説明

電動押出装置

【課題】 ダイカストマシンや射出成形機の型締装置に装備されている電動式の押出装置について、構造を簡素化し、制御方法もシンプルにする。
【解決手段】 可動プラテンに右ねじボールねじ軸と左ねじボールねじ軸を回転自在に取付ける。各ボールねじ軸と螺合するボールねじナットを押出板と固定する。各ボールねじ軸を電気モータによって反対方向に同じトルクで回転させ、押出板の前後進動作を行なう。押出板に作用する回転トルクが相殺されるため、押出板を支持するガイドロッドを細く、あるいは無くすことが可能となる。また、2本のボールねじの同期制御が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム製品やプラスチック製品を成形するダイカストマシンおよび射出成形機の型締装置において用いられ、可動金型から成形品を取り外す押出装置であり、電気モータの回転運動によって前後進動作する機構およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンや射出成形機においては、高温で溶融状態のアルミニウムや樹脂を、閉じられた金型の空間部であるキャビティ(成形品の形状)内に射出装置によって高速高圧で充填し、冷却固化後に金型を開き、可動金型に貼り付いた成形品を押出装置によって取り外し、機外に取出して生産する。そのため、型締装置には、金型を高速で開閉し、大きな型締力を負荷できる機構とともに、可動型から成形品を短時間で安定的に取り外す押出装置が備えられている。成形品は、冷却凝固する際に収縮するため、可動金型を強い力で掴んで貼り付く。そのため押出装置には、成形品を取り外すための大きな押出力を発揮できることが要求される。また、押出ピンおよび押出板を大きな力で前進させた後、高速で後退し原点位置で正確に停止できる、精密な速度制御および位置決めの能力が必要である。
【0003】
近年、サーボモータとボールねじによって型締装置や射出装置を駆動する方式の電動式成形機が多く使われるようになっており、押出装置に関しても様々な電動式機構が開発されている。
例えば、特許文献1では、可動盤(プラテン)に回転自在に取付けられた2本のボールねじ軸を、1個のモータと同調ベルトで回転駆動し、2本のエジェクターロッドによってガイドされた押出板を前後進させる。そして押出ピンを動かし、可動金型から成形品を取り外す機構が開示されている。
また、特許文献2では、2個のボールねじナットを可動盤に回転自在に取り付け、2本のガイドバーに摺動自在に支持された押出板をボールねじ軸に固定し、ボールねじナットと結合する2個のプーリーを1個のモータと連結するタイミングベルトで回転駆動して、押出板を前後進させる機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−9507号公報
【特許文献2】特開2001−71357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された機構では、双方とも長いタイミングベルトやベルトプーリー、ベルトのテンショナーが必要である。また、同じ巻き方向(例えば右ねじ)のボールねじを使用し同じ方向に回転させるため、大きな押出し力を発揮する際、押出板にはボールねじを介して大きな回転トルクが作用するので、それを支持するために2本の太いガイドロッドが必要となる。そのため、機械構造が複雑であり、コスト高の押出装置となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本願の第一の発明は、
可動プラテンに回転自在に支持される右ねじボールねじ軸および左ねじボールねじ軸と、右ねじボールねじ軸を回転駆動する右ねじ用モータと、左ねじボールねじ軸を回転駆動する左ねじ用モータと、右ねじボールねじ軸と螺合する右ねじボールねじナットおよび左ねじボールねじ軸と螺合する左ねじボールねじナットと結合し前後進運動する押出板と、押出板に固定された押出ピンと、から構成される押出装置である。
第二の発明は、第一の発明の押出装置において、右ねじ用モータおよび左ねじ用モータは、それぞれのボールねじ軸と結合する中空モータである。
第三の発明は、可動プラテンに回転自在に支持される右ねじボールねじナットおよび左ねじボールねじナットと、右ねじボールねじナットを回転駆動する右ねじ用モータと、左ねじボールねじナットを回転駆動する左ねじ用モータと、右ねじボールねじナットと螺合する右ねじボールねじ軸および左ねじボールねじナットと螺合する左ねじボールねじ軸と結合し前後進運動する押出板と、押出板に固定された押出ピンと、から構成される押出装置である。
最後に、第四の発明は、第一から第三の発明の押出装置を、右ねじ用モータおよび左ねじ用モータに回転方向は逆であるが同じ値のトルク指令し、速度制御および力制御する制御方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の押出装置は、以下のような効果を発揮する。
(1)ガイドロッドを細くすることができ、装置の重量およびコストを低減できる。
(2)タイミングベルトおよびプーリーが不要となり、装置の簡素化が図れる。
(3)簡単な制御方法で、複数のモータとボールねじを同期して制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本願発明に係る押出装置の実施例であり、押出装置および可動プラテン周辺を中心線の横から見た図である。
【図2】本願発明に係る押出装置を、反金型側から見た状態を示す図である。
【図3】図2の押出装置を上から見た状態を示す図である。
【図4】ボールねじの周辺の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本願発明に係る実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1と図2は、ダイカストマシンや射出成形機の型締装置における可動プラテンおよび押出装置の周辺部を示す図である。可動プラテン11には可動金型10が取付けられており、図示せぬ固定プラテンに取付けられた固定金型と閉じ合わさって、溶融物が充填されるキャビティ部を形成する。下側には下部ブロック13が取付けられており、マシンベース13の上を潤滑油等を介して摺動し、スムーズな型開閉動作が可能となっている。可動プラテン11の四隅には、型締力を受けるタイバー12が貫通しており、金型が閉じた状態で大きな型締力を負荷できる。図には、型開閉と型締め動作に必要な、トグル式型締装置のリンク機構、あるいは複合式型締装置のハーフナット等は、省略して記されている。
【0011】
押出装置は、可動プラテン11の反金型側に装着されている。2本の細いガイドロッド21が上下して可動プラテン11に組み付けられており、押出板20はガイドロッド21に支持され、ガイドされながら前後進運動する。押出板20には押出ピン23が複数本取付けられており、可動プラテン11を貫通する押出しピン用の穴を通って、可動金型10の押出機構を動かすことができる。図1に記載されている左ねじボールねじ軸25は、回転自在であるが軸方向に拘束された状態で可動プラテン11に支持されている。また、それと螺合する左ねじボールねじナット28は押出板20に固定されている。よって、左ねじボールねじ軸25を回転駆動することによって、押出板20を前後進運動させることができる。図2で示すように、ボールねじは左右に2組組み込まれており、左側には左ねじボールねじ25と左ねじボールねじナット28が、右側には右ねじボールねじ26と右ねじボールねじナット29が装着されている。
【0012】
図3は、図2を上から見た図であり、左右のボールねじの、ねじの巻き方向が違うことが分かる。
図4に、ボールねじが組み込まれている状態の詳細を示す。左ねじボールねじ軸25の右端に、スラスト軸受け35がベアリングナット37により組み付けられ内輪が固定されている。スラスト軸受け35は、可動プラテン11に組み込まれ、ベアリング押さえ36で固定されて、回転自在であるが軸方向には拘束された状態になっている。また、左ねじボールねじ軸25には、中空モータのロータ30がキーなどを介して固定されており、可動プラテン11に固定されたステータ31と組み合わさって対をなす。よって、左ねじ用中空モータのステータ31に電流を通じると、ロータ30に回転力が生じて左ねじボールねじ軸25を回転駆動する。左ねじボールねじ軸25のねじ部には、押出板に固定された左ねじボールねじナット28が螺合している。そのため、左ねじボールねじ軸25が回転すると、左ねじボールねじナット28および押出板20は前後進動作する。右ねじボールねじ軸26も同様に装着され、右ねじ用中空モータが備え付けられている。右ねじボールねじと左ねじボールねじは、同径、同リードで巻き方向だけ違うことが好ましい。
【0013】
ロータ30にはブレーキディスク33が固着されており、可動プラテン11に固定されたブレーキ装置34と組み合わさっている。ブレーキ装置34は、電磁石やばね、ブレーキパッドなどから構成され、電磁石に通電していない時は、ばねの力によってブレーキパッドがブレーキディスク33を挟み込み、ブレーキディスク33および左ねじボールねじ軸25の回転を拘束する。電磁石に通電されると、電磁力がばねの力に打ち勝ってブレーキディスク33がブレーキパッドから開放され、回転自在となる。また、ブレーキディスク33の外周部には図示せぬギアが刻まれており、そのギアと噛み合う小ギアを回転軸に持ったロータリーエンコーダーと繋がっている。それにより、左ねじボールねじ軸25の回転動作をロータリーエンコーダーによって検知できるため、押出板20の位置や前後進速度が測定でき、制御に利用される。
【0014】
押出板20は、巻き方向の違う2本のボールねじによって前後進動作する。そのため、ボールねじ軸には回転方向は反対であるが同じ大きさの回転トルクを加えるように制御する。ボールねじから受ける回転トルクが逆向きでかつ同じ大きさであるため、お互いが相殺され殆ど0となる。よって、押出板20を支持するのに力は殆ど必要なく、2本のガイドロッド21は細くできる。
ガイドロッド21は、主に押出板20の重量を支えるために取付けることになるが、もし、ボールねじ軸25を支持するスラスト軸受け35にラジアル方向の荷重も受けることができ、押出板20の重量を支えることができるのであれば、ガイドロッド21は設けなくても良い。
【0015】
次に、この押出装置の運転制御方法について説明する。
型締状態で金型内に射出充填された溶融物が冷却固化した後、可動金型10が開かれ、その後、押出工程となる。押出工程では、押出板が前進し成形品が可動金型から外れると、取出機で掴んで機外に運び出し、そして押出板は元の位置に後退する。押出工程が終わると、再び金型が閉じられ次の成形サイクルが開始される。
押出工程の運転制御では、中空モータのステータ31に電流が通じられるが、右ねじボールねじのロータと、左ねじボールねじのロータでは方向が反対になるよう回転指令する。また、右用のステータと左用のステータとに同じ電流を流すことにより、同じ回転トルクを発生させて、それぞれのボールねじナットに同じ前進力を作用させる。それにより、押出板20は、可動プラテン11の後ろ面と平行に前後進運動することができる。前後進速度は設定速度値に合致するよう、前述のロータリーエンコーダーで速度を検知しながら、制御装置で適切な回転トルク(電流値)を算出し、各中空モータを制御する。同じ電流を通電しても機差(モータに内蔵されている永久磁石の強さの差など)により各モータで若干違う回転トルクが発生するかもしれないが、ガイドロッド21にガイドされていることや、ボールねじなどの剛性のため、押出板20の平行状態は維持される。
押出板20が前進させる際は衝撃を避けるため低速で動かし、また後退させる際は成形サイクルタイムを短縮するため高速で動作させる。
【0016】
各中空モータが同じトルクの逆方向回転を与えるため、ボールねじを介して押出板20に作用する回転トルクは、2つのトルクが相殺され殆ど0となる。よって、押出板20には回転トルクが作用しなくなり、回転トルクを支えるガイドロッド21は細くて良い。
また、ボールねじ軸に直結した中空モータで回転駆動するため、モータの回転を伝えるタイミングベルトやプーリー、あるいはそれを支持する軸受け、テンショナーが必要なくなり、機械装置の簡素化とコストの低減を図れる。
本説明では、ボールねじは2本であったが、例えば4本や6本の偶数本にし、半分づつねじの巻き方向を変え反対方向の回転を与えることもできる。そうすると、大型機に必要な大きな前進力を発揮することが可能となる。
【0017】
他の実施例として、巻き方向が違う2本のボールねじのボールねじナットを、可動プラテンに回転自在に支持するとともに、中空モータのロータと結合する。また、それと螺合するボールねじ軸の左側端は、押出板と固結する。その状態で可動プラテンに固定されたステータに通電し、ロータを回転駆動するとボールねじナットが回転する。それに従い、押出板によって回転拘束されているのでボールねじ軸は前後進運動し、押出板を前後に動かすことができる。この場合も同様に、2つの中空モータは逆方向で同じトルクの回転力をボールねじナットに与え制御する。
【0018】
以上のような機構にすることで、簡素な構造で低コストの押出装置を実現できる。また上記の制御方法により、シンプルな制御方法で安定的に押出工程の運転が可能となる。
【0019】
上記の実施の形態は本発明の一例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
アルミニウム製品やプラスチック製品を生産する成形機械の押出装置に利用でき、成形機械の簡素化、製作コストの低減に貢献できる。
【符号の説明】
【0021】
10 可動金型
11 可動プラテン
12 タイバー
13 下部ブロック
15 マシンベース
20 押出板
21 ガイドロッド
23 押出ピン
25 左ねじボールねじ軸(左側用)
26 右ねじボールねじ軸(右側用)
28 左ねじボールねじナット(左側用)
29 右ねじボールねじナット(右側用)
30 ロータ
31 ステータ
33 ブレーキディスク
34 ブレーキ装置
35 スラスト軸受け
36 ベアリング押さえ
37 ベアリングナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動プラテンに回転自在に支持される右ねじボールねじ軸および左ねじボールねじ軸と、
前記右ねじボールねじ軸を回転駆動する右ねじ用モータと、
前記左ねじボールねじ軸を回転駆動する左ねじ用モータと、
前記右ねじボールねじ軸と螺合する右ねじボールねじナットおよび前記左ねじボールねじ軸と螺合する左ねじボールねじナットと結合し、前後進運動する押出板と、
前記押出板に固定された押出ピンと、
から構成されることを特徴とする押出装置。
【請求項2】
前記右ねじ用モータおよび前記左ねじ用モータは、それぞれのボールねじ軸と結合する中空モータであることを特徴とする請求項1に記載の押出装置。
【請求項3】
可動プラテンに回転自在に支持される右ねじボールねじナットおよび左ねじボールねじナットと、
前記右ねじボールねじナットを回転駆動する右ねじ用モータと、
前記左ねじボールねじナットを回転駆動する左ねじ用モータと、
前記右ねじボールねじナットと螺合する右ねじボールねじ軸および前記左ねじボールねじナットと螺合する左ねじボールねじ軸と結合し、前後進運動する押出板と、
前記押出板に固定された押出ピンと、
から構成されることを特徴とする押出装置。
【請求項4】
請求項1から3に記載の押出装置を制御する制御方法であって、
前記右ねじ用モータおよび前記左ねじ用モータに回転方向は逆であるが同じ値のトルク指令し、速度制御および力制御することを特徴とする押出装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−212844(P2011−212844A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80252(P2010−80252)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】