説明

電動圧縮機

【課題】キャンセルスラスト力が作用するスラストディスクを備える電動圧縮機の小型・軽量化を図る。
【解決手段】電動圧縮機1において、インペラ10の回転に起因して回転軸20に作用するスラスト力を減少させるキャンセルスラスト力が作用するスラストキャンセラ機構50は、インペラ10と電動機のロータ8との間で回転軸20に設けられたスラストディスク51と、スラストディスク51が収納される圧力室52を形成する圧力室壁53とを備える。スラストディスク51は、圧力室52をインペラ10側に位置する高圧室52aとロータ8側に位置する低圧室52bとに区画し、高圧室52a内にはインペラ10により圧縮された加圧空気が圧力通路54を通じて導かれる。キャンセルスラスト力は、高圧室52aの圧力と低圧室52bの圧力との差圧により発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機により駆動されるインペラを備える電動圧縮機に関する。そして、該電動圧縮機は、例えば、燃料電池システムに備えられて、カソード側電極に供給される酸化剤ガスとしての空気を圧縮するために使用される。
【背景技術】
【0002】
電動機により回転駆動される回転軸と一体に回転するインペラと、インペラの回転に起因して回転軸に作用するスラスト力を減少させるキャンセルスラスト力が作用するスラストディスクとを備える電動圧縮機は知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、一般に、回転軸の軸受装置として、回転軸との間に空気膜を形成するフォイル軸受もよく知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−86395号公報
【特許文献2】特表平11−503811号公報
【特許文献3】特開2001−295836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動圧縮機において、その軸方向でスラストディスクが電動機を挟んでインペラとは反対側に配置される場合、インペラにより圧縮された加圧気体をスラストディスクが収納される圧力室に導くための圧力通路の長さが長くなって、該通路での圧力損失が大きくなる。このため、所要のキャンセルスラスト力を発生させるためには、該圧力損失による圧力の低下分を補償する必要があり、そのためにスラストディスクを大きくすると、電動圧縮機が大型化し、重量が増加する。
また、スラストディスク分、圧縮機が軸方向に大型化する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、キャンセルスラスト力が作用するスラストディスクを備える電動圧縮機の小型・軽量化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、電動機(7)のロータ(8)により回転駆動される回転軸(20)を回転可能に支持するハウジング(2)と、前記回転軸(20)と一体に回転するインペラ(10)と、前記インペラ(10)の回転に起因して前記回転軸(20)に作用するスラスト力(Fa)を減少させるキャンセルスラスト力(Fb)が作用するスラストキャンセラ機構(50)とを備える電動圧縮機において、前記スラストキャンセラ機構(50)は、軸方向で前記インペラ(10)と前記ロータ(8)との間において前記回転軸(20)に設けられたスラストディスク(51)と、前記スラストディスク(51)が収納される圧力室(52)を形成する圧力室壁(53)とを備え、前記スラストディスク(51)は、前記圧力室(52)を、軸方向で、前記インペラ(10)側に位置する高圧室(52a)と前記ロータ(8)側に位置する低圧室(52b)とに区画し、前記高圧室(52a)内には、前記インペラ(10)により圧縮された加圧気体が圧力通路(54)を通じて導かれ、前記キャンセルスラスト力(Fb)は、前記高圧室(52a)の圧力と前記低圧室(52b)の圧力との差圧により発生する電動圧縮機である。
【0007】
これによれば、スラストディスクが軸方向でインペラと電動機のロータとの間のスペースを利用して配置されること、さらにキャンセルスラスト力により、スラストディスクを圧力室壁からキャンセルスラスト力の方向に離隔させることにより、スラスト軸受の省略も可能になることから、軸方向で電動圧縮機を小型化できる。
さらに、スラストディスクのこの配置により、高圧室が軸方向でロータよりもインペラの近くに位置することから、該高圧室に加圧流体を導く圧力通路の通路長を短くできるので、圧力通路での加圧流体の圧力損失を減少できる。この結果、圧力損失が減少する分、高圧の加圧流体を高圧室に供給できるので、所要のキャンセルスラスト力を得るために、圧力損失が大きい場合に比べて、スラストディスクの小型化が可能になり、電動圧縮機を小型・軽量化できる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電動圧縮機であって、前記圧力通路(54)は、前記加圧流体が流れるスクロール流路(15)において、軸方向で最も前記ロータ(8)に近い部位に、前記加圧流体の取出口(54a)を有し、前記圧力通路(54)の全体は、径方向で前記取出口(54a)と前記高圧室(52a)との間に位置し、軸方向で前記インペラ(10)と前記スラストディスク(51)との間に位置するものである。
これによれば、圧力通路の全体が、径方向で取出口と高圧室との間に位置し、軸方向でインペラとスラストディスクとの間に位置するので、圧力通路の通路長が短くなる。この結果、圧力通路での加圧流体の圧力損失を減少できて、スラストディスクの小型化が可能になる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の電動圧縮機であって、前記圧力通路(54)には、前記加圧気体の圧力を調整する圧力調整部(55)が設けられるものである。
これによれば、圧力調整部により高圧室に導かれる加圧気体の圧力が調整されるので、加圧気体の圧力が変動する場合にも、キャンセルスラスト力の変動を抑制できて、スラストキャンセラ機構の機能を安定化できる。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の電動圧縮機であって、前記低圧室(52b)内には、前記圧力室壁(53)において前記低圧室(52b)を形成する低圧室壁(53b)に、または軸方向で前記低圧室壁(53b)と対向する前記スラストディスク(51)に、フォイル軸受(58)が設けられるものである。
これによれば、加圧気体の圧力変動により、高圧室の圧力が一時的に高圧になる場合にも、フォイル軸受により形成される空気膜によりスラストディスクの軸方向移動が規制されるので、スラストディスクと圧力室壁との接触の発生を防止または抑制できる。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の電動圧縮機であって、前記低圧室(52b)の気体を逃がすリーク通路(59)が設けられるものである。
これによれば、低圧室の気体がリーク通路を通じて流出することから、低圧室の圧力を低下させることが容易になり、スラスト力を減少させる大きさのキャンセルスラスト力の形成が容易になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャンセルスラスト力が作用するスラストディスクを備える電動圧縮機の小型・軽量化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である電動圧縮機の全体を示す断面図である。
【図2】図1の電動圧縮機のモジュールを説明する図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1に示される本発明の実施形態である電動圧縮機1は、機械としての車両に搭載される燃料電池システムに備えられて、酸化剤ガスとしての空気を供給する遠心式圧縮機である。
電動圧縮機1は、ハウジング2と、ハウジング2に収納される電動機7と、電動機7により回転駆動される回転軸20と、回転軸20をハウジング2に回転可能に支持するための軸受装置40と、回転軸20と一体に回転するインペラ10と、回転軸20とインペラ10とを一体に結合する締結部材30と、インペラ10の回転に起因して回転軸20に前方に向かって作用するスラスト力Faを減少させるキャンセルスラスト力Fbが後方に向かって作用するスラストキャンセラ機構50とを備える。
【0015】
なお、本発明および実施形態において、軸方向は、回転軸20の回転中心線Lに平行な方向であるとし、径方向および周方向は、それぞれ回転中心線Lを中心とする径方向および周方向であるとする。また、便宜上、前後方向は軸方向に平行な方向であるとし、前方は、回転軸20または電動機7のロータ8に対して軸方向でインペラ10が位置する方向であるとする。
【0016】
ハウジング2は、複数の羽根10aを有するインペラ10を収納する共にインペラ10に吸入されて圧縮される気体としての空気が流れる給気流路11を形成するインペラハウジング3と、電動機7のロータ8およびステータ9を収納すると共にインペラハウジング3に結合されるモータハウジング4と、モータハウジング4に結合される端部ハウジング5とを備える。モータハウジング4は、軸方向で、インペラハウジング3と端部ハウジング5との間に配置される。
そして、インペラハウジング3、モータハウジング4および端部ハウジング5により、電動圧縮機1の内部空間6が形成される。
【0017】
燃料電池システムの酸化剤ガス供給系統に連通する気体供給流路としての給気流路11は、インペラ10よりも上流に位置して空気を取り入れる入口流路12と、入口流路12からの空気がインペラ10により圧縮される圧縮流路13と、インペラ10よりも下流に位置してインペラ10により圧縮された加圧気体としての加圧空気が流通する出口流路とを有する。該出口流路は、圧縮流路13の下流に連なるディフューザ流路14と、ディフューザ流路14の下流に連なるスクロール流路15とから構成される。
【0018】
インペラハウジング3は、入口流路12および圧縮流路13を形成する前部ハウジング3aと、該前部ハウジング3aにボルトB1により結合される後部ハウジング3bとを有する。ディフューザ流路14およびスクロール流路15の一部は、前部ハウジング3aおよび後部ハウジング3bの協働により形成される。
【0019】
モータハウジング4は、円筒状の内側ハウジング4bと該内側ハウジング4bを囲む外側ハウジング4aとを有する。ロータ8およびステータ9は、内側ハウジング4bの径方向内方において主内部空間6aに収納される。この主内部空間6aは、モータハウジング4と後記仕切壁18と後記主端部壁5aとにより形成される。
内側ハウジング4bの外周面に形成された溝と外側ハウジング4aの内周面との間には、ステータ9を冷却する冷却流体としての冷却水が流通する螺旋状の冷却通路7aが形成される。
【0020】
端部ハウジング5は、外側ハウジング4aに結合される主端部壁5aと、主端部壁5aの後方に配置されて該主端部壁5aに結合される副端部壁5bとを有する。主端部壁5aと副端部壁5bとは、回転軸20の回転位置を検出する回転位置センサ60および後記後側締付部33が収納される副内部空間6bを形成する。そして、主内部空間6aと副内部空間6bにより内部空間6が構成される。主端部壁5aは、主内部空間6aと副内部空間6bとを仕切る仕切壁である。主端部壁5aには、ステータ9を冷却する冷却空気を主内部空間6aに導入する導入口5cが設けられる。
【0021】
3相交流式のブラシレスモータである電動機7は、回転軸20の一部を構成する円筒状のロータ8と、ロータ8の径方向外方に所定の径方向クリアランスを形成して配置されるステータ9とを備える。ロータ8は、界磁としての永久磁石からなる磁石8aと、磁石8aを囲んで配置されて該磁石8aを収納する円筒状のモータ軸8bとから構成される。ロータ8を全周に渡って囲むステータ9は、電機子としての鉄心を有する円筒状に形成された3相の巻線により構成され、該3相の巻線の端子7bが外側ハウジング4aに配置される。
【0022】
図2を併せて参照すると、回転軸20は、ロータ8と、軸方向でロータ8を挟んで配置される1対のベアリング軸21,22とから構成される。前方から順次配列されたインペラ10と、ロータ8の前方に配置される前側軸としての前側ベアリング軸21と、ロータ8と、ロータ8の後方に配置される後側軸としての後側ベアリング軸22と、スペーサとは、この順番で、インペラ10、両ベアリング軸21,22、ロータ8およびスペーサ25の中心部を軸方向に平行に挿通するテンション軸31を備える締結部材30により、軸方向および周方向に相対移動不能に結合されて、該締結部材30と共に1つの圧縮機回転ユニットを構成する。
【0023】
前側ベアリング軸21および後側ベアリング軸22は、径方向でテンション軸31との間に円筒状の筒状空間を形成する円筒状の筒状部21a,22aと、筒状部21a,22aから径方向内方に延びている内向きフランジ部21b,22bとを有する。各内向きフランジ部21b,22bは、その内周面でテンション軸31の被支持部31b1,31d1を支持する。
【0024】
前側ベアリング軸21の筒状部21aは、前端部でインペラ10の嵌合部10bの外周にインロー嵌合し、後端部でロータ軸8bの内周にインロー嵌合する。後側ベアリング軸22の筒状部22aは、前端部でロータ軸8bの内周にインロー嵌合し、後端部でスペーサ25の嵌合部25aの外周にインロー嵌合する。また、前側ベアリング軸21の外周面には、インペラ10の後方に形成される背後空間17とスラストディスク51が収納される圧力室52とを仕切る仕切壁18との間にラビリンスシール23が設けられ、後側ベアリング軸22の外周面には、主端部壁5aとの間にラビリンスシール24が設けられる。
ここで、インロー嵌合とは、互いに嵌合する2つの部材の嵌合部において、一方の嵌合部の外径と他方の嵌合部の内径とがほぼ等しい嵌合を意味する。
【0025】
締結部材30は、テンション軸31と、いずれもテンション軸31に設けられてインペラ10、前側ベアリング軸21、ロータ8、後側ベアリング軸21およびスペーサ25を軸方向で締め付ける前側締付部32および後側締付部33とを備える。締結部材30の前端部を構成すると共にインペラ10に当接して後方に押圧する前側締付部32は、テンション軸31と一体成形される。それゆえ、テンション軸31と前側締付部32とは、前側締付部32を頭部とし、テンション軸31を軸部とするボルトを構成する。後側締付部33は、テンション軸31に設けられたネジ部31nに螺合することでテンション軸31と一体に設けられたネジ部材であるナットにより構成される。それゆえ、後側締付部33は、テンション軸31に対して着脱可能である。
締結部材30は、インペラ10とロータ8と両ベアリング軸21,22とスペーサ25とを軸方向に締め付けて一体化する。そして、前側締付部32はインペラ10を後方に押圧し、後側締付部33は後側ベアリング軸22を前方に押圧する。
【0026】
テンション軸31は、後方に向かって、インペラ10に挿入されているインペラ挿入部31aと、前側ベアリング軸21に挿入されている前側ベアリング軸挿入部31bと、ロータ8に挿入されているロータ挿入部31cと、後側ベアリング軸22に挿入されている後側ベアリング軸挿入部31dと、ネジ部31nが設けられた後軸端部31eとを有する。
【0027】
インペラ挿入部31aおよび前側ベアリング軸挿入部31bの外径は、ロータ挿入部31cおよび後側ベアリング軸挿入部31dおよび後軸端部31eの外径よりも大きい。そして、テンション軸31は、前側締付部32から後方に向かうにつれて、その外径が大径にならない形状、すなわち外径が小径になるかまたは等しい径となる形状になっている。
前側ベアリング軸挿入部31bは、その被支持部31b1において内向きフランジ部21bに支持され、後側ベアリング軸挿入部31dは、その被支持部31d1において内向きフランジ部22bに支持される。
【0028】
図1,図2を参照すると、主内部空間6a内に配置される軸受装置40は、前側ベアリング軸21を回転可能に支持する軸受である前側ラジアル軸受41(図2も参照)と、後側ベアリング軸22を回転可能に支持する軸受である後側ラジアル軸受46とを備える。各ラジアル軸受41,46は、主内部空間6a内に収納される軸受保持部材である環状の軸受保持プレート42,47と、軸受保持プレート42,47の内周面にベアリング軸21,22と径方向で対向して配置されるフォイル軸受43,48とから構成される。
【0029】
前側軸受保持プレート42は、ボルト(図示されず)により仕切壁18に結合されて設けられる。仕切壁18は、ボルトB2により外側ハウジング4aの前端壁4a1に結合されて設けられる。また、後側軸受保持プレート47は、ボルトB3により主端部壁5aに結合されて設けられる。
フォイル軸受43,48は周知のものであり、該フォイル軸受43,48により、回転軸20の回転により前側ベアリング軸21とフォイル軸受43との間および後側ベアリング軸22とフォイル軸受48との間に、それぞれベアリング軸21,22を囲んで円環状の空気膜が形成され、該空気膜によりベアリング軸21,22が浮動状体で回転する。
【0030】
図2,図3を参照すると、スラストキャンセラ機構50は、軸方向でインペラ10とロータ8との間において回転軸20の前側ベアリング軸21に設けられたスラストディスク51と、スラストディスク51が収納される円環状の圧力室52を前側ベアリング軸21と協働して形成する圧力室壁53と、スクロール流路15の圧力を圧力室52に導く圧力通路54を形成する配管56を有する通路形成部材と、圧力通路54に設けられる圧力調整部としてのオリフィスである固定オリフィス55とを備える。
【0031】
図3を参照すると、圧力室壁53は、仕切壁18の一部である高圧室壁53aと、前側軸受保持プレート42の一部である低圧室壁53bと、仕切壁18の一部である外周室壁53cとから構成される。高圧室壁53aおよび低圧室壁53bは、圧力室壁53において、可動室壁であるスラストディスク51を挟んで軸方向で互いに対向して配置される軸方向室壁である。したがって、スラストディスク51は、軸方向で、インペラ10と、ロータ8(図2参照)の前方に位置する軸受保持プレート42との間に配置される。
【0032】
円形外周部を有するフランジ部として前側ベアリング軸21に一体成形により形成されたスラストディスク51は、圧力室52を、スラストディスク51に対して、インペラ10側に位置する高圧室52aと、ロータ8側に位置する低圧室52bとに、軸方向で区画する。高圧室壁53aと外周室壁53cとにより形成される高圧室52a内には、インペラ10により圧縮された加圧空気が圧力通路54を通じて導かれる。一方、低圧室52bは、低圧室壁53bと外周室壁53cとにより形成される。
【0033】
図1を併せて参照すると、キャンセルスラスト力Fbは、高圧室52aの圧力と低圧室52bの圧力との差圧により発生し、回転軸20およびインペラ10は、スラスト力Faおよびキャンセルスラスト力Fbの大きさに応じて、軸方向に移動可能である。
このキャンセルスラスト力Fbは、この実施形態では、スラスト力Faとほぼ釣り合うまでに該スラスト力Faを減少させ、電動圧縮機1の作動中に、スラストディスク51を高圧室壁53aからキャンセルスラスト力Fbの方向に離隔させて、該高圧室壁53aとの間に軸方向空隙が形成されるような大きさに設定される。このため、電動圧縮機1には、前記スラスト力Faを受け止めるためのスラスト軸受が設けられていない。
【0034】
また、径方向でスラストディスク51の外周部51cと外周室壁53cとの間には、微小な径方向空隙が形成され、所要のキャンセルスラスト力Fbが得られる範囲で、高圧室52a内の空気が該径方向空隙を通じて低圧室52b内に流出する。
そして、低圧室52b内の気体は、前側軸受保持プレート42と前端壁4a1または前側ベアリング軸21との微小な空隙から低圧室52bよりも低い圧力になっている低圧空間としての主内部空間6aに流出する。
【0035】
圧力通路54を形成する前記通路形成部材は、後部ハウジング3bの一部である後壁3b1と仕切壁18の外周部とに接続される配管56と、圧力通路54を構成する孔57が設けられた仕切壁18とから構成される。圧力通路54は、スクロール流路15において軸方向で最もロータ8に近い部位に開口する取出口54aと、高圧室52aに開口する出口54bとを有する。
固定オリフィス55により、スクロール流路15での加圧空気の圧力室52への流入量が調整されて、高圧室52aの圧力がほぼ設定値に維持される。
また、低圧室52b内において、低圧室壁53bには、スラストディスク51との間に空気膜の形成が可能なスラスト用のフォイル軸受58が設けられる。
【0036】
図2に示されるように、インペラ10、両ベアリング軸21,22、ロータ8、仕切壁18、前側ラジアル軸受41、スペーサ25、回転位置センサ60の被検出部62および該被検出部62を固定する固定具であるナット63は、ハウジング2に組み付けられる前に、テンション軸31を含む締結部材30により互いに予め組み付けられて一体化されたモジュールMを構成する。
【0037】
図1を併せて参照すると、1つの部材としてのモジュールMは、インペラハウジング3および端部ハウジング5が組み付けられる前のモータハウジング4に前方から挿入されて、仕切壁18が外側ハウジング4aの前端壁4a1にボルトB2により結合されて、ハウジング2の所定位置に取り付けられる。
その後、後側ラジアル軸受46が結合された主端部壁5aが、後方から後側ベアリング軸22に挿入されて、モータハウジング4にボルトB4により結合され、次いで、回転位置センサ60の検出部61が主端部壁5aに取り付けられる。
その後、副端部壁5bが主端部壁5aにボルトB5により結合されて、次いで配管56が気密に後壁3b1に挿入されるように、インペラハウジング3が外側ハウジング4aの前端壁4a1に結合されて、電動圧縮機1が組み立てられる。
【0038】
図1,図3を参照して、電動圧縮機1の作動について説明する。
電動機用制御装置(図示されず)により制御された相電流がステータ9の各巻線に供給されて、電動機7が回転し、該電動機7により回転駆動されるインペラ10が入口流路12から吸入した空気を圧縮する。インペラ10により圧縮された加圧空気は、燃料電池システムの酸化剤ガス供給系統を経てカソード側電極に供給される。
そして、スラストキャンセラ機構50においては、スクロール流路15を流れる加圧空気の一部が圧力通路54を通じて、そして固定オリフィス55により流量調整された後に、高圧室52aに供給される。これにより、スラストディスク51には、スラスト力Faとほぼ釣り合うキャンセルスラスト力Fbが作用し、スラストディスク51と高圧室壁53aとの間に軸方向空隙が形成された状態で、回転軸20およびインペラ10が軸方向でほぼ同じ位置に維持される。
【0039】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
電動圧縮機1において、インペラ10の回転に起因して回転軸20に作用するスラスト力Faを減少させるキャンセルスラスト力Fbが作用するスラストキャンセラ機構50は、インペラ10とロータ8との間において回転軸20に設けられたスラストディスク51と、スラストディスク51が収納される圧力室52を形成する圧力室壁53とを備え、スラストディスク51は、圧力室52をインペラ10側に位置する高圧室52aとロータ8側に位置する低圧室52bとに区画し、高圧室52a内にはインペラ10により圧縮された加圧空気が圧力通路54を通じて導かれ、キャンセルスラスト力Fbは、高圧室52aの圧力と低圧室52bの圧力との差圧により発生し、スラストディスク51を圧力室壁53の高圧室壁53aからキャンセルスラスト力Fbの方向に離隔させる。
この構造により、スラストディスク51が軸方向でインペラ10と電動機7のロータ8との間のスペースを利用して配置されること、さらにキャンセルスラスト力Fbにより、スラストディスク51を圧力室壁53からキャンセルスラスト力Fbの方向に離隔させることにより、スラスト軸受が省略されて不要になることから、軸方向で電動圧縮機1を小型化できる。さらに、スラストディスク51のこの配置により、高圧室52aが軸方向でロータ8よりもインペラ10の近くに位置することから、該高圧室52aに加圧空気を導く圧力通路54の通路長を短くできるので、圧力通路54での加圧空気の圧力損失を減少できる。この結果、圧力損失が減少する分、高圧の加圧空気を高圧室52aに供給できるので、所要のキャンセルスラスト力Fbを得るために、圧力損失が大きい場合に比べて、スラストディスク51の小型化が可能になり、電動圧縮機1を小型・軽量化できる。
【0040】
圧力通路54は、インペラ10により圧縮された空気が流れるスクロール流路15において、軸方向で最もロータ8に近い部位に、加圧空気の取出口54aを有し、圧力通路54の全体は、径方向で取出口54aと高圧室52aとの間に位置し、軸方向でインペラ10とスラストディスク51との間に位置することにより、圧力通路54の通路長が短くなる。この結果、圧力通路54での加圧流体の圧力損失を減少できて、スラストディスク51の小型化が可能になる。
【0041】
圧力通路54には、加圧空気の圧力を調整する圧力調整部である固定オリフィス55が設けられることにより、該固定オリフィス55により高圧室52aに導かれる加圧空気の圧力が調整されるので、加圧空気の圧力が変動する場合にも、キャンセルスラスト力Fbの変動を抑制できて、スラストキャンセラ機構50の機能を安定化できる。
【0042】
低圧室52b内には、圧力室壁53において低圧室52bを形成する低圧室壁53bにフォイル軸受43,48が設けられることにより、加圧空気の圧力変動により、高圧室52aの圧力が一時的に高圧になる場合にも、フォイル軸受58により形成される空気膜によりスラストディスク51の軸方向移動が規制されるので、スラストディスク51と圧力室壁53との接触の発生を防止または抑制できる。
【0043】
そして、回転バランスを調整した状態のモジュールMをハウジング2のモータハウジング4に組み付けることにより、回転軸20をモータハウジング4に組み付ける際にインペラ10と、回転軸20のロータ8および両ベアリング軸21,22とが分解される場合に比べて、組付後の回転バランスの調整が不要になるので、電動圧縮機1の生産性が向上する。
【0044】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
図3に二点鎖線で示されるように、低圧室52bの空気をハウジング2の主内部空間6,6a,6bに逃がすリーク通路59が、仕切壁18の後面に設けられた溝により形成されてもよい。このリーク通路59は、仕切壁18と前側軸受保持プレート42と仕切壁18との対向面に形成され、リーク通路59を流れる空気は、一部分が前端壁4a1と前側軸受保持プレート42との間の空隙を通って主内部空間6aに流出し、残りの部分が後部ハウジング3bおよび前端壁4a1の間で主内部空間6aに流出する。
この構造により、これによれば、低圧室52bの気体がリーク通路59を通じて流出することから、低圧室52bの圧力を低下させることが容易になり、スラスト力Faを減少させる大きさのキャンセルスラスト力Fbの形成が容易になる。
【0045】
低圧室52b内に配置されるスラスト用のフォイル軸受58は、低圧室壁53bに設けられたが、低圧室壁53bの代わりに、スラストディスク51における該低圧室壁53bと軸方向で対向する側に設けられてもよく、また低圧室壁53bおよびスラストディスク51の両方に設けられてもよい。この場合にも、前記実施形態と同様の作用効果が奏される。
電動圧縮機1が、高圧室52aの圧力を検出する圧力センサと、該圧力センサにより検出された圧力に基づいてオリフィスの径を調整するアクチュエータを制御する制御部とを備える制御装置を備え、圧力調整部が、該アクチュエータにオリフィスの径が調整される可変オリフィスにより構成されてもよい。
キャンセルスラスト力Fbは、スラスト力Faを減少させるものの、スラスト力に比べて小さくてもよい。この場合、高圧室52a内において、高圧室壁53aおよびスラストディスク51の少なくとも一方の、軸方向で互いに対向する部位に、フォイル軸受が設けられて、スラストキャンセラ機構50がスラスト軸受を兼ねることになる。
燃料電池システムは、車両以外に使用されてもよく、例えば汎用のものであってもよい。また、電動圧縮機1は、燃料電池システム以外の装置に使用されてもよく、また空気以外の気体を圧縮するものであってもよい。
電動圧縮機は、軸流式のインペラを備える軸流式圧縮機であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 電動圧縮機
2 ハウジング
7 電動機
8 ロータ
10 インペラ
15 スクロール流路
20 回転軸
21,22 ベアリング軸
30 締結部材
31 テンション軸
50 スラストキャンセラ機構
51 スラストディスク
52 圧力室
54 圧力通路
55 固定オリフィス
Fa スラスト力
Fb キャンセルスラスト力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機のロータにより回転駆動される回転軸を回転可能に支持するハウジングと、前記回転軸と一体に回転するインペラと、前記インペラの回転に起因して前記回転軸に作用するスラスト力を減少させるキャンセルスラスト力が作用するスラストキャンセラ機構とを備える電動圧縮機において、
前記スラストキャンセラ機構は、軸方向で前記インペラと前記ロータとの間において前記回転軸に設けられたスラストディスクと、前記スラストディスクが収納される圧力室を形成する圧力室壁とを備え、
前記スラストディスクは、前記圧力室を、軸方向で、前記インペラ側に位置する高圧室と前記ロータ側に位置する低圧室とに区画し、
前記高圧室内には、前記インペラにより圧縮された加圧気体が圧力通路を通じて導かれ、
前記キャンセルスラスト力は、前記高圧室の圧力と前記低圧室の圧力との差圧により発生することを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の電動圧縮機であって、
前記圧力通路は、前記加圧流体が流れるスクロール流路において、軸方向で最も前記ロータに近い部位に、前記加圧流体の取出口を有し、
前記圧力通路の全体は、径方向で前記取出口と前記高圧室との間に位置し、軸方向で前記インペラと前記スラストディスクとの間に位置することを特徴とする電動圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動圧縮機であって、
前記圧力通路には、前記加圧気体の圧力を調整する圧力調整部が設けられることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の電動圧縮機であって、
前記低圧室内には、前記圧力室壁において前記低圧室を形成する低圧室壁に、または軸方向で前記低圧室壁と対向する前記スラストディスクに、フォイル軸受が設けられることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の電動圧縮機であって、
前記低圧室の気体を逃がすリーク通路が設けられることを特徴とする電動式圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−202641(P2011−202641A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73289(P2010−73289)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】