説明

電動車両

【課題】電動車両の各車輪を個別に駆動・制動・操舵等を行うことにより、運転者が意のままに車両の挙動をコントロールし、いわば「人馬一体」の運転が実現できるようにすることである。
【解決手段】左右又は前後に配置された一対の車輪13、前記車輪13を駆動するモータ16、ブレーキ装置18、操舵装置19及び前記各装置のコントローラ21を備えた電動車両において、前記モータ16、ブレーキ装置18、操舵装置19及びコントローラ21が車輪13ごとに個別に設けられた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪ごとに駆動装置を備えた電動車両に関し、車輪ごとの駆動・制動・操舵等のコントロールができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
車輪ごとに駆動装置を設けた電動車両は従来から知られている(特許文献1及び2)。特許文献1に開示された電動車両は、左右に一対の車輪を備えた自動二輪車であり、車輪ごとに駆動装置としてのモータを備えている。また、車体の共通装置としてジョイスティック、ジャイロセンサー及びコントローラが設けられている。
【0003】
この電動車両は、通常の走行時はジョイスティックからの入力信号に基づき、コントローラによって各車輪を駆動・操舵するようになっている。一方の車輪が路面の段差に乗り上げ、車体が一定角度以上に傾斜するような転倒の危機に遭遇した場合は、ジャイロセンサーがこれを検出する。その検出結果に基づき、他方の車輪を駆動するモータの回転トルクを増大することによって車輪を旋回させる。その旋回によって生じる遠心力によって転倒を防止させ、安全性の限界を引き上げるようにしている。
【0004】
特許文献2に開示された電動車両は、前輪が1輪、後輪が左右2輪の自動三輪車であり、左右の後輪には個別に駆動装置としてのモータを設けている。車体の共通装置として前輪を操舵するハンドル、ハンドルの操舵角検出センサー、ハンドルの回転角度増大機構及びコントローラが設けられる。
【0005】
この電動車両は、ハンドルの操舵角が一定以上に大きくなった場合に左右の後輪の回転方向を互いに逆転させ、またハンドルの回転角度増大機構によって、小さいハンドル角度で大きな回転角度が得られるように構成され、車両の旋回性能とハンドルの操作性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−261313号公報
【特許文献2】特開2009−248887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、従来の電動車両においては、駆動装置が車輪ごとに設けられ、通常は車体に設けられた共通の装置である操舵装置や制御装置によって各車輪の駆動装置が共通に制御される。車体が特定の運転状況になった場合にのみ、各駆動装置を個別に制御することで、特定の性能を向上させるようにしている。
【0008】
しかし、各車輪に個別に設けられた駆動装置の制御は、あらかじめ設定された制御アルゴリズムに沿って車両自体が駆動装置に指令を出すものであり、運転者の意思により駆動装置を操作するものではない。そのため、運転者の意のままに車両の挙動をコントロールするというような高い自由度に欠ける不満がある。
【0009】
そこで、この発明は各車輪に駆動装置を配置した利点を最大限に活用し、各車輪の駆動・制動・操舵等を個別に行えるようにして、運転者の意のままに車両の挙動をコントロールできるようにし、いわば「人馬一体」の運転ができる電動車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明は、左右又は前後に配置された一対の車輪、前記車輪の駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置及び前記各装置のコントローラを備えた電動車両において、前記駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置及びコントローラが車輪ごとに個別に設けられた構成としたものである。
【0011】
望ましくは、前記車輪ごとの駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置によって車輪ごとの動力ユニットが構成され、前記動力ユニットの各装置が前記車輪ごとのコントローラによって制御されるようにした構成をとることができる。
【0012】
さらに、前記コントローラが、入力手段としてジョイスティック等の手操作入力手段及びフットペダル等の足操作入力手段を備えている構成をとることができる。
【発明の効果】
【0013】
各車輪を個別に駆動・制動・操舵等の動力を与える装置と、それらの装置をそれぞれ操作できるコントローラを備えた電動車両であるため、運転者の意のままに車両の挙動をコントロールすることができる。
【0014】
各車輪が独立して駆動・制動・操舵のコントロールができるため、定位置旋回、横方位走行、ジャンプなど従来の車両では実現できなかった挙動が可能になる。
【0015】
運転者の意のままに車両の挙動をコントロールできるため、ダンスや球技といった他者と接触する用途にも使用可能である。また、電動車両であるため、排気を気にすることなく室内で使用することができる。
【0016】
本発明の電動車両は上記の特徴を持ち、特に各車輪独立で動力制御できる電動車両の利点を最大限に活かすものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施形態1の電動車両の概略平面図である。
【図2】図2は、同上の一部拡大平面図である。
【図3】図3は、実施形態2の電動車両の概略平面図である。
【図4】図4は、実施形態3の電動車両の概略平面図である。
【図5】図5は、実施形態5のモータの正面図である。
【図6】図6は、実施形態6の電動車両の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0019】
図1に示したように、実施形態1に係る車両11は、車椅子に代表される電動二輪車に関し、車体12に左右一対の車輪13、13を同一の回転軸14上に左右にオフセットして配置している。
【0020】
各車輪13はそれぞれ動力ユニット15を有する。その動力ユニット15は、図2に示したように、駆動装置としてインホイールモータ形式のモータ16、ブレーキ装置18及び操舵装置19を有する。操舵装置19は、操舵軸がモータ16のベースやケーシングに結合され、車輪13及びこれと一体のモータ16を旋回操舵する。
【0021】
前記の動力ユニット15を制御するコントローラ21が車体12の運手席22に設けられる。コントローラ21は、手操作入力手段としてのジョイスティック23、足操作入力手段としてのフットペダル24を備える。コントローラ21に内蔵されたCPUにより、前記動力ユニット15に内蔵された各装置はドライブバイワイヤ17によってコントロールされる。
【0022】
前記の運転席22において、左側の車輪13に関するコントローラ21のジョイスティック23及びフットペダル24は、それぞれ運転者の左手、左足の近くに設置され、左手と左足で個別に操作するか又は同時に操作することにより、コントローラ21を通じて動力ユニット15の各装置を制御する。右側の車輪13に関するコントローラ21も、同様に、ジョイスティック23及びフットペダル24は、それぞれ右手、右足の近くに設置され、前記と同様に操作される。
【0023】
運転者が、例えば、ジョイスティック23を前又は後ろへ倒すことによりモータ16が駆動され、車輪13が正転又は逆転される。また、その倒す角度の大きさによって速度が調整される。ジョイスティック23を左又は右に倒すことにより操舵装置19が制御され、車輪13が左又は右に操舵される。その倒す角度の大きさによって操舵角が調整される。
【0024】
また、左又は右のフットペダル24を踏むことでブレーキ装置18が制御され左側又は右側の車輪13が制動される。この場合もその踏み込み量に応じて制動の大きさが調整される。その他、ジョイスティック23の前倒し又は後ろ倒し操作とフットペダル24の踏み込み操作を同時に行うことにより、特殊な挙動を行わせることができる。
【0025】
運転者は、前記の操作を組み合わせることにより、例えば、車輪13の一方に強い制動を加えてロックさせ、他方を駆動させることにより、ロックした車輪13を軸に車両11を回転させることができる。また、一方の車輪13を正転させるとともに、他方の車輪13を逆転させると、車両11はその場で旋回する。
【0026】
また、操舵角を調整することで、車輪13のトー角を走行モードに応じて自在に変更することができる。このため、高速での直進安定性やコーナリングの安定性が高まる。
【0027】
運転者は、これらの運転挙動を適宜組み合わせることにより様々な動作を行うことができ、通常の車両のような移動手段やスピード競技、オフロード競技に加え、例えば団体スポーツやダンスなどを行うことができる。
【0028】
なお、車両11の安定性を確保するために、フリー回転の補助輪25を設ける場合がある。この補助輪25の位置は、左右の車輪13間の中間においてこれらの3個の車輪13、25の接地点が正三角形又は二等辺三角形となる位置に設定される。
【0029】
補助輪25は常時接地して車体12を支持する固定形式と、通常は車体12側に折り曲げるか引き上げるかして非接地状態に収納しておき、必要に応じて伸長させて接地させる出し入れ形式の場合がある。補助輪25の固定式・出し入れ式のいずれかを採用できる点については、後述の実施形態2及び3の補助輪25の場合も同様である。
[実施形態2]
【0030】
図3に示した実施形態2は、一対の車輪13の回転軸14a、14bを前後にオフセットさせ、かつ車輪13が前後方向の中心線A上に配置したバイクに代表される電動二輪車に関するものである。この場合の動力ユニット15、コントローラ21の構成は前記実施形態1の場合と同様であり、その作用も同様に前後車輪を個別に制御することで、多様な運転挙動が可能となる。特に、車体12上において、運転者の荷重移動などにより、車両11をジャンプさせるなどの運転挙動が得られる。
【0031】
この場合も、車両11の安定を図るために、2個のフリー回転の補助輪25を設ける場合がある。2個の補助輪25は、前後の車輪13の前後方向の中心線Aの左右対称位置に設定される。
[実施形態3]
【0032】
図4に示した実施形態3は、一対の車輪13の回転軸14a、14bが、車体12の前後方向にオフセットし、かつ、車輪13が左右方向にオフセットした配置となっている。この場合の配置態様は、「特許請求の範囲」にいう「左右又は前後に配置された一対の車輪」という概念に含まれるものである。
【0033】
動力ユニット15、コントローラ21の構成は前記実施形態1の場合と同様であり、その作用も同様に各車輪を個別に制御することで、多様な運転挙動が可能となる。特に、実施形態1と2を融合した形態であることから、車両の安定性と高い運動性能を両立させることができる。
【0034】
補助輪25を設ける場合は、左側補助輪25を左側車輪13の後方に、右側補助輪25を右側車輪13の前方に配置する。
[実施形態4]
【0035】
以上の実施形態1から3において、各車輪13を運転者が個別に操作できる機構を有するものであれば、車輪13の数や配置、コントローラの形態、入力手段は実施形態1から3のものに限定されるものではなく、用途に合わせて選択することができる。
【0036】
また、機能についても同様に、用途に合わせて自由度の高低を選択することができる。例えば、モータ16とブレーキ装置18を各車輪13ごとに独立とするが、操舵装置19は、走行モードに応じて、左右共通操作とする等である。
【0037】
操作系の機構もドライブバイワイヤ17に限定されるものではなく、用途に合わせて最適な機構を選択することができる。車体12のサイズや形状についても自由に選択することができる。また、ショックアブソーバ機能の有無、形態についても自由に選択可能である。
[実施形態5]
【0038】
車両11に搭載するモータ16は、前記実施形態1から4においては、インホイールモータ形式として説明している。この場合のモータ16は、図5に示したように、モータ部26と車輪ハブ27との間に減速部28が介在されている。しかし、モータ部26と車輪ハブ27からなるダイレクト駆動形式でもよい。
【0039】
なお、前記の減速部28としては遊星歯車減速機又はサイクロイド減速機を使用することができる。
[実施形態6]
【0040】
図6示したように、車両11に搭載するモータ20として、これを車体12に設置し、ドライブシャフト29、車輪ハブ30とからなる動力伝達部31を設けて車輪13にトルクを伝達するようにしてもよい。より大きなトルクをコンパクトなユニットで実現するために、モータ20に減速部を付設してもよい。また、等速性を確保するために、ドライブシャフト29に等速ジョイントを介在させてもよい。
【符号の説明】
【0041】
11 車両
12 車体
13 車輪
14、14a、14b 回転軸
15 動力ユニット
16 モータ
17 ドライブバイワイヤ
18 ブレーキ装置
19 操舵装置
20 モータ
21 コントローラ
22 運転席
23 ジョイスティック
24 フットペダル
25 補助輪
26 モータ部
27 車輪ハブ
28 減速部
29 ドライブシャフト
30 車輪ハブ
31 動力伝達部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右又は前後に配置された一対の車輪、前記車輪の駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置及び前記各装置を制御するコントローラを備えた電動車両において、前記駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置及びコントローラが車輪ごとに個別に設けられたことを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記車輪ごとの駆動装置、ブレーキ装置、操舵装置によって車輪ごとの動力ユニットが構成され、前記動力ユニットの各装置が前記車輪ごとのコントローラによって制御されることを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記コントローラが、入力手段としてジョイスティック等の手操作入力手段及びフットペダル等の足操作入力手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記動力ユニットの各装置が前記コントローラからドライブバイワイヤによって制御されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電動車両。
【請求項5】
前記駆動装置が、インホイールモータ形式であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電動車両。
【請求項6】
前記駆動装置が車体搭載式であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電動車両。
【請求項7】
前記車体搭載式の駆動装置が、モータ部、ドライブシャフト及び車輪ハブを含むことを特徴とする請求項6に記載の電動車両。
【請求項8】
前記ドライブシャフトが等速ジョイントを介在したものであることを特徴とする請求項7に記載の電動車両。
【請求項9】
前記駆動装置のモータ部と車輪ハブの間に減速部が介在されたことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動車両。
【請求項10】
前記車輪が左右に一対、前後に一対又は車体センターを挟んで斜め方向に一対設けられたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の電動車両。
【請求項11】
前記車体に補助輪を設けたことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の電動車両。
【請求項12】
前記補助輪が、固定式又は出し入れ式のいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106523(P2012−106523A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254993(P2010−254993)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】