説明

電動式リニアアクチュエータおよびグリース組成物

【課題】 使用条件が厳しい(負荷荷重、発生する熱及び振動等が大きい)場合でも、ボール表面の圧痕や剥離の発生を抑え、耐久性に優れた電動式リニアアクチュエータおよびグリース組成物を提供する。
【解決手段】 基油に増ちょう剤を配合してなるベースグリースに、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物、アミン系化合物から2種以上を、合計1〜10質量%且つ単独で0.5〜9.5質量%含有し、さらに耐はく離剤を含有することを特徴とするグリース組成物、および前記グリース組成物を封入した電動式リニアアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用変速機の変速比を自動的に切り替える為、或はクラッチを自動的に断接させる為の駆動装置としての、電動式リニアアクチュエータに係り、詳しくは潤滑寿命の延長を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動モータを駆動源として伸縮し、各種物品を変位させる電動式リニアアクチュエータが知られている。例えば、ハウジングに支持された正転逆転自在な電動モータにより、このハウジング内に回転のみ自在に支持されたねじ軸の回転に伴って、このねじ軸に係合させたナット部材を軸方向に変位させ、このナット部材にその基端部を結合した、少なくとも基端部を筒状に構成した出力軸部材を軸方向に変位させるものである(特許文献1〜3参照)。又、これら各従来技術の場合には、この出力軸部材の基部周囲を筒状のカバーにより覆い、上記ねじ軸とナット部材との螺合部に異物が入り込む事を防止している。又、上記出力軸部材の外周面と上記カバーの先端部内周面とは、互いに摺接させている。また、上述の電動式リニアアクチュエータのボールねじは、ねじ軸とナットとの間に転動体としてボール(一般には、鋼球)を介装したものであり、作動時における摩擦損失が殆ど無視できることから駆動効率が極めて高い他、ねじ軸とナットとの相対回転に摺動を伴わないために構成要素の摩耗がごく少ない等の特徴を有している。総ボール形のボールねじは、雄ねじ溝がその外周に形成されたねじ軸と、雄ねじ溝と対向する雌ねじ溝がその内周に形成されたナットと、雄ねじ溝と雌ねじ溝との間に介装された多数のボールと、ナットに形成された雌ねじ溝の一端側から他端側にボールを循環させる循環通路(チューブやコマ等)とから構成されている。ねじ軸とナットとの相対回転時において、ボールは、雄ねじ溝と雌ねじ溝との双方に対して転動すると共に、循環通路を通って雌ねじ溝の一端側から他端側に循環する。
【0003】
ところで、上述した総ボール形のボールねじでは、両ねじ溝間で同方向に転動するボール同士が接触した場合、その接触面では、転動速度の2倍の速度をもって相対すべりが生じる。そのため、機械装置の性能を向上させるためにボールねじの駆動速度を高めた場合、ボール表面が比較的短時間で許容限界以上に摩耗したり、摩擦熱によってボールやねじ溝が焼付いたりする等の不具合が生じることがあった。
【0004】
近年では、ボールねじの使用条件はより過酷になってきており、それに伴いボール表面の圧痕や剥離が発生しやすく、頻繁にボールねじを交換する必要が生じている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−322189号公報
【特許文献2】特開平9−327149号公報
【特許文献3】米国特許第5669264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、ボール表面の圧痕やはく離の発生を抑えて耐久性の向上を図ったグリース組成物及び電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下(1)〜(4)に示すグリース組成物及び電動式リニアアクチュエータによって達成される。
(1)基油に増ちょう剤を配合してなるベースグリースに、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物、アミン系化合物から2種以上を、合計1〜10質量%且つ単独で0.5〜9.5質量%含有し、さらに耐はく離剤を含有することを特徴とするグリース組成物。
(2)上記耐はく離剤として金属ジチオカーバメイトを1〜10質量%配合したことを特徴とする(1)記載のグリース組成物。
(3)上記耐はく離剤として、カーボンブラックを2〜10質量%配合したことを特徴とする(1)記載のグリース組成物。
(4)ハウジングと、上記ハウジングに支持された正転逆転自在な電動モータと、上記ハウジングに回転のみ自在に支持され且つ上記電動モータにより回転駆動されるねじ軸と、自身の回転を阻止された状態で上記ねじ軸に係合し、上記ねじ軸の回転に伴って上記ねじ軸の軸方向に変位するナット部材とを備え、(1)〜(3)いずれかに記載のグリース組成物を封入してなる電動式リニアアクチュエータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るグリース組成物は、ボールねじのボール表面において圧痕やはく離が発生しにくい。従って、本発明に係るグリース組成物および前記グリース組成物が封入された電動式リニアアクチュエータは、負荷荷重や発熱、振動等が大きいといった厳しい条件下でも使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、第1実施形態例として、本発明に係る電動式リニアアクチュエータの半部切断側面構造を示している。略円筒状のハウジング1の一端部(図1の左端部)に、正転逆転自在な電動モータ2を支持固定している。又、上記ハウジング1の中間部内側にねじ軸3の中間部基端寄り部分を、深溝型玉軸受の如く、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承自在な転がり軸受4により、回転のみ自在に支持している。尚、この転がり軸受4を構成する外輪5は、上記ハウジング1の中間部内周面に形成した内向フランジ状の鍔部6の内面(図1の左側面)基端部とこのハウジング1の内周面に係止したストップリング7との間で挾持して、軸方向への変位を阻止している。又、上記転がり軸受4を構成する内輪8は、上記ねじ軸3の中間部に形成した段部9とこのねじ軸3の基端部(図1の左端部)外周面に係止したストップリング10とにより挾持して、このねじ軸3に対し上記内輪8が軸方向に変位する事を防止している。そして、上記ねじ軸3の基端部で上記転がり軸受4よりも突出した部分と上記電動モータ2の出力軸11とを、カップリング部12により、回転力の伝達自在に結合している。図示の例では、このカップリング部12の周囲にも、別の転がり軸受13を配置している。
【0010】
上記ねじ軸3の周囲には、ナット部材14を螺合させている。従ってこのナット部材14は、後述する様にして自身の回転を阻止すれば、上記ねじ軸3の回転に伴ってこのねじ軸3の軸方向に変位する。本例の電動式リニアアクチュエータ15の場合、電動モータ2の故障時にも上記ナット部材14を軸方向に変位させられる様にすべて、このナット部材14と上記ねじ軸3とを、逆作動可能に係合させている。この為に、このナット部材14の内周面に形成した雌ねじ及びねじ軸3の外周面に形成した雄ねじのピッチ(リード)を大きくしている。又、このナット部材14の片端面(図1の右端面)には円筒状の出力軸部材16の基端部を、これらナット部材14と出力軸部材16とを一体に造る事により結合している。
【0011】
また、上記ねじ軸3の先端面で上記出力軸部材16の内側に位置する部分には、このねじ軸3よりも大径の端板19を、ボルト20により結合固定している。従って上記ナット部材14は、前記鍔部6の外面(図1の右側面)と上記端板19との間部分でのみ、軸方向に亙る変位が自在である。図1は、上記ナット部材14が中立位置に存在する状態で示しており、この状態でこのナット部材14の軸方向両端面と上記鍔部6の外面及び上記端板19との間には、それぞれ全ストロークSの1/2ずつ(S/2)の隙間が存在する。又、本例の場合には、この全ストロークSは、上記ねじ軸3の外径(ねじ山の頂部までの直径)Dの凡そ6倍(S≒6D)としている。
【0012】
そして、上記出力軸部材16の先端部にはボルト等を挿通する為の通孔17を形成して、この出力軸部材16を、自動車用変速機の入力部等、電動式リニアアクチュエータ15により駆動すべき被駆動部材に結合自在としている。更に、上記出力軸部材16の内側先端寄り部分でこの通孔17よりも中間寄り部分はキャップ18により塞いで、上記出力軸部材16の先端開口側から、上記ねじ軸3とナット部材14との螺合部への異物の進入防止を図っている。
【0013】
更に、前記ハウジング1の先端部(図1の右端部)外周面には、カバー21に基端部(図1の左端部)を外嵌支持している。このカバー21は、合成樹脂を射出成形或いはブロー成形する事により、先端部(図1の右端部)に向かう程外径が小さくなる、テーパ円筒状に形成して成る。この様なカバー21の基端部は、その内周面に形成した突条22を上記ハウジング1の先端部外周面に形成した係止溝23に緩く(若干の揺動変位自在に)嵌合係止する事により、このハウジング1に結合している。この状態で上記カバー21の先端部内周面は、上記出力軸部材16の外周面に摺接若しくは近接対向している。この様なカバー21は、上記出力軸部材16の基端面(図1の左端面)と上記ハウジング1の先端面との間から、上記ねじ軸3とナット部材14との螺合部に異物が進入する事を防止する。尚、この異物進入防止効果を向上させる為、上記カバー21の先端部内周面に、複数本の凹溝(又は突条)を全周に亙って形成し、このカバー21の先端部内周面と上記出力軸部材16の外周面との間に、ラビリンスシールを設ける事もできる。
【0014】
上述の様に構成する本例の電動式リニアアクチュエータ15の使用時には、上記ハウジング1を、取付孔24を利用する等により図示しない固定部分に、固定若しくは揺動自在に支持する。又、上記出力軸部材16の先端部を図示しない被駆動部材に、前記通孔17を挿通したボルト等の取付部材により結合する。この状態では、前記ねじ軸3の回転に拘らず、上記出力軸部材16及び上記ナット部材14が回転する事がなくなる。そこで、前記電動モータ2により上記ねじ軸3を所定方向に回転させれば、前記ナット部材14及び上記出力軸部材16が軸方向に変位し、上記被駆動部材を変位させる。
【0015】
また、本例の電動式リニアアクチュエータ15の場合には、上記ハウジング1に対して、弾性を有するカバー21が、若干の変位自在に支持されている為、このカバー21の先端部が上記出力軸部材16に対して円滑に追従する。従って、このカバー21の先端部内周面とこの出力軸部材16の外周面との摺接部の面圧が部分的に高くなる事がなくなる。この結果、このカバー21の存在に基づく、上記ナット部材14の変位に対する抵抗を小さく抑えて、効率の高い構造を実現できる。
【0016】
次に、図2は、本発明の第2実施形態例を示している。本例の場合には、ねじ軸3の外周面並びにナット部材14の内周面にそれぞれボールねじ溝を形成すると共に、これら両ボールねじ溝同士の間に、複数個のボール25を介在させて、ボールねじ機構26を構成している。尚、これら各ボール25を循環させる為の循環チューブは、図示を省略している。上記ボールねじ機構26は、上記ボールねじ溝のピッチを小さくしても逆作動が可能である。そこで本例の場合には、このピッチを小さくして、電動モータ2のトルクの割合に大きな出力を得られる様にしている。この為、必要とするストロークを確保する為には、上記電動モータ2の回転数が多くなるので、回転検出器27によりこの回転数を計測し、この回転数から上記ストロークを計測自在としている。
【0017】
更に本例の場合には、ハウジング1の先端部(図2の右端部)外周面に、ベローズ28の基端部(図2の左端部)を外嵌し、更にバンド29により抑え付ける事により支持している。このベローズ28は、ゴムにより蛇腹状に形成する事で、伸縮自在に構成して成る。この様なベローズ28の先端部は、出力軸部材16の外周面に外嵌している。本例の場合には、この様なベローズ28により、上記出力軸部材16の基端面(図2の左端面)と上記ハウジング1の先端面との間を塞いでいる。その他の部分の構成及び作用は、前述した第1例の場合と同様である。
【0018】
次に、図3は、本発明の第3実施形態例を示している。前述した第1例及び上述した第2例の場合には、ねじ軸と電動モータとを互いに同心に配置していたのに対して、本例の場合には、ねじ軸3の側方に電動モータ2を、このねじ軸3に対し平行に設けている。そして、この電動モータ2の出力軸11により回転駆動自在とした駆動歯車30と、上記ねじ軸3の基端部(図3の左端部)にスプライン係合させた従動歯車31とを、中間歯車32を介して噛合させ、上記電動モータ2により上記ねじ軸3を回転駆動自在としている。
【0019】
本例の場合、上記電動モータ2とねじ軸3との配置を変えた以外の基本的な構成及び作用は、前述した第1例或いは上述した第2例の場合とほぼ同様であるが、具体的構造に於いて本例は、次の様な点で、第1例或いは第2例の場合と相違している。先ず第一に、ナット部材14の軸方向片端面(図3の左端面)が対向する、ハウジング1の内周面に形成した鍔部6の外側面、及び、上記ナット部材14の軸方向他端面(図3の右端面)に、それぞれ緩衝リング33a、33bを装着している。これら各緩衝リング33a、33bは、上記ナット部材14が移動方向端部まで変位した状態で、このナット部材14を緩衝的に受け止めるもので、それぞれがゴム等の、内部損失が大きな材料により円環状に構成している。又、上記ねじ軸3の基端部(図3の左端部)には、リードの大きなウォーム34を形成し、このウォーム34とウォームホイール35とを噛合させている。そして、このウォームホイール35により回転検出器(図3には省略)を駆動し、上記ねじ軸3の回転数並びに上記ナット部材14のストロークを計測自在としている。
【0020】
次に、図4は、本発明の第4実施形態例を示している。本例の場合には、外周面にボールねじ溝を形成したねじ軸3の先端面に、断面L字形で円輪状の端板19を、ボルト20により固定している。そして、上記ねじ軸3の周囲にナット部材14を、ボールねじ機構26を介して、このねじ軸3の回転に伴う軸方向移動自在に設けている。そして、ハウジング1の先半部(図4の右半部)外周面と上記ナット部材14の片端部(図4の左端部)外周面との間、並びにこのナット部材14の他端部(図4の右端部)外周面と上記端板19の外周面との間に、それぞれベローズ28a、28bを掛け渡している。更に、上記ナット部材14の中間部外周面の直径方向反対側2個所位置に設けた係止孔36、36に、被駆動部材37の端部に設けた突部38、38を挿入している。その他の構成及び作用は、前述した第2例の場合とほぼ同様である。但し、本例の場合には、上記ナット部材14のストロークが小さいので、電動モータ2の回転数を測定する為のポテンショメータは省略している。
【0021】
上記の電動式リニアアクチュエータは、以下に説明するグリース組成物を封入する。
本発明に係るグリース組成物の基油は、その種類は制限されるものではないが、鉱油系潤滑油及び合成潤滑油を好適に使用することができる。鉱油系潤滑油は制限されるものではないが、例えば、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油及びそれらの混合油を使用することができる。合成潤滑油も制限されるものでないが、例えば、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油及びフッ素油を使用することができる。具体的には、合成炭化水素油としてはポリα−オレフィン油等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を、エステル油としてはジエステル油、ネオペンチル型ポリオールエステル油、またはこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油等を、フッ素油としてはパーフルオロエーテル油、フルオロシリコーン油、クロロトリフルオロエチレン油、フルオロフォスファゼン油等を、それぞれ挙げることができる。これらの潤滑油は、単独でも、複数種を適宜組み合わせて使用してもよい。中でも、高温、高速での潤滑性能及び寿命を考慮すると、合潤滑油が含有されていることが好ましく、特にエステル油、エーテル油が含有されている事が好ましい。また、コスト面からは鉱油系潤滑油が含有されていることが好ましい。
なお、上記基油の動粘度は、40℃において20〜100mm/sであることが好ましく、さらに低トルク性及び耐久性を考慮すると40〜70mm/sが好ましい。
【0022】
増ちょう剤としては、基油中にコロイド状に分散して、基油を半固体または固体状にする物質を使用すればよい。このような増ちょう剤としては、例えば、リチウム石鹸系、カルシウム石鹸系、ナトリウム石鹸係、アルミニウム石鹸系、リチウムコンプレックス石鹸系、カルシウムコンプレックス石鹸系、ナトリウムコンプレックス石鹸系、バリウムコンプレックス石鹸系、アルミニウムコンプレックス石鹸系の金属石鹸、ベントナイト系、クレイ系の無機化合物、モノウレア系、ジウレア系、トリウレア系、テトラウレア系、ウレタン系、ナトリウムテレフタラメート系の有機化合物などが挙げられる。これらの中でも、リチウム石鹸系が好適に用いることができる。これらの増ちょう剤を1種以上配合することができる。
【0023】
グリース組成物中の増ちょう剤の含有量は3〜40質量%が好ましく、さらに好ましくは5〜25質量%である。3質量%より少ないとグリース状態を維持することは困難となり、また、40質量%より多くなると硬くなりすぎて十分な潤滑状態を発揮することができない。
【0024】
また、上記増ちょう剤のちょう度は混和ちょう度で220〜395の範囲が好ましく、より好ましくは265〜350の範囲である。さらに好ましくは、自動給脂の可能な混和ちょう度である280〜320の範囲である。220より小さいと硬くなりすぎて十分な潤滑効果が期待できず、395より大きいと直動装置から漏洩する恐れがある。
【0025】
本発明に係るグリース組成物はさらに、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物、アミン系化合物から選択される2種以上を含有する。これらの化合物は酸化防止剤または防錆剤として機能する。その含有量は、化合物単独で0.5〜9.5質量%、合計で1〜10質量%となるようにする。
【0026】
アミン系化合物としては、潤滑油や樹脂の酸化防止剤として用いられる任意の芳香族アミン系化合物が使用可能であり、特に限定されるものではないが、α−ナフチルアミン類及びジフェニルアミン類が好ましい。具体的には下記一般式(I)で表されるα−ナフチルアミン類及び下記一般式(II)で表されるジフェニルアミン類から選ばれる1種または2種以上の芳香族アミンが好ましいものとして挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
式中、R1は水素原子または下記一般式(A)で表される基を示す。
【0029】
【化2】

【0030】
式中、R2は水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を示す。
【0031】
【化3】

【0032】
式中、R3、R4は同一でも異なってもよく、各々水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を示す。
【0033】
まず、一般式(I)で表されるα−ナフチルアミン類について説明する。
一般式(I)においてR1は水素原子または一般式(A)に表される基であり、好ましくは一般式(A)で表される基である。一般式(A)で表される基においてR2は水素原子または炭素数1〜16の直鎖若しくは分岐状のアルキル基を示す。R2で示されるアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、及びヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い。)が挙げられるが、中でも炭素数8〜16の分岐アルキル基が好ましい。
【0034】
次に、一般式(II)で表されるジフェニルアミン類について説明する。
一般式(II)中のR3は水素原子または炭素数1〜16のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜16のアルキル基である。R3、R4の一方または双方が水素原子の場合にはそれ自身の酸化によりスラッジとして沈降する恐れがある。
R4で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、及びヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い。)が挙げられるが、中でも炭素数3〜16の分岐アルキル基が好ましい。
【0035】
また、上記一般式(I)、(II)で表されるアミン系化合物の他、N−n−ブチル−p−アミノフェノール、4,4−テトラメチル−ジ−アミノジフェニルメタン、N,N−ジサリチルデン−1,2−プロピレンジアミン、アルコキシフェニルアミン、二塩基性カルボン酸の部分アミド等のアミン系酸化防止剤を使用することが出来る。
【0036】
カルボン酸及びカルボン酸塩としては、モノカルボン酸ではステアリン酸など、ジカルボン酸ではアルキルまたはアルケニルコハク酸及びその誘導体、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸のカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛などの金属塩が使用できる。特に、アルケニルコハク酸、ナフテン酸亜鉛が好適に使用される。
【0037】
エステル系としては、多価アルコールのカルボン酸部分エステルではソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタエリスリットモノオレエートやコハク酸ハーフエステルなどが挙げられる。特にソルビタンモノオレエート、コハク酸ハーフエステルが好適に使用される。
【0038】
さらに本願発明に係るグリース組成物は、耐はく離剤を含有する。例えば、ZnDTC等の金属ジチオカーバメイトを1〜10質量%添加するとよい(すべり摩擦が多い用途であるため、やや多めに加えると良い)。金属ジチオカーバメイトは極圧に対する作用も有している。また、耐はく離剤としてカーボンブラックを添加することもできる。カーボンブラックの効果は特開2002−195277に詳しくあるが、カーボンブラックにより通電を行うことで、水の電気分解による水素イオンの発生を抑え、水素イオンが原因の白色はく離を抑えているのである。カーボンブラックの平均粒径は10〜300nmが良く、添加量はZnDTCと同様、すべり摩擦が多いこの分野を考えるとやや多めの2〜10質量%加えるのが好ましい。
【0039】
上記の他にリン系やジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤、脂肪酸や動植物油などの油性向上剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤など、本発明の目的を損なわない程度であれば適宜添加することができる。
【実施例】
【0040】
以下に示す実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
まず、表1に示す配合割合に従って、A1〜A4、B1〜B2の6種類のグリース組成物を調製した。
【0042】
【表1】

【0043】
次に上記のグリース組成物を、前述した第1〜第4実施形態例の電動式リニアアクチュエータに封入し駆動させて、耐久試験を行った。そして、はく離や焼付きが発生するまでナット部材をねじ軸に沿って往復運動させ、はく離や焼付きが発生した時点のサイクル数(ナット部材の往復運動回数)によって、はく離や焼付きに対する耐久性を評価した。評価結果を表2に示す。なお、この耐久試験におけるナット部材の移動速度は、20m/minである。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から分かるように、A1〜A4のグリースを備える実施例1〜4の電動式リニアアクチュエータは、約100万回転までは、はく離や焼付きの発生なしに駆動することができる。一方、比較例1はグリース組成物の防錆剤が本発明の成分とは異なっており、比較例2は防錆剤も耐はく離剤も含有していない。このため実施例の半分以下の回転数ではく離や焼付きが発生した。
【0046】
本発明に係るグリース組成物は上述の通り、酸化防止剤・防錆剤に加えて耐はく離剤を含有するため、動粘度が100mm/s以下の低粘度基油を使用してもはく離や焼付きが起こりにくい。従って、低トルク化が可能であり高効率な電動式リニアアクチュエータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る電動式リニアアクチュエータの第1実施形態例を示す半部切断側面図である。
【図2】本発明に係る電動式リニアアクチュエータの第2実施形態例を示す半部切断側面図である。
【図3】本発明に係る電動式リニアアクチュエータの第3実施形態例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電動式リニアアクチュエータの第4実施形態例を示す半部切断側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ハウジング
2 電動モータ
3 ねじ軸
4 転がり軸受
5 外輪
6 鍔部
7 ストップリング
8 内輪
9 段部
10 ストップリング
11 出力軸
12 カップリング部
13 転がり軸受
14 ナット部材
15 電動式リニアアクチュエータ
16 出力軸部材
17 通孔
18 キャップ
19 端板
20 ボルト
21 カバー
22 突条
23 係止溝
24 取付孔
25 ボール
26 ボールねじ機構
27 回転検出器
28、28a、28b ベローズ
29 バンド
30 駆動歯車
31 従動歯車
32 中間歯車
33a、33b 緩衝リング
34 ウォーム
35 ウォームホイール
36 係止孔
37 被駆動部材
38 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に増ちょう剤を配合してなるベースグリースに、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物、アミン系化合物から2種以上を、合計1〜10質量%且つ単独で0.5〜9.5質量%含有し、さらに耐はく離剤を含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記耐はく離剤として金属ジチオカーバメイトを1〜10質量%配合したことを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記耐はく離剤として、カーボンブラックを2〜10質量%配合したことを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項4】
ハウジングと、前記ハウジングに支持された正転逆転自在な電動モータと、前記ハウジングに回転のみ自在に支持され且つ前記電動モータにより回転駆動されるねじ軸と、自身の回転を阻止された状態で前記ねじ軸に係合し、前記ねじ軸の回転に伴って前記ねじ軸の軸方向に変位するナット部材とを備え、請求項1、2、3いずれかに記載のグリース組成物を封入してなる電動式リニアアクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−117827(P2006−117827A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308123(P2004−308123)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】