説明

電動機の電機子

【課題】 各ティースに作用するラジアル力のピーク値がばらつくことを抑制できる電動機の電機子を提供すること。
【解決手段】 3相、6極、27スロットの電機子11は、ティース*1〜*27及びスロット#1〜#27と、ティース*1〜*27に施された3相の巻線LU,LV,LWとを備えている。電機子11は、仮に全てのティース*1〜*27が同じ寸法形状であった場合に、特定のティース(ティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25)に作用するラジアル力が、他のティースに作用するラジアル力よりも大きくなる巻線構造を有している。電機子11は、ヨーク12において特定のティースの基部付近に孔17を設けて磁路を狭めることで、特定のティースに作用するラジアル力のピーク値を他のティースに作用するラジアル力のピーク値に近づけている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に用いられ、複数のティース及び複数のスロットと、ティースに施された3相の巻線とを備えた電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電機子としては、一種類の相の巻線のみが収容されたスロットと、異相の巻線が二つ収容されたスロットとが混在する構成のものが存在する(例えば特許文献1参照)。このような構成の電機子は、例えば全てのスロットが一種類の相の巻線のみを収容する電機子と比較して、コイルエンド(電機子の端部における巻線の突出部分)を小さくすることのできる巻線配置が可能である。
【0003】
例えば図4には、3相、6極、27スロットの電機子101を一方のコイルエンド側から見た状態が示されている。図示しない回転子は矢印R方向に回転する。図4において実線は、各相の巻線LU,LV,LWが紙面の表側(電機子101の一方のコイルエンド側)でスロット#1〜#27間を引き回されている様子を示し、点線は、各相の巻線LU,LV,LWが紙面の裏側(他方のコイルエンド側)でスロット#1〜#27間を引き回されている様子を示している。
【0004】
また、図4において、「○」の中に「×」が入れられた記号は、各相の巻線LU,LV,LW(実線及び点線)をその巻き付け順(図面の反時計方向)に辿った場合において、巻線LU,LV,LWがスロット#1〜#27内を紙面の表側から裏側へ引き回されている様子を示し、「◎」は各相の巻線LU,LV,LW(実線及び点線)をその巻き付け順(図面の反時計方向)に辿った場合において、巻線LU,LV,LWがスロット#1〜#27内を紙面の裏側から表側へ引き回されている様子を示している。
【0005】
この電機子101においては、スロット#1,#5,#10,#14,#19,#23内にU相の巻線LUが単独で収容され、スロット#4,#8,#13,#17、#22,#26内にV相の巻線LVが単独で収容され、スロット#2,#7,#11,#16,#20,#25内にW相の巻線LWが単独で収容されている。また、スロット#3,#12,#21内にV相の巻線LVとW相の巻線LWとが収容され、スロット#6,#15,#24内にU相の巻線LUとW相の巻線LWとが収容され、スロット#9,#18,#27内にU相の巻線LUとV相の巻線LVとが収容されている。
【0006】
なお、このような巻線構造においては、スロット#1,#2,#4,#5,#7,#8,#10,#11,#13,#14,#16,#17,#19,#20,#22,#23,#25,#26内に単独で収容される巻線LU,LV,LWの巻回数(巻線の条数。例えば16ターン)に対して、他の相の巻線LU,LV,LWと一緒にスロット#3,#6,#9,#12,#15,#18,#21,#24,#27内に収容される巻線LU,LV,LWの巻回数が半分(例えば8ターン)とされることが一般的となっている。つまり、各スロット#1〜#27内における巻線LU,LV,LWの合計の巻回数は同じとされている。
【特許文献1】特開平9−121491号公報(第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前述した電機子101においては、電動機の稼働時において各ティース*1〜*27に作用するラジアル力(電機子101を変形しようとする半径方向への力)のピーク値が均一ではなく、特定のティース(詳しくはティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25)に作用するラジアル力のピーク値が、他のティースに作用するラジアル力のピーク値よりも大きくなる傾向にある。
【0008】
つまり、例えば図6に電機子101の一部を展開して示すように、スロット#1に収容されたU相の巻線LU(16ターン)と、スロット#2に収容されたW相の巻線LW(16ターン)とは、ティース*1に作用するラジアル力がピークとなるタイミングにおいて、同一方向に磁束を発生させている(図6には各巻線LU,LV,LWにおける電流の流れる方向が矢印で示されている)。したがって、ティース*1には、U相の巻線LU及びW相の巻線LWによる同一方向への磁束の発生に起因して、ラジアル力のピーク値が大きくなる。
【0009】
これに対して、スロット#2に収容されたW相の巻線LW(16ターン)と、スロット#3に収容されたV相の巻線LV(8ターン)とは、ティース*2に作用するラジアル力がピークとなるタイミングにおいて同一方向に磁束を発生させる一方で、スロット#3に収容されたW相の巻線LW(8ターン)は前記タイミングにおいて逆方向に磁束を発生させる。したがって、ティース*1とティース*2とは、同じ寸法形状つまり磁束の通り易さが同じであることから、図5に示すように、スロット#2及びスロット#3に隣接しているティース*2に作用するラジアル力のピーク値は、巻線LU,LV,LWの起磁力の相違に起因して、ティース*1に作用するラジアル力のピーク値よりも小さくなってしまう。
【0010】
このように、前述した電機子101が採用している巻線構造によれば、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25と他のティースとで、巻線LU,LV,LWの起磁力が異なることとなり、したがって各ティース*1〜*27に作用するラジアル力のピーク値のばらつきが大きくなって、電動機が発生する異音や振動が大きくなる問題があった。
【0011】
なお、このような問題は、一種類の相の巻線のみが収容されたスロットと、異なる種類の相の巻線がそれぞれ収容されたスロットとが混在する構成の電機子においてのみ生じるものではない。例えば全てのスロットに一種類の相の巻線のみが収容された電機子においても、その巻線構造の如何によっては起磁力がばらつくことがあり、前記と同様な問題を生じることがある。
【0012】
本発明の目的は、各ティースに作用するラジアル力のピーク値がばらつくことを抑制できる電動機の電機子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために請求項1の発明は、特定のティース(仮に複数のティースが全て同じ寸法形状であった場合に、それに作用するラジアル力のピーク値が他のティースよりも大きくなるようなティース)及び/又は該ティース付近における磁路を、他のティースのそれよりも狭めることで(磁束を通り難くして該磁束を減少させることで)、特定のティースに作用するラジアル力のピーク値を他のティースに作用するラジアル力のピーク値に近づけた。つまり、本発明の電機子は、例えば全てのティースの寸法形状が同じである電機子と比較して、各ティースに作用するラジアル力のピーク値のばらつきが少なくなる。
【0014】
請求項2の発明は請求項1において、複数のティースはヨークによって外周側がつながれており、特定のティースは、該ティース及び/又はヨークにおいて特定のティース付近に孔が設けられることで磁路が狭められている。したがって、例えば特定のティースの幅を狭める場合と比較して、各ティース間において幅にばらつきが生じることを抑制できる。よって、例えば巻線において特定のティースに対応する部分にがたつきが生じることを抑制できる。
【0015】
請求項3の発明は請求項1において、複数のティースはヨークによって外周側がつながれており、各ティースは、ヨークから径方向内側に向かって延出された本体部と該本体部の先端に設けられた幅広部とを備えており、特定のティースは、該ティースにおける本体部の一部又は全体の幅が他のティースにおける本体部の幅よりも小さくされることで磁路が狭められている。このようにすれば、例えば積層鉄心(ヨーク及びティース)を構成する各積層体のプレス加工と同時に、特定のティースの磁路を他のティースの磁路よりも狭めることが容易となり、電機子の製造工程を簡素化することができる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項の発明を適用するのに好適な一態様について言及するものである。すなわち、電機子の巻線構造は、一種類の相の巻線のみが収容されたスロットと、異なる種類の相の巻線がそれぞれ収容されたスロットとが混在するものである。
【0017】
請求項5の発明は請求項4において、「特定のティース」について言及するものである。すなわち、特定のティースとは、それに隣接する二つのスロットにそれぞれ一種類の相の巻線のみが収容されたティースのことである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各ティースに作用するラジアル力のピーク値がばらつくことを抑制でき、例えば電動機が発生する異音や振動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
図1には、電動機に用いられる電機子(固定子)11を、一方のコイルエンド(電機子11の端部における巻線の突出部分)側から見た状態が示されている。また、該図においては理解を容易とするために、電機子11の巻線構造が模式的に示されている。なお、図示しない回転子は矢印R方向へ回転するものとする。
【0020】
さて、電機子11は、3相、6極、27スロットの構造を有しており、スロット#1〜#27及びティース*1〜*27と、ティース*1〜*27に施された各相の巻線LU,LV,LWとを備えている。各ティース*1〜*27の外周側はヨーク12によってつながれている。各ティース*1〜*27は、ヨーク12の内周縁から径方向内側に向かって延出された本体部14と、本体部14の先端に設けられた幅広部15とを備えている(図1において本体部14及び幅広部15の部材番号はティース*1にのみ付している)。この電機子11の鉄心(ヨーク12及びティース*1〜*27)は、複数の積層体を軸線方向(紙面の垂直方向。回転子の回転中心軸線に沿う方向)に積層してなる、いわゆる積層鉄心からなっている。
【0021】
ここで、図1において実線は、各相の巻線LU,LV,LWが紙面の表側(電機子11の一方のコイルエンド側)でスロットスロット#1〜#27間を引き回されている様子を示し、点線は、各相の巻線LU,LV,LWが紙面の裏側(他方のコイルエンド側)でスロット#1〜#27間を引き回されている様子を示している。
【0022】
また、図1において、「○」の中に「×」が入れられた記号は、各相の巻線LU,LV,LW(実線又は点線)をそのティース*1〜*27に対する巻き付け順(図面の反時計方向)に辿った場合において、巻線LU,LV,LWがスロット#1〜#27内を紙面の表側から裏側へ引き回されている様子を示し、「◎」は各相の巻線LU,LV,LW(実線又は点線)をそのティース*1〜*27に対する巻き付け順(図面の反時計方向)に辿った場合において、巻線LU,LV,LWがスロット#1〜#27内を紙面の裏側から表側へ引き回されている様子を示している。
【0023】
U相の巻線LUは、1連部LU−1と0.5連部LU−2とを備えている。1連部LU−1は、スロット#1→スロット#5→スロット#10→スロット#14→スロット#19→スロット#23→(スロット#1)→(スロット#5)…と、それぞれ各スロット#1,#5,#10,#14,#19,#23内に単独で収容されているとともに、巻回数(各スロット#1,#5,#10,#14,#19,#23内における条数)が例えば16ターンとなっている。
【0024】
また、0.5連部LU−2は、1連部LU−1に連続され、スロット#27→スロット#6→スロット#9→スロット#15→スロット#18→スロット#24→(スロット#27)→(スロット#6)…と、それぞれ各スロット#6,#9,#15,#18,#24,#27内に他の相のうちの一方の巻線LV,LWと一緒に収容されているとともに、巻回数が1連部LU−1の半数(8ターン)となっている。
【0025】
V相の巻線LVは、1連部LV−1と0.5連部LV−2とを備えている。1連部LV−1は、スロット#4→スロット#8→スロット#13→スロット#17→スロット#22→スロット#26→(スロット#4)→(スロット#8)…と、それぞれ各スロット#4,#8,#13,#17,#22,#26内に単独で収容されているとともに、巻回数が例えば16ターンとなっている。
【0026】
また、0.5連部LV−2は、1連部LV−1に連続され、スロット#3→スロット#9→スロット#12→スロット#18→スロット#21→スロット#27→(スロット#3)→(スロット#9)…と、それぞれ各スロット#3,#9,#12,#18,#21,#27内に他の相のうちの一方の巻線LU,LWと一緒に収容されているとともに、巻回数が1連部LV−1の半数(8ターン)となっている。
【0027】
W相の巻線LWは、1連部LW−1と0.5連部LW−2とを備えている。1連部LW−1は、スロット#25→スロット#2→スロット#7→スロット#11→スロット#16→スロット#20→(スロット#25)→(スロット#2)…と、それぞれ各スロット#2,#7,#11,#16,#20,#25内に単独で収容されているとともに、巻回数が例えば16ターンとなっている。また、0.5連部LW−2は、1連部LW−1に連続され、スロット#24→スロット#3→スロット#6→スロット#12→スロット#15→スロット#21→(スロット#24)→(スロット#3)…と、それぞれ各スロット#3,#6,#12,#15,#21,#24内に他の相のうちの一方の巻線LU,LVと一緒に収容されているとともに、巻回数が1連部LW−1の半数(8ターン)となっている。
【0028】
つまり、電機子11は、各相の各極巻線が一つの1連部LU−1,LV−1,LW−1と一つの0.5連部LU−2,LV−2,LW−2とからなる、いわゆる「1.5連」の巻線構造を有している。
【0029】
ここで、前記「発明が解決しようとする課題」でも述べたように、仮に電機子11における各ティース*1〜*27の寸法形状が同じであるなら、本実施形態のような巻線構造では、各ティース*1〜*27間においてラジアル力(電機子11を変形しようとする半径方向への力)のピーク値にばらつきが生じる。つまり、巻線LU,LV,LWの起磁力が強い環境にある特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に作用するラジアル力のピーク値が、巻線LU,LV,LWの起磁力が弱い環境にある他のティースに作用するラジアル力のピーク値よりも大きくなる(図5及び図6参照)。
【0030】
なお、図1からも明らかなように、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25とは、隣接する二つのスロットにそれぞれ一種類の相の巻線LU,LV,LWのみが収容されたティースであることがわかる。また、他のティースとは、隣接する二つのスロットのうちの一方に一種類の相の巻線LU,LV,LWのみが収容されかつ、他方に異なる種類の相の巻線LU,LV,LWが二つ収容されたティースであることがわかる。
【0031】
そこで本実施形態においては、ヨーク12における、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近の磁路を、他のティース付近の磁路よりも狭めている(磁束を通り難くして該磁束を減少させている)。具体的には、ヨーク12において特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の基部付近は、そこに円形の孔17が表裏方向に貫設されることで、例えば孔17が設けられていない場合(図4参照)と比較して磁路が狭められている。この孔17の加工は、例えば積層鉄心(ヨーク12及びティース*1〜*27)を構成する各積層体のプレス加工後に、ドリル加工によって行われる。
【0032】
そして、このドリル加工時において、孔17の径を好適に設定することで(磁路を狭める度合いを好適に設定することで)、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に作用するラジアル力のピーク値が、他のティースに作用するラジアル力のピーク値とほぼ同じとなるように調節している。例えば電機子11のラジアル力について示す図2を、従来の電機子101のラジアル力について示す図5と比較すれば、特定のティース*1,*4に作用するラジアル力のピーク値が、他のティース*2,*3に作用するラジアル力のピーク値に近づけられていることがわかる。
【0033】
本実施形態においては次のような効果を奏する。
(1)ヨーク12における特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近の磁路を、他のティース付近の磁路よりも狭めることで、各ティース*1〜*27間におけるラジアル力のピーク値のばらつきを抑えている。したがって、例えば電動機が発生する異音や振動を抑制することができる。
【0034】
(2)ヨーク12において特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近に孔17を設けることで、この付近における磁路を、他のティース付近における磁路よりも狭めている。したがって、例えば後述する別例(図3参照)とは異なり、各ティース*1〜*27間において本体部14の幅にばらつきが生じることを抑制でき、例えば巻線LU,LV,LWにおいて特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に対応する部分にがたつきが生じることを抑制できる。
【0035】
また、孔17をヨーク12に設けることで、例えば孔17を、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の本体部14又は幅広部15に直接設ける場合、言い換えれば幅の狭い領域を狙う孔加工と比較して、孔17の加工が容易となる。さらに、孔17を設けることによる、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の強度低下を抑制することができる。
【0036】
なお、鉄心に孔17を設けたり(本実施形態)、ティースの本体部14の幅を狭めたりすること(図3の別例)は、当然ながら鉄心の軽量化つまり電動機の軽量化につながる。
(3)特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25における磁路を狭める手法としては、後述する別例(図3参照)のように、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の本体部14の幅を他のティースの本体部14の幅よりも狭めることが考えられる。
【0037】
しかし、従来技術の電機子101において、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に作用するラジアル力のピーク値は、他のティースに作用するラジアル力のピーク値よりも約2%程度大きいのみである(図5参照)。したがって、本体部14の幅を狭める手法は、積層鉄心(ヨーク12及びティース*1〜*27)を構成する各積層体のプレス加工を精度良く行わないと、このプレス加工時の誤差やプレス型の経時寸法変化に吸収されて、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25における磁路を、確実かつ好適に狭めることができない可能性がある。
【0038】
そこで本実施形態では、ヨーク12において特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近に、積層体のプレス工程よりも後の工程で、ドリル加工によって孔17を設けることで、磁路を狭めるようにしている。したがって、積層体のプレス加工時の誤差等に影響されることなく、しかも精度確保が容易な孔17のドリル加工によって、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近における磁路を確実かつ好適に狭めることができる。
【0039】
(4)電機子11の巻線構造は、一種類の相の巻線LU,LV,LWのみが収容されたスロットと、異なる種類の相の巻線LU,LV,LWが二つ収容されたスロットとが混在するものである。このような巻線構造を有した電機子11は、各ティース*1〜*27に作用するラジアル力のピーク値がばらつき易いため、本発明を具体化するのに特に有効となる。
【0040】
なお、前記実施形態に係る電動機の電機子11は、本発明の一実施形態を示すものにすぎず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で変形することが可能である。例えば、以下に記すように変形することも可能であり、また、各変形例を、互いに矛盾しない範囲内で適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0041】
○前記実施形態から孔17を削除するとともに、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の本体部14における一部又は全体の幅(言い換えれば横断面積)を、他のティースの本体部14の幅よりも狭めることで、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25における磁路を他のティースにおける磁路よりも狭めること。例えば図3の態様では、特定のティース*4の本体部14における全体の幅、及び図示しないが他の特定のティース*1,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の本体部14における全体の幅が、他のティースの本体部14の幅よりも狭められている。
【0042】
このようにすれば、積層鉄心を構成する各積層体のプレス加工と同時に、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の磁路を他のティースの磁路よりも狭めることができ、電機子11の製造工程を簡素化することができる。つまり、例えば細孔(孔17)をプレス加工で設けるのは、幅を狭める場合と比較して、精度の確保が困難であるしプレス型(例えば孔17用の微小な突起部分)の寿命を著しく低下させるのである。
【0043】
なお、図3の態様の場合、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25の本体部14における全体の幅を、他のティースの本体部14の幅よりも1.5%〜2.5%小さくした場合に、良好な結果(各ティース*1〜*27間におけるラジアル力のピーク値のばらつきを好適に抑制できる)が得られた。
【0044】
○前記実施形態(孔17の形成)と図3の態様(本体部14の幅を狭くすること)とを併用すること。
○ヨーク12ではなく、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25(本体部14及び/又は幅広部15)に孔を直接設けること。
【0045】
○特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25、又はヨーク12において特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近に、孔を複数設けること。この場合、孔の数の調節によって、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に作用するラジアル力のピーク値の微調節を行うようにしてもよい。
【0046】
○積層鉄心を構成する複数の積層体のうちの一部にのみ、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25、又はヨーク12において特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25付近に、孔17を設けること。このようにすれば、孔を設ける積層体の数を調節することで、特定のティース*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25に作用するラジアル力のピーク値の微調節を好適に行うことができる。
【0047】
○本発明の電機子を、全てのスロットに一種類の相の巻線のみが収容された電機子に具体化すること。つまり、仮に前記複数のティースが全て同じ寸法形状であった場合に、特定のティースに作用するラジアル力が、他のティースに作用するラジアル力よりも大きくなるような巻線構造を有した電機子であるなら、どのような巻線構造の電機子であっても本発明を適用可能である。
【0048】
○本発明の電機子を、各相の各極巻線が複数の1連部と一つの0.5連部とからなる電機子に具体化すること。
○本発明の電機子を電動機の回転子に具体化すること。
【0049】
上記実施形態又は別例から把握できる技術的思想について記載する。
(1)電動機の電機子に用いられる鉄心であって、複数のティースの外周側がヨークによってつながれた鉄心において、前記複数のティースのうちの特定のティースには、該ティース及び/又は前記ヨークにおいて前記特定のティース付近に孔が設けられることで、他のティースよりも磁路が狭められていることを特徴とする電機子の鉄心。
【0050】
この鉄心を用いた電機子においては、特定のティースに作用するラジアル力のピーク値を他のティースに作用するラジアル力のピーク値に近づけることが容易となる。
(2)電動機の電機子に用いられる鉄心であって、複数のティースの外周側がヨークによってつながれているとともに、前記各ティースが、前記ヨークから径方向内側に向かって延出された本体部と該本体部の先端に設けられた幅広部とを備えた鉄心において、前記複数のティースのうちの特定のティースには、該ティースにおける前記本体部の一部又は全体の幅が他のティースにおける前記本体部の幅よりも小さくされることで、前記他のティースよりも磁路が狭められていることを特徴とする電機子の鉄心。
【0051】
この鉄心を用いた電機子においては、特定のティースに作用するラジアル力のピーク値を他のティースに作用するラジアル力のピーク値に近づけることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】一実施形態の電機子を一方のコイルエンド側から見た正面図。
【図2】ラジアル力のピーク値のばらつきが抑制されている様子を示すグラフ。
【図3】別例の電機子のコイルエンドを拡大して示す部分図。
【図4】従来の電機子を一方のコイルエンド側から見た正面図。
【図5】ラジアル力のピーク値がばらついている様子を示すグラフ。
【図6】ラジアル力のピーク値がばらつく原因を説明する模式図。
【符号の説明】
【0053】
11…電機子、12…ヨーク、14…ティースの本体部、15…ティースの幅広部、17…孔、*1〜*27…ティース(特に*1,*4,*7,*10,*13,*16,*19,*22,*25は「特定のティース」でありそれ以外は「他のティース」)、#1〜#27…スロット、LU…U相の巻線、LV…V相の巻線、LW…W相の巻線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に用いられ、複数のティース及び複数のスロットと、ティースに施された3相の巻線とを備えた電機子であって、仮に前記複数のティースが全て同じ寸法形状であった場合に、特定のティースに作用するラジアル力が、他のティースに作用するラジアル力よりも大きくなるような巻線構造を有した電機子において、
前記特定のティース及び/又は該ティース付近における磁路を前記他のティースよりも狭めることで、前記特定のティースに作用するラジアル力のピーク値を前記他のティースに作用するラジアル力のピーク値に近づけたことを特徴とする電動機の電機子。
【請求項2】
前記複数のティースはヨークによって外周側がつながれており、前記特定のティースは、該ティース及び/又は前記ヨークにおいて前記特定のティース付近に孔が設けられることで磁路が狭められている請求項1に記載の電動機の電機子。
【請求項3】
前記複数のティースはヨークによって外周側がつながれており、前記各ティースは、前記ヨークから径方向内側に向かって延出された本体部と該本体部の先端に設けられた幅広部とを備えており、前記特定のティースは、該ティースにおける前記本体部の一部又は全体の幅が前記他のティースにおける前記本体部の幅よりも小さくされることで磁路が狭められている請求項1に記載の電動機の電機子。
【請求項4】
前記巻線構造は、一種類の相の巻線のみが収容された前記スロットと、異なる種類の相の巻線がそれぞれ収容された前記スロットとが混在するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動機の電機子。
【請求項5】
前記特定のティースとは、それに隣接する二つの前記スロットにそれぞれ一種類の相の巻線のみが収容されたティースのことである請求項4に記載の電動機の電機子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−60915(P2006−60915A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239844(P2004−239844)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】