説明

電動モータおよびこれを備える電動ユニット

【課題】精度よく組み付けができる電動モータおよびこれを用いた電動ユニットを提供する。
【解決手段】ポンプハウジング15、固定部材8、および保持部材17は、オイルポンプ2の中心軸の方向に相互に組み合わせられてブラシレスモータ3のステータ5およびロータ6を固定している。保持部材17は、一方が円筒状の金属材料からなり、固定部材8は、円筒状の金属材料からなる。保持部材17の外周端部および固定部材8の内周端部には、相互に当接するための周方向の段差が形成されており、固定部材8の一方の内周に対して保持部材17の外周が嵌め込まれている。また、ブラシレスモータ3と接するポンプハウジング15の端面から突出した円筒状のフランジ部23の内周に対して固定部材8の他方の外周が嵌め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータおよびこれを備える電動ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動オイルポンプ装置には、流体(オイル)を循環させるオイルポンプとオイルポンプを駆動する電動モータとを組み合わせたものがある。このような電動オイルポンプ装置として、電動モータとオイルポンプがオイルポンプの中心軸方向に並んで配置され、共通のハウジング内に一体に組み込まれたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この電動オイルポンプ装置は、モータ軸の両側に軸受が配置された2箇所支持の構造であるため、モータ軸が長くなり、また、オイルポンプと反対側に配置された軸受を支持するための部材が必要となる。そこで、モータ軸長を短くし、小型化するため、ハウジング内に軸受装置により軸方向1箇所が片持ち支持されたモータ軸を備えたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−274921号公報
【特許文献2】特開2010−116914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記電動オイルポンプ装置や電動パワーステアリング装置に用いられる電動モータは、電動モータのステータとロータ相互間の振れ、がたつき、偏心、あるいは不釣合いにより生じる吸引力等によりモータ軸の振れ回りが大きくなり、電動モータの振動や異音が発生する場合がある。そこで、電動モータの振動や異音低減のため、モータ軸の両側に軸受を配置した構造にする場合、ステータ内径の芯出しとともに、モータ軸両端を軸受支持されるロータの芯出しを精度よく行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、精度よく組み付けができる電動モータおよびこれを用いた電動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、負荷となる被回転体のハウジングに隣接して設けられ、前記被回転体を回転駆動する電動モータにおいて、前記被回転体のハウジングの端面から突出したフランジ部と、ステータを固定する金属部材からなる固定部材と、ロータの一方を支持する軸受を配置した金属部材からなる保持部材と、備え、前記フランジ部の内周に対して前記固定部材の外周を嵌合させ、前記固定部材の内周に対して前記保持部材の外周を嵌合させたことを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、電動モータに隣接して電動モータの負荷となる被回転体のハウジングの端面から突出したフランジ部の内周に対して固定部材の外周を嵌合させ、固定部材の内周に対して保持部材の外周を嵌合させて電動モータを形成する。これにより、保持部材を介して2箇所の軸受に支持されたロータの芯出し、および固定部材を介してステータの芯出しをそれぞれの外径を基準として容易に行うことができる。この結果、電動モータの振動および異音の発生を低減することができる。また、保持部材と固定部材の周端部に周方向の段差を設け互いに当接させたので、被回転体のハウジングと保持部材とをボルト締結するとき、その締結力によって固定部材を介してステータを被回転体のハウジング側に押圧し、ステータおよびロータの芯出しを同時に行うことができる。これにより、確実に電動モータと被回転体のハウジングを固定することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、電動ユニットにおいて、請求項1に記載の電動モータを備えていることをその要旨とする。請求項1に記載の電動モータによれば、組み付け精度のよい電動モータを用いた電動ユニットの性能向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、精度よく組み付けができる電動モータおよびこれを用いた電動ユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による電動オイルポンプ装置の概略構成を示す軸方向の断面図。
【図2】図1におけるポンプハウジングとブラシレスモータの組み付け状態を示す概略断面図。
【図3】本発明の他の実施形態による電動パワーステアリング装置の概略構成を示す軸方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態の一例として、電動オイルポンプ装置について、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態による電動オイルポンプ装置1の概略構成を示す軸方向の断面図である。図1に示すように、電動オイルポンプ装置(電動ユニット)1は、自動車のトランスミッション用油圧ポンプとして用いられ、オイルポンプ(例えば、内接ギヤポンプ)2とオイルポンプ(被回転体)2を回転駆動する電動モータ(以下、ブラシレスモータという)3とが隣接してユニット化(一体化)されている。また、コントローラ4もモータハウジング24内に組み込まれている。なお、図1に示すブラシレスモータ3は、3相巻線を有するブラシレスセンサレスモータである。
【0013】
オイルポンプ2は、ここではトロコイド曲線型ポンプを用いていて、トロコイド歯形を有する内歯を備えた図示しないポンプ用アウタロータ(以下、アウタロータという)の内周側に、外歯を備えた図示しないポンプ用インナロータ(以下、インナロータという)を噛み合わせ、ポンプハウジング15内にこれらのアウタロータおよびインナロータを偏心して回転自在に配置したポンプ部16を構成したものである。
【0014】
インナロータは、回転駆動軸7におけるロータ6を形成した部分より一方に寄った部分に外嵌固着されて、この回転駆動軸7とともに回転するようになっている。アウタロータは、このインナロータの外歯よりも1歯多い内歯を備え、回転駆動軸7に対して偏心した位置を中心にポンプハウジング15内で回転自在となるように配置されている。また、インナロータは、外歯がこのアウタロータの内歯に全周の一部で噛み合うとともに、各外歯がこのアウタロータの内面に全周の各所でそれぞれほぼ内接しながら回転するようになっている。
【0015】
したがって、ブラシレスモータ3により回転駆動軸7が回転駆動されると、このオイルポンプ2のアウタロータおよびインナロータの間隙の容積がこの回転駆動軸7の1回転の間に拡大と縮小を繰り返すので、これらの間隙に通じるポンププレート14に設けられた図示しないインポートからアウトポートに向けてオイルを送り出すポンプ動作が行われることになる。
【0016】
ブラシレスモータ3は、回転するモータ用ロータ(以下、ロータという)6と、このロータ6の外周面の外側に固定されたモータ用ステータ(以下、ステータという)5とで構成される。ロータ6は、回転駆動軸7の外周面に、例えば、複数個の図示しない永久磁石を周方向に沿って並べて配置して形成したものである。回転駆動軸7は、ブラシレスモータ3とオイルポンプ2とで共用する回転軸であり、両端部をポンプハウジング15と保持部材17の内部に配置された軸受(例えば、転がり軸受)11,12によって回転自在に軸支されている。ここで、保持部材17の貫通孔から挿入された複数のボルト21が金属製のポンプハウジング15にねじ止めされて、ブラシレスモータ3のステータ5が固定されている。本実施例では、3本のボルト21が、軸中心に対して周方向に等間隔で配置されている。
【0017】
ステータ5は、ロータ6の外周面の外側にわずかなエアギャップを介してステータコア9の内向きの図示しないティースを複数配置している。このステータコア9の各ティースにはそれぞれ3相のコイル10が巻回されている。ここで、ステータコア9の軸方向両端から、コイル10をステータコア9から絶縁するための樹脂製(例えば、PPS)のインシュレータ13が装着されている。また、ステータ5は、複数の分割されたステータコア(分割コア)9から構成され、各ステータコア9は、周囲を円筒状薄肉の金属製の固定部材8によって、締め付け固定されている。
【0018】
コイル10の端部は、図示しないバスバーと電気的に接続されている。インシュレータ13は、ブラシレスモータ3の駆動端子となる3本のバスバーと一体にモールドされている。各バスバーは、インシュレータ13の右端部から中心軸に平行に延びている。
【0019】
ポンププレート14およびポンプハウジング15は、非磁性材料(例えば、アルミダイカスト)で構成される。ブラシレスモータ3およびコントローラ4を収めるモータハウジング24および蓋25は、樹脂材料(例えば、熱可塑性樹脂)により形成される。電動オイルポンプ装置1のハウジング本体は、上記ポンププレート14,ポンプハウジング15、モータハウジング24、および蓋25により構成されている。ここで、モータハウジング24および蓋25は、防水カバーを形成している。
【0020】
また、本実施形態の電動オイルポンプ装置1には、ブラシレスモータ3を制御するためのコントローラ4の制御基板(以下、基板という)19がモータハウジング24内の金属製の保持部材17に設けた締結部18を介して取り付けられている。基板19には、直流電源を交流に変換してブラシレスモータ3の各コイル10に駆動電流を供給するインバータ回路、およびホール素子等のセンサが検出したアウタロータの回転位置の情報に基づいて、このインバータ回路を制御する制御回路からなる制御回路部20が搭載されている。コントローラ4の制御回路部20を構成する上記インバータ回路および制御回路のマイコンやコイル、コンデンサ等の電子部品が基板19の両面に実装されている。
【0021】
各コイル10と接続されインシュレータ13に絶縁支持されたブラシレスモータ3の駆動端子であるバスバーは、基板19に挿通され、基板19上の制御回路部20に接続されている。また、モータハウジング24の側面にはコネクタシェルがモータハウジング24と一体に設けられ、その内部のコネクタピンが基板19上の制御回路部20と接続されている。
【0022】
そして、上記構成により、制御回路部20によって制御された駆動電流がブラシレスモータ3の各コイル10に供給されるようになっている。これにより、コイル10に回転磁界が発生し、永久磁石にトルクが生じてロータ6が回転駆動される。このようにして、インナロータが回転駆動されると、アウタロータがこれに従動して回転し、これらのアウタロータの内歯と,インナロータの外歯の間隙が拡縮を繰り返すので、インポートおよびアウトポートを通じてオイルを吸入・吐出するポンプ動作が行われる。
【0023】
次に、図2は、図1におけるポンプハウジング15とブラシレスモータ3の組み付け状態を示す概略断面図である。図2に示すように、ポンプハウジング15、固定部材8、および保持部材17は、オイルポンプ2の中心軸の方向に相互に組み合わせられてブラシレスモータ3のステータ5およびロータ6を固定している。
【0024】
具体的には、保持部材17は、一方が円筒状の金属材料(例えば、アルミ合金)からなり、固定部材8は、円筒状の金属材料(例えば、鉄)からなる。ここで、保持部材17の外周端部およびリング8の内周端部には、相互に当接するための周方向の段差が形成されており、固定部材8の一方(図2右側)の内周に対して保持部材17の外周が嵌め込まれている。
【0025】
また、ブラシレスモータ3と隣接するポンプハウジング15の端面から突出した円筒状のフランジ部23の内周に対して固定部材8の他方(図2左側)の外周が嵌め込まれる。そして、保持部材17を介して、回転駆動軸7の両側に設けられた軸受11,12によって支持されたロータ6、および固定部材8を介して、ステータ5のそれぞれの芯出しを確実に行うことができる。
【0026】
さらに、保持部材17に設けた貫通孔から挿入された複数のボルト21がポンプハウジング15にねじ止めされ、ブラシレスモータ3のステータ5がポンプハウジング15を介してモータハウジング24に隙間を持って固定される。そして、ボルト21締結時に、ポンプハウジング15および保持部材17の間の締結力によってブラシレスモータ3をオイルポンプ2に強固に固定できる。
【0027】
図3は、本発明の他の実施形態による電動パワーステアリング装置の概略構成を示す軸方向の断面図である。図3に示すように、電動パワーステアリング装置は、減速装置と減速装置を回転駆動するブラシレスモータ3とがユニット化されている。
【0028】
次に、上記のように構成された本実施形態である電動オイルポンプ装置1の作用および効果について説明する。
【0029】
上記構成によれば、オイルポンプ2に隣接して、ブラシレスモータ(電動モータ)3およびコントローラ4がオイルポンプ2に対して中心軸方向に並んで配置された電動オイルポンプ装置1において、ポンプハウジング15のブラシレスモータ3に隣接する端面から突出した円筒状のフランジ部23と、ブラシレスモータ3のステータ5を固定する円筒状薄肉の金属製の固定部材8と、ロータ6の回転駆動軸7の一方の側に配置された軸受12を支持する金属製の保持部材17が互いに接続される。すなわち、ポンプハウジング15のフランジ部23の内周に対して固定部材8の外周を嵌合させ、また、保持部材17と固定部材8の周端部に周方向の段差を設け互いに当接させて、固定部材8の内周に対して保持部材17の外周を嵌合させ形成する。
【0030】
これにより、保持部材17を介して回転駆動軸7を軸方向2箇所の軸受11,12によって支持されるロータ6の芯出し、および固定部材8を介してステータ5の芯出しをそれぞれの外径を基準として容易に行うことができる。この結果、ブラシレスモータ3の振動および異音の発生を低減することができる。そして、ポンプハウジング15と保持部材17とをボルト21で締結するとき、その締結力によって固定部材8を介してステータ5をポンプハウジング15側に押圧することで、ステータ5内径の芯出し、およびロータ6の芯出しを同時に行い、ブラシレスモータ3とオイルポンプ2とを確実に固定することができる。また、固定部材8によりステータ5の放熱も効率よく行える。
【0031】
さらに、上記実施形態のように、コントローラ4をブラシレスモータ3に一体化し、モータハウジング24および蓋25を組み付けるときに、モータハウジング24、蓋25とブラシレスモータ3の外周との間にフランジ部23の厚さ方向の隙間を設けて固定することができるので、ブラシレスモータ3の作動音が直接モータハウジング24に伝わることを抑制し、防音効果も期待できる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、精度よく組み付けができ、モータの振動、異音を低減できる電動オイルポンプ装置を提供できる。
【0033】
以上、本発明に係る一実施形態について説明したが、本発明はさらに他の形態で実施することも可能である。
【0034】
上記実施形態では、保持部材17の外周に軸方向に平行に段差を設けて固定部材8に当接する方法を示したが、これに限定されるものでなく、ボルト21を締結するときにポンプハウジング15と保持部材17間の締結力によってステータ5およびロータ6を同時に芯出しして、オイルポンプ2とブラシレスモータ3を固定できる形状であればよい。
【0035】
また、上記実施形態では、コントローラ4をブラシレスモータ3に軸方向に一体化し、モータハウジング24内に収容する例を示したが、これに限定されるものでなく、コントローラ4の取り付け位置は径方向に、または、ブラシレスモータ3とは別に設置されていてもよい。
【0036】
上記実施形態では、ブラシレスモータ3とオイルポンプ2の接続手段を電動オイルポンプ装置1に適用する場合、または、ブラシレスモータ3を電動パワーステアリング装置に適用する場合を示したが、これらに限定されるものでなく、同様のブラシレスモータ3を用いた他の装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:電動オイルポンプ装置(電動ユニット)、2:オイルポンプ(被回転体)、
3:ブラシレスモータ(電動モータ)、4:コントローラ、5:モータ用ステータ、
6:モータ用ロータ、7:回転駆動軸、8:固定部材、9:ステータコア、
10:モータコイル、11、12:軸受、13:インシュレータ、14:ポンププレート、
15ポンプハウジング、16:ポンプ部、17:保持部材、18:締結部、
19:基板(制御基板)、20:制御回路部、21:モータ固定ボルト、
23:フランジ部、24:モータハウジング、25:蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷となる被回転体のハウジングに隣接して設けられ、前記被回転体を回転駆動する電動モータにおいて、
前記被回転体のハウジングの端面から突出したフランジ部と、
ステータを固定する金属部材からなる固定部材と、
ロータの一方を支持する軸受を配置した金属部材からなる保持部材と、備え、
前記フランジ部の内周に対して前記固定部材の外周を嵌合させ、前記固定部材の内周に対して前記保持部材の外周を嵌合させたことを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動モータを備えていることを特徴とする電動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−115860(P2013−115860A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257481(P2011−257481)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】