説明

電動車両

【課題】スイングアーム内に収納される電動モータを冷却するダクトに他の機能を兼用させることで、構成部品を低減、車体構造の簡略化を図るようにした電動車両を提供する。
【解決手段】電動車両1の車体に揺動自在に取り付けられると共に電動車両1の後輪WRを駆動する電動モータMが収納されるスイングアーム30と、該スイングアーム30の内部空間と連通するダクト用切欠60aに一端側が接続されると共に他端側が車体側に指向するパイプ状のダクト60とを備え、ダクト60の内部に電動モータMの駆動に用いられるハーネス52a,53aを通す。電動モータMはスイングアーム30の車体後方寄りに配設される。スイングアーム30は、その車体前方寄りの揺動軸19で車体に揺動自在に取り付けられ、ダクト60の一端側をスイングアーム30の車体前方寄りの上面に取り付ける。ハーネスは、バッテリを充電するために外部電源と接続される配線を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に係り、特に、車載バッテリの電力を電動モータに供給し、該電動モータの駆動力によって駆動輪を回転させて走行する電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車載バッテリの電力を電動モータに供給し、該電動モータの駆動力によって駆動輪を回転させて走行する電動車両が知られている。このような電動車両においては、電動モータ、電動モータの駆動回路および車載バッテリ等が走行時に発熱するため、車体構成の際には、これらの冷却効果の確保が考慮される。
【0003】
特許文献1には、スクータ型の鞍乗型電動2輪車両において、駆動輪を支持すると共に車体に揺動可能に取り付けられたスイングアームの後端部に電動モータを収納し、この電動モータを冷却するため、スイングアームの前方側上部にパイプ状の冷却ダクトを連結した構成が開示されている。この冷却ダクトの車体側の端部は、車体前方側に指向すると共に、シート下の収納スペースの下部で冷却ファンを内蔵する箱体に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3324192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、電動モータを冷却するためのダクトに、他の機能を兼用させることは検討されていなかった。また、特許文献1に記載された電動車両では、足乗せフロアの下部に車載バッテリを配設すると共に、車体後部に電動モータの駆動回路や充電器等を配設するため、スイングアームに取り付けたダクト以外に、車体側にも冷却構造を設ける必要があり、構成部品の増加や車体の構造が複雑化するという課題もあった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、スイングアーム内に収納される電動モータを冷却するためのダクトに他の機能を兼用させることで、構成部品の増加を抑制、車体構造の簡略化を図るようにした電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、電動車両(1)の車体に揺動自在に取り付けられると共に前記電動車両(1)の駆動輪(WR)を駆動する電動モータ(M)が収納されるスイングアーム(30)と、該スイングアーム(30)の内部空間と連通する孔(60a)に一端側が接続されると共に他端側が車体側に指向するパイプ状のダクト(60)とを備える電動車両において、前記ダクト(60)に、前記電動モータ(M)の駆動に用いられるハーネス(52a,53a)が挿通されている点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記電動モータ(M)は、前記スイングアーム(30)の車体後方寄りに配設されており、前記スイングアーム(30)は、該スイングアーム(30)の車体前方寄りに設けられた揺動軸(19)によって車体に揺動自在に取り付けられており、前記ダクト(60)の一端側は、前記スイングアーム(30)の車体前方寄りの上面に取り付けられている点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記スイングアーム(30)の内部に、前記電動モータ(M)に電力を供給するバッテリ(40a,40b)が収納されており、前記ハーネス(52a,53a)は、少なくとも前記バッテリ(40a,40b)を充電するために外部電源と接続される配線を含む点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記ダクト(60)の他端側は、前記電動車両(1)に設けられた車体側接続部(21)に接続される点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記電動車両(1)は、スクータ型の電動2輪車両であり、前記車体側接続部(21)は、前記電動車両(1)のシート(20)の下部に設けられた収納ボックスである点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記スイングアーム(30)の内部に、前記電動モータ(M)に電力を供給するバッテリ(40a,40b)と、前記電動モータ(M)の制御装置(50)とが収納されており、前記ハーネス(52a,53a)は、前記スイングアーム(30)の内部で前記制御装置(50)に接続される点に第6の特徴がある。
【0013】
また、前記スイングアーム(30)は、前記バッテリ(40a,40b)が収納される幅広ケース部(34)と、前記駆動輪を支持する片持ちアーム部(33)とからなる本体ケース(31)とを備え、前記制御装置(50)は、車体側面視で、前記幅広ケース部(34)および前記片持ちアーム部(33)とオーバーラップして配設されると共に、前記電動モータ(M)の車体前方側に近接配置される点に第7の特徴がある。
【0014】
また、前記バッテリ(40a,40b)を収納する本体ケース(202)に形成される収納空間(210)の壁面(211)には、前記バッテリ(40a,40b)に形成されたガイド溝と係合するガイド(212)が、前記バッテリ(40a,40b)の挿入方向に沿って形成されている点に第8の特徴がある。
【0015】
また、前記バッテリ(40a,40b)を収納する本体ケース(202)は、前記バッテリ(40a,40b)が車幅方向の左右いずれか一方から挿入されるように構成されていると共に、車幅方向に少なくとも2つに分割可能に構成されている点に第9の特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
第1の特徴によれば、電動車両の車体に揺動自在に取り付けられると共に電動車両の駆動輪を駆動する電動モータが収納されるスイングアームと、該スイングアームの内部空間と連通する孔に一端側が接続されると共に他端側が車体側に指向するパイプ状のダクトとを備える電動車両において、ダクトに、電動モータの駆動に用いられるハーネスが挿通されているので、スイングアームに取り付けられたダクトを、スイングアームの内部に外気を導入する導風ダクトとして使用すると共に、車体側からスイングアーム内に接続されるハーネスの保護部材として使用することができる。これにより、冷却用のダクトと別個独立してハーネス用の保護部材等を設ける必要がなく、部品点数の低減および車体構造の簡略化が可能となる。
【0017】
第2の特徴によれば、電動モータは、スイングアームの車体後方寄りに配設されており、スイングアームは、該スイングアームの車体前方寄りに設けられた揺動軸によって車体に揺動自在に取り付けられており、ダクトの一端側は、スイングアームの車体前方寄りの上面に取り付けられているので、スイングアームの揺動軸に近い位置にダクトの一端側が取り付けられることとなり、スイングアームが揺動動作に伴うダクトの変形を小さくして、ハーネスに与える影響を小さくすることができる。
【0018】
第3の特徴によれば、スイングアームの内部に、電動モータに電力を供給するバッテリが収納されており、ハーネスは、少なくともバッテリを充電するために外部電源と接続される配線を含むので、バッテリの充電用配線を、例えば、二輪車のシート下の収納ボックス等の車体側から取り出すことが可能となり、充電作業時の利便性を高めることができる。
【0019】
第4の特徴によれば、ダクトの他端側は、電動車両に設けられた車体側接続部に接続されるので、ダクトの他端側が車体側接続部に接続されることにより、ダクトを安定的に支持することができる。
【0020】
第5の特徴によれば、電動車両は、スクータ型の電動2輪車両であり、車体側接続部は、電動車両のシートの下部に設けられた収納ボックスであるので、ダクトの他端側が収納ボックスに接続されることにより、例えば、充電用の配線を収納ボックスの内部から取り出すことが可能となり、外部電源に接続する作業が容易となりユーザの使い勝手が向上する。また、収納ボックス内に充電用配線を収納することができる。
【0021】
第6の特徴によれば、スイングアームの内部に、電動モータに電力を供給するバッテリと電動モータの制御装置とが収納されており、ハーネスはスイングアームの内部で制御装置に接続されるので、走行時の発熱要素である、電動モータ、バッテリおよび制御装置がスイングアーム内に収納されており、かつスイングアームの内部を冷却できるダクトを有するため、車体側に何らかの冷却構造を設けたりする必要がなく、車体構造の複雑化を避けることができる。
【0022】
第7の特徴によれば、スイングアームは、バッテリが収納される幅広ケース部と、駆動輪を支持する片持ちアーム部とからなる本体ケースとを備え、制御装置は、車体側面視で、幅広ケース部および片持ちアーム部とオーバーラップして配設されると共に、電動モータの車体前方側に近接配置されるので、制御装置を本体ケースに取り付けることで、幅広ケース部とアーム部との間の剛性を高める補強部材として制御装置を用いることが可能となる。また、バッテリと制御装置を接続する配線や、制御装置から電動モータに電力を供給する配線の長さを短くすることができる
【0023】
第8の特徴によれば、バッテリを収納する本体ケースに形成される収納空間の壁面には、バッテリに形成されたガイド溝と係合するガイドが、バッテリの挿入方向に沿って形成されているので、バッテリを収納空間にスムーズに挿入すると共に、所定位置への位置決めが容易になる。また、所定位置に固定した後は、走行時の振動等でバッテリが動くことを防止することが可能となり、配線接続部等への影響を低減することができる。
【0024】
第9の特徴によれば、バッテリを収納する本体ケースは、バッテリが車幅方向の左右いずれか一方から挿入されるように構成されていると共に、車幅方向に少なくとも2つに分割可能に構成されているので、本体ケースをアルミ鋳造等で形成する際、バッテリの挿入方向の寸法が大きいと鋳型を抜く作業が難しくなるが、幅広ケース部が分割可能に形成されているため鋳造による製造が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の側面図である。
【図2】スイングアームの分解斜視図(バッテリ取付時)である。
【図3】スイングアームの分解斜視図(基板および電動モータ取付時)である。
【図4】スイングアームの分解斜視図(スイングアームカバー取付時)である。
【図5】スイングアームの本体ケースの上面図である。
【図6】スイングアームの本体ケースの断面上面図である。
【図7】スイングアームを車幅方向右側から見た斜視図である。
【図8】ダクトの正面図および底面図である。
【図9】基板を車幅方向左側から見た正面図である。
【図10】本発明の一実施形態の変形例に係るスイングアームの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両1の側面図である。電動車両1は、低床フロア16を有するスクータ型の鞍乗型2輪車両であり、スイングアーム(ユニットスイング)30に収納された電動モータMによって後輪WRを駆動する。車体フレーム2の前部には、ステムシャフト(不図示)を回転自在に軸支するヘッドパイプ3が結合されている。ステムシャフトの上部には、ハンドルカバー11で覆われる操向ハンドル8が結合されており、一方の下部には、車軸7によって前輪WFを回動自在に軸支する左右一対のフロントフォーク6が結合されている。
【0027】
車体フレーム2は、ヘッドパイプ3の後部から下方に延びるメインパイプ4と、該メインパイプ4の後端部に連結されて車体後部上方へ延びるリヤフレーム5とを備える。低床フロア16の下部で車体前後方向に指向する部分のメインパイプ4には、低床フロア16を支持するフロアフレーム15が取り付けられている。また、メインパイプ4とリヤフレーム5との結合部には、左右一対のピボットプレート17が取り付けられている。
【0028】
スイングアーム30は、車幅方向左側のみにアーム部を有する片持ち式であり、ピボットプレート17に取り付けられたリンク18を貫通する揺動軸19を介して、車体フレーム2に揺動自在に軸支されている。スイングアーム30は、アルミ等の金属からなる一部中空構造体であり、本体ケース31の車幅方向左側にスイングアームカバー35を取り付けた構成とされている。スイングアーム30の内部には、車軸32の近傍に電動モータMが収納され、電動モータMの車体前方側には、電動モータMの制御装置としての基板50が配設されている。電動モータMに電力を供給するバッテリ40a,40bは、スイングアーム30の車体前方寄りの位置で、かつ基板50の車幅方向右側に配設されている。
【0029】
後輪WRは、車軸32によってスイングアーム30に回転自在に軸支されており、スイングアーム30の後端部は、リヤクッション26を介してリヤフレーム5に吊り下げられている。また、シート20の下部には、荷物入れスペースとなる収納ボックス21が、左右一対のリヤフレーム5に挟まれるように配設されている。
【0030】
車体フレーム2のメインパイプ4は、車体前方側のフロントカウル13および車体後方側のレッグシールド12で覆われている。ハンドルカバー11の上部には、メータ装置9が配設されており、メータ装置9の車体前方側には前照灯10が取り付けられている。フロントフォーク6の上部には、前輪WFを覆うフロントフェンダ14が固定されている。
【0031】
リヤフレーム5の車幅方向外側はシートカウル23で覆われており、シートカウル23の後端部には尾灯装置24が取り付けられている。尾灯装置24の上方には、リヤフレーム5に結合されたリヤキャリア22が突出しており、尾灯装置24の下方には、後輪WRの後方上方を覆うリヤフェンダ25が設けられている。
【0032】
スイングアーム30の車体前方寄りの上面には、中空パイプ状のダクト60が取り付けられている。ダクト60の他端部は、車体側接続部としての収納ボックス21の底部に接続されている。また、スイングアーム30の内部からは、スロットル開度センサ(図3参照)に接続されたスロットルケーブル49が突出している。このスロットルケーブル49の端部は、車体フレーム2に沿って車体前方に取り回されて、操向ハンドル8に取り付けられたスロットルグリップ(不図示)に接続される。
【0033】
図2,3,4は、スイングアーム30の分解斜視図である。図2は、バッテリ40a,40bを取り付ける際の状態を示し、図3は、基板50および電動モータMを取り付ける際の状態を示し、図5は、スイングアームカバー35を取り付ける際の状態を示す。
【0034】
前記したように、スイングアーム30は、アルミ等の金属からなる一部中空構造体であり、後輪WRを車幅方向左側のアーム部33で支持する片持ち式とされる。本体ケース31の車体前方側下部には、揺動軸19(図1参照)の貫通孔19aが形成された左右一対のピボットフランジ37が設けられている。
【0035】
互いに同一構造とされるバッテリ40a,40bは、それぞれ、本体ケース31の車体前方側に形成された幅広ケース部34の内部に車幅方向左側から挿入される。リチウムイオンを用いたバッテリ40a,40bは、複数のセルからなるモジュール構造とされており、本実施形態では、車幅方向に5つのセルを並べて1つのモジュールが構成される。
【0036】
バッテリ40a,40bには、それぞれ、車幅方向左側の側面にプラス端子41a,41bおよびマイナス端子42a,42bが設けられている。電導体としてのバスバー43は、バッテリ40aのプラス端子41aとバッテリ40bのマイナス端子42bとを接続することで、両バッテリを直列接続する。マイナス側配線44の一端側は、バッテリ40aのマイナス端子42aに接続される。
【0037】
後輪WRの車軸32には、不図示の減速機構を介して、電動モータMのロータ45が連結されている。本体ケース31の後端上部には、リヤクッション26(図1参照)を取り付けるための取付孔26aが形成されている。
【0038】
図3を参照して、バッテリ40a,40bを所定位置に収納すると、本体ケース31には、両バッテリの車幅方向左側の側面に近接する仕切板56が複数のボルト等によって取り付けられる。仕切板56は樹脂等の絶縁部材からなり、バッテリ40aのマイナス端子42aに接続されたマイナス側配線44の他端側と、バッテリ40bのプラス端子41bに接続されたプラス側配線47の他端側のみが、仕切板56の上下に形成される隙間から車幅方向左側に突出するように構成されている。
【0039】
電動モータMのステータ46は、ロータ45を車幅方向左側から覆うようにして本体ケース31に固定される。ステータ46の車体前方側には基板50が配設される。基板50の車幅方向左側には多数の冷却フィン51が設けられており、車体前方側の端部には、車体側に取り回されるハーネス52a,53aを接続するためのコネクタ52,53が設けられている。
【0040】
電気配線としてのハーネス52a,53aには、バッテリ40a,40bを外部電源(例えば、100Vの商用電源)によって充電するための配線のほか、前輪WFの回転速度を検知する車速センサ信号、イグニッションスイッチの操作信号等の配線を含めることができる。
【0041】
基板50の車体前方側には、スロットルケーブル49によって駆動されるスロットル開度センサ48が配設される。スロットル開度センサ48は、ボルト等により仕切板56に固定される。また、基板50は、その車体前方側が仕切板56に固定されると共に、車体後方側は本体ケース31にボルト等で固定される。ここで、基板50の車体後方側は、車体側面視でアーム部33とオーバーラップする位置まで伸びているため、基板50をボルトで固定することにより、基板50を本体ケース31の剛性メンバーとして利用し、アーム部33の剛性を高めることを可能としている。
【0042】
ステータ46、基板50およびスロットル開度センサ48の取り付けが完了すると、基板50からステータ46に電力を供給するための3相バスバー54、そして、中空パイプ状のダクト60が取り付けられる。なお、基板50とステータ46とが近接配置されることにより、3相バスバー54の全長を短くすることが可能とされている。
【0043】
ダクト60は、幅広ケース部34の車幅方向左側の端面に形成されたダクト用切欠60aに取り付けられる。また、スロットル開度センサ48のスロットルケーブル49は、ダクト用切欠60aの車体前方側に隣接するケーブル用切欠49aに収まるように構成されている。
【0044】
図4を参照して、バッテリ40bのプラス端子41bと接続されるプラス側配線47の他端側は、基板50の上面に形成された基板側プラス端子55と接続される。基板50の下面には、同様の基板側マイナス端子(不図示)が設けられており、このマイナス端子と前記マイナス側配線44とが接続されることとなる。
【0045】
スイングアームカバー35は、外部からの水分や埃等の浸入を防ぐため、本体ケース31を密閉するように取り付けられる。これにより、車両の走行時には、バッテリ40a,40b、基板50および電動モータMが発熱して、スイングアーム30の内部空間の温度が上昇する可能性があるが、この熱は、走行風により本体ケース31の表面で放熱されるだけでなく、ダクト60を介してスイングアーム30の外部へ効果的に放出されることとなる。本実施形態では、このダクト60に、車体側に取り回されるハーネス52a,53aを通すことで、電動モータM等の発熱部材の冷却構造として機能するダクト60を、ハーネス52a,53aの保護部材として兼用させることを可能としている。
【0046】
また、本実施形態では、電動モータMだけでなく、バッテリ40a,40bおよび基板50もスイングアーム30の内部に配置されているので、ダクト60の他には冷却構造を設ける必要がなく、車体構造の簡略化および部品点数の低減を図ることができる。
【0047】
本実施形態では、ダクト60の上端部を収納ボックス21(図1参照)の底部に接続するように構成されているが、ダクト60の上端部は、車体側の種々の接続部に接続することができる。例えば、電動ファンが収納された冷却用ボックスを設け、この冷却ボックスに接続するようにしてもよい。また、ダクト60の上端開口部の指向方向も種々の変形が可能であり、例えば、車体前方側や後方側に指向させてもよい。
【0048】
図5は、スイングアーム30の本体ケース31の上面図である。また、図6は、本体ケース31の断面上面図である。前後のバッテリ40a,40bの収納空間94は、仕切壁93によって仕切られている。幅広ケース部34の車体前後の端面は、いずれも、車幅方向右側に向かって前後方向の寸法が小さくなるように傾斜した構成を有する。これに併せて、バッテリ40a,40bの収納空間94を形成する壁面92も傾斜している。このような形状によれば、本体ケース31をアルミ鋳造等で製造した際に、鋳型から本体ケース31を容易に抜くことが可能となる。
【0049】
基板50は、車体後方側のバッテリ40bの車幅方向右側に位置すると共に、車体前方側のバッテリ40aの一部と車幅方向で重なるように配設されている。また、基板50は、本体ケース31を上面から見た際に、本体ケース31から車幅方向左側にその厚みの略半分が突出するように配置される。スロットル開度センサ48およびステータ46は、基板50よりさらに車幅方向左側に突出して配設される。なお、アーム部33の後端部には、減速機(不図示)の収納空間95aを形成する減速機ケース95と、ステータ46の収納空間46aとが設けられている。
【0050】
図7は、スイングアーム30を車幅方向右側から見た斜視図である。前記したように、幅広ケース部34の下面には、揺動軸19(図1参照)の貫通孔19aが形成されたピボットフランジ37が左右一対に設けられている。また、左右一対のピボットフランジ37の内側には、不図示のセンタースタンドを回動可能に取り付けると共に、幅広ケース部34の下面に対する外力の影響を低減するアンダガード36が左右一対に設けられている。
【0051】
この図では、減速機ケース95に減速機を収納すると共に、減速機ケース95の車幅方向右側に減速機ケースカバー96を取り付けた状態を示す。減速機ケースカバー96の車幅方向左側には、不図示のドラムブレーキユニットを挟んで後輪WRのホイールが固定される。
【0052】
図8は、ダクト60の正面図(a)および底面図(b)である。中空パイプ状のダクト60は、樹脂やゴム等の可撓性部材で形成されている。ダクト60は貫通孔66を有するパイプ状とされ、その表面側には多数の円環状の凹凸形状が形成されている。ダクト60の上部側には、車体側取付部62が形成されている。車体側取付部62には、収納ボックス21の底部に形成された取付孔(不図示)に係合する円環状の係合溝63が形成されている。なお、ダクトの形状は種々の変形が可能であり、ダクト60のパイプ部分は、蛇腹状としたり凹凸のない平滑な表面で構成することができる。
【0053】
ダクト60の下部側には、スイングアーム側取付部64が形成されている。スイングアーム側取付部64には、スイングアーム30の本体ケース31に形成されたダクト用切欠60aに係合する係合溝65が形成されている。係合溝65は、ダクト用切欠60aの形状に合わせた略台形状とされており、これにより、ダクト60の回転を防ぐと共に、スイングアーム30の内部への水分等の浸入を効果的に防止する。
【0054】
図9は、基板50を車幅方向左側から見た正面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。この図では、冷却フィン51を取り外した状態を示す。基板50は、板状のベース57の表面に各種の電子機器を実装して構成される。ベース57には、大きく分けて、充電器回路70、ダウンレギュレータ回路80、半導体式コンタクタ90、モータドライブ回路100からなる4群の電子機器が実装されている。
【0055】
充電器回路70は、FET素子71、トランス72,73、コンデンサ74からなり、車体前方寄りに配設されている。ダウンレギュレータ回路80は、コンデンサ81、2つのFET素子82およびトランス83で構成されている。また、半導体式コンタクタ90は、3つのFET素子91で構成されている。そして、車体後方寄りに配設されるモータドライブ回路100は、6つのFET素子101、3つのコンデンサ103および6つのFET素子102で構成されている。
【0056】
充電器回路70の前方側の上下には、基板側プラス端子55および基板側マイナス端子56がそれぞれ取り付けられている。ベース57の前端部には、ハーネス52a,53aを接続するためのコネクタ52,53が取り付けられ、ベース57の後端部には、3本のバスバー54が接続されるU相電極54a、V相電極54b、W相電極54cが設けられている。
【0057】
図10は、本発明の一実施形態の変形例に係るスイングアーム200の分解斜視図である。この図では、車体右側後方からスイングアーム200を見た状態を示す。本変形例では、スイングアーム200の本体ケース202を左右2分割構造とした点に特徴がある。具体的には、後輪WRを軸支するアーム部203および減速機ケース204が形成された左側ケース202aに対し、右側ケース202をとボルト等で固定することで本体ケース202が構成される。左側ケース202aの車幅方向左側にはスイングアームカバー201が取り付けられる。本体ケース202の前方側下部には、揺動軸19の貫通孔219が形成されている。
【0058】
本変形例に係るスイングアーム200によれば、本体ケース202が車幅方向に2分割されているため、バッテリが収納される幅広ケース部の車幅方向の寸法が大きくなる場合でも、鋳造時に容易に鋳型を抜くことができ、生産作業が容易となる。また、幅広ケース部を2分割する場合には、鋳造作業が容易となることから、バッテリの収納空間210の壁面211の傾斜角度を小さくすることが可能となる。これにより、収納空間の容積を拡大してバッテリの大型化を図ることもできる。
【0059】
また、スイングアーム200の収納空間210の壁面211には、車体上下方向の略中央の高さに、車幅方向に指向する凸形状のガイド212が形成されている。一方、不図示のバッテリには、このガイド212と係合するガイド溝が形成されており、これにより、バッテリを収納空間210にスムーズに挿入できると共に、所定位置への位置決めが容易になる。また、所定位置に固定した後は、走行時の振動等でバッテリが動くことを防止する耐振動機能も有する。このガイド構造は、前記実施形態で示したバッテリ40a,40bおよび本体ケース31に適用することができる。
【0060】
上記したように、本発明に係る電動車両によれば、スイングアームの内部に、電動モータ、バッテリおよび制御装置を収納した電動二輪車において、スイングアームの内部空間と車体側の収納ボックスとを連通するダクトを取り付け、このダクトにバッテリの充電時に外部電源を接続するために必要なハーネスを通したので、スイングアームの冷却構造として適用されるダクトを、ハーネスの保護カバーとして兼用することが可能となり、これにより、部品点数を低減して電動二輪車の構成を簡略化することが可能となる。また、走行時の発熱要素がスイングアーム内に収納されており、かつスイングアームの内部を冷却できるダクトを有するため、車体側に別の冷却構造を設けたりする必要がなく、車体構造の複雑化を避けることができる。
【0061】
なお、電動車両の構造、スイングアームの形状や構造、ダクトの形状や材質、バッテリの形状や構造、基板の構造や配置、ダクトの配置や接続箇所等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、ダクトの車体側端部を、収納ボックスとは別個独立した冷却用ボックスや冷却用空間に接続してもよい。本発明に係るダクト構造は、電動二輪車に限られず、スイングアームを有する鞍乗型の三/四輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…電動車両、2…車体フレーム、19…揺動軸、21…収納ボックス(車体側接続部)、30,200…スイングアーム、31…本体ケース、34…幅広ケース部、35…スイングアームカバー、40a,40b…バッテリ、48…スロットル開度センサ、49…スロットルケーブル、50…基板(制御装置)、52,53…コネクタ、52a,53a…ハーネス、60…ダクト、60a…ダクト用切欠、49a…ケーブル用切欠、212…ガイド、WR…後輪(駆動輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両(1)の車体に揺動自在に取り付けられると共に前記電動車両(1)の駆動輪(WR)を駆動する電動モータ(M)が収納されるスイングアーム(30)と、該スイングアーム(30)の内部空間と連通する孔(60a)に一端側が接続されると共に他端側が車体側に指向するパイプ状のダクト(60)とを備える電動車両において、
前記ダクト(60)に、前記電動モータ(M)の駆動に用いられるハーネス(52a,53a)が挿通されていることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記電動モータ(M)は、前記スイングアーム(30)の車体後方寄りに配設されており、
前記スイングアーム(30)は、該スイングアーム(30)の車体前方寄りに設けられた揺動軸(19)によって車体に揺動自在に取り付けられており、
前記ダクト(60)の一端側は、前記スイングアーム(30)の車体前方寄りの上面に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記スイングアーム(30)の内部に、前記電動モータ(M)に電力を供給するバッテリ(40a,40b)が収納されており、
前記ハーネス(52a,53a)は、少なくとも前記バッテリ(40a,40b)を充電するために外部電源と接続される配線を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記ダクト(60)の他端側は、前記電動車両(1)に設けられた車体側接続部(21)に接続されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動車両。
【請求項5】
前記電動車両(1)は、スクータ型の電動2輪車両であり、
前記車体側接続部(21)は、前記電動車両(1)のシート(20)の下部に設けられた収納ボックスであることを特徴とする請求項4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記スイングアーム(30)の内部に、前記電動モータ(M)に電力を供給するバッテリ(40a,40b)と、前記電動モータ(M)の制御装置(50)とが収納されており、
前記ハーネス(52a,53a)は、前記スイングアーム(30)の内部で前記制御装置(50)に接続されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電動車両。
【請求項7】
前記スイングアーム(30)は、前記バッテリ(40a,40b)が収納される幅広ケース部(34)と、前記駆動輪を支持する片持ちアーム部(33)とからなる本体ケース(31)とを備え、
前記制御装置(50)は、車体側面視で、前記幅広ケース部(34)および前記片持ちアーム部(33)とオーバーラップして配設されると共に、前記電動モータ(M)の車体前方側に近接配置されることを特徴とする請求項6に記載の電動車両。
【請求項8】
前記バッテリ(40a,40b)を収納する本体ケース(202)に形成される収納空間(210)の壁面(211)には、前記バッテリ(40a,40b)に形成されたガイド溝と係合するガイド(212)が、前記バッテリ(40a,40b)の挿入方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動車両。
【請求項9】
前記バッテリ(40a,40b)を収納する本体ケース(202)は、前記バッテリ(40a,40b)が車幅方向の左右いずれか一方から挿入されるように構成されていると共に、車幅方向に少なくとも2つに分割可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−131414(P2012−131414A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286203(P2010−286203)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】