説明

電動弁

【課題】弁室に連結された流入管及び流出管の内部に冷媒が満液状態で、かつ、流入配管と流出配管との間の差圧が低い場合でも、異音の発生を防止することのできる電動弁を提供する。
【解決手段】電動モータのロータが回転することにより直線的に移動するステム6と、ステムを圧入してステムと一体化された弁体5とを備え、弁体の弁座4に対する弁開度を制御する電動弁であって、弁体は、上部にステムを圧入するための凹部5aと、凹部に連通し、上下方向に延設された第1穴部5bと、第1穴部に連通するとともに、下面5dに開口し、第1穴部よりも大径の第2穴部5cと、下面から上方に向かって外径が連続的に漸増する逆円錐台状部5gとを備え、第2穴部の深さを5.0mm以下、下面の外周縁部5eと第2穴部の開口縁部5fとの間の距離を0.7mm以上とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁に関し、特に、冷凍サイクルシステムにおける冷媒の流量制御等に使用され、弁体にステムを圧入するように構成された電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記冷媒の流量制御等に使用される電動弁として、弁室と弁座を有する弁本体内に弁体を配置し、弁体を操作するステム(弁棒)をベローズ内に配設し、冷媒とステムの間をシールする構造の電動弁が特許文献1に開示されている。この種の電動弁では、電動モータと歯車減速装置を金属製の円筒状のキャンの内部に封止し、焼付ゴム等を用いたシール構造によって外部からの湿気の浸入等を防止する。上記歯車減速装置の回転出力は、ねじ機構により直線運動に変換され、ステムに伝達される。
【0003】
上記構造を備えた電動弁は、弁体に比較してステムがかなり小径に形成されているため、弁体とステムを一体構造とすると機械加工によって無駄になる材料が多くなる。そのため、図1に示すように、ステム6と弁体5を各々別体とし、ステム6を弁体5に圧入して両者を一体化している。
【0004】
ここで、図1に示すように、ステム6を弁体5の上部の凹部5aに圧入する際に、圧入部の安定化、信頼性が向上するように、弁体5の凹部5aに連通するとともに、下面に開口する穴部5b、5c(第1穴部5b、第2穴部5c)を穿設し、ステム6の圧入の際の空気抜きを行っている。ここで第1穴部5bの内径は第2穴部5cの内径の約半分とし、また第1穴部5bの長さ(深さ)は第2穴部5cの長さよりも大幅に短くされている。
【0005】
上記電動弁1は、弁座4と弁室3を備えた弁本体2を有し、弁本体2に弁室3に連通するように流入管7及び流出管8が接続され、上記弁体5が弁室3内で弁座4に接離して流路面積を変化させる。尚、図1では、主要部品についてのみハッチングを施している。
【0006】
また、弁本体2の弁室3に連通する内径部9には、ベローズ10と、ベローズ10の内側に挿入されるステム6が配設され、ベローズ10の下端部はステム6に固定され、ベローズ10の上端部はリング部材17を介して弁本体2に固定される。弁本体2の上部には、雌ねじ部11aを有する案内部材11が配設され、袋ナット21で弁本体2に固着される。
【0007】
案内部材11の雌ねじ部11aに螺合する雄ねじ部12aを有するねじ棒12の下端部は、ボール18を介してステム6の上部の伝達部材20を押圧し、ステム6を軸方向に移動させる。案内部材11の上部には、焼付ゴムによるシール部材14、金属製のプレート13が配設される。
【0008】
プレート13上にはベース22が載置され、外周を覆うキャン23のフランジ部23aの下端部をかしめ加工することで、キャン23内に固定される。ベース22の上部には、ステータとその励磁コイルからなる励磁装置16が載置され、リード線25を介して給電される。リード線25は、焼付ゴムによるシール部材14と一体のリード線支持部26に挿入され、接着剤27で封止される。励磁装置16の内側に配設されるロータ15は、励磁装置16に与えられるパルス電流により駆動される。ロータ15は、歯車列28を介してねじ棒12に連結される。
【0009】
以上の構成により、電動モータの出力がロータ15及び歯車列28を介してねじ棒12に伝達され、ねじ棒12は与えられた回転に応じて、ねじ機構により直線運動を行い、ステム6を介して弁体5を上下動させ、弁体5と弁座4との間に形成される流路面積に応じて弁室3を通過する流体の流量が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−177503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記電動弁1を冷凍サイクルシステム等の冷媒の流量制御に使用すると、流入管7及び流出管8の内部に冷媒が満液状態で、かつ、流入管7と流出管8の間の差圧が低い場合(0.1〜0.3MPa程度)には、笛吹音(高周波数音、以下「異音」という)が発生するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、上記条件下においても、異音が発生することのない電動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、電動モータのロータが回転することにより直線的に移動するステムと、該ステムを圧入して該ステムと一体化された弁体とを備え、該弁体の弁座に対する弁開度を制御する電動弁であって、前記弁体は、上部に前記ステムを圧入するための凹部と、該凹部に連通し、上下方向に延設された第1穴部と、該第1穴部に連通するとともに、下面に開口し、前記第1穴部よりも大径の第2穴部と、前記下面から上方に向かって外径が連続的に漸増する逆円錐台状部とを備え、前記第2穴部の深さを5.0mm以下、前記下面の外周縁部と前記第2穴部の開口縁部との間の距離を0.7mm以上としたことを特徴とする。
【0014】
そして、本発明によれば、弁体の第2穴部の深さを5.0mm以下、下面の外周縁部と第2穴部の開口縁部との間の距離を0.7mm以上としたため、弁室に連結された流入管及び流出管の内部に冷媒が満液状態で、かつ、流入配管と流出配管との間の差圧が低い場合でも、異音の発生を防止することができる。
【0015】
上記電動弁において、前記逆円錐台状部の頂角を120度とすることができ、また前記第2穴部の内径を2mmとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、弁室に連結された流入管及び流出管の内部に冷媒が満液状態で、かつ、流入配管と流出配管との間の差圧が低い場合でも、異音の発生を防止することのできる電動弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来及び本発明の一実施例にかかる電動弁を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1に示す電動弁の弁体及びその近傍を示す拡大断面図、(b)は、(a)に示した弁体の下端部の拡大図であって、(a)及び(b)ともにハッチングを省略して描いている。
【図3】本発明と従来の弁体を用いた場合の周波数と音圧との関係を示すグラフである。
【図4】本発明と従来の弁体を用いた場合の周波数と加速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明者らは、まず、上記弁体5に穿設された第2穴部5cを閉塞させると、聴感上、異音が消滅することを確認した。
【0019】
しかし、上述のように、弁体5にステム6を圧入するには、穴部5b、5cが必須であるため、これを抹消することはできない。
【0020】
そこで、第2穴部5cの深さ等を種々変更して実験を行った結果、最終的に、図2に示すように、弁体5の第2穴部5cの深さL1を5.0mm以下、下面5dの外周縁部5eと第2穴部5cの開口縁部5fとの間の距離L2を0.7mm以上とすることで、弁室3に連結された流入管7及び流出管8の内部に冷媒が満液状態で、かつ、流入管7と流出管8の間の差圧が低い場合でも、聴感上、異音が発生しないことが確認された。弁体5及びその近傍の部分の寸法をまとめると以下の通りであり、括弧内は従来のものを示し、括弧が存在しない寸法等は従来と同じであることを示す。下記に記載されていない寸法も従来と同様である。
【0021】
(1)第2穴部5cの内径:2mm、深さL1:5.0mm以下(8.2mm)
(2)弁体5の下面5dの外周縁部5eと第2穴部5cの開口縁部5fとの間の距離L2:0.7mm以上(0.2mm)
(3)弁体5の下面5dの外周縁部5eに連続する逆円錐台状部5gの頂角120度
(4)弁座4の口径:5.2mm〜6.4mm
(5)流体は、弁体5の側面から弁室3に流入する。
【0022】
なお、弁座4の口径が5.2mm〜6.4mmであるのは、流体(冷媒)の流量に応じて口径が変化するためである。
【0023】
次に、上記寸法の弁体5等を用いた実験結果について説明する。
【0024】
表1は、弁座4の口径を5.2mmとし、第2穴部5cの深さL1、及び弁体5の下面5dの外周縁部5eと第2穴部5cの開口縁部5fとの間の距離L2以外の上記寸法を固定し、0.1〜0.3MPaの差圧の範囲内において、上記深さL1及び距離L2を変化させた場合の異音の有無を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
同表より、深さL1を5.0mm以下、距離L2を0.7mm以上とした場合には、聴感上、異音が発生せず、その他の場合には、異音が発生していることが判る。
【0027】
図3は、弁座4の口径を5.2mmとし、上記寸法を有する従来品(比較例)と、本発明の実施例(深さL1=5mm、距離L2=0.7mm)で、電動弁1に流体を流した場合に発生した音の周波数(Hz)と音圧(dB)の関係を示す。
同図に示すように、比較例では、周波数10kHz近傍での音圧が高く、実施例では、この領域での音圧が低下している。このことから、周波数10kHz近傍での音圧を下げたことで、実施例では、聴感上、異音が消滅したものと推察される。
【0028】
図4は、弁本体2に加速度計のピックアップを当て、上記比較例と実施例とで周波数(Hz)と加速度(m/s)を測定した結果を示す。同図の縦軸における加速度データは、所定の加速度を“0”としたときの増減値を示している。
同図に示すように、比較例では、周波数10kHz近傍での加速度が高く、実施例では、この領域での加速度が低下していることがわかる。
【0029】
尚、上記実験は、弁座4の口径が5.2mmの場合のみ行っているが、異音が発生する要因は、冷媒が弁体5の周辺から中央部の第2穴部5cに入り込むことであると推測されるため、弁座4の口径の大きさは、異音の有無にほとんど影響しないと考えられる。また、同様の理由で、弁体5の外径寸法、流入管7及び流出管8の内径寸法についても異音の発生にはほとんど影響しないものと考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1 電動弁
2 弁本体
3 弁室
4 弁座
5 弁体
5a 凹部
5b 第1穴部
5c 第2穴部
5d 下面
5e 外周縁部
5f 開口縁部
5g 逆円錐台状部
6 ステム
7 流入管
8 流出管
9 内径部
10 ベローズ
11 案内部材
11a 雌ねじ部
12 ねじ棒
12a 雄ねじ部
13 プレート
14 シール部材
15 ロータ
16 励磁装置
17 リング部材
18 ボール
20 伝達部材
21 袋ナット
22 ベース
23 キャン
23a フランジ部
25 リード線
26 リード線支持部
27 接着剤
28 歯車列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータのロータが回転することにより直線的に移動するステムと、該ステムを圧入して該ステムと一体化された弁体とを備え、該弁体の弁座に対する弁開度を制御する電動弁であって、
前記弁体は、
上部に前記ステムを圧入するための凹部と、
該凹部に連通し、上下方向に延設された第1穴部と、
該第1穴部に連通するとともに、当該弁体の下面に開口し、前記第1穴部よりも大径の第2穴部と、
前記下面から上方に向かって外径が連続的に漸増する逆円錐台状部とを備え、
前記第2穴部の深さを5.0mm以下、前記下面の外周縁部と前記第2穴部の開口縁部との間の距離を0.7mm以上としたことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記逆円錐台状部の頂角を120度としたことを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記第2穴部の内径を2mmとしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−202463(P2012−202463A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66869(P2011−66869)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】