説明

電動工具

【課題】可動部材をスライド移動させて行う減速比の切り替え作業を、確実に行うことのできる電動工具を提供する。
【解決手段】減速機構部2は、遊星ギア列21と、軸方向にスライド自在な可動部材32と、減速機ケース4とを有し、可動部材32のスライド移動によって複数段の変速が行われる電動工具において、さらに、操作部材5と、減速機ケース4のスライド溝42と操作部材5の作動溝51が重なる部分に挿通され且つ可動部材32に連結される支持部材34と、操作部材5を移動させる駆動部7と、可動部材32に対してスライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段6とを備える。付勢手段6は、操作部材5に対してその移動方向への付勢力を付与する弾性体61から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具に関し、特に、遊星ギア列を備えて複数段の減速比の切り替えを可能とした電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、遊星ギア列と、この遊星ギア列に対し係合又は離脱する可動部材とを備え、この可動部材を移動させることにより、複数段の変速を可能とした電動工具が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この種の電動工具として、例えば、図10に示されるような減速機構部を備えたものがある。この減速機構部では、周方向に多数の歯部を有するキャリア90と、前記キャリア90の出力側ギアに噛み合うプラネットギア91と、このキャリア90及びプラネットギア91に噛み合う歯部を有するリングギア92とを備えている。リングギア92は、軸方向にスライド自在となっており、その歯部がキャリア90の歯部に対し係合又は離脱する。
【0004】
リングギア92は、キャリア90とプラネットギア91に対して歯部同士が噛み合う位置(図10(a)の位置)と、キャリア90の歯部から離脱してプラネットギア91及びその他のギア93に対して歯部同士が噛み合う位置(図10(c)の位置)との間を移動する。なお、この例におけるその他のギア93は、減速機ケースに固設されたギアであり、その歯部は、リングギア92の外周部に突設された歯部と噛み合うように構成されている。
【0005】
図10に示す電動工具では、リングギア92が可動部材となっており、この可動部材を軸方向に移動させることで、減速比が変更されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−101545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような構成の電動工具において、例えばリングギア92である可動部材をスライド移動させて前記ギア93の歯部と噛み合わせるとき、両者の歯部がうまく噛み合わなかった場合には、可動部材はそれ以上移動できず、図10(b)に示すような位置でスライド移動がロックされてしまう。この場合、電動工具は減速比の切り替えができないという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、移動部材をスライド移動させて行う減速比の切り替え作業を、確実に行うことのできる電動工具を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明の電動工具を、下記構成を具備したものとする。
【0010】
本発明の電動工具は、駆動源となるモータと、前記モータの回転動力を伝達する減速機構部とを備え、前記減速機構部は、遊星ギア列と、前記遊星ギア列の軸方向にスライド自在であって該遊星ギア列に対し係合又は離脱する可動部材と、前記遊星ギア列及び前記可動部材を収容する減速機ケースとを有し、前記可動部材のスライド移動によって複数段の変速が行われる電動工具において、前記減速機ケースの内外を貫通し且つ前記軸方向に沿って設けられたスライド溝と、前記軸方向に対して傾斜した方向に沿って貫設された作動溝を前記スライド溝の一部と重なる位置に有し且つ前記減速機ケースの外周に配された操作部材と、前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通され且つ前記可動部材に連結される支持部材と、前記操作部材を移動させる駆動部と、前記駆動部が前記操作部材を所定位置にまで移動させて前記可動部材をスライド移動させたとき、前記可動部材に対して、前記スライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段とを備える。前記付勢手段は、前記操作部材に対してその移動方向への付勢力を付与する弾性体から成ることを特徴とする。
【0011】
前記付勢手段は、前記可動部材が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、前記付勢力を及ぼすものである。
【0012】
また、前記付勢手段は、前記駆動部により駆動される中間部材と、前記中間部材と前記操作部材の間に介在される前記弾性体とから成ることも好ましい。
【0013】
また、前記課題を解決するために本発明の電動工具を、下記構成を具備したものとしてもよい。
【0014】
本発明の電動工具は、駆動源となるモータと、前記モータの回転動力を伝達する減速機構部とを備え、前記減速機構部は、遊星ギア列と、前記遊星ギア列の軸方向にスライド自在であって該遊星ギア列に対し係合又は離脱する可動部材と、前記遊星ギア列及び前記可動部材を収容する減速機ケースとを有し、前記可動部材のスライド移動によって複数段の変速が行われる電動工具において、前記減速機ケースの内外を貫通し且つ前記軸方向に沿って設けられたスライド溝と、前記軸方向に対して傾斜した方向に沿って貫設された作動溝を前記スライド溝の一部と重なる位置に有し且つ前記減速機ケースの外周に配された操作部材と、前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通され且つ前記可動部材に連結される支持部材と、前記操作部材を移動させる駆動部と、前記駆動部が前記操作部材を所定位置にまで移動させて前記可動部材をスライド移動させたとき、前記可動部材に対して、前記スライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段とを備える。前記付勢手段は、前記支持部材の少なくとも一部を構成する弾性体から成ることを特徴とする。
【0015】
前記付勢手段は、前記可動部材が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、前記付勢力を及ぼすものである。
【0016】
また、前記支持部材は、前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通される挿通部と、前記挿通部から延設されて前記可動部材に連結されるアーム部とから成り、前記アーム部の少なくとも一部が、前記付勢手段を成す前記弾性体であることも好ましい。
【0017】
また、前記付勢手段を成す前記弾性体は、渦巻き形状を有することも好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、可動部材をスライド移動させて行う減速比の切り替え作業を、確実に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態の電動工具が備える減速機構部の側面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【図2】同上の減速機構部の断面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【図3】同上の電動工具の要部断面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【図4】同上の電動工具の側面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の電動工具が備える減速機構部の側面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【図6】同上の減速機構部の断面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【図7】本発明の第3の実施形態の電動工具が備える減速機構部の要部斜視図である。
【図8】同上の減速機構部が備える支持部材の斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態の電動工具の要部斜視図である。
【図10】従来の電動工具が備える減速機構部の断面図であり、(a)は変速前、(b)は変速過程、(c)は変速完了時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。なお、本文中で用いる「軸方向」とは、減速機構部2のギアの軸に沿った方向を意味し、「軸回り」の方向とは、減速機構部2のギアの軸回りの方向を意味する。
【0021】
本発明の第1の実施形態の電動工具は、図4に示されるように、電動工具の胴部を成す筒状のハウジング10と、このハウジング10から周方向に延出するハンドル11とで外郭が形成されている。このハウジング10には、先端工具を駆動するための動力源であるモータ13と、このモータ13の回転動力を減速したうえで先端工具に伝達する減速機構部2とを収容している。なお、図4中の符号12は、モータ13に電力を供給する電池パックを示し、符号14は、モータ13への電力供給を制御するトリガスイッチを示す。
【0022】
減速機構部2は、図2に示されるように、減速機ケース4に複数段(本実施形態では三段)の遊星ギア列21を収容したものである。一段目の遊星ギア列21は、入力側(図2中の左側)に位置しモータ13により回転駆動されるサンギア22と、このサンギア22の周囲に配置される複数のプラネットギア23と、このプラネットギア23を回転自在に支持するキャリア24と、プラネットギア23の外周に位置するリングギア25とを備えている。このキャリア24は、外周に径外方向に突出する歯部を有しており、その回転中央に、二段目の遊星ギア列21のサンギアとなる中央ギア部26を有している。この中央ギア部26の周囲には、二段目の遊星ギア列21のプラネットギア27が配置される。
【0023】
この二段目のプラネットギア27は、二段目のキャリア28に回転自在に軸支されている。二段目のキャリア28は、出力側(図2中の右側)の中央に、三段目のサンギアとなる中央ギア部29を有しており、この中央ギア部29の周囲に、三段目のプラネットギア30が配置されている。このプラネットギア30は、三段目のキャリア38に回転自在に軸支されており、その外側に配設された三段目のリングギア33との間で噛み合いを生じるようになっている。この三段目のリングギア33は、減速機ケース4に固設されている。三段目のキャリア38は、三段目のプラネットギア30の公転にともない回転するようになっており、その中心から突出される出力軸(図示せず)を介して回転動力を先端工具側へと伝達する。
【0024】
一段目の遊星ギア列21は、一段目のプラネットギア23の周囲に設けられたリングギア25を有する。この一段目のリングギア25は、減速機ケース4に固設されており、回転しないようになっている。二段目の遊星ギア列21は、二段目のプラネットギア27の周囲に、軸方向に沿ってスライド移動自在なリングギア31を有している。この二段目のリングギア31は、その内周に径内方向に突出する歯部320を有すると共に、出力側の端部の外周面に、径方向に凹没する歯部321を有している。
【0025】
この二段目のリングギア31は、一段目のキャリア24の歯部及び二段目のプラネットギア27の歯部に対して噛み合う位置(図2(a)の位置)から、二段目のプラネットギア27の歯部及び減速機ケース4から径内方向へ突設された固定歯部41に対して噛み合う位置(図2(c)の位置)の範囲で、軸方向にスライド移動する。本実施形態の電動工具では、二段目のリングギア31が、一段目のキャリア24及び二段目のプラネットギア27に噛合する図2(a)の位置にあるときに、二段目の遊星ギア列21が非減速モードとなる。また、二段目のリングギア31が、二段目のプラネットギア27及び固定歯部41に対して噛合する図2(c)の位置にあるときに、二段目の遊星ギア列21が減速モードとなる。
【0026】
つまり、本実施形態の電動工具では、この二段目のリングギア31が、減速比を切り替えるための可動部材32を構成している。
【0027】
一段目の複数のプラネットギア23は、図2に示されるように、サンギア22と、一段目のリングギア25との間で噛み合いを生じる。二段目の複数のプラネットギア27は、一段目のキャリア24の中央ギア部26と、二段目のリングギア31との間で噛み合いを生じる。三段目の複数のプラネットギア30は、二段目のキャリア28の中央ギア部26と、三段目のリングギア33との間で噛み合いを生じる。
【0028】
可動部材32である二段目のリングギア31には、径外方向に突出するようにピン状の支持部材34を連結させている。この支持部材34を軸方向に沿って移動させることで、可動部材32は軸方向にスライド移動する。二段目のリングギア31の外周面には、軸回りの円を描くように環状の凹溝35を形成しており、この凹溝35内に支持部材34の先端部を嵌入させている。これにより、リングギア31は、軸回りに回転しながらであっても支持部材34に追従して軸方向にスライド移動される。支持部材34は、減速機ケース4を内外に貫通するようにして配置される。
【0029】
減速機ケース4は円筒形状を有しており、その内部に、上記した複数段の遊星ギア列21を収容する。減速機ケース4には、支持部材34の配置箇所と対応する位置に、内外を貫通するスライド溝42を形成している。スライド溝42は、軸方向に沿った一直線状の外形を有する長孔となっている。支持部材34は、スライド溝42を挿通したうえで減速機ケース4の外方に突出している。
【0030】
本実施形態の電動工具では、減速機ケース4の外周に、軸回り方向に回動自在な操作部材5を備えている(図1等参照)。この操作部材5は、軸回りの円弧状に屈曲させた形状の板部材であり、軸方向に対して傾斜した方向(側面視において軸方向に対して約45°傾斜した方向)に沿って、作動溝51が穿設されている。操作部材5は、この作動溝51が、減速機ケース4のスライド溝42と一部が重なるようにして装着される。ピン状の支持部材34は、スライド溝42と作動溝51とが重なる部分に挿通される。この支持部材34は、スライド溝42と作動溝51の両者を径方向に貫通する。
【0031】
この操作部材5を減速機ケース4に沿って軸回り方向に回転させると、作動溝51の側縁部が支持部材34を軸方向に押圧し、該支持部材34をスライド溝42に沿って(すなわち軸方向に)移動させる。支持部材34が作動溝51の長手方向の一端部に位置しているとき(図2(a)参照)、二段目のリングギア31は、一段目のキャリア24及び二段目のプラネットギア27に噛合する状態となる。また、支持部材34が作動溝51の長手方向の他端部に位置しているとき(図2(c)参照)、二段目のリングギア31は、二段目のプラネットギア27及び減速機ケース4の固定歯部41に噛合する状態となる。
【0032】
そして、本実施形態の電動工具では、操作部材5ひいては可動部材32に対して所定の付勢力を付与するための付勢手段6を備えている。この付勢手段6は、操作部材5を所定位置にまで移動させたときに、この操作部材5を介して、支持部材34及び可動部材32に対してそのスライド移動方向に向けて付勢力を付与する。具体的には、操作部材5を所定の位置まで回転移動させた場合において、可動部材32であるリングギア31の歯部と固定歯部41とが上手く噛み合わず、リングギア31がそれ以上移動不能となったときに、支持部材34及び可動部材32に対して付勢力を付与し続ける。また、操作部材5を上記とは逆方向に回転移動させた場合において、可動部材32であるリングギア31の歯部と一段目のキャリア24の歯部とが上手く噛み合わず、リングギア31がそれ以上移動不能となったときには、支持部材34及び可動部材32に対して上記とは逆方向の付勢力を付与し続ける。
【0033】
本実施形態の付勢手段6は、図1や図3に示されるように、駆動部7によって一定範囲内で往復動される中間部材62と、中間部材62と操作部材5の間に介在される一対の弾性体61とから成る。
【0034】
中間部材62は、操作部材5と同様に、軸回りの円弧状に屈曲させた形状の板部材であって、操作部材5よりも大きな曲率半径を有している。この中間部材62は、操作部材5の外周面を覆うような姿勢を保持しながら、操作部材5に対して周方向に移動自在となるように配置されている。操作部材5の外周面には、中間部材62が有する一対の周方向端面と対向する位置に、それぞれ突出部52を設けている。この突出部52と、中間部材62の周方向端面との間には、それぞれコイルバネから成る弾性体61を介在させており、これら弾性体61を通じて、中間部材62の回転が操作部材5にまで伝達される。弾性体61はある程度の硬度を有したものであり、中間部材62を挟んで周方向の両側に位置する一対の弾性体61によって、操作部材5は周方向に保持されている。
【0035】
本実施形態の電動工具は、この中間部材62を軸回りに駆動させる駆動部7を備えている。この駆動部7は、正逆回転可能な小型モータから成り、中間部材62ひいては弾性体61を介して操作部材5を、減速機ケース4の外周に沿って一定の範囲内で往復動させる。つまり、この弾性体61は、駆動部7の駆動力を操作部材5にまで伝達するための部材であるとともに、操作部材5に対してその移動方向への付勢力を付与する部材でもある。
【0036】
このような構成の電動工具は、減速比の異なる複数段の変速が可能となっており、その減速比の変更は、以下のようにして行なう。
【0037】
二段目の遊星ギア列21を非減速モードから減速モード切り替えるには、図1(a)、図3(a)の位置にある中間部材62及び操作部材5を、図1(c)、図3(c)の位置に向けて、駆動部7により回転移動させればよい。操作部材5を回転移動させると、操作部材5の作動溝51に押圧された支持部材34がスライド溝42に沿って軸方向に移動し、この支持部材34の移動に追従して二段目のリングギア31が移動する。
【0038】
このとき、二段目のリングギア31が固定歯部41と上手く噛み合わない場合(ロックされた場合)には、リングギア31や操作部材5がそれ以上は移動できなくなるが、中間部材62についてはそのまま駆動部7による回転駆動が継続される。それにより、中間部材62と操作部材5の間に介在される弾性体61に一定以上の負荷が働き、弾性変形を生じる。すると、弾性体61は自身の復元力によって操作部材5をその移動方向へと押圧し続け、支持部材34を介して、二段目のリングギア31を固定歯部41側に押圧し続ける。
【0039】
このとき駆動源であるモータ13が駆動すると、二段目のリングギア31は、弾性体61に起因する軸方向の付勢力を受けながら回転する。すると、二段目のリングギア31と固定歯部41の位置が周方向にずれて上手く噛み合うようになり、二段目のリングギア31は、弾性体61からの付勢力によって切替位置にまで押し込まれる。これにより、二段目のリングギア31は固定歯部41に噛み合って回転不能となり、二段目の遊星ギア列21が非減速モードから減速モードに切り替わる。
【0040】
なお、減速モードから非減速モードへの切り替えは、上記と逆の操作を行なえばよい。この場合において、二段目のリングギア31の噛み合い対象の部材は一段目のキャリア24の歯部となり、上記説明とは可動部材32の押圧方向が反転したような状態となる。そして、可動部材32に対して付勢力を与える弾性体61も、上記説明において付勢力を与えていた弾性体61とは別の(中間部材62を挟んで逆側に配置した)弾性体61となる。
【0041】
上述したように、本実施形態の付勢手段6は、可動部材32が切替位置に達する直前で移動不能となった場合に、可動部材32の移動方向(切替位置に向かう方向)に付勢力を与え続けるものであるから、不具合なく確実に減速比の切り替えを行なうことができる。一方、可動部材32が移動不能とならない場合には、付勢手段6を成す弾性体61に一定以上の負荷が働かないため、必要以上の付勢力は発生させない。さらにこの付勢手段6は、板状の中間部材62とこれを周方向に挟むように配置した一対の弾性体61で構成されたものであるから、シンプルな構造となっており、電動工具の大型化(胴部の大径化)を防ぐことができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態の電動工具について、図5、図6に基づいて説明する。なお、以下において、第1の実施形態と同一の構成については詳しい説明を省略し、異なる構成についてのみ詳述する。
【0043】
本実施形態の電動工具では、第1の実施形態のように、駆動部7が中間部材62や弾性体61を介して操作部材5を往復動させるのではなく、駆動部7が直接的に操作部材5と噛み合って往復動させるように設けている。一方、支持部材34をピン状の弾性体63によって構成し、この弾性体63を付勢手段6として利用している。弾性体63は、ある程度の硬度を有し、一定以上の負荷によって弾性変形を生じる。この支持部材34を構成する弾性体63は、操作部材5の軸回りの回転運動を可動部材32の軸方向のスライド運動に変換するための部分であるとともに、可動部材32に対してその移動方向(軸方向)への付勢力を付与する部分でもある。
【0044】
このような構成の電動工具での減速比の変更は、以下のようにして行なう。
【0045】
二段目の遊星ギア列21を非減速モードから減速モード切り替えるには、図5(a)、図6(a)の位置にある操作部材5を、図5(c)、図6(c)の位置に向けて、駆動部7により直接的に回転移動させる。操作部材5を周方向に回転移動させると、操作部材5の作動溝51の側縁に押圧された支持部材34がスライド溝42に沿って移動し、可動部材32である二段目のリングギア31を軸方向に移動させる。
【0046】
このとき、二段目のリングギア31が固定歯部41と上手く噛み合わない場合(ロックされた場合)には、リングギア31がそれ以上は移動できなくなるが、操作部材5についてはそのまま駆動部7による回転駆動が継続される。それにより、支持部材34には一定以上の負荷がかかり、弾性変形を生じる(図6(b)参照)。すると、支持部材34は自身の復元力によって二段目のリングギア31を固定歯部41側に押圧し続ける。
【0047】
このとき駆動源であるモータ13が駆動すると、二段目のリングギア31が固定歯部41に上手く噛み合うようになり、二段目の遊星ギア列21が非減速モードから減速モードに切り替わる。
【0048】
減速モードから非減速モードへの切り替えは、上記と逆の操作を行う。この場合、可動部材32である二段目のリングギア31の噛み合い対象の部材は一段目のキャリア24の歯部となり、上手く噛み合わずにロックされたときには、支持部材34が自身の復元力によって二段目のリングギア31を一段目のキャリア24側に押圧し続ける。
【0049】
上述したように、本実施形態の付勢手段6は、ピン状の支持部材34を構成する弾性体63の復元力を利用したものであるから、シンプルな構造となり、電動工具の大型化を防ぐことができる。また、可動部材32が移動不能とならない場合には、支持部材34を構成する弾性体63に一定以上の負荷が働かないため、必要以上の付勢力を発生させることもない。なお、支持部材34は、少なくとも一部が弾性体63で構成されていればよい。
【0050】
次に、本発明の第3の実施形態の電動工具について、図7、図8に基づいて説明する。なお、以下において、第1、第2の実施形態と同一の構成については詳しい説明を省略し、異なる構成についてのみ詳述する。
【0051】
本実施形態の電動工具は、駆動部7が直接的に操作部材5を往復動させるように設け、付勢手段6として、支持部材34を構成する弾性体(後述の弾性体66)を利用している点において、第2の実施形態と同様である。しかし、本実施形態において、支持部材34は第2の実施形態のようなピン状の部材ではなく、減速機ケース4のスライド溝42と操作部材5の作動溝51が重なる部分に挿通される挿通部64と、挿通部64から延設されて可動部材32に連結されるアーム部65とから成る。そして、アーム部65の少なくとも一部が、付勢手段6を成す弾性体66となっている。
【0052】
挿通部64は、減速機ケース4内にて二段目のリングギア31の外周部分に配置される基体部67と、基体部67から径外方向に突設されてスライド溝42と作動溝51の重合部分に挿通されるピン状の突起部68とから成る。アーム部65は、この基体部67から互いに逆方向に向けて一対延設されるものであり、ある程度の硬度を有する弾性体66を用いて、周方向に湾曲させて形成している。アーム部65の先端部は、二段目のリングギア31の外周面に形成した環状の凹溝35内に嵌入するように、さら大きく内側に湾曲させて設けている。
【0053】
このアーム部65を構成する弾性体66は、可動部材32を軸方向のスライド操作する部分であるとともに、可動部材32に対してその移動方向への付勢力を付与する部分ともなる。つまり、二段目のリングギア31を軸方向にスライド移動させたときに他部材と上手く噛み合わない場合には、リングギア31がそれ以上は移動できなくなる。一方、操作部材5やこれの作動溝51内に挿通される挿通部64については、そのまま継続的に駆動される。それにより、挿通部64と二段目のリングギア31とを繋ぐアーム部65には一定以上の負荷がかかり、弾性変形を生じる。すると、アーム部65は自身の復元力によって二段目のリングギア31を他部材側に押圧する。
【0054】
上述したように、本実施形態の支持部材34は、挿通部64とこれから延設される一対のアーム部65とから成り、各アーム部65を形成する弾性体66が付勢手段6を成すように設けている。そのため、専用の大きなスペースを設けずとも弾性体66の変形範囲を確保することができ、省スペースで大きな弾性力を得ることが可能となっている。また、可動部材32が移動不能とならない場合には、可動部材32を構成する弾性体66に一定以上の負荷が働かないため、必要以上の付勢力を発生させることもない。なお、アーム部65は、少なくとも一部が弾性体66で構成されていればよい。また、基体部67を介することなく、突起部68と両アーム部65が一体に形成されていてもよい。
【0055】
次に、本発明の第4の実施形態の電動工具について、図9に基づいて説明する。なお、本実施形態の電動工具は、第2の実施形態の電動工具と比較して、付勢手段6を成す支持部材34の構成のみが相違する。したがって、以下においては、支持部材34の構成についてのみ述べる。
【0056】
本実施形態の電動工具では、付勢手段6を成す支持部材34を、渦巻状の弾性体69を用いて構成している。弾性体69は、ある程度の硬度を有するとともに、一定以上の負荷により弾性変形を生じる。この弾性体69において、渦の一端部と他端部からは、互いに逆方向に向けてピン状の突出部341を延設している。一対の突出部341は共に、弾性体69が渦を巻く面に対して略直交な方向にむけて延設している。
【0057】
この渦巻き状の弾性体69から成る支持部材34は、減速機構部2の軸方向と平行な平面上にて渦を巻くような姿勢で、減速機ケース4と操作部材5の間に配置され、一端部側の突出部341がスライド溝42に挿通され、他端部側の突出部341が作動溝51に挿通される。
【0058】
本実施形態の付勢手段6は、支持部材34を構成する渦巻状の弾性体69が軸方向に沿って弾性変形することを利用しているので、専用の大きなスペースを設けずとも弾性体69の変形範囲を確保することができ、省スペースで大きな弾性力を得ることができる。また、可動部材32が移動不能とならない場合には、支持部材34を構成する弾性体69に一定以上の負荷が働かないため、必要以上の付勢力を発生させることもない。なお、支持部材34は、少なくとも一部が渦巻状の弾性体69で構成されていればよい。
【0059】
以上説明したように、第1〜第4の実施形態の電動工具は、駆動源となるモータ13と、モータ13の回転動力を伝達する減速機構部2とを備える。減速機構部2は、遊星ギア列21と、遊星ギア列21の軸方向にスライド自在であって該遊星ギア列21に対し係合又は離脱する可動部材32と、遊星ギア列21及び可動部材32を収容する減速機ケース4とを有し、可動部材32のスライド移動によって複数段の変速が行われる。さらに、第1〜第4の実施形態の電動工具は、減速機ケース4の内外を貫通し且つ軸方向に沿って設けられたスライド溝42と、軸方向に対して傾斜した方向に沿って貫設された作動溝51をスライド溝42の一部と重なる位置に有し且つ減速機ケース4の外周に配された操作部材5と、スライド溝42と作動溝51が重なる部分に挿通され且つ可動部材32に連結される支持部材34と、操作部材5を移動させる駆動部7と、駆動部7が操作部材5を所定位置にまで移動させて可動部材32をスライド移動させたとき、可動部材32に対して、スライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段6とを備えている。
【0060】
そして、第1の実施形態の電動工具において、付勢手段6は、操作部材5に対してその移動方向への付勢力を付与する弾性体61から成る。この弾性体61から成る付勢手段6は、可動部材32が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、付勢力を及ぼすものである。そのため、減速比の切り替え時に操作部材5が他部材と上手く噛み合わず、それ以上は移動しなくなったときには、この弾性体61が操作部材5に付勢力を付与し続け、支持部材34を介して、可動部材32を他部材側に押し付ける。したがって、可動部材32が他部材に対して位置をずらしたタイミングで、可動部材32と他部材を付勢力により上手く噛み合わせることができ、結果として円滑に減速比を変更することができる。
【0061】
更に言えば、第1の実施形態の電動工具において、付勢手段6は、駆動部7により駆動される中間部材62と、中間部材62と操作部材5の間に介在される弾性体61とから成る。そのため、操作部材5に対してその移動方向への付勢力を付与するための構造を、シンプルに構成することができ、電動工具の大型化を防ぐことができる。
【0062】
また、第2の実施形態の電動工具において、付勢手段6は、支持部材34の少なくとも一部を構成する弾性体63から成る。この弾性体63から成る付勢手段6は、可動部材32が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、付勢力を及ぼすものである。そのため、減速比の切り替え時に操作部材5が他部材と上手く噛み合わず、それ以上は移動しなくなったときには、この支持部材34を構成する弾性体63が可動部材32に対して付勢力を付与し続け、他部材側に押し付ける。したがって、可動部材32が他部材に対して位置をずらしたタイミングで、可動部材32と他部材を付勢力で上手く噛み合わせることができ、結果として円滑に減速比を変更することができる。また、可動部材32に付勢力を付与するための構造として、特別な部材を別途備える必要がないので、部品点数の削減を図ることができる。
【0063】
また、第3の実施形態の電動工具において、支持部材34は、スライド溝42と作動溝51が重なる部分に挿通される挿通部64と、挿通部64から延設されて可動部材32に連結されるアーム部65とから成り、アーム部65の少なくとも一部が、付勢手段6を成す弾性体66となっている。そのため、省スペースで大きな弾性力を得ることが可能である。
【0064】
また、第4の実施形態の電動工具において、付勢手段6を成す弾性体69は、渦巻き形状を有する。そのため、この渦巻状の弾性体69によって、省スペースで大きな弾性力を得ることが可能である。
【0065】
ところで、変速用の可動部材32としては、実施形態のようなリングギア31に限定されない。例えば、減速機構部2の減速比を切り替えることのできる可動部材32として、遊星ギア列21を構成するリングギアに対して回転不能に且つ軸方向にスライド自在に係合するアウターリングを配置し、このアウターリングがスライド移動によって他部材に係合又は離脱することで、複数段の変速が行われるように構成してもよい。その他、軸方向のスライドで遊星ギア列21に対し係合又は離脱することで複数段の変速が行われるものであれば、可動部材32として多様な部材が採用可能である。
【符号の説明】
【0066】
2 減速機構部
21 遊星ギア列
32 可動部材
34 支持部材
4 減速機ケース
42 スライド溝
5 操作部材
51 作動溝
6 付勢手段
61 弾性体
62 中間部材
63 弾性体
64 挿通部
65 アーム部
66 弾性体
69 弾性体
7 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源となるモータと、前記モータの回転動力を伝達する減速機構部とを備え、
前記減速機構部は、遊星ギア列と、前記遊星ギア列の軸方向にスライド自在であって該遊星ギア列に対し係合又は離脱する可動部材と、前記遊星ギア列及び前記可動部材を収容する減速機ケースとを有し、
前記可動部材のスライド移動によって複数段の変速が行われる電動工具において、
前記減速機ケースの内外を貫通し且つ前記軸方向に沿って設けられたスライド溝と、
前記軸方向に対して傾斜した方向に沿って貫設された作動溝を前記スライド溝の一部と重なる位置に有し且つ前記減速機ケースの外周に配された操作部材と、
前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通され且つ前記可動部材に連結される支持部材と、
前記操作部材を移動させる駆動部と、
前記駆動部が前記操作部材を所定位置にまで移動させて前記可動部材をスライド移動させたとき、前記可動部材に対して、前記スライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段とを備え、
前記付勢手段は、前記操作部材に対してその移動方向への付勢力を付与する弾性体から成る
ことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記可動部材が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、前記付勢力を及ぼすものである
ことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記駆動部により駆動される中間部材と、前記中間部材と前記操作部材の間に介在される前記弾性体とから成る
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
駆動源となるモータと、前記モータの回転動力を伝達する減速機構部とを備え、
前記減速機構部は、遊星ギア列と、前記遊星ギア列の軸方向にスライド自在であって該遊星ギア列に対し係合又は離脱する可動部材と、前記遊星ギア列及び前記可動部材を収容する減速機ケースとを有し、
前記可動部材のスライド移動によって複数段の変速が行われる電動工具において、
前記減速機ケースの内外を貫通し且つ前記軸方向に沿って設けられたスライド溝と、
前記軸方向に対して傾斜した方向に沿って貫設された作動溝を前記スライド溝の一部と重なる位置に有し且つ前記減速機ケースの外周に配された操作部材と、
前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通され且つ前記可動部材に連結される支持部材と、
前記操作部材を移動させる駆動部と、
前記駆動部が前記操作部材を所定位置にまで移動させて前記可動部材をスライド移動させたとき、前記可動部材に対して、前記スライド移動方向への付勢力を付与する付勢手段とを備え、
前記付勢手段は、前記支持部材の少なくとも一部を構成する弾性体から成る
ことを特徴とする電動工具。
【請求項5】
前記付勢手段は、前記可動部材が切替位置に達する直前で移動不能となったとき、前記付勢力を及ぼすものである
ことを特徴とする請求項4に記載の電動工具。
【請求項6】
前記支持部材は、前記スライド溝と前記作動溝が重なる部分に挿通される挿通部と、前記挿通部から延設されて前記可動部材に連結されるアーム部とから成り、
前記アーム部の少なくとも一部が、前記付勢手段を成す前記弾性体である
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記付勢手段を成す前記弾性体は、渦巻き形状を有する
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−148391(P2012−148391A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10942(P2011−10942)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(509119153)パナソニックESパワーツール株式会社 (107)
【Fターム(参考)】