説明

電子写真用感光体ドラム、それを備えてなるカートリッジおよび画像形成装置

【課題】素管と導通板との間の電気的な導通を確保できる感光体ドラムの提供。
【解決手段】アルミニウム管の外周面に感光層が形成されてなる感光体ドラム1と、絶縁性の第1フランジ部3と、絶縁性の第2フランジ部7と、第1フランジ部1の側面に対して固定され、ドラム部の内周面を押圧する突端部5aと貫通する支軸4に摺接する摺接部とが形成された導電性弾性部材5とを備え、前記突端部5aは、嵌入前の状態でドラム部2の内周面2aより0.05mm以上0.4mm以下の長さだけ突出し、ドラム部2に嵌入される際にたわんで前記内周面2aを掻くように形成され、嵌入後、前記突端部5aと前記内周面2aとが接する部分に導電性グリースが塗布されてなることを特徴とする電子写真用感光体ドラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる感光体ドラム、それを備えてなるカートリッジおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等として多用されている電子写真方式の画像形成装置(以下、電子写真装置とも称する)において用いられる感光体ドラムは円筒状のドラム部や、ドラム部の両端の開口に嵌入されるフランジ部で構成されている。
【0003】
フランジ部は円盤状の支持体であるフランジ部材からなり、ギア等が一体に成型されたり、別部品のギア部がフランジ部材に装着される場合もある。フランジ部は、画像形成装置本体の所定の位置に取り付けられた支軸に取り付けるための開口部が中心部に形成されている。前記開口部に支軸を貫通させた状態で画像形成装置本体に取り付けられた感光体ドラムは、画像形成の際、支軸を回転軸として所定方向に回転する。あるいは、支軸が予めフランジ部に設けられ、本体側にその支軸を貫通させて取り付けるための開口部が形成されているものもある。ドラム部は基体としてのアルミニウム材料からなる素管(アルミニウム管)上に、有機材料やα-Siなどの無機材料からなる感光層を形成したものである。
【0004】
ここで、画像形成のプロセスを安定的におこなうためには、前述した感光体ドラムの基体を所定電位(通常は接地電位)に保持する必要性がある。すなわち、ドラム部の基体を支軸を介して画像形成装置本体と電気的に導通させ所定電位に保持する必要がある。感光層の表面電位が画像の濃淡に変換される電子写真プロセスにおいては、ドラム部の基体と画像形成装置本体との間に良好な導通が確保できていなければ良好な画像が得られない。
【0005】
近年、主としてコスト的な理由から樹脂製のフランジ部を用いるものがある。合成樹脂性のフランジ部を用いた場合、フランジ部によってドラム部の基体と支軸とを導通させることができないため、別途導電性の部材を設けてかかる導電性を確保する必要がある。例えば、感光体ドラムと画像形成装置との導通をはかるために、導電性の金属板(導通板)の先端部が尖鋭な形状に形成された尖状端子をフランジ部の外周から突出させて前記フランジ部に固定したものがある。フランジ部がドラム部に嵌入される時、前述の尖状端子がドラム部の内周面に形成される酸化皮膜を削り取り、基体との導通を確保するような構造のものが開示されている。(特許文献1)
【0006】
一方、ドラム部の外周面上に有機材料からなる感光層を形成する製造方法として、オーバーフロー式浸漬塗布法等が使用されている。この浸漬塗布法はオーバーフローしている塗布液中に素管(アルミニウム素管)を垂直降下させて、塗布液中に浸漬させ、垂直上昇させることで素管の外周面上に液を塗布し、感光層を形成する方法である。この浸漬塗布法を用いた場合、浸漬時に一定量の塗布液が素管の下端部及び下端側の内周面に侵入し、感光層が形成される。内周面に意図せず形成された感光層は、それが形成されたドラム部にフランジ部を嵌入する際、弊害となる。そのため、一般的には、ドラム部には下端処理が施され、下端部及び内周面に形成された感光層の除去が行われる。しかし、除去されるべき感光層が素管の内周面上に残っている場合、あるいは素管を保護するために内周面上に酸化皮膜が形成されている場合、前記導通部材の尖状端子が内周面を押圧する圧力(押圧力)を十分大きく設定することにより、残存する感光層または酸化皮膜を削り取らせることができる。
【0007】
ところが、近年、省資源化及びコストダウンにより素管の肉厚を薄くする傾向にある。このような薄肉の素管を用いた場合、前記尖状端子の押圧を増加させると、ドラム部の表面に凸状の変形が生じ易くなる。これを回避する方法として、導通板の電気的接点を浸漬塗布における感光体塗布液への侵入方向とは反対側端部内周面に設ける方法が開示されている。(特許文献2)
また、大きな押圧力にて素管へのフランジ部の嵌入を行った場合、その尖状端子の接触移動距離によって削れ量が多くなる。そのため、導通板の尖状端子の磨耗によりその導通性が低下するなどの弊害も生じる。
【0008】
最近ではコスト面や有機感光体の小径化によりフランジ部の材料としてポリカーボネートやポリアセタールやポリオキシメチレンなどの樹脂が用いられるものがある。また、導通板としては燐青銅などの銅合金、ステンレス鋼合金などが用いられている。
【特許文献1】特開平8-262927号公報
【特許文献2】特開2001−5340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
感光体ドラム単体及び感光体ドラムの基体と画像形成装置本体との経時による電気的導通の信頼性低下に伴い、画像品質が低下するという問題があった。
【0010】
また、前述のように導通板の尖状端子(突端部)が大きい押圧力で素管を押圧するようにすると、十分な導通は確保できてもドラム部の表面が凸状に変形してしまうといった弊害も発生する。特に素管の肉厚が薄い場合にその影響が顕著にあらわれ、ドラム部の表面側にスジ状の盛り上がりが発生することがある。そうすると、盛り上がった部分によりクリーニング不良や塗膜欠損が誘発される。それをなくすためには、導通板の突端部の押圧力を小さくすべく、突端部に押圧力を付与するバネ性を弱めるか、あるいは、その突出長さを極力小さくすればよいことになるが、押圧力が小さすぎると素管と導通板との間で接触不良を起こすなどの課題があった。
【0011】
この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、素管の内周面の状態によらず、かつ、ドラム部に変形を生じさせることなく、簡易な構成で確実に素管と導通板との間の電気的な導通を確保できる感光体ドラムを提供するものである。詳細には導通板の突出長さを最小限に抑え、かつ、導電性グリースの助けを借り、製品歩留まりを向上させると共に、部品の寸法ばらつきを吸収し経時変化に対しても電気的導通を確実に得ることのできる感光体ドラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、肉厚0.6mm以上1.0mm以下のアルミニウム管の外周面に感光層が形成されてなるドラム部と、ドラム部の一端に嵌入され、前記ドラム部と同軸状に導電性支軸を貫通させるための開口部が形成されてなる絶縁性の第1フランジ部と、ドラム部の他端に嵌入される絶縁性の第2フランジ部と、第2フランジ部と対向する側の第1フランジ部側面に対して固定され、ドラム部の内周面を押圧する突端部と前記開口部を貫通する前記支軸に摺接する摺接部とが形成された導電性弾性部材とを備え、前記突端部は、嵌入前の状態でドラム部の内周面より0.05mm以上0.4mm以下の長さだけ突出し、ドラム部に嵌入される際にたわんで前記内周面を掻くように形成され、嵌入後、前記突端部と前記内周面とが接する部分に導電性グリースが塗布されてなることを特徴とする電子写真用感光体ドラムを提供する。
【0013】
また、この発明は、前記感光体ドラムを備えてなるカートリッジを提供する。
【0014】
さらにまた、この発明は、前記感光体ドラムを備えてなる画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
この発明の感光体ドラムは、前記突端部がドラム部に嵌入される際にたわみ、内周面を掻くように形成されており、嵌入後、前記突端部が内周面を押圧する部分に導電性グリースが塗布されているので、導通板の形状やフランジの組立精度のバラツキにより前記突端部の押圧力に大小の幅があっても、良好な通電性が確保できる許容範囲が広い。薄肉の素管を用いたドラム部であってもその表面を変形させない程度の押圧力で通電性を確保することができる。従って、製造工程において、高い歩留まりを得ることができ、安価な感光体ドラムが得られる。
【0016】
さらに、押圧部分に導電性グリースが塗布されているので、保管中および使用中、押圧部が雰囲気に曝されることがない。従って、前記内周面および前記突端部に酸化皮膜が形成されて次第に通電性が劣化するといった経時劣化が抑制され、信頼性の高い感光体ドラムが得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記導電性弾性部材の突端部が尖鋭な形状とされていることにより、この先端がドラムの接触面に食い込んで、少ない接触面積においても良好な電気的接触が得られ、かつドラムの酸化皮膜が存在する場合でも、フランジとドラムとの間の電気的接触を確実にすることが可能となる。
【0018】
以下、この発明の好ましい態様について説明する。ここで示した種々の好ましい態様は、それら複数を組み合わせることもできる。
前記弾性部材は板厚が0.2mm以上0.4mm以下の燐青銅板またはステンレス鋼板から形成されてもよい。このようにすれば、弾性部材の弾性力により、単純な構成で突端部に押圧力を付与することが可能になる。そして、感光体のドラム端部に嵌め込むときの挿入抵抗が小さく、嵌入工程での組立時の不具合のない感光体ドラムが得られる。
【0019】
ここで、前記弾性部材の板厚が薄すぎると導通板が変形してしまい、あるいは突端部に十分な押圧力が付与されず、厚すぎると押圧力が大きすぎて素管を変形させてしまうおそれがある。したがって、前記弾性部材は、板圧が0.2mm以上0.4mm以下の板材から形成されることが好ましい。
また、前記感光層は、前記アルミニウム管を一方の端から感光体塗布液中に部分的に浸漬させて形成され、第1フランジ部は、浸漬させなかった方の端に嵌入されてもよい。このようにすれば、前記導電性弾性部材が感光体塗布液への浸漬されなかった方の端に嵌入されるので、内周面上に付着した感光体塗布液を除去しなくても、第1フランジ部の嵌入が可能であり、しかも、嵌入時に素管を変形させることなく、かつ、付着した感光体塗布液による導通不良が発生することがない。
【0020】
さらに、前記摺接部に導電性グリースがさらに塗布されてもよい。このようにすれば、前記導電性弾性部材と支軸との間の導電性が安定して確保され、しかも、導通板と支軸との間の摺擦により発生する騒音を長期にわたり抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を用いてこの発明をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、この発明を限定するものと解されるべきではない。
【0022】
図1は、感光体ドラムをその回転軸を含む平面で切断したときの状態を示す要部断面図である。ただし、図面は模式的なものであり、各部材の寸法の比率などは現実のものとは必ずしも一致しない。
【0023】
図1に示すように感光体ドラム1はドラム部2と、ドラム部2の一端の開口部に嵌合させて装着されたドラムフランジ部3と、絶縁性フランジ7と、ドラムフランジ部3に設けられた導電性部材(導通板)5とを含んで構成されている。また、ドラム部2の図示しない他端側にもフランジ部が嵌入される。ドラムフランジ部3の中心には、ドラム支軸4を貫通させるための開口部23が形成されている(図2参照)。支軸4は、他端側の絶縁性フランジ7の中心をさらに貫通しており、感光体ドラム1は、支軸4を回転軸として回転する。
【0024】
導通板5は、例えば、燐青銅板からなる略リング状の部材で、その外縁部の2箇所に尖鋭な形状の突端部(尖状端子)5a、5bが形成されている。ドラム部2の径方向において、突端部5aと5bとは導通板5の中心部を介して対向する位置にある。突端部5aおよび5bは、ドラム部2の内周面2aとそれぞれ接触している。導通板5がドラム部2内に挿入されることにより、突端部5aおよび5bはそれぞれたわみ、導通板5が有する弾性によって内周面2aに向けて付勢される。内周面2aと突端部5aおよび5bとが接触する部分には、導電性グリースが塗布されている。図1で、導電性グリースが塗布された部分を太線25aおよび25bで示している。
【0025】
リング形状の導通板5の内縁部には、支軸4より径の大きい貫通孔と、貫通孔の周よりも中心部側に張り出した摺接部5c、5dが形成されている。摺接部は、フランジ部3の開口部23に挿入され支軸4と弾性的に接触するように形成されている。
【0026】
図2は、フランジ部3および導通板5の形状を示す外形図である。図2(a)は、フランジ部と導通板5とが組み立てられたものの左側面の形状を示し、図2(b)は、その正面、図2(c)は右側面、図2(d)は平面を示す図である。
【0027】
ドラム部2はアルミニウム材からなる管状の基体の外周面に、感光層が形成されたものである。感光層は、有機材料やα−Siなどの無機材料から構成される。感光層の厚さはその材料や感光体ドラムの耐刷枚数の仕様などにより異なるが、有機材料の塗布厚さは、通常10〜40μmの範囲内の何れかの数値に設定されることが多い。ドラム部2の内周面2aは、基体の内周面でもある。そして、感光層が形成されたドラム部2の外周面上で、前述した作像プロセスが行われる。またドラム部2の一方の端部の開口には、導通板5が取り付けられたフランジ部3が嵌め込まれて装着されている。そして、フランジ部3の中心には、貫通穴が設けられている。この貫通穴に画像形成装置本体に固定された支軸4を係合させることにより、フランジ部3が嵌入された側の感光体ドラム1の端部は、画像形成装置本体に支持される。ドラム部2の他端部の開口には、絶縁性フランジ7が嵌めこまれる。図3は、ドラム部2の他端部開口に嵌めこまれる絶縁性フランジ7の形状を示す外形図である。図3(a)は、絶縁性フランジ7の左側面、図3(b)は絶縁性フランジ7の正面、図3(c)は、絶縁性フランジ7の右側面の図である。図3の絶縁性フランジ7は、その中心部に支軸4を貫通させるための開口を有する。
【0028】
ここで、導通板5を備えるフランジ部3の詳細について説明する。フランジ部3は例えばABS樹脂やナイロン性樹脂などの合成樹脂などの樹脂部材で形成されている。前述したように、フランジ部3をドラム部2に嵌入する際、導通性部材5の突端部が弾性的に当接し、ドラム部2の内周面2aを削り取りながら導通性を確保している。また導通性部材5の形状としては、挿入方向に対して、反対側に幾分か折れ曲がる形状をしており、好ましくは0〜60°程度折曲している。また突端部5a、5bは、嵌入前の状態で、ドラム部2の内周面と嵌合するフランジ部3の嵌合面から径方向に0.05〜0.4mm程度の範囲で張り出していることが好ましい。また、導通板5の中心部には支軸4と係合する貫通穴が設けられている。図2(a)に示すように、導通板5をフランジ部3に対して位置決めするため、導通板に取付け孔21が設けられている。一方、フランジ部3には、取付け孔21と係合する位置決め軸6が設けられている。取付け孔21と位置決め軸6とが係合した状態で導通板5の中心部は、フランジ部3の中心軸とほぼ一致し、従って、ドラム部2の軸とほぼ一致するように形成される。そして、図2(b)に示すように、感光体ドラム1が装置本体に装着されたとき、導通板5の中心部に形成された摺擦部5a、5bが支軸4と弾性的に接触し電気的に導通するように形成されている。
【0029】
なお、導通板5は、例えば、摩擦係数が少なく、バネ材料となる導電性を有する弾性材料からなる。具体的には、燐青銅やステンレス鋼などの材料が用いられる。
【0030】
また支軸4は一端側がフランジ部3の貫通穴を通って導通板5と係合し、他端側が装置本体に設置されている。ここで、支軸4はステンレス鋼などの導電性材料からなる。これにより、感光体ドラム1のドラム部2の内周面2aは導通板5、支軸4を介在して、装置本体と導通することになる。
【0031】
このように構成された感光体ドラム1において、フランジ部3の開口部23と装置本体に設けられた支軸4とが係合する。また、フランジ部3に形成されたギア部3aと装置本体に設けられた図示しない駆動部の駆動ギアとが係合する。駆動ギアが回転すると、その駆動力がギア部3aを介して感光体ドラム1に伝達される。それによって、感光体ドラム1は支軸4を回転中心として回転する。このとき支軸4と係合する導通板5も支軸4との接触を維持しながら感光体ドラムと一体的に回転する。導通板5は支軸4に弾性的に接触している。部品の寸法誤差や組立の誤差に起因して導通板5の中心と支軸4の軸中心とが完全に一致していなくても、摺接部5c、5dのバネ性によって支軸4は導通板5の貫通穴に容易に挿入できるとともに、摺接部5c、5dは支軸4と導通を保ちながら支軸4の外周をスムーズに回転する。
【0032】
なお、摺接部5c、5dと支軸4とが係合する部分に、導電性グリースを塗布してもよい。この場合、導通板5と支軸4との係合部に僅かな隙間がある場合にも、導電性グリースがその隙間に入り込み、双方の導電性をより確実にすることができる。さらに、導通板5と支軸4との摩擦を緩和して、摩擦音の発生をより少なくすることができる。また、感光体ドラム1におけるドラム部2にフランジ部3を嵌入する工程において、そのドラム部2の内周面2aに、あるいは導通板5の突端部5a、5bに、導電性グリースを塗布する構成とすることができる。そして、この場合ドラム部2へフランジ部3を嵌入する際の組立バラツキにより導通板5の突端部5a、5bが、ドラム内周面2aに充分な押圧力で当接しない場合であっても、塗布部25a、25bに塗布された導電性グリースが双方の接触面積を増加させることで、双方の導電性をより確実にすることができる。また、感光体ドラム1のドラム部2の内周面2aが塗布工程における下端部の汚染などの影響を受けた場合においても、その表面状態に左右されず、前述と同様の効果がある。
【0033】
≪実施例≫
(実施例1)
アルミニウム材の管であって、図4に示す外周の直径Ddが30mm、管の肉厚Tdが0.75mm、管の長さLdが340mmのものをドラム部2の基体とし、その外周面に所定の有機材料からなる感光層を浸漬塗布法により形成し、ドラム部2を得た。基体の内径は、Dd−Td×2=30−0.75×2=28.5mmである。
【0034】
また、ポリカーボネート樹脂を材料とし、成型により図2および図4に示す形状のフランジ部3を得た。フランジ部3はドラム部2の内周面と嵌合する嵌合面の径Dfが28.6mmである。フランジ部3は、ドラム部2と嵌合する部分とギア部3aとが一体に成形されている。
【0035】
さらに、燐青銅の板を加工して図3および図4に示す形状の導通板5を得た。材料の板の厚さTcは0.3mmである、突端部は、図2に示すように折曲加工されている。図4は、この実施例の感光体の構造を示す説明図である。図4で、突端部5aの先端から他方の突端部5bまでの折曲加工後の距離Dcは、29.0mmである。距離Dcは、嵌合面の径Dfより0.4mm大きい。即ち、ドラム部2と導電板5が同心であるとき、突端部5a、5bがそれぞれフランジ部3の嵌合面より0.2mmだけそれぞれ突出している。即ち、突出長さLc=(Dc−Df)/2=(29.0−28.6)/2=0.2mmである。導通板5を、その取り付け孔21がフランジ部3の位置決め軸6と係合するようにフランジ部3に取り付けた。続いて、導通板が装着されたフランジ部3をドラム部2の一端へ圧入した。フランジ部3を圧入したのは、感光体塗布液中に浸漬させた方の端部である。その際、素管内周面には充分な導電性グリースを塗布し、圧入後に突端部5a、5bと内周面2aとの間の導通が確実に取れるようにした。感光体ドラムの他端側へは導通板のない樹脂性のフランジ7を圧入した。
【0036】
(実施例2)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、ドラム部2の基体の肉厚Tdを1.0mmにした。基体の内径は、Dd−Td×2=30−1.0×2=28.0mmである。これに対して、フランジ部3の径Dfを28.1mm、導通板5の突端部間の距離Dcを28.5mmにした。従って、突出長さLc=(Dc−Df)/2=(28.5−28.1)/2=0.2mmである。それ以外の仕様は、実施例1と同様である。
【0037】
(実施例3)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、ドラム部2の基体の肉厚を0.60mmにした。基体の内径は、Dd−Td×2=30−0.6×2=28.8mmである。これに対して、フランジ部3の径Dfを28.9mm、導通板5の突端部間の距離Dcを29.3mmにした。従って、突出長さLc=(Dc−Df)/2=0.2mmである。それ以外の仕様は実施例1と同様である。
【0038】
(実施例4)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板5の突端部間の距離Dcを28.7mmにした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。従って、突出長さLc=(Dc−Df)/2=(28.7−28.6)/2=0.05mmである。
【0039】
(実施例5)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板5の突端部間の距離Dcを29.4mmにした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。従って、突出長さLc=(Dc−Df)/2=(29.4−28.6)/2=0.4mmである。
【0040】
(実施例6)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板の板厚を0.2mmに薄くした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。
【0041】
(実施例7)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板の板厚を0.4mmに厚くした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。
【0042】
(実施例8)
実施例1の感光体ドラムに対し、フランジ部3をドラム部2の反対側の端に嵌入した。即ち、感光体塗布液に浸漬させなかった方向の端部に嵌入した。それ以外の仕様は、実施例1と同様である。
【0043】
(実施例9)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板の板厚を0.1mmに薄くした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。
【0044】
(実施例10)
実施例1の感光体ドラムの仕様に代えて、導通板の板厚を0.5mmに厚くした。それ以外の仕様は実施例1と同様である。
【0045】
(比較例1)
比較評価に用いた比較例1の感光体ドラムは、ドラム部2の内周面に導電性グリースを塗布しない点で実施例1と異なる。それ以外の仕様は、実施例1のものと同様である。
【0046】
(比較例2)
比較評価に用いた比較例2の感光体ドラムは、導通板5の外形長さを28.68mmにした点で実施例1のものと異なる。それ以外の仕様は、実施例1のものと同様である。
【0047】
(比較例3)
比較評価に用いた比較例3の感光体ドラムは、導通板5の外形長さを29.5mmにした点で実施例1のものと異なる。それ以外の仕様は、実施例1のものと同様である。
【0048】
(比較例4)
比較例4の感光体ドラムは、導通板5の板厚を0.1mmにした点が比較例1のものと異なる。それ以外の仕様は、比較例1と同様である。
【0049】
(比較例5)
比較例5の感光体ドラムは、導通板5の板厚を0.5mmにした点が比較例1のものと異なる。それ以外の仕様は、比較例1と同様である。
【0050】
以上に記した、本発明に係わる実施例1〜10、本発明に含まれない比較例1〜5の感光体ドラムを作製し、組立時のドラム部2の変形、感光体ドラムの電気導通性についての評価を行った。ドラム部2の変形は組立後の感光体ドラムの外径振れを測定することにより評価した。外径振れの値が60μm以上ならば評価結果を×、20μm以上60μm未満ならば評価結果を△、20μm未満ならば評価結果を○とした。導通性については、ドラムと導通板間の電気抵抗を測定した。測定結果の抵抗値が100mΩ未満であれば評価結果を○、100mΩ以上1Ω未満であれば評価結果を△、1Ω以上であれば評価結果を×とした。
【0051】
≪評価結果≫
前述の評価の結果を図5に示す。
【0052】
図5に示すように、実施例1〜11はドラム変形と導通不良に関し使用可能なレベルにある。即ち、評価結果は良好であった。特に実施例1〜8、11についてはドラム部2の変形、導通不良ともに全く問題のない良好な結果が得られた。また比較例1〜5は、ドラム部2の変形あるいは導通不良のいずれかの問題または両方の問題がみられた。
【0053】
より詳細に説明すると、実施例1〜5、及び比較例1〜3から、導通板のフランジに対する突端部が0.05mm以上0.4mm以下であれば、肉厚1mm以下0.6mm以上の基体を変形させることなく、導通性を確保でき(実施例1、2、3)、しかも、突端部が0.05mmのように小さく、導通板先端の押圧力が通常より小さい場合においてもドラム部内周面への導電性グリースの塗布効果により導通は確保できることがわかった(実施例4)。また、突端部が0.4mmである場合にも、導電性グリースの塗布効果により素管内周面との円滑な設置が可能であり、ドラム変形が抑えられ、導通性が確保できることがわかった。(実施例5)
これに対し、比較例1は、ドラム部内周面に導電性グリースの塗布がなされていないために、導通板の突端部とドラム内周面との間に充分な電気的導通が確保されない(比較例1)。また比較例2は、導電性グリースの塗布がなされているが、押圧力が充分でないため、内周面の削れ量が小さすぎ、充分な導通が確保できなかった(比較例2)。また比較例3は、押圧力が大きくドラム内周面との摩擦が増大し、導通板先端の尖状端子の磨耗などが生じることで、導通不良を発生すると同時に、押圧力が大きいためにドラム表面の変形を生じさせることがわかった(比較例3)。
また、実施例8のように、フランジ嵌入を感光体塗布液への浸漬方向とは反対側のドラム内周面に行うことで、ドラム内周面に付着している塗布液の影響を全く受けず、導通性の確保をより確実にできることがわかった。
【0054】
実施例6、7、9、10及び比較例4、5においては、板厚が0.2mm以上0.4mm未満であることで、フランジ嵌入時の導通板の変形の防止と適当な弾性が得られることによるドラム内周面との押圧力の最適化により、ドラム変形の無い、導通性の確保を確実にできた(実施例6及び7)。また板厚が0.2mm未満であり、ドラム嵌入時に導通板の変形により導通板先端の尖状端子がドラム内周面と充分な接触が得られていない場合においても、ドラム部内周面への導電性グリースの塗布効果により接触面積を増加させることで導電性の確保がされることがわかった(実施例9)。また、板厚が0.4mmより大きい場合においても、ドラム部内周面への導電性グリースの塗布効果により素管内周面との円滑な設置が可能であり、ドラム変形が抑えられ、導通性が確保できることがわかった(実施例10)。
【0055】
対して、比較例4及び5は、ドラム部内周面に導電性グリースの塗布がなされていないために、板厚が薄いとフランジ嵌入時に変形した状態で導通板先端がドラム内周面に接触されない(比較例4)。また、板厚が厚いと弾性が乏しく、導通板先端の尖状端子とドラム内周面との摩擦が増大し、導通板先端の尖状端子の磨耗などが生じることで、導通不良を発生すると同時に、押圧力が大きいためにドラム表面の変形を生じさせることがわかった(比較例5)。
【0056】
(実施例11)
実施例1の感光体ドラムと異なるのは、導通板と導電性支軸との間に導電性グリースを塗布した点である。それ以外の仕様は、実施例1と同様である。
実施例1と実施例11の感光体ドラムを駆動部を有する試作機に装着し、稼動させた。その結果、実施例11は、実施例1と比較して10db騒音レベルが低下し、ノイズの発生が少ないことがわかった。
【0057】
前述した実施の形態の他にも、この発明について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、この発明の範囲に属さないと解されるべきものではない。この発明には、請求の範囲と均等の意味および前記範囲内でのすべての変形とが含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明における感光体ドラムの回転軸で切断した状態を示す要部断面図である。
【図2】本発明における感光体ドラム用のフランジ部および導通板の形状を示す外形図である。(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は平面図である。
【図3】本発明における感光体ドラム用絶縁性フランジの形状を示す外形図である。(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図4】この実施例の感光体の構造を示す説明図である。
【図5】実施例1〜11および比較例1〜5の各感光体ドラムの評価結果の一覧を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1:感光体ドラム
2:ドラム部
2a:ドラム部2の内周面
3:ドラムフランジ部
3a:ギア部
4:ドラム支軸
5:導通板、導電性部材
5a、5b:導通板5の突端部
5c、5d:摺擦部
6:位置決め軸
21:取付け孔
23:フランジ開口部
25a、25b:導電性グリース塗布部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚0.6mm以上1.0mm以下のアルミニウム管の外周面に感光層が形成されてなるドラム部と、
ドラム部の一端に嵌入され、前記ドラム部と同軸状に導電性支軸を貫通させるための開口部が形成されてなる絶縁性の第1フランジ部と、
ドラム部の他端に嵌入される絶縁性の第2フランジ部と、
第2フランジ部と対向する側の第1フランジ部側面に対して固定され、ドラム部の内周面を押圧する突端部と前記開口部を貫通する前記支軸に摺接する摺接部とが形成された導電性弾性部材とを備え、
前記突端部は、嵌入前の状態でドラム部の内周面より0.05mm以上0.4mm以下の長さだけ突出し、ドラム部に嵌入される際にたわんで前記内周面を掻くように形成され、
嵌入後、前記突端部と前記内周面とが接する部分に導電性グリースが塗布されてなることを特徴とする電子写真用感光体ドラム。
【請求項2】
前記弾性部材は板厚が0.2mm以上0.4mm以下の燐青銅板またはステンレス鋼板から形成されてなる請求項1記載の感光体ドラム。
【請求項3】
前記感光層は、前記アルミニウム管を一方の端から感光体塗布液中に部分的に浸漬させて形成され、第1フランジ部は、浸漬させなかった方の端に嵌入されてなる請求項1または2に記載の感光体ドラム。
【請求項4】
前記摺接部に導電性グリースがさらに塗布されてなる請求項1〜3の何れか一つに記載の感光体ドラム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載の感光体ドラムを備えてなるカートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一つに記載の感光体ドラムを備えてなる画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−14853(P2009−14853A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174436(P2007−174436)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】