説明

電動機の巻線過熱防止装置および電動機の制御装置

【課題】電動機の固定子巻線の過熱を防止し電動機を効率よく駆動させる低コストの巻線過熱防止装置および電動機の制御装置を実現する。
【解決手段】電動機2の制御装置100内に設けられる巻線過熱防止装置1は、電動機2の固定子巻線3に流れる電流から推定される固定子巻線3の温度変化量と電動機2の周囲温度とに基づき巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部11と、電動機2の回転子4の位置情報を検出する位置検出器22内の温度検出素子23が示す温度を検出する位置検出器温度検出部12と、巻線温度がアラームレベルを超えたときアラーム信号を出力するアラーム信号出力部13であって、アラームレベルは、周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づき規定された温度であり、周囲温度が所定の温度より高い場合には位置検出器22を過熱から保護するための温度であるアラーム信号出力部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の巻線過熱防止装置、および電動機へ供給する駆動電力を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の固定子巻線に電流が流れると、固定子巻線には損失が発生し、この損失に比例して固定子巻線の温度が上昇する。固定子巻線の温度が上昇し過ぎすると焼損してしまう。このため、電動機の駆動制御においては、固定子巻線の温度を検出し、検出した温度が当該固定子巻線に対して予め設定した上限温度(以下、「アラームレベル」と称する。)を超えた場合には電動機の駆動を停止させる制御を行うことで、固定子巻線の焼損を防止する巻線過熱防止制御が行われる。
【0003】
巻線の過熱を防止しながら電動機を効率よく駆動制御するには巻線の正確な温度検出が不可欠である。電動機の巻線の温度の検出の方法として、大きく分けて固定子巻線に温度センサ(温度検出素子)を設置して温度を測定する方法と、巻線に流れる電流から巻線の温度を推定演算する方法とがある。
【0004】
このうち、巻線に流れる電流から巻線の温度を推定演算する一般的な方法では、検出抵抗、ホール素子または電流センサなどを用いて検出した巻線に流れる電流をI、電動機の巻線の抵抗をRとしたとき、巻線に発生する損失Qを「Q=I2×R」の式にしたがって算出し、損失Qに比例して固定子巻線の温度が上昇する特性に基づき、損失Qに所定の定数を乗算し、これに電動機の周囲温度を加味することによって固定子巻線の温度を推定している。
【0005】
さらに精度よく巻線に流れる電流から巻線の温度を推定演算する方法もいくつか提案されている。
【0006】
例えば、巻線に温度センサを設置することなく、電気回路を用いて電流および電圧から巻線の温度を算出する方法がある(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0007】
また例えば、巻線に温度センサ(温度検出素子)を設置して温度を測定し、この測定結果を巻線に流れる電流値の2次関数で決定される値で補正する方法がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
また例えば、巻線に温度センサを設置して実巻線温度を検出し、電動機の負荷電流および周囲温度を用いて検出した実巻線温度から、巻線の温度を予測する方法がある(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−308389号公報
【特許文献2】特開2004−208453号公報
【特許文献3】特許第4237075号公報
【特許文献4】特開平5−268718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固定子巻線に温度センサ(温度検出素子)を設置して温度を測定する方法によれば、固定子巻線の温度を正確に測定できる利点がある。しかしながら、固定子巻線から温度検出素子へ熱を効率よく伝える必要があるため、温度検出素子を固定子巻線に設置するための部材および接着剤を熱伝導率の高い高品質なものとする必要があり、また、温度検出素子からの温度情報を制御装置へ送るための配線およびコネクタ部を設置する作業が必要となるので、製造コストが高くなるという欠点がある。
【0011】
また、固定子巻線に流れる電流から巻線の温度を推定演算する方法によれば、温度検出素子を設ける必要が無いので製造コストを抑えることができる利点がある。しかしながら、固定子巻線に発生する損失Q(=I2×R)から巻線の温度を推定するので、巻線の相対的な温度変化量は正確に算出できるが、電動機の周囲温度にこの相対的な温度変化量を加算して固定子巻線の温度を推定するので、推定結果は電動機の周囲温度の影響を受けたものとなり、得られた固定子巻線の温度は正確なものとはいえない。
【0012】
巻線の焼損を防止する巻線過熱防止制御では、検出した固定子巻線の温度が当該固定子巻線に対して予め設定した上限温度を超えた場合に電動機の駆動を停止させる制御を行うので、巻線の温度を正確に検出できないと、電動機を効率よく駆動制御することができない。
【0013】
また、巻線に流れる電流から巻線の温度を検出する方法として、固定子巻線に生じる損失Qに基づき推定される固定子巻線の温度変化量に電動機の周囲温度を加算することによって固定子巻線の温度を検出する方法を用いて、巻線過熱防止制御を行う場合、電動機の周囲温度に電動機の固定子巻線が取り得る温度変化量を加算して得られる温度と、電動機の使用環境において想定されうる最高の周囲温度とに基づいて、電動機の駆動を停止するか否かの判断基準となる固定子巻線の上限の温度である「アラームレベル」を設定する方法が一般的であるが、この方法によると、以下の理由により、電動機を効率よく駆動制御することができない。図5は、電動機の固定子巻線を流れる電流から推定した温度と電動機の周囲温度との関係を示す図であって、(a)は周囲温度が40℃、(b)は周囲温度が20℃、(c)は周囲温度が0℃の場合を示す図である。
【0014】
上述したように、電動機の固定子巻線に電流が流れるときに発生する損失Qに比例して固定子巻線の温度は上昇する。電動機の固定子巻線に流れる電流をI、電動機の固定子巻線の抵抗をRとしたとき、固定子巻線に発生する損失Qは「Q=I2×R」で表わされるので、固定子巻線には図5に示すような温度変化が生じる。この温度変化自体は、電動機の周囲温度によらず一定であるが、電動機の周囲温度にこの相対的な温度変化量を加算して固定子巻線の温度を推定するので、推定結果は電動機の周囲温度によって変わる。例えば、電動機の周囲温度が低いほど、固定子巻線に流れる電流から推定される固定子巻線の温度は、低いものとなる。電動機が使用される環境において想定され得る最高の周囲温度に電動機の温度変化量の最大値を加算して得られる温度が、固定子巻線の実際の限界温度であると考えられる。
【0015】
例えば、電動機が使用される環境において想定され得る最高の周囲温度を40℃としたとき、図5(a)に示すように、この周囲温度40℃に電動機の温度変化量の最大値を加算して得られる温度(図中、点線で示される温度)が、固定子巻線の実際の限界温度であると考えられる。電動機が使用される環境において想定され得る最高の周囲温度が40℃の場合には、この固定子巻線の実際の限界温度が、当該固定子巻線についてのアラームレベル(図中、一点鎖線で示される温度)に設定される。したがって、電動機が使用される環境において想定され得る最高の周囲温度40℃の下で電動機を駆動すると、固定子巻線を焼損することなく電動機が有する性能を最大限に引き出すことができる。
【0016】
しかしながら、この電動機を周囲温度が20℃の下で駆動した場合には、図5(b)に示すように固定子巻線のアラームレベルは、固定子巻線の実際の限界温度からずれたものとなり、また、この電動機を周囲温度が0℃の下で駆動した場合には、図5(c)に示すように固定子巻線のアラームレベルは、固定子巻線の実際の限界温度からより一層ずれたものとなり、電動機が有する性能を十分に生かした駆動を行うことができず、非効率的である。
【0017】
このように、固定子巻線に生じる損失Qに基づき推定される固定子巻線の温度変化量に電動機の周囲温度を加算することによって固定子巻線の温度を検出する方法を用いて、巻線過熱防止制御を行う場合、従来による方法によれば、電動機を効率よく駆動制御することができない。
【0018】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、電動機の固定子巻線の過熱を高精度に防止し、電動機を効率よく駆動させることができる低コストの巻線過熱防止装置、および、この巻線過熱防止装置を備えた電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を実現するために、本発明の第1の態様においては、電動機の巻線過熱防止装置は、電動機の固定子巻線に流れる電流から推定される固定子巻線の温度変化量と電動機の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部と、電動機の回転子の位置情報を検出する位置検出器内に設けられた温度検出素子が示す温度を検出する位置検出器温度検出部と、固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部であって、アラームレベルは、周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度であり、周囲温度が上記所定の温度より高い場合には位置検出器を過熱から保護するために規定された温度であるアラーム信号出力部と、を備える。また、電動機の巻線過熱防止装置は、アラーム信号出力部からアラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部をさらに備える。
【0020】
本発明の第1の態様による電動機の巻線過熱防止装置は、アラーム信号出力部においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部により計算された固定子巻線温度と固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備えてもよい。
【0021】
また、本発明の第2の態様においては、電動機へ供給する駆動電力を制御する制御装置は、本発明の第1の態様による巻線過熱防止装置を備える。すなわち、本発明の第2の態様によれば、電動機へ供給する駆動電力を制御する制御装置は、電動機の固定子巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、電流検出部により検出された電流から推定される固定子巻線の温度変化量と電動機の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部と、電動機の回転子の位置情報を検出する位置検出器と、位置検出器内に設けられた温度検出素子と、温度検出素子が示す温度を検出する位置検出器温度検出部と、固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部であって、アラームレベルは、周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度であり、周囲温度が所定の温度より高い場合には位置検出器を過熱から保護するために予め設定された温度であるアラーム信号出力部と、アラーム信号出力部からアラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部と、を備える。
【0022】
また、本発明の第2の態様による電動機の制御装置は、位置検出器温度検出部で検出された温度が、位置検出器を過熱から保護するために規定された温度を超えたとき、位置検出器アラーム信号を出力する位置検出器アラーム信号出力部と、位置検出器アラーム信号出力部から位置検出器アラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令する位置検出器保護部と、をさらに備えてもよい。
【0023】
本発明の第2の態様による電動機の制御装置は、アラーム信号出力部においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部により計算された固定子巻線温度と固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備えてもよい。
【0024】
また、本発明の第2の態様による電動機の制御装置において、位置検出器は、着脱可能に設けられてもよく、すなわち、位置検出器の着脱のための装着部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電動機の固定子巻線の過熱を高精度に防止し、電動機を効率よく駆動させることができる低コストの巻線過熱防止装置、および、この巻線過熱防止装置を備えた電動機の制御装置を実現することができる。
【0026】
本発明の第1の態様においては、アラームレベルを、電動機の周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度であり、周囲温度が所定の温度より高い場合には位置検出器を過熱から保護するために規定された温度であるものに設定し、固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力し、アラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令するので、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止し、電動機を効率よく駆動させることができる。一般に電動機の回転子の位置情報を検出するための位置検出器には、内部のプリント基板上の部品を過熱から保護するために温度検出素子が予め設けられているが、本発明の第1の態様によれば、この位置検出器内に既に設けられた温度検出素子を用いるので、固定子巻線に新たに温度検出素子を設ける必要がなく、電動機の固定子巻線の過熱を低コストで確実に防止することができる。
【0027】
また、本発明の第1の態様による電動機の巻線過熱防止装置は、アラーム信号出力部においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部により計算された固定子巻線温度と固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備えてもよく、これによれば、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止することができるとともに、電動機の使用状況やユーザの好みに応じた電動機の柔軟な運用も可能である。
【0028】
また、本発明の第2の態様においては、電動機へ供給する駆動電力を制御する制御装置は、第1の態様による電動機の巻線過熱防止装置を備えるので、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止し、電動機を効率よく駆動制御することができる。また、この位置検出器内に既に設けられた温度検出素子を用いるので、固定子巻線に新たに温度検出素子を設ける必要がなく、電動機の固定子巻線の過熱を低コストで確実に防止し、電動機を効率よく駆動制御することができる。
【0029】
また、本発明の第2の態様による電動機の制御装置は、位置検出器温度検出部で検出された温度が、位置検出器を過熱から保護するために規定された温度を超えたとき、位置検出器アラーム信号を出力する位置検出器アラーム信号出力部と、位置検出器アラーム信号出力部から位置検出器アラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令する位置検出器保護部と、をさらに備えてもよく、これによれば、電動機に設置された位置検出器の過熱を確実に防止することができる。
【0030】
また、本発明の第2の態様による電動機の制御装置は、アラーム信号出力部においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部により計算された固定子巻線温度と固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備えてもよく、これによれば、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止することができるとともに、電動機の使用状況やユーザの好みに応じた電動機の柔軟な運用も可能である。
【0031】
また、本発明の第2の態様による電動機の制御装置において、位置検出器は、着脱可能に設けられてもよく、これによっても、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止することができるとともに、電動機の使用状況やユーザの好みに応じた電動機の柔軟な運用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例による電動機の巻線過熱防止装置、およびこの巻線過熱防止装置を備える電動機の制御装置を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例による電動機の巻線過熱防止装置、およびこの巻線過熱防止装置を備える電動機の制御装置を示す図である。
【図3】本発明の第1および第2の実施例における固定子巻線の温度と位置検出器内の温度検出素子が示す温度との関係を示す図である。
【図4】本発明の第1および第2の実施例における、電動機の固定子巻線の上限温度と電動機の周囲温度との関係を示す図であって、(a)は周囲温度が40℃、(b)は周囲温度が20℃、(c)は周囲温度が0℃の場合を示す図である。
【図5】電動機の固定子巻線を流れる電流から推定した温度と電動機の周囲温度との関係を示す図であって、(a)は周囲温度が40℃、(b)は周囲温度が20℃、(c)は周囲温度が0℃の場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第1の実施例による電動機の巻線過熱防止装置、およびこの巻線過熱防止装置を備える電動機の制御装置を示す図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。電動機2については、固定子巻線3、回転子4および軸5のみについて表し、それ以外の構造については省略する。ここでは、電動機2を制御装置100で駆動制御する場合について説明するが、電動機2はどのようなタイプのものであっても本発明を適用することができる。電動機2には回転子4の角度や角速度などの位置情報を検出するための位置検出器22が設置される。通常、位置検出器22には、その内部のプリント基板上の部品を過熱から保護するために温度検出素子23が予め設けられている。したがって、この温度検出素子23は固定子巻線3と非接触の状態にある。
【0034】
図1に示すように、電動機2へ供給する駆動電力を制御する制御装置100はその内部に巻線過熱防止装置1を備える。以下、各構成について説明する。
【0035】
電動機2の巻線過熱防止装置1は、電動機2の固定子巻線3に流れる電流から推定される固定子巻線3の温度変化量と電動機2の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部11と、電動機2の回転子4の位置情報を検出する位置検出器22内に設けられた温度検出素子23が示す温度を検出する位置検出器温度検出部12と、固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部13であって、アラームレベルは、周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度であり、周囲温度が上記所定の温度より高い場合には位置検出器22を過熱から保護するために規定された温度であるアラーム信号出力部13と、を備える。また、電動機の巻線過熱防止装置1は、アラーム信号出力部13からアラーム信号を受信したとき電動機2への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部14をさらに備える。巻線保護部14が駆動電力の供給の停止を指令したとき、電送機2の駆動は停止する。これら固定子巻線温度計算部11、位置検出器温度検出部12およびアラーム信号出力部13は、電動機2の制御装置100内の演算処理装置の機能の一部として実現される。また、電動機2の周囲温度は、電動機2の近傍に設けられた温度センサもしくは温度計(図示せず)によって検出されるが、検出された電動機2の周囲温度は、アラーム信号出力部13に入力される。
【0036】
固定子巻線温度計算部11は、固定子巻線3の温度の推定に、電動機2の固定子巻線3に流れる電流を用いるが、この電流の検出には、電流検出部21が用いられる。電流検出部21により検出される電流は、本来は電動機2の駆動制御に用いられるものであるが、本発明では、これを固定子巻線3の温度の推定にも用いる。
【0037】
このように、本実施例においては、電動機2へ供給する駆動電力を制御する制御装置100は、上述の巻線過熱防止装置1を備える。すなわち、本実施例によれば、電動機2へ供給する駆動電力を制御する制御装置100は、電動機2の固定子巻線3に流れる電流を検出する電流検出部21と、電流検出部21により検出された電流から推定される固定子巻線3の温度変化量と電動機2の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部11と、電動機2の回転子4の位置情報を検出する位置検出器22と、位置検出器22内に設けられた温度検出素子23と、温度検出素子23が示す温度を検出する位置検出器温度検出部12と、固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部13であって、アラームレベルは、周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度であり、周囲温度が所定の温度より高い場合には位置検出器を過熱から保護するために予め設定された温度であるアラーム信号出力部13と、アラーム信号出力部13からアラーム信号を受信したとき電動機2への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部14と、を備える。
【0038】
なお、本実施例の変形例として、電動機2の制御装置100は、位置検出器温度検出部12で検出された温度が、位置検出器22を過熱から保護するために規定された温度を超えたとき、位置検出器アラーム信号を出力する位置検出器アラーム信号出力部31と、位置検出器アラーム信号出力部31から位置検出器アラーム信号を受信したとき電動機2への駆動電力の供給の停止を指令する位置検出器保護部32と、をさらに備えてもよい。これにより、電動機2に設置された位置検出器22の過熱についても確実に防止することができる。これら位置検出器アラーム信号出力部31および位置検出器保護部32は、電動機2の制御装置100内の演算処理装置の機能の一部として実現される。
【0039】
また、本実施例の変形例として、位置検出器は、着脱可能に設けられるものであってもよく、すなわち、制御装置100において、位置検出器22の着脱のための装着部(図示せず)をさらに備えてもよい。着脱部は、例えばソケット型のものがある。上述のように位置検出器22は、通常、その内部のプリント基板上の部品を過熱から保護するために温度検出素子23が予め設けられている。温度検出素子23の検出精度は種々の種類のものがあるが、内蔵された温度検出素子23の検出精度が異なる位置検出器22を複数準備しておけば、上述の着脱部に装着する位置検出器22を交換するだけで、様々な精度での温度推定部13による温度推定が可能となる。例えば、安価で低精度の温度検出素子23を備える位置検出器22を使用すれば、温度推定部13により推定された温度の誤差は大きくなり、高価で高精度の温度検出素子23を備える位置検出器22を使用すれば、温度推定部13により推定された温度の誤差は小さくなる。したがって、このような内蔵された温度検出素子23の検出精度が異なる位置検出器22を適宜使い分ければ、例えば、高精度な温度検出素子23を備える位置検出器22を装着した電動機2を大電流・高トルク特性の電動機として使用し、低精度な温度検出素子23を備える位置検出器22を装着した電動機2を小電流・低トルク特性の電動機として使用する、といったように電動機の柔軟な運用を実現でき、1つの電動機2を様々な特性を有する電動機として活用することができる。
【0040】
図2は、本発明の第2の実施例による電動機の巻線過熱防止装置、およびこの巻線過熱防止装置を備える電動機の制御装置を示す図である。本発明の第2の実施例による電動機の巻線過熱防止装置、およびこの巻線過熱防止装置を備える電動機の制御装置は、電動機2の固定子巻線にも温度検出素子が設けられた場合にも対応可能とするものである。すなわち、電動機2の巻線過熱防止装置1は、アラーム信号出力部13においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部11により計算された固定子巻線温度と、電動機2の固定子巻線3に設けられた温度検出素子33が示す温度とで切り替える切替部15をさらに備える。切替器15は、電動機2の制御装置100内の演算処理装置の機能の一部として実現される。なお、これ以外の回路構成要素については図1に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。これにより、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止することができるとともに、電動機の使用状況やユーザの好みに応じた電動機の柔軟な運用も可能である。例えば、固定子巻線に温度検出素子を直接取り付けた高性能の電動機および固定子巻線に温度検出素子を取り付けない電動機の2種類の電動機を用意しておけば、切明け期15により、アラーム信号出力部13においてアラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、固定子巻線温度計算部11により計算された固定子巻線温度と、電動機2の固定子巻線3に設けられた温度検出素子33が示す温度とで簡単に切り替えることができるので、電動機の柔軟な運用を実現できる。
【0041】
続いて、アラーム信号出力部13および巻線保護部14の動作について説明する。
【0042】
上述のように、位置検出器22内の温度検出素子23は、本来は位置検出器22内のプリント基板上の部品近傍の温度を検出するためのものであり、この温度検出素子23は固定子巻線3と非接触の状態にある。したがって、位置検出器22内の温度検出素子23が示す温度は、電動機2の固定子巻線温度よりも低いものとなる。例えば、電動機2の固定子巻線温度と、位置検出器22内の温度検出素子23が示す温度との差が40℃であり、電動機2の駆動を開始したところ固定子巻線の温度変化量が120℃あったとすると、電動機2の周囲温度20℃の場合においては固定子巻線温度140℃のところ位置検出器22内の温度検出素子23が示す温度は100℃となり、電動機2の周囲温度60℃の場合においては固定子巻線温度180℃のところ位置検出器22内の温度検出素子23が示す温度は140℃となる。また、一般に、位置検出器22内のプリント基板上の部品は電動機2の固定子巻線3よりも熱に対して耐性が弱いため、位置検出器22内のプリント基板上の部品を過熱から保護するために規定された温度(以下、「位置検出器保護温度」と称する。)は、固定子巻線3の上限温度であるよりも低い。図3は、本発明の第1および第2の実施例における固定子巻線の温度と位置検出器内の温度検出素子が示す温度との関係を示す図である。図3に示すグラフにおいて、横軸にトルク〔Nm〕、縦軸に固定子巻線の温度変化量〔℃〕をとる。図3において、位置検出器22内のプリント基板上の部品を過熱から保護するために規定された位置検出器保護温度が100℃であったと仮定する。電動機2の駆動を開始してトルクを徐々に増加させていくと、固定子巻線温度および位置検出器内の温度検出素子が示す温度が徐々に上昇する。電動機2の周囲温度が20℃のときは、位置検出器内の温度検出素子が示す温度は、位置検出器保護温度100℃に達するまで80℃の温度上昇まで可能であり、したがって位置検出器保護温度が100℃に達するほどまでトルクを増大させると、この間、大量の電流が流れ、固定子巻線の温度上昇分も大きなものとなる。これに対し、電動機2の周囲温度が60℃のときは、位置検出器内の温度検出素子が示す温度は、位置検出器保護温度100℃に達するまで40℃の温度上昇しか許されず、したがって位置検出器保護温度が100℃に達するまでトルクを増大させるには周囲温度が20℃のときほどの電流を要さず、したがって、固定子巻線の温度上昇分は小さい。このように、電動機2の周囲温度が低いほど、位置検出器保護温度に達するまでの固定子巻線の温度上昇分は大きく、電動機2の周囲温度が高いほど、位置検出器保護温度に達するまでの固定子巻線の温度上昇分が小さくなることを意味する。したがって、位置検出器22内のプリント基板上の部品を保護するための位置検出器保護温度と同じ温度に固定子巻線3のアラームレベルを設定した場合は、電動機2の周囲温度が高いほど、固定子巻線温度は当該アラームレベルに達し易くなる。つまり、電動機2の周囲温度が高いほど、位置検出器22内のプリント基板上の部品を保護するための位置検出器保護温度と同じ温度にアラームレベルを設定にしても固定子巻線3が実際の限界温度に達する可能性が低くなるので、位置検出器保護温度を用いて固定子巻線3の過熱を防止することは十分可能である。
【0043】
そこで、本発明の第1および第2の実施例では、アラームレベルを、電動機2の周囲温度が所定の温度以下の場合には温度変化量の最大値と周囲温度とに基づいて規定された温度に設定し、周囲温度が所定の温度より高い場合には位置検出器を過熱から保護するために規定された温度であるものに設定し、固定子巻線温度が当該アラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力し、アラーム信号を受信したとき電動機への駆動電力の供給の停止を指令する。これにより、電動機の固定子巻線の過熱を確実に防止するとともに、電動機を効率よく駆動することができる。
【0044】
図4は、本発明の第1および第2の実施例における、電動機の固定子巻線の上限温度と電動機の周囲温度との関係を示す図であって、(a)は周囲温度が40℃、(b)は周囲温度が20℃、(c)は周囲温度が0℃の場合を示す図である。上記「所定の温度」は、電動機2の周囲温度に電動機2の温度変化量の最大値を加算して得られる温度が、固定子巻線の実際の限界温度(図中、点線で示される温度)となる場合の、当該周囲温度である。図4の例では、(b)に示すように、上記「所定の温度」を20℃に設定する。電動機2の周囲温度が20℃以下のとき、図4(b)および4(c)に示すように、この周囲温度に電動機の温度変化量の最大値を加算して得られる温度(図中、一点鎖線で示される温度)をアラームレベルを規定し、電動機2の周囲温度が20℃より高いときは、図4(a)に示すように、位置検出器22を過熱から保護するために規定された位置検出器保護温度と同じ温度(図中、二点鎖線で示される温度)にアラームレベルを規定する。この場合、図4(a)に示すように、電動機2の周囲温度が40℃のときにおいて、電動機2の駆動を開始すると、固定子巻線温度計算部11によって計算される固定子巻線温度が時間とともに徐々に上昇する。従来の方法であれば、周囲温度20℃のときにおいて固定子巻線の実際の限界温度としてアラームレベルが設定されたアラームレベルをそれより高い周囲温度40℃のときにも使うことになり、このような設定だと周囲温度40℃の下で固定子巻線に電流を流し続けると時間の経過とともに、固定子巻線温度が固定子巻線の実際の限界温度を超えてしまう。しかしながら、本発明によれば、図4(a)に示すように、電動機2の周囲温度が40℃のときのアラームレベルは位置検出器22を過熱から保護するために規定された位置検出器保護温度と同じ温度に設定されているで、固定子巻線に電流を流しすぎでも、位置検出器保護温度と同じ温度に設定されたアラームレベル(図中、二点鎖線で示される温度)に達し、これによりアラーム信号が出力され、電動機2への駆動電力の供給が停止され、それ以上の固定子巻線の温度上昇を防ぐことができ、固定子巻線の焼損を免れることができる。本発明の第1および第2の実施例を示す図4と、従来技術を示す図5とを比較すると、それぞれ図4(c)および図5(c)に示す周囲温度0℃のときにおいて、実際の巻線の限界温度と設定したアラームレベルとの差(ずれ)が、本発明の第1および第2の実施例を示す図4(c)のほうが、従来技術を示すび図5(c)よりも小さいことが分かる。このことから、本発明の第1および第2の実施例のほうが、固定子巻線を焼損することなく電動機が有する性能を最大限に引き出すことができていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、電動機の固定子巻線の過熱による焼損から防ぐ巻線過熱防止装置およびこれを含む電動機の制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 巻線過熱防止装置
2 電動機
3 固定子巻線
4 回転子
5 軸
11 固定子巻線温度計算部
12 位置検出器温度検出部
13 アラーム信号出力部
14 巻線保護部
15 切替部
21 電流検出部
22 位置検出器
23 温度検出素子
31 位置検出器アラーム信号出力部
32 位置検出器保護部
33 温度検出素子
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の固定子巻線に流れる電流から推定される前記固定子巻線の温度変化量と前記電動機の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部と、
前記電動機の回転子の位置情報を検出する位置検出器内に設けられた温度検出素子が示す温度を検出する位置検出器温度検出部と、
前記固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部であって、前記アラームレベルは、前記周囲温度が所定の温度以下の場合には前記温度変化量の最大値と前記周囲温度とに基づいて規定された温度であり、前記周囲温度が前記所定の温度より高い場合には前記位置検出器を過熱から保護するために規定された温度であるアラーム信号出力部と、
を備えることを特徴とする電動機の巻線過熱防止装置。
【請求項2】
前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号を受信したとき前記電動機への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部をさらに備える請求項1に記載の電動機の巻線過熱防止装置。
【請求項3】
前記アラーム信号出力部において前記アラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、前記固定子巻線温度計算部により計算された前記固定子巻線温度と前記固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備える請求項1または2に記載の電動機の巻線過熱防止装置。
【請求項4】
電動機へ供給する駆動電力を制御する制御装置であって、
前記電動機の固定子巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された前記電流から推定される前記固定子巻線の温度変化量と前記電動機の周囲温度とに基づいて固定子巻線温度を計算する固定子巻線温度計算部と、
前記電動機の回転子の位置情報を検出する位置検出器と、
前記位置検出器内に設けられた温度検出素子と、
前記温度検出素子が示す温度を検出する位置検出器温度検出部と、
前記固定子巻線温度がアラームレベルを超えたとき、アラーム信号を出力するアラーム信号出力部であって、前記アラームレベルは、前記周囲温度が所定の温度以下の場合には前記温度変化量の最大値と前記周囲温度とに基づいて規定された温度であり、前記周囲温度が前記所定の温度より高い場合には前記位置検出器を過熱から保護するために予め設定された温度であるアラーム信号出力部と、
前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号を受信したとき前記電動機への駆動電力の供給の停止を指令する巻線保護部と、
を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項5】
前記所定の温度は、前記周囲温度が所定の温度以下の場合に用いられる前記アラームレベルを規定したときの前記電動機の周囲温度である請求項4に記載の電動機の制御装置。
【請求項6】
前記位置検出器温度検出部で検出された温度が、前記位置検出器を過熱から保護するために規定された温度を超えたとき、位置検出器アラーム信号を出力する位置検出器アラーム信号出力部と、
前記位置検出器アラーム信号出力部から前記位置検出器アラーム信号を受信したとき前記電動機への駆動電力の供給の停止を指令する位置検出器保護部と、
をさらに備える請求項4または5に記載の電動機の制御装置。
【請求項7】
前記アラーム信号出力部において前記アラームレベルとの比較に用いられる固定子巻線温度を、前記固定子巻線温度計算部により計算された前記固定子巻線温度と前記固定子巻線に設けられた温度検出素子が示す温度とで切り替える切替部をさらに備える請求項4〜6のいずれか一項に記載の電動機の制御装置。
【請求項8】
前記位置検出器の着脱のための装着部をさらに備える請求項4〜7のいずれか一項に記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−70485(P2013−70485A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206221(P2011−206221)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】