説明

電子写真用定着部材及びその製造方法、定着装置、電子写真画像形成装置

【課題】 トナー離型性に優れ、かつシリコーンゴム弾性層のゴム弾性が変化しにくい電子写真用定着部材の提供。
【解決手段】 基材、硬化(cured)シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層、およびフッ素樹脂層が積層されている定着部材であって、該硬化シリコーンゴム層の外面から5μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)をα(5)、該硬化シリコーンゴム層の外面から20μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比をα(20)としたときに、α(5)とα(20)の関係が、
1.03≦α(5)/α(20)≦1.30
を満たしており、且つα(20)が0.8以上1.2以下であることを特徴とする電子写真用定着部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用定着部材の製造方法、および電子写真用定着部材に関する。また、それを用いた定着装置及び電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式に用いられる加熱定着装置では、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラといった回転体が圧接されている。
【0003】
そして、未定着のトナーによる画像を保持した被記録材が、この回転体間に形成された圧接部位に導入されて加熱され、該トナーを溶融し、被記録材に当該画像を定着させる。
【0004】
被記録材上に保持された未定着トナー像が接する回転体は定着部材と称し、その形態に応じて定着ローラ、定着フィルム、定着ベルトと呼ばれる。
【0005】
これら定着部材は、金属または耐熱性樹脂等で形成された基材上に、耐熱性を有するシリコーンゴム層を配し、その上にシリコーンゴム接着剤を介してフッ素樹脂からなる離型層を被覆したものが知られている。シリコーンゴム層の形成に用いられるシリコーンゴム組成物としては、加工性の観点から付加硬化型シリコーンゴムが多用されている。
【0006】
また、シリコーンゴム接着剤としては、液状またはペースト状の自己接着性を有する付加硬化型シリコーンゴム接着剤を用いたものが知られている(特許文献1)。付加硬化型シリコーンゴム接着剤は、シリコーンゴム層とフッ素樹脂からなる離型層とを良く接着させられるためである。
【0007】
上記した構成を有する定着部材は、シリコーンゴム層の優れた弾性変形を利用して、トナー像を過度に押しつぶすことなく、包み込んで溶融させることができる。そのため、像ズレ、にじみを防ぎ、混色性を良くするという効果がある。また、被加熱体である紙の繊維の凹凸に追従し、トナーの溶融ムラが発生するのを防止するといった効果がある。
【0008】
しかし、付加硬化型シリコーンゴムを用いて形成した硬化(cured)シリコーンゴム層の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を用いて離型層となるフッ素樹脂層を貼付けた場合、以下のような課題があった。即ち、硬化シリコーンゴム層中のシリコーンゴム接着剤の成分が浸透し、硬化シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基が、当該接着剤中の活性水素と反応し、硬化シリコーンゴム層の硬度上昇を招来することがあった。
【0009】
その結果、定着部材の表面硬度が上昇し、上記したシリコーンゴム層の弾性変形がもたらす上述した有利な効果が減殺されてしまう場合がある。
【0010】
特許文献2は、かかる課題の解決を目的として、シリコーンゴム層の架橋後における当該シリコーンゴム層中に残存する不飽和脂肪族基の量を抑えることを提案している。このような構成の採用によって、シリコーンゴム層中での不飽和脂肪族基と接着剤中の活性水素との反応が抑制される。その結果、付加硬化型シリコーン接着剤の使用に伴なうシリコーンゴム層の硬度上昇を有効に抑えられる。
【特許文献1】特開2005−238765
【特許文献2】特開2006−30801
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、ゴム中の不飽和脂肪族基は、ゴムの老化を緩和するうえで極めて重要な役割を果たしている。即ち、ゴムが有する架橋構造は経時的に切断され、ゴム弾性が徐々に低下していく。これは、ゴムの老化現象として知られている。そして、ゴム中に不飽和脂肪族基が存在している場合、当該不飽和脂肪族基が反応して、架橋構造が再構築されるため、ゴム弾性が劣化しにくいことが知られている。このことから、ゴム中に不飽和脂肪族基を存在させておくことは、技術的に極めて重要な意義がある。
【0012】
従って、上記特許文献2に係る構成は、接着剤の使用による硬度変化に対しては有効な対策となり得るものの、シリコーンゴム層の老化に対しては不利な構成である。
【0013】
特に、定着部材は、熱伝導性向上のために、シリコーンゴム層には熱伝導性フィラーが相当量、例えば、40体積%以上添加されることがある。この場合、シリコーンゴム層中の、シリコーンゴム層の弾性の発現主体たるゴム成分の量は相対的に少なくなる。よって、ゴム成分に老化が生じたときの、シリコーンゴム層の弾性の低下は、より一層顕著なものとなり得る。
【0014】
そこで、本発明者らは、付加硬化型シリコーン接着剤を用いてシリコーンゴム層上にフッ素樹脂層を接着してなる構成を有する定着部材において、シリコーンゴム層中に老化を緩和し得る程度の不飽和脂肪族基を存在させることについて検討を重ねてきた。その結果、本発明者等は、付加硬化型シリコーン接着剤の使用と、シリコーンゴム層中に不飽和脂肪族基を存在させることとを両立し得ることを知見し、本発明を為すに至った。
【0015】
本発明の目的は、シリコーンゴム層上に付加硬化型シリコーン接着剤を用いてフッ素樹脂層を固定してなる定着部材において、ゴム弾性をより安定に維持することのできる定着部材、およびその製造方法を提供する点にある。
【0016】
また本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を安定して与える定着部材及び電子写真画像形成装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々の検討を重ねた。
【0018】
具体的には、基材上の付加硬化型のシリコーンゴムとフィラーとを含むシリコーンゴム組成物の塗膜を、弾性が維持される程度に硬化させてシリコーンゴム層とした後、当該シリコーンゴム層表面に紫外線を照射した。
【0019】
その後に、紫外線を照射したシリコーンゴム層表面に直接、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を塗布し、フッ素樹脂チューブを貼付けた。その結果、予想に反して、当該接着剤に起因するシリコーンゴム層の硬度上昇が殆ど認められなかった。本発明は、このような新規な知見に基づきなされたものである。
【0020】
尚、上記の実験にかかるシリコーンゴム層は、硬化後においても弾性が維持されるように架橋成分(活性水素を有するオルガノポリシロキサン)の量を相対的に少なめに配合し、それゆえ不飽和脂肪族基を豊富に含んでいる。それにも関らず、その表面への紫外線照射によって、付加硬化型シリコーンゴム接着剤に起因する当該シリコーンゴム層の硬度上昇が抑えられる理由は未だ充分に解明できていない。しかし、本発明者らは以下のように推測している。
【0021】
即ち、紫外線照射により、シリコ−ンゴム層の最表面においてはシリコーンゴムの架橋度が向上し、極めて緻密な構造が構成される。その結果、接着剤成分(特には、活性水素を有するオルガノポリシロキサン)のシリコーンゴム層への浸透が抑えられると考えられる。一方、シリコーンゴム層内部は、シリコーンゴム層の弾性が保たれる程度に架橋密度の低い状態が維持されていると考えられる。その結果、上記の効果が奏されるものと考えられる。
【0022】
本発明に係る電子写真用定着部材は、基材、硬化(cured)シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層、およびフッ素樹脂層が積層されている定着部材であって、該硬化シリコーンゴム層の外面から5μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)をα(5)、同じく外面から20μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比をα(20)としたときに、α(5)とα(20)の関係が、
1.03≦α(5)/α(20)≦1.30
を満たしており、且つα(20)が0.8以上1.2以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る電子写真用定着部材は、基材、硬化(cured)シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層およびフッ素樹脂層が積層されている電子写真用定着部材において、該硬化シリコーンゴム層を構成している硬化(cured)ゴムをメチルハイドロジェンシリコーンオイルに24時間浸漬し、硬化させたときの硬度の上昇率が2.5以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る電子写真用定着部材は、基材、フィラーを40体積%以上60体積%以下の範囲で含む硬化シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層及びフッ素樹脂層がこの順番で積層されている定着部材であって、
該硬化シリコーンゴム層は、100μm以上500μm以下の厚さを有し、且つ表面のタイプCマイクロ硬度が60度以上、90度以下であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る定着装置は、上記の電子写真用定着部材と、該電子写真用定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする。
【0026】
更に本発明に係る電子写真画像形成装置は、上記の定着装置と、該定着装置への転写媒体の搬送手段とを具備していることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る電子写真用定着部材の製造方法は、
(1)基材上に、付加硬化型シリコーンゴム層を形成する工程、
(2)該付加硬化型シリコーンゴム層を硬化させて、硬化(cured)シリコーンゴム層を形成する工程、
(3)前記硬化シリコーンゴム層の表面に付加硬化型シリコーンゴム接着剤を介してフッ素樹脂層を積層する工程、および
(4)該付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化させる工程、を有する電子写真用定着部材の製造方法において、
前記工程(3)に先立って、前記硬化シリコーンゴム層表面に紫外線を照射する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる電子写真用定着部材によれば、以下の効果を得ることができる。
【0029】
即ち、シリコーンゴム層上に付加硬化型シリコーン接着剤でフッ素樹脂層を固定した構成の電子写真用定着部材において、シリコーンゴム層中に不飽和脂肪族基を多く存在させることができる。そのため、シリコーンゴム層の老化による弾性の低下を抑えることができる。
【0030】
また、フッ素樹脂層は、シリコーンゴム層上に付加硬化型接着剤により強固に接着されるため、良好なトナー離型性を長期に亘って確保できる。
【0031】
また、不飽和脂肪族基を含んでいるシリコーンゴム層の、付加硬化型シリコーンゴム接着剤の使用に起因する硬度上昇を抑えることができる。その結果、表面の硬度が低い電子写真用定着部材を得ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる定着装置、及び電子写真画像形成装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(1)定着部材の構成概略;
本発明の詳細を図面を用いて説明する。
【0034】
図4は、本発明に係る電子写真用定着ベルトの一態様を示す概略図である。図7は、その概略断面図である。
【0035】
図4及び図7において、6は基材、7は基材6の周面を被覆している硬化した(cured)シリコーンゴム層、12は、フッ素樹脂チューブである。フッ素樹脂チューブ12は、シリコーンゴム層7の周面に硬化(cured)シリコーンゴム接着層11により固定されている。
【0036】
(2)基材;
基材6としては、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルなどの金属や合金、ポリイミドなどの耐熱性樹脂が用いられる。
【0037】
定着部材がローラ形状である場合、基材6には、芯金が用いられる。芯金の材質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレスなどの金属や合金が挙げられる。
【0038】
定着部材が、ベルト形状を有する場合には、基材6としては、例えば電鋳ニッケルベルトやポリイミドなどからなる耐熱樹脂ベルト等が挙げられる。
【0039】
(3)シリコーンゴム層、その製造方法;
シリコーンゴム層7は、定着時にトナーを押しつぶさない弾性を定着部材に担持させる弾性層として機能する。
【0040】
かかる機能を発現させる上で、シリコーンゴム層7は、付加硬化型シリコーンゴムを硬化させたものとすることが好ましい。後述するフィラーの種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、弾性を調整することができるからである。
【0041】
(3−1)付加硬化型シリコーンゴム;
一般に、付加硬化型シリコーンゴムは、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン、および架橋触媒として白金化合物が含まれている。
【0042】
不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンの例は以下のものを含む。
・分子両末端がRSiO1/2で表され、中間単位がRSiOおよびRSiOで表される直鎖状オルガノポリシロキサン;
・中間単位にRSiO3/2乃至SiO4/2が含まれる分岐状ポリオルガノシロキサン。
【0043】
ここでRはケイ素原子に結合した、脂肪族不飽和基を含まない1価の非置換または置換炭化水素基を表す。具体例は、以下のものを含む。
・アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等);
・アリール基(フェニル基等);
・置換炭化水素基(例えば、クロロメチル、3−クロロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、3−シアノプロピル、3−メトキシプロピル等)。
【0044】
特に、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が得られることから、Rの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのRがメチル基であることが特に好ましい。
【0045】
また、Rはケイ素原子に結合した不飽和脂肪族基を表しており、ビニル、アリル、3−ブテニル、4−ペンテニル、5−ヘキセニルが例示され、合成や取扱いが容易で、架橋反応も容易に行われることから、ビニルが好ましい。
【0046】
また、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは白金化合物の触媒作用により、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のアルケニル基との反応によって架橋構造を形成させる架橋剤である。
【0047】
ケイ素原子に結合した水素原子の数は、1分子中に平均3個を越える数である。
【0048】
ケイ素原子に結合した有機基としては、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のRと同じ範囲である非置換または置換の1価の炭化水素基が例示される。特に、合成および取扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。
【0049】
ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されない。
【0050】
また、当該オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは10mm/s以上100,000mm/s以下、さらに好ましくは15mm/s以上1,000mm/s以下の範囲である。保存中に揮発して所望の架橋度や成形品の物性が得られないということがなく、また合成や取扱いが容易で、系に容易に均一に分散させることができるからである。
【0051】
シロキサン骨格は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも差支えなく、これらの混合物を用いてもよい。特に合成の容易なことから、直鎖状のものが好ましい。Si−H結合は、分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、少なくともその一部が、RHSiO1/2単位のような分子末端のシロキサン単位に存在することが好ましい。
【0052】
付加硬化型シリコーンゴムとしては、不飽和脂肪族基の量が、ケイ素原子1モルに対して0.1モル%以上、2.0モル%以下であるものが好ましい。特には、0.2モル%以上、1.0モル%以下である。
【0053】
また、不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合が、0.3以上0.8以下となるような割合で配合されていることが好ましい。不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合は水素核磁気共鳴分析(例えば、H−NMR(商品名:AL400型 FT−NMR;日本電子株式会社製)を用いた測定により定量・算出することができる。不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合が上記数値範囲内とすることで、硬化後のシリコーンゴム層の硬度を安定なものとでき、また、硬度の過度の上昇を抑えられる。
【0054】
(3−2)フィラーについて;
シリコーンゴム層6は、定着部材に熱伝導性の向上、補強、耐熱性の向上等のためにフィラーを含んでいてもよい。
【0055】
(3−2−1)材料;
特に、熱伝導性を向上させる目的では、フィラーとしては高熱伝導性であることが好ましい。具体的には、無機物、特に金属、金属化合物等を挙げることができる。
【0056】
高熱伝導性フィラーの具体例は、以下の例を含む。
・炭化ケイ素(SiC);窒化ケイ素(Si);窒化ホウ素(BN);窒化アルミニウム(AlN);アルミナ(Al);酸化亜鉛(ZnO);酸化マグネシウム(MgO);シリカ(SiO);銅(Cu);アルミニウム(Al);銀(Ag);鉄(Fe);ニッケル(Ni)等。
【0057】
これらは単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。高熱伝導性フィラーの平均粒径は取り扱い上、および分散性の観点から1μm以上50μm以下が好ましい。また、形状は球状、粉砕状、針状、板状、ウィスカ状などが用いられるが、分散性の観点から球状のものが好ましい。
【0058】
(3−2−2)含有量;
上記フィラーは、その目的を充分に達成させるために、シリコーンゴム層6中に、シリコーンゴム層基準で40体積%以上60体積%以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0059】
(3−3)シリコーンゴム層の厚さ;
定着部材の表面硬度への寄与、及び定着時の未定着トナーへの熱伝導の効率から、シリコーンゴム層の厚みの好ましい範囲は100μm以上500μm以下、特には200μm以上400μm以下が好ましい。
【0060】
(3−4)シリコーンゴム層の製法;
図1は基材6上にシリコーンゴム層7を形成する工程の一例であり、所謂リングコート法を用いる方法を説明するための模式図である。
【0061】
付加硬化型シリコーンゴムとフィラーとが配合された付加硬化型シリコーンゴム組成物をシリンダポンプ2に充填し、圧送することで塗布液供給ノズル3から基材6の周面に塗布する。
【0062】
塗布と同時に基材6を図面右方向に一定速度で移動させることで、付加硬化型シリコーンゴム組成物の塗膜を基材6の周面に形成することが出来る。
【0063】
該塗膜の厚みは、塗布液供給ノズル3と基材6とのクリアランス、シリコーンゴム組成物の供給速度、基材6の移動速度、などによって制御することが出来る。
【0064】
基材6上に形成された付加硬化型シリコーンゴム層は、電気炉などの加熱手段によって一定時間加熱して、架橋反応を進行させることにより、硬化シリコーンゴム層7とすることができる。
【0065】
(4)紫外線照射工程;
図2は定着ベルトの硬化シリコーンゴム層に紫外線を照射する工程の一例の模式図である。
【0066】
基材6上に硬化シリコーンゴム層7が形成された状態で、中子8を挿入・保持させ、紫外線ランプ9から約10mm離れた位置で、ほぼ平行になるようにセットする。
【0067】
不図示の手段を用いて中子8を一定速度で回転させた状態で、紫外線ランプ9に一定時間電力を投入し、硬化せしめたシリコーンゴム層表面に紫外線を照射させる。
【0068】
紫外線の中でも、特に短波長の紫外線は高いエネルギーを有する為、様々な結合を活性化することが知られている。ここでは、硬化シリコーンゴム表面に対して照射した場合の現象について説明する。
【0069】
定圧水銀紫外線ランプを用いた際に発光する185nm付近の波長の紫外線は、環境中に存在する空気中の酸素分子の結合エネルギーよりも高いエネルギーを与え、活性酸素が発生する。
+紫外線(185nm)→O+O (酸素分子の分解)
活性酸素は酸素分子と更に反応することで環境中にオゾン分子を生成する。
O+O→O (オゾン分子の生成)
このオゾン分子は254nm付近の紫外線を吸収し、再度酸素分子と活性酸素に分解される。
+紫外線(254nm)→O+O (オゾン分子の分解)
このようにオゾン分子の生成と分解を繰り返す過程で、活性酸素が紫外線照射環境中に発生する。
【0070】
さらに、シリコーンゴム層表面に高エネルギーの紫外線が照射されることで、シリコーンゴム層表面のジメチルシロキサンに起因するSi−C結合が活性化され、解離される。
【0071】
ここに活性酸素が反応することでSi−O結合が新たに生成する。この反応が進行することにより、シリコーンゴム表面付近における網目構造が発達する。網目構造を表面付近に発達させることで、次工程で用いられる付加型シリコーンゴム接着剤の、硬化シリコーンゴム層内部への浸透を低減することが可能となる。
【0072】
以上の理由から、大気中での紫外線照射による、シリコーンゴム層への後述する付加硬化型シリコーンゴム接着剤の浸透低減効果を得る為には、185nmの波長の紫外線を照射することが好ましい。
【0073】
具体的には、シリコーンゴム層の表面に波長185nmの紫外線の積算光量が、300mJ/cm以上1000mJ/cm以下となるように紫外線を照射することが好ましい。
【0074】
紫外線の照射量は、図3に示す方法で測定することが出来る。中子8に紫外線光量計(例えば、紫外線積算光量計(商品名:C8026/H8025−18510;浜松ホトニクス株式会社製)の表面と紫外線ランプ9との距離が、シリコーンゴム層表面と同じ距離になるようにセットし、一定の照射時間、紫外線光量を測定する。これにより、シリコーンゴム層表面位置における、単位面積あたりの積算光量を算出することが出来る。
【0075】
(4−1)硬化シリコーンゴム層の表面の網目構造について;
また、硬化シリコーンゴム層の表面の網目構造の発達程度については、以下の方法で知ることが出来る。
【0076】
シリコーンゴムに赤外分光光度計(FT−IR)を用いて赤外線を照射し、原子間の振動エネルギーに相当する赤外線吸収を測定すると、Si−C結合に起因する吸収が1260cm−1付近に、Si−O結合に起因する吸収が1020cm−1付近に認められる。
【0077】
シリコーンゴム層の外面から深さ5μmの部分を、クライオ法等の平行切削手段を用いてサンプリングし、得られた切片をダイヤモンドセルにて押しつぶした状態で、顕微−透過法でFT−IR測定を行う。例えば、FT−IR(商品名:JIR−5500型FT−IR;日本電子株式会社製)等を用いて、分解能4cm−1、積算回数100回に設定し、測定を行なう。このときに得られた、1020cm−1と1260cm−1における赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)をα(5)として求める。更に、シリコーンゴム層外面から深さ20μmの部分についても、同様の方法でFT−IR測定を行い、赤外線吸収強度比α(20)を求める。
【0078】
このとき、α(5)とα(20)の関係が、下記式を満たすように紫外線を照射することが好ましい。
1.03≦α(5)/α(20)≦1.30
α(5)/α(20)が上記数値範囲内にあるシリコーンゴム層は、付加型シリコーンゴム接着剤の、硬化シリコーンゴム層内部への浸透を十分に抑制できる程度に表面の架橋構造が緻密に発達しているものの、シリコーンゴム層としては過度の硬度上昇を抑制できる。
【0079】
α(20)の値は、シリコーンゴム層のベースポリマーにおけるSi−C結合とSi−O結合の割合によって変化し、Si−O結合による分岐程度が大きくなり、また平均分子量が小さくなった場合に大きくなる。逆に、Si−O結合による分岐度合いが小さく、平均分子量が大きくなった場合に小さくなる。
【0080】
シリコーンゴム層の形状の自己保持性及び定着部材の弾性を考慮するとα(20)の値は、0.8以上1.2以下であることが好ましい。
【0081】
従って、紫外線照射に先立って行なうシリコーンゴム組成物の硬化は、それにより得られるシリコーンゴム層のα(20)が、上記数値範囲内となるようなものを用いることが好ましい。
【0082】
(4−2)硬化シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基の存在の程度について;
上記したように、硬化シリコーンゴム層の表面処理によって、硬化シリコーンゴム層表面に適用した付加硬化型シリコーン接着剤の成分の硬化シリコーンゴム層内への浸透が阻害される。その結果、硬化シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基は、付加硬化型シリコーン接着剤の成分とは反応することなく、硬化シリコーンゴム層中に存在することとなる。付加硬化型シリコーン接着剤を用いた接着後の硬化シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基の量を直接的に定量する技術は現時点では存在しない。しかし、以下の方法により間接的には定量可能である。
【0083】
先ず、定着部材から、硬化シリコーンゴム層から、所定のサイズ(例えば、20mm×20mm)の硬化ゴムの薄片の複数枚を切り出し、厚さ2mmになるように積層する。そして、この積層体について、タイプCマイクロ硬度をマイクロゴム硬度計(商品名:マイクロゴム硬度計MD−1 capa タイプC;高分子計器株式会社製)を用いて測定する。このときの測定値をHμ0とする。
【0084】
次いで、上記の積層体を構成していた硬化ゴムの薄片の全てをメチルハイドロジェンシリコーンオイル(商品名:DOW CORNING TORAY SH1107FLUID;東レ・ダウコーニング株式会社製)中に完全に浸漬させる。メチルハイドロジェンシリコーンオイルを温度30℃に維持して24時間、静置する。これにより、各薄片の内部にまでメチルハイドロジェンシリコーンオイルを浸透させる。次いで、全ての薄片をメチルハイドロジェンシリコーンオイルから取り出し、表面のオイルを十分に取り除き、200℃のオーブン中で4時間加熱後、室温にまで冷却する。これにより、全ての薄片について、不飽和脂肪族基とメチルハイドロジェンシリコーンオイルとの付加反応を完了させる。次に全ての薄片の積層し、得られた積層体のマイクロ硬度を上記の装置を用いて測定する。このときのマイクロ硬度をHμ1とする。そして、硬度上昇率(=Hμ1/Hμ0)を算出する。
【0085】
シリコーンゴム層中に不飽和脂肪族基の量が多い場合には、試験片の内部に浸透したメチルハイドロジェンシリコーンオイルによって、試験片中に新たな架橋点が形成される。その為、熱処理後の試験片は大幅な硬度上昇を示す。つまり、硬度上昇率は比較的大きな値を示す。
【0086】
一方、シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基の量が少ない場合には、試験片にメチルハイドロジェンシリコーンオイルを浸透させ、加熱処理を施しても、新たな架橋点が形成されにくい。よって、熱処理後の試験片の硬度変化は軽微なものとなる。つまり、硬度上昇率は比較的小さな値を示すことになる。
【0087】
尚、硬度上昇率の算出の為の実験については、試験片中の不飽和脂肪族基を確実に反応させることができれば、上記した条件などに限定されるものではない。
【0088】
本発明においては、上記の硬度上昇率としては、2.5以上、特には3.0以上が好ましい。不飽和脂肪族基が比較的潤沢に硬化シリコーンゴム層に存在することとなるため、老化によるゴム弾性の低下を有効に抑えられるからである。
【0089】
また、硬化シリコーンゴム層の架橋構造の安定性の点から、硬度上昇率は、5.0以下、特には4.5以下が好ましい。
【0090】
なお、硬度上昇率の具体的な制御は、具体的には、下記a)或いは下記a)とb)との組み合わせにより可能である。
a)硬化シリコーンゴム層の形成に用いる付加硬化型シリコーンゴム原液の組成の調整;
より具体的には、付加硬化型シリコーンゴム原液中の、1分子中にビニル基を2個以上有するビニル化ポリジメチルシロキサンと、1分子中にSi−H結合を2個以上有するハイドロジェンオルガノポリシロキサンとの混合比の調整。
b)硬化シリコーンゴム層表面の紫外線処理の程度;
これにより、硬化シリコーンゴム層表面に塗布する付加硬化型シリコーンゴム接着剤の当該硬化シリコーンゴム層中への浸透量を変化させることができる。即ち、硬化シリコーンゴム層中の不飽和脂肪族基の付加硬化型シリコーンゴム接着剤との反応量を変化させることができる。
【0091】
(5)シリコーンゴム層上への接着層を介したフッ素樹脂層の積層工程;
(5−1)硬化(cured)シリコーンゴム接着層;
硬化(cured)シリコーンゴム層上にフッ素樹脂チューブを固定している硬化シリコーンゴム接着層11は、紫外線照射を行なった硬化シリコーンゴム層7の表面に塗布した付加硬化型シリコーンゴム接着剤の硬化物からなっている。そして、付加硬化型シリコーンゴム接着剤は、自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを含む。
【0092】
具体的には、ビニル基に代表される不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンおよび架橋触媒としての白金化合物を含有する。そして、付加反応により硬化する。このような接着剤としては、既知のものを使用することができる。
【0093】
自己接着成分の例は、以下のものを含む。
・ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基、カルボニル基、およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するシラン、
・ケイ素原子数が2個以上30個以下、好ましくは4個以上20個以下の、環状または直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物、
・1価以上4価以下、好ましくは2価以上4価以下のフェニレン構造等の芳香環を1分子中に1個以上4個以下、好ましくは1個以上2個以下含有し、かつ、ヒドロシリル化付加反応に寄与しうる官能基(例えば、アルケニル基、(メタ)アクリロキシ基)を1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上4個以下含有する、分子中に酸素原子を含んでもよい、非ケイ素系(即ち、分子中にケイ素原子を含有しない)有機化合物。
【0094】
上記の自己接着成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0095】
接着剤中には粘度調整や耐熱性確保の観点から、本発明の趣旨に沿う範囲内においてフィラー成分を添加することができる。
【0096】
当該フィラー成分の例は、以下のものを含む。
・シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化セリウム、水酸化セリウム等。
【0097】
このような付加硬化型シリコーンゴム接着剤は市販もされており、容易に入手することができる。
【0098】
(5−2)フッ素樹脂層;
フッ素樹脂層としては、例えば、以下に例示列挙する樹脂をチューブ状に成形したものが用いられる。
・テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等。
【0099】
上記例示列挙した材料中、成形性やトナー離型性の観点からPFAが好ましい。
【0100】
フッ素樹脂層の厚みは、50μm以下とするのが好ましい。積層した際に下層のシリコーンゴム層の弾性を維持し、定着部材としての表面硬度が高くなりすぎることを抑制できるからである。
【0101】
フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、接着性を向上させることが出来る。
【0102】
図4は、シリコーンゴム層7上に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を介してフッ素樹脂層を積層する工程の一例の模式図である。
【0103】
前述した紫外線照射したシリコーンゴム層7の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤11を塗布する。
【0104】
この外面に、フッ素樹脂層としてのフッ素樹脂チューブ12を被覆し、積層させる。
【0105】
被覆方法は特に限定されないが、付加型シリコーンゴム接着剤を潤滑材として被覆する方法や、フッ素樹脂チューブを外側から拡張し、被覆する方法等を用いることが出来る。
【0106】
不図示の手段を用いて、硬化シリコーンゴム層とフッ素樹脂層との間に残った、余剰の付加硬化型シリコーンゴム接着剤を、扱き出すことで除去する。扱き出した後の接着層の厚みは、20μm以下であることが好ましい。
【0107】
次に、電気炉などの加熱手段にて所定の時間加熱することで、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化・接着させ、両端部を所望の長さに切断することで、本発明の定着部材としての定着ベルトを得ることが出来る。
【0108】
(6)定着部材表面のマイクロ硬度;
定着部材表面のタイプCマイクロ硬度は、マイクロゴム硬度計(高分子計器株式会社製、商品名:マイクロゴム硬度計MD−1 capa タイプC)を用いて測定することが出来る。ここでのマイクロ硬度は、60度以上90度以下、特には70度以上85度以下が好ましい。
【0109】
タイプCマイクロ硬度を上記数値範囲内とすることで、転写媒体上の未定着トナーを過度に押しつぶすことを抑制できる。その結果、像ズレ、滲みが少ない高品位な電子写真画像を得ることができる。
【0110】
(7)定着装置;
図5には本発明に係るベルト形状の電子写真用定着部材を用いた、加熱定着装置の横方向断面模式図を示す。
【0111】
この加熱定着装置において、13は本発明の一形態となる、加熱定着部材としてのシームレス形状の定着ベルトである。この定着ベルト13を保持するために耐熱性・断熱性の樹脂によって成型された、ベルトガイド部材14が形成されている。
【0112】
このベルトガイド部材14と定着ベルト13の内面とが接触する位置に熱源としてのセラミックヒータ15を具備する。
【0113】
セラミックヒータ15はベルトガイド部材14の長手方向に沿って成型具備された溝部に嵌入して固定支持されている。セラミックヒータ15は、不図示の手段によって通電され発熱する。
【0114】
シームレス形状の定着ベルト13はベルトガイド部材14にルーズに外嵌させてある。加圧用剛性ステイ16はベルトガイド14の内側に挿通してある。
【0115】
加圧部材としての弾性加圧ローラ17はステンレス芯金17aにシリコーンゴムの弾性層17bを設けて表面硬度を低下させたものである。
【0116】
芯金17aの両端部を装置に不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。
【0117】
弾性加圧ローラ17は、表面性及び離型性を向上させるために表層17cとして、50μmのフッ素樹脂チューブが被覆されている。
【0118】
加圧用剛性ステイ16の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ16に押し下げ力を付与している。
【0119】
これによってベルトガイド部材14の下面に配設したセラミックヒータ15の下面と加圧部材17の上面とが定着ベルト13を挟んで圧接して所定の定着ニップ部18が形成される。
【0120】
この定着ニップ部18に未定着トナーTによって画像が形成された、被加熱体となる被記録材Pを挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって被記録材上にトナー像が定着される。
【0121】
(8)電子写真画像形成装置;
電子写真画像形成装置の全体構成について概略説明する。図6は本実施の形態に係るカラーレーザープリンタの概略断面図である。
【0122】
図6に示したカラーレーザープリンタ(以下「プリンタ」と称す)100は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)各色ごとに一定速度で回転する電子写真感光体ドラム(以下「感光体ドラム」と称す)を有する画像形成部を有する。また、画像形成部で現像され多重転写されたカラー画像を保持し、給送部から給送された記録媒体Pにさらに転写する中間転写体19を有する。
【0123】
感光体ドラム20(20Y,20M,20C,20K)は、駆動手段(不図示)によって、図6に示すように反時計回りに回転駆動される。
【0124】
感光体ドラム20の周囲には、その回転方向にしたがって順に、感光体ドラム20表面を均一に帯電する帯電装置21(21Y,21M,21C,21K)、画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム1上に静電潜像を形成するスキャナユニット22(22Y,22M,22C,22K)、静電潜像にトナーを付着させてトナー像として現像する現像ユニット23(23Y,23M,23C,23K)、感光体ドラム20上のトナー像を一次転写部T1で中間転写体19に転写させる一次転写ローラ24(24Y,24M,24C,24K)、転写後の感光体ドラム20表面に残った転写残トナーを除去するクリーニングブレードを有するユニット25(25Y,25M,25C,25K)が配置されている。
【0125】
画像形成に際しては、ローラ26,27,28に張架されたベルト状の中間転写体19が回転するとともに各感光体ドラムに形成された各色トナー像が前記中間転写体19に重畳して一次転写されることでカラー画像が形成される。
【0126】
前記中間転写体19への一次転写と同期するように搬送手段によって記録媒体が二次転写部へ搬送される。搬送手段は複数枚の記録媒体Pを収納した給送カセット29、給送ローラ30、分離パッド31、レジストローラ対32を有する。画像形成時には給送ローラ30が画像形成動作に応じて駆動回転し、給送カセット29内の記録媒体Pを一枚ずつ分離し、該レジストローラ対32によって画像形成動作とタイミングを合わせて二次転写部へ搬送する。
【0127】
二次転写部T2には移動可能な二次転写ローラ33が配置されている。二次転写ローラ33は、略上下方向に移動可能である。そして、像転写に際しては記録媒体Pを介して中間転写体19に所定の圧で押しつけられる。この時同時に二次転写ローラ33にはバイアスが印加され中間転写体19上のトナー像は記録媒体Pに転写される。
【0128】
中間転写体19と二次転写ローラ33とはそれぞれ駆動されているため、両者に挟まれた状態の記録媒体Pは、図6に示す左方向に所定の速度で搬送され、更に搬送ベルト34により次工程である定着部35に搬送される。定着部35では熱及び圧力が印加されて転写トナー像が記録媒体に定着される。その記録媒体は排出ローラ対36によって装置上面の排出トレイ37上へ排出される。
【0129】
そして、図5に示した、本発明にかかる定着装置を、図6に示した電子さH心画像形成装置の定着部35に適用することにより、消費エネルギーを抑制しつつ、高品位な電子写真画像を提供可能な電子写真画像形成装置を得ることができるものである。
【実施例】
【0130】
以下に、実施例を用いてより具体的に本発明を説明する。
【0131】
(実施例1)
(1)下記の材料(a)および(b)を、Si−H基に対するビニル基の個数の割合(H/Vi)が、0.45となるように配合し、触媒量の白金化合物を加えて、付加硬化型シリコーンゴム原液を得た。
(a)1分子中にビニル基を少なくとも2個以上有する、ビニル化ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量100000(ポリスチレン換算));
(b)1分子中にSi−H結合を少なくとも2個以上有する、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン(重量平均分子量1500(ポリスチレン換算))。
【0132】
この付加硬化型シリコーンゴム原液に対し、フィラーとして高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A10S;昭和タイタニウム(株)製)を、硬化シリコーンゴム層を基準として体積比率で45%になるように配合、混練した。そして、硬化後のJIS K 6253A準拠デュロメータ硬度が10゜のシリコーンゴム組成物を得た。
【0133】
基材として、表面にプライマー処理を施した、内径30mm、幅400mm、厚さ40μmのニッケル電鋳製エンドレスベルトを用意した。尚、一連の製造工程中、エンドレスベルトは、その内部に、図4に示したような中子8を挿入して取り扱った。
【0134】
この基材上に、リングコート法で上記シリコーンゴム組成物を厚さ300μmに塗布した。得られたエンドレスベルトを200℃に設定した電気炉中で4時間加熱して、シリコーンゴムを硬化させシリコーンゴム層を得た。
【0135】
得られたエンドレスベルトを、表面が20mm/secの移動速度で周方向に回転させながら、シリコーンゴム層の表面から10mmの距離に設置した紫外線ランプを用いて紫外線照射した。紫外線ランプは、低圧水銀紫外線ランプ(商品名:GLQ500US/11;ハリソン東芝ライティング株式会社製)を用いた。
【0136】
照射条件は、185nmの波長の積算光量が150mJ/cmになるよう、大気中で紫外線をシリコーンゴム層に向けて照射した。
【0137】
紫外線照射後のシリコーンゴム層の表面から深さ5μmおよび20μmの位置にあるシリコーンゴムをクライオ法を用いてサンプリングし、FT−IRを用いて、分解能4cm−1、積算回数100回に設定してFT−IR測定を行った。FT−IRには、商品名:JIR−5500型FT−IR;日本電子株式会社製、を用いた。
【0138】
なお、製品の状態から測定する場合には、定着部材を一度断面方向に切断した上で、フッ素樹脂層および接着剤層の厚みを測定する。そして、その合計の厚み分をクライオ法によって定着部材表面から切削した後、5μm、および20μmの位置を再度クライオ法で切削・サンプリングを行うことで、同様の測定が可能となる。
【0139】
この測定により得られた、シリコーンゴム層の表面から深さ5μmおよび20μmでの、1020cm−1と1260cm−1における赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)の値((α(5)、α(20))およびその比を下記表1に示す。
【0140】
(2)上記(1)と同じ方法にて、表面に紫外線照射したシリコーンゴム層を有するエンドレスベルトを調製した。
【0141】
当該エンドレスベルトの、シリコーンゴム層の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV;東レ・ダウ・コーニング社製の「A液」及び「B液」を等量混合)を厚さが、およそ50μm程度になるように塗布した。
【0142】
次いで、内径29mm、厚み30μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:KURANFLON−LT;倉敷紡績株式会社製)を積層した。
【0143】
そして、当該エンドレスベルトを200℃に設定した電気炉にて1時間加熱して接着剤を硬化させて当該フッ素樹脂チューブをシリコーンゴム層上に固定した。得られたエンドレスベルトの両端部を切断し、幅が341mmの定着ベルトを得た。
【0144】
得られた定着ベルトの表面硬度を、タイプCマイクロ硬度計(商品名:MD−1 capaタイプC;高分子計器株式会社製)を用いて、測定した。その結果、硬化シリコーンゴム層への付加硬化型シリコーンゴム接着剤の浸透が多少抑制された為か、表面硬度は86度を示した。
【0145】
この定着ベルトを、カラーレーザープリンター(商品名:Satera LBP5900、キヤノン株式会社製)に装着し、電子写真画像を形成した。得られた電子写真画像の光沢ムラの評価を行った。電子写真画像の光沢ムラは、定着ベルトの表面硬度の上昇につれて悪化する。つまり、定着ベルトの表面硬度の、電子写真画像の品質に与える影響の大小を示す指標となり得る。
【0146】
評価画像は、A4サイズのプリント用紙(商品名:PB PAPER GF−500、キヤノン株式会社製、68g/m)にシアントナーとマゼンタトナーをほぼ全面に100%濃度で形成した。これを評価用画像とし、目視観察により、光沢ムラを以下の3段階で評価した。この結果、光沢ムラに関してはBの評価となった。
【0147】
<評価基準>
A:光沢ムラが殆ど無く、極めて高品位な電子写真画像であった。
B:光沢ムラが少なく、実用上の問題のない電子写真画像であった。
C:光沢ムラが非常に目立つ電子写真画像であった。
また、光沢ムラ試験後の定着ベルトを230℃に設定した電気炉に投入し、300時間加熱を続けて耐熱試験を行ったのち、タイプCマイクロ硬度計にてこの定着ベルトの表面硬度を測定したところ、初期に比べ+1度の硬度変化を示した。
【0148】
(3)上記(2)に記載した方法と同じ方法にて、定着ベルトを作製した。
【0149】
得られた定着ベルトの基材と硬化シリコーンゴム層との界面、及び接着層と硬化シリコーンゴム層との界面をかみそり刃(razor blade)で切り離して、定着ベルトからニッケル電鋳製エンドレスベルト及び接着層とフッ素樹脂チューブとを除去した。得られたエンドレスベルト形状の硬化シリコーンゴムの厚みは、約270μmであった。この硬化シリコーンゴムから、20mm四方のゴム片の複数枚を切り出した。
【0150】
次いで、当該ゴム片を厚み2mmとなるように積層して、この積層体のマイクロ硬度(Hμ0)を、タイプCマイクロ硬度計(商品名:商品名:マイクロゴム硬度計MD−1 capa タイプC;高分子計器株式会社製)を用いて測定した。測定値は、23.1度であった。
【0151】
メチルハイドロジェンシリコーンオイル(商品名:DOW CORNING TORAY SH 1107 FLUID;東レ・ダウコーニング株式会社製)50mLを入れたビーカーを用意した。上記積層体を構成した全てのゴム片を、当該ビーカーに入れ、各ゴム片の全体が浸るように浸漬した。そして、温度30℃に設定した水浴を用いて、ビーカー中のオイルを温度30℃に維持し、24時間静置した。その後、メチルハイドロジェンシリコーンオイルからゴム片を取り出し、各ゴム片の表面のオイルをワイパー(商品名:キムワイプS−200;日本製紙クレシア株式会社製)で充分に拭き取った。そして、各ゴム片を、200℃に設定したオーブンに入れ、4時間加熱した後、室温まで冷却した。各ゴム片をオーブンから取出し、再び積層して、先と同様にして積層体のマイクロ硬度(Hμ1)を測定した。測定値は、62.4度を示した。
【0152】
よって、実施例1に係る定着ベルトの硬化シリコーンゴム層の硬度上昇率(Hμ1/Hμ0)は、2.7となった。
【0153】
(実施例2)乃至(実施例11)および(比較例1)乃至(比較例7)
シリコーンゴム組成物中の、Si−H基に対するビニル基の個数の割合(H/Vi)、シリコーンゴム組成物の塗膜の厚さ、フィラーの種類および量及び紫外線照射条件を表1に記載したように変更した。それ以外は、実施例1と同様にしてエンドレスベルトおよび定着ベルトを調製し、評価した。得られた各シリコーンゴム層のα(5)とα(20)の各々の値およびα(5)/α(20)の値、各定着ベルトの表面硬度、耐熱試験後の表面硬度変化、硬化シリコーンゴム層の硬度上昇率、および各定着ベルトを用いて得た電子写真画像の評価結果を表2に示す。
【0154】
尚、実施例7乃至11および比較例5乃至7においては、各々下記のフィラーを用いた。
・実施例7:高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A20S;昭和タイタニウム(株)製)
・実施例8、比較例5:高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A30S;昭和タイタニウム(株)製)
・実施例9、比較例6:高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A05S;昭和タイタニウム(株)製)
・実施例10乃至11、比較例7:高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A25BC;昭和タイタニウム(株)製)
【0155】
【表1】

【0156】
【表2】

【0157】
※硬化シリコーンゴム層に微細なクラックが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明に係る定着部材の製造方法の概略説明図
【図2】本発明に係る定着部材の製造工程における、紫外線を照射工程の説明図
【図3】紫外線照射量の測定方法の説明図
【図4】本発明に係る定着部材の概略説明図
【図5】本発明にかかる定着装置の概略構成図である。
【図6】本発明に係る電子写真画像形成装置の概略断面図である。
【図7】本発明に係る定着部材の部分の概略断面図である。
【符号の説明】
【0159】
2 シリンダポンプ
3 塗布液供給ノズル
4 塗工ヘッド
5 付加硬化型シリコーンゴム組成物
6 基材
7 シリコーンゴム層
8 中子
9 紫外線ランプ
10 紫外線光量計
11 付加硬化型シリコーンゴム接着剤
12 フッ素樹脂チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、硬化(cured)シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層、およびフッ素樹脂層が積層されている定着部材であって、該硬化シリコーンゴム層の外面から5μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)をα(5)、該硬化シリコーンゴム層の外面から20μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比をα(20)としたときに、α(5)とα(20)の関係が、
1.03≦α(5)/α(20)≦1.30
を満たしており、且つα(20)が0.8以上1.2以下であることを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項2】
前記硬化シリコーンゴム層の厚さが100μm以上500μm以下である請求項1記載の電子写真用定着部材。
【請求項3】
表面のタイプCマイクロ硬度が、60度以上、90度以下である請求項1または2に記載の電子写真用定着部材。
【請求項4】
前記硬化シリコーンゴム層が、40体積%以上60体積%以下の範囲でフィラーを含有している請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真用定着部材。
【請求項5】
基材、硬化(cured)シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層およびフッ素樹脂層が積層されている電子写真用定着部材において、該硬化シリコーンゴム層を構成している硬化(cured)ゴムのマイクロ硬度をHμ0、該硬化ゴムをメチルハイドロジェンシリコーンオイルに24時間、浸漬し、硬化させた後のマイクロ硬度をHμ1としたとき、Hμ1/Hμ0が2.5以上であることを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項6】
基材、フィラーを40体積%以上60体積%以下の範囲で含む硬化シリコーンゴム層、硬化シリコーンゴム接着層及びフッ素樹脂層がこの順番で積層されている電子写真用定着部材であって、
該硬化シリコーンゴム層は、100μm以上500μm以下の厚さを有し、且つ表面のタイプCマイクロ硬度が60度以上、90度以下であることを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電子写真用定着部材と、該電子写真用定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする定着装置。
【請求項8】
請求項5に記載の電子写真用定着部材と、該電子写真用定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする定着装置。
【請求項9】
請求項6に記載の電子写真用定着部材と、該電子写真定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする定着装置。
【請求項10】
請求項8に記載の定着装置を具備していることを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項11】
請求項9に記載の定着装置を具備していることを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項12】
(1)基材上に、付加硬化型シリコーンゴム層を形成する工程、
(2)該付加硬化型シリコーンゴム層を硬化させて、硬化(cured)シリコーンゴム層を形成する工程、
(3)前記硬化シリコーンゴム層の表面に付加硬化型シリコーンゴム接着剤を介してフッ素樹脂層を積層する工程、および
(4)該付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化させる工程、
を有する電子写真用定着部材の製造方法において、
前記工程(3)に先立って、前記硬化シリコーンゴム層表面に紫外線を照射する工程を有することを特徴とする電子写真用定着部材の製造方法。
【請求項13】
前記紫外線を照射する工程が、該硬化シリコーンゴム層の外面から5μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比(1020cm−1/1260cm−1)をα(5)、該硬化シリコーンゴム層の外面から20μmの部分をサンプリングして求めた1020cm−1と1260cm−1での赤外線吸収強度比をα(20)としたときに、α(5)とα(20)の関係が、
1.03≦α(5)/α(20)≦1.30
を満たしており、且つα(20)が0.8以上1.2以下となるように紫外線を照射する工程を含む、請求項12記載の電子写真用定着部材の製造方法。
【請求項14】
該付加硬化型シリコーンゴム層は、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンと、が含まれており、該不飽和脂肪族基に対する該活性水素の数の割合が、0.3以上0.8以下である付加硬化型シリコーンゴムを含む請求項12または13記載の電子写真用定着部材の製造方法。
【請求項15】
前記紫外線を照射する工程が、波長185nmの紫外線の積算光量が300mJ/cm以上1000mJ/cm以下となるように紫外線を照射する工程を含む請求項12乃至14のいずれかに記載の電子写真用定着部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−176300(P2008−176300A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317279(P2007−317279)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】