説明

電動車両の車体前部構造

【課題】前部衝突時にパワープラントと電気式ヒータ装置とが干渉することを回避し、衝突クラッシュストロークを確保し、併せて過大な車体減速度の増大を防止し、前部衝突の安全性を高めること。
【解決手段】ダッシュボードロア14の上部よりパワープラント室8の上方に張り出したダッシュボードアッパ16の下面に車室内空気調和用の電気式ヒータ装置38を、パワープラント26の最上部より高い位置に吊り下げ装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の車体前部構造に関し、特に、燃料電池車等、電動モータによって走行駆動される電動車両の車体前部構造に関する
【背景技術】
【0002】
燃料電池車等、電動モータによって走行駆動される電動車両(自動車)は、ガソリンエンジン車やディゼルエンジン車のように、車室内空気調和用の熱源がないため、大型の電気式ヒータ装置を搭載している(例えば、特許文献1)。
【0003】
前輪駆動の電動車両は、ダッシュボードロアより車両前方にパワープラント室(モータ室)が画定され、パワープラント室に、車輪駆動用の電動モータおよびモータ制御装置とを含むパワープラントが配置されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
燃料電池車において、フロントコンパートメント(パワープラント室)における各種部品、装置の配置を考慮することにより、前部衝突の安全性を高めたものが提案されている(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特開2004−74992号公報
【特許文献2】特開2005−104354号公報
【特許文献3】特開2006−224874号公報
【特許文献4】特開2007−87890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に示されているように、電気式ヒータ装置100が、パワープラント101とダッシュボードロア102との間の空間に配置された燃料電池車がある。この配置では、車両正面より見て、パワープラント101と電気式ヒータ装置100とが前後に重畳し、前部衝突時に、パワープラント101と電気式ヒータ装置100とが干渉し、車体減速度が増大する虞がある。
【0006】
車体デザイン上、フロントシールドガラス103がダッシュボードロア102の位置より車体前方に張り出している車体構造のものでは、パワープラント101とダッシュボードロア102との間の空間が狭くなり、前部衝突時に、パワープラント101と電気式ヒータ装置100とが干渉し易い。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、燃料電池車等の電動車両において、パワープラントとダッシュボードロアとの間の空間が狭くても、前部衝突時にパワープラントと電気式ヒータ装置とが干渉することを回避し、衝突クラッシュストロークを確保し、併せて過大な車体減速度の増大を防止し、前部衝突の安全性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電動車両の車体前部構造は、ダッシュボードロアより車両前方にパワープラント室が画定され、前記パワープラント室に、車輪駆動用の電動モータおよびモータ制御装置とを含むパワープラントが配置された電動車両の車体前部構造であって、前記ダッシュボードロアの上部より前記パワープラント室の上方に張り出したダッシュボードアッパを有し、前記ダッシュボードアッパの下面に車室内空気調和用の電気式ヒータ装置が前記パワープラントの最上部より高い位置に吊り下げ装着されている。
【0009】
本発明による電動車両の車体前部構造は、好ましくは、前記ダッシュボードアッパは前記電気式ヒータ装置の吊り下げ配置部近傍においてバルクヘッドメンバを介してウィンドシールドサポートメンバと連結されている。
【0010】
本発明による電動車両の車体前部構造は、好ましくは、前記バルクヘッドメンバは、車幅方向に少なくとも左右一対設けられ、前記電気式ヒータ装置をダッシュボードアッパより吊り下げ支持するブラケットが、前記左右のバルクヘッドメンバへ向けて横設されている。 本発明による電動車両の車体前部構造は、好ましくは、前記ダッシュボードアッパにスチフナが貼り付けられている。
【0011】
本発明による電動車両の車体前部構造は、好ましくは、前記ダッシュボードアッパは車幅方向の両端部を各々左右のストラットタワーに連結されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明による電動車両の車体前部構造によれば、電気式ヒータ装置がダッシュボードアッパの下面に、パワープラントの最上部より高い位置に吊り下げ装着されているから、前部衝突時のパワープラントの後退に対して電気式ヒータ装置が上下にすれ違う。これにより、パワープラントの真後ろに電気式ヒータ装置がある場合に比して、電気式ヒータ装置の厚み相当分、衝突クラッシュストロークを長く確保でき、併せて過大な車体減速度の増大が防止される。これらのことより、前部衝突の安全性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造の実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0014】
これらの図において、10はフロントバンパ部分を、12は左右のサイドフェンダを、14はダッシュボードロアを、16はダッシュボードアッパを、18はウィンドシールドサポートメンバを、20は前輪を各々示している。ダッシュボードロア14より車両後方の車室内側のフロア部分には燃料電池60(図5参照)が配置されている。
【0015】
ダッシュボードロア14の車両前方には、左右のサイドフェンダ12とフロントバンパ部分10とによりパワープラント室8が画定されている。ダッシュボードアッパ16はダッシュボードロア14の上部よりパワープラント室8の上方に張り出している。
【0016】
パワープラント室8には、前輪駆動用の電動モータ22およびモータ制御装置24とを含むパワープラント26が配置されている。この他、パワープラント室8には、燃料電池60のための吸気部品28、30、32、ラジエータ34、バッテリ36等が配置されている。
【0017】
ダッシュボードアッパ16の下面には車室内空気調和用の電気式ヒータ装置38がブラケット40によって吊り下げ装着されている。電気式ヒータ装置38は、四角箱状のものであり、ダッシュボードアッパ16の下面より吊り下げられた状態で、パワープラント室8内にあり、その全体が、パワープラント26の最上部より高い位置に位置するよう、吊り下げ高さを設定されている。
【0018】
このことは、図5に模式的に示しているように、電気式ヒータ装置38の下底面高さHaがパワープラント26の最上部高さHaより高いことを意味する。
【0019】
また、本実施形態では、ダッシュボードアッパ16の下面に、電圧制御部品であるダウンバータケース42も吊り下げ装着されている。ダウンバータケース42も、電気式ヒータ装置38と同様に、パワープラント室8内にあり、その全体が、パワープラント26の最上部より高い位置に位置するよう、吊り下げ高さを設定されている。
【0020】
ダッシュボードアッパ16は、車幅方向の両端部を各々左右のストラットタワー44の上部に連結され、電気式ヒータ装置38の吊り下げ配置部近傍において、バルクヘッドメンバ46を介してウィンドシールドサポートメンバ18と連結されている。更に、ダッシュボードアッパ16には、ダッシュボードアッパ16の補強のために、スチフナ50が貼り付けられている。
【0021】
上述したように、電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42がダッシュボードアッパ16の下面に、パワープラント26の最上部より高い位置に吊り下げ装着されているから、前部衝突時のパワープラント26の後退に対して電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42が上下にすれ違い、パワープラント26と電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42とが干渉しない。
【0022】
これにより、パワープラント26の真後ろに電気式ヒータ装置38がある場合に比して、電気式ヒータ装置38の厚み相当分、衝突クラッシュストロークを長く確保でき、併せて過大な車体減速度の増大が防止される。これらのことより、前部衝突の安全性が向上する。
【0023】
ダッシュボードアッパ16は、車幅方向の両端部を各々左右のストラットタワー44の上部に連結されていることにより、ダッシュボードアッパ16の剛性が向上する。これにより、ダッシュボードアッパ16より吊り下げられている電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42の支持剛性が向上する。
【0024】
また、ダッシュボードアッパ16は、電気式ヒータ装置38の吊り下げ配置部近傍において、バルクヘッドメンバ46を介してウィンドシールドサポートメンバ18と連結されていることによっても、ダッシュボードアッパ16の剛性が向上し、ダッシュボードアッパ16より吊り下げられている電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42の支持剛性が向上する。
【0025】
本実施形態では、バルクヘッドメンバ46は、車幅方向に左右一対、互いに平行に設けられている。電気式ヒータ装置38をダッシュボードアッパ16より吊り下げ支持する二つのブラケット40は、左右のバルクヘッドメンバ46間にあって、バルクヘッドメンバ46間の方向に長く、左右のバルクヘッドメンバ46へ向けて横設されている。
【0026】
ダッシュボードアッパ16より吊り下げられている電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42の支持強度が向上し、大型の電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42の吊り下げが可能になる。
【0027】
更には、ダッシュボードアッパ16に、スチフナ50が貼り付けられていることにより、ダッシュボードアッパ16の補強がなされ、このことによっても、ダッシュボードアッパ16の剛性が向上し、ダッシュボードアッパ16より吊り下げられている電気式ヒータ装置38、ダウンバータケース42の支持剛性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造の一つの実施形態を示す側面図である。
【図2】本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造の一つの実施形態を示す平面図(ダッシュボードアッパを取り除いた平面図)である。
【図3】本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造の一つの実施形態を示す平面図である。
【図4】本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造の一つの実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明による電動車両(燃料電池車)の車体前部構造を模式的に示す説明図である。
【図6】従来の電動車両(燃料電池車)の車体前部構造を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
8 パワープラント室
10 フロントバンパ部分
12 サイドフェンダ
14 ダッシュボードロア
16 ダッシュボードアッパ
18 ウィンドシールドサポートメンバ
20 前輪
22 電動モータ
24 モータ制御装置
26 パワープラント
38 電気式ヒータ装置
40 ブラケット
42 ダウンバータケース
44 ストラットタワー
46 バルクヘッドメンバ
50 スチフナ
60 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボードロアより車両前方にパワープラント室が画定され、前記パワープラント室に、車輪駆動用の電動モータおよびモータ制御装置とを含むパワープラントが配置された電動車両の車体前部構造であって、
前記ダッシュボードロアの上部より前記パワープラント室の上方に張り出したダッシュボードアッパを有し、前記ダッシュボードアッパの下面に車室内空気調和用の電気式ヒータ装置が前記パワープラントの最上部より高い位置に吊り下げ装着されている電動車両の車体前部構造。
【請求項2】
前記ダッシュボードアッパは前記電気式ヒータ装置の吊り下げ配置部近傍においてバルクヘッドメンバを介してウィンドシールドサポートメンバと連結されている請求項1に記載の電動車両の車体前部構造。
【請求項3】
前記バルクヘッドメンバは、車幅方向に少なくとも左右一対設けられ、前記電気式ヒータ装置をダッシュボードアッパより吊り下げ支持するブラケットが、前記左右のバルクヘッドメンバへ向けて横設されている請求項2に記載の電動車両の車体前部構造。
【請求項4】
前記ダッシュボードアッパにスチフナが貼り付けられている請求項1から3の何れか一項に記載の電動車両の車体前部構造。
【請求項5】
前記ダッシュボードアッパは車幅方向の両端部を各々左右のストラットタワーに連結されている請求項1から4の何れか一項に記載の電動車両の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−234510(P2009−234510A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85697(P2008−85697)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】