説明

電子放出素子の製造方法

【課題】工程数の増加を最小限に抑えつつ、電子放出素子の高精細化が可能な電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)基板上にカソード電極20を形成する工程と、(b)前記カソード電極上に、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた犠牲層52を形成する工程と、(c)前記パターニングされた犠牲層および露出したカソード電極の上に電子放出物質層を形成する工程と、(d)前記犠牲層と前記犠牲層上の電子放出層を除去する工程を含む電子放出素子の製造方法であって、前記犠牲層が画像反転レジストによって形成されることを特徴とする電子放出素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型ディスプレイ等に用いられる電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは物理的・化学的耐久性に優れており、また、電界電子放出(エミッション)に適した先鋭な先端形状と大きなアスペクト比を有している。そのため、カーボンナノチューブを電子放出素子とした電界電子放出型ディスプレイ(FED)、液晶用バックライト、照明等の研究が盛んに行われている。
【0003】
一般的な電子放出素子の製造方法として、カソード電極が形成された基板上にカーボンナノチューブを含む組成物を積層し、露光・現像により不要部分を除去する方法がある。しかしながら、カーボンナノチューブを含む組成物のパターニング時、不要部分に現像残渣が発生するという課題があった。現像残渣はいずれの構造においても発光均一性不良、パネル内における真空度の悪化などを引き起こすおそれがある。
【0004】
上記課題を解決する手段として、カソード電極上にフォトレジスト等の犠牲層をパターニングし、その上からカーボンナノチューブを含む組成物を堆積した後、犠牲層の除去とともに不要なカーボンナノチューブを含む組成物を除去するリフトオフ法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。リフトオフ法は犠牲層の剥離と組成物のパターニングを同時に行えるため、コストの面で有利である。しかしながら、犠牲層としてポジ型レジストを用いた場合、溶媒に対する溶解性が高いため電子放出材料を含む組成物中の溶媒によって犠牲層が溶解し、電子放出材料を含む組成物が本来形成されるべき領域に犠牲層が流れ込んでしまう。その結果、所望のパターンを得られなくなるという課題があった。また、犠牲層としてネガ型レジストを用いた場合、犠牲層として利用する部分を露光し、硬化させるため耐溶剤性は高いが、レジスト剥離時またはリフトオフ時に完全な除去が困難で、レジスト残渣が発生しやすい。電子放出素子は真空下で使用されるため、レジスト残渣の残留は、真空度の悪化を引き起こし、有機ガスによって電子放出素子が劣化するという課題があった。
【0005】
また、犠牲層の上に溶媒に難溶であるバッファ層を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。バッファ層は本来はコーティングエッジによる犠牲層の損傷を防ぐために設けられたものであるが、バッファ層を用いることで犠牲層の溶媒による溶解を防ぐこともできる。しかしながら、カーボンナノチューブを含む組成物をパターニングした後に続いてバッファ層、犠牲層の除去を行わなくてはならず、工程数が増えコストが増加するという課題があった。
【0006】
また、犠牲層上に犠牲層と電子放出物質層の接触を防ぐための隔離層を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。隔離層を用いることで犠牲層と電子放出物質層の反応を防ぐことができ、パターニングが可能となる。しかしながら、従来の方法と比較して隔離層を設ける工程を追加しなければならず、工程数が増えコストが増加するという課題があった。
【特許文献1】特開2006−114494号公報
【特許文献2】特表2007−529088号公報
【特許文献3】特開2004−247306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、工程数の増加を最小限に抑えつつ、電子放出源パターンの高精細化が可能な電子放出素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は(a)基板上にカソード電極を形成する工程と、(b)前記カソード電極上に、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた犠牲層を形成する工程と、(c)前記パターニングされた犠牲層および露出したカソード電極の上に電子放出物質層を形成する工程と、(d)前記犠牲層と前記犠牲層上の電子放出層を除去する工程を含む電子放出素子の製造方法であって、前記犠牲層が画像反転レジストによって形成されることを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工程数の増加を最小限に抑えつつ、高精細な源パターンを有する電子放出素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一般的な電子放出素子には、電子放出三極管アレイおよび電子放出二極管アレイがある。電子放出三極管アレイは、基板上に設けられ導電性を有するカソード電極と、カソード電極上に設けられ所定の形状のエミッタホールを有する絶縁層と、エミッタホール内に設けられ電子放出材料を含むエミッタと、絶縁層上に設けられエミッタから電子を引き出すゲート電極からなる。電子放出二極管アレイは、前記電子放出三極管アレイの構造から絶縁層、ゲート電極を除いた構造になっている。すなわち、基板、カソード電極、エミッタからなる。以下、本発明の電子放出素子の製造方法について、電子放出三極管アレイを例に説明する。
【0011】
まず、基板上に導電性膜を成膜し、カソード電極を形成する。基板は特に限定されないが、例えばガラス基板のような透明性の高いものが用いられるのが好ましい。透明性の高い基板を用いることで、後記のように電子放出物質層を露光する際に、カソード基板の裏面からも露光を行うことができる。カソード電極には、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)などの導電性膜を用いることができる。表面平滑性、透明性の観点からスパッタにより作製された導電性膜が好ましい。特にITOのような透明導電性膜を用いた場合、後記のように電子放出物質層を露光する際に、カソード基板の裏面からも露光を行うことができる。また、カソード電極上に絶縁層に加工されたエミッタホールより径の小さい穴を有する遮光層を設けた後、裏面から露光することで、マスクを使用したアライメント工程を経ることない、セルフアライメントによってフォトレジストパターンを得ることができる。
【0012】
次に、絶縁材料を印刷法により5〜15μm積層し絶縁層を作製する。次いで、絶縁層上に真空蒸着法によってゲート電極層を形成する。ゲート電極層上にレジスト塗布し、露光、現像によりレジスト層にパターンを形成し、ゲート電極および絶縁層をエッチングすることによって、エミッタホールパターンを作製する。こうして、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた絶縁層が形成される。なお、電子放出二極管アレイの場合は、この工程は省略される。
【0013】
次に、絶縁層上(電子放出二極管アレイの場合はカソード電極上)に犠牲層を作成する。犠牲層の塗布は、スピンナー、スクリーン印刷など公知の方法を用いることができる。その後犠牲層をパターニングすることにより、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた犠牲層を形成することができる。
【0014】
本発明の犠牲層の膜厚は0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上3μm以下である。膜厚が0.1μm以上であると欠点の発生を抑えることができるため好ましく、膜厚が5μm以下であると、露光と現像に要する時間を短くすることができ、コスト面で有利になるため好ましい。
【0015】
本発明に用いられる犠牲層は、画像反転レジストであることが重要である。例えば、ポジ型レジストを犠牲層として用いた場合、ポジ型レジストは電子放出材料を含む組成物中の溶媒に対する溶解性が高いため、パターニングされた犠牲層上に電子放出物質層を形成する際に犠牲層が溶解し、カソード電極が露出した領域に犠牲層が流れ込んでしまう。その結果、パターニング後に電子放出源の一部が欠損し、カソード電極が露出した状態(電子放出源パターンの抜け)となり、電子放出の不良や電子放出の不均一を引き起こす。一方、ネガ型レジストを犠牲層として用いた場合、ネガ型レジストは光照射により硬化させるため耐溶剤性は高いが、レジスト剥離時またはリフトオフ時に完全な除去が困難で、レジスト残渣が発生しやすい。電子放出素子は真空下で使用されるため、レジスト残渣の残留は、真空度の悪化を引き起こし、有機ガスによる電子放出素子の劣化の原因となる。また、ネガ型レジストの剥離には比較的溶解性の高いN−メチルピロリドンやジエタノールアミン、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が使用されるため、リフトオフ時に電子放出材料を含む組成物にダメージを与えるおそれがある。画像反転レジストは、電子放出材料を含む組成物の溶媒に耐溶解性がありながら、レジスト剥離時またはリフトオフ時に除去がしやすい。
【0016】
本発明に用いられる画像反転レジストは、露光後の工程の有無によってポジ像もしくはネガ像を得ることができる。露光後に特定の処理を行うとネガ像を得ることができ、特定の処理を行わないとポジ像を得ることができる。特定の処理としては、加熱が好ましい。このような画像反転レジストは、露光後の加熱によりゆるやかな架橋反応が起こり、電子放出物質層形成時に十分な耐溶剤性を有する犠牲層となる。なお、通常のポジ型レジストを用いた場合は、たとえ露光後に加熱を行っても、十分な耐溶剤性を得ることはできない。
【0017】
なお、その他の画像反転レジストの例として、照射波長の違いによってポジ・ネガ像を与えるもの、現像液によってポジ・ネガ像を与えるもの、雰囲気(窒素雰囲気、アミン雰囲気など)によってポジ・ネガ像を与えるもの等が挙げられる。
【0018】
犠牲層のパターニングの具体的な方法としては、ポジ型マスクを用いて不要部分を露光し、現像して不要部分を除去した後、残りの部分に全面露光と加熱を行って硬化させる方法、またはネガ型マスクを用いて不要部分以外の部分(犠牲層を形成する部分)を露光し加熱を行い硬化させた後、全面露光を行い不要部分を現像によって除去する方法のいずれかを用いることができる。後者の方法を用いると、犠牲層形成部分の加熱時に不要部分が一緒にベークされるため、不溶部分の現像時間が長くなるおそれがある。そのため、前者の方法を用いる方が好ましい。以下に、図1および図2を参照して本発明の犠牲層の具体的なパターニング方法を説明する。
【0019】
図1A〜図1Fは、ポジ型マスクを用いる場合の犠牲層のパターニング方法を説明するための図である。図1Aは基板10上にカソード電極20を有し、カソード電極20上にゲート電極40との電気的な接触を遮断する絶縁層30を有する一般的な電子放出三極管アレイのカソード基板である。まず、図1Bに示されたように、画像反転レジスト50を塗布し、カソード基板全体を覆う。次に、図1Cに示されたように、ポジ型マスク60を用いてレジストの不要部分を露光し、レジストの露光された領域51を作製する。次に、現像を行って、図1Dに示されたようにレジストの露光された領域51を除去し、カソード電極の一部を露出する。この部分は電子放出源の形成領域となる。次に、図1Eに示されたように、マスクを用いることなく全面を露光し、レジストの露光された領域51を作製する。次に、カソード基板全体を加熱し、図1Fに示されたように、レジストの硬化された領域52を作製する。以上のようにしてパターニングされた犠牲層を得ることができる。
【0020】
次に、図2A〜図2Fは、ネガ型レジストを用いる場合の犠牲層のパターニング方法を説明するための図である。図2Aは基板10上にカソード電極20を有し、カソード電極20上にゲート電極40との電気的な接触を遮断する絶縁層30を有する一般的な電子放出三極管アレイのカソード基板である。まず、図2Bに示されたように、画像反転レジスト50を塗布し、カソード基板全体を覆う。次に、図2Cに示されたように、ネガ型マスク70を用いて犠牲層を形成する部分を露光し、レジストの露光された領域51を作製する。次に、カソード基板全体を加熱し、図2Dに示されたようにレジストの硬化された領域52を作製する。次に、図2Eに示されたように、マスクを用いることなく全面を露光し、レジストの露光された領域51を作製する。次に、現像を行って、図2Fに示されたように、レジストの露光された領域51を除去し、カソード電極の一部を露出する。以上のようにしてパターニングされた犠牲層を得ることができる。
【0021】
画像反転レジストの露光条件や加熱条件は、用いられるレジストの種類にもよるが、例えば、AZ5214E(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)を1μm塗布した場合、不要部分を露光する場合の露光量は30〜50mJ/cmが好ましい。30mJ/cm以上であると露光によって不要部分を十分に可溶化できるため任意のパターンを得ることができ、50mJ/cm以下であると必要部分まで可溶化されることなく任意のパターンを得ることができる。硬化のための露光を行う場合の露光量は、80〜200mJ/cmが好ましい。80mJ/cm以上であると十分な硬化反応を得ることができ、200mJ/cm以下であると不要部分の除去を硬化後に行うプロセスの場合、露光過度による不要部分の硬化を抑制することができ、任意のパターンを得ることができる。硬化のための加熱温度は、110〜125℃が好ましい。不要部分の除去を硬化後に行うプロセスの場合、110℃以上であると十分な硬化反応が得られ任意のパターンを得ることができ、125℃以下であると不要部分の密着性が上昇を抑制し、除去に費やす時間を短くできるためコストの面から有利である。
【0022】
露光光源としては、高圧水銀灯、電子線、deep−UV、X線等を用いることが可能で、特に限定はされないが、操作の簡便さなどの観点から高圧水銀灯を光源として用いることが好ましい。
【0023】
続いて、パターニングされた犠牲層およびカソード電極の上に電子放出物質層を形成する。電子放出物質層は、電子放出材料を含む組成物をパターニングされた犠牲層およびカソード電極の上に塗布することで得られる。電子放出材料はカーボンナノチューブであることが好ましい。製造方法については特に限定されず、レーザーアブレーション法、アーク放電法、化学気相法等の方法で製造されたカーボンナノチューブを使用することができる。電子放出材料を含む組成物の塗布方法は、スピンコーティング法、スリットダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法等の方法を用いることができるが、スリットダイコーター法、スクリーン印刷法が大面積化およびコストの面で有利である。
【0024】
本発明の電子放出材料を含む組成物は、電子放出材料の他にガラス粒子、バインダー樹脂、溶媒等を含み、必要に応じて分散剤、消泡剤、粘度調整剤等を含むことができる。感光性を付与する場合には、さらに感光性モノマー、開始剤等を含むことができる。
【0025】
ガラス粒子としてはアルカリ系ガラス、ビスマス系ガラス、リン酸系ガラス等を使用することができ、特に限定はされないが軟化点が低く取り扱いが容易なことからビスマス系ガラスを用いるのが好ましい。
【0026】
バインダー樹脂としては特に限定はされないが、有機残炭は真空度を悪化し、カーボンナノチューブの劣化を引き起こすおそれがあるため易熱分解性を有するバインダー樹脂を用いるのが好ましい。
【0027】
溶媒としてはバインダー樹脂を溶解するものであれば特に限定されないが、適度な粘度と沸点を有することからテルピネオールを用いるのが好ましい。
【0028】
次に、犠牲層と前記犠牲層上の電子放出物質層を除去する。電子放出材料を含む組成物が感光性である場合は、電子放出物質層に対し、上面(電子放出源用ペースト側)からフォトマスクを通じて紫外線を照射するか、もしくはカソード電極にITO等の透明な導電性膜を用いた場合は、背面(ガラス基板側)から紫外線を照射することで、露出したカソード電極上にパターンを転写する。その後、犠牲層上の電子放出物質層を現像により除去し、さらに犠牲層を除去する。または、犠牲層と犠牲層上の電子放出物質層をリフトオフ法により一括して除去する。リフトオフ法は、従来別の工程で行われていた電子放出物質層の除去と犠牲層の除去を1つの工程で行うことができるため、コストの観点から有利である。
【0029】
一方、電子放出材料を含む組成物が非感光性である場合は、フォトレジストを用いて犠牲層上の電子放出物質をエッチング除去した後、レジスト剥離し、さらに犠牲層を除去する。以上のようにして、カソード電極上に電子放出源を有する背面基板を製造することができる。
【0030】
次に、背面基板と対向させる前面基板を作製する。前面基板はソーダガラスなどのガラス基板上に例えばITOのように透明な導電性膜によって作製されるアノード電極と、アノード電極上に設けられ、電子放出素子から放出した電子によって励起され発光する蛍光体膜からなる。アノード電極に用いられる導電性膜は、表面平滑性、透明性の観点からスパッタにより作製されることが好ましい。
【0031】
このようにして作製した背面基板と前面基板の間隔を一定に保つスペーサーを介して貼り合わせ、封着ペーストを用いて封着した後、真空排気口から排気を行い封止することにより電子放出素子を作製することができる。スペーサーは絶縁性を有する材料によって作製され、大気圧に耐えうる強度を有するものであれば材料、形状、本数等は特に限定されない。
【0032】
一般的な電子放出三極管アレイの場合、カソード電極、アノード電極に電圧を印可した後、ゲート電極に電子が放出される閾値電圧であるターンオン電圧以上の電圧が印可されたときに電子放出が得られる。一般的な電子放出二極管アレイの場合、カソード電極、アノード電極に電圧が印可され、カソード電極にターンオン電圧以上の電圧が印可されたときに電子放出が得られる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に用いた犠牲層形成用レジスト、カーボンナノチューブ、ガラス粒子および感光性有機成分は以下の通りである。
【0034】
犠牲層形成用レジスト
実施例1〜2:AZ5214E(画像反転レジスト)
比較例1:AZ1500(ポジ型レジスト)
比較例2〜3:AZ CTP−100(ネガ型レジスト)
カーボンナノチューブ:MWNT(Nanocyl社製 商品名:Nanocyl310000)
ガラス粒子:3105−1(日本山村硝子(株)製 アルカリガラス)
溶媒:一級ターピネオール(異性体混合物、東京化成工業(株)製)
バインダー樹脂溶液:メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30重量部からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100mgKOH/g)をテルピネオールに40重量%溶解させたもの
感光性モノマー:テトラプロピレングリコールジメタクリレート
光重合開始剤:チバスペシャリティーケミカルズ社製イルガキュア369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1)。
【0035】
電子放出材料を含む組成物の作製
電子放出材料を含む組成物は以下の要領で作製した。容積500mlのジルコニア製容器にカーボンナノチューブ1.0gと、ガラス粒子を5g秤量した。一方、バインダー樹脂溶液98.5重量%、感光性モノマー0.5重量%、光重合開始剤1.0重量%を含む感光性有機成分を作製した。このバインダー樹脂溶液を、先に秤量したカーボンナノチューブ、ガラス粒子、導電性粒子に加えて40g添加した。ここに0.3μmφのジルコニアビーズ(東レ(株)製トレセラム(商品名))を加え、遊星式ボールミル(フリッチュ・ジャパン(株)製遊星型ボールミルP−5)にて100rpmで予備分散した。次いで、ジルコニアビーズを取り除いた混合物を3本ローラーにて混練し、電子放出材料を含む組成物とした。
【0036】
絶縁層およびゲート電極を有するカソード基板の作製
本発明のカソード基板は以下の要領で作製した。厚さ1.3mmのソーダライムガラス基板上にITOを成膜しカソード電極を形成した。次いで、絶縁材料をスクリーン印刷法により15μm積層し、1cm×1cmにΦ15μmの穴が100μm間隔で並ぶようにパターン加工し、絶縁層を作製した。次に、絶縁層上に真空蒸着法によりゲート電極層を形成した。ゲート電極層上にポジ型レジストを塗布し、露光、現像によりレジストパターンを設けた後、ゲート電極および絶縁層をエッチングすることによって、エミッタホールパターンを作製した。ゲート電極上のレジストを除去し、カソード基板とした。
【0037】
犠牲層形成用レジストの塗布
犠牲層形成用レジストは以下の要領で塗布した。1H−DX2(スピンコーター ミカサ(株)製)を用い、カソード基板の表面に犠牲層形成用レジストをスポイトで適量滴下し、2000rpmを30秒間保持した。犠牲層形成用レジストの塗布後、ホットプレート上で乾燥した。
【0038】
カソード基板断面のSEM観察
犠牲層形成用レジストのパターンを形成し、さらに電子放出材料を含む組成物を塗布したカソード基板の断面を、S4800(走査型電子顕微鏡、(株)日立製作所製 以下SEM)を用いて観察した。
【0039】
電子放出物質層のパターン加工
電子放出物質層のパターン加工は、以下の要領で行った。電子放出物質層を形成したカソード基板の裏面から、50mW/cm出力の超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射した。次いで、超音波発振器を用いてアセトンおよびN−メチルピロリドン中で超音波を照射しながら犠牲層形成用レジストと共に未露光の不要な電子放出物質層を除去した。
【0040】
電子放出源の抜けの評価
パターン加工後のカソード基板の電子放出素子について、ECLIPSE L200(光学顕微鏡 (株)ニコン製)を用いて電子放出源パターンの抜け(カソード電極が露出している部分)の有無を観察した。
【0041】
フォトレジスト残渣の評価
パターン加工後のカソード基板のゲート電極上を、ECLIPSE L200(光学顕微鏡 (株)ニコン製)を用いてゲート電極上の犠牲層形成用レジスト残渣の発生の有無を観察した。
【0042】
実施例1
1cm×1cmにΦ15μmの穴が100μm間隔で並んだカソード基板にスピンコーターを用いて画像反転レジストAZ5214Eを塗布した後、100℃のホットプレートで60秒間プリベークを行った。次いでポジ型クロムマスク(Φ13μm、100μm間隔)を用い、Φ15μmの穴の中心にマスク開口部が位置するようアライメントし、50mW/cm出力の超高圧水銀灯で30mJ/cm紫外線を照射した。次いで、23℃のフォトレジスト現像液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 商品名AZ400Kを4倍に希釈)に60秒間浸漬しレジストの露光部分を除去し、超純水でリンスした。続いて、カソード基板の前面(レジスト塗布面)全面に超高圧水銀灯で100mJ/cm紫外線を照射した後、120℃のホットプレートで120秒間ベークを行った。次に、スクリーン印刷で電子放出材料を含む組成物を塗布し、85℃の熱風乾燥機で15分間乾燥した。カソード基板の断面をSEMを用いて観察したところ、レジストと電子放出物質層の界面がはっきりと確認でき、電子放出物質層がカソード電極に接着している様子が観察された。次いで、基板の背面から超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射し、アセトン中で超音波を30秒間照射しながらレジストと未露光の電子放出物質層の除去を行った。このようにして得られた電子放出素子は、電子放出源の抜けが発生せず、レジスト残渣もない良好なパターンであった。
【0043】
実施例2
1cm×1cmにΦ15μmの穴が100μm間隔で並んだカソード基板にスピンコーターを用いて画像反転レジストAZ5214Eを塗布した後、100℃のホットプレートで60秒間プリベークを行った。次いでネガ型クロムマスク(Φ13μm、100μm間隔)を用い、Φ13μmの穴の中心に遮光パターンが位置するようアライメントし、超高圧水銀灯で30mJ/cm紫外線を照射した後、120℃のホットプレートで120秒間ベークを行った。次いでカソード基板の前面から画像反転レジストの全面に紫外線を100mJ/cm照射後、23℃のフォトレジスト現像液(AZ400K)に60秒間浸漬し、超純水でリンスした。次に、スクリーン印刷で電子放出材料を含む組成物を塗布し、85℃の熱風乾燥機で15分間乾燥した。カソード基板の断面をSEMを用いて観察したところ、レジストと電子放出物質層の界面がはっきりと確認でき、電子放出物質層がカソード電極に接着している様子が観察された。次いで、基板の背面から超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射し、アセトン中で超音波を30秒間照射しながらレジストと未露光の電子放出物質層の除去を行った。このようにして得られた電子放出素子は、電子放出源の抜けが発生せず、レジスト残渣もない良好なパターンであった。
【0044】
比較例1
1cm×1cmにΦ15μmの穴が100μm間隔で並んだカソード基板にスピンコーターを用いてポジ型レジストAZ1500を塗布した後、100℃のホットプレートで60秒間プリベークを行った。次いでポジ型クロムマスク(Φ13μm、100μm間隔)を用い、Φ15μmの穴の中心にマスク開口部が位置するようアライメントし、50mW/cm出力の超高圧水銀灯で30mJ/cm紫外線を照射した。次いで、23℃のフォトレジスト現像液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 商品名AZ400Kを4倍に希釈)に60秒間浸漬しレジストの露光部分を除去し、超純水でリンスした。続いて、120℃のホットプレートで120秒間ポストベークを行った。次に、スクリーン印刷で電子放出材料を含む組成物を塗布し、85℃の熱風乾燥機で15分間乾燥した。カソード基板の断面をSEMを用いて観察したところ、レジストと電子放出物質層が混ざり合っており界面が観察できず、ゲート電極上のレジストが電子放出物質層とカソード電極の間に流れ込み接着できていない様子が観察された。次いで、基板の背面から超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射し、アセトン中で超音波を30秒間照射しながらレジストと未露光の電子放出物質層の除去を行った。このようにして得られた電子放出素子は、レジスト残渣は発生しなかったが電子放出源の抜けが発生した。
【0045】
比較例2
1cm×1cmにΦ15μmの穴が100μm間隔で並んだカソード基板にスピンコーターを用いてネガ型レジストAZ CTP−100を塗布した後、100℃のホットプレートで180秒間プリベークを行った。次いでネガ型クロムマスク(Φ13μm、100μm間隔)を用い、Φ13μmの穴の中心に遮光パターンが位置するようアライメントし、超高圧水銀灯で100mJ/cm紫外線を照射した後、100℃のホットプレートで90秒間ポストベークを行った。次いで23℃のフォトレジスト現像液(AZ400K)に60秒間浸漬し、超純水でリンスした後、240℃のホットプレートでポストベークした。次に、スクリーン印刷で電子放出材料を含む組成物を塗布し、85℃の熱風乾燥機で15分間乾燥した。カソード基板の断面をSEMを用いて観察したところ、レジストと電子放出物質層の界面がはっきりと確認でき、電子放出物質層がカソード電極に接着している様子が観察された。次いで、基板の背面から超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射し、アセトン中で超音波を30秒間照射しながらレジストと未露光の電子放出物質層の除去を行った。このようにして得られた電子放出素子は、電子放出源の抜けは発生しなかったが、ゲート電極上にレジストの残渣が発生した。
【0046】
比較例3
犠牲層形成用レジストと未露光の電子放出物質層の除去をN−メチルピロリドンを用い、超音波を60秒間照射しながら行ったこと以外は比較例2と同様に行った。このようにして得られた電子放出素子は、レジストの残渣は発生しなかったが、電子放出源の抜けが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ポジ型マスクを用いる場合の犠牲層のパターニング方法である。
【図2】ネガ型マスクを用いる場合の犠牲層のパターニング方法である。
【符号の説明】
【0048】
10 基板
20 カソード電極
30 絶縁層
40 ゲート電極
50 画像反転レジスト
51 レジストの露光された領域
52 レジストの硬化された領域
60 ポジ型マスク
70 ネガ型マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板上にカソード電極を形成する工程と、(b)前記カソード電極上に、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた犠牲層を形成する工程と、(c)前記パターニングされた犠牲層および露出したカソード電極の上に電子放出物質層を形成する工程と、(d)前記犠牲層と前記犠牲層上の電子放出層を除去する工程を含む電子放出素子の製造方法であって、前記犠牲層が画像反転レジストによって形成されることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
(a)工程と(b)工程の間に、カソード電極上にカソード電極の一部が露出するようパターニングされた絶縁層を形成する工程を含み、(b)工程が、前記絶縁層上に、カソード電極の一部が露出するようパターニングされた犠牲層を形成する工程であることを特徴とする、請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
(b)工程が、(b−1)前記カソード電極上またはパターニングされた絶縁層上に画像反転レジスト層を形成する工程、(b−2)前記画像反転レジスト層の不要部分を露光・現像することにより除去し、カソード電極の一部を露出させる工程、および(b−3)不要部分を除去した画像反転レジスト層を露光および加熱する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
(b)工程が、(b−1’)前記カソード電極上またはパターニングされた絶縁層上に画像反転レジスト層を形成する工程、(b−2’)前記画像反転レジスト層の不要部分以外を露光および加熱する工程、(b−3’)前記画像反転レジストの不要部分を現像することにより除去し、カソード電極の一部を露出させる工程を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記電子放出物質層に含まれる電子放出材料が、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−224093(P2009−224093A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65338(P2008−65338)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】