説明

電子回路基板およびパワー半導体モジュール

【課題】大電流を通流させることができ、しかも小形かつ安価な電子回路基板およびパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】本発明に係る電子回路基板1Aは、絶縁基板2と、絶縁基板2上の2点間を接続するように形成され、当該2点間で電流を通流させる導電体パターン3aと、導電体パターン3a上に両端がそれぞれ接続され、電流の一部を通流させる少なくとも1つの導電部材(金属ワイヤ)5aとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通流させる電流量が異なる複数の導電体パターンが形成された電子回路基板およびパワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールが有する電子回路基板には、比較的大きな電流を通流させる導電体パターンと、電流がほとんど通流しない導電体パターンが混在している。例えば、図5に示すような電子回路においては、パワー半導体素子10(IGBT等)のコレクタおよびエミッタに接続される配線11、12には大電流が流れるが、ベースに接続される配線13(制御信号ライン)にはほとんど電流が流れない。
したがって、配線11、12に相当する導電体パターンについては、パターン幅を広くするか、または導電体を厚くすることによりインピーダンスを下げる必要がある。一方、配線13に相当する導電体パターンについては、パターン幅を極力細くすることによってパターン占有面積を小さくし、基板の小形化および低コスト化を図ることが好ましい。
【0003】
上記2つの要求を同時に満足させる電子回路基板として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。図6に示すように、この電子回路基板20では、通流させる電流量に応じて各導電体パターン21、22の厚みを変化させている。一方、各導電体パターン21、22のパターン幅は、電流量に依存することなくほぼ一定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−7456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来の電子回路基板20では、大電流を通流させる導電体パターン22を形成するために、レジストマスクの形成、エッチング等の工程を何度も繰り返す必要があり、生産工程の複雑化やスループットの低下に伴う生産コストの増加が問題となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、大電流を通流させることができ、小形かつ安価な電子回路基板およびパワー半導体モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る電子回路基板は、絶縁基板と、前記絶縁基板上の2点間を接続するように形成され、当該2点間で電流を通流させる導電体パターンと、前記導電体パターン上に両端がそれぞれ接続され、前記電流の一部を通流させる少なくとも1つの導電部材と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成では、絶縁基板上の2点間の電流の一部が導電体パターンではなく導電部材を通流するので、導電体パターンの幅を細くかつ薄くしても、広くかつ厚くした場合と同等の大電流を通流させることができる。
【0009】
具体的には、前記導電部材は、金属ワイヤまたは金属板であることが好ましい。
【0010】
また、上記電子回路基板では、複数の導電部材を、前記電流の通流方向に沿って並列および/または直列に配置することもできる。
【0011】
複数の導電部材を並列に配置すれば、大電流が通流する2点間のインピーダンスがさらに低減されるので、導電体パターンのパターン幅をさらに細くし、基板を小形化することができる。また、複数の導電部材を直列に配置すれば、導電体パターンの長さが長い場合にもその全域にわたってインピーダンスを低減させることができる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るパワー半導体モジュールの一態様は、請求項1に記載の電子回路基板と、該電子回路基板上に実装されたパワー半導体素子とを備え、電子回路基板は、パワー半導体素子と、該パワー半導体素子と分離して形成された導電体パターンとを電気的に接続する接続用金属ワイヤと、導電部材として、両端がパワー半導体素子に流れ込む流入電流またはパワー半導体素子から流れ出る流出電流を通流させる導電体パターン上に接続され、流入電流または流出電流の一部が通流する補強用金属ワイヤと、を有することを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るパワー半導体モジュール他の態様は、請求項1に記載の電子回路基板と、該電子回路基板上に実装されたパワー半導体素子とを備え、電子回路基板は、パワー半導体素子と、該パワー半導体素子と分離して形成された導電体パターンとを電気的に接続する接続用金属ワイヤと、導電部材として、パワー半導体素子に流れ込む流入電流またはパワー半導体素子から流れ出る流出電流を通流させる導電体パターン上に配置され、流入電流または流出電流の一部が通流する金属板と、を有することを特徴とする。
【0014】
そして、上記課題を解決するために、本発明に係るパワー半導体モジュールでは、上記の補強用金属ワイヤまたは金属板を、前記電流の通流方向に沿って並列および/または直列に配置することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大電流を通流させることができ、小形かつ安価な電子回路基板およびパワー半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの平面図である。
【図2】第1実施形態に係るパワー半導体モジュールを、図1のX−X方向から見た断面図である。
【図3】第2実施形態に係るパワー半導体モジュールの平面図である。
【図4】第2実施形態に係るパワー半導体モジュールを、図3のX−X方向から見た断面図である。
【図5】パワー半導体モジュールの一例を示す回路図である。
【図6】従来の電子回路基板の断面図である。
【図7】従来のパワー半導体モジュールの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電子回路基板および当該電子回路基板を備えたパワー半導体モジュールの好ましい実施形態について説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1に、本発明の第1実施形態に係るパワー半導体モジュールを示す。パワー半導体モジュールは電子回路基板1Aを備え、電子回路基板1Aは、ガラスエポキシ等からなる絶縁基板2と、その表面上に形成された導電性を有する導電体パターン3a、3b、3cとからなる。このうち、導電体パターン3a上には、ベアチップ半導体部品4が配置されている。各導電体パターン3a、3b、3cの厚みは、各パターンを通流する電流の量に依存することなくほぼ一定である。
【0019】
電子回路基板1Aは、図5に示す電子回路の一部分を構成している。すなわち、図1に示すベアチップ半導体部品4は図5に示すパワー半導体素子10に相当する。また、導電体パターン3a、3b、3cは、それぞれパワー半導体素子10のコレクタに接続される配線11、エミッタに接続される配線12、ベースに接続される配線13に相当する。
【0020】
ベアチップ半導体部品4は、裏面側がパワー半導体素子10のコレクタと同電位となっており、半田層8を介して導電体パターン3aに接続されている(図2参照)。ベアチップ半導体部品4と導電体パターン3aの間には、放熱のためのヒートスプレッダが適宜配置される。
【0021】
ベアチップ半導体部品4の表面には、パワー半導体素子10のエミッタを引き出すためのパッドが設けられており、当該パッドは金属ワイヤ5b(本発明の「接続用金属ワイヤ」に相当)を介してパワー半導体素子10と分離して形成された導電体パターン3bに接続されている。パッドの個数および金属ワイヤ5bの径は、エミッタから流れ出る電流量に応じて決定される。本実施例では、パッドの数を3つとし、金属ワイヤ5bの径をそれぞれ350μm〜500μmとした(図1参照)。
【0022】
また、ベアチップ半導体部品4の表面には、パワー半導体素子10のベースを引き出すためのパッドが設けられており、当該パッドは金属ワイヤ6(本発明の「導電部材」、「接続用金属ワイヤ」に相当)を介してパワー半導体素子10と分離して形成された導電体パターン3cと電気的に接続されている。前記の通り、パワー半導体素子10のベースにはほとんど電流が流れないので、本実施例では、このパッドの数を1つ、金属ワイヤ6の径を125μmとした。なお、金属ワイヤ5b、6としては、金、アルミニウム等の低抵抗の金属線が用いられる。
【0023】
図1および図2に示すように、電子回路基板1Aは、大電流が通流する2点間のインピーダンスを低減するために、両端がそれぞれ導電体パターン3a上に接続された金属ワイヤ5a(本発明の「補強用金属ワイヤ」に相当)を備えている。そして、パワー半導体素子10のコレクタに向かって通流する電流の一部が、導電体パターン3aではなく、金属ワイヤ5aを通流するようになっている。
これにより、導電体パターン3aのパターン幅を広くした場合(例えば、図7参照)、または導電体パターンの厚みを増加させた場合と同程度にまで当該2点間のインピーダンスを低減することができる。さらには、パターンの幅や厚みの変更では電流容量を増加させることにも自ずと限界があるが、本実施形態によれば、パターンの幅や厚みの変更では対応が困難な場合にも、電流容量を飛躍的に高め、対応することができる。
【0024】
具体的には、本実施形態では、導電体パターン3aの表面のうちの少なくとも一部分をレジストで覆わないようにし、その覆われていない部分と金属ワイヤ5aの各端部とをボンディング接続している。図1に示すように、本実施形態では、2本の金属ワイヤ5aを直列接続したものを3組並列に配置している。
【0025】
また、本実施形態では、各金属ワイヤ5aの径を、ベアチップ半導体部品4と導電体パターン3bとを接続する3本の金属ワイヤ5bと同様に350μm〜500μmとした。これにより、ベアチップ半導体部品4と導電体パターン3bとを接続する工程(ワイヤボンディング工程)の中で、各金属ワイヤ5aの接続も一緒に行うことができるので、工程増に伴う生産コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0026】
<第2実施形態>
図3に、本発明の第2実施形態に係るパワー半導体モジュールを示す。パワー半導体モジュールは電子回路基板1Bを備える。そして、この電子回路基板1Bでは、第1形態の金属ワイヤ5aの代わりに金属板7を使用し、これにより大電流が通流する2点間のインピーダンスを低減している。
【0027】
金属板7としては導電性に優れた銅板が好ましく、その厚みはパワー半導体素子10のベースに流れ込む電流量や、導電体パターン3aの幅、厚み等を勘案して決定される。また、図4に示すように、金属板7は半田層9を介して導電体パターン3aに接続されている。
【0028】
金属板7は、ベアチップ半導体部品4や他の電子部品を実装する既存の工程の中で配置することができる。つまり、金属板7を配置するための新たな工程を設ける必要がないので、生産コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0029】
結局、第1および第2実施形態に係るパワー半導体モジュールによれば、大電流が通流する2点間のインピーダンスを簡単に低減することができるので、電流量に応じて導電体パターンのパターン幅を広くしたり、導電体パターンを厚くしたりする必要がない。
また、第1および第2実施形態に係るパワー半導体モジュールによれば、既存の工程の中で導電部材(金属ワイヤ5a、金属板7)を設けることができるので、生産コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0030】
<その他>
以上、本発明に係る電子回路基板およびパワー半導体モジュールの好ましい実施形態について説明したが、本発明の構成はこれらの構成に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、本発明の「導電部材」をパワー半導体モジュールが有する電子回路基板に用いているが、これに限定されず、比較的大電流が流れる導電体パターンが形成された電子回路基板を備えた装置全般に適用することができる。
また、上記第1実施形態では、並列にする金属ワイヤ5aを3組としたが、電流量に応じて、1組、2組または4組以上にすることもできる。
また、ベアチップ半導体部品4に代えて、樹脂封止されたパッケージ部品を使用することもできる。ただし、この場合は、金属ワイヤを接続する工程が存在しないので、導電部材としては金属板を使用するのが好ましい。
また、上記第1および第2実施形態では、パワー半導体素子10のコレクタに向かって通流する電流(パワー半導体素子に流れ込む流入電流)を通流させる導電体パターン上に導電部材(金属ワイヤまたは金属板)を接続しているが、勿論、パワー半導体素子から流れ出る流出電流を通流させる導電体パターン上に導電部材を接続しても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0031】
1A 電子回路基板
1B 電子回路基板
2 絶縁基板
3a〜c 導電体パターン
4 ベアチップ半導体部品
5a、b 金属ワイヤ
6 金属ワイヤ
7 金属板
8、9 半田層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上の2点間を接続するように形成され、当該2点間で電流を通流させる導電体パターンと、
前記導電体パターン上に両端がそれぞれ接続され、前記電流の一部を通流させる少なくとも1つの導電部材と、
を備えたことを特徴とする電子回路基板。
【請求項2】
前記導電部材は、金属ワイヤまたは金属板であることを特徴とする請求項1に記載の電子回路基板。
【請求項3】
複数の導電部材が、前記電流の通流方向に沿って並列および/または直列に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子回路基板。
【請求項4】
請求項1に記載の電子回路基板と、
前記電子回路基板上に実装されたパワー半導体素子と
を備え、
前記電子回路基板は、
前記パワー半導体素子と、該パワー半導体素子と分離して形成された導電体パターンとを電気的に接続する接続用金属ワイヤと、
前記導電部材として、両端が前記パワー半導体素子に流れ込む流入電流または前記パワー半導体素子から流れ出る流出電流を通流させる導電体パターン上に接続され、前記流入電流または前記流出電流の一部が通流する補強用金属ワイヤと、
を有することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の電子回路基板と、
前記電子回路基板上に実装されたパワー半導体素子と
を備え、
前記電子回路基板は、
前記パワー半導体素子と、該パワー半導体素子と分離して形成された導電体パターンとを電気的に接続する接続用金属ワイヤと、
前記導電部材として、前記パワー半導体素子に流れ込む流入電流または前記パワー半導体素子から流れ出る流出電流を通流させる導電体パターン上に配置され、前記流入電流または前記流出電流の一部が通流する金属板と、
を有することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記補強用金属ワイヤまたは前記金属板が、前記電流の通流方向に沿って並列および/または直列に配置されていることを特徴とする請求項4または5に記載のパワー半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−251551(P2010−251551A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99955(P2009−99955)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】