説明

電圧低下検出装置

【課題】電力系統の瞬時電圧の低下を、インバータを介して補償する瞬時電圧低下補償装置においては、変圧器のインダクタンスによって、その二次側に高調波電圧歪が発生し、瞬時電圧低下を高速に検出することが困難となっている。
【解決手段】電力系統に設置される変圧器の一次側に計器用変圧器を設け、この計器用変圧器により検出された電圧をインバータの制御部に導入し、この一次電圧に対応した電力補償を行うよう構成したものである。また、変圧器の二次側に設置した計器用変圧器と計器用変流器により検出された電圧と電流とをインピーダンス降下補償部に導入して電源電圧を算出し、この算出値をインバータの制御部に導入して補償するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の事故等によって発生する瞬時電圧低下や停電を検出する電圧低下検出装置に係り、特に高速にて検出し、且つ電圧低下を補償する電圧低下検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
瞬時電圧低下補償装置として、図6で示すような直列補償方式と、図7で示すような並列補償方式などがある。
図6において、1は交流電源、2は変圧器で、負荷4に合わせた容量を有している。3は直列変圧器で、その一次巻線は変圧器2と負荷4と直列に接続されている。5は直流電源で電解コンデンサ、蓄電池、電気二重層キャパシタ等が使用される。6はインバータ、7はリアクトル、8はコンデンサで、リアクトル7とコンデンサ8によってフィルタを構成し、インバータ6に発生した高調波分を除去して直列変圧器3の二次巻線に供給する。9は計器用変圧器で、この計器用変圧器によって電力系統の電圧を検出して図示省略されたインバータの制御回路に出力される。12は半導体素子等が使用される高速スイッチで、変圧器3の一次巻線とは並列状態で接続され、電力系統の正常時にはオン状態を維持してこのスイッチを介して負荷に電力が供給される。
図7の並列補償方式では、変圧器2と高速スイッチ11間に遮断器10が介挿され、且つ変圧器13が系統と並列に接続されている以外は図6の直列補償方式と同様である。
図6で示す直列補償方式においては、電源の正常時には高速スイッチを介して負荷に給電する。何らかの理由により電源電圧が低下したことを検出すると高速スイッチ12を開路すると共に、計器用変圧器9によって検出した電圧に基づきインバータ6を制御し、電源電圧の低下量に見合った電圧をインバータ6より発生させ、変圧器3の一次巻線に重畳させることで負荷電圧を所定値に保つ。なお、インバータの電源は、直流電源5に蓄えられたエネルギーから供給される。
【0003】
また、図7で示した並列補償方式においては、電源の正常時には高速スイッチを介して負荷に給電する。何らかの理由により電源電圧が低下したことを計器用変圧器9によって検出すると高速スイッチ11を開路しいからインバータ6を制御し、系統電圧と同位相で、系統の定格電圧をインバータ6より発生させることで、負荷電圧を所定値に保つ。なお、停電後の復電時にはインバータの発生した電圧と電源側電圧との位相差があるために最大系統電圧の2倍の電圧が発生する場合がある。この電圧から高速スイッチ11を保護するために遮断器10が設けられている。
【0004】
このような瞬時電圧低下補償装置を介して系統電圧を補償するものとしては、特許文献1や特許文献2等が公知となっている。特許文献1には直列補償方式のものが図示され、電力系統に事故が発生して過大な電流が直列変圧器の一次巻線に流れたとき、二次巻線に流れる比例した大電流によって生じるインバータのスイッチング素子破損を防止することが開示されている。また、特許文献2には、直列補償方式の瞬時電圧低下補償装置が常時運転されることに基づく運転コストの削減を目的として、電圧検出回路によって検出された電圧低下分が所定のしきい値より小さいときにはインバータを停止させ、しきい値を超えたときにインバータを動作させて系統電圧を補償することが記載されている。
【特許文献1】特許第3429932号公報
【特許文献2】特公平8−32132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
瞬時電圧低下補償装置においては、電力系統の瞬時電圧の低下を高速に検出して直ちに補償動作に入る必要がある。その検出時間は数m秒以下と非常に高速性を必要とする。瞬時電圧低下補償装置では電源側に変圧器2が設置されるため、そこに流れる電流によって電圧降下が発生する。また、高調波電流が変圧器2に流れると変圧器のインダクタンスによって高調波電圧歪が二次側電圧に現れる。そのため、高調波電流が流れたときの電圧歪と、系統側事故による瞬時電圧とを区別して高速に検出することが困難となっている。このような現象は高調波電流が流れた場合のみならず、負荷側変圧器等を投入した場合に発生する励磁突入電流が流れた場合にも発生する現象である。
そこで本発明が目的とするところは、変圧器インピーダンスによる電圧降下の影響を受けずに、電源側の電圧降下を検出することを可能とした電圧低下検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、電力系統に設置される変圧器の二次側にインバータを設け、電力系統の電圧低下時にこのインバータを介して電圧補償する瞬時電圧低下補償装置において、
前記変圧器の一次側に計器用変圧器を設け、この計器用変圧器により検出された電圧をインバータの制御部に導入し、この一次電圧に対応した電圧補償を行うよう構成したことを特徴としたものである。
本発明の第2は、前記変圧器の一次側に設置される計器用変圧器の二次側に補助の電圧検出手段を設けたことを特徴としたものである。
本発明の第3は、前記瞬時電圧低下補償装置は、直列補償方式か並列補償方式であることを特徴としたものである。
本発明の第4は、電力系統に設置される変圧器の二次側にインバータを設け、電力系統の電圧低下時にこのインバータを介して電圧補償する瞬時電圧低下補償装置において、
前記変圧器の二次側に計器用変圧器と計器用変流器を設け、この計器用変圧器と計器用変流器によって検出された電圧と電流とをインピーダンス降下補償部に導入して電源電圧を算出し、この算出値をインバータの制御部に導入して電圧補償を行うよう構成したことを特徴としたものである。
本発明の第5は、前記インピーダンス降下補償部は、入力された前記電流に基づいて変圧器のインピーダンス降下を演算するインピーダンス降下演算手段と、この演算結果と前記計器用変圧器によって検出された電圧とを加算する加算器を有することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のとおり、本発明によれば、電力系統の電圧検出を変圧器の一次側で検出しているので、変圧器のインピーダンスと負荷の高調波電流によって発生する変圧器の二次側での電圧歪と、落雷やスリートジャンプ、ギャロッビング等による系統短絡、地絡事故等の電源側の事故による瞬時電圧低下を高速に判別することができる。
また、負荷側に設置された変圧器等を投入したときに発生する突入電流等と瞬時電圧低下補償装置より電源側に設置されている変圧器のインピーダンスとによる電圧降下と、電源側の事故による瞬時電圧低下とを高速に判別することができる。
また、電力系統の変圧器の一次側に計器用変圧器を設置することなく、瞬時電圧低下補償装置としては標準的に必要な容量の計器用変流器により電流を検出して変圧器の一次側電圧の算出が可能となる。したがって、変圧器が設置される瞬時電圧低下補償装置とは遠隔地にあっても、変圧器の一次側電圧を直接検出することなく一次側電圧の算出ができ、経済的な装置の構築が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は直列補償方式に適用した第1の実施例で、図6と同一部分若しくは相当部分には同一符号を付してその説明を省略する。図1において、図6との相違点は計器用変圧器14を設けたことにある。この計器用変圧器14は、計器用変圧器9の代わりか若しくは図1のように併設され、変圧器2の一次側に接続される。
計器用変圧器14によって検出された電圧は、図示省略されたインバータ6の制御回路に出力されて基準しきい値と比較され、停電、瞬時電圧低下の検出値として使用される。
すなわち、計器用検出器によって検出された値がしきい値より高く、電源電圧が正常時の場合には高速スイッチ12はオン状態となっており、このスイッチ12を介して負荷に給電する。何らかの理由によって電源電圧が瞬時低下すると、計器用変圧器14はこれを検出して検出値としきい値との偏差演算がなされ、比較部において比較される。その結果、瞬時電圧低下と判断されたときには高速スイッチ12を開路すると共に、計器用変圧器14の出力としきい値との偏差値に応じてインバータ6を制御し、電源電圧の低下量に見合った電圧をインバータ6より発生させ、変圧器3の一次巻線に重畳させることで負荷電圧を所定値に維持する。
したがって、この実施例によれば、電力系統の電圧検出を変圧器2の一次側で検出しているので、変圧器2のインピーダンスと負荷の高調波電流によって発生する変圧器2の二次側での電圧歪と、落雷やスリートジャンプ、ギャロッビング等による系統短絡、地絡事故等の電源側の事故による瞬時電圧低下を高速に判別することができる。
また、負荷4内存在する図示省略された変圧器等を投入したときに発生する突入電流等と瞬時電圧低下補償装置より電源側に設置されている変圧器2のインピーダンスとによる電圧降下と、電源側の事故による瞬時電圧低下とを高速に判別することができる。
【0009】
図2は第2の実施例を示したものである。この実施例は、図1において更に計器用の補助変圧器15を設置したもので、特に、高圧又は特別高圧系統に有効のものである。なお、高圧又は特別高圧系統においては、計器用変圧器の他に接地変圧器が設置されている場合があるが、そのような場合、計器用変圧器14の代わりとして接地変圧器が使用され、この変圧器の二次側に変圧器15が接続される。
図2の作用及び効果は図1と同様であるのでその説明は省略する。
図3は第3の実施例を示したもので、この例は並列補償方式に計器用変圧器14を設置したもので、作用及び効果については図1と略同じであるのでその説明は省略する。
【0010】
図4は第4の実施例を示したものである。この実施例は、第1〜第3実施例に用いた計器用変圧器14の代わりに計器用変流器16とインピーダンス降下補償部20を設けたものである。インピーダンス降下補償部20は、図5で示すようにインピーダンス降下演算手段21と加算部22を有している。インピーダンス降下演算手段21は、変流器16によって検出された電力系統の負荷電流I(t)を入力して、I*(R+jX)又はR*I(t)+L*dI(t)/dtの変圧器2によるインピーダンス降下分の演算を常時実行し、その結果を加算部22に出力して変圧器9によって検出された系統電圧V(t)と加算することによって電源電圧を算出する。この算出電圧は減算器23に出力されて基準しきい値との差信号が演算され、コンパレータ24において電源電圧が低下したか否かなどが判断されてインバータの制御信号並びに高速スイッチ12のオン、オフ信号として出力される。
【0011】
この実施例によれば、第1〜第3実施例の有する効果の他に、次のような効果を有するものである。
すなわち、電力系統の変圧器2の一次側に計器用変圧器を設置することなく、瞬時電圧低下補償装置としては標準的に必要な容量の計器用変流器により電流を検出して変圧器2の一次側電圧の算出が可能となる。したがって、変圧器2が、設置される瞬時電圧低下補償装置とは遠隔地にあっても、変圧器2の一次側電圧を直接検出しなくとも一次側電圧の算出ができて経済的な装置の構築が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例を示す構成図。
【図2】本発明の第2の実施例を示す構成図。
【図3】本発明の第3の実施例を示す構成図。
【図4】本発明の第4の実施例を示す構成図。
【図5】第4の実施例に使用されるインピーダンス降下補償部の構成図。
【図6】従来の直列補償方式による瞬時電圧低下補償装置の構成図。
【図7】従来の並列補償方式による瞬時電圧低下補償装置の構成図。
【符号の説明】
【0013】
1…電源
2…変圧器
3…直列変圧器
4…負荷
5…直流電源
6…インバータ
7…リアクトル
8…コンデンサ
9、14、15…計器用変圧器
10…遮断器
11、12…高速スイッチ
13…並列変圧器
16…計器用変流器
20…インピーダンス降下補償部
21…インピーダンス降下演算手段
24…コンパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に設置される変圧器の二次側にインバータを設け、電力系統の電圧低下時にこのインバータを介して電圧補償する瞬時電圧低下補償装置において、
前記変圧器の一次側に計器用変圧器を設け、この計器用変圧器により検出された電圧をインバータの制御部に導入し、この一次電圧に対応した電圧補償を行うよう構成したことを特徴とした電圧低下検出装置。
【請求項2】
前記変圧器の一次側に設置される計器用変圧器の二次側に補助の電圧検出手段を設けたことを特徴とした請求項1記載の電圧低下検出装置。
【請求項3】
前記瞬時電圧低下補償装置は、直列補償方式か並列補償方式であることを特徴とした請求項1又は2記載の電圧低下補償装置。
【請求項4】
電力系統に設置される変圧器の二次側にインバータを設け、電力系統の電圧低下時にこのインバータ介して電圧補償する瞬時電圧低下補償装置において、
前記変圧器の二次側に計器用変圧器と計器用変流器を設け、この計器用変圧器と計器用変流器によって検出された電圧と電流とをインピーダンス降下補償部に導入して電源電圧を算出し、この算出値をインバータの制御部に導入して電力補償を行うよう構成したことを特徴とした電圧低下検出装置。
【請求項5】
前記インピーダンス降下補償部は、入力された前記電流に基づいて変圧器のインピーダンス降下を演算するインピーダンス降下演算手段と、この演算結果と前記計器用変圧器によって検出された電圧とを加算する加算器を有することを特徴とした請求項4記載の電圧低下検出装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−121852(P2006−121852A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308985(P2004−308985)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】