説明

電動倍力装置

【課題】ブレーキペダルの操作に基づいて電動アクチュエータによりブースタピストンを移動し、マスタシリンダに制動力駆動のための油圧を発生する倍力装置において、センサの零点学習の精度向上を図る。
【解決手段】ブレーキペダル2の操作の有無を正確に検知するために、電動アクチュエータ11の制御により、ブースタピストン102である加圧部材を移動させ、加圧部材の移動に対するインプットロッド151や入力ピストン152である軸部材移動パターンを検知する。前記移動パターンの状態に基づきブレーキペダル2の操作の有無を検知する。ブレーキペダル2の操作がおこなわれていないことを上述の方法で確認し、軸部材の位置を検知するストロークセンサストロークセンサ170やマスタシリンダ10が供給する油圧を検出する油圧センサ140や油圧センサ141の零点を学習する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータを備え、制動力を発生するために使用される電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動アクチュエータによるブレーキ制御では、ペダルの操作量や電動アクチュエータの位置の検出に基づいて制御される。前記制御のための検出には、例えば、ペダルやブレーキピストンを操作するロッドの変位を検出する変位センサ,電動アクチュエータの回転センサ,ブレーキ力を発生させるための油圧を検出するための油圧センサ,電動アクチュエータに流れる電流を検出する電流センサ、等が用いられる。ところで、変位センサや回転センサ,油圧センサ,電流センサの出力値は、センサ自体のばらつきや温度特性、また、電動アクチュエータを含むブレーキ機構のばらつきや温度特性、さらに、センサを取り付けるときの取り付け誤差により、ブレーキの非作動状態における制御の基準点や、パラメータの零点が変動する問題がある。
【0003】
特開2007−112426号公報(特許文献1)には、電動倍力装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1では、ばらつきあるいは温度変化などに起因する検出誤差あるいは制御精度の低下、あるいは記憶していた基準位置情報の変化や喪失、などについて、言及していない。
【0006】
しかし、倍力装置の制御精度の向上には、正確な基準点すなわち零点の検知が重要である。
【0007】
本発明の目的は、電動倍力装置の制御に使用するための正確な基準点の検知が可能となる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、車両の制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、前記加圧部材の移動量あるいは位置を計測するために使用するセンサと、制御装置と、を備え、前記制御装置はブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、さらに前記制御装置は前記加圧部材の位置あるいは移動の基準点を学習動作により求める電動倍力装置である。
【0009】
さらに上記特徴に加え、本発明の電動倍力装置は、固定された位置に設けられた固定部材と、前記加圧部材の移動に対応して移動する移動部材と、を備え、前記制御装置が前記移動部材が前記固定部材の位置に達したことを検知し、この検知にもとづき、前記基準点を学習することを特徴とする。
【0010】
さらに上記特徴に加え、本発明の電動倍力装置は、前記固定部材は前記加圧部材が進退移動する移動軸に沿った位置に設けられた第1のストッパであり、前記移動部材は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパであり、前記制御装置は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパが前記第1のストッパに接したことに基づき、前記基準位置を学習することを特徴とする。
【0011】
さらに上記特徴に加え、本発明の電動倍力装置は、前記制御装置は、前記マスタシリンダが制動力を発生するための油圧を発生しない前記加圧部材の位置を待機位置とし、さらに待機位置より前記マスタシリンダから遠い位置に前記固定部材を設け、ブレーキペダルの操作状態からブレーキペダルの操作がなされていない状態になったときに、前記制御装置は前記電動アクチュエータを制御して、前記加圧部材を前記待機位置に移動し、学習動作において、前記制御装置は前記移動部材が前記固定部材の位置に到達するように、前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0012】
さらに上記特徴に加え、本発明の電動倍力装置は、車両の制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、前記マスタシリンダが発生する油圧を計測するための圧力センサと、制御装置と、を備え、前記制御装置はブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、さらに前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、この検知に基づいて、前記圧力センサの零点を学習動作により検知することを特徴とする。
【0013】
さらに上記特徴に加え、本発明の電動倍力装置は、前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、ブレーキペダルが操作されていない状態において、前記加圧部材の位置あるいは移動の基準点の学習を実行し、前記圧力センサの零点の学習を、前記移動量の基準点の学習よりも高い頻度で実行することを特徴とする電動倍力装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動倍力装置の制御に使用するための基準点の、あるいは検出のための基準点を正確に検知することが可能となる。これにより、検出精度あるいは制御精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態である電動倍力装置が適用される車両の制動システムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態である電動倍力装置の部分断面図である。
【図3】軸部材と加圧部材の位置の関係に基づき、ブレーキ操作の有無の判定を説明する説明図である。
【図4】ブレーキ操作の有無の判定を説明する説明図である。
【図5】零点学習動作を示すフロー図である。
【図6】零点学習における電動アクチュエータ11の位置関係の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態を説明するためのシステム図である。車両の運転状態を制御するためのブレーキペダル2の操作に基づき電動倍力装置1が動作し、マスタシリンダ10に油圧が発生する。前記マスタシリンダ10に基づいて発生した油圧は2つの配管7と8を介して油圧装置21に伝えられる。油圧装置21は前記マスタシリンダ10からの油圧を配管23や24,25,26を介して各車輪に設けられたキャリパ31や41,51,61に分配する。各キャリパ31や41,51,61に供給された油圧により、各キャリパ31や41,51,61は油圧に応じた推力により摩擦材をロータ32や42,52,62に押し付け、各車輪に制動力が発生する。各キャリパ31や41,51,61が発生する制動力に基づいて車両全体の制動力が定まる。
【0017】
油圧装置21はマスタシリンダ10からの油圧に基づいて各キャリパ31や41,51,61へ供給する油圧を定めるのみならず、油圧装置21は内部に、油圧を発生するための油圧ポンプや、油圧を制御するための電磁弁を備えており、油圧装置21はマスタシリンダ10の油圧に基づかないで各キャリパ31や41,51,61に供給された油圧を制御できる。このような制御により、油圧装置21により、横滑り防止制御(VDC)やアンチロックブレーキ制御装置(ABS),トラクション制御装置(TCS)等の車両の安定制御を行うことができる。
【0018】
電動倍力装置1は、図2を用いて後述するとおり、電動アクチュエータ11を備え、前記電動アクチュエータ11を制御するための制御装置4を備えている。前記制御装置4は電源装置71から電力線72を介して直流電力を受け、この直流電力を交流電力に変換し、交流電力を前記電動アクチュエータ11に供給する。前記電動アクチュエータ11に供給する交流電力を制御することにより回転方向や回転トルクを制御することができる。図1では電動アクチュエータ11と制御装置4は別体構造となっているが、電動アクチュエータと制御装置4を一体構造とし、電動アクチュエータに制御装置4を固定する構造としてもよい。
【0019】
前記電源装置71は例えば14ボルト系のバッテリでも良いし、更に異なる電圧系の電池であっても良い。DC−DCコンバータのような電圧変換装置を介して直流電力を供給するようにしても良い。
【0020】
電動倍力装置1と油圧装置21は車両の離れた場所に設置されている場合が多く、情報の伝送は時分割多重通信方式の電気信号を用い、車両通信系統46を介して送受信される。電気信号の形式はシリアル通信でも良いし、CANやFlaxRay,LAN等の多重通信でも良い。また、例えば、車両電力系統72および車両通信系統46は万一の失陥時に備えて多重化して構成されていてもよい。例えば、車両電力線72が、独立した二系統から成り立っており、おのおのが電力供給源となる蓄電手段あるいは発電手段を備えている構成となっていても良い。また、例えば車両通信系統46が独立した二系統から成り立っていても良い。
【0021】
車両制御装置22は、高度道路交通システム(ITS)などの走行状態を変化させる制御を担う装置であっても良い。車両制御装置22はカメラやレーダなどの外界認識センサを備えていてもよいし、カメラやレーダなどの外界認識センサを備えた装置からセンサ情報を取得してもよい。また、ナビゲーションシステムなどとの連系を行っていても良い。車両制御装置22が走行状態を変化させる制御を担う装置であった場合、走行状態を変化させるために必要な制動力は電動倍力装置1で発生させる。必要な制動力あるいは相当するトルク、油圧などの情報は、車両通信系統46を介して、制御要求として車両制御装置22と電動倍力装置1の間で伝達される。
【0022】
車両制御装置22は、車両の運動エネルギーを電力に変換することで、回生機能を持つ装置であっても良い。エンジンなどの内燃装置以外に、電動アクチュエータでも走行駆動を行う自動車、例えば電気自動車やハイブリッド自動車では、ブレーキ操作による減速中に駆動電動アクチュエータを発電機として動作させ、バッテリに電力を回生する回生ブレーキとの協調制御が行われる。車両制御装置22が回生機能を持つ装置であった場合、回生によって運動エネルギーが電力に変換された分だけ車両に制動力が発生するので、電動倍力装置1は油圧に由来する制動力が、回生が無いときに比べて、回生によって発生した制動力に相当するだけ少なくなるように電動アクチュエータ11を制御する。回生量あるいは、回生量に相当する制動力、トルク、油圧などの情報は、車両通信系統46を介して、制御要求として車両制御装置22と電動倍力装置1の間で伝達される。
【0023】
図2は、電動倍力制動装置1の部分断面図である。ブレーキペダル2の操作に基づいて入力ロッド151が移動し、入力ロッド151の移動に基づいて入力ピストン152が移動する。電動アクチュエータにより駆動されるブースタピストン102は、この実施例では、円筒形状をなし、ブースタピストン102の中央部を入力ピストン152が移動する。ブースタピストン102および入力ピストン152はマスタシリンダ10のプライマリピストンとして作用し、これらのピストンが図の左側に移動することによりプライマリ液室104の油圧を上昇させる。
【0024】
ストロークセンサ170はブレーキペダル2の操作量を表す情報を出力する。この情報は入力ロッド151の移動量と対応している。制御装置4はストロークセンサ170の検出値および油圧センサ140あるいは油圧センサ141の検出値に基づいて、マスタシリンダの目標油圧あるいはブースタピストンの目標位置を算出される。前記油圧センサ140あるいは油圧センサ141の検出値が前記目標油圧となるように、あるいは前記ブースタピストンの実際の位置が目標位置となるように、電動アクチュエータが制御される。
【0025】
電動アクチュエータの回転子112を回転の回転やトルクは、ボール114を介してスライド軸115を直線方向に移動する。スライド軸115のストッパ116がブースタピストン102のストッパ117に当接しており、スライド軸115が図の左方向に移動することにより、マスタシリンダ10のプライマリ液室104にブースタピストン102が押し込まれ、マスタシリンダ10の出力液圧が上昇する。プライマリ液室104の液圧に基づきセカンダリピストン105が移動し、プライマリ液室104の液圧とセカンダリ液室106の液圧とが略同じ圧力となる位置で停止する。マスタシリンダ10のプライマリ液室104とセカンダリ液室106とからは略同じ液圧が供給される。
【0026】
バネ109はブースタピストン102のストッパ117に対して後退方向の力を発生させ、電動アクチュエータ11がトルクを発生させていない時にスライド軸115のストッパ116とブースタピストン102のストッパ117をストッパ118まで移動させることができる。また、入力ピストン152とブースタピストン101との間にはばね180とばね181が設けられており、入力ロッドとブースタピストンの間に力の伝達がある。また、ばね180とばね181はブースタピストンブースタピストン102が動作していないときに、入力ロッド151を放し側に動作させ、入力ロッド151や入力ピストン152を零点に戻すようなセット荷重として働く。回生ブレーキとの協調制御においては、ブースタピストン102を引き戻す方向に電動アクチュエータを回転制御することにより、回生ブレーキ相当のブレーキ力を減少させる制御を行う。
【0027】
ブレーキペダル2が踏み込まれると入力ロッド151や入力ピストン152が図の左方向に移動す。入力ロッド151や入力ピストン152の位置は奥方向へ行くほど大きな値を取り、手前方向へ行くほど小さな値を取ると定義する。また、ブレーキペダル2を手前側から奥側に移動させる時、踏む、踏み込む、あるいは前進すると定義する。また、ブレーキペダル2を奥側から手前側に移動させる時放す、戻す、あるいは後退すると定義する。
【0028】
マスタシリンダ10は、2つの加圧室を有するタンデム式のものを例にしており、ブースタピストン102によって加圧されるプライマリ液室104と、セカンダリピストン105によって加圧されるセカンダリ液室106を備える。ブースタピストン102の推進によって、プライマリ液室104やセカンダリ液室106で加圧された作動液が、配管7や配管8を経由して、油圧装置21に供給されてブレーキ力を発生する。マスタシリンダ10には、プライマリ液室の油圧を計測する油圧センサ140とセカンダリ液室の油圧を計測する油圧センサ141とが備えられている。電動倍力装置においてプライマリ液室とセカンダリ液室の油圧は同じになっているので、油圧センサ140と141はどちらか片方だけを備えていても良い。また、制御装置4は、マスタシリンダの油圧を油圧センサ140あるいは141から取り込んでも良い。また、油圧センサからの情報は油圧装置21で取り込んでも良く、制御装置4は、油圧装置21から車両通信系統42を介して油圧情報を取り込んでも良い。ここで、マスタシリンダ油圧の零点あるいは、油圧センサの零点は、マスタシリンダに油圧が掛かっていない時の値に相当する。
【0029】
電動アクチュエータ11の電動部分は、固定子110と軸受け111により回転可能な状態で支持された回転子112により構成されており、回転子112の回転位置は回転センサ113により検出される。この実施例では、電動アクチュエータ11は三相電流によって駆動する永久磁石型の同期モータモータであり小型で大きなトルクが得られ、倍力装置に用いる電動アクチュエータとして、最適である。もちろんこれ以外に、電動アクチュエータ11は誘導モータであっても良いし、またDCブラシレスモータであっても良い。この実施例では、小型化のために、回転子112の内周は中空で、内周面にはボール114の一方の面と噛合うように溝が形成され、他方の面は第1スライド軸115の外周面と噛合うように溝が形成されている。スライド軸115は端部にストッパ116が形成されており、ストッパ116の一方端は、ブースタピストン102の一方端117と当接し、ストッパ116の他方端は、電動アクチュエータ11のハウジングに設けられたストッパ118に当接するようになっている。ストッパ116とブースタピストン102一方端117の当接面は両者間の力関係で自由に離反することができるようになっている。上記回転子112は永久磁石を有しており、固定子110が発生する回転磁界によって回転トルクを発生する。回転子112の磁極位置は回転センサ113により検出され、回転センサ113で検出した情報は、固定子110に供給される電流の制御に用いられたり、ブースタピストン102の位置制御や速度制御に用いられる。
【0030】
回転センサ112は電動アクチュエータ11の回転角度あるいは回転位相を検出することのできるセンサである。回転センサ113は、光あるいは磁気を用いたエンコーダであっても良いし、レゾルバであっても良い。回転センサ113は角度を検出するセンサであるが、回転数を数えておくことにより、回転子112が所定の零点からどれだけ回転したかを計算することができる。所定の零点からの回転子112の回転量すなわち電動アクチュエータ11の移動距離を求めることができる。電動アクチュエータの位置は、マスタシリンダに油圧を発生させるかあるいは油圧を増加させる方向が、前進する方向であり、正方向として定義する。また、油圧を減少させる方向が、後退する方向であり、負方向として定義する。
【0031】
電動倍力装置1において、ストッパ116とストッパ118が当接していない場合、電動アクチュエータの位置と、加圧部材(ブースタピストン102やストッパ117の総称として記す)の位置とは、一定の関係があり、同じものと見なしてよい。ストッパ116とストッパ118が当接している場合、ブースタピストン102はそれ以上後退方向に動作することはできないが、電動アクチュエータ11の位置、すなわち回転子112の位置、は負方向に動作することができるものとしても良い。その場合、制御装置4は仮想的に加圧部材(ブースタピストン102やストッパ117の総称)が零点より後退したと見なして制御を行っても良い。電動アクチュエータの零点あるいは加圧部材の零点は、電動アクチュエータに電流が流れておらず、ブレーキペダル2が踏まれていない状態で、マスタシリンダが油圧を発生していない状態である。電動倍力装置1においては、ストッパ116とストッパ118がちょうど当接する位置を電動アクチュエータあるいは加圧部材の零点としても良い。また、そのときの回転センサの値を回転センサの零点としても良い。
【0032】
制御装置4は電動アクチュエータ11を駆動するための三相電流を生成するインバータ回路を備えている。インバータ回路は6ないし6の倍数のスイッチング素子によって電源経路72から供給される直流電流を、電動アクチュエータ11を駆動するための三相電流に変換する。インバータ回路から電動アクチュエータ11に電力を供給する電気経路は3本であっても良い。インバータ回路は電流センサを有しており、電気経路に流れる電流を検出する。電流センサはホール素子あるいはカレントトランスあるいはシャント抵抗により実現されていてもよい。電流の零点あるいは、電流センサの零点は、電動アクチュエータに電流が流れていない時の値に相当する。
【0033】
ストロークセンサ170は、入力ロッド151や入力ピストン152(以下これらを軸部材と記す)の位置を表す情報を出力する。運転者はブレーキペダル2の端5を踏むことによって車両運動を操作しようとするが、運転者がブレーキペダル2を踏み込むと、入力ロッド151や入力ピストン152(軸部材)が図の左側の方に押し込まれ、その変位をストロークセンサ170で検出して制御装置4に取り込む。図2において、ストロークセンサ170は、ブレーキペダル2に取り付けられているが、システムの構成次第では、電動倍力装置1と一体あるいは電動倍力装置1の内部に設けても良い。ストロークセンサ170がブレーキペダル2に取り付けられている場合、ストロークセンサ170はブレーキペダル2のストローク量を検出するセンサであるが、ブレーキペダル2と入力ロッド151は幾何学的関係が決まっているので、ブレーキペダル2のストローク量から軸部材の位置を計算できる。ストロークセンサ170は、回転センサであっても良いが、直動センサであってもよい。ストロークセンサ170は可変抵抗を用いたポテンショメータあるいはロータリエンコーダであっても良いし、回転スリットを用いて光ピックアップで検知する方式であっても良いし、磁気素子を用いて、磁気の変化を検知する方式であっても良い。
【0034】
入力ロッド151や入力ピストン152(軸部材)の零点は、電動アクチュエータ11に電流が供給されていない状態で、さらにブレーキペダル2が踏まれていない状態であり、この時はマスタシリンダは油圧出力がでていない。しかし原点をどこにするかは、ある基準で定め、常時その条件を原点とすれば良く、電動倍力装置1においては、入力ロッド151とストッパ118がちょうど当接する位置を軸部材の原点すなわち零点としても良い。また、そのときのストロークセンサ170の出力値をストロークセンサ170の原点すなわち零点として使用しても良い。
【0035】
電動アクチュエータ11の制御では、電動アクチュエータ11の回転子112の位置や、軸部材の位置や、マスタシリンダ10が出力する油圧や、電動アクチュエータに供給される電流値、が重要な制御値である。ところが、軸部材の位置の原点すなわち零点は、電動倍力装置1の組立や、ストロークセンサの取り付け精度や、温度や、制御装置の読み取り回路のばらつき、及び経年によって変化する。油圧センサや電流センサの零点も、温度や、制御装置の読み取り回路のばらつき、及び経年によって変化する。さらに、電動アクチュエータの回転子112の位置は、回転センサからの出力に基づいて計算により求めるため、制御装置4が起動した直後は、電動アクチュエータ11の回転子112の零点は不明である。そのため、電動アクチュエータ11の制御を正確に行うには、リアルタイムでの零点の学習と、学習した零点によるセンサ値の補正が重要である。
【0036】
ストロークセンサ170や油圧センサ140,油圧センサ141,モータの電流を計測するセンサの零点は、それぞれの検出対象の基準となるものであり、これらの原点が上述の如くいろいろな要因により、ずれる可能性があるので、学習により正確に零点を検知することが望ましい。この実施の形態では、零点の学習条件は上述したとおりである。すなわち、学習の条件は、運転者がブレーキペダル2を踏んでおらず、車両通信系統46から制御要求を受けていない条件である。また、油圧装置21が油圧を制御している場合、マスタシリンダ10の油圧や入力ロッド151や入力ピストン152や加圧部材の位置が変動する可能性があるので、零点の学習は、油圧制御装置21が油圧を制御していない場合に行うことが望ましい。
【0037】
電動アクチュエータ11あるいはブースタピストン102(以下加圧部材と記すことがある)の零点は、電動アクチュエータ11あるいは上記加圧部材をある基準を超えて後退側に移動させた条件で、学習可能である。特に後退方向に移動できる限界位置に達したことを条件として学習することができる。
【0038】
図2において、ストッパ116とストッパ118が当接する位置を零点をすることができ、その位置を、電動アクチュエータ11あるいは上記加圧部材を後退側の動作できる限界位置であるとして、この位置に到達したことを学習の条件としても良い。なお、この条件は学習条件の一つであり、他の条件に基づいて学習開始の条件としても良い。望ましいことは、学習条件が満たされたことがどのようにして判別できるかである。電動アクチュエータが後退側に動作できる限界の位置に達したことを開始条件とすると、学習条件の判断が容易であるとの効果が有る。例えば、ストッパ116とストッパ118が当接してさらに電動アクチュエータが負側に回転すると、ストッパ117が図2左側に移動することで電動アクチュエータの位置が負側に動作する構造としても良い。
【0039】
電動アクチュエータ11の位置の零点の学習は、電動アクチュエータ11を後退側に動作させ、後退動作の限界に達した時点、例えば電動アクチュエータが停止した位置を検出し、この検知に基づいて、零点の学習動作を行うことができる。このようにすることにより制御が容易になるだけでなく、制御の信頼性が向上する。
【0040】
電動アクチュエータの位置の零点と限界位置が同じ場合、電動アクチュエータの位置の零点は、電動アクチュエータが限界位置にある時に学習した値を用いるが、電動アクチュエータの位置の零点と限界位置が異なる場合、電動アクチュエータの位置の零点は、電動アクチュエータが限界位置にある時に学習した値に特定の値を加えた値を用いる。ここで特定の値は、電動アクチュエータの位置の零点と限界位置の差であり、電動倍力装置の構造によって定まる。ここで、電動アクチュエータの位置の零点は、制御装置が起動してから代わることは無く、また、電動アクチュエータの位置を検出しているセンサは、温度条件によるドリフトがほとんどあるいは全く無い。そこで、電動アクチュエータの位置の零点は一度取得できれば、制御装置が起動している間は、制御の開始や特定の条件のときのみとし、常時学習することは行わないとしても良い。重要なことは、後退動作の限界と関係を持つ条件を制御の原点とすることである。このようにすることで、制御が容易となることに加え制御の信頼性が向上する。
【0041】
軸部材(入力ロッド151や入力ピストン152)が、ブレーキペダル2や電動アクチュエータ11から推力を受けていない条件で、電動倍力装置1のある構造材同士が常に当接する構成とし、この当接状態を零点の学習の条件とすると頻繁に構造材同士が当接することとなる。すなわち、運転者のブレーキ操作や制御装置自身の動作によりあるいは他の制御装置からの制御要求により、電動倍力装置1がマスタシリンダ10に対して推力を発生させている場合、ブースタピストン102(以下加圧部材と記す)は電動アクチュエータ11により前進方向に移動する、次に制動力の発生制御が終了すると、前記加圧部材が零点に戻り、この時構造材同士が当接する。このような構造では、ブレーキ操作を行う度に構造材同士が頻繁にぶつかり合うことになる。このような構造では、構造材同士が頻繁にぶつかり合うので、当接する構造材の耐久寿命が短くなる可能性があり、信頼性が低下する。さらに、当接に発生する音が問題となる可能性がある。
【0042】
零点の学習値は何度も利用できるので、零点の学習をブレーキ操作のたびに行う必要が無い。零点学習を行わない運転状態では、前記学習条件である構造材同士が当接するまで加圧部材を後退させる動作を行うのではなく、マスタシリンダ10の液圧が出力されない位置まで加圧部材を後退移動させたときに後退移動を停止する。制御判断条件としては、(1)ブレーキ操作が行われていない条件であっても、(2)加圧部材の零点学習タイミングでは無い場合に、上記加圧部材の後退位置を構造材同士の当接位置の手前の待機位置に到達した条件で停止する。他の制御装置の指令で電動アクチュエータ11が駆動される制御が有る場合には、上記(1)や(2)の条件に加え、(3)他の制御装置から電動アクチュエータ11の駆動指令が出ていない条件も加えて判断し、上記(1)〜(3)の条件で加圧部材が待機位置で移動を停止するように電動アクチュエータ11を制御する。
【0043】
零点の学習を行う条件として、加圧部材が待機位置に有る場合とする。学習動作の開始時に、加圧部材を待機位置から構造材同士が当接する位置に移動する。このようにすることにより、電動アクチュエータあるいは加圧部材が待機位置よりも負側に移動するのは、零点学習を行う時とし通常の制御では待機位置で停止するようにする。このような制御により、構造材同士が当接する回数が非常に少なくなる。また、零点学習を行う場合に、電動アクチュエータあるいは加圧部材が後退する速度は比較的遅いので、当接による影響が少ない。なお、加圧部材が待機位置にいてもマスタシリンダ10は実質的な油圧を発生しない構造となっている。すなわち、マスタシリンダ10のプライマリ液室104とセカンダリ液室106は、図示されていないリザーバに接続された状態となっている。加圧部材が図2の左方向に移動するとプライマリ液室104やセカンダリ液室106と図示されていないリザーバとの接続が遮断され、その後加圧動作の状態に入る。前記リザーバとの接続が遮断された後、マスタシリンダ10の圧力が出力される。
【0044】
なお、電動アクチュエータが後退方向に移動している際に、限界位置をこえて後退しようとすると、ストッパにぶつかるなどの理由で、大きなトルクを発生させる可能性があり、電動倍力装置1の構造材が、変形や破損してしまう可能性がある。そのため、零点学習動作において、電動アクチュエータが後退方向に移動している際には発生させるトルクの最大値に制限をかける制御をこの実施の形態では、行い、電動アクチュエータ11の発生トルクの制限値を構造材の許容トルク以下に設定している。
【0045】
入力ロッド151や入力ピストン152の零点の位置の判断を、ブレーキペダル2が踏み込まれた位置とご判断しないように、本実施例では、ブレーキペダル2を操作されていない条件で、学習動作を行うようにしている。なお、ストロークセンサ170の出力値だけで判断してもよいが、更に信頼性を高める場合には、次のようにする。即ち、運転者がブレーキペダル2を微小に踏んでいる場合とストロークセンサがドリフトした場合との区別でき難しくなる心配がある。このような問題に対処することで、更に信頼性が向上する。この実施例では、零点を学習する動作において、加圧部材を移動させることにより、ばねを介して入力ロッドに加わるセット荷重を変化させる。通常、加圧部材が零点あるいは待機位置にある場合、入力ロッド151や入力ピストン152には放し方向に数10Nのセット荷重が掛かっており、運転者がブレーキペダル2を踏み込んでストロークさせるためにはそれ以上の力を入力ロッド151や入力ピストン152に加える必要がある。また、運転者がブレーキペダル2を踏んでいなければ、加圧部材が前進方向に移動しても、ある移動量までは入力ロッド151や入力ピストン152の位置は変動しない。しかし、運転者がブレーキペダル2を踏んでいる場合、セット荷重分は運転者の踏力が相殺しているため、加圧部材が移動すると、入力ロッド151や入力ピストン152の位置も変化する。
【0046】
図3を参照して、運転者がブレーキペダル2を操作している状態かどうかの判断を正確に検知するための原理を説明する。先ず最初に運転者がブレーキペダル2を操作していない状態の動きを説明する。先ず、全く制動制御が行われていない状態を説明する。この場合は、電動アクチュエータ11に駆動電流が供給されていないので、回転子112には回転トルクが発生していない。またブレーキペダル2も踏み込まれていないので、軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152にはブレーキペダル2による推力が作用していない。この状態では、軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152と加圧部材であるブースタピストン102との間には図2に示すばね180やばね181が設けられており、このばね180や181により、軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152と加圧部材であるブースタピストン102との位置関係が定まる。この状態でブレーキペダル2が少し踏まれると軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152が微妙に図2の左側であるマスタシリンダ10の方に移動し、ばね180が微妙に伸び、ばね181が微妙に縮んだ状態となる。ブレーキペダル2の踏み込み操作がなくなると、軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152は、ばね180やばね181により再び元の位置に戻り、軸部材に作用するばね180やばね181の力がバランスした状態となる。
【0047】
上述のとおり、ブレーキペダル2が若干踏み込まれているのか、それともセンサのドリフトなどのノイズの影響なのかを見極めることか難しい。しかし、零点学習により正確に零点を把握するには、上記見極めが大変重要となる。ブレーキペダル2が若干踏み込まれているのかどうかを正確に検知する方法として、上記検知のために加圧部材であるブースタピストン102を少し移動させてみる方法が有効である。以下図3を参照して、上記検知方法を説明する。
【0048】
図3は、加圧部材を少しマスタシリンダ10側に動かした場合の軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152の位置と加圧部材の位置との関係を示す。特性201は、ブレーキペダル2が踏み込まれていない状態での軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152と加圧部材であるブースタピストン102との位置関係を示す。電動アクチュエータ11の駆動により加圧部材が前進方向に静かに移動すると、前記ばね180が少しずつ伸び一方前記ばね181が少しずつ縮む。軸部材に作用するばね181の押し圧が増加してくるが加圧部材が位置203に達するまでは軸部材は静止摩擦などの影響で移動せず静止した状態である。位置203を越えてに加圧部材がマスタシリンダ10側に移動すると、軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152が移動し始め、特性201のように移動する。
【0049】
次にブレーキペダル2が若干踏み込まれた状態の軸部材と加圧部材との位置関係を特性202で示す。ブレーキペダル2が若干踏み込まれているので、軸部材は図3の点204まで既に移動しており、前記ばね180が少し伸び、一方前記ばね181が少し縮んだ状態にある。この状態で、電動アクチュエータ11の駆動により加圧部材が前進方向に静かに移動すると、特性202に示すように、前記加圧部材の移動に追随して直ぐに軸部材である入力ロッド151や入力ピストン152が変動する。
【0050】
次にブレーキペダル2が踏み込まれていないのに、ストロークセンサ170の出力にドリフトなどの影響が現れた状態での特性を、特性205で示す。ドリフトなどの影響のため、ストロークセンサ170の出力はブレーキペダル2が踏み込まれたと同様の出力である、例えば点204に近い出力を示している。しかし、ブレーキペダル2が踏み込まれていないので、ばね180とばね181とが軸部材に作用している力は略同じである。次に加圧部材であるブースタピストン102が電動アクチュエータ11よって静かにマスタシリンダ10の方に移動すると、ばね180が少しずつ伸びまたばね181が少しずつ縮み、ばね181が軸部材を押す力が徐々に大きくなる。加圧部材が位置203を越えて移動すると、軸部材が移動し始める。従ってこの場合の軸部材の移動特性は特性205のようになる。上記説明で、位置203はそれぞれのケースで少しずれるかもしれないが基本的な特性は上記説明のとおりである。
【0051】
図3に示す特性202と特性205との違いから、センサの出力に少しずれがあっても、ブレーキペダル2が踏込まれているかどうかの判別を正確に行うことができる。この結果、ブレーキペダル2が踏み込まれていない状態を正確に検知して、零点学習を行うことが可能となる。
【0052】
上記説明の如く、電動アクチュエータ11により加圧部材であるブースタピストン102を若干移動させることで、ブレーキペダル2の踏み込みの有無を正確に検知できるが、この検知のための加圧部材の移動で、マスタシリンダ10の油圧が発生しないことが望ましい。マスタシリンダ10のプライマリ液室104やセカンダリ液室106は、加圧部材であるブースタピストン102の待機位置では、リザーバに繋がっており、加圧部材が所定の距離移動すると前記リザーバとプライマリ液室104やセカンダリ液室106との間の油の通路が遮断されて液圧の上昇が始まる。上記検知のための加圧部材の移動を前記油の通路が遮断されない範囲で行うことにより、上記検知による液圧の上昇を抑えられる。上記検知のための移動範囲を確保するために、図2の装置において、前記加圧部材の待機位置より加圧部材の基準点である零点を後退側に、すなわちブレーキペダル2の側に置くことが有効である。
【0053】
通常の制動力制御では、ブレーキペダル2が行われていない状態で、加圧部材であるブースタピストン102を、マスタシリンダ10が液圧を発生しない待機位置に保持し、零点学習を行う場合に待機位置より、ブレーキペダル2側に加圧部材であるブースタピストン102を移動させることが望ましい。このようにすれば、通常の制動力制御でのブースタピストン102の移動開始からマスタシリンダ10の油圧上昇開始までの遊びを少なくして、応答性を良くしても、学習動作に悪影響を与えない。また上述の当接部材の当接回数を減少でき、耐久性を向上できる。また、当接時の加圧部材の移動速度を小さくでき、この点でも耐久性や信頼性を向上できる。
【0054】
上記のとおり、ブレーキペダル2の操作の有無を正確に検知できるので、図3の特性205のようなストロークセンサ170の出力誤差、あるいは油圧センサ140や油圧センサ141の出力誤差の補正が可能となる。
【0055】
さらに、電動アクチュエータの待機位置PPsおよび、入力ロッド151とブースタピストン102の力の関係と位置関係を図4(a)(b)に基いて説明する。ブレーキペダル2の放し方向に常時プリセット荷重510が作用しており、図4(a)に示すごとく、ブレーキペダル2が踏まれていない時は、踏力520=0<プリセット荷重510の状態であり、ブースタピストン102を押し込む方向に動かしても、ブースタピストン102に引っ張られる力530<プリセット荷重510の範囲では入力ロッド151は一定位置IRsから動かない状態である。
【0056】
図4(b)に示すごとく、ブースタピストン102を押し込む方向(矢印方向)に動かし、この動きに引き摺られて入力ロッド151が動き出す位置が図3の位置203で示す、位置PPssであり、引き摺られて入力ロッド151が動く特性A(図3の特性201に対応)の場合は、ブレーキペダル2の踏み込みが無い状態である。一方、ブレーキペダル2が踏み込まれているときに、踏力520>プリセット荷重510の状態では、ブースタピストン102を押し込む方向に動かすと、ブースタピストン102の動きにより生じる引っ張られる力530により、軸部材であるブースタピストン102や入力ロッド151が動き出す状態である。加圧部材であるブースタピストン102の零位置PP0から引き摺られて入力ロッド151が動き出す位置PPssまでの間に待機位置PPsが設定されている。
【0057】
図4(b)において、の電動アクチュエータの位置PP0からPPssの間において、ブレーキペダル2が踏み込まれると、入力ロッド151が動き出してブレーキペダル2の操作となるが、ブースタピストン102は待機位置PPsまでしか移動していないので、位置PP0からPPsの間で入力ロッド151が動く特性Bの場合にブレーキペダル2が操作されている状態と判断する。なお、図4(b)において、入力ロッド151の位置は零位置IR0として示しているが、ドリフトがある場合にはセンサ出力が示す入力ロッド151の位置は点線で示す特性となる。
【0058】
また、マスタシリンダの油圧の零点はマスタシリンダに油圧が掛かっていない時に学習する必要があるので、零点学習動作において、電動アクチュエータの位置が待機位置よりも後退側にある場合に学習を行う。
【0059】
また、電動アクチュエータの電流の零点は電動アクチュエータに電流が流れていない場合に学習する。制御装置が電動アクチュエータへの通電を遮断している時に零点の学習を行うようにする。また、電動アクチュエータが回転していると磁界による誘起電圧が発生し電動アクチュエータに電流が流れるため、電流の零点の学習は、電動アクチュエータが回転していない時に行う必要がある。図2に示す電動倍力装置にはバネ109が備えられているので、制御装置が通電を遮断しても、電動アクチュエータが回転しないのは、電動アクチュエータの位置が零点にある時だけである。したがって、この実施例では、電動アクチュエータが待機位置にある場合は電流の零点は学習できない。そこで、零点学習動作の途中で、制御装置からの通電を遮断し電流の零点を学習する。
【0060】
図5,図6は、図2に示した電動倍力装置の零点学習の一例である。図5は、零点学習のフロー、図6は時間経過に従って電動アクチュエータの回転位置、すなわち加圧部材であるブースタピストン102の位置PPの移動状態を示す図である。
【0061】
電動アクチュエータ11の零点学習フローは、零点学習の開始条件の判定ステップS1と零点学習動作SOと零点学習キャンセルステップSCと零点学習値の更新ステップS11で構成される。零点学習動作SOは、電動アクチュエータの回転位置の零点を学習する零点学習動作SOmと、入力ロッド151や入力ピストン152の位置を検出するセンサ例えばストロークセンサ170、あるしはマスタシリンダ10が供給する油圧を検出する油圧センサ140あるいは油圧センサ141、電動アクチュエータ11に供給される電流値を検出するセンサ、等の零点を学習する零点学習動作SOpで構成されている。ステップS1で、零点学習の開始条件の判定を実行し、開始条件が成立して零点学習動作SOが実行されるYES判定になるまでステップS1を繰り返し実行する。
【0062】
図6(a)(b)に示す動作図で、時点t10や時点t20と時点t11やt21との間はすなわち時点t11やt21以前は、制動力を発生させている状態から電動アクチュエータの位置を後退方向に動作させて制動力制御を終了する過程である。時点t11からt12の間、あるいはt21からt22の間は、制動力制御が終了して零点学習の開始条件の成立を判定している期間であり、時点t12,t22で零点学習の開始条件が成立(YES判定)した場合の例である。ステップS1で零点学習の開始条件が成立しYESと判定すると、零点学習動作SOが実行される。なお、零点学習の開始条件の詳細については後述する。
【0063】
零点学習動作SOのステップS2では、図6(a)の時点t12、あるいは図6(b)のt22から電動アクチュエータを後退方向に移動させて、加圧部材を引き戻すことにより、マスタシリンダ油圧を零とし、零点学習動作SOm、およびSOpにおいてマスタシリンダ油圧の影響を受けないようにしている。
【0064】
電動アクチュエータの位置の零点学習動作SOmにおけるステップS3からステップS5について、図6(a)の時点t12から時点t14までの電動アクチュエータの位置PPの移動状態を参照して説明する。まず、最初のステップS3では、時点t12からの電動アクチュエータの戻し動作の開始後、この時点以前に電動アクチュエータ位置の零点学習が実行されたか否かの判定を実行する。電動アクチュエータの回転位置あるいはブースタピストン102の位置の零点学習は、電動倍力装置が起動された後に1回行えば十分であり、繰り返し何度も行わなくても検出された零点を保持して何度も使用することが可能でアある。このことにより、スライド軸115のストッパ116とハウジングのストッパ118の衝突回数を減らすことができる。
【0065】
新たに起動されてから、すなわち車両のキースイッチが投入されて電動倍力装置1の動作が開始されてから、電動アクチュエータ位置の零点学習が一度も完遂されていない場合(判定がNO)は、電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmが実行され、電動アクチュエータ位置の零点学習が既に済み(判定がYES)の状態では、零点学習動作SOpに実行が移る。ステップS3がNO判定では、図6(a)に示す時点t12から開始した電動アクチュエータの戻し動作(ステップS2)を継続して、電動アクチュエータを限界位置Mendまで移動する。電動アクチュエータの限界位置Mendは、例えば、スライド軸115のストッパ116がハウジングのストッパ118に当接した後も、電動アクチュエータの取り付け構造により、回転子112が僅かに回転し、電動アクチュエータの位置PPがPP=0であっても回転子112が押し込まれた位置Mendとなる。この時点が図6(a)に示す時点t13である。
【0066】
このように、電動アクチュエータの位置PP0でハウジングのストッパ118に衝突し、その後、位置Mendで電動アクチュエータのトルクが電動倍力装置の構造材に加わるため、衝撃を緩和するため、時点t12から開始される電動アクチュエータの戻し動作では、戻し速度を比較的低速な速度、例えば一定速度とし、電動アクチュエータ電流を制限することで過大なトルクが構造材に加わらないようにしている。なお、電動倍力装置の構造によっては、位置MendがPP=0に一致させることも可能であり、図6(a)の動作が唯一のものではない。
【0067】
ところで、低温時においては、ブレーキ液の粘性の増加や電動倍力装置内のグリスの粘性の増加によって、電動アクチュエータの限界位置Mend(電動アクチュエータの回転が停止する位置)までの移動時間(図6(a)時点t12からt13の時間)が、長くなる場合や、あるいは限界位置まで到達できない場合がある。零点学習動作中は制動力を発生させることができないため、ステップS4では、電動アクチュエータの限界位置Mendまでの時間が所定時間を超えるかどうか判定し、NO判定では、電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmを中断するようにしている。
【0068】
ステップS5では、図6(a)の時点t13からt14の電動アクチュエータの限界位置Mendにおいて、電動アクチュエータ位置の零点(位置PP0)を学習し、その学習値に基いて、電動アクチュエータの位置PPやブースタピストン102の零点を補正する。なお、電動アクチュエータの限界位置Mendと電動アクチュエータの位置PP0が一致しない図6(a)の例では、電動アクチュエータ位置の零点Mendから位置PP0の位置ずれは所定値として設定されており、電動アクチュエータ位置の限界位置Mendに所定値を加算した位置PP0を零点としている。
【0069】
次に、零点学習動作SOpが実行されるが、零点学習動作SOpは、ステップS5の電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmが終了した場合と、ステップS3で電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmがすでに実行ずみ(YES判定)の場合の2通りによって実行される。
【0070】
零点学習動作SOmが終了した場合、電動アクチュエータ11の位置は限界位置Mendにいるので、限界位置と零点が異なっている場合は、必要に応じてステップS6において、電時点t14から動アクチュエータの位置を零点(PP0)に移動する。また、ステップ6において、SOmが終了したことを示すSOm終了フラグをたて、次のステップ3において学習済の判断に使用する。
【0071】
まず、電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmが終了した場合について、ステップS7からステップS9を図6(a)のt14からt18に示す電動アクチュエータ11の位置PPの移動状態に基づいて説明する。ステップS7において、電動アクチュエータ11の位置が零点(PP0)になるまで待機する。ステップS8では、時点t15からt16の期間、電動アクチュエータ電流を零とする。PP0は電動倍力装置の部品寸法公差を考慮して設定されるため、電動アクチュエータ電流を零にすると、加圧部材とバネとの釣り合いによって、電動アクチュエータの位置PPは、後退して位置PP2で静止する。
【0072】
ステップS9では、時点t16からt17の電動アクチュエータが静止している位置PP2において、電動アクチュエータ位置以外の零点学習、すなわち電動アクチュエータの電流、入力ロッド151や入力ピストン152の位置、マスタシリンダ油圧の零点を学習する。ただし、ステップS9で学習された値は、ステップS9では補正値として使用されず、S11に至った場合にのみ、補正値として使用される。
【0073】
ステップS2(時点t12)から開始した零点学習動作は、ステップS9(時点t17)までで、主要センサ零点学習値が取得されるステップS10では、待機位置PPsまで、電動アクチュエータを動作させる。
【0074】
ステップS11は、電動アクチュエータが待機位置PPsとなった時点t18において、ステップS9で取得した電流、入力ロッド151や入力ピストン152の位置、及び油圧の零点学習値が有効であるとして、学習した値でそれぞれのセンサ値を補正する。ステップS11までで、電動倍力装置の零点学習動作が終了する。
【0075】
次に、電動アクチュエータ位置の零点学習動作SOmがすでに実行ずみで、電動アクチュエータの位置の学習値が取得されている場合は、ステップS3がYES判定となり、電動アクチュエータの零点学習動作SOmは実行されず、零点学習動作SOpが実行される。零点学習動作SOpにおけるステップS7からS10について、図6(b)の時点t22からt26までの電動アクチュエータの位置PPの移動時様態を参照して説明する。なお、図6(b)の時点t22以前は図6(a)の時点t12以前と同一でステップS1〜S2が実行されている期間であり、説明を省略する。
【0076】
ステップS7では、図6(b)に示す時点t22を開始点として電動アクチュエータの後退動作を開始し、電動アクチュエータの位置の零点PP0を目標値として移動させる。なお、電動アクチュエータの位置の零点PP0は、電動倍力装置の部品寸法の公差を考慮して、かならず真の零点か真のゼロ点より前進側に設定されている。これは、零点学習動作SOpが、電動倍力装置の起動後、ステップS1の零点学習の開始条件が成立する毎に実行されるため、時点t22からt23の期間の戻し動作が頻繁となり、取り付け公差によってはスライド軸115のストッパ116とハウジングのストッパ118が衝突する耳障りな衝突音が発生する場合があるのでその解消と、衝突部の磨耗を低減するためである。電動アクチュエータが位置PP0に移動した時点t23は、図6(b)の時点t15と同一時点であり、時点t23以降は、図6(a)の時点t15以降と同一動作となって、ステップS9(時点t24からt25)で電流、入力ロッド151や入力ピストン152の位置、及び油圧の学習値が取得され、ステップS10(時点t25からt26)で電動アクチュエータを待機位置PPsまで移動し、ステップS11(時点t26)で学習値を使用してセンサ値を補正することで、電動倍力装置の零点学習が終了する。
【0077】
図6(a)の時点t11からt18、(b)の時点t21からt26の間において、零点学習キャンセルステップSCのキャンセル条件が成立しない状態であって、入力ロッド151が動かない状態を、ブレーキペダル2の操作が行われていない状態と判断し、時点t18または時点t26で、零点学習値を使用するようにしている。
【0078】
上述した零点学習動作SOは、電動アクチュエータ11の動作要求があった時点で中断することが必要である。
【0079】
図5に示す零点学習キャンセルステップSCでは、零点学習のキャンセル条件成立を判定し、YES判定では、零点学習動作SOを中断し、ステップS1の零点学習の開始条件を判定するようにしている。なお、零点学習のキャンセル条件については後述する。
【0080】
図5の学習フローでは、電動アクチュエータ11の位置に関する基準点すなわちブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習はステップS3で間引かれるので、センサの零点の学習に対して実行回数を減らすことができる。油圧センサ140と141や電流センサは温度の影響など、出力に影響を与える要因が、上記ブースタピストン102の進退移動に関する基準点の計測センサに対して多い。従って油圧センサ140と141や電流センサの学習は特定の周期で繰り返し実行し、これに比べ上記ブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習を少なくする。例えば図5の実施例の如く、車の運転開始時にブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習がなされると車の運転中はこの学習を繰り返し実行することを避け、車の運転開始時に取得した学習値を繰り返し使用する。これにより不必要に頻繁に、電動アクチュエータ11の位置に関する基準点すなわちブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習を実行することを避けることができる。
【0081】
次に、ステップS1の零点学習動作の開始条件について説明する。零点学習動作においては、電動アクチュエータを後退方向に移動させるため、発生させていた制動力を減少させる可能性がある。零点学習動作においてブレーキペダル2が微小に踏み込まれていた場合は、学習した値が制御に使用されることはないが、学習動作自体において制動力を減少させてしまう可能性を極力少なくするため、零点学習動作の開始条件は、以下の条件を単独、あるいは任意に組み合わせて、設定する。
【0082】
条件1.制御装置が起動直後である場合、零点学習動作を開始しても良い。これは、制御装置の起動直後は、零点学習値が取得できていないためである。車のキースイッチが投入されると、制御装置4が制御に使用している制御用コンピュータ(以下CPUと記す)は、動作開始状態すなわち起動状態にはいる。CPUは図5の学習開始条件の成立を判断する。キースイッチの操作時にブレーキペダル2が操作されることが多いが、例えばアクセルペダルの操作に移る、あるいは機械式のパーキングブレーキが動作しているなどのより、ブレーキペダル2の操作が行われていない状態となると、ステップS1の以下に示す他の学習開始条件の成立を判断し、ステップSOmを実行する。回転子112の基準点である零点の更新を車の始動後出きるだけ早く行うことで、信頼性の高い車両の制動力制御が実現できる。更に加えて、計測に使用する油圧センサや電流センサ、ストロークセンサなどの零点を、車の始動後速やかに更新することで、制御の信頼性が向上する。またゼロ点が規定の範囲を超える異常値を示した場合にセンサを含む計測系の異常が考えられ、零点の更新動作は異常診断にも使用使用できる。
【0083】
条件2.入力ロッド151や入力ピストン152の位置あるいは油圧の変動がない状態が、所定時間継続している場合、零点学習動作を開始しても良い。入力ロッド151や入力ピストン152の位置あるいは油圧はセンサのドリフトがあるため値の大小だけでは運転者の踏み込みがあるかどうか判定できないが、値が変動している場合は間違いなく運転者の操作があると判定できる。そのため、入力ロッド151や入力ピストン152の位置あるいは油圧の変動がない状態が、所定時間継続していることが、零点学習動作の開始条件となる。ここで、所定時間の定義は、引き摺りなどにより、車両に影響を与えない時間となり数秒〜数10秒の時間である。また、入力ロッド151や入力ピストン152の位置や油圧が大きな値である場合は、ドリフトよりも踏み込みである可能性が高いので、所定時間を長くすることが有用である。したがって、入力ロッド151や入力ピストン152の位置や油圧で、所定時間を可変としても良い。
【0084】
条件3.入力ロッド151や入力ピストン152の位置が特定の範囲内である場合、零点学習動作を開始しても良い。入力ロッド151や入力ピストン152の零点は、センサのドリフトやセンサの取り付け誤差などで変動があるが、それらは範囲が決まっている。そのため、入力ロッド151や入力ピストン152の位置あるいはストロークセンサの値がドリフトや取り付け誤差などによる特定の範囲内である場合を、零点学習動作の開始条件としても良い。
【0085】
条件4.油圧が油圧センサのドリフトの範囲内である場合、零点学習動作を開始しても良い。油圧の零点の範囲は、センサのドリフト範囲で決まっている。そのため、油圧あるいは油圧センサの値がドリフトや取り付け誤差などによる特定の範囲内である場合を、零点学習動作の開始条件としても良い。
【0086】
条件5.車両制御装置22から、制御要求を受けていない場合、零点学習動作を開始しても良い。
【0087】
条件6.油圧装置21が、油圧を制御していない場合、零点学習動作を開始しても良い。また油圧装置21が、横滑り防止制御(VDC),アンチロックブレーキ制御装置(ABS),トラクション制御装置(TCS)が動作していない場合、零点学習動作を開始しても良い。
【0088】
条件7.アクセルペダルが操作されている場合、零点学習動作を開始しても良い。アクセルペダルを踏み込んだ状態は加速の意志であり、電動倍力装置の動作なしとし、零点学習動作を開始しても良い。
【0089】
条件8.車両が一定車速で走行しているか、車両が加速している場合、電動倍力装置の動作なしとし、零点学習動作を開始しても良い。
【0090】
次に零点の学習動作を止めるためのステップSC(以下キャンセルと記す)の条件について説明する。キャンセル条件は、基本的にはブレーキ制御が行われている可能性があること条件である。ステップS1の零点学習動作の開始条件とは相反する条件である。
【0091】
図5に示す学習動作が実行中であっても、制御装置4が制御に使用している制御用コンピュータ(以下CPUと記す)は、CPUが通常備えている割り込み処理機能を有しており、割り込み機能を利用して条件の不成立が生じた場合に、ステップSOmやステップSOpの実行が中断され、直ちにステップSCに移る。ステップSCでは、ステップS1の零点学習動作の開始条件の内、条件3〜条件8のどれかが成立している場合、キャンセル条件が成立しているとして、零点学習動作を中止する。また、入力ロッド151や入力ピストン152の位置あるいは油圧が変動した場合に、キャンセル条件が成立しているとして、零点学習動作を中止する。学習動作を中断した場合には、車両の制動力制御を実行する。なお、次に学習動作に入る場合には、中断中の残りを実行しても良いが、この実施の形態では、信頼性を向上するためにステップS1である最初から実行を開始する。
【0092】
上述の実施の形態によれば、電動倍力装置における零点学習動作により、以下の効果を得ることができる。零点学習動作SOにより、電動アクチュエータ位置、入力ロッド151や入力ピストン152の位置、油圧,電流の零点について、動作開始条件が成立した後、電動アクチュエータを動作させて、零点を学習し、運転者のブレーキペダル2踏み込みが無いことを確認してから学習した値を用いてそれぞれのセンサの値を補正することによって、正確な零点に基いた制動力制御を行うことができる。また、ゼロ手点学習動作をすることによって、センサのドリフトと運転者が微小に踏み込んでいる場合を区別して誤学習した値で制動力制御が行われることを防ぐことができる。
【0093】
本実施例を示す図2の電動アクチュエータ11では、ブースタピストン102は、電動アクチュエータで直進させるスライド軸115とスプリング109の押し付け力で連動する機構であり、ブースタピストン102を押し込んだ位置(図4(b)のPP0からPPssの範囲)において、入力ロッド151が動いた時をブレーキペダル10の人踏みと判定するようにしている。しかし、本発明は、スプリング109によりブースタピストン102がスライド軸115と連動する機構に限定されるものではない。
【0094】
例えば、入力ロッド151や入力ピストン152と加圧部材が一体化され、一体部材を電動アクチュエータで制御する機構の電動倍力装置がある。この機構では、加圧部材を移動させるとおのずと入力ロッド151や入力ピストン152も動作してしまうが、このような機構ではブレーキペダル2を放し方向に移動させるセット荷重がブースタピストンにも伝達されるため、加圧部材および入力ロッド151や入力ピストン152を前進方向に動かすためにはセット荷重以上のトルクを発生させる必要がある。そこで、電動アクチュエータの前進方向にトルクを発生させ、入力ロッド151や入力ピストン152が動いた場合、運転者がブレーキペダル2を踏み込んでいると判定するようにしても、実施例1と同等の作用、効果を得ることができる。本発明の本質は、運転者がブレーキペダル2を踏んでいるかどうかを判別できるように電動アクチュエータを制御することを特徴とするため、トルクのみを出力して、入力ロッド151や入力ピストン152(一体部材)の変動で判別を行っても、本発明の趣旨になんら反するものではない。
【0095】
マスタシリンダ10が供給する液圧を正確に制御するには、求める液圧を発生させるためのブースタピストン102の目標の移動量あるいは目標位置をブレーキペダル2の操作量に基づいて制御装置により求め、実際のブースタピストン102の移動量あるいは現在位置を測定し、実際の移動量あるいは現在位置が前記目標の移動量あるいは目標位置となるように制御する。上記実際の移動量あるいは現在位置は、図2に示す回転センサ113の出力を計数することで求められる。上記回転センサ113は例えばレゾルバであり、回転子の磁極の位置を検知し、磁極の回転数を計数することで、回転子112の回転量を求める。前記回転量とブースタピストン102の移動量あるいは現在位置は対応関係にあり、前記回転量から求められる。正確な移動量あるいは正確な現在位置を求めるには、上記回転センサの単位回転に対応するを計数するを行うための基準点、すなわち零点の誤差を無くすことである。上記実施の形態に示すとおり、ブースタピストン102がストッパ116に機械的に当接した位置を上記計数の零点あるいは基準点とすることで、上記目標に対する実際の移動量や実際の位置が正確に求められる。これにより制御精度が向上する。またストロークセンサ170や圧力センサは、ブレーキペダル2の操作がなされていない状態は測定対象が零値を示す出力値となるべきであり、基準値である零値との差異が明確に計測できるので、ドリフトやオフセット値の補正を正確に行える。
【0096】
上述の実施の形態では、機械的な基準位置を有しており、前記機械的な基準位置に基づいて電動アクチュエータ11の回転位置の基準点やブースタピストン102の移動量あるいは位置を計測するための基準点を定めているので、正確且つ簡単に基準点を検知できる。
【0097】
上記機械的な基準位置とは、上記実施の形態ではストッパ116であり、前記ストッパ116にブースタピストン102のストッパ117が接することで機械的に基準位置に達したことを検知できるように構成している。この検知できた位置を基準点として、上述のとおり回転センサ113の出力に基づき、回転子112の単位回転量を計数することで、ブースタピストン102の移動量や現在位置を正確に計測できる。これにより計測精度が向上し、制御精度が向上する。
【0098】
なお上記実施の形態において、前記ストッパ116は固定部材であり、車体に対して電動倍力装置1が固定されたことにより、前記固定部材の位置が定まる。この固定部材に接するストッパ117は加圧材と共に移動する移動部材である。この移動部材の移動量は電動アクチュエータ11の回転子112の回転量に対応している。また回転センサ113は回転子112の単位回転に対応した信号を出力するので、回転センサ113の出力に基づく計数値はやはり前記移動部材の移動量に対応している。上記実施の形態では、マスタシリンダ10が油圧を発生するためのピストンとして作用すると加圧部材と共に、前記移動部材が移動する構成とし、前記移動部材と前記固定部材との機械的な関係に基づいて、基準点として使用可能な零点を検知している。このため、構造が単純で高い精度が得られる。また移動部材が前記固定部材の位置に達したことを検知して、この検知に基づいて前記基準点として使用可能な零点を定めているので、高い精度で基準点すなわち零点を検知することができる。なお、前記移動部材が前記固定部材の位置に達したことを検知する方法としては、上記実施の形態として説明したとおり、前記移動部材が前記固定部材の位置に達したときに機械的に前記移動部材が前記固定部材に衝突するようにし、この衝突により回転電機の回転子112の回転が停止したことを、制御装置4が前記回転センサ113の出力に基づいて検知することで、可能となる。
【0099】
また図5の実施例の如く、車の運転開始時にブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習がなされると車の運転中はこの学習を繰り返し実行することを避け、車の運転開始時に取得した学習値を繰り返し使用する。これにより不必要に頻繁に、電動アクチュエータ11の位置に関する基準点すなわちブースタピストン102の進退移動に関する基準点の学習を実行することを避けることができる。また、温度の影響を受け易い油圧センサ140や油圧センサ141、電流センサは所定の周期で繰り返し、学習動作を実行するので、信頼性が向上する。
【0100】
図5の実施例では、上述の如くSOmやSOpの実行に優先して、学習動作を中止するSC動作を行うので、信頼性が向上する。また上記優先処理は、上述したとおり、制御装置4が使用するCPUの割り込み機能を利用して行うので、優先処理を簡単に達成できる。
【符号の説明】
【0101】
2 ブレーキペダル
4 制御装置
10 マスタシリンダ
11 電動アクチュエータ
21 油圧装置
22 車両制御装置
46 車両通信系統
102 ブースタピストン
104 プライマリ液室
109 バネ
110 固定子
111 ベアリング
112 回転子
113 回転センサ
116 スライド軸ストッパ
117 ブースタピストンストッパ
118 ハウジングストッパ
140,141 圧センサ
151,152 入力ロッド
170 ストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、
前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、
前記加圧部材の移動量あるいは位置を計測するために使用するセンサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置はブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、
さらに前記制御装置は前記加圧部材の位置あるいは移動の基準点を学習動作により求めることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動倍力装置において、
固定された位置に設けられた固定部材と、
前記加圧部材の移動に対応して移動する移動部材と、を備え、
前記制御装置が、前記移動部材が前記固定部材の位置に達したことを検知し、この検知にもとづき、前記基準点を学習することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動倍力装置において、
前記固定部材は、前記加圧部材が進退移動する移動軸に沿った位置に設けられた第1のストッパであり、
前記移動部材は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパであり、
前記制御装置は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパが前記第1のストッパに接したことに基づき、前記基準位置を学習することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電動倍力装置において、
前記制御装置は、前記マスタシリンダが制動力を発生するための油圧を発生しない前記加圧部材の位置を待機位置とし、さらに待機位置より前記マスタシリンダから遠い位置に前記固定部材を設け、
ブレーキペダルの操作状態からブレーキペダルの操作がなされていない状態になったときに、前記制御装置は前記電動アクチュエータを制御して、前記加圧部材を前記待機位置に移動し、
学習動作において、前記制御装置は前記移動部材が前記固定部材の位置に到達するように、前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項5】
車両の制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、
前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を計測するための圧力センサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置はブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、
さらに前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、この検知に基づいて、前記圧力センサの零点を学習動作により検知することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動倍力装置において、
前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、ブレーキペダルが操作されていない状態において、前記加圧部材の位置あるいは移動の基準点の学習を実行し、
前記圧力センサの零点の学習を、前記移動量の基準点の学習よりも高い頻度で実行することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項7】
ブレーキペダルの操作に基づき進退移動する軸部材と、
制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、
前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、
前記加圧部材の移動量あるいは位置を計測するために使用するセンサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、ブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、
さらに前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、ブレーキペダルが操作されていない状態で、加圧部材の位置あるいは移動の基準点を学習動作により求めることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動倍力装置において、
固定された位置に設けられた固定部材と、
前記加圧部材の移動に対応して移動する移動部材と、を備え、
前記制御装置が、前記移動部材が前記固定部材の位置に達したことを検知し、この検知にもとづき、前記基準点を学習することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電動倍力装置において、
前記固定部材は、前記加圧部材が進退移動する移動軸に沿った位置に設けられた第1のストッパであり、
前記移動部材は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパであり、
前記制御装置は、前記加圧部材と共に移動する第2のストッパが前記第1のストッパに接したことに基づき、前記基準位置を学習することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の電動倍力装置において、
前記制御装置は、前記マスタシリンダが制動力を発生するための油圧を発生しない前記加圧部材の位置を待機位置とし、さらに待機位置より前記マスタシリンダから遠い位置に前記固定部材を設け、
ブレーキペダルの操作状態からブレーキペダルの操作がなされていない状態になったときに、前記制御装置は前記電動アクチュエータを制御して、前記加圧部材を前記待機位置に移動し、
学習動作において、前記制御装置は前記移動部材が前記固定部材の位置に到達するように、前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項11】
車両の制動力を発生するために使用される油圧を発生するためのマスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を制御するための加圧部材と、
前記加圧部材を進退移動するための電動アクチュエータと、
前記マスタシリンダが発生する油圧を計測するための圧力センサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置はブレーキペダルの操作に基づき前記電動アクチュエータを制御することにより、前記マスタシリンダが発生する油圧を制御し、
さらに前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、この検知に基づいて、前記圧力センサの零点を学習動作により検知することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電動倍力装置において、
前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知し、ブレーキペダルが操作されていない状態において、前記加圧部材の位置あるいは移動の基準点の学習を実行し、
前記圧力センサの零点の学習を、前記移動量の基準点の学習よりも高い頻度で実行することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項13】
請求項7乃至請求項12の内の一に記載の電動倍力装置において、
前記制御装置は、ブレーキペダルが操作されていない状態を検知するために、前記加圧部材を移動させ、前記加圧部材の移動に基づく前記軸部材の移動を検知し、前記軸部材の移動に基づいてブレーキペダルの操作の有無を判断することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の内の一に記載の電動倍力装置において、
車両が加速している条件に基づいてセンサの零点の学習を行うことを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の電動倍力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−73532(P2011−73532A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225922(P2009−225922)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】