説明

電動車の電気系統制御システム

【課題】表示機能部(コンビネーションメータ)に故障がある場合には、走行可能状態や充電可能状態に移行せず、電気自動車のシステム状態と、運転者が表示機能部を見て視認・識するシステム状態とを一致させて、安全性をより向上させる。
【解決手段】イグニッションスイッチが投入されたり、充電用コネクタ42に充電ガンが接続されたりしたときに、コンビネーションメータ31に異常がないと判定したときに、車両統合制御ユニット(EV−ECU)51は、高電圧機器(MCUや車載充電器)と充電用電池11とを接続する高電圧配線61に介装した高電圧リレー62を投入して、走行可能状態や充電可能状態に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車の電気系統制御システムに関し、表示機能部(コンビネーションメータ)が故障している場合には、走行可能状態(READY状態)や充電可能状態に移行しないようにして安全性を向上したものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に搭載される電気・制御系の主なシステムコンポーネントとしては、次のようなものがある。
(1)電池システム
電池システムは、車両駆動用バッテリと、バッテリマネジメントユニット(BMU)などにより構成されている。
(2)モータシステム
モータシステムは、車両駆動用モータと、モータ制御機能及び電力変換機能(インバータ)を一体化したモータコントロールユニット(MCU)などにより構成されている。
(3)表示システム
表示システムは、コンビネーションメータ(表示機能部)などにより構成されている。
(4)充電システム
充電システムは、DC/DCコンバータが一体化して組み込まれた車載充電器や、充電用コネクタなどにより構成されている。
(5)情報伝送・制御システム
情報伝送・制御システムは、車両全体を統合制御する車両統合制御ユニット(EV−ECU:Electric Vehicle − Electronic Control Unit)を制御中心として、EV−ECUと、BMUや、MCUや、コンビネーションメータ(のECU)や、車載充電器(のECU)を、CAN(Controller Area Network)−BUSにより接続して構成される。なお、CAN−BUSには、その他のECUも接続されている。
そしてCAN−BUSを通して、各ECU相互間でCAN通信により情報伝送を行っている。
(6)高電圧配線系統
高電圧配線系統では、車両駆動用バッテリと高電圧機器(MCUや車両駆動用モータや車載充電器)とを接続する高電圧配線に、高電圧リレーが介装されている。
高電圧リレーは、EV−ECUの制御により、投入・開放される。
【0003】
このような電気自動車では、イグニッションシリンダにキーが挿入されたり、充電用コネクタに充電ガンが接続されたりすると、EV−ECUや、BMUや、MCUや、コンビネーションメータ(のECU)や、車載充電器(のECU)や、その他のECUに制御電圧が印加され、CAN−BUSを介して、各ECU相互間でCAN通信により情報伝送が行われる。
【0004】
従来の電気自動車では、イグニッションシリンダに挿入されたキーが回転されてイグニッションスイッチがON(投入)状態になると、EV−ECUは、BMU及びMCUとCAN通信をして、電池システムやモータシステムに異常がないか否かの検査をする。
異常がないと判断したら、EV−ECUは、高電圧配線に介装されている高電圧リレーを投入し、MCUと車両駆動用バッテリとを接続する。即ち、高電圧配線を活線にするシーケンス動作を行う。
このようにして、高電圧機器であるMCUと車両駆動用バッテリとを接続状態にして、走行可能状態(READY状態)にしている。
【0005】
また従来の電気自動車では、充電用コネクタに充電ガンが接続された状態になると、EV−ECUは、BMU及びMCU並びに車載充電器とCAN通信をして、電池システムやモータシステムや充電システムに異常がないか否かの検査をする。
異常がないと判断したら、EV−ECUは、高電圧配線に介装されている高電圧リレーを投入し、車載充電器と車両駆動用バッテリとを接続する。即ち、高電圧配線を活線にするシーケンス動作を行う。
このようにして、高電圧機器である車載充電器と車両駆動用バッテリとを接続状態にして、充電可能状態にしている。
【0006】
走行可能状態に移行すると、EV−ECUからコンビネーションメータに走行可能状態表示指令が送られて、コンビネーションメータが走行可能状態表示(例えば、「READY」という文字)を表示する。
充電可能状態に移行すると、EV−ECUからコンビネーションメータに充電可能状態表示指令が送られて、コンビネーションメータが充電可能状態表示(例えば、「コンセントを模式的に示す絵」)を表示する。
【0007】
なお、イグニッションスイッチがON(投入)状態になると、コンビネーションメータに必要な表示をする関連技術は、特許文献1にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−304509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の電気自動車では、イグニッションスイッチがON(投入)状態になると、EV−ECUは、BMU及びMCUとCAN通信をして、電池システムやモータシステムに異常がないか否かの検査をし、異常がないと判断したら、走行可能状態にしている。
このとき、コンビネーションメータに故障が発生している場合には、コンビネーションメータには走行可能状態表示(例えば、「READY」という文字)は表示されない。
つまり、電気自動車のシステムは走行可能状態に移行しているにもかかわらず、コンビネーションメータにはその表示がされず運転者は走行可能状態に移行していないと認識する。
このように従来技術では、電気自動車のシステム状態と、運転者のシステム状態の認識との間に齟齬が生ずることがあり、安全確保の観点からみて適切なものではなかった。
【0010】
また従来の電気自動車では、充電用コネクタに充電ガンが接続された状態になると、EV−ECUは、BMU及びMCU並びに車載充電器とCAN通信をして、電池システムやモータシステムや充電システムに異常がないか否かの検査をし、異常がないと判断したら、充電可能状態にしている。
このとき、コンビネーションメータに故障が発生している場合には、コンビネーションメータには充電可能状態表示(例えば、「コンセントを模式的に示す絵」)は表示されない。
つまり、電気自動車のシステムは充電可能状態に移行しているにもかかわらず、コンビネーションメータにはその表示がされず運転者は充電可能状態に移行していないと認識する。
このように従来技術では、電気自動車のシステム状態と、運転者のシステム状態の認識との間に齟齬が生ずることがあり、安全確保の観点からみて適切なものではなかった。
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑み、表示機能部(コンビネーションメータ)が故障している場合には、走行可能状態(READY状態)や充電可能状態に移行しないようにして、電気自動車のシステム状態と運転者のシステム状態の認識を一致させて安全性をより向上させる、電気自動車の電気系統制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の構成は、
車両に搭載された車両駆動用バッテリと、
前記車両に搭載された高電圧機器と、
前記車両駆動用バッテリ又は前記高電圧機器の状態を表示する表示機能部と、
前記高電圧機器と前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられた高電圧リレーと、
前記高電圧リレーの投入・開放制御をする制御ユニットとを備えた電動車の電気系統制御システムにおいて、
前記制御ユニットは、前記高電圧機器を機能させる状態になると、前記表示機能部との間で情報通信をすることにより、前記表示機能部に異常がないか否かを検査し、異常がないことを判定したら前記高電圧リレーの投入をすることを特徴とする。
【0013】
また本発明の構成は、
前記高電圧機器は、車両駆動用モータと前記車両駆動用モータを制御するモータコントロールユニットとを含み、
前記表示機能部は、前記車両駆動用モータの状態を表示し、
前記高電圧リレーは、前記モータコントロールユニットと前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられ、
前記制御ユニットは、イグニッションスイッチで前記高電圧機器を機能させる状態とすることを特徴とする。
【0014】
また本発明の構成は、
前記高電圧機器は、前記車両駆動用バッテリを充電する車載充電器であり、
前記表示機能部は、前記車両駆動用バッテリの状態を表示し、
前記高電圧リレーは、前記車載充電器と前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられ、
前記制御ユニットは、充電用コネクタに充電ガンが接続したら、前記高電圧機器を機能させる状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イグニッションスイッチが投入されたり、充電用コネクタに充電ガンが接続されたりしたときに、表示機能部に異常がないと判定したときに、高電圧機器(MCUや車両駆動用モータや車載充電器)と充電用電池とを接続する高電圧配線に介装した高電圧リレーを投入している。
このため、表示機能部に故障がある場合には高電圧リレーは投入されず、走行可能状態や充電可能状態に移行せず、電気自動車のシステム状態と運転者のシステム状態の認識とが一致し、安全性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る電気系統制御システムを適用した、電気自動車のシステムを示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例に係る電気系統制御システムを適用した、電気自動車のシステム構成図である。この電気自動車1には、操舵輪2aと駆動輪2bが備えられている。
また、この電気自動車1には、以下に述べるような、電気・制御系のシステムコンポーネントが搭載されている。
【0019】
電池システムは、車両駆動用バッテリ11と、バッテリマネジメントユニット(BMU)12などにより構成されている。
【0020】
モータシステムは、車両駆動用モータ21と、モータ制御機能及び電力変換機能(インバータ)を一体化したモータコントロールユニット(MCU)22などにより構成されている。
車両駆動用モータ21が回転駆動すると、車両駆動用モータ21の回転駆動力が、減速ギヤ23及び駆動軸24を介して駆動輪2bに伝達する。このため、駆動輪2bが回転して電気自動車1が走行する。
【0021】
表示システムは、コンビネーションメータ(表示機能部)31などにより構成されている。コンビネーションメータ31は、車速や充電残量や走行可能状態(READY状態)表示や充電可能状態表示や車両駆動用モータ21の状態や車両駆動用バッテリ11の状態やMCU22の状態などを表示する。
【0022】
充電システムは、DC/DCコンバータが一体化して組み込まれた車載充電器41や、この車載充電器41に電気的に接続されている充電用コネクタ42などにより構成されている。
充電をする場合には、商用電源に接続されている充電ガン(図示省略)が充電用コネクタ42に接続されて、車載充電器41に充電がされる。
【0023】
情報伝送・制御システムは、車両全体を統合制御する車両統合制御ユニット(EV−ECU:Electric Vehicle − Electronic Control Unit)51を制御中心として、EV−ECU51と、BMU12や、MCU22や、コンビネーションメータ31や、車載充電器41を、CAN(Controller Area Network)−BUS52により接続して構成される。なお、CAN−BUS52には、図示しないその他のECUも接続されている。
そしてCAN−BUS52を通して、各ECU相互間でCAN通信により情報伝送を行っている。
【0024】
なお、イグニッションシリンダ(図示省略)にキー(図示省略)が挿入されたり、充電用コネクタ42に充電ガンが接続されたりすると、EV−ECU51や、BMU12や、MCU22や、コンビネーションメータ31や、車載充電器41や、その他のECUに対して、制御電源(図示省略)から制御電圧(12V)が印加され、CAN−BUS52を介して、各ECU相互間でCAN通信により情報伝送が行われる。
【0025】
また、EV−ECU51には、イグニッションシリンダにキーが挿入されたり、キーが回転されたり、充電用コネクタ42に充電ガンが接続されたりする状態を示す状態信号が直接(CAN−BUSを通じてではなく直接)入力されている。このため、EV−ECU51は、キーの挿入・回転状態や、充電ガンの接続状態などを判定することができる。
【0026】
高電圧配線系統では、車両駆動用バッテリ11と高電圧機器(MCU22や車載充電器41)とを接続する高電圧配線61に、高電圧リレー62が介装されている。
高電圧リレー62は、EV−ECU51の制御により、投入・開放される。
【0027】
本実施例では、EV−ECU51は、イグニッションシリンダに挿入されたキーが回転されてイグニッションスイッチがON(投入)状態になると、BMU12及びMCU22とCAN通信をするのみならず、コンビネーションメータ31ともCAN通信をして、電池システムやモータシステムのみならずコンビネーションメータ31に異常がないか否かの検査をする。
異常がないと判断したら、EV−ECU51は、高電圧配線61に介装されている高電圧リレー62を投入し、MCU22と車両駆動用バッテリ11とを接続する。このようにして、高電圧機器であるMCU22と車両駆動用バッテリ11とを接続状態にして、走行可能状態(READY状態)にしている。
【0028】
走行可能状態に移行すると、CAN−BUS52を通じて、EV−ECU51からコンビネーションメータ31に走行可能状態表示指令が送られて、コンビネーションメータ31が走行可能状態表示(例えば、「READY」という文字)を表示する。
【0029】
一方、EV−ECU51は、コンビネーションメータ31に異常が発生していると判断したら、高電圧リレー62の投入は行わない。
この結果、電気自動車1は走行可能状態に移行せず、また、コンビネーションメータ31には走行可能状態表示(例えば、「READY」という文字)は表示されない。
したがって、運転者がコンビネーションメータ31を視認して認識するシステム状態と、実際の電気自動車1のシステム状態が一致し、安全性が向上する。
【0030】
また本実施例では、EV−ECU51は、充電用コネクタ42に充電ガンが接続された状態になると、BMU12及びMCU22並びに車載充電器41とCAN通信をするのみならず、コンビネーションメータ31ともCAN通信をして、電池システムやモータシステムや車載充電器41のみならずコンビネーションメータ31に異常がないか否かの検査をする。
異常がないと判断したら、EV−ECU51は、高電圧配線61に介装されている高電圧リレー62を投入し、車載充電器41と車両駆動用バッテリ11とを接続する。このようにして、高電圧機器である車載充電器41と車両駆動用バッテリ11とを接続状態にして、充電可能状態にしている。
【0031】
充電可能状態に移行すると、CAN−BUS52を通じて、EV−ECU51からコンビネーションメータ31に充電可能状態表示指令が送られて、コンビネーションメータ31が充電可能状態表示(例えば、「コンセントを模式的に示す絵」)を表示する。
【0032】
一方、EV−ECU51は、コンビネーションメータ31に異常が発生していると判断したら、高電圧リレー62の投入は行わない。
この結果、電気自動車1は充電可能状態に移行せず、また、コンビネーションメータ31には充電可能状態表示(例えば、「コンセントを模式的に示す絵」)は表示されない。
したがって、運転者がコンビネーションメータ31を視認して認識するシステム状態と、実際の電気自動車1のシステム状態が一致し、安全性が向上する。
【0033】
このように本実施例では、表示機能部(コンビネーションメータ)31が故障している場合には、走行可能状態(READY状態)や充電可能状態に移行しないようにして、電気自動車1のシステム状態と運転者のシステム状態の認識を一致させている。このため安全性をより向上させることができる。
【0034】
なお本発明は、電気自動車のみならず、車両駆動用モータとエンジンを備えたハイブリッド自動車にも適用することができる。
また本発明は、情報伝送・制御システムとして、CAN−BUSを用いたシステムのみならず、無線通信を用いたシステムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 電気自動車
2a 操舵輪
2b 駆動輪
11 車両駆動用バッテリ
12 バッテリマネジメントユニット(BMU)
21 車両駆動用モータ
22 モータコントロールユニット(MCU)
23 減速ギヤ
24 駆動軸
31 コンビネーションメータ
41 車載充電器
42 充電用コネクタ
51 車両統合制御ユニット(EV−ECU)
52 CAN−BUS(キャン−バス)
61 高電圧配線
62 高電圧リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車両駆動用バッテリと、
前記車両に搭載された高電圧機器と、
前記車両駆動用バッテリ又は前記高電圧機器の状態を表示する表示機能部と、
前記高電圧機器と前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられた高電圧リレーと、
前記高電圧リレーの投入・開放制御をする制御ユニットとを備えた電動車の電気系統制御システムにおいて、
前記制御ユニットは、前記高電圧機器を機能させる状態になると、前記表示機能部との間で情報通信をすることにより、前記表示機能部に異常がないか否かを検査し、異常がないことを判定したら前記高電圧リレーの投入をする、
ことを特徴とする電動車の電気系統制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車の電気系統制御システムにおいて、
前記高電圧機器は、車両駆動用モータと前記車両駆動用モータを制御するモータコントロールユニットとを含み、
前記表示機能部は、前記車両駆動用モータの状態を表示し、
前記高電圧リレーは、前記モータコントロールユニットと前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられ、
前記制御ユニットは、イグニッションスイッチで前記高電圧機器を機能させる状態とする、
ことを特徴とする電動車の電気系統制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車の電気系統制御システムにおいて、
前記高電圧機器は、前記車両駆動用バッテリを充電する車載充電器であり、
前記表示機能部は、前記車両駆動用バッテリの状態を表示し、
前記高電圧リレーは、前記車載充電器と前記車両駆動用バッテリとを接続する高電圧配線に設けられ、
前記制御ユニットは、充電用コネクタに充電ガンが接続したら、前記高電圧機器を機能させる状態とする、
ことを特徴とする電動車の電気系統制御システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−85432(P2012−85432A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229266(P2010−229266)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】