説明

電子放出素子及びその製造方法

【課題】 消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子を提供する。
【解決手段】この発明によれば、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極とを備え、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成したことを特徴とする電子放出素子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらの電子放出素子は素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。また、これらの電子放出素子は素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。このため、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、スピント(Spindt)型やCNT(カーボンナノチューブ)型、BN(窒化ホウ素)型の電子放出素子のように気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0003】
また、大気中でも安定した電子放出を可能とし、電子放出に伴うオゾンやNOX等の有害物質の発生を抑制した電子放出素子が開発されている。例えば、電極間に、導電体からなり抗酸化作用が強い導電性微粒子と、上記導電性微粒子の大きさよりも大きい絶縁体物質とが含まれる電子加速層が設けられた電子放出素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−146891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記電子放出素子は、素子が放出する電子放出量が増大すると素子内の電流も増大するという傾向があり、電子放出素子の消費電力の改良が望まれている。
【0006】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、第1電極と第2電極との間に第1電極を負極とする直流電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成した電子放出素子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
この発明の発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討を行った。その結果、電極間の層を形成する絶縁性微粒子が単分散微粒子であることにより、その層が均一に充填されて形成されると、電子放出素子の消費電力及び効率が改善できることを見出し、この発明の完成に至った。この発明によれば、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施形態1に係る電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】実施例1の絶縁性微粒子層断面のSEM観察像を示す図である。
【図3】実施例1の絶縁性微粒子層表面のSEM観察像を示す図である。
【図4】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図5】実施例1の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図6】比較例1の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図7】この発明の実施形態2に係る電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図8】実施例2の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図9】比較例2の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図10】この発明の電子放出素子を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図11】この発明の電子放出素子を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図12】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図13】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図14】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図15】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の他の一例を示す図である。
【図16】この発明に係る電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図17】この発明の電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の電子放出素子は、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、第1電極と第2電極との間に第1電極を負極とする直流電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成したことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、絶縁性微粒子層が絶縁性微粒子で構成され、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であるので、絶縁性微粒子層は、欠陥が生じにくく、かつその表面に凹凸が生じにくい。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子が提供される。このため、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子が提供される。
また、この発明は、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であることにより、前記絶縁性微粒子層は、前記絶縁性微粒子が密に充填されて形成されてもよい。
【0012】
絶縁性微粒子として、体積基準の粒径分布の80%以上が、単分散微粒子で構成されていればよい。
なお、本発明においては、単分散微粒子とは、粒径が揃い、形状が均一な球形粒子のことを意味し、下記に粒径および形状の具体的基準を示す。
すなわち、粒径に関しては、体積基準で算出した粒径の平均値(以下、この明細書において単に平均粒径という。)に対する標準偏差の比(標準偏差/平均粒径)として定義される変動係数(coefficient of variation, CV。以下、この明細書において単にCVという。)の値が10%以下の粒子とした。
単分散微粒子の平均粒径および標準偏差の測定は、任意に抽出した500個の微粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、その画像(SEM画像)を画像処理によって輪郭の周囲長を円周率(π)で除することにより換算粒径を求め、その値をもとに体積基準の平均粒径および標準偏差を算出した。
形状に関しては、具体的には、任意に抽出した500個の微粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、その画像(SEM画像)を画像処理によって、輪郭の2点を結ぶ直線のうち、最長となる直線の長さ(最長直径)を求め、95%以上の粒子において、最長直径に対する換算粒径の比が0.9以下となる粒子をいう。
【0013】
この発明の実施形態において、前記発明の電子放出素子の構成に加え、前記絶縁性微粒子層がさらに導電性微粒子を含むことを特徴とする。
【0014】
この実施形態によれば、導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層が電極間の電子を加速させる電子加速層として機能するとともに、これらの層が半導電性を示す。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子が提供される。従って、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子が提供される。
【0015】
この実施形態において、前記導電性微粒子が、抗酸化作用が強い導電性物質で形成された微粒子であってもよい。
ここで、抗酸化作用が強いとは、酸化物が生成される反応が生じにくく、その反応性が低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きいほど、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。この発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電性物質に該当する。また、このような導電性物質を導電性微粒子に付着させて、抗酸化作用が強い導電性物質で形成された微粒子として用いてもよい。また、このような導電性物質で導電性微粒子を被覆した粒子を抗酸化作用が強い導電性物質で形成された微粒子として用いてもよい。
【0016】
このような構成によれば、前記導電性微粒子が酸化しにくいので、大気中の酸素による酸化などによる電子放出素子の劣化を防ぐことができる。このため、大気中の使用に耐え、かつ寿命が長い電子放出素子が提供される。
【0017】
例えば、前記導電性微粒子が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含む微粒子であってもよい。
【0018】
また、導電性微粒子の周囲に、当該導電性微粒子の大きさより小さい小絶縁体物質が存在していてもよい。
このような構成によれば、絶縁体物質に被覆された導電性微粒子を分散させた分散液を塗布することにより、分散液の分散性を向上させることができる。このため、分散液における導電性微粒子が凝集しにくい。また、導電性微粒子が酸化しにくいので、電子放出素子の特性が変化しにくい。従って、大気中の酸素による酸化などによる電子放出素子の劣化を防ぐことができる。
【0019】
例えば、前記絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含む物質であってもよい。
【0020】
また、前記導電性微粒子は、絶縁性微粒子の平均粒径より小さくてもよい。例えば、前記導電性微粒子は、その平均粒径が3〜20nmであってもよい。
【0021】
このように構成すれば、導電パスが形成されにくく、導電性微粒子と絶縁性微粒子とで構成される電子加速層に絶縁破壊が生じにくい。
【0022】
また、前記絶縁性微粒子層、つまり、導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層は、その膜厚が8〜3000nmであることが好ましい。また、それらをあわせた膜厚が30〜1000nmであることがより好ましい。
【0023】
このように構成すれば、絶縁性微粒子層を均一な層にすることができる。また絶縁性微粒子層の層厚方向における抵抗調整が容易になる。このため、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることができ、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
【0024】
この発明の実施形態において、前記発明の電子放出素子の構成に加え、さらに、第1電極上に形成された炭素膜を備え、前記炭素膜は、その膜上に前記絶縁性微粒子層が形成されていることを特徴とする。
【0025】
この実施形態によれば、前記発明の電子放出素子の構成に加え、第1電極上に形成された炭素膜を備え、前記炭素膜は、その膜上に前記絶縁性微粒子層が形成されているので、前記炭素膜と前記絶縁性微粒子層とが電極間の電子を加速させる電子加速層として機能するとともに、これらの層が半導電性を示す。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子が提供される。従って、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子が提供される。
【0026】
この実施形態において、前記炭素膜は、その膜厚が5〜300nmであることが好ましい。また、その膜厚が10〜100nmであることがより好ましい。
【0027】
このように構成すれば、第1電極表面に生じた微細な凹凸を炭素膜により平滑化できる。このため、炭素膜上の絶縁性微粒子に電子を均一に移動させて、電子放出素子全体から一様に電子を放出させることができる。
【0028】
また、前記絶縁性微粒子層は、その膜厚が20〜3000nmであることが好ましい。また、その膜厚が30〜1000nmであることがより好ましい。
【0029】
このように構成すれば、前記炭素膜と前記絶縁性微粒子層と構成される電子加速層を均一な層にすることができる。また電子加速層の層厚方向における抵抗調整が容易になる。このため、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることができ、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
【0030】
この発明の電子放出素子において、前記絶縁性微粒子は、SiO2、Al23、及びTiO2の少なくとも1つを含む微粒子であってもよい。
【0031】
これらの微粒子に含まれる物質は、絶縁性が高いので、前記絶縁性微粒子で構成される絶縁性微粒子層の抵抗値を任意の範囲に調整できる。
【0032】
また、この発明の電子放出素子において、第2電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含む材料で形成された電極であってもよい。
【0033】
これらの第2電極に含まれる物質は、その仕事関数が低いので、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせることができる。このため、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
なお、この電子加速層は、炭素膜と絶縁性微粒子層と構成される電子加速層又は導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層である電子加速層である。
【0034】
また、この発明の電子放出素子において、前記絶縁体粒子は、その平均粒径が5〜1000nmであることが好ましい。またその平均粒径が15〜500nmであることがより好ましい。
【0035】
このように構成すれば、電流が電子放出素子内を流れるときに発生するジュール熱を効率よく逃がすことができるので、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層(炭素膜と絶縁性微粒子層とにより構成される電子加速層又は導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層である電子加速層)における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0036】
また、この発明の電子放出素子を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、安定で長寿命な面発光を実現する自発光デバイスが提供される。
【0037】
また、この発明の電子放出素子を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却することができる。
【0038】
また、この発明の電子放出素子を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して被帯電体を帯電させることができる。
【0039】
また、この発明の電子放出素子を、電子線硬化装置に用いることにより、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
【0040】
また、この発明の電子放出素子を電子放出装置に用いてもよい。つまり、この発明は、前記いずれか一つの電子放出素子と、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を備える電子放出装置であってもよい。前記電源部は、第1電極を負極とする直流電源であってもよい。適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られるとともに長時間連続して動作する電子放出素子を用いるので、電子を安定して放出させる電子放出装置が提供される。
【0041】
なお、これらの装置、つまり、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置及び電子放出装置は、複数の電子放出素子を含んでもよい。例えば、複数の電子放出素子が平面体上に配置されて、これらの装置に適用されてもよい。また、複数の電子放出素子が第1電極を兼用して用いられてもよい。
【0042】
この発明の電子放出素子の製造方法は、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、第1電極と第2電極との間に第1電極を負極とする直流電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成した電子放出素子の製造方法であって、第1電極上に単分散の絶縁性微粒子が分散された分散液を塗布することより絶縁性微粒子層を形成する工程と、前記絶縁性微粒子層上に電極を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0043】
この発明によれば、絶縁性微粒子層が絶縁性微粒子で構成され、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子である電子放出素子を製造できる。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子の製造方法が提供される。このため、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子の製造方法が提供される。
【0044】
この発明の実施形態において、前記発明の製造方法の構成に加え、前記絶縁性微粒子層上に導電性微粒子が分散された分散液を塗布することより導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層を形成する工程をさらに備え、前記電極を形成する工程が前記導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層上に電極を形成する工程であってもよい。例えば、前記絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記絶縁性微粒子が水に分散された分散液を塗布する工程であり、前記導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記導電性微粒子が溶媒に分散された分散液を塗布する工程であってもよい。
【0045】
この実施形態によれば、絶縁性微粒子層上に形成され、導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層を備える電子放出素子を製造できる。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子の製造方法が提供される。従って、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子の製造方法が提供される。
【0046】
この発明の実施形態において、前記発明の製造方法の構成に加え、第1電極上に炭素膜を形成する工程をさらに備え、前記絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記炭素膜上に単分散の絶縁性微粒子が分散された分散液を塗布することより絶縁性微粒子層を形成する工程であってもよい。
【0047】
この実施形態によれば、第1電極上に形成された炭素膜を備え、前記炭素膜は、その膜上に前記絶縁性微粒子層が形成されている電子放出素子が製造できる。このため、素子内の電流量を抑制しつつ電子放出量を増大させる電子放出素子の製造方法が提供される。従って、消費電力が抑制され、電子放出の効率が高い電子放出素子の製造方法が提供される
【0048】
この発明の電子放出素子の製造方法において、前記絶縁性微粒子層を形成する工程がスピンコート法により前記分散液を塗布する工程であってもよい。スピンコート法は、分散液を広範囲に塗布することが容易であるので、広範囲に電子放出するデバイスを容易に製造することができる。
【0049】
なお、第1電極は、絶縁性微粒子層に電圧を印加するための導体又は半導体であり、単一の構造体であっても、複数の構造体で構成された構造体であってもよい。例えば、第1電極は、金属板であってもよいし、絶縁体上に形成された金属膜(ガラス基板に形成されたアルミ膜等)であってもよい。この第1電極は、いわゆる電極基板を含む。
【0050】
以下、この発明の実施形態および実施例について、図1〜18を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施形態および実施例はこの発明の具体的な一例に過ぎず、この発明はこれらよって限定されるものではない。
【0051】
〔実施形態1〕
図1は、この発明の電子放出素子の一実施形態煮に係る構成を示す模式図である。図1に示すように、この実施形態に係る電子放出素子1は、電極基板2と、電極基板2上に形成され、電極基板2から供給される電子を加速するための電子加速層4と、電子加速層4上に電極基板2と対向して形成された薄膜電極3とを備えている。この電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から供給される電子を電子加速層4で加速させて薄膜電極3から放出させる。つまり、電極基板2と薄膜電極3との間の電子加速層4に電流が流れ、その一部が、印加電圧の形成する強電界により弾道電子として電子加速層4から放出され、薄膜電極3側より素子外部へと放出される。電子加速層4から放出された電子は、薄膜電極3を通過(透過)して、或いは、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4の表面に凹凸等の影響から生じる薄膜電極3の孔(隙間)からすり抜けて外部へと放出される。
【0052】
電極基板2は、基板の機能を兼ねる電極であり、導体で形成された板状体で構成されている。つまり、ステンレス(SUS)で形成された板状体で構成されている。この電極基板2は、電子放出素子の支持体として機能するとともに電極として機能するため、ある程度の強度を有し、適度な導電性を有するものであればよい。ステンレス(SUS)のほか、例えばSUSやTi、Cu等の金属で形成された基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を用いることができる。
【0053】
また、電極基板2は、金属膜で形成された電極がガラス基板のような絶縁体基板やプラスティック基板等に形成された構造体であってもよい。例えば、ガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、電子加速層4との界面となる絶縁体基板の面を金属などの導電性物質で被覆し、導電性物質で被覆された絶縁体基板を、電極基板2として用いてもよい。この導電性物質の電極は、マグネトロンスパッタ等を用いて導電性材料を形成できれば、その材質は問わない。ただし、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電性材料を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、この導電性物質には、酸化物導電材料であり透明電極に広く利用されているITOも有用である。また、絶縁体基板を被覆する導電性物質には、強靭な薄膜を形成するため、複数の導電性物質を用いてもよい。例えば、ガラス基板表面にTiが200nm成膜され、さらに重ねてCuが1000nm成膜された金属薄膜を電極基板2として用いてもよい。このようなTi薄膜及びCu薄膜でガラス基板を被覆すると、強靭な薄膜を形成できる。なお、絶縁体基板の表面を導電性物質で被覆する場合、電極を形成するため、周知のフォトリソやマスクを用いて方形等のパターンを形成してもよい。また、導電性物質や薄膜の膜厚は特に限定されないが、後述するように電極基板2に電子加速層等の構造体を形成するため、これらの構造体と接着性が良好であるとよい。
【0054】
薄膜電極3は、電子加速層4上に電極基板2と対向するように形成されている。この薄膜電極3は、電極基板2と対の電極を構成し、電極基板2とともに電子加速層4内に電圧を印加させるための電極である。このため、電極として機能する程度に導電性を有するものであればよい。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスさせないで透過させて放出させるという電極でもあるので、仕事関数が低くかつ薄膜で形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
【0055】
薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から素子外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要である。このため、薄膜電極3の膜厚は10〜55nmの範囲とするとよい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
【0056】
電子加速層4は、電極基板2を上にその電極を覆う層として形成されている。図1に示すように、電子加速層4は、絶縁体微粒子5で構成された絶縁体微粒子層4Bにより形成され、この絶縁体微粒子層4Bには、導電微粒子6が含まれている。つまり、電子加速層4である絶縁体微粒子層4Bは、絶縁体微粒子5及び導電微粒子6で構成されている。
【0057】
絶縁体微粒子層4Bは、電極基板2上に形成され、絶縁体微粒子5で構成されている。絶縁体微粒子5が単分散微粒子であることにより、絶縁体微粒子層4Bは、絶縁体微粒子5が均一に充填されて形成されている。
【0058】
絶縁体微粒子5は、単分散微粒子である粒子である。絶縁性微粒子として、体積基準の粒径分布の80%以上が、単分散微粒子で構成されていればよい。
なお、本発明においては、単分散微粒子とは、粒径が揃い、形状が均一な球形粒子のことを意味し、下記に粒径および形状の具体的基準を示す。
すなわち、粒径に関しては、体積基準で算出した粒径の平均値(以下、この明細書において単に平均粒径という。)に対する標準偏差の比(標準偏差/平均粒径)として定義される変動係数(coefficient of variation, CV。以下、この明細書において単にCVという。)の値が10%以下の粒子とした。
単分散微粒子の平均粒径および標準偏差の測定は、任意に抽出した500個の微粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、その画像(SEM画像)を画像処理によって輪郭の周囲長を円周率(π)で除することにより換算粒径を求め、その値をもとに体積基準の平均粒径および標準偏差を算出した。
形状に関しては、具体的には、任意に抽出した500個の微粒子を走査型電子顕微鏡で撮影し、その画像(SEM画像)を画像処理によって、輪郭の2点を結ぶ直線のうち、最長となる直線の長さ(最長直径)を求め、95%以上の粒子において、最長直径に対する換算粒径の比が0.9以下となる粒子をいう。
このような単分散微粒子である絶縁体微粒子5には、例えば、日産化学工業株式会社製コロイダルシリカMP−1040、平均粒径100nm、40wt%)がある。ほか、コロイダルシリカMP−4540(平均粒径450nm、40wt%)、MP−3040(平均粒径300nm、40wt%)、スノーテックス20(平均粒径15nm、20wt%)、スノーテックスSX(平均粒径5nm、20wt%)等(以上、日産化学工業株式会社製)を用いてもよい。
なお、絶縁体微粒子5は、単分散微粒子は形状の均一性が高い粒子であれば、例えば、ロッド形状の粒子であってもよい。ロッド状の粒子であれば、その粒径と長さが上記CVの値を満たせばよい。
【0059】
また、絶縁体微粒子5は、微粒子、つまり、主としてナノサイズの粒子で構成されている。絶縁体微粒子5は、その平均粒径が5〜1000nmであるものが好ましい。また、その平均粒径が15〜500nmであるものがより好ましい。これらの数値範囲に含まれる平均粒径の絶縁体微粒子5を用いれば、絶縁体微粒子層4Bの抵抗値を容易に調整できるので好ましい。また、このような絶縁体微粒子5を用いた電子放出素子は、電子放出素子が動作するときに素子内を流れる電流により生じるジュール熱を効率よく廃熱するので、熱による電子放出素子を防止できる。このため、上記数値範囲に含まれる平均粒径の絶縁体微粒子5が好ましい。
【0060】
また、絶縁体微粒子5は、絶縁性を持つ材質で形成となればよく、実用的な材質として、例えば、SiO2、Al23、TiO2といった絶縁物を挙げることができる。より具体的には、例えば、日産化学工業株式会社の製造販売するコロイダルシリカが利用可能である。
【0061】
絶縁体微粒子層4Bには、導電微粒子6が含まれ、この導電微粒子6は均一に充填された絶縁体微粒子5の間に配置されている。この導電微粒子6は、抗酸化作用が強い導電性物質で形成された微粒子で構成されている。
【0062】
導電微粒子6には、絶縁体微粒子5と同様に微粒子を用いている。導電微粒子6は、絶縁体微粒子層4Bの導電性を制御するため、絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さい平均粒径を有する微粒子を用いる必要がある。このため、導電微粒子6の平均粒径は、3〜20nmであるのが好ましい。導電微粒子6の平均粒径を、縁体微粒子5の平均粒径よりも小さくすることにより、電子加速層4内で、導電微粒子6による導電パスが形成されず、電子加速層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0063】
また、電性微粒子6は、弾道電子を生成するという動作原理からすると、材質は、どのような導電性物質であってもよい。ただし、大気圧中で動作させた時に、酸化して劣化することを防止するため、抗酸化作用が強い導電性物質である必要があり、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった導電性物質で導電微粒子6を形成するとよい。このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。
【0064】
なお、絶縁体微粒子層4Bは、絶縁体物質を含み、導電微粒子6は、この絶縁体物質により被覆されてもよい。例えば、絶縁体物質で形成され、導電微粒子6の大きさよりも小さい小絶縁構造体が、導電微粒子6表面の一部又は全部を覆うように付着してもよい。この小絶縁構造体は、導電微粒子6の平均粒径よりも小さい粒子等の集合体であってもよく、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁性被膜であってもよい。また、導電微粒子の表面に導電材料が酸化することにより形成される膜(以下、酸化被膜)であってもよい。この小絶縁構造体を形成する絶縁体物質は、絶縁体微粒子層4Bが電子加速層として機能し、弾道電子を生成するという動作原理からすると、どのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、小絶縁構造体が導電微粒子の表面に形成された酸化被膜である場合、大気中での酸化による劣化によって、この酸化被膜が所望の膜厚以上に厚くなってしまうことがあるので、このような劣化による影響を避けるため、小絶縁構造体を導電微粒子の表面に形成された有機膜(有機材料で形成された絶縁性被膜)としてもよい。例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料で形成された膜であってもよい。その厚さは薄いほうが有利であることが言える。
【0065】
導電微粒子6を含む絶縁体微粒子層4Bは、電極基板2に電圧が印加されると、電極基板2から供給される電子を加速させる電子加速層としての機能をもつ。電子放出素子1は、できるだけ低い電圧で強い電界を加えて電子を加速させることが好ましいので、この電子加速層4の層厚はできるだけ薄いほうがよい。つまり、電子加速層4が8〜3000nmの層厚であると好ましい。これにより、電子加速層4の層厚を均一に形成でき、かつ、電子加速層の層厚方向における電気抵抗の値の調整が容易となる。また、電子加速層4は、30〜1000nmの層厚であるとより好ましい。電子加速層の層厚をより均一に形成できるとともに、電子加速層の層厚方向における電気抵抗の値の調整がより容易となる。このため、電子放出素子表面の全面にわたって一様な電子の放出が可能となり、電子放出素子の薄膜電極から効率よく電子を放出させることができる。
【0066】
ここで、導電微粒子6を含む絶縁体微粒子層4B、つまり電子加速層4の作用について説明する。電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から、電極基板2と薄膜電極3との間に設けられた電子加速層4にある絶縁体微粒子の表面に電子が移る。絶縁体微粒子の内部は高抵抗であるため電子は絶縁体微粒子の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子の表面の不純物や表面処理剤、あるいは絶縁体微粒子間の接点において、電子がトラップされる。絶縁体微粒子層4Bの導電微粒子は、このトラップされた電子が薄膜電極3下へ移動する動作を補助する。薄膜電極3の下側では、印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって強電界となり、この強電界によって電子が加速され、薄膜電極3から電子が放出される状態に至る。
一方、絶縁体微粒子層4Bは、単分散微粒子である絶縁体微粒子で構成され、この粒子が均一に充填されているので、絶縁体微粒子間の接点が絶縁体微粒子層4B内に均一に分布し、また、電子が伝導する導通路も均一に分布することになる。このため、電子を効率的にトラップしながら伝導させることができ、その結果、弾道電子をより多く生じさせて薄膜電極3から多量の電子を放出させる。
【0067】
以上のような作用から、この実施形態に係る電子放出素子は、素子内の電流量が抑制され、かつ電子放出量が増大する。
【0068】
なお、この電子放出素子は、電極基板2と薄膜電極3とが電源7に接続されて用いられる。図1に示すように、電子放出素子1と、電極基板2と薄膜電極3とに接続された電源7とを備える電子放出装置を構成してもよい。
【0069】
〔製造方法〕
次に、実施形態1に係る電子放出素子1の製造方法について説明する。
まず、水に単分散の絶縁体微粒子5が分散された絶縁体微粒子分散液を用意する。分散液における絶縁体微粒子5の濃度は、10wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%より低濃度であれば、電極基板上に絶縁体微粒子5を充填することができず、50wt%より高濃度であれば、粘度が上昇し、凝集が起こり薄膜化できない。単分散の絶縁体微粒子が分散された分散液の例としては、日産化学工業株式会社製の親水性シリカの分散液であるコロイダルシリカMP−4540(平均粒径450nm、40wt%)、MP−3040(平均粒径300nm、40wt%)、MP−1040(平均粒径100nm、40wt%)、スノーテックス20(平均粒径15nm、20wt%)、スノーテックスSX(平均粒径5nm、20wt%)が挙げられる。
【0070】
また、導電微粒子6が分散された導電微粒子分散液も用意する。導電微粒子分散液は、導電微粒子6を分散溶媒に分散させてもよいし、市販品を使用してもよい。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器を用いて分散すればよい。この分散液に用いる溶媒は、疎水性が高く、極性の低い有機溶媒を用いるとよい。上記で説明した絶縁体微粒子6は、親水性であるので、このような溶媒を用いることによって、親水性の絶縁体微粒子が均一に充填された絶縁体微粒子層が溶解することを防ぐことができる。このような有機溶媒として、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等を挙げることができる。
ここで、分散性を向上させるため、導電微粒子6に表面処理を施してもよい。導電微粒子6に表面処理を施している場合、その表面処理方法によって、分散に適した分散溶媒を用いる。例えば、表面をアルコラート処理された導電微粒子6には、トルエンもしくヘキサンが好ましい。
【0071】
また、導電微粒子分散液は、導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で用いることにより、導電微粒子分散液としてもよい。導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で用いると、導電微粒子6が凝集することなく導電微粒子6が均一に分散された分散液を塗布することができる。導電微粒子6のナノコロイド液の例としては、ハリマ化成株式会社が製造販売する金ナノ粒子コロイド液、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子、株式会社徳力化学研究所が製造販売する白金ナノ粒子コロイド液及びパラジウムナノ粒子コロイド液、株式会社イオックスの製造販売するニッケルナノ粒子ペーストなどが挙げられる。
【0072】
次いで、電極基板2上に、調整された絶縁体微粒子分散液をスピンコート法にて塗布し、絶縁体微粒子層を作製する。ただし、例えば、電極基板がアルミやステンレスで形成され、電極基板の表面が疎水性を示す場合、親水性のシリカ分散体を撥水するため、電極基板の表面に親水化処理を施す。親水化処理は特に限定されないが、例えば、UV処理であれば、真空度20Pa下で電極基板の表面にUV照射を10分間行う。
分散液のスピンコート条件は、特に限定されないが、電極基板2に調整された分散液を塗布した後、例えば、スピン回転数500rpmで5秒間、電極基板2を回転させた後、スピン回転数3000から4500rpmで10秒間、電極基板を回転させる。電極基板に対する塗布量は特に限定されないが、例えば、24mm角の電極基板に塗布する場合、0.2mL/cm2以上であればよい。
そして、スピンコート法による塗布を行った後、分散液が塗布された電極基板2を乾燥させる。このようにして形成された絶縁体微粒子層4Bは、絶縁体微粒子が均一に充填された層となる。
【0073】
次いで、絶縁体微粒子層上に、調整された導電微粒子分散液をスピンコート法にて塗布し、導電微粒子を含む絶縁体微粒子層4Bを作製する。導電微粒子分散液を絶縁体微粒子層上に塗布することにより、導電微粒子が絶縁体微粒子層内に侵入し、その結果、導電微粒子を含む絶縁体微粒子層4Bが形成される。スピンコート条件は、特に限定されない。また、上記の絶縁体微粒子分散液の塗布と同様に、塗布後、乾燥させる。
【0074】
次いで、形成された導電微粒子を含む絶縁体微粒子層4B上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いる。薄膜電極3を、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等により成膜してもよい。
以上により、実施形態1に係る電子放出素子が完成する。
【0075】
なお、導電微粒子を含む絶縁体微粒子層4Bの形成は、スピンコート法で説明したが、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法、噴霧法、インクジェット法を用いてもよい。また、スピンコート法やこれらの方法による塗布、乾燥を繰り返すことにより、所望の膜厚を備える絶縁体微粒子層4Bを形成してもよい。
【0076】
(実施例1)
以下、本発明に係る電子放出素子の実施例について説明する。
電極基板2として25mm×25mm角のITO基板を用い、真空度20Pa下でUV照射を10分間行った。
次に、絶縁体微粒子として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカMP−1040(体積分布80%を占める単分散成分の粒子の平均粒径117nm、標準偏差0.26nm、CV値0.22%)を2mL、電極基板上に滴下し、スピンコート法を用いて、回転数を5sで0rpmから3000rpmに上昇させ、さらに10s間3000rpmで回転した。このようにして絶縁体微粒子層を形成した。
【0077】
図2に実施例1の絶縁体微粒子層断面のSEM観察像を、図3には実施例1の絶縁体微粒子層表面のSEM観察像をそれぞれ示す。図2及び図3から、単分散の絶縁体微粒子が整列して充填していることが確認できる。
【0078】
次に、試薬瓶にトルエン溶媒3.0g、導電微粒子として応用ナノ研究所株式会社製の平均径10nmの銀ナノ粒子0.5gを投入し、試薬瓶を超音波分散器に5分間かけ、導電微粒子分散液を調製した。
次に、この導電微粒子分散液を上記で得られた絶縁体微粒子層状に2mL滴下後、スピンコート法を用いて、回転数を5sで0rpmから3000rpmに上昇させ、さらに10s間3000rpmで回転した。このようにして整列して充填した単分散の絶縁体微粒子と導電微粒子から成る電子加速層4を得た。電子加速層4の膜厚は770nmであった。
電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例1の電子放出素子1を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0079】
このように作成した実施例1の電子放出素子1について、図4に示す測定系を1×10-8ATMの真空中において、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
図4の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9(径:1mm)を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源7AによりV1の電圧が印加され、対向電極8には電源7BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源7Aとの間を流れる単位面積当たりの素子内電流(素子内電流密度)I1と、対向電極8と電源7Bとの間に流れる単位面積当たりの電子放出電流I2(電子放出電流密度)を測定した。
【0080】
薄膜電極3への印加電圧V1=24.4V、対向電極8への印加電圧V2=100Vとしたところ、単位面積当たりの素子内電流I1=0.0171A/cm2、単位面積当たりの電子放出電流I2=0.0806mA/cm2、素子効率0.47%が確認された。測定結果を図5に示す。
【0081】
〔比較例1〕
比較例として、この出願の出願人が先にした特許出願(特願2008−295722)に係る電子放出素子を作製した。電子放出特性の測定は、実施例1と同様に図4に示す測定系を用いた。つまり、1×10-8ATMの真空中において、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
【0082】
比較例の作製は以下のようにして行った。すなわち、10mLの試薬瓶に、トルエン溶媒3mLと、絶縁体微粒子5として平均径110nmの球状シリカ粒子0.5gとを投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散液(C)を調製した。
次に、この分散液(C)に、金属微粒子として銀ナノ粒子(平均径10nm、絶縁被覆アルコラート1nm膜、株式会社応用ナノ粒子研究所製)0.026gを投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子5と銀ナノ粒子との混合液(D)を調製した。こうして得られた分散液は、銀ナノ粒子の配合割合が5%である。
電極基板2として30mm角のSUS基板上に、上記で得られた混合液(D)を滴下後、スピンコート法を用いて、回転数を5sで0rpmから3000rpmに上昇させ、さらに10s間3000rpmで回転した。このようにして絶縁体微粒子5および銀ナノ粒子を堆積させ、電子加速層4を得た。電子加速層4の膜厚は1.5μmであった。
電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は12nm、同面積は0.28cm2とした。
【0083】
薄膜電極3への印加電圧V1=14.6V、対向電極8への印加電圧V2=50Vとしたところ、単位面積当たりの素子内電流I1=0.0309A/cm2、単位面積当たりの電子放出電流I2=0.0130mA/cm2、素子効率0.042%が確認された。なお、真空中では電子の散乱がないため、電子放出電流量は対向電極への印加電圧に依存しない。図6に、測定結果を示す。
【0084】
図5及び図6を参照すると、比較例1の電子放出素子の素子効率は、0.042%であるのに対し、実施例1の電子放出素子1の素子効率は1.17%であり、実施例1の電子放出素子1は、素子効率が高く、小さな素子内電流量にて多くの電子放出量をもつ素子であることがわかる。
【0085】
〔実施形態2〕
図7は、この発明の実施形態2に係る構成を示す模式図である。この実施形態2に係る電子放出素子1は、実施形態1と同様に、電子加速層4として絶縁体微粒子層を備えるが、この絶縁体微粒子層は、導電微粒子6を含まない点で相違している。この実施形態2に係る電子放出素子1は、電子加速層4として炭素膜4Cと絶縁体微粒子層4Aとを備えている。以下、実施形態1と相違する電子加速層4について説明する。
【0086】
実施形態2における電子加速層4は、電極基板2上に形成された炭素膜4Cと、炭素膜4C上に形成された絶縁体微粒子層4Aとを備えている。絶縁体微粒子層4A上には、薄膜電極3が形成され、電極基板2と薄膜電極3の間にある炭素膜4C及び絶縁体微粒子層4Aが電子加速層4を構成している。
【0087】
炭素膜を設けた場合の電子加速層の作用は以下のように説明できる。つまり、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から電子が炭素膜4Cに移り、さらに炭素膜4Cからその上に設けられた絶縁体微粒子の表面へ電子が移る。炭素膜4Cは、微細な凹凸のある電極基板と絶縁体微粒子層との間でこれらを密着させ接触をよくするので(付着力を高めるので)、電極基板と絶縁体微粒子の間で電子をより均一に移動させる役割を果たす。このため、電極基板と絶縁体微粒子間に炭素膜があることによって、電子を均一に効率的に移動させることができる。絶縁体微粒子の内部は高抵抗であることから電子は絶縁体微粒子の表面を伝導し、絶縁体微粒子の表面にある不純物や表面処理剤、あるいは絶縁体微粒子間の接点で電子がトラップされる。薄膜電極3の下側では、印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって強電界となり、この強電界によって電子が加速され、薄膜電極3から電子が放出される状態に至る。
一方、絶縁体微粒子層4Aは、単分散微粒子である絶縁体微粒子で構成され、この粒子が均一に充填されているので、絶縁体微粒子間の接点が絶縁体微粒子層4A内に均一に分布し、また、電子が伝導する導通路も均一に分布することになる。このため、電子を効率的にトラップしながら伝導させることができ、その結果、弾道電子をより多く生じさせて薄膜電極3から多量の電子を放出させる。
【0088】
炭素膜6に上記のような作用を生じさせるため、その膜厚が5〜300nmであることが好ましい。また、その膜厚が、10〜100nmであることがより好ましい。これにより、上記で説明したように、電極基板の微細な凹凸を炭素膜によって平滑化して絶縁体微粒子に電子を均一に移動させることができる。また、電子放出素子表面全体から一様に電子を放出させることが可能となる。
【0089】
炭素膜4C及び絶縁体微粒子層4Aは、できるだけ低い電圧で強い電界を加えて電子を加速させるようにするため、炭素膜4C及び絶縁体微粒子層4Aの層厚(電子加速層4の層厚)はできるだけ薄いほうがよい。この実施形態2の場合、炭素膜4C及び絶縁体微粒子層4A(電子加速層4)が20〜3000nmの層厚であると好ましい。また、炭素膜4C及び絶縁体微粒子層4A(電子加速層4)は、30〜1000nmの層厚であるとより好ましい。これにより、電子加速層4の層厚を均一に形成でき、かつ、電子加速層の層厚方向における電気抵抗の値の調整が容易となる。このため、電子放出素子表面の全面にわたって一様な電子の放出が可能となり、電子放出素子の薄膜電極から効率よく電子を放出させることができる。
【0090】
〔製造方法〕
次に、実施形態1に係る電子放出素子1の製造方法について説明する。
まず、水に単分散の絶縁体微粒子5が分散された絶縁体微粒子分散液を用意する。この絶縁体微粒子分散液は、実施形態1で説明したように材料を選択して分散液を作製する。
次いで、電極基板2上に蒸着によって炭素膜を形成する。炭素膜の材料は、シャープペンシルの芯が実用的である。真空下において、シャープペンシルの芯を10〜20Aの電流によって加熱し、10〜200s蒸着させる。
次いで、炭素膜4C上に、調整された絶縁体微粒子分散液をスピンコート法にて塗布し、絶縁体微粒子層4Aを作製する。絶縁体微粒子層4Aの形成は実施形態1と同様に行う。
次いで、形成された絶縁体微粒子層4A上に薄膜電極3を成膜する。この薄膜電極3の成膜も、実施形態1と同様に行えばよい。以上により、実施形態2に係る電子放出素子が完成する。
【0091】
〔実施例2〕
以下、実施形態2に係る電子放出素子の実施例について説明する。
電極基板2としてφ24mmのアルミ基板を用いた。電極基板2は界面活性剤を含む超純水で超音波洗浄、超純水の流水中で洗浄、真空度20Pa下でUV照射を10分間行うことによって洗浄した。
このように洗浄した電極基板2上に炭素膜6を形成した。シャープペンシルの芯HI−UNI B 0.5×60mm(三菱鉛筆製)を18Aの電流によって加熱し、164s蒸着させた。さらに、真空度20Pa下でUV照射を10分間行うことによって炭素膜6を親水性に表面改質した。
得られた炭素膜上に絶縁体微粒子層を形成した。絶縁体微粒子として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカMP−1040(体積分布80%を占める単分散成分の粒子の平均粒径117nm、標準偏差0.26nm、CV値0.22%)を1mL、電極基板上に滴下し、スピンコート法を用いて、回転数を5sで0rpmから3000rpmに上昇させ、さらに10s間3000rpmで回転した。このようにして絶縁体微粒子層を形成した。このようにして炭素膜と整列して充填した単分散の絶縁体微粒子から成る電子加速層4を得た。電子加速層4の膜厚は980nmであった。
電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例1の電子放出素子1を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0092】
このように作成した実施例2の電子放出素子1について、図4に示す測定系を1×10-8ATMの真空中において、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
図4の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9(径:1mm)を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源7AによりV1の電圧が印加され、対向電極8には電源7BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源7Aとの間を流れる単位面積当たりの素子内電流(素子内電流密度)I1と、対向電極8と電源7Bとの間に流れる単位面積当たりの電子放出電流I2(電子放出電流密度)を測定した。
【0093】
薄膜電極3への印加電圧V1=15.96V、対向電極8への印加電圧V2=100Vとしたところ、単位面積当たりの素子内電流I1=0.00987A/cm2、単位面積当たりの電子放出電流I2=0.0384mA/cm2、素子効率0.39%が確認された。 測定結果を図8に示す。
【0094】
〔比較例2〕
比較例として、この出願の出願人が先にした特許出願(特願2008−295722)に係る電子放出素子を作製した。電子放出特性の測定は、実施例2と同様に図4に示す測定系を用いた。つまり、1×10-8ATMの真空中において、電子放出実験を行い、電子放出特性を調べた。
【0095】
比較例の作製は以下のようにして行った。すなわち、10mLの試薬瓶に、トルエン溶媒3mLと、絶縁体微粒子5として平均径110nmの球状シリカ粒子0.5gとを投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散液(C)を調製した。
次に、この分散液(C)に、金属微粒子として銀ナノ粒子(平均径10nm、絶縁被覆アルコラート1nm膜、株式会社応用ナノ粒子研究所製)0.026gを投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子5と銀ナノ粒子との混合液(D)を調製した。こうして得られた分散液は、銀ナノ粒子の配合割合が5%である。
電極基板2として30mm角のSUS基板上に、上記で得られた混合液(D)を滴下後、スピンコート法を用いて、回転数を5sで0rpmから3000rpmに上昇させ、さらに10s間3000rpmで回転した。このようにして絶縁体微粒子5および銀ナノ粒子を堆積させ、電子加速層4を得た。電子加速層4の膜厚は1.5μmであった。
電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は12nm、同面積は0.28cm2とした。
【0096】
薄膜電極3への印加電圧V1=14.6V、対向電極8への印加電圧V2=50Vとしたところ、単位面積当たりの素子内電流I1=0.0309A/cm2、単位面積当たりの電子放出電流I2=0.0130mA/cm2、素子効率0.042%が確認された。なお、真空中では電子の散乱がないため、電子放出電流量は対向電極への印加電圧に依存しない。
図9に、測定結果を示す。
【0097】
図8及び図9を参照すると、比較例2の電子放出素子は、電子放出電流0.0130mA/cm2、素子効率0.042%であるのに対し、実施例2の電子放出素子1は、電子放出電流0.0384mA/cm2、素子効率0.39%であることがわかる。実施例2の電子放出素子は、電子放出電流及び素子効率が高く、電子放出量および電子放出効率が向上していることが理解できる。
【0098】
〔実施の形態3〕
図10に、この発明の実施形態に係る帯電装置90及び画像形成装置の一例を示す。
帯電装置90は、実施形態1の電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とで構成され、感光体ドラム11の表面を帯電させる装置として用いられる。(この構成は、上記で説明した電子放出装置10と同じである。)ものである。
また、画像形成装置は、帯電装置90を備え、帯電装置90における電子放出素子1は、被帯電体である感光体ドラム11に対向して配置されている。電子放出素子1に電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体ドラム11の表面を帯電させる。
なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体ドラム11の表面から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
【0099】
帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体ドラム11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置10を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
【0100】
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体ドラム11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体ドラム11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0101】
〔実施の形態4〕
図11に、この発明の実施形態に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、実施形態1に係る電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
【0102】
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
これに対し、電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置は、大気中動作可能であるため、真空封止の必要がない。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、電子線硬化装置は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0103】
〔実施の形態5〕
図12〜図14に、この発明の実施形態に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図12に示す自発光デバイス31は、実施形態1に係る電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY23:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0104】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0105】
図13に示す自発光デバイス31’は、実施形態1に係る電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0106】
図14に示す自発光デバイス31”は、実施形態1に係る電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置10を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0107】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出効率が高いため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、電子放出装置10が大気中で電子を放出できるため、大気中動作可能であるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0108】
さらに、図15に、この発明の実施形態に係る画像表示装置の一例を示す。図15に示す画像表示装置140は、図12で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0109】
また、この発明の実施形態に係る画像表示装置として、図12に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
〔実施の形態6〕
【0110】
図16及び図17に、この発明の実施形態に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
図16に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出することが好ましい。
【0111】
図17に示す送風装置160は、図16に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図17に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cm2とするのが好ましい。
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。送風装置150および送風装置160は、大気中動作も可能である。
【0112】
この発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についてもこの発明の技術的範囲に含まれる。例えば、実施形態3〜6の装置には、実施形態1の電子放出素子を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
この発明に係る電子放出素子は、適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られるとともに、長時間連続して動作することが可能である。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置や、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより画像表示装置、または放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより冷却装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 電子放出素子
2 電極基板(第1電極)
3 薄膜電極(第2電極)
4 電子加速層
4A 絶縁体微粒子層
4C 炭素膜
5 絶縁体微粒子(絶縁性微粒子)
6 導電微粒子(導電性微粒子)
7 電源(電源部)
7A 電源(電源部)
7B 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 電子放出装置
11 感光体ドラム
21 加速電極
22 レジスト
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、
前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極と、
を備え、
前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、
第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成したことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記絶縁性微粒子層がさらに導電性微粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記導電性微粒子が、抗酸化作用が強い導電性物質で形成された微粒子である請求項2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記導電性微粒子が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含む微粒子である請求項2又は3に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記導電性微粒子の周囲に、当該導電性微粒子の大きさより小さい小絶縁体物質が存在することを特徴とする、請求項2から4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含む物質である請求項5に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記導電性微粒子は、その平均粒径が3〜20nmである請求項2から6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記絶縁性微粒子層は、その膜厚が8〜3000nmである請求項2から7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
さらに、第1電極上に形成された炭素膜を備え、
前記炭素膜は、その膜上に前記絶縁性微粒子層が形成されている請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項10】
前記炭素膜は、その膜厚が5〜300nmである請求項9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
前記絶縁性微粒子層は、その膜厚が20〜3000nmである請求項9又は10に記載の電子放出素子。
【請求項12】
前記絶縁性微粒子は、SiO2、Al23、及びTiO2の少なくとも1つを含む微粒子である請求項1から11のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項13】
第2電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含む材料で形成された電極である請求項1から12のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項14】
前記絶縁体粒子は、その平均粒径が5〜1000nmである請求項1から13のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項15】
発光体を備える自発光デバイスに用いられ、電子を放出して前記発光体を発光させる請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項16】
前記自発光デバイスを備える画像表示装置に用いられる請求項15に記載の電子放出素子。
【請求項17】
送風装置に用いられ、電子を放出して送風する請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項18】
冷却装置に用いられ、電子を放出して被冷却体を冷却する請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項19】
感光体を備える帯電装置に用いられ、電子を放出して感光体を帯電させる請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項20】
帯電装置を備える画像形成装置に用いられる請求項19に記載の電子放出素子。
【請求項21】
電子線硬化装置に用いられる請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項22】
第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部を備える請求項1から14のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項23】
第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁性微粒子で構成された絶縁性微粒子層と、前記絶縁性微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁性微粒子が単分散微粒子であり、第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、第1電極から放出される電子を前記絶縁性微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成した電子放出素子の製造方法であって、
第1電極上に単分散の絶縁性微粒子が分散された分散液を塗布することより絶縁性微粒子層を形成する工程と、
前記絶縁性微粒子層上に電極を形成する工程と、
を備えることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項24】
前記絶縁性微粒子層上に導電性微粒子が分散された分散液を塗布することより導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層を形成する工程をさらに備え、
前記電極を形成する工程が前記導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層上に電極を形成する工程である請求項23に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項25】
前記絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記絶縁性微粒子が水に分散された分散液を塗布する工程であり、
前記導電性微粒子を含む絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記導電性微粒子が溶媒に分散された分散液を塗布する工程である請求項24に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項26】
第1電極上に炭素膜を形成する工程をさらに備え、
前記絶縁性微粒子層を形成する工程は、前記炭素膜上に単分散の絶縁性微粒子が分散された分散液を塗布することより絶縁性微粒子層を形成する工程である請求項23に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項27】
前記絶縁性微粒子層を形成する工程がスピンコート法により前記分散液を塗布する工程である請求項23から26のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216440(P2011−216440A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86069(P2010−86069)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】