説明

電子写真装置用ベルト

【課題】
常温や温度32℃、湿度80%の環境下において、伸びや巻き癖の発生を防止することができ、トナー画像の重ねずれが生じにくく、高精度の画像を形成することができる高耐久性の電子写真装置用ベルトを提供する。
【解決手段】
主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンと、芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとを反応させることにより得られるポリ尿素からなる層を有し、薄肉円筒状に形成されたものである電子写真装置用ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子写真装置用の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとしては、ポリイミド樹脂フィルムやポリカーボネート樹脂フィルム等の樹脂フィルムを使用したものが一般的であった。しかし、このような樹脂フィルムを用いたベルトは、表面が比較的硬いものであるため、得られる画質に問題を有するものであり、ベルト表面に、ある程度の弾性を付与することが要求されていた。
【0003】
ベルト表面に弾性を付与して画質を向上したものとして、フィルム芯体上に弾性層を積層した電子写真装置用ベルトが提案されている。しかし、フィルム芯体と弾性層との間に、接着層を形成することが必要であったため、工程が煩雑であったこと、異なる材質の積層構造では収縮率の差が大きいため、ベルトにソリが生じること等の問題点を有するものであった。このため、近年、ポリウレタン製の芯体層上に低硬度ポリウレタンの弾性層を設けた電子写真装置用ベルトが提案されている。
【0004】
特許文献1には、液状の熱硬化ポリウレタンを硬化して成るJIS A硬度30〜95度の弾性層と液状の熱硬化ポリウレタン又は熱硬化ポリウレアを硬化して成るJIS D硬度75〜90度の芯体層との2層構造から成る電子写真用ベルトが開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリオールと、低分子量の芳香族アミンと、2官能基及び3官能基を有する脂肪族イソシアネートとから形成されるポリウレタンから成る芯体層と弾性層とを含む少なくとも2層構造から成る電子写真装置用ベルトが開示されている。
【0006】
特許文献3には、ポリオール化合物と、同一芳香環上に塩素基と2以上のアミノ基を有する低分子芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとの反応によるポリウレタンからなる芯体層と、平均官能基数が2〜3のポリオール化合物とイソシアネート化合物との反応によるポリウレタンからなる弾性層とを有する電子写真装置用ベルトが開示されている。
【0007】
これら特許文献1〜3に開示されている電子写真用ベルトは、芯体層及び弾性層がともにポリウレタンからなり、遠心成形で一層目が半硬化の状態で二層目用の粘性液を注入して形成するものであるため、芯体層と弾性層との間に接着層を設けずに一体化でき、同系統の弾性体からなるので、ベルトにソリが生じるという問題点も有さないものである。また、遠心成形法により厚みの均一性に優れたベルトを得ることができる。
【0008】
しかしながら、芯体層がポリウレタンからなるものであるため、例えば、温度32℃、湿度80%の高湿環境下では、ベルト自体に伸び、巻き癖が生じやすく、結果として、トナーを色重ねしてからカラー画像を形成する際、ベルトに生じた伸びに起因する色ズレが発生しやすいという問題がある。
【0009】
特許文献4には、特定の疎水性が高いポリエーテルポリオールがポリオール成分であるポリウレタンからなる基材を少なくとも1層有する電子写真装置用導電性部材が開示されているが、ポリウレタンからなるものであるため、上述した問題と同様の問題が発生してしまうものである。
【0010】
一方、特許文献1には、芯体層にポリ尿素を用いることも記載されている。このポリ尿素は、引張弾性率が大きく、伸びが少ないものであるが、エーテル基を有するものであるため、親水性が高く、例えば、温度32℃、湿度80%の環境下では、吸水によりベルトに伸びや巻き癖が生じるという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開2001−34078号公報
【特許文献2】特開2001−142311号公報
【特許文献3】特開2001−356612号公報
【特許文献4】特開2002−148949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記現状に鑑み、常温や温度32℃、湿度80%の環境下において、伸びや巻き癖の発生を防止することができ、トナー画像の重ねずれが生じにくく、高精度の画像を形成することができる高耐久性の電子写真装置用ベルトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンと、芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとを反応させることにより得られるポリ尿素からなる層を有し、薄肉円筒状に形成されたものであることを特徴とする電子写真装置用ベルトである。ここでいう「メチレン鎖部」とは−(CH−で表わされる部分であり、炭化水素鎖部と同じ意味である。
【0014】
上記メチレン鎖部は、ノナンジオール及びメチルオクタンジオール由来のものであり、末端アミノ基がジ−p−アミノベンゾエートのアミノ基であることが好ましい。
上記芳香族アミン化合物は、4−クロロ−3,5−ジアミノベンゾイックアシッドイソブチルエステルであることが好ましい。
【0015】
上記2官能の脂肪族イソシアネートは、ノルボルネンジイソシアネートであり、3官能の脂肪族イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であることが好ましい。
【0016】
上記電子写真装置用ベルトは、更に、弾性層を有する積層構造からなるものであり、上記弾性層は、ポリウレタン樹脂を含有するものであることが好ましい。
上記電子写真装置用ベルトは、中間転写ベルト又は転写搬送ベルトであることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の電子写真装置用ベルトは、主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンと、芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとを反応させることにより得られるポリ尿素からなる層を有し、薄肉円筒状に形成されたものである。
【0018】
上記ポリ尿素は、末端アミン成分とポリイソシアネート成分との反応で得られるものである。アミノ基とイソシアネート基との反応により形成される尿素結合は、水酸基とイソシアネート基との反応から形成されるウレタン結合に比べ、分子凝集エネルギーが高く、機械的物性に優れるものである。また、このような尿素結合は、ウレタン結合に比べて、疎水性である。従って、例えば、温度32℃、湿度80%のような環境下において、上記電子写真装置用ベルトを使用した場合、吸水によってベルトに伸びや巻き癖が発生することを防止することができる。
【0019】
また、このような環境下で、上記ベルトを電子写真装置の中間転写ベルトとして用いた場合に伸びや巻き癖を防止することができるため、トナーを色がさねしてからカラー画像を形成する際、伸びや巻き癖に起因する色ズレを防止することができる。
【0020】
上記ポリ尿素を形成する活性水素含有成分として、主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンを用いる。これによって尿素結合が形成され、ポリ尿素に、優れた機械的物性、疎水性を付与することができる。
【0021】
主鎖にエーテル結合やエステル結合を有するポリアミン化合物を使用する場合には、親水性が高くなり、温度32℃、湿度80%の環境下において、吸湿性が増すため、伸びが生じやすくなる。また、オレフィン結合を有するポリアミンを使用する場合、機械的強度が悪化する傾向がある。これに対して、本発明では、カーボネート結合を有するポリアミンを使用しているため、このような吸湿による不具合の発生を防止することができる。
【0022】
上記主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンにおいて、メチレン鎖部として、炭素数5〜12のジオール由来のメチレン鎖を含有するものが好ましい。カーボネート結合を炭素数5〜12だけ隔てて有することにより、エステル結合に比べて疎水性にすることができ、吸湿による影響を取り除くことができる。5未満であると、カーボネート結合が多くなり過ぎて、もろくて割れを生じやすくなる。12を超えると、カーボネート結合が離れすぎ、物性や疎水化が充分発現しないおそれがある。より好ましくは8〜9である。
【0023】
上記炭素数8〜9のメチレン鎖部としては、例えば、ノナンジオールやメチルオクタンジオール由来のものを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記炭素数8〜9のメチレン鎖部は、側鎖を有することが好ましい。即ち、炭素数9の直鎖状のものより、側鎖を有し、炭素数8のメチレン鎖にすることが好ましい。側鎖を有することにより、低温での結晶性を低下させ、ポリ尿素の分子運動性を確保できるため、電子写真装置用ベルトの巻き癖を付きにくくすることができる。
【0025】
主鎖に炭素数8〜9のメチレン鎖部とカーボネート結合部とを有し、両末端にアミノ基を有する変性ポリアミンにおいて、上記炭素数8〜9のメチレン鎖部の含有量は、30〜90質量%であることが好ましい。30質量%未満にあると、巻き癖も生じやすくなる。90質量%を超えると、低温で結晶化して、分子運動性を確保できないおそれがある。好ましくは、35〜85質量%である。
【0026】
上記炭素数8〜9のメチレン鎖部は、ノナンジオールとメチルオクタンジオールを一定比率で用い、カーボネートカルボン酸と反応させて形成されたものが好ましい。ノナンジオール及びメチルオクタンジオールを一定比率で用い、変性ポリアミンとすることにより、疎水化と低温分子運動性が付与されるので吸水伸びや休転時の巻き癖を小さくすることができる。
【0027】
上記変性ポリアミンは、末端にジ−p−アミノベンゾエートのアミノ基を有するものであることが、反応性が大きく好ましい。
上記変性ポリアミンの数平均分子量は、1000〜2000であることが好ましい。1000未満であると、硬くなりすぎ伸びがなくワレやすくなるおそれがある。2000を超えると、柔らかすぎてベルトの芯体として必要な引張弾性率を確保できなくなるおそれがある。より好ましくは、1000〜1800である。
【0028】
上記ポリ尿素を形成する硬化剤成分として、芳香族アミン化合物を用いる。
上記芳香族アミン化合物としてはウレタンよりも凝集力の強いウレア結合を架橋点等に導入することができ、その結果、ソフトセグメントとハードセグメトを相分離させ、海島構造をより明確化することで、ソフトセグメントの運動性を確保することができる点で芳香族ジアミンを用いることが好ましい。上記芳香族ジアミンを用いると、より剛直なハードセグメントを形成することができる。
【0029】
上記芳香族ジアミンとしては、4−クロロ−3,5−ジアミノベンゾイックアシッドイソブチルエステル、3,3′−ジクロロ−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジエチル−5,5′−ジフェニルメタン、2,2′,3,3′−テトラクロロ−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、トリメチレンビス−4−アミノベンゾエート等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記芳香族ジアミンのなかでも、1つの芳香環に塩素基と2つのアミノ基とを有する芳香族アミン化合物が特に好ましい。これにより、反応性及び剛直性をより向上させることができる。塩素基が存在しない場合、イソシアネート基とアミノ基との反応が早く、ポットライフだけでなく、ソフトセグメント成分を形成するポリオール成分との反応差が大きくなり、ポットライフは早いが脱型性に劣るといった面が生じるおそれがある。また、芳香環が2つあるような構造のアミン化合物では、リジッドな芳香環のために、ベルト自体が硬くなりすぎて、耐屈曲性に劣るおそれがある。
【0031】
上記1つの芳香環に塩素基と2つのアミノ基とを有する芳香族アミン化合物としては、4−クロロ−3,5−ジアミノベンゾイックアシッドイソブチルエステルが好ましい。市販品としてはバイテック1604(住化バイエルウレタン社製)、CDAB(ワイ・エス・ツー社)等を挙げることができる。
【0032】
上記芳香族アミン化合物は、数平均分子量は、200〜1000であることが芳香族環を有するハードセグメントが形成できるので好ましい。
【0033】
上記ポリ尿素の形成において、上記変性ポリアミンのNH基量(モル)と上記芳香族アミン化合物のNH基量(モル)とのモル比は、1:3〜1:10であることが好ましい。変性ポリアミンが多すぎると、弾性率が落ち、伸びが発生しやすくなる。芳香族アミン化合物が多すぎると、ワレやすくなる。
【0034】
上記ポリ尿素を形成する成分として、2官能脂肪族イソシアネート及び3官能の脂肪族イソシアネートを混合して用いる。これにより、イソシアネート基を2〜3の間で調整ができ、鎖延長と架橋のバランスをとることができる。また、ポットライフの面では、脂肪族イソシアネートは、芳香族イソシアネートに比較して反応が遅く、ポリ尿素の成形に適する。更に、耐屈曲性、巻き癖性、張力安定性を考慮すると、ハードセグメントは、ウレタン結合よりウレア結合の方が、その凝集力面からみて有効である。
【0035】
上記2官能の脂肪族イソシアネートとしては、例えば、へキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(MDI)、ダイマー酸ジイソシアネート、リシンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等を挙げることができる。なかでも、衛生面、反応性、ハードセグメントの凝集性の面から、イソホロンジイソシアネートやノルボルネンジイソシアネートが特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記2官能の脂肪族イソシアネートの市販品としては、例えば、コスモネートNBDI(三井武田ケミカル社製)、デスモジュールI(住化バイエルウレタン社製)等を挙げることができる。
【0036】
上記3官能の脂肪族イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体の
変性体等を挙げることができる。耐熱性の面から、イソシアヌレート体が好ましい。なかでも、粘度、2官能脂肪族イソシアネートとの相溶性等の点から、ヘキサメチレンジイソシアネートの変性体が特に好ましい。ここで、ヘキサメチレンジイソシアネートの変性体とは、一方のイソシアネート基をヌレート変性したもの、ビューレット変性したもの、プレポリマー変性したもの等をいう。上記3官能の脂肪族イソシアネートの市販品としては、スミジュールN3300、スミジュールN3200、デスモジュールTP LS 2010/1(以上、住化バイエルウレタン社製)等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記2官能の脂肪族イソシアネートだけではなく、更に、上記3官能の脂肪族イソシアネートを加えることによって、ポリ尿素の構造中に適度の架橋点を形成し、ベルトの耐屈曲性、巻き癖、張力のバランスをとることができる。
【0038】
上記2官能の脂肪族イソシアネートと上記3官能の脂肪族イソシアネートとの配合比(質量比)は、50:50〜80:20であることが好ましい。3官能の脂肪族イソシアネートが少なすぎると、架橋点が少なすぎて、伸びが大きくなってしまうおそれがある。3官能の脂肪族イソシアネートが多すぎると、架橋密度が増し、ハートセグメントの凝集力が低下し、伸びを悪化させるおそれがある。60:40〜70:30であることがより好ましい。
【0039】
上記脂肪族イソシアネートの量は、上記変性ポリアミンと芳香族アミン化合物の合計量で決まってしまう。この場合、上記変性ポリアミンと上記芳香族アミン化合物との比(質量比)は、70:30〜20:80であることが好ましい。これにより、芯体層に要求される高弾性率と耐ワレ性・耐屈曲疲労性を両立することができる。芳香族アミン化合物の量が多すぎると、ベルトがワレやすくなり、少なすぎると、高弾性率を確保できなくなるおそれがある。50:50〜35:75であることがより好ましい。
【0040】
上記ポリ尿素の形成には、反応性を調整するためにトリエチレンジアミン等のアミン系触媒やジブチルチンジラウレート等のスズ系触媒を使用してもよい。
【0041】
上記電子写真装置用ベルトは、通常、導電性フィラーを含有させる。トナー画像の転写及び紙の剥離等において電圧制御されるため、ベルト自体に導電性を付与するものである。但し、ここでいう「導電性」とは、電気抵抗10〜1010Ω・cmレベルの半導電性とも言われるレベルである。上記導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0042】
導電性フィラーをポリ尿素に分散含有させる方法としては、例えば、変性ポリアミンに3本ロール等でカーボンブラック等の導電性フィラーを混練りし、均一に分散させたものを用いて、反応硬化とともに分散含有させる。
【0043】
上記電子写真装置用ベルトは、芯体層及び弾性層を有する積層構造にすることが多い。この場合、上述したポリ尿素からなる層をベルトの芯体層とし、更に、弾性層は、低硬度のポリウレタンで形成する。
【0044】
上記芯体層及び上記弾性層を有する電子写真装置用ベルトにおいて、ベルトとしての張力を保持し、安定走行させるには、芯体層は、できるだけ薄い方が好ましく、例えば、上記芯体層の厚さは、0.05〜0.3mmとされる。0.05mmより薄くなると、強度が不足し、耐久性に劣るおそれがある。より好ましくは0.08〜0.25mmである。
【0045】
上記弾性層がポリウレタンである場合、JIS−A硬度で、30〜80度であることが好ましい。30度より低くなると、弾性層にタックを生じたり、トナーの保持性が良すぎて転写効率が低下するおそれがある。80度を超えると、紙の凹凸への追従性が低下し、シャープな画像が得られないおそれがある。上記弾性表面層をJIS−A硬度で30〜80度にするには、ポリオール成分やイソシアネート成分の種類を変えたり、[NCO]/[OH]のモル比を調整して行う。
【0046】
また、上記弾性層の厚さは、通常、0.05〜1.0mmとされる。0.05mmより薄くなると、弾性層の効果が充分に発現しないおそれがある。1.0mmを超えると、ベルトが厚くなりすぎて色ズレを生じやすくなる。より好ましくは、0.1〜0.9mmである。
【0047】
上記芯体層及び上記弾性層を有する電子写真装置用ベルトは、弾性層、次いで芯体層の順に遠心成形法で成形することができる。即ち、弾性層を構成する原料液を遠心成形機に流し込み、遠心力をかけながら加熱反応させ、流動性が悪くなる程度に半硬化の状態にした後、芯体層を構成する原料液を、弾性層の上(内側)に流し込み、弾性層と芯体層を一緒に加熱硬化させることにより製造することができる。弾性層が半硬化の状態で芯体層用原料液を流し込むので一緒に加熱硬化するだけで、両層の界面が一体化し、層間剥離することがなく、耐屈曲性が良好で、周方向に連続し切れ目がないシームレスベルトを得ることができる。また、弾性層と芯体層とを構成する樹脂は、収縮率に大きな差がなく、得られたベルトにソリや曲がりが生じることもない。
【0048】
上記電子写真装置用ベルトは、伸びが少なく、高精度で、蛇行も少なく中間転写ベルト、転写搬送ベルトとして好適に用いることができる。
【0049】
上記芯体層及び上記弾性層を有する電子写真装置用ベルトは、弾性層の外側に、更に、表面層を形成してもよい。上記表面層は、例えば、フッ素系の塗料等を使用して、コーティングすること等によって形成することができ、トナーとの離型性、クリーニング性を向上させることができる。
【0050】
以下、本発明の電子写真装置用ベルト(図1、図2、図3)、そのベルトを中間転写ベルトとして用いた電子写真装置(図4)、転写搬送ベルトとして用いた電子写真装置(図5)を図を用いて説明する。
【0051】
図1、図2、図3は、本発明の電子写真装置用ベルト1の斜視図である。図1は単層からなるベルトであり、図2は芯体層2の外側に弾性層3を有する2層構造のベルトであり、図3は弾性層3の外側に表面層4を有する3層構造のベルトである。
【0052】
図4は、本発明の電子写真装置用ベルトを中間転写ベルト16として用いた電子写真装置の感光体11周辺の側面図である。感光体11は、帯電部で一様に帯電され、露光部にてレーザー光や反射光によって露光され、静電潜像が形成される。感光体11は、矢符方向に回転し、第1の現像ローラに接触し(現像部14)、黄色成分が現像される。第2〜第4の現像ローラとは接触せず移動し、感光体11は、中間転写ベルト16に接触する。中間転写ベルト16は、プーリー12、13に掛け渡され矢符方向に移動し、感光体11上の黄色の像が中間転写ベルト16に転写される。感光体11は、クリーニングブレードで、残った黄色トナーが除去され、除電される。
【0053】
上記と同様、帯電→露光→現像部と感光体11とが回転移動して、マゼンタ色用現像ローラのみに接触し、感光体11上にマゼンタ色のトナー像が形成されそのまま転写部に移動し、中間転写ベルト16に転写され、黄色像に重ね合わされる。
【0054】
同様にして、シアン色のトナー像が感光体11上に形成され、中間転写ベルト16上で重ね合わされる。最後に黒色のトナー像が感光体11上に形成され、中間転写ベルト16上に重ね合わされ中間転写ベルト16上にカラー像が形成される。中間転写ベルト16上のカラー像は、ローラ15とプーリー13との間に供給されるシート体、例えば、紙上に転写され、定着装置で定着される。中間転写ベルト16は、カラー像を紙に転写した後、クリーニングブレードによって残ったトナーが除去される。
【0055】
図5は、本発明の電子写真装置用ベルトを転写搬送ベルト16’として用いた電子写真装置の感光体11周辺の側面図である。図4と同様、感光体11は、帯電部、露光部、現像部14と回転移動することにより黒色のトナー像を形成・担持し、転写搬送ベルト16’上に送られた紙と接触して、紙上に転写され、そのまま転写搬送ベルト16’によって定着部に搬送され、定着される。転写搬送ベルト16’は、プーリー12、13に掛け渡され矢符方向に移動する。感光体11は、図4と同様にクリーニングブレードで残ったトナーを除去され、除電される。
【0056】
図4及び図5において、中間転写ベルト及び転写搬送ベルトは、外径10〜20mmの小径ローラー状プーリーに巻いたままの状態で長期間休転されたり、保管されたりするので、巻き癖が問題視される。
【発明の効果】
【0057】
本発明の電子写真装置用ベルトは、主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンと、芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとを反応させることにより得られるポリ尿素からなる層を有し、薄肉円筒状に形成されたものである。このため、温度32℃、湿度80%のような高温高湿環境下において、吸水によりベルトに伸びや装置の休転等で巻き癖が生じることを少なくできる。特に、変性ポリアミンとして、主鎖にノナンジオール及びメチルオクタンジオール由来のメチレン鎖部を設けることによりカーボネート結合部を適宜な間隔で配することができ、上述した効果がより発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0059】
実施例1
あらかじめ導電性カーボンを1%練り込んだノナンジオールとメチルオクタンジオール由来のメチレン鎖部とカーボネート結合とを有し、末端にジ−p−アミノベンゾエートのアミノ基を有する変性ポリアミン(数平均分子量1000、1,9−ノナンジオール/メチルオクタンジオール質量比65/35、「PCD1000」、イハラケミカル工業社製)60.3部に対し、低分子量芳香族アミン成分として4−クロロ−3,5−ジアミノベンゾイックアシッドイソブチルエステル(「バイテック1604」、住化バイエルウレタン社製)を50部添加して、120℃で溶解し、100℃で12時間脱水した。このアミン成分に、触媒としてUcat1102(サンアプロ社製)を0.4部添加した。
【0060】
イソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートの3官能ヌレート変性体(「スミジュールN3300」、住化バイエルウレタン社製)と、2官能の脂肪族イソシアネートとして、ノルボルネンジイソシアネート(「コスモネートNBDI」、三井武田社製)を用い、これらのイソシアネートを30:70質量比(平均官能基数f=2.13)で混合した。
【0061】
上記で得られたアミン成分に、この混合したイソシアネートを[活性水素]/[NCO]比が1.05になるように、64.9部添加し、アジターにて攪拌混合し、120℃に予熱され、500rpmで回転する遠心成形機の内径180mm、幅350mmの円筒金型に流し込み、2500rpmで10分経過後500rpmに落とし、型温125℃で20分硬化後脱型し110℃で12時間アフターキュアーしてポリ尿素樹脂単層からなる厚さ0.2mmのベルトを得た。
【0062】
実施例2
実施例1において、2官能の脂肪族イソシアネートとしてノルボルネンジイソシアネートをヘキサメチレンジイソシアネートとし、平均官能基数が2.13となるように混合した以外は、実施例1と同様にして、ポリ尿素樹脂単層からなるベルトを得た。
【0063】
実施例3
平均官能基数2.3のポリエステルポリオールであるニッポラン4032(日本ポリウレタン工業社製、水酸基価=60KOHmg/g)に予め導電性カーボンを1%練り込み、100℃で12時間脱水した。この混合液100質量部に硬化剤として日本ポリウレタン工業社製「コロネートT−65」を9.77部添加したものを攪拌し、遠心成形金型に流し込み、型温110℃で15分反応させ半硬化状態にし、その内側に、実施例1と同様にして、芯体層を遠心成形し、0.2mm厚のポリ尿素からなる芯体層と0.3mm厚のポリウレタンからなる弾性層を積層一体化した2層のベルトを得た。
【0064】
比較例1
実施例1において、変性ポリアミンの代わりに、主鎖にノナンジオールとメチルオクタンジオール由来のメチレン鎖部とカーボネート結合部とを有し、末端に水酸基を有するポリオール(水酸基価=114.8KOHmg/g、ノナンジオール/メチルオクタンジオール質量比65/35、「クラポールC−1065N」、クラレ社製)を50部用いた以外は、実施例1と同様にして、遠心成形により単層のベルトを得た。
【0065】
比較例2
実施例1において、変性ポリアミンの代わりに、主鎖にノナンジオールとメチルオクタンジオール由来のメチレン鎖部とカーボネート結合部とを有し、末端に水酸基を有するポリオール(水酸基価=114.8KOHmg/g、ノナンジオール/メチルオクタンジオール質量比65/35、「クラポールC−1065N」、クラレ社製)を50部用い、2官能のイソシアネートであるノルボルネンジイソシアネートをヘキサメチレンジイソシアネートとし、平均官能基数が2.13となるように混合した以外は、実施例1と同様にして、ベルトを得た。
【0066】
比較例3
実施例1において、変性ポリアミンの代わりに、メチルペンタンジオールとセバシン酸とからなるポリエステルからなり末端に水酸基を有するポリオールを52.1部用いた以外は、実施例1と同様にして、ベルトを得た。
【0067】
比較例4
実施例3と同様に遠心成形で弾性層を半硬化状態に成形後、比較例1の配合にて芯体層を遠心成形し、0.2mm厚の尿素結合含有ポリウレタンからなる芯体層と0.3mm厚のポリウレタンからなる弾性層を積層一体化した2層のベルトを得た。
【0068】
比較例5
実施例1において、2官能の脂肪族イソシアネートであるノルボルネンジイソシアネートを2官能の芳香族イソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネートとし、平均官能基数が2.13となるようにした以外は、実施例1と同様にして、ベルトを得ようとしたが、混合後30秒でゲル化してしまい、成形不可能であった。
【0069】
〔評価方法〕
上記実施例、比較例で得られた薄肉円筒状のベルトを幅30mmにカットした試料ベルトを用いて、伸び、巻き癖を以下の方法で評価し、結果を表1、2に示した。なお、評価は、温度23℃、湿度55%の環境下及び温度32℃、湿度80%の環境下で行った。
【0070】
(伸びの評価)
図6の測定装置に示すように、上記試料ベルト41(長さ550mm×幅30mm)を固定プーリー46とスライドプーリー47の2つのプーリー(外径20mm)に巻き掛け、おもり42(1kg)によりベルトに張力を与えた。おもりにより張力を与えた時の伸び(初期伸び)及びおもりにより張力をかけて24時間放置後の伸びをダイヤルゲージ43で測定した。24時間後の伸びの測定値−初期の伸びの測定値(mm)を計算により求め、結果を表1、2に示した。
【0071】
(巻き癖の評価)
上記図6の装置に取り付け、おもり42により張力をかけて、24時間放置後ベルトを外し、保持後のベルトのプーリーに巻きついていた部分を中心に約100mm長さに切り、図7で示すように定盤の上にのせ、ハイトゲージで頂点高さtを測定した。測定した頂点高さ(mm)を巻き癖として表1、2に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1、2から、活性水素含有化合物として、エステル系ポリオールを用いて得られる従来のポリウレタン製ベルト(比較例3)は、高温高湿での巻き癖が特に大きく、ポリオールの主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とをもたせた(比較例1、2、4)ベルトは、比較例3よりは改善が認められる。ポリオールにかえて主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有するポリアミンを用いた実施例のベルトは、比較例のベルトに比べて、伸び、巻き癖が充分に改良されていることが明らかとなった。また、実施例で得られたベルトは、成形性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の電子写真装置用ベルトは、例えば、中間転写ベルト又は転写搬送ベルトとして好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の電子写真装置用ベルト1の斜視図の一例である。
【図2】本発明の電子写真装置用ベルト1の斜視図の一例である。
【図3】本発明の電子写真装置用ベルト1の斜視図の一例である。
【図4】本発明の電子写真装置用ベルトを中間転写ベルト16として用いた電子写真装置の感光体11周辺の側面図の一例である。
【図5】本発明の電子写真装置用ベルトを転写搬送ベルト16’として用いた電子写真装置の感光体11周辺の側面図の一例である。
【図6】伸び、巻き癖の発生に使用した装置の概略図である。
【図7】巻き癖である頂点高さの測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 電子写真装置用ベルト
2 芯体層
3 弾性層
4 表面層
11 感光体
12、13 プーリー
14 現像部
15 転写ローラ
16 中間転写ベルト
16’転写搬送ベルト
41 ベルト
42 おもり
43 ダイヤルゲージ
44 定盤
45 ハイトゲージ
46 固定プーリー
47 スライドプーリー
48 スライドベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖にカーボネート結合部とメチレン鎖部とを有し、末端にアミノ基を有する変性ポリアミンと、芳香族アミン化合物と、2官能及び3官能の脂肪族イソシアネートとを反応させることにより得られるポリ尿素からなる層を有し、薄肉円筒状に形成されたものであることを特徴とする電子写真装置用ベルト。
【請求項2】
前記メチレン鎖部は、ノナンジオール及びメチルオクタンジオール由来のものであり、末端アミノ基がジ−p−アミノベンゾエートのアミノ基である請求項1記載の電子写真装置用ベルト。
【請求項3】
芳香族アミン化合物は、4−クロロ−3,5−ジアミノベンゾイックアシッドイソブチルエステルである請求項1又は2記載の電子写真装置用ベルト。
【請求項4】
2官能の脂肪族イソシアネートは、ノルボルネンジイソシアネートであり、3官能の脂肪族イソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である請求項1、2又は3記載の電子写真装置用ベルト。
【請求項5】
更に、弾性層を有する積層構造からなるものであり、
前記弾性層は、ポリウレタン樹脂を含有するものである請求項1、2、3又は4記載の電子写真用ベルト。
【請求項6】
電子写真装置用ベルトは、中間転写ベルト又は転写搬送ベルトである請求項1、2、3、4又は5電子写真装置用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−23650(P2006−23650A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203472(P2004−203472)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】