説明

電動車椅子の走行駆動機構

【課題】ゴムクローラーベルトを使用して段差、溝等を走行可能にする電動車椅子で、旋回時にクローラーベルトの路面接地部で生じる摩擦を低減し、大きな駆動力を必要としない低エネルギー消費な走行を可能とする。
【解決手段】左右に設けられたクローラーベルトを駆動源とする電動車椅子において、左右の各々のクローラーベルトと路面との接地面が1点、あるいは、複数点で接地する場合であっても1点にその荷重割合が大きくなるよう、電動車椅子全体の重心位置の直下近傍に路面に接地するクローラーベルトがかかる中心位置遊動輪を配し、その前後の遊動輪は中心位置遊動輪より高い位置に設定することにより路面に接地するクローラーベルト軌道を凸形状にするとともに、接地するクローラーベルトの各ブロックの断面形状を左右、前後ともに凸形状とし、かつ、凸部をブロック全体からスリットで独立することをにより実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差、溝などのバリア環境でも走行可能な電動車椅子等の移動体の駆動輪機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子は前後方向に回転する駆動輪と自在に方向が回転するキャスター車輪から構成されており、乗り越えられる段差は車輪の径で決まってしまう。また、前輪がキャスター車輪で構成される電動車椅子では段でキャスター車輪が回転してしまい、車輪の径を大きくしても5センチ程度の段差が限界である。溝を超える場合は車輪が溝に嵌ってしまい走行が不可能となるため、電車への乗降のような溝と段差がある場所ではスロープ板を渡すことによりのみ走行が可能となる。

【0003】
この問題を解決するために、走行車輪としてクローラー(無限軌道)を用いた電動車椅子が提案されている(特許3800400、特許3132677)。しかし、クローラーの面を接地させるのは段、溝を乗り越える時のみ使用する構造となっている。これは通常の平面を走行するときはクローラーの接地面が多いと旋回するときに大きな力を必要とするために、特許3800400では左右前後にある4つのクローラーの角度を電動で変えてクローラーが円形状に動く部分を路面に接地するようにしており、特許3132677ではクローラー全体を電動で上方向に移動し、車輪が路面に接地するようにすることにより円形の車輪部分が接地するようにすることにより問題を解決している。しかし、複雑な機構が必要となるためコストが高い、耐久性が低下する、重量が重くなる等の問題があり実現性が低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許 3800400
【特許文献2】特許 3132677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、クローラーの接地部を電動機構等の複雑な機構を用いることなく、通常の平面を走行しているときは接地面積を少なくして旋回を容易にし、段差、溝等ではクローラーとしての本来の無限軌道により路面に接地することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右に設けられたクローラーを駆動源とする電動車椅子において、左右の各々のクローラーベルトと路面との接地面が1点、あるいは、複数点で接地する場合であっても1点にその荷重割合が大きくなるよう、電動車椅子全体の重心位置の直下近傍の位置に路面に接地するクローラーベルトがかかる中心位置遊動輪を配し、その前後の遊動輪は中心位置遊動輪より高い位置に設定することにより路面に接地するクローラーベルト軌道を凸形状にするとともに、接地するクローラーベルトの各ブロックの断面形状を左右、前後ともに凸形状とすることを特徴とする。
また、クローラーベルト駆動部と椅子本体はトーションバーでつながり、かつ、急激な回転変化を抑える衝撃吸収装置(ダンパー)を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電動車椅子の走行駆動機構は、平坦路では1点接地となるようにすることで旋回時に必要な力を減らし、かつ、1点接地による前後方向の速度変化時の不安定さを抑えられるため安定した走行が可能となり、段差、溝等のある路面ではクローラー本来の走行性能を発揮することができるという利点がある。クローラーの軌道、断面形状は新たな機構を採用したものではないのでコストアップ、耐久性低下等の問題は無く、また、トーションバーと衝撃吸収装置は電動車椅子全体の路面変動に対する振動吸収機能を兼ねるため、複雑な構造によりコストアップ、耐久性低下することなく段差、溝を乗り越えられる性能を有する電動車椅子を実現できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本電動車椅子全体の構成をしめしたものである。
【図2】図2はクローラーの軌道形状について示したものである。
【図3】図3はクローラーを構成するブロックの形状を示したものである。
【図4】図4はクローラーベルトを用いて走行する駆動システムの構成を示したものである。
【図5】図5はクローラーベルトとしてチェーンの各リンクにゴムブロックを取り付けることにより構成された実施例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ゴムクローラー(無限軌道)を駆動輪とした電動車椅子において、利用者を含めた車椅子全体の重心位置直下に遊動輪を設け、回転方向の摩擦を減らすために路面に接地する遊動輪の高さを車椅子に利用者が乗車した時の重心位置の直下にある当該遊動輪を最も低くし、直下の遊動輪から離れるほど遊動輪の高さを高くし、また、接地するゴム部を中心部が最も突出した形状とすることによりアスファルト、コンクリート、石等の固い平面路で1点にて路面に接地する構造にすることで旋回時に横方向の摩擦力低減を実現した。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明のゴムクローラーを用いた電動車椅子の1実施例であって、車椅子全体の基本構成を示している。
6のゴムクローラーベルトは起動輪13、遊動輪7、8、9、10、11、12に掛けられ、起動輪が回転することによりゴムクローラーベルト6が回転して前進、後退する。
この機構は左右に対称的に同一のものがあり、ジョイスティック操作部1の操作により、前進、後退、旋回を行う。
直進前進時は左右のゴムクローラーベルトが前進方向に同一速度で回転、旋回時は左右のゴムクローラーベルトの回転速度を変えて旋回する。
さらに、前進、後退もせずに停止状態で旋回する場合は、左右のゴムクローラーベルトを逆方向に同一速度で回転させる。
5はゴムクローラー6を含む駆動部全体を車椅子本体に固定するためのトーションバーで、固定とともに駆動部全体がトーションバー5の回転方向のバネ力により路面の凹凸を拾ったときに衝撃を吸収する構造となっている。
また、凹凸路面等を走行した時にトーションバー5のバネによる振動を抑えるためダンパー14を車椅子本体とクローラー駆動部間に設けている。
これにより路面の凹凸にクローラーゴムがかかった場合にクローラー駆動部全体が回転し、衝撃を吸収している。
トーションバー5は利用者が乗車した場合の車椅子全体の重心位置の直下に設定してある。
【0011】
図2は遊動輪の位置関係を示したものである。
本実施例では遊動輪が5つある場合を示している。
車椅子に利用者が乗車した場合の設計上の重心位置15の直下に中心の遊動輪10をレイアウトしている。
遊動輪10に対してその前後の遊動輪9、および、遊動輪11は遊動輪10より高い位置にレイアウトし、遊動輪9、および、遊動輪11におけるはゴムクローラーベルト6の接線は遊動輪10における接線に対してθ1となる。
θ1はゴムクローラーのゴム硬度、厚みによって調整する必要があるが、概略1〜3度程度である。
また、遊動輪8におけるゴムクローラー6の接線は遊動輪9におけるゴムクローラー6の接線に対してθ2の角度を有するよう遊動輪8がレイアウトされている。遊動輪12も同様に遊動輪11におけるゴムクローラー6の接線に対してθ2の角度を有するようレイアウトされている。
θ2の角度はθ1と同等かそれ以下に設定している。
電動車椅子が停止状態では、重心位置7と遊動輪10にかかるゴムクローラー6接点部を中心に前後の遊動輪9、または、遊動輪11にかかるゴムクローラー6の接点部が車椅子全体の前後方向に±θ1で不安定に揺れる状態にある。
利用者が着座位置をずらしたり、前後に揺らすことによりゴムクローラー6の接地部は遊動輪9と遊動輪10にかかるゴムクローラー6の接点間であったり、遊動輪10と遊動輪11にかかるゴムクローラー6の接点間であったりと変化する。
これは走行中であっても、路面の小さな凹凸、速度の変化により接地面が不安定に変化する。
この状態で左右のゴムクローラーの回転速度を変えて旋回する場合、左右のゴムクローラーの接地面は不安定に変化するために、左右のゴムクローラーの回転速度差により横方向に生じる摩擦が減り、旋回が容易になる。
【0012】
図3はゴムクローラーベルトを構成するゴムブロックを示したものである。
鉄等の強度の高い取り付け台座3−1にゴムブロックを取り付けたもので、前後断面、左右断面ともに接地面は円形状とし、接地部のねじれに対する摩擦力を低減している。
さらに、接地中心となる部分をブロック状に独立させた中心ブロック3−2は、旋回によりゴムクローラーがねじれる場合にブロックがねじれることにより摩擦を低減させている。
【0013】
図4はクローラーベルトを駆動して前進、旋回走行するシステムの構成を示したものである。
ジョイスティック操作部1は前後、左右にレバーを動かし、直進、旋回、後退を行う。
ジョイスティック操作部1のレバーを前方向に操作すると、コントローラー4−7はこの信号を受け取り、右側のクローラーベルト駆動用のモーター4−4は右回転、左側のクローラーベルト駆動用モーター4−1は左回転で等速に回転させる。
ジョイスティック操作部を右前に操作して右方向に旋回する場合、コントローラー4−7は右側のクローラーベルト駆動用のモーター4−4は右回転で低速に、左側のクローラーベルト駆動用モーター4−1は左回転で右側より高速に回転させる。
両モーターの回転速度差は、旋回角度により異なる。
この場合、左右どちらのクローラーベルトも接地面に対してねじりの摩擦力が生じ、直進時より大きな駆動力を必要とする。
クローラーベルトの幅、材質によっても異なるが、直進時の同速度に比較し、旋回時の駆動力は数倍から10倍程度まで上昇する。
この駆動力の上昇は、バッテリーの消費を早めるためクローラーベルトを用いた電動車椅子では、通常の車輪タイプに比較し航続距離が大幅に低下する。
本実施例に示したクローラー駆動機構では、大幅に接地面との摩擦を低減できるため、航続距離はたとえば2倍以上と大幅な効果が得られる。

【0014】
図5はクローラーベルトとして、ゴムのブロックと各ブロックをリンクするめのチェーンより構成した実施例を示したものである。
遊動輪は外周部に溝を設け、チェーンをガイドすることによりクローラーベルトの外れを防止している。
本発明の効果により、路面での横方向の摩擦力が減り、チェーンの外れ防止にも効果を出している。

【符号の説明】
【0015】
1 前進、旋回、後退をコントロールする操作用ジョイスティック部
2 電動車椅子フレーム
3 クローラーベルト駆動部フレーム
4 転倒防止用ストッパー
5 トーションバースプリング
6 クローラーベルト
7 遊動輪(最前端の段差引っかけ用)
8 遊動輪(接地する最前端)
9 遊動輪(接地する2番目)
10 遊動輪(接地する中心)
11 遊動輪(接地する4番目)
12 遊動輪(接地する最後端)
13 起動輪(スプロケット)
14 ダンパー
15 重心位置
3−1 クローラーブロック台座
3−2 クローラー中心ブロック
3−3 ブロック分割兼水はけ用スリット
4−1 左側駆動用モーター
4−2 左側起動スプロケット
4−3 左側クローラーベルト
4−4 右側駆動用モーター
4−5 右側起動スプロケット
4−6 右側クローラーベルト
4−7 コントローラー
4−8 バッテリー
6−1 クローラーゴムブロック

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明では、路面への損傷、走行音面で優れる一方、旋回時の回転方向の摩擦により膨大な駆動力を必要とするゴムクローラーについて、路面に接地する遊動輪の位置設定、接地するゴムブロックの断面形状を最適化することにより、大幅な低減が可能となり、電動車椅子に利用することにより従来走行できなかった歩道等の段差、電車乗降時の溝と段差、舗装されていない荒れた路面等を走行することが可能となり、電動車椅子を利用する歩行困難者の外出の疎外要因を取り除くことが可能となる。
また、電動車椅子のみではなく、クローラーベルトを使用する輸送、移動装置に適用することが可能であり、その走行性、駆動力の低減による省資源に貢献することが可能となる。
特に近年人が近付けない場所で調査、作業を行う隔操作のロボットついて、従来のクローラーベルトより優れた旋回性を有するためその利用可能性が期待できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向の左右に設けられた動力により駆動されるクローラーベルトで走行する移動用装置において、移動装置の重心位置の直下付近に配置された遊動輪と、その前後の遊動輪を該重心位置直下付近に配置された遊動輪より高い位置に配置したことを特徴とする移動装置。
【請求項2】
進行方向の左右に設けられた動力により駆動されるクローラーベルトで走行する移動用装置において、移動装置の重心位置の直下付近に配置された遊動輪と、その前後の遊動輪を該重心位置直下付近に配置された遊動輪より高い位置に配置し、該重心位置の直下付近に配置された遊動輪に外接するクローラーベルト接線と前後の遊動輪にかかるクローラーベルトの成す角度が1〜3度であることを特徴とする移動装置。
【請求項3】
進行方向の左右に設けられた動力により駆動されるクローラーベルトの接地部ブロックが前後、左右方向ともに断面が凸形状で、かつ、凸部がブロック全体に対してスリットにより独立した形状を持つことを特徴とする第1項、2項の移動用装置。
【請求項4】
進行方向の左右に設けられた動力により駆動されるクローラーベルトにより走行する移動用装置において、移動装置の直下付近に配置されたトーションバーにより移動装置本体とクローラーベルト駆動部が回転可能な構造を有することを特徴とする第1〜3項の移動用装置。
【請求項5】
クローラーベルトはゴムを材料とした接地部ブロックと当該ブロック間を接続するチェーンとで構成されたことを特徴とする第1〜4項の移動用装置。
【請求項6】
動力として電気モーターにより駆動される電動車椅子であることを特徴とする第1〜5項の移動用装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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