから離間する方向)へ押し出したり、後方(ケースKに接近する方向)へ引き戻したりする。その結果、第1駆動モータM1を正逆回転させることによって、ミラー12はケースKに対して上下方向に傾動するようになっている。
【0023】
そして、本実施形態では、第1駆動モータM1、第1ウォーム軸14、第1ウォームギアG1、スクリューネジ15とで第1調整機構を構成する。
ケースKの内壁には、第2駆動モータM2が固設されている。第2駆動モータM2の出力軸は、第2ウォーム軸21で構成され、その第2ウォーム軸21は、第2ウォームギアG2と噛合している。第2ウォームギアG2は、ケースKに対して回転可能に支持されており、第2駆動モータM2が正逆回転すると、第2ウォーム軸21を介して正逆回転する。また、第2ウォームギアG2は、ケースKの内壁にその基端部が固着された支軸S1によって回転可能に支持された左右調整ギアG3と噛合している。従って、左右調整ギアG3は、第2駆動モータM2が正逆回転すると、第2ウォーム軸21及び第2ウォームギアG2を介して正逆回転する。
【0024】
左右調整ギアG3のミラー12側の端面には、支軸S1の軸直交平面に対して傾斜するカム面22が形成されている。カム面22には、ミラー12の裏面12aに連結されたスライドシャフト23の先端が支軸S1の軸線からずれた位置で接している。尚、スライドシャフト23は、前記連結部材HとケースKとの連結位置の真横位置でミラー12の裏面12aと連結されている。また、スライドシャフト23は、ミラー12とケースKとの間にそれぞれ引っ掛けられるスプリング24によりカム面22と離間しないようになっている。従って、第2駆動モータM2の駆動により左右調整ギアG3が正逆回転すると、スライドシャフト23は、回転する左右調整ギアG3のカム面22上を摺接するとともに、該カム面22の傾斜形状にて軸方向に移動する。即ち、スライドシャフト23はミラー12の裏面12aの中心部を傾動中心に、ミラー12を前方(ケースKから離間する方向)へスプリング24の引っ張り力に抗して押し出したり、後方(ケースKに接近する方向)に退避することでスプリング24の引っ張り力にて引き戻したりする。その結果、第2駆動モータM2を正逆回転させることによって、ミラー12はケースKに対して左右方向に傾動するようになっている。
【0025】
そして、本実施形態では、第2駆動モータM2、第2ウォーム軸21、第2ウォームギアG2、左右調整ギアG3、スライドシャフト23、スプリング24とで第2調整機構を構成する。
【0026】
一方、第2ウォームギアG2は、ケースKの内壁にその基端部が固着された支軸S2によって回転可能に支持されたケース駆動ギアG4とも噛合している。従って、第2駆動モータM2が正逆回転すると、第2ウォームギアG2を介してケース駆動ギアG4が正逆回転する。
【0027】
ケース駆動ギアG4の反ミラー12側の端面には、略円筒状のカム部材としてのケース駆動カム31が該ケース駆動ギアG4と同軸となるように固着されている。ケース駆動カム31は、支軸S2が挿通されるべく円筒状をなすベース部32と、該ベース部32の外周面に突出形成された第1係合部としての第1リブ33及び第2係合部としての第2リブ34とからなる。図5及び図6に示すように、第1リブ33は、ベース部32の軸方向中央部に周方向に沿って該ベース部32の外周の4分の3程度の直線状に形成される。第2リブ34は、第1リブ33の両端からそれぞれ連続するようにベース部32の外周の残りの4分の1程度の範囲に形成され、各第2リブ34は同方向に傾斜しつつベース部32の端部まで延びて螺旋状をなしている。そして、ケース駆動カム31は、ケース駆動ギアG4と同軸となるように固着されているため、該ケース駆動ギアG4と一体回転する。
【0028】
ケース駆動カム31は、前記支持軸13の先端に該支持軸13と同軸となるようにクラッチ機構16を介して連結された固定係合部としての支持ギアG5と噛合している。支持ギアG5は、その外周に等間隔に配設され外側に向かって突出する円筒状のガイド部35と、該各ガイド部35間に形成される溝36とを有している。尚、各ガイド部35は、それぞれ自ら回転可能となるように設けられている。支持ギアG5は、溝36にケース駆動カム31の第1リブ33又は第2リブ34が挿入され、各ガイド部35と噛合する。また、支持ギアG5は、通常は回転しないように設けられているが、ケースK(ミラーハウジング)に過大な外力が加わってケース駆動カム31の噛み合いにより過大な回転力が生じたときにはクラッチ機構16により支持軸13に対して回転し、これにより、ケースK内部の破損を防止している。
【0029】
図5及び図6に示すように、第2リブ34が各ガイド部35と噛合された状態でケース駆動カム31が正転又は逆転すると、その回転力が支持ギアG5に伝達される。このとき、支持ギアG5は、支持軸13に実質的に回転しないように支持されているので、反作用により、ケース駆動カム31は支持ギアG5と噛合しながら、該支持ギアG5の外周を周回するようになっている。即ち、第2リブ34が各ガイド部35と噛合しながらケース駆動カム31が正転又は逆転すると、ケースK(ミラーハウジング)は、支持軸13の中心軸を中心に回動し、通常位置(使用位置)と格納位置とを間を回動する。そして、この第2リブ34が支持ギアG5の各ガイド部35と噛合された状態でケース駆動カム31が回転する領域が第2作動領域である。
【0030】
一方、図3及び図4に示すように、第1リブ33が各ガイド部35と噛合された状態でケース駆動カム31が正転又は逆転するとき、その回転力が支持ギアG5に伝達されないため、ケースK(ミラーハウジング)は回動しない。そして、この第1リブ33が支持ギアG5の各ガイド部35と噛合された状態でケース駆動カム31が回転する領域が第1作動領域である。
【0031】
そして、本実施形態では、第2駆動モータM2、第2ウォーム軸21、ケース駆動ギアG4、ケース駆動カム31、支持ギアG5とで回動制御機構を構成する。
また、図1及び図2に示すように、ケースK内には、制御装置40が取り付けられている。制御装置40は、運転席周りに設けられたミラー角度設定スイッチ(図示略)及び格納・展開スイッチ(図示略)の操作により各スイッチから出力される上下調整制御信号、左右調整制御信号及び格納展開制御信号に基づいて、対応する第1駆動モータM1及び第2駆動モータM2を正逆回転駆動させる。即ち、制御装置40は、上下調整制御信号の入力に基づいて第1駆動モータM1を正転又は逆転させ、これによりミラー12をケースK(ミラーハウジング)に対して上下方向に傾動させる。
【0032】
また、左右調整制御信号が入力された時には、制御装置40は、第2駆動モータM2を正転又は逆転させ、これによりミラー12をケースK(ミラーハウジング)に対して左右方向に傾動させる。このとき、ケースK(ミラーハウジング)は通常位置(使用位置)に配置されてケース駆動カム31の第1リブ33と支持ギアG5とが係合状態にあって、制御装置40は、ケース駆動カム31が第1リブ33にて支持ギアG5と係合する範囲内で第2駆動モータM2を回転させる。
【0033】
ここで、ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33から第2リブ34に移行する際、第2駆動モータM2には、ミラー12のみならずケースK(ミラーハウジング)全体を回動させるための回転トルクが要求される。これを踏まえ、左右調整制御信号が入力された時には、制御装置40は、ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33から第2リブ34に移行できないような低トルクで第2駆動モータM2を駆動して、ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33の範囲内に規制、即ちミラー12の左右方向への傾動のみに作動を規制している。
【0034】
一方、格納展開制御信号が入力された時には、制御装置40は、第2駆動モータM2を正転又は逆転させ、ケースK(ミラーハウジング)を通常位置から格納位置の間で回動させる。このとき、制御装置40は、ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33から第2リブ34に移行できるような高トルクに切り替えて第2駆動モータM2を駆動し、ケース駆動カム31の第2リブ34と支持ギアG5との係合によりケースKを回動させる。つまり、制御装置40は、ミラー左右調整時とケースK(ミラーハウジング)の格納展開時とで第2駆動モータM2で発生するトルクを切り替えるように構成されている。
【0035】
更に、制御装置40は、第2駆動モータM2の回転数等をカウントし、第2駆動モータM2のカウント値に基づいてミラー12の左右方向角度の検出と、ケースK(ミラーハウジング)の通常位置から格納位置までの間の回動位置の検出とを行っている。そして、制御装置40は、ミラー角度設定スイッチによるミラー12の角度調整を行った後には、調整後のミラー12の角度に対応した各カウント値を記憶するようにもなっている。
【0036】
次に、前記のように構成された電動ミラー装置10のミラー調整動作及びミラーハウジングの格納・展開動作について説明する。
[ミラー調整動作]
ケースK(ミラーハウジング)が通常位置に配置される状態(このとき、ケース駆動カム31の第1リブ33と支持ギアG5とが係合状態)において、図1及び図2に示すように、ミラー角度設定スイッチが操作されると、その操作に基づいた上下調整制御信号が制御装置40に入力される。制御装置40は、この上下調整制御信号に基づいて、第1駆動モータM1を正転又は逆転させる。すると、第1ウォーム軸14を介してウォームギアG1が正転又は逆転するとともに、スクリューネジ15がミラー12の裏面12aの中心部を傾動中心に、ミラー12を前方へ押し出したり、後方へ引き戻したりする。こうして、制御装置40が第1駆動モータM1を正転又は逆転させることによりミラー12の上下方向への偏向位置が調整される。
【0037】
また、図3及び図4に示すように、ミラー角度設定スイッチの操作による左右調整制御信号が入力されると、制御装置40は、この左右調整制御信号に基づいて、第2駆動モータM2を正転又は逆転させる。すると、第2ウォーム軸21を介して第2ウォームギアG2が正転又は逆転するとともに、左右調整ギアG3が正転又は逆転する。このカム面22を有する左右調整ギアG3が回転すると、スライドシャフト23がミラー12の裏面12aの中心部を傾動中心に、ミラー12を前方へスプリング24の引っ張り力に抗して押し出したり、後方に退避することでスプリング24の引っ張り力にて引き戻したりし、これによりミラー12の左右方向への偏向位置が調整される。尚、ミラー12の調整を行った後には、制御装置40は調整後のミラー12の角度に対応した第2駆動モータM2のカウント値を記憶する。
【0038】
また、ウォームギアG2とケース駆動ギアG4とが常時噛み合っている関係上、左右調整制御信号に基づく第2駆動モータM2の駆動によりケース駆動カム31が正転又は逆転する。このとき、制御装置40は左右調整信号に基づき第2駆動モータM2を低トルクで駆動させるため、ケース駆動カム31は、該ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33の範囲内、即ち第1作動領域内のみで回転し、第2作動領域である第2リブ34への移行がトルク不足により制限されている。これにより、ミラー12の左右方向への調整動作時には、ケースK(ミラーハウジング)の格納動作は行われないようになっている。尚、ミラー12が最も押し出されたときの左右調整ギアG3の位置(図3参照)から、ミラー12が最も引き戻されたときの左右調整ギアG3の位置(図4参照)まで該ギアG3が回転するときに、支持ギアG5がケース駆動カム31の第1リブ33のみと係合関係になるように設定されている。
【0039】
[格納・展開動作]
ケースK(ミラーハウジング)を通常位置から格納位置に回動する場合について、格納・展開スイッチが格納側に操作されその操作に基づいた格納展開制御信号が入力されると、制御装置40は、この格納展開制御信号に基づいて、第2駆動モータM2をケースK(ミラーハウジング)全体を回動させるために高トルクに切り替えて正転又は逆転させる。すると、ウォームギアG2を介してケース駆動カム31が回転し、該ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33から第2リブ34に移行、即ちケース駆動カム31の回転が第1作動領域から第2作動領域へと移行する(図5参照)。そして、図5及び図6に示すように、第2リブ34が各ガイド部35と噛合された状態でケース駆動カム31が正転又は逆転すると、ケース駆動カム31は支持ギアG5と噛合しながら該支持ギアG5の外周を周回し、これによりケース駆動カム31を支持するケースKは支持軸13を中心に格納位置まで回動する。因みに、この格納動作時には、ウォームギアG2と左右調整ギアG3とが常時噛み合っている関係上、ミラー12の左右傾動が連続して行われる。尚、制御装置40は、ケースKが図6に示す格納位置まで回動したとき第2駆動モータM2を停止させるようになっている。
【0040】
また、ケースKを格納位置から通常位置に回動する展開動作は、第2駆動モータM2を前記格納位置への回動とは逆回転させることにより、前記格納位置への回動の逆の動作をさせて行う。このとき、制御装置40は記憶している通常位置(使用位置)のカウント値に基づく回転量だけ第2駆動モータM2を逆回転させるため、ケースKは自動的に通常位置まで回動する。尚、ミラー12の上下方向の調整は、格納の際には変動しないので、第1駆動モータM1を駆動して調整を行わない。
【0041】
上記したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)本実施形態によれば、第1駆動モータM1によって第1調整機構が作動されてミラー12の上下方向への偏向位置が調整される。また、回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力を享受しつつもケースK(ミラーハウジング)を回動させるための回転力を生じさせない第1作動領域にあるとき、第2駆動モータM2によってミラー12の左右方向への偏向位置が調整される。そして、回動制御機構が第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づきケースKを回動させるための回転力を生じさせる第2作動領域にあるとき、第2駆動モータM2によってケースKが通常位置と格納位置との間で回動制御される。これにより、ミラー12の上下方向及び左右方向の各偏向位置をミラーハウジングの回動制御と独立して調整することができる。この結果、ミラー12の左右方向の各偏向位置の調整時において、第2駆動モータM2にはミラー12の調整に必要な負荷のみが加わることから、第2駆動モータM2の回転トルクを小さくすることが可能となる。このため、2個の駆動モータを使用した場合であっても、電動ミラー装置10の低消費電力化を図ることができる。また、ミラーハウジングと独立して調整されることから、デザイン上の制約を受けることのない電動ミラー装置10を実現することができる。
【0042】
(2)本実施形態によれば、ケース駆動カム31の外周には、第1リブ33及び第2リブ34が形成され、ケース駆動カム31が回転することにより、該ケース駆動カム31と支持ギアG5との係合が第1リブ33から第2リブ34に連続的に移行、即ち第1作動領域から第2作動領域に移行する。このため、1つのケース駆動カム31に第1リブ33及び第2リブ34を形成することで第1作動領域及び第2作動領域を構成することができ、これにより、電動ミラー装置10の部品点数を減らすことができる。
【0043】
(3)本実施形態によれば、第2調整機構は第2駆動モータM2の回転駆動力の享受に基づいて連続的にミラー12を左右方向に傾動させるように構成され、第2作動領域での作動でもミラー12を左右方向に傾動させるため、ミラー12の左右方向への傾動を行わないようにするための構成が不要となり、電動ミラー装置10を簡単な構成とすることができる。
【0044】
(4)本実施形態によれば、制御装置40はミラー12の左右方向への偏向位置を調整する際に、第1作動領域から第2作動領域に移行できないような低トルクで第2駆動モータM2を駆動させる。これにより、ミラー12の左右方向への偏向位置を調整する際にはミラー12の左右方向への傾動のみに規制することができるため、ミラー12の左右方向への偏向位置の調整のみを確実に行うことができる。
【0045】
(5)本実施形態によれば、制御装置40によりケースKが格納位置から通常位置に回動した後に、ミラー12の偏向位置が調整後のミラー12の偏向位置に制御される。従って、ケースKを格納位置から通常位置に回動した後に、再度、ミラー12の偏向位置を調整する必要のない電動ミラー装置10を実現することができる。
【0046】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○上記実施形態では、格納動作時において制御装置40は、格納展開制御信号に基づいて、第2駆動モータM2をケースK(ミラーハウジング)全体を回動させるために高トルクに切り替えて正転又は逆転させたが、これに限定されるものではなく、例えば制御装置40により第2駆動モータM2を第1作動領域では低トルクで、第2作動領域では高トルクで回転させるように作動領域毎にトルクを切り替えるようにしてもよい。
【0047】
○上記実施形態では、第2作動領域でもミラー12の左右方向の動作を行うが、第2作動領域ではミラー12の左右方向の動作を行わない構成としてもよい。
○上記実施形態では、ケース駆動カム31の外周に突出形成された第1リブ33及び第2リブ34が、支持ギアG5に設けられた溝36に係合されたが、例えばケース駆動カム31に第1係合部としての第1の溝と、第2係合部としての第2の溝を形成し、第1の溝及び第2の溝と支持ギアG5のガイド部35とを係合させて第1作動領域及び第2作動領域を構成としてもよい。
【0048】
○上記実施形態では、ガイド部35は支持ギアG5の全周に亘り放射状に設けられたが、これに限定されるものではなく、格納動作に必要な数だけ設けてもよい。また、各ガイド部35は支持ギアG5に回転可能に設けられたが、回転不能に固定されてもよい。
【0049】
○上記実施形態では、本発明の電動ミラー装置10は、自動車のサイドドアCに取り付けられたが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両におけるサイドドアC以外の部位に取り付けられてもよい。また、自動車以外の車両等に具体化してもよい。要は、ミラーベース上に設けられたミラーであれば、どんなものであってもよい。
【0050】
○上記実施形態では、制御装置40をケースK内に設けたが、本発明はこれに限定されることはなく、ケースKの外部に設けてもよい。このようにすることによっても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
○上記実施形態では、特に言及しなかったが、カム部材として支持軸13の中心軸と直交する軸を中心に回転するケース駆動カム31が用いられたが、これに限定されるものではなく、例えば支持軸13の中心軸と平行に回転するカム部材を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る電動ミラー装置を車体後方より観たときの斜視図。
【図2】本実施形態に係る電動ミラー装置を車体前方より観たときの斜視図。
【図3】本実施形態に係る電動ミラー装置の作用を説明するための平面図。
【図4】同じく、本実施形態に係る電動ミラー装置の作用を説明するための平面図。
【図5】同じく、本実施形態に係る電動ミラー装置の作用を説明するための平面図。
【図6】同じく、本実施形態に係る電動ミラー装置の作用を説明するための平面図。
【符号の説明】
【0053】
G3…左右調整ギア、G4…ケース駆動ギア、G5…固定係合部としての支持ギア、K…ケース、M1…第1駆動モータ、M2…第2駆動モータ、10…電動ミラー装置、11…ミラーベース、12…ミラー、31…カム部材としてのケース駆動カム、32…ベース部、33…第1係合部としての第1リブ、34…第2係合部としての第2リブ、40…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーベース上に設けられミラーを連結支持するミラーハウジングを通常位置と格納位置とに回動制御する回動制御機構と、前記ミラーの上下方向への偏向位置を調整する第1調整機構と、前記ミラーの左右方向への偏向位置を調整する第2調整機構とを備えた電動ミラー装置において、
前記ミラーハウジング内にケースを備え、そのケース内に前記第1調整機構を制御して前記ミラーの上下方向への偏向位置を調整する第1駆動モータと、
前記回動制御機構及び前記第2調整機構を制御して、前記ミラーハウジングの回動位置及び前記ミラーの左右方向への偏向位置をそれぞれ調整する第2駆動モータと
を備え、
前記回動制御機構は、前記第2駆動モータの回転駆動力を享受しつつも前記ミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせない第1作動領域と、前記第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づき前記ミラーハウジングを回動させるための回転力を生じさせる第2作動領域とが連続して構成されていることを特徴とする電動ミラー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ミラー装置において、
前記回動制御機構は、前記ミラーベースに支持連結された固定係合部と、
前記ケースに支持され前記第2駆動モータの駆動により回転するカム部材と
を備え、
前記カム部材は、その外周における周方向の一部に該カム部材の回転方向に沿って直線状に形成された第1係合部と、該周方向におけるその他の部分に前記第1係合部と繋がって形成された第2係合部とを有し、前記カム部材が回転することにより前記固定係合部と係合する部位が前記第1係合部と第2係合部とに連続的に切り替わるように構成され、
前記第1作動領域は、前記第1係合部が前記固定係合部と係合関係にある状態で前記カム部材が回転する領域であり、
前記第2作動領域は、前記第2係合部が前記固定係合部と係合関係にある状態で前記カム部材が回転する領域であることを特徴とする電動ミラー装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動ミラー装置において、
前記第2調整機構は、前記第2駆動モータの回転駆動力の享受に基づいて連続的に前記ミラーを左右方向に傾動させることを特徴とする電動ミラー装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動ミラー装置において、
前記ミラーの左右方向への偏向位置を調整する際に前記回動制御機構が前記第2作動領域に移行できないような低トルクで前記第2駆動モータを駆動制御する制御装置を備えてなることを特徴とする電動ミラー装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動ミラー装置において、
調整された後の前記ミラーの左右方向への偏向位置を与える位置情報を検出して記憶するとともに、前記ミラーハウジングが前記格納位置から前記通常位置に回動した後に、前記ミラーの左右方向への偏向位置を、記憶した前記調整をした後のミラーの左右方向への偏向位置と一致するように前記第2駆動モータを駆動制御する制御装置を備えたことを特徴とする電動ミラー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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