説明

電子放出素子及びそれを用いた電子源並びに画像表示装置および情報表示再生装置

【課題】 電子放出特性の向上。
【解決手段】 基体表面上に配置された第1導電膜と第2導電膜とを備え、該第1および第2導電膜の各々の端部は間隔を置いて互いに対向しており、前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である部分を前記第1導電膜の前記端部が備えている電子放出素子の、前記第1導電膜の前記端部の一部であって前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である前記部分から前記最短距離d1離れた部分と、前記第2導電膜の前記端部との最短距離d2とした際に、d2/d1を、1.2以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出素子及びそれを用いた電子源並びに画像表示装置に関する。また、本発明は、テレビジョン放送などの放送信号を受信し、放送信号に含まれる映像情報、文字情報、音声情報を表示および再生するテレビジョンなどの情報表示再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子には電界放出型や表面伝導型などの電子放出素子がある。表面伝導型電子放出素子は、特許文献1〜3に開示されているように、「活性化」と呼ばれる処理を施す場合がある。活性化処理とは、一対の導電性膜の間隙内および間隙近傍の導電性膜上にカーボン膜を形成する工程である。図21は、特許文献3に開示された電子放出素子の断面模式図である。同図において1は基板、4a、4bは導電性薄膜、7は第1の間隙、8は第2の間隙、21a、21bはカーボン膜、22は基板1に形成された凹部である。
【0003】
このような電子放出素子を複数個配列した電子源を備えた基板と、蛍光体等からなる発光体膜を備えた基板とを対向させて内部を真空に維持することで画像表示装置を構成することができる。
【特許文献1】特開2000−251642号公報
【特許文献2】特開2000−251643号公報
【特許文献3】特開2000−231872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年の画像表示装置においては、より明るい表示画像を長期に渡って安定して提供できることが求められている。そのため、より高く、より安定した電子放出効率を実現する電子放出素子が望まれている。ここで、電子放出効率とは、上記一対の導電性膜間に電圧を印加したときに、上記一対の導電性膜間に流れる電流(以下、素子電流Ifと呼ぶ)に対する真空中に放出される電流(以下、放出電流Ieと呼ぶ)との電流比を指す。つまり、素子電流Ifはできるだけ小さく、放出電流Ieはできるだけ大きいことが電子放出素子に望まれている。高い電子放出効率を長時間にわたり安定に制御することができれば、前述の画像表示装置においては、低電力で明るい高品位な画像表示装置(例えばフラットテレビ)が実現できる。
【0005】
従って、本発明は、電子放出効率が高く、良好な電子放出特性を長時間にわたり実現する電子放出素子、及びそれを用いた電子源並びに画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであって、基体表面上に配置された第1導電膜と第2導電膜とを備え、該第1および第2導電膜の各々の端部は間隔を置いて互いに対向しており、前記第1導電膜の端部が、前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下であり且つ前記第2導電膜に向けられている、凸部を備えている電子放出素子であって、前記第1導電膜の前記端部の一部であって前記凸部から前記最短距離d1離れた部分と、前記第2導電膜の前記端部との最短距離d2との比d2/d1が、1.2以上であることを特徴とする。
【0007】
そして、本発明はまた、基体表面上に配置された第1導電膜と第2導電膜とを備え、該第1および第2導電膜の各々の端部は間隔を置いて互いに対向しており、前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である部分を前記第1導電膜の前記端部が備えている電子放出素子であって、前記第1導電膜の前記端部の一部であって前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である前記部分から前記最短距離d1離れた部分と、前記第2導電膜の前記端部との最短距離をd2とした際に、d2/d1が、1.2以上であることを特徴とするものでもある。
【0008】
また、上記本発明は、「前記凸部から前記最短距離d1離れた部分が、前記凸部を含み前記基体表面と平行な平面内に位置すること」、「前記第1導電膜の端部が前記凸部を複数備えており、該複数の凸部の各々は、前記基体表面に対する垂直方向において互いに重ならないように配置されていること」、「前記凸部の各々の間隔が3d1以上であること」、「前記凸部の各々の間隔が2000d1以下であること」、「前記間隙が、前記基体表面と平行な平面内を蛇行していること」、「前記第1および第2導電膜が、炭素を含む導電膜であること」、「前記第1導電膜と第2導電膜との間において、前記基体表面は凹部を有すること」をもその特徴とする。
【0009】
本発明は、また、複数の上記本発明の電子放出素子を備える電子源、および、上記電子源と発光体とを有する画像表示装置をも、その特徴とするものである。
【0010】
本発明は、また、受信した放送信号に含まれる映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、該受信器に接続された上記画像表示装置とを少なくとも備える情報表示再生装置をも、その特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子放出効率が飛躍的に向上した電子放出素子を提供することができる。その結果、長期に渡り表示品位に優れた画像表示装置や情報表示再生装置を提供することができる。
【0012】
また、本発明の電子放出装置によれば、前記第1、第2導電性膜間に電圧を印加し、電子放出をさせた場合において、前記d2/d1が1.2以上であることにより、前記第1導電性膜の端部近傍における電位分布が変わることで、出射された電子の軌道が変化し、結果としてアノードに到達する放出電流Ieが増加する(効率が増加する)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の電子放出素子の実施形態について説明する。まず、本発明にかかわる電子放出素子の基本的な構成の一例について図30(a)を用いて説明する。
【0014】
図30(a)は、本発明の電子放出素子の典型的な構成を示す模式的な平面図である。ガラスなどから形成された絶縁性基板1上に、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが配置される。間隙8を境に、第1導電性膜21aの端部と第2導電性膜21bの端部とが対向している。このため、第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部と、第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部とが、間隙8の外縁を形成していると言うこともできる。
【0015】
図30(a)において、AおよびBは、第1導電性膜21aの端部と第2導電性膜21bの端部との間隔が周囲に比べてより狭くなっている部分(周囲より電界が強くなる部分)において対向する、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bのそれぞれの端部の一部分を指している。そのため、第1導電性膜21aの部分Aは、「凸部」と呼ぶこともできる。
【0016】
この電子放出素子を駆動する(電子放出させる)場合においては、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとに電源を接続し、第2導電性膜21bの電位が第1導電性膜21aの電位よりも高くなるように、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に電圧を印加する。そのため、典型的には、第1導電性膜21aの部分Aを電子放出部と言うことができるかもしれない。
【0017】
第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部は、図30(a)に示すように、放出電流の安定性の観点から、第2導電性膜21bに向けた凸部(部分A)を多数備えることが好ましい。換言すると、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が周囲に比べてより狭くなっている部分が多数配置されていることが好ましい。
【0018】
そして、第2導電性膜21bの部分Bは、部分Aの最も近くに位置する第2導電性膜21bの部分と言うことができる。この部分Aと部分Bとの間隔は“d1”で定義することができる。そして、電子を放出させるために必要な駆動電圧を50V以下好ましくは20V以下に抑える上で、d1は10nm以下、好ましくは5nm以下に設定される。また、駆動時の安定性の観点および製造の再現性の観点から、d1は、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは3nm以上に設定される。
【0019】
また、第1導電性膜21aの凸部(部分A)から、上記“d1”と同じ距離だけ離れた位置における、第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部(部分C)と該端部(部分C)と対向する第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部(部分D)との最短距離が“d2”で定義される。より詳細に記すと、基板1の表面に実質的に平行な平面内であって且つ間隙8の外縁を形成する第1導電性膜21aの端部に沿って、d1と同じ距離だけ離れた位置における、第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部(部分C)と該端部(部分C)と対向する第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部(部分D)との最短距離が“d2”で定義される。
【0020】
尚、d1は十分に小さい(10nm以下である)。そのため、上記“d1”を規定する部分Aと部分Bとの対向方向に対して垂直な方向に、上記“d1”と同じ距離だけ離れた位置の第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部(部分C)と、該端部(部分C)と対向する第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部(部分D)との最短距離として、上述した“d2”を定義することもできる。より詳細に記すと、基板1の表面に実質的に平行な平面内であって且つ上記d1を規定する部分Aと部分Bとの対向方向に対して垂直な方向に、d1と同じ距離だけ離れた位置の第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部(部分C)と、該端部(部分C)と対向する第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部(部分D)との最短距離として、上述した“d2”を定義することもできる(図30(b)参照)。
【0021】
尚、“d2”は、“d1”の値にもよるが、10nm以下になる場合もある。しかしながら、この“d2”を定義する、第1導電性膜21aの端部(部分C)は、上記した凸部(部分A)に相当することはない。つまり、この部分Cを上記凸部(部分A)であると仮定した場合、この部分Cから“d2”の範囲内には、上記した部分Aが存在することになり、この部分Aから第2導電性膜21bまでの距離は、d2よりも短くなるからである。そのため、本発明において、部分Aと定義されるためには、部分Aから距離d1の範囲内には、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔がd1よりも小さい部分が存在しないことになる。
【0022】
また、本発明の電子放出素子においては、前述したように、部分Aが多数存在することが好ましい。その場合、部分Aの基板1表面からの距離(基板1表面からの高さ)は、互いに異なっていても良い。しかしながら、電子放出特性の安定性の観点から、多数存在する部分A同士の基板1表面からの距離の差は、実効的には、d1の範囲内に収まっていることが好ましい。そして、また、部分Aは、好ましくは、基板1表面に対して垂直な方向において並んで配置されることがない。つまり、第1導電性膜21aの膜厚方向に、複数の部分Aが並ばないことが好ましい。
【0023】
導電性膜(21a、21b)の膜厚は、1μm以下、好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下の非常に薄い膜である。そのため、垂直な方向に部分Aが多数並ぶと電子放出特性の経時的な変動に繋がる場合があるので、垂直な方向に部分Aを並ばせないことが好ましい。
【0024】
本発明において、d1は10nm以下であって、且つ、上記d1とd2との比(d2/d1)が1.2以上に設定される。この条件であると、高い放出電流Ieおよび電子放出効率が得られる。
【0025】
尚、図30(a)、(b)では、第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部が直線状である形態を示した。しかしながら、本発明においては、図31(a)、(b)に示すように、第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部が凹凸状(非直線状)であってもよい。このような形態においては、第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部における凸部が前述した部分Bに相当するように配置することが、電子放出効率を向上させる上で特に好ましい。尚、図31(a)は図30(a)の説明に対応し、図31(b)は図30(b)の説明に対応する。
【0026】
また、図30(a)、図30(b)、図31(a)、図31(b)に示した形態においては、巨視的に見て、間隙(又は間隔)8は、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが対向する方向に対して垂直な方向に延在する形態を示した。しかしながら、間隙8は、後述するように、巨視的に見て、非直線状(典型的には蛇行状)の形態であってもよい。非直線状であれば、第1導電性膜21aの第2導電性膜21b側の端部に多数の凸部(部分A)を配置することができる。その結果、電子放出量の経時的な変化を一層抑制することができるので好ましい。
【0027】
また、部分A(凸部)同士の間隔d3は、3d1以上2000d1以下に設定されることが好ましい。また、放出電流Ieの増加、及び/或は、電子放出量の揺らぎの抑制の観点から、間隔d3は、等間隔で設定されることがさらに好ましい。
【0028】
電子放出素子を高精細なディスプレイに用いる場合においては、1つの電子放出素子に許容される面積が小さくなる。そのため、1つの電子放出素子において、部分Aの数が大きい電子放出素子と比べて部分A(凸部)が少ない電子放出素子では、放出電流(Ie)の変動が大きくなる傾向がある。その結果、ディスプレイの表示画像の輝度などに代表される均一性が悪くなってしまう。実用的な範囲として、部分A(凸部)同士の間隔d3は、2000d1以下、さらに好ましくは500d1以下に設定される。この範囲であれば、放出電流Ieの変動を小さくすることができる。但し、部分A(凸部)同士の間隔d3は、前述したように一定であることが好ましいが、ある程度の分布を持っていてもよい。
【0029】
次に、上記した本発明の電子放出素子の変形例を、図1(a)、(b)、(c)を用いて説明する。図1(a)、(b)は、本発明の電子放出素子の変形例の一例を模式的に示した平面図及び間隙8近傍の拡大図である。この変形例と、図30、図31に示した形態との差は、(1)間隙8が非直線形状であり、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bの各々の端部の形状の鋭角性(直線性)が低くなっていること、(2)第1導電性膜21aには第1電極4aが接続され、さらに、第1電極4aは第1補助電極2に接続されており、同様に、第2導電性膜21bには第2電極4bが接続され、さらに、第2電極4bは第2補助電極3に接続されていること、である。上記(1)および(2)以外の点については、基本的に、図30及び図31で既に説明した形態の電子放出素子と同じである。
【0030】
上記(1)のような形態であると、仮に凸部(部分A)を等ピッチに配置した場合、間隙8が直線状である場合に比べて凸部(部分A)を多数備えることができるので、電子放出特性をより安定にすることができると考えられる。また、上記(2)のような形態であると、導電性膜(21a、21b)の間に安定に電圧を印加することができる。
【0031】
尚、ここで示す形態では、第1および第2補助電極(2、3)と、第1および第2電極(4a、4b)を用いている。しかしながら、本発明の電子放出素子においては、図30、図31を用いて説明した形態にあるように、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが少なくともあればよい。即ち、本発明の電子放出素子においては、補助電極(2、3)及び電極(4a、4b)は必須の構成要件ではない。
【0032】
但し、本発明の電子放出素子を駆動するための電源と、導電性膜(21a、21b)とを安定に接続するためには、補助電極(2、3)および/または電極(4a、4b)を用いることが好ましい。そして、電源の端子を電極(4a、4b)、または、補助電極(2、3)に接続することで、導電性膜(21a、21b)の間に安定に電圧を印加することができる。従って、補助電極(2、3)および/または電極(4a、4b)は、図30、図31を用いて説明した形態の電子放出素子においても好ましく適用することができる。
【0033】
図1(b)は、図1(a)の間隙8近傍を模式的に拡大した図である。図1(b)における、A、B、d1、d2、d3については、図30、図31を用いて既に説明したとおりである。
【0034】
また、図1(c)は、部分Aと部分Bとの間の断面模式図である。尚、ここでは、導電性膜(21a、21b)の表面が基板1の表面と平行に示しているが、後述する図2(c)に示すように、必ずしもその表面が基板表面に平行である必要はない。
【0035】
図30、図31を用いて説明した例を含め、本発明の電子放出素子においては、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間(間隙8)において、基板1表面に凹部22を有することが好ましい。
【0036】
このように凹部22を備えることで、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる、放出電流Ieに寄与しない無効な電流を抑制することができると考えられる。また、本発明の電子放出素子においては、図1(c)に示す様に、基板1表面における、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔よりも、基板1表面から離れた位置における、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が狭くなっている構成であることが好ましい。この様な構成を採用することで、部分Aから部分Bまでの沿面距離を伸ばすことができ、結果、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる無効な電流をさらに抑制することができると考えられる。また、導電性膜21aの表面に近い部分(基板1表面から離れた位置)から電子を放出することができ、電子放出電流Ieを増加させることができると考えられる。
【0037】
上記本発明の電子放出素子を駆動する際には、例えば図3に概略構成図を示すように、アノード電極44に対向して配置され、真空中で駆動される。このように電子放出素子の上方に距離H[m]離れてアノード電極を配置することにより、電子放出装置が構成される。そして、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に、第2導電性膜21bの電位の方が高くなるように、駆動電圧Vf[V]を印加する。それと同時に、アノード電極44の電位が第1および第2導電性膜の電位よりも(典型的には第1導電性膜21aの電位より)高くなるように、アノード電極44と第1導電性膜21aとの間に電圧Va[V]を印加する。このようにすることで、第1導電性膜21aの端部と第2導電性膜21bの端部との間(間隙8)に電界が発生する。発生する電界強度を、電子のトンネリングに十分な電界強度に設定することで、第2導電性膜21bの端部により近く配置された第1導電性膜21aの端部(図1の部分A)から優先的に電子がトンネルすると考えられる。そして、トンネルした電子の多くは部分B近傍で散乱し、そして散乱した電子の少なくとも一部がアノード電極44に到達すると考えられる。尚、トンネルした電子のうち、アノード電極44に到達しない電子は、そのほとんどが第2導電性膜21bに吸収され第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間を流れる無効電流(素子電流If)となると考えられる。
【0038】
ここで、本発明の電子放出素子の駆動時(電子放出時)に用いられる電界強度(第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加される電界強度)は、実効的には、1×10V/m以上2×1010V/m未満である。これより小さい電界強度では、トンネルする電子が著しく少なくなり、これより大きい電界強度では、第1導電性膜21aおよび/または第2導電性膜21bが強電界によって変形してしまい安定な電子放出が得られない場合が多い。
【0039】
上述したようにd2/d1を1.2以上に設定することで、本発明の電子放出素子は、第2導電性膜21bに吸収される電子を減らすことができる。その結果、電子放出効率(アノードに到達する電流/第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる電流)を向上させることができる。この理由としては、部分Aから部分Bに向けてトンネルした電子(部分B近傍で散乱される電子を含む)が、d2/d1が1.2以上に設定することで形成される電界によって、基板1の表面から離れる方向(アノードに向かう方向)の力を強く受けることが挙げられる。
【0040】
また、図1(a)〜(c)を用いて説明した電子放出素子の変形例について、図2(a)〜(d)を用いて以下に説明する。図2(a)は図1(a)と同様に平面模式図であり、図2(b)は図1(b)と同様に間隙8近傍の拡大平面模式図である。また、図2(c)は、図1(c)と同様に、部分Aと部分Bを通る断面模式図である。図2(d)は図2(b)におけるP−P’を通る(第2導電性膜21bの基板1表面に垂直な方向の凸部と該凸部に対向する第1導電性膜21aの端部とを通る)断面模式図である。
【0041】
ここで示す形態の電子放出素子では、図1(a)〜(c)を用いて説明した電子放出素子の形態に加えて、更に、基板1の表面に対して垂直方向の凸部(部分35、部分36)を第2導電性膜21bがその一部に備えている。それ以外の点については、基本的に、図1(a)〜(c)で説明した形態の電子放出素子と同じである。
【0042】
このような形態とすることで、図1(a)〜(c)を用いて説明した電子放出素子に比べて、更に、電子放出効率を向上することができる。尚、凸部(部分35、部分36)は第2導電性膜21bの一部であるので、凸部を構成する材料が凸部以外を構成する材料と異なる必要はない。
【0043】
部分Bにおける、第2導電性膜21bの膜厚は、第2導電性膜21bの部分35および部分36における膜厚未満に設定される(図2(c)、図2(d)参照)。このため、第2導電性膜21bの部分35および部分36は、第2導電性膜21bのその他の部分(典型的には部分B)に比べて、基板1の表面から離れているので、「突起部」と呼ぶこともできる。
【0044】
従って、第2導電性膜21bの部分35および部分36のそれぞれの表面の基板1表面からの高さと、部分Bの表面の基板1表面からの高さとの間には、差分“h”(「突起部の高さ“h”」と呼ぶ事もできる)が存在する。
【0045】
そして、また、第2導電性膜21bには、少なくとも2つの「突起部」が存在し、この2つの「突起部」間の間隔“w”が存在する。この間隔wは、実効的には、各々の「突起部」の最も基板1表面から離れた位置(頂部)同士の間隔として定義することができる。そして、上記「突起部」の間隔wは、実効的には、2d1以上50d1以下に設定されることが好ましい。この範囲であると、高い放出電流Ieおよび電子放出効率が得られる。尚、部分35の頂部の基板1表面からの高さと部分36の頂部の基板1表面からの高さは互いに異なる場合もある。
【0046】
また、上記「突起部」の高さhは、実効的には、一方の「突起部」(典型的には基板1表面からの高さが小さい方の「突起部」)の最も基板1表面から離れた位置(頂部)と基板1表面との距離から、部分Bと基板1表面との距離を引いた値として定義することができる。そして、「突起部」の高さhは、実効的には、2d1以上200d1以下に設定されることが好ましい。
【0047】
また、本発明の電子放出素子においては、前述したように、間隙8の外縁の一部を部分Aと部分Bが構成していることになる。また、第2導電性膜21bの部分35、部分36もまた、間隙8の外縁を構成していることが電子放出効率を高めるためには好ましい。
【0048】
また、本発明の電子放出素子においては、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が周囲に比べてより狭くなっている部分(図2の部分Aと部分B)においては、第1導電性膜21bの膜厚(Bにおける膜厚)は、第2導電性膜21aの膜厚(部分Aにおける膜厚)以下(好ましくは部分Aにおける膜厚よりも小さい)に設定されることが好ましい。
【0049】
このようにすれば、図1(a)〜(c)、図30、図31を用いて既に説明した電子放出素子の電子放出効率の向上の効果に加え、部分Aから第1の部分Bに向けてトンネルする電子(部分B近傍で散乱される電子を含む)が、上記「突起部」によって形成される電場(電界)によって、基板1の表面から離れる方向(アノードに向かう方向)の力をさらに強く受けることができる。その結果、第2導電性膜21bに吸収される電子を減らすことができる。その結果、図1(a)〜(c)、図30、図31を用いて説明した電子放出素子に比べて、電子放出効率(アノードに到達する電流(Ie)/第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる電流(If))を飛躍的に向上させることができる。
【0050】
なお、図30、図31、図1(a)〜(c)、図2(a)〜(d)では、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bは、基板1表面に平行な方向において対向し、間隙8を境にして完全に分離された状態が示されている。しかしながら、本発明の電子放出素子においては、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが、その一部でつながっている場合もある。つまり、1つの導電性膜の一部に間隙8が形成されていると言うこともできるような形態であっても良い。即ち、完全に分離されていることが理想ではあるが、微少な領域で、前記第1導電性膜21aと第2導電性膜21b同士が繋がっていても、充分な電子放出特性を得ることができれば良い。
【0051】
導電性膜(21a、21b)の材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えば、Ni、Au、PdO、Pd、Pt、炭素から選択することができる。特には、高い電子放出量、経時的な安定性などの観点から炭素を含む膜であることが好ましい。さらには、実用的には炭素を主成分とする膜(具体的には、炭素を70atm%以上含む膜)を用いることが好ましい。このように炭素を含む膜で導電性膜(21a、21b)が形成される場合には、導電性膜(21a、21b)は、カーボン膜と呼ぶことができる。
【0052】
次に、本発明の電子放出素子の製造方法について説明する。
【0053】
製造方法としては様々な方法が考えられるが、例えば以下の工程(1)〜工程(5)によって本発明の電子放出素子を形成することができる。勿論、本発明の電子放出素子は、下記製造方法により製造されるものに限定されるものではない。
【0054】
その一例を図4〜図9を用いて説明する。以下で示す例においては、前述の第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bのそれぞれを第1のカーボン膜21aおよび第2のカーボン膜21bで構成した場合を示す。また、以下では、第1のカーボン膜21aを第1電極4aに接続し、第1電極4aを第1補助電極2に接続している。同様に、第2のカーボン膜21bを第2電極4bに接続し、第2電極4bを第2補助電極3を接続している。
【0055】
(工程1)
基板1を十分に洗浄後、補助電極(2,3)を形成するための材料を、真空蒸着法、スパッタ法等により堆積後、フォトリソグラフィー技術などを用いることにより、第1補助電極2および第2補助電極3を形成する(図4(a))。
【0056】
基板1としては、石英ガラス、青板ガラス、ガラス基板にスパッタ法等公知の成膜方法により形成した酸化シリコン(典型的にはSiO)を積層したガラス基板、あるいは、アルカリ成分を減らしたガラス基板を用いることができる。この様に、本発明では、基板として、酸化シリコン(典型的にはSiO)を含んだ材料が望ましい。
【0057】
補助電極2、3の間隔L、長さW(図1参照)、厚みt1および形状は、電子放出素子の応用形態等によって適宜設計される。例えば、後述するテレビジョン等の画像表示装置に用いる場合では、解像度に対応して設計される。とりわけ、高品位(HD)テレビでは画素サイズが小さく高精細さが要求される。そのため、電子放出素子のサイズが限定されたなかで、十分な輝度を得るためには、十分な放出電流Ieが得られるように設計される。補助電極2、3の間隔Lは、実用的には5μm以上100μm以下である。補助電極2、3の膜厚t1は、実用的には5nm以上10μm以下である。
【0058】
(工程2)
基板1上に設けられた第1補助電極2と第2補助電極3との間を接続する導電性薄膜4を形成する(図4(b))。導電性薄膜4の製造方法としては、例えば、有機金属溶液を塗布して乾燥することにより、有機金属膜を形成した後に、有機金属膜を加熱焼成処理し、リフトオフ、エッチング等によりパターニングする方法を採用とすることができる。
【0059】
導電性薄膜4の材料としては材料としては、金属や半導体などの導電性材料を用いることができる。例えばNi、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或は合金およびPd、Ag、Au、RuO、Pd−Ag等の金属或は金属酸化物、及び該金属または金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、In−SnO等の透明導電体、ポリシリコン等の半導体等を用いることができる。
【0060】
なお、有機金属溶液とは、前記導電性膜材料のPd、Ni、Au、Pt等の金属を主元素とする有機金属化合物の溶液を用いることができる。なお、ここでは、有機金属溶液の塗布法により説明したが、導電性薄膜4の形成法はこれに限られるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、分散塗布法、ディッピング法、スピンナー法、インクジェット法等によって形成することも出来る。
【0061】
次の工程において「フォーミング」処理を行う場合においては、導電性薄膜4は、Rs(シート抵抗)が10Ω/□以上10Ω/□以下の抵抗値の範囲で形成されることが好ましい。なおRsは、厚さがt、幅がwで長さがlの膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)とおいたときに現われる値で、抵抗率をρとすればRs=ρ/tである。上記抵抗値を示す膜厚としては、具体的には5nm〜50nmの範囲にある。また、導電性薄膜4の幅W’(図1参照)は好ましくは補助電極の幅Wよりも小さく設定される。
【0062】
(工程3)
つづいて、「フォーミング」と呼ばれる処理を、補助電極2、3間に電圧を印加することにより行う。電圧の印加により、導電性薄膜4の一部に第二の間隙7が形成される。その結果、間隙7を挟んで、基板1表面に対して横方向に、第1電極4aと第2電極4bとを対向して配置することができる。(図4(c))。
【0063】
「フォーミング」処理以降の電気的処理は、例えば、前述した図3に示す測定評価装置内に前記基板1を配置することで行うことができる。なお、図3に示した測定評価装置は真空装置であり、該真空装置には不図示の排気ポンプ及び真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で種々の測定評価を行えるようになっている。なお、排気ポンプは、オイルを使用しない、磁気浮上ターボポンプ、ドライポンプ等の高真空装置系と更に、イオンポンプからなる超高真空装置系から構成することができる。また、本測定評価装置には、不図示のガス導入装置を付設することで、所望の有機物質の蒸気を所望の圧力で真空装置内に導入することができる。また、真空装置全体、及び真空装置内に配置された基板1は、不図示のヒーターにより加熱することができる。
【0064】
「フォーミング」処理は、パルス波高値が定電圧(一定)であるパルス電圧を繰り返し印加することによって行うこともできるし、パルス波高値を徐々に増加させながら、パルス電圧を印加することによって行うこともできる。
【0065】
パルス波高値が一定である場合のパルス波形の例を図7(a)に示す。図7(a)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔(休止時間)であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を用いることができる。
【0066】
次に、パルス波高値を増加させながら、パルス電圧を印加する場合のパルス波形の例を図7(b)に示す。図7(b)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔(休止時間)であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を用いることができる。印加するパルス電圧の波高値は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させる。
【0067】
以上説明した例においては、間隙7を形成する際に、補助電極2、3間に三角波パルスを印加して「フォーミング」処理を行っている。しかしながら、補助電極2,3間に印加する波形は三角波に限定することはなく、矩形波など所望の波形を用いてもよい。また、その波高値及びパルス幅、パルス間隔等についても上述の値に限ることない。間隙7が良好に形成されるように、電子放出素子の抵抗値等にあわせて、適当な値を選択することができる。
【0068】
尚、ここでは、第1電極4aと第2電極4bの形成を、導電性薄膜4に「フォーミング」処理を施して行う方法を示した。しかしながら、本発明においては、フォトリソグラフィー法などの公知のパターニング方法を用いて第1電極4aと第2電極4bを形成することもできる。また、後述する「活性化工程」を用いて第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとを形成する場合には、第1電極4aと第2電極4bとの間隔が狭いことが好ましいため、前述した「フォーミング」処理を採用することが好ましい。しかしながら、導電性薄膜4にFIB(集束イオンビーム)を照射することで導電性薄膜4に間隙7を形成する手法や、電子ビームリソグラフィー法などを用いて、間隔の狭い第1電極4aと第2電極4bとを形成することもできる。また、第1補助電極2と第2補助電極3との間隔Lを、前述した様々な手法により、狭く形成することができれば、第1電極4aと第2電極4bは必ずしも必要としない。しかしながら、低コストに本発明の電子放出素子を作成するためには、後述する「活性化」処理によって形成するカーボン膜に電位を安定に供給するための電極としての前述の補助電極2、3と、「活性化工程」の初期におけるカーボン膜の堆積を安定に、そして、早く行うための電極としての第1電極4aおよび第2電極4bとを用いることが好ましい。
【0069】
(工程4)
次に、「活性化」処理を施す(図4(d))。「活性化」処理は、例えば、図3に示したような真空装置内に炭素含有ガスを導入し、炭素含有ガスを含む雰囲気下で、補助電極2,3間に両極性の電圧を印加することで行うことができる。この処理により、雰囲気中に存在する炭素含有ガスから、炭素を含む膜(カーボン膜)からなる導電性膜(21a、21b)を第1電極4aと第2電極4bとの間の基板1上およびその近傍の第1電極4aおよび第2電極4b上に堆積させることができる。
【0070】
上記炭素含有ガスとしては有機物質ガスを用いることができる。有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることが出来、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn H2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn H2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。
【0071】
また、前述した炭素含有ガスは、真空装置内を一度10―6Pa台の圧力に減圧した後に、真空装置内に導入する事が好ましい。このときの好ましい炭素含有ガスの分圧は、電子放出素子の形態、真空容器の形状や、用いる炭素含有ガスの種類などにより異なるため、適宜設定される。
【0072】
上記「活性化」処理中に補助電極2,3間に印加する電圧波形としては、例えば図8(a)あるいは図8(b)に示したパルス波形を用いることもできる。印加する最大電圧値は、10〜25Vの範囲で適宜選択することが好ましい。図8(a)中、T1は、印加するパルス電圧のパルス幅、T2はパルス間隔である。この例では、電圧値は正負の絶対値が等しい場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。また、図8(b)中、T1は正の電圧値のパルス電圧のパルス幅であり、T1’は負の電圧値のパルス電圧のパルス幅である。T2はパルス間隔である。尚、この例においては、T1>T1’に設定し、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。
【0073】
図9に「活性化」処理中における素子電流プロファイルを示す。「活性化」処理は、素子電流の上昇が緩やかになる領域(図9中の点線から右側の領域)に入った後に終了することが好ましい。
【0074】
なお、「活性化」処理中に、図8(a)に示したような波形の電圧を補助電極2,3間に印加することで、図1(c)、図2(c)に示したような第1カーボン膜21aの膜厚と第2カーボン膜21bの膜厚がほぼ等しい形状を形成することができる。このように形成したカーボン膜は、図1に示した形態の電子放出素子の形成に好ましく適用することができる。
【0075】
一方、「活性化」処理中に、図8(b)に示した様な波形の電圧を補助電極2,3間に印加することで、図2(d)、図6(a)、図6(b)に示すように、間隙8の外縁を構成する第2カーボン膜21bの端部の膜厚が、間隙8の外縁を構成する第1カーボン膜21aの端部の膜厚よりも厚くなる、非対称の構造を作ることができる。尚、図6(b)は図6(a)の部分Aと部分Bとを通る断面における模式図である。また、図2(d)、図6(a)、図6(b)では、理解を容易にするために、第2カーボン膜21bの端部のうち、第1カーボン膜21aの端部よりも厚い部分と、それ以外の部分とを区別できるように示しているが、実際には、材料や構造上の違いを示すものではない。このように形成したカーボン膜は、図2に示した形態の電子放出素子の形成に好ましく用いることができる。
【0076】
また、図8(a)、(b)に示したどちらの波形を用いても、例えば、図9中の点線から右側の領域であって、点線から十分に離れた領域まで「活性化」処理を行うことで、基板変質部(凹部)22を形成することができる。また、図9中の点線から右側の領域まで「活性化」処理を行うことで、図5(b)、図6(b)に示す様に、第1カーボン膜21aの端部と第2カーボン膜21bの端部との距離が、基板1表面における距離よりも、基板1表面から上方に離れた位置における距離の方が狭くなる構成とすることができる。また、基板変質部(凹部)22については、次のように考えている。
【0077】
炭素の近くにSiO(基板の材料)が存在する条件下で基板の温度が上昇すると、Siが消費される。
SiO+C→SiO↑+CO↑
この様な反応が起こることによって基板中のSiが消費され、基板表面が削れた形状(凹部)が形成されるのではないかと考える。
【0078】
基板変質部(凹部)22を有すると、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの沿面距離を増やすことができる。そのため、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間に駆動時に印加される強電界に起因するとみられる放電現象や、過剰な素子電流Ifの発生を抑制することができる。
【0079】
本発明における炭素を含む膜である、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bの炭素について説明する。カーボン膜(21a、21b)に含まれる炭素は、グラファイト状炭素であることが好ましい。本発明におけるグラファイト状炭素とは、完全なグラファイトの結晶構造を有するもの(いわゆるHOPG)、結晶粒が20nm程度で結晶構造がやや乱れたもの(PG)、結晶粒が2nm程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったもの(GC)、非晶質カーボン(アモルファスカーボン及び/あるいはアモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を指す)を包含する。すなわち、グラファイト粒子間の粒界などの層の乱れが存在していても好ましく用いることができる。
【0080】
(工程5)
次に、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bの形状を図1や図2に示した形状にするための、加工処理を施す。
【0081】
具体的には、例えば、図10(a)、(b)や図11(a)、(b)、(c)に示すようなAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)を用いる方法により、カーボン膜の形状を図1や図2に示した形状にすることができる。ここでは、第1カーボン膜21a、第2カーボン膜21bの形状を変える加工処理方法としてAFMを用いているが、加工処理方法は、AFMを用いた手法に限定されるものではない。
【0082】
上記AFMを用いる加工処理は、例えば以下のように行うことができる。
【0083】
まず、図1に示した形態の電子放出素子を形成する場合について述べる。
【0084】
前述したように、図1に示した形態の電子放出素子を形成する場合においては、前述した工程4(「活性化」処理)において、図8(a)に示した様な、電圧値またはパルス幅が対称な両極性のパルス電圧を繰り返し印加する手法を用いることが好ましい。その結果、第2カーボン膜21bの膜厚を第1カーボン膜21aの膜厚とほぼ同じになるように形成することができる。そして、AFMのプローブを第1カーボン膜21aの上に位置合わせを行う(図10(a))。そして、AFMのプローブを第1カーボン膜21aの端部(間隙8の外縁を形成する部分)に接触させてカーボン膜21aの端部を削る(図10(b))。カーボン膜21aの端部を削る際には、AFMのコンタクトモード(接触圧を電圧で制御する)で行うことができる。この手法により、図1の部分A(凸部)を形成することができる。この処理を、間隙8に沿う、第1カーボン膜21aの端部(間隙8の外縁を形成するカーボン膜21aの端部)の複数箇所に対して、間隔d3を置いて、行う。この様に行うことで、図1(a)、(b)に示した構造を備える電子放出素子を作製することができる。
【0085】
次に、図2に示した形態の電子放出素子を形成する場合について述べる。
【0086】
前述したように、図2に示した形態の電子放出素子を形成する場合においては、前述した工程4(「活性化」処理)において、図8(b)に示した様な、電圧値またはパルス幅が非対称な両極性のパルス電圧を繰り返し印加する手法を用いることが好ましい。その結果、第2カーボン膜21bの膜厚を第1カーボン膜21aの膜厚よりも厚くなるように形成することができる。そして、AFMのプローブを第1カーボン膜21aの上に位置合わせを行う。そして、AFMのプローブを第1カーボン膜21aの端部(間隙8の外縁を形成する部分)に接触させてカーボン膜21aの端部を削る(図11(a))。この手法により、図2の部分A(凸部)を形成することができる。その後、AFMのプローブを第2カーボン膜21bの上に位置合わせを行い、そして、AFMのプローブを第2カーボン膜21bの端部(間隙8の外縁を形成する部分)に接触させてカーボン膜21bの端部を削る(図11(b))。この手法により、図2の部分35、36(突起部)を部分B(部分Aに対向する)を挟んで形成することができる。以上の処理を、間隙8に沿う、第2カーボン膜21bの端部(間隙8の外縁を形成するカーボン膜21bの端部)の複数箇所に対して、間隔d3を置いて行う。この様に行うことで、図2(a)、(b)に示した構造を備える電子放出素子を作製することができる(図11(c))。
【0087】
また、本発明の電子放出素子の作成方法としては、上記(工程5)で説明した、加工処理を用いずに、図1、図2に示した構造を備える電子放出素子を作製することもできる。以下では、その一例として、電子線を用いて図1や図2に示した電子放出素子を形成する手法(以下「電子線処理」と呼ぶ)を説明する。
【0088】
(工程1)〜(工程3)においては、前述した工程と同様の方法を実施する。また、(工程4)での活性化処理工程においては、同様の炭素含有ガスを用いることができるが、補助電極2,3間に印加する電圧波形としては、図8(a)に示したパルス波形を用いること以外は前述したとおりである。ここで説明する方法では、「活性化」処理において、素子電流Ifの上昇が緩やかになる領域(図9中の点線から右側の領域)に入った後に、炭素含有ガス雰囲気下において、電子線を照射しながら電圧パルスを印加する処理を実施する。
【0089】
以下にこの方法について図23を用いて説明する。
【0090】
電子放出手段41から放出される電子線は、間隙8内のみに絞る必要はなく、補助電極2,3間に印加する電圧、活性化時の炭素化合物ガスの分圧などを加味し、間隙8を中心として、1μm以上の広がりを持たせることが好ましい。しかしながら、あまり広い領域に電子線を照射させると、必要としない領域にまで炭素化合物が堆積する可能性がある。そのため、電子放出手段41から放出された電子線を、電子線遮蔽手段42によって遮蔽して広がりを抑えることが好ましい。電子線照射は、好ましくは連続的(DC的)に照射しつつ、補助電極に印加する電圧をパルス状にすることが好ましい。補助電極2,3間に印加するパルス電圧としては、電子線照射前と同様の図8(a)に示した波形かつ電圧値を経時的に制御して行うのが好ましい。電子線を照射する時間は、前記素子電流の上昇が緩やかになる領域(図9中の点線から右側の領域)の電流をほぼ維持する領域内であれば良いが、10分間から60分間が好ましい。
【0091】
以上のような方法を行うことで、図1(a)、(b)に示した構造を備える電子放出素子を作製することもできる。
【0092】
また、図1、図2に示した電子放出素子を、電子線の照射を用いて作製する別の手法の例を以下に図26(a)、(b)、(c)を用いて説明する。なお、ここでは、前記電極4a、4bを用いない例を示すが、勿論、電極4a、4bを用いることもできる。
【0093】
(工程1’)前述した(工程1)と同様の方法で補助電極2、3を基板1上に形成する(図26(a))。
【0094】
(工程2’)次に、第1補助電極2と第2補助電極3との間に、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとを、電子線の照射を用いて所望の形状に形成する(図26(b)、(c))。
【0095】
カーボン膜(21a、21b)の形成工程は、例えば、前述した図3に示す測定評価装置内に前記基板1を配置した状態で行うことができる。尚、装置内には、図26(b)で示す電子放出手段41と電子線の遮蔽および偏向を行う手段42が設けられる。そして、炭素含有ガスを装置内に導入した状態で、電子放出手段41から電子線を所望の位置に照射することによって、所望の形状をしたカーボン膜(21a、21b)を堆積させることができる。
【0096】
炭素含有ガスとしては、前述した(工程4)で説明した炭素含有ガスと同様のガスを用いることができる。カーボン膜(21a、21b)形成時においては、補助電極(2,3)間には電圧を印加せず、両電極(2,3)をグランド電位に設定し、手段42によって絞られ、偏向された電子線を、第1補助電極2及び第2補助電極3のそれぞれの表面と、補助電極(2、3)間の基板1の表面に照射することで、図1や図2で示した形状のカーボン膜(21a、21b)を堆積させることができる(図26(b)、図26(c))。
【0097】
カーボン膜(21a、21b)が堆積する理由としては、雰囲気中に存在する炭素含有ガス、もしくは、電極(2,3)上および基板1上に炭素含有ガスが吸着などすること等で付着した炭素含有物が、電子線に照射されることによって分解し、カーボンが堆積するためと考えている。
【0098】
電子線の加速電圧は、1kVから20kV程度に設定されることが好ましい。電子線は、好ましくは連続的(DC的)に照射することが好ましい。また、電子線の電流値としては、0.1μA〜100μAの範囲であることが好ましい。
【0099】
以上の工程により本発明の電子放出素子は作成することができる。
【0100】
尚、図1、図2などを用いて説明した本発明の電子放出素子を形成する方法は、上記加工処理や電子線照射に限定されるべきものではない。ここで説明した方法を用いずに、例えば、上記した「活性化」における、(I)炭素含有ガスの種類や、(II)炭素含有ガスの分圧や、(III)印加する電圧波形や、(IV)炭素含有ガスを排気するタイミングと電圧印加の停止のタイミングとの関係、(V)「活性化」時の温度、などを適宜制御することで、活性化処理だけで、図1、図2などを用いて説明した構造の電子放出素子を形成することができるかもしれない。そのため、このような「活性化」によって、図1、図2に示した導電性膜(21a、21b)を形成する方法を本発明は排除するものではない。
【0101】
以上のように作製された本発明の電子放出素子は、実用的な駆動を行う前(画像表示装置に適用する場合には発光体に電子線を照射する前)に、好ましくは、真空中で加熱する処理である「安定化」処理を行うことで、前述した「活性化」処理などによって基板1表面や、その他の箇所に付着した余分な炭素や有機物を除去することが好ましい。
【0102】
具体的には、真空容器内で、余分な炭素や有機物質を排気する。真空容器内の有機物質は極力排除することが望ましいが、有機物質の分圧としては1×10―8Pa以下まで除去することが好ましい。また、有機物質以外の他のガスをも含めた真空容器内の全圧力は、3×10―6Pa以下が好ましく、さらに1×10―7Pa以下が特に好ましい。さらに真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱することが好ましい。
【0103】
「安定化」処理を行った後に、電子放出素子を駆動する時の雰囲気は、上記「安定化」処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではない。有機物質が十分除去されていれば、圧力自体は多少上昇しても十分に安定な特性を維持することができる。
【0104】
次に、本発明の電子放出素子の基本特性について、図3、図12を用いて説明する。
【0105】
図3に示した測定評価装置により測定された、前述した「安定化」処理後の電子放出素子の放出電流Ie及び素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の典型的な例を図12に示す。
【0106】
なお、図12は、放出電流Ieは素子電流Ifに比べて著しく小さいので、任意単位で示されている。図12からも明らかなように、本発明の電子放出素子は放出電流Ieに対する3つの性質を有する。
【0107】
まず第1に、本発明の電子放出素子は、ある電圧(しきい値電圧と呼ぶ;図12中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加する。一方で、しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。すなわち、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子である。
【0108】
第2に、放出電流Ieが素子電圧Vfに依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
【0109】
第3に、アノード電極44に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。つまり、アノード電極44に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0110】
以上のような電子放出素子の特性を用いると、入力信号に応じて電子放出特性を容易に制御できることになる。
【0111】
次に、図1(b)や図2(b)に示した本発明の電子放出素子の間隙8近傍の観察方法を図22を用いて説明する。
【0112】
観察方法としては、平面SEM、断面SEM、断面TEM、3D−TEM(トモグラフィー)等を利用できる。本発明の電子放出素子のような微細構造を観察する際には、3D−TEM(トモグラフィー)を用いることが好ましい。
【0113】
3D−TEM像を得るには、まず、電子放出素子が配置されている表面の裏側から基板1を削る(図22(a))。具体的には、電子放出素子(間隙8近傍)の直下の基板1の厚みが100nm以下になるまで加工する。次に、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、透過角度を変えながら、様々な角度から間隙8近傍のTEM像観察を行う(図22(b))。尚、この時、必要に応じて、間隙近傍を保護膜(例えば金を電子放出素子全体に蒸着することで形成できる)で覆うことが好ましい。その後、撮影した複数のTEM像を3次元画像に構築することで、3D−TEM(トモグラフィー)像を得ることができる。このような3D−TEMを用いれば、10nm以下の間隙8の構造を3次元的に詳細に観察することができる。
【0114】
次に、本発明の電子放出素子の応用例について以下に述べる。
【0115】
本発明の電子放出素子を複数個基板上に配列し、例えば電子源あるいは、フラットパネル型テレビジョンなどの画像表示装置を構成できる。
【0116】
基板上の電子放出素子の配列形態としては、例えば、m本のX方向配線とn本のY方向配線を用意し、本発明の電子放出素子の第1導電性膜21a(典型的には第1補助電極2)をm本のX方向配線のうちの1本に接続し、第2導電性膜21b(典型的には補助電極3をn本のY方向配線のうちの1本に電気的に接続する配列形態(「マトリクス型配列」と呼ぶ)が挙げられる(尚、m、nは、共に正の整数)。
【0117】
次に、このマトリクス型配列について詳述する。
【0118】
本発明の電子放出素子の前述した3つの基本的特性の特徴によれば、放出電子は、しきい値電圧以上では、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加するパルス状電圧の波高値と幅で制御できる。一方、しきい値電圧以下では、実質的に電子は放出されない。この特性によれば、多数の電子放出素子を配置した場合でも、個々の電子放出素子に、上記パルス状電圧を適宜印加すれば、入力信号に応じて、選択した電子放出素子からの電子放出量を制御することができる。
【0119】
以下、この原理に基づき構成した、マトリクス型配列の電子源基板の構成について、図13を用いて説明する。
【0120】
m本のX方向配線72は、Dx1,Dx2,・・・・・・,Dxmからなり、絶縁性基板71上に、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成される。X方向配線72は、金属等の導電性材料からなる。n本のY方向配線73は、Dy1,Dy2,・・・,Dynのn本の配線よりなり、X方向配線72と同様の手法、同様の材料により形成することができる。これらm本のX方向配線72とn本のY方向配線73との間には、不図示の絶縁層が配置される。絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成することができる。
【0121】
また、前記X方向配線72には、走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が電気的に接続される。一方、Y方向配線73には、走査信号に同期して、選択された各電子放出素子から放出される電子を変調するための変調信号を印加する不図示の変調信号発生手段が電気的に接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧Vfは、印加される走査信号と変調信号との差電圧として供給される。
【0122】
次に、上記のようなマトリクス配列の電子源基板を用いた電子源、及び、画像表示装置の一例について、図14と図15を用いて説明する。図14は画像表示装置を構成する外囲器(ディスプレイパネル)88の基本構成図であり、図15は蛍光体膜の構成を示す模式図である。
【0123】
図14において、71は本発明の電子放出素子74を複数配した電子源基板、81は電子源基板71を固定したリアプレート、86はガラスなどの透明基板83の内面に蛍光体膜84と導電性膜85等が形成されたフェースプレートである。82は支持枠である。リアプレート81、支持枠82及びフェースプレート86は、接合部にフリットガラスやインジウムなどの接着剤を塗布し加熱することにより封着されている。この封着された構造体で外囲器88が構成される。尚、上記導電性膜85は、図3を用いて説明したアノード電極44に対応する部材である。
【0124】
外囲器88は、フェースプレート86、支持枠82、リアプレート81で構成することができる。しかし、リアプレート81は主に基板71の強度を補強する目的で設けられる。そのため、基板71自体が十分な強度を持つ場合は、リアプレート81は不要である。その場合は、基板71に直接支持枠82を封着し、フェースプレート86、支持枠82及び基板71で外囲器88を構成することができる。
【0125】
また、フェースプレート86と基板71との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器88を構成することができる。
【0126】
図15(a)、(b)は、それぞれ、図14で示した蛍光体膜84の具体的な構成の例である。蛍光体膜84は、モノクロームの場合は単色の蛍光体92のみから成る。しかし、カラーの画像表示装置を構成する場合には、蛍光体膜84は、RGB3原色の蛍光体92と、各色の間に配置される光吸収部材91とを含む。光吸収部材91は好ましくは、黒色の部材を用いることができる。図15(a)は、光吸収部材91をストライプ状に配列した形態である。図15(b)は、光吸収部材91をマトリクス状に配列した形態である。一般に、図15(a)の形態は「ブラックストライプ」と呼ばれ、図15(b)の形態は「ブラックマトリクス」と呼ばれる。光吸収部材91を設ける目的は、カラー表示の場合必要となる3原色蛍光体の各蛍光体92間の塗り分け部における混色等を目立たなくすることと、蛍光体膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。光吸収部材91の材料としては、通常良く用いられている黒鉛を主成分とする材料だけでなく、光の透過及び反射が少ない材料であればこれに限るものではない。また、導電性であっても絶縁性であっても良い。
【0127】
また、蛍光体膜84の内面側(電子放出素子74側)には、「メタルバック」などと呼ばれる導電性膜85が設けられる。導電性膜85の目的は、蛍光体92からの発光のうち、電子放出素子74側へ向かう光をフェースプレート86側へ鏡面反射することで輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器88内で発生した負イオンの衝突による蛍光体のダメージを抑制すること等である。
【0128】
導電性膜85は、好ましくは、アルミニウム膜で形成される。導電性膜85は、蛍光体膜84作製後、蛍光体膜84の表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
【0129】
フェースプレート86には、更に蛍光体膜84の導電性を高めるため、蛍光体膜84と透明基板83との間にITOなどからなる透明電極(不図示)を設けてもよい。
【0130】
上記外囲器88内の各電子放出素子74には、各電子放出素子に接続する図13を用いて前述したX方向配線およびY方向配線に接続する端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを通じて電圧を印加することにより、所望の電子放出素子から電子放出させることができる。この時、高圧端子87を通じ、導電性膜85に5kV以上30kV以下、好ましくは10kV以上25kV以下の電圧を印加する。尚、フェースプレート86と基板71との間隔は1mm以上5mm以下、更に好ましくは1mm以上3mm以下に設定される。この様にする事で、選択した電子放出素子から放出された電子は、導電性膜85を透過し、蛍光体膜84に衝突する。そして蛍光体92を励起・発光させることで画像を表示するものである。
【0131】
なお、以上述べた構成においては、各部材の材料等、詳細な部分は上記した内容に限られるものではなく、目的に応じて適宜変更される。
【0132】
また、図14を用いて説明した本発明の外囲器(ディスプレイパネル)88を用いて情報表示再生装置を構成することができる。
【0133】
具体的には、テレビジョン放送などの放送信号を受信する受信装置と、受信した信号を選曲するチューナーと、選曲した信号に含まれる映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを、ディスプレイパネル88に出力してスクリーンに表示および/あるいは再生させる。尚、ここで言う「スクリーン」は、図14で示したディスプレイパネル88においては、蛍光体膜84に相当すると言うことができる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダーも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、ディスプレイパネル88に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
【0134】
また、映像情報または文字情報をディスプレイパネル88に出力してスクリーンに表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。まず、受信した映像情報や文字情報から、ディスプレイパネル88の各画素に対応した画像信号を生成する。そして生成した画像信号を、ディスプレイパネル88の駆動回路に入力する。そして、駆動回路に入力された画像信号に基づいて、駆動回路からディスプレイパネル88内の各電子放出素子に印加する電圧を制御して、画像を表示する。
【0135】
図32は、本発明に係るテレビジョン装置のブロック図である。受信回路は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部(インターフェース部)に出力する。I/F部は、映像データを表示装置の表示フォーマットに変換して上記ディスプレイパネル88に画像データを出力する。画像表示装置は、ディスプレイパネル88、駆動回路及び制御回路を含む。制御回路は、入力した画像データに表示パネルに適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路は、入力された画像データに基づいて、ディスプレイパネル88の各配線(図14のDox1〜Doxm、Doy1〜Doyn参照)に駆動信号を出力し、テレビ映像が表示される。受信回路とI/F部は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置と同一の筐体に収められていてもよい。
【0136】
また、インターフェースには、プリンター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルビデオディスク(DVD)などの画像記録装置や画像出力装置に接続することができる構成とすることもできる。そして、このようにすれば、画像記録装置に記録された画像をディスプレイパネル88に表示させることもできるし、また、ディスプレイパネル88に表示させた画像を、必要に応じて加工し、画像出力装置に出力させることもできる情報表示再生装置(またはテレビジョン)を構成することができる。
【0137】
ここで述べた情報表示再生装置の構成は、一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の情報表示再生装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等のシステムと接続することで、様々な情報表示再生装置を構成することができる。
【実施例】
【0138】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
【0139】
(実施例1)
本実施例にかかわる基本的な電子放出素子の構成は、図1と同様である。以下、図1、図3、図4を用いて、本実施例にかかわる素子の基本的な構成及び製造方法を説明する。
【0140】
(工程−a)
最初に、清浄化した石英基板1上に、補助電極2、3のパターンに対応してホトレジストを形成する。次いで、電子ビーム蒸着法により、厚さ5nmのTiと厚さ45nmのPtを順次堆積した。ホトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、Pt/Ti堆積膜をリフトオフして、20μmの間隔Lを隔てて対向する第1補助電極2と第2補助電極3を形成した。尚、補助電極2,3の幅W(図1参照)は500μmとした(図4(a))。
【0141】
(工程−b)
第1補助電極2と第2補助電極3とをつなぐように有機パラジウム化合物溶液をスピンナーにより回転塗布した後に、加熱焼成処理をした。こうしてPdを主元素として含む導電性薄膜が形成された。
【0142】
(工程−c)
続いて、導電性薄膜をパターニングして、幅W’(図1参照)が100μmである導電性薄膜4を形成した(図4(b))。
【0143】
以上の工程により、基板1上に、素子電極2、3、導電性薄膜4を形成した。
【0144】
(工程−d)
次に、上記基板1を図3の測定評価装置に設置し、真空ポンプにて排気し、1×10−6Paの真空度に達した後、電源41を用いて補助電極2、3間に電圧Vfを印加し、フォーミング処理を行い、導電性薄膜4に第二の間隙7を形成して、電極4a、4bを形成した(図4(c))。フォーミング処理における電圧波形は図7(b)に示したものを用いた。
【0145】
図7(b)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、本実施例ではT1を1msec、T2を16.7msecとし、三角波の波高値は0.1Vステップで昇圧させることで、フォーミング処理を行った。また、フォーミング処理中は、間欠的に、0.1Vの電圧の抵抗測定パルスを補助電極2、3間に印加し、抵抗を測定した。尚、フォーミング処理の終了は、抵抗測定パルスでの測定値が、約1MΩ以上になった時とした。
【0146】
(工程−e)
続いて、活性化工程を行うために、アクリロニトリルをスローリークバルブを通して真空装置内に導入し、1.3×10−4Paを維持した。次に、図8(a)に示した波形のパルス電圧を、T1が2msec、T2が7msecの条件で、補助電極2、3間に印加した。尚、「活性化」処理においては、第1補助電極2は常にグランド電位に固定して、図8(a)に示した波形のパルス電圧を第2補助電極3に印加した。
【0147】
活性化処理を開始後100分経過した後、図9に示した点線よりも右側の領域に充分に入ったことを確認し、電圧の印加を停止し、スローリークバルブを閉め、「活性化」処理を終了した。その結果、第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bを形成した(図4(d))。
【0148】
尚、本工程においては、図8(a)の波形における最大電圧値を±14Vの条件で「活性化」処理を行った電子放出素子Aと、最大電圧値を±16Vで「活性化」処理を行った電子放出素子Bと、最大電圧値を±18Vで「活性化」処理を行った電子放出素子Cをそれぞれ作製した。尚、上述した電子放出素子Aについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計8つの電子放出素子(A1〜A8)を作成した。また、電子放出素子Bについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計6つの電子放出素子(B1〜B6)を作成した。また、電子放出素子Cについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計4つの電子放出素子(C1〜C4)を作成した。
【0149】
以上の(工程−a)〜(工程−e)と同様の製造方法で作成した電子放出素子(A’、B’、C’)の平面SEM像および断面SEM像を観察したところ、「活性化」処理における印加電圧にかかわらず、図5(a)、図5(b)に示したように、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bのそれぞれの端部(間隙8の外縁を形成している部分)の膜厚がほぼ等しい構成になっており、間隙8は蛇行していた。また、いずれの電子放出素子においても、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔(間隙)が周囲に比べてより狭くなっている部分(部分Aと部分B)が多数存在した。
【0150】
そして、上記電子放出素子A、B、Cのそれぞれと同様の製造方法で作成した電子放出素子(A’、B’、C’)の間隙8近傍の様子を3D−TEM像で観察し、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1を測定したところ、電子放出素子A’では平均2.3nm、電子放出素子B’では平均2.8nm、電子放出素子C’では平均3.3nmであった。
【0151】
また、部分Aから間隙8の外縁に沿ってd1と同じ距離だけ離れた第1導電性膜21aの部分と、該部分と対向する第2導電性膜21bの部分との最短距離d2を、3D−TEM像から測定したところ、電子放出素子A’では平均2.5nm(d2/d1は全て1.1以下)、電子放出素子B’では平均3.0nm(d2/d1は全て1.1以下)、電子放出素子C’では平均3.5nm(d2/d1は全て1.1以下)であった。
【0152】
(工程−f)
次に、(工程−e)を終えた本実施例の電子放出素子(A、B、C)を図3の測定評価装置から大気に取り出し、実施の形態で述べたように、AFMを用いて第1カーボン膜21aの加工処理を行った(図10(a)、(b)参照)。
【0153】
本実施例では、まず、第1カーボン膜21aの端部をAFMで削ることにより、部分Aと部分Bとの間の距離d1を、電子放出素子A(A1〜A8)では全て2.5nmに設定し、電子放出素子B(B1〜B6)では全て3.0nmに設定し、電子放出素子C(C1〜C4)では全て3.5nmに設定した。
【0154】
さらに、8つの電子放出素子Aについては、電子放出素子A1はd2が2.8nm、電子放出素子A2はd2が3.0nm、電子放出素子A3はd2が3.3nm、電子放出素子A4はd2が3.6nm、電子放出素子A5はd2が4.0nm、電子放出素子A6はd2が4.2nm、電子放出素子A7はd2が5.0nm、電子放出素子A8はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚電子放出素子A1におけるd2/d1は1.1であり、A2〜A8におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0155】
また、6つの電子放出素子Bについては、電子放出素子B1はd2が3.3nm、電子放出素子B2はd2が3.6nm、電子放出素子B3はd2が4.0nm、電子放出素子B4はd2が4.2nm、電子放出素子B5はd2が5.0nm、電子放出素子B6はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚電子放出素子B1におけるd2/d1は1.1であり、B2〜B6におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0156】
また、4つの電子放出素子Cは、電子放出素子C1はd2が4.0nm、電子放出素子C2はd2が4.2nm、電子放出素子C3はd2が5.0nm、電子放出素子C4はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚電子放出素子C1におけるd2/d1は1.1であり、C2〜C4におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0157】
また、上記(工程−a)〜(工程−e)と同じ方法で比較例1の電子放出素子を3種類作成した。比較例1の電子放出素子のそれぞれは、活性化工程における印加電圧が異なる。活性化工程における最大電圧値は、1番目の素子は±14V、2番目の素子は±16V、3番目の素子は±18Vであった。尚、比較例1の電子放出素子では、上記(工程−f)は行わなかった。
【0158】
(工程−g)
次に、(工程−f)を終了した本実施例で作成した電子放出素子と、比較例1の電子放出素子とを、図3の測定評価装置に設置し、内部を真空にした後、「安定化」処理を行った。
【0159】
具体的には、真空装置及び電子放出素子をヒーターにより加熱して約250℃に維持しながら真空装置内の排気を続けた。20時間後、ヒーターによる加熱を止め、室温に戻したところ真空装置内の圧力は1×10−8Pa程度に達した。続いて、電子放出特性の測定を行った。
【0160】
電子放出特性の測定においては、アノード電極44と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源43によりアノード電極44に1kVの電位を与えた。この状態で、電源41を用いて各電子放出素子の補助電極2、3の間に、第1補助電極2の電位が第2補助電極3の電位よりも低くなるようにして駆動電圧を印加した。尚、電子放出素子A1〜A8および比較例1の1番目の素子には、波高値12Vの矩形パルス電圧を印加し、電子放出素子B1〜B6および比較例1の2番目の素子には、波高値14Vの矩形パルス電圧を印加し、電子放出素子C1〜C4および比較例1の3番目の素子には、波高値16Vの矩形パルス電圧を印加した。
【0161】
尚、この測定の際には、電流計40及び電流計42により、本実施例の電子放出素子及び比較例1の電子放出素子の素子電流Ifおよび放出電流Ieをそれぞれ測定し、電子放出効率(Ie/If)を算出した。
【0162】
算出された電子放出効率を以下の表1に示し、放出電流Ieの結果を表2に示す。尚、素子電流Ifはいずれの電子放出素子も1.0mA程度であった。
【0163】
【表1】

【0164】
【表2】

【0165】
この結果から、本実施例の電子放出素子は、比較例1の電子放出素子と比較して、d2/d1が1.2以上の場合に、放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていることがわかる。また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、長時間に渡り上記表1、2の特性を時間変動が少なく維持できた。
【0166】
上記特性評価後、本実施例で作成した各電子放出素子(A、B、C)の間隙8近傍を前述した3D−TEMで観察したところ、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1は、電子放出素子Aでは2.5nm、電子放出素子Bでは3.0nm、電子放出素子Cでは3.5nmになっていることが確認された。また、同様に、d2は、電子放出素子A1では2.8nm、A2では3.0nm、A3では3.3nm、A4では3.5nm、A5では4.0nm、A6では4.2nm、A7では5.0nm、A8では10nm、B1では3.3nm、B2では3.5nm、B3では4.0nm、B4では4.2nm、B5では5.0nm、B6では10nm、C1では4.0nm、C2では4.2nm、C3では5.0nm、C4では10nmであることが確認された。
【0167】
また、全ての電子放出素子において、基板変質部(凹部)22も第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間の基板1表面に形成されていることも確認された。
【0168】
また、平面SEMを用いて、前記凸部の各々の間隔d3を測定し、その分布を調べた。図24にその度数分布の概略グラフを示す。
【0169】
いずれの電子放出素子も、間隔d3の度数分布が、30d1〜40d1にピークを持つ3d1から500d1までのものであった。尚、本実施例の電子放出素子A〜Cでは、間隔d3の度数分布が上記範囲であったが、これに限るものではなく、さらに間隔d3が広い方向に分布を持っていてもかまわない。しかしながら、実用範囲内の放出電流Ieを得るためには、好ましくは2000d1以内に収まるのが好ましい。
【0170】
また、より一層の放出電流Ieをさらに得るためには、d3を3d1から40d1以内で且つ全てのd3を等しくする(度数分布をシャープにする)ことが最も好ましい。
【0171】
(実施例2)
本実施例では、本発明のさらに好ましい実施例を示す。
【0172】
本実施例では、実施例1の(工程−e)、(工程−f)を以下に説明する方法に変更した以外は、実施例1と同じように形成したので、ここでは、(工程−e)、(工程−f)について説明する。
【0173】
(工程−e)
工程−dに続いて、活性化工程を行うために、アクリロニトリルをスローリークバルブを通して真空装置内に導入した。次に、図8(b)に示した波形のパルス電圧を、T1が1msec、T1´が0.3msec、T2が5msecの条件で、補助電極2、3間に印加した。尚、「活性化」処理においては、第1補助電極2は常にグランド電位に固定して、図8(b)に示した波形のパルス電圧を第2補助電極3に印加した。
【0174】
活性化処理を開始後120分経過した後、図9に示した点線よりも右側の領域に充分に入っていることを確認し、電圧の印加を停止し、スローリークバルブを閉め、「活性化」処理を終了した。その結果、第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bを形成した(図4(d))。
【0175】
尚、本工程においては、図8(b)の波形における最大電圧値を±14Vの条件で「活性化」処理を行った電子放出素子Dと、最大電圧値を±16Vで「活性化」処理を行った電子放出素子Eと、最大電圧値を±18Vで「活性化」処理を行った電子放出素子Fをそれぞれ作製した。尚、上述した電子放出素子Dについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計8つの電子放出素子(D1〜D8)を作成した。また、電子放出素子Eについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計6つの電子放出素子(E1〜E6)を作成した。また、電子放出素子Fについては、上記した製造方法と同じ製造方法により合計4つの電子放出素子(F1〜F4)を作成した。
【0176】
以上の(工程−a)〜(工程−e)と同様の製造方法で作成した電子放出素子の平面SEM像および断面SEM像を観察したところ、「活性化」処理における印加電圧にかかわらず、図6(a)、図6(b)に模式的に示したように、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bのそれぞれの端部(間隙8の外縁を形成している部分)の膜厚が非対称な構成になっており、間隙8は蛇行していた。また、いずれの電子放出素子においても、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔(間隙)が周囲に比べてより狭くなっている部分(部分Aと部分B)が多数存在した。
【0177】
そして、上記電子放出素子(D、E、F)と同様の製造方法で作成した電子放出素子(D’、E’,F’)の間隙8近傍の様子を3D−TEM像で観察し、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1を測定したところ、電子放出素子D’では平均2.3nm、電子放出素子E’では平均2.8nm、電子放出素子F’では平均3.3nmであった。
【0178】
また、部分Aから間隙8の外縁に沿ってd1と同じ距離だけ離れた第1導電性膜21aの部分と、該部分と対向する第2導電性膜21bの部分との最短距離d2を、3D−TEM像から測定したところ、電子放出素子D’では平均2.5nm(d2/d1は全て1.1以下)、電子放出素子E’では平均3.0nm(d2/d1は全て1.1以下)、電子放出素子F’では平均3.5nm(d2/d1は全て1.1以下)であった。
【0179】
そして、電子放出素子D’の間隙8近傍の様子を断面SEMで観察したところ、第1カーボン膜21aの端部の膜厚は20nm、第2カーボン膜21bの端部の膜厚は75nmであった。また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)の延長線上に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚が100nmであった。
【0180】
(工程−f)
次に、(工程−e)を終えた本実施例の電子放出素子(D、E、F)を図3の測定評価装置から大気に取り出し、実施の形態で述べたように、AFMを用いて第1カーボン膜21aの加工処理を行った(図11(a)、(b)、(c)参照)。
【0181】
カーボン膜21aの端部を削ることにより第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1を、電子放出素子D(D1〜D8)では全て2.5nm、電子放出素子E(E1〜E6)では全て3.0nm、電子放出素子F(F1〜F4)では全て3.5nmに設定した。
【0182】
さらに、8つの電子放出素子Dについては、電子放出素子D1はd2が2.8nm、電子放出素子D2はd2が3.0nm、電子放出素子D3はd2が3.3nm、電子放出素子D4はd2が3.6nm、電子放出素子D5はd2が4.0nm、電子放出素子D6はd2が4.2nm、電子放出素子D7はd2が5.0nm、電子放出素子D8はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚、電子放出素子D1におけるd2/d1は1.1であり、D2〜D8におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0183】
また、6つの電子放出素子Eについては、電子放出素子E1はd2が3.3nm、電子放出素子E2はd2が3.6nm、電子放出素子E3はd2が4.0nm、電子放出素子E4はd2が4.2nm、電子放出素子E5はd2が5.0nm、電子放出素子E6はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚電子放出素子E1におけるd2/d1は1.1であり、E2〜E6におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0184】
また、4つの電子放出素子Fについては、電子放出素子F1はd2が4.0nm、電子放出素子F2はd2が4.2nm、電子放出素子F3はd2が5.0nm、電子放出素子F4はd2が10nmとなるように、それぞれの第1カーボン膜21aの端部をAFMを用いて加工処理した。尚電子放出素子F1におけるd2/d1は1.1であり、F2〜F4におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0185】
また、それぞれの電子放出素子に対し、第2導電性膜21bの部分Bの膜厚が第1導電性膜21aの部分Aの膜厚に等しくなるように削り、第2導電性膜21bの部分Bと部分35および部分36との膜厚差h(「突起部」の高さh(図2(c)、(d)参照))を50nmとなるようにした。更に、部分35と部分36との間隔w(「突起部」の間隔w)が、電子放出素子Dでは5nm、電子放出素子Eでは6nm、電子放出素子Fでは7nmとした。
【0186】
また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)の延長線上に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚は100nmとした。
【0187】
また、上記(工程−a)〜(工程−e)と同じ方法で比較例2の電子放出素子を3種類作成した。比較例2の電子放出素子のそれぞれは、活性化工程における印加電圧が異なる。活性化工程における最大電圧値は、1番目の素子は±14V、2番目の素子は±16V、3番目の素子は±18Vであった。尚、比較例2の電子放出素子では、上記(工程−f)は行わなかった。
【0188】
(工程−g)
次に、(工程−f)を終了した本実施例の電子放出素子と、比較例2の電子放出素子とを、図3の測定評価装置に設置し、内部を真空にした後、「安定化」処理を行った。
【0189】
具体的には、真空装置及び電子放出素子をヒーターにより加熱して約250℃に維持しながら真空装置内の排気を続けた。20時間後、ヒーターによる加熱を止め、室温に戻したところ真空装置内の圧力は1×10−8Pa程度に達した。続いて、電子放出特性の測定を行った。
【0190】
電子放出特性の測定においては、アノード電極44と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源43によりアノード電極44に1kVの電位を与えた。この状態で、電源41を用いて各電子放出素子の補助電極2、3の間に、第1補助電極2の電位が第2補助電極3の電位よりも低くなるようにして駆動電圧を印加した。尚、電子放出素子D1〜D8および比較例2の1番目の素子には、波高値12Vの矩形パルス電圧を印加し、電子放出素子E1〜E6および比較例2の2番目の素子には、波高値14Vの矩形パルス電圧を印加し、電子放出素子F1〜F4および比較例2の3番目の素子には、波高値16Vの矩形パルス電圧を印加した。
【0191】
尚、この測定の際には、電流計40及び電流計42により、本実施例の電子放出素子及び比較例2の電子放出素子の素子電流Ifおよび放出電流Ieをそれぞれ測定し、電子放出効率(Ie/If)を算出した。
【0192】
算出された電子放出効率を以下の表3に示し、放出電流Ieの結果を表4に示す。尚、素子電流Ifはいずれの電子放出素子も1.0mA程度であった。
【0193】
【表3】

【0194】
【表4】

【0195】
この結果から、本実施例の電子放出素子は、比較例2の電子放出素子と比較して、d2/d1が1.2以上の場合に、放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていることがわかる。また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、長時間に渡り上記表3、4の特性を時間変動が少なく維持できた。
【0196】
上記特性評価後、本実施例で作成した各電子放出素(D、E、F)の間隙8近傍を前述した3D−TEMで観察したところ、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1は、電子放出素子D(D1〜D8)では2.5nm、電子放出素子E(E1〜E6)では3.0nm、電子放出素子F(F1〜F4)では3.5nmになっていることが確認された。また、d2は、電子放出素子D1では2.8nm、D2では3.0nm、D3では3.3nm、D4では3.6nm、D5では4.0nm、D6では4.2nm、D7では5.0nm、D8では10nm、E1では3.3nm、E2では3.6nm、E3では4.0nm、E4では4.2nm、E5では5.0nm、E6では10nm、F1では4.0nm、F2では4.2nm、F3では5.0nm、F4では10nmであることが確認された。
【0197】
また、全ての電子放出素子において、基板変質部(凹部)22が第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間の基板1表面に形成されていることも確認された。さらにまた、第2導電性膜21bの部分Bの膜厚が第1導電性膜21aの部分Aの膜厚に等しく、第2導電性膜21bの部分Bと部分35および部分36との膜厚差h(「突起部」の高さh)が50nmであることが確認された。
【0198】
さらに、部分35と部分36との間隔w(「突起部」の間隔w)が、電子放出素子Dでは5nm、電子放出素子Eでは6nm、電子放出素子Fでは7nmであることが確認された。この値(間隔w)は、それぞれの電子放出素子のd1の2倍の値である。
【0199】
また、平面SEMを用いて、前記凸部(部分A)の各々の間隔d3を測定し、その分布を調べたところ、図24に示した度数分布と同様の結果であった。いずれの電子放出素子も、前記凸部の間隔d3の度数分布が、35d1〜45d1にピークを持つ3d1程度から500d1までのものであった。尚、本実施例の電子放出素子D〜Fでは、間隔d3の度数分布が上記範囲であったが、これに限るものではなく、さらに間隔d3が広い方向に分布を持っていてもかまわない。しかしながら、実用範囲内の放出電流Ieを得るためには、好ましくは2000d1以内に収まるのが好ましい。尚、d3を3d1未満に設定して形成してみたところ、電子放出電流の経時的な変動がd3が3d1以上の電子放出素子と比べて大きくなることがわかった。これは、電子放出に寄与すると思われる凸部(部分A)同士が近すぎることにより、互いに干渉するためではないかと推測される。
【0200】
また、より一層の放出電流Ieをさらに得るためには、d3を3d1から45d1以内で且つ全てのd3を等しくする(度数分布をシャープにする)ことが最も好ましい。
【0201】
また、上述したE3の電子放出素子と同様の製造方法で作成した電子放出素子において、間隔wの値を変えて7種類の電子放出素子(E3−1〜E3−8)を作成し、その各々の特性を評価した。但し、このときの間隔wは、E3−1では3nm、E3−2では5nm、E3−3では6nm、E3−4では15nm、E3−5では50nm、E3−6では150nm、E3−7では300nmとした。これらの電子放出素子を電圧14Vを印加して駆動させたところ、E3−1に対しE3−2は、電子放出効率ηおよび放出電流Ieともにほぼ変わらなかった。E3−2に対しE3−3は、放出電流Ieはほぼ変わらなかったが電子放出効率ηが約1.1倍向上した。E3−3に対しE3−4は、放出電流Ieおよび電子放出効率ηが約1.2倍向上した。E3−4に対しE3−5は、電子放出効率ηが約1.1倍向上した。E3−5に対しE3−6は、電子放出効率ηおよび放出電流Ieはほぼ同等であった。E3−6に対するE3−7は、電子放出効率ηおよび放出電流Ieが減少に転じた。このような傾向は、本実施例の他の電子放出素子(D、E、F)において同様に見られる。以上の結果から、wはd1の2倍以上に設定することで放出電流Ieおよび電子放出効率ηを向上させる効果が生じることがわかる。またd1の50倍を越hえると、その効果が少なくなり始めることがわかる。
【0202】
また、上記膜厚差h(「突起部」の高さh)についても、上述したE3の電子放出素子と同様の製造方法において、膜厚差hの値を変えて7種類の電子放出素子(E3−8〜E3−13)の特性を評価した。膜厚差hは、E3−8では3nm、E3−9では4nm、E3−10では6nm、E3−11では10nm、E3−12では70nmとした。
【0203】
これらの電子放出素子を電圧14Vを印加して駆動させたところ、E3−8に対しE3−9は、電子放出効率ηおよび放出電流Ieともにほぼ変わらなかった。E3−9に対しE3−10は、放出電流Ieが約1.2倍向上し、電子放出効率ηにおいてはほぼ同等であった。E3−10に対しE3−11は、電子放出効率ηにおいて約1.2倍向上した。E3−11に対しE3−12は、電子放出効率ηにおいて約1.1倍向上したが、放出電流Ieはほぼ同等であった。
【0204】
以上の結果から、hはd1の2倍以上に設定することで放出電流Ieおよび電子放出効率ηを向上させる効果が生じることがわかる。このような傾向は、本実施例の他の電子放出素子(D、E、F)においても同様であった。また、膜厚差hが70nm以上の場合においても、放出電流Ieと電子放出効率ηはより大きい値を示すことが発明者らの計算によりわかっているので膜厚差hの上限は制限されない。しかしながら、本発明の電子放出素子を用いた画像表示装置においては、製造コストや品質上の問題(放電等)から、実効的には、膜厚差hはd1の200倍未満に設定するのが好ましい。
【0205】
(実施例3)
本実施例は、図27(a)〜(c)に示した電子放出素子を、電子線照射を用いて作製する例である。尚、工程(a)は実施例1との工程(a)と同じであるので、以下では省略した。
【0206】
(工程−b)
次に、補助電極2、3が形成された基板1を、図3の測定評価装置(不図示の電子線照射手段を配置)に設置した。その後、装真空ポンプにて置内を1×10−6Paの真空度に達するまで排気した。その後、アクリロニトリルをスローリークバルブを通して真空装置内に導入した。次に、電極2、3をグランド電位に設定し、電子線を照射し、図27(a)〜(c)に示したような第1カーボン膜21a、第2カーボン膜21bになるように形成した。電子線の加速電圧を5kV、電流値を10μAとした。カーボン膜21a、21bの幅W’は、100μmとした。
【0207】
このとき、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bのそれぞれの端部(間隙8の外縁を形成している部分)の膜厚を対称な構成に設定し(図27(c)参照)、間隙8は蛇行させた。また、電子線の照射時間を制御することで、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離d1を3.5nmになるように形成した。
【0208】
このような方法を用いて、d2を変えた電子放出素子(G1〜G5)を形成した。電子放出素子G1のd2は3.7nm、電子放出素子G2のd2は4.0nm、電子放出素子G3のd2は4.2nm、電子放出素子G4のd2は5.0nm、電子放出素子G5のd2は10nmとした。また、各電子放出素子における間隔d3を30d1に設定した。尚、電子放出素子G1、G2におけるd2/d1は1.1であり、G3〜G5におけるd2/d1は全て1.2以上である。
【0209】
(工程−c)
次に、(工程−b)を終了した本実施例の電子放出素子を、真空装置内の排気を続けながら、ヒーターにより加熱すると同時に電圧を印加した。20時間後、ヒーターによる加熱を止め、室温に戻したところ真空装置内の圧力は1×10−8Pa程度に達した。続いて、電子放出特性の測定を行った。
【0210】
電子放出特性の測定においては、アノード電極44と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源43によりアノード電極44に1kVの電位を与えた。この状態で、電源41を用いて補助電極2、3の間に、第1補助電極2の電位が第2補助電極3の電位よりも低くなるように波高値16Vの矩形パルス電圧を印加した。
【0211】
尚、この測定の際には、電流計40及び電流計42により、本実施例の電子放出素子の素子電流Ifおよび放出電流Ieをそれぞれ測定し、電子放出効率を算出した。
【0212】
算出された電子放出効率と放出電流Ieの結果を表5に示す。尚、素子電流Ifは、いずれの場合も2.5mA程度であった。
【0213】
【表5】

【0214】
この結果から、本実施例の電子放出素子は、d2/d1が1.2以上の場合に、放出電流Ieが大きくなると共に電子放出効率ηが上昇したことがわかる。また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、実施例1で作成した電子放出素子と比較して、長時間に渡り上記表5の特性を時間変動が少なく維持できた。
【0215】
特性評価後、本実施例で作成した各電子放出素子の間隙8近傍の3D−TEM像を観察したところ、おおよそ図25に模式的に示す様な構造であった。さらに詳細に観察したところ、間隙8に沿って、周囲に比べて間隔が狭くなっている部分であって、且つ、間隔(d1)が10nm以下の部分が多数観察された。そして、間隔d1は、3.5nmになっていた。
【0216】
また、電子放出素子G1のd2は3.7nmであり、電子放出素子G2のd2は4.0nmであり、電子放出素子G3のd2は4.2nmであり、電子放出素子G4のd2は5.0nmであり、電子放出素子G5のd2は10nmであった。
【0217】
また、平面SEMを用いて間隔d1の分布を調べた。図29にその度数分布の概略グラフを示す。いずれの素子の場合も、前記間隙8の延在方向に沿った前記凸部の間隔の度数分布が、30d1にシャープなピークを持つものであった。
【0218】
(実施例4)
本実施例は、図28(a)〜(d)に示した第1カーボン膜21a、第2カーボン膜21bを備える電子放出素子を、電子線照射を用いて作製する例である。本実施例では、実施例3の電子放出素子(G1〜G5)の製造方法における工程−bにおいて、以下に示す変更を加えて電子放出素子(G1’〜G5’)を作成した。それ以外は基本的に実施例3と同様の製造方法により作成した。
【0219】
変更は、具体的には、実施例3の電子放出素子の(工程−b)で示した工程において以下の4点である。(1)電子放出素子G1〜G5のそれぞれに対し、第2カーボン膜21bの部分Bの膜厚が第1カーボン膜21aの部分Aの膜厚に等しくなるように、電子線の照射を用いて、形成した(図28(c)参照)。(2)また、第2導電性膜21bの部分Bと部分35および部分36との膜厚差h(「突起部」の高さh)を50nmとなるように、電子線の照射を用いて、形成した(図28(d)参照)。(3)更に、部分35と部分36との間隔w(「突起部」の間隔w)を7nmとなるように、電子線の照射を用いて、形成した(図28(b))。(4)また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚は100nmとした(図28(d)参照)。
【0220】
本実施例で作成した電子放出特性の測定においては、アノード電極44と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源43によりアノード電極44に1kVの電位を与えた。この状態で、電源41を用いて補助電極2、3の間に、第1補助電極2の電位が第2補助電極3の電位よりも低くなるように波高値16Vの矩形パルス電圧を印加した。
【0221】
尚、この測定の際には、電流計40及び電流計42により、本実施例の電子放出素子の素子電流Ifおよび放出電流Ieをそれぞれ測定し、電子放出効率を算出した。
【0222】
算出された電子放出効率と放出電流Ieの結果を表6に示す。尚、素子電流Ifは、いずれの場合も2.5mA程度であった。
【0223】
【表6】

【0224】
この結果から、本実施例の電子放出素子(G1’〜G5’)は、d2/d1が1.2以上の場合に、放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていることがわかる。また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、実施例2で作成した電子放出素子と比較して、長時間に渡り上記表6の特性を時間変動が少なく維持できた。
【0225】
特性評価後、本実施例で作成した各電子放出素子を3D−TEMで観察したところ、d1は、3.5nmになっていた。また、d2が、電子放出素子G1’は3.7nm、電子放出素子G2’は4.0nm、電子放出素子G3’は4.2nm、電子放出素子G4’は5.0nm、電子放出素子G5’は10nmであった。
【0226】
また、第2カーボン膜21bの部分Bの膜厚が第1カーボン膜21aの部分Aの膜厚が等しく、第2カーボン膜21bの部分Bと部分35および部分36との膜厚差h(「突起部」の高さh)を50nmであった。さらに、部分35と部分36との間隔w(「突起部」の間隔w)が、7nmであった。
【0227】
また、平面SEMを用いて前記凸部の各々の間隔d3を測定し、その分布を調べたところ、図27に示した度数分布と同様に、いずれの電子放出素子も、30d1にシャープなピークを持っていた。
【0228】
(実施例5)
本実施例では、上述した本発明の実施例1で作成した電子放出素子C3と同様の製造方法によって形成した電子放出素子を多数基板上にマトリクス状に配列して電子源を形成し、この電子源を用いて図14に示した画像表示装置を作成した。以下に本実施例で作成した画像表示装置の製造工程を説明する。
【0229】
〈補助電極作成工程〉
ガラス基板71上にSiO膜を成膜した。さらに第1および第2補助電極2、3を、基板71上に多数形成した(図16)。具体的には、チタニウムTiと白金Ptとの積層膜を40nmの厚みで基板71上に成膜した後、フォトリソグラフィー法によってパターニングして形成した。本実施例では第1補助電極2と第2補助電極3との間隔Lを10μmとし、長さWを100μmとした。
【0230】
〈Y方向配線形成工程〉
次に、図17に示すように、銀を主成分とするY方向配線73を、補助電極3に接続するように形成した。このY方向配線73は変調信号が印加される配線として機能する。
【0231】
〈絶縁層形成工程〉
次に図18に示すように、次の工程で作成するX方向配線72と前述のY方向配線73を絶縁するために、酸化シリコンからなる絶縁層75を配置する。後述するX方向配線72の下であって、且つ、先に形成したY方向配線73を覆うように、絶縁層75を配置する。X方向配線72と補助電極2との電気的接続が可能なように、絶縁層75の一部にコンタクトホールを開けて形成した。
【0232】
〈X方向配線形成工程〉
図19に示すように、銀を主成分とするX方向配線72を、先に形成した絶縁層75の上に形成した。X方向配線72は絶縁層75を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層75のコンタクトホール部分で補助電極2に接続される。このX方向配線72は走査信号が印加される配線として機能する。このようにしてマトリクス配線を有する基板71が形成された。
【0233】
〈第1電極および第2電極形成工程〉
上記マトリクス配線が形成された基板71上の補助電極2,3間にインクジェット法により、導電性薄膜4を形成した(図20)。
【0234】
本実施例では、インクジェット法に用いるインクとして、有機パラジウム錯体溶液を用いた。この有機パラジウム錯体溶液を、補助電極2、3間に付与した。その後、この基板71を空気中にて、加熱焼成処理をして酸化パラジウム(PdO)からなる導電性薄膜4とした。
【0235】
〈フォーミング工程、活性化工程〉
次に、上述した工程によって、補助電極2,3と、補助電極2,3間を接続する導電性薄膜4とで構成されたユニットが多数形成された基板71を、真空容器の中に配置した。そして、真空容器23内を排気した後、「フォーミング」処理と「活性化処理」とを行った。「フォーミング」処理と「活性化処理」において、各ユニットに印加する電圧の波形などは、実施例1の電子放出素子C3の作成方法で示したとおりである。
【0236】
尚、「フォーミング」処理は、複数のX方向配線72の中から1本づつ順次選択したX方向配線に1パルスづつ印加する方法で行った。つまり、「複数のX方向配線72の中から選択した1本のX方向配線に1パルス印加した後に、別の1本のX方向配線を選択して1パルス印加する」という工程を繰り返した。
【0237】
以上の工程で、多数の電子放出素子が配置された基板71を作成することができた。
【0238】
<加工処理>
次に、「活性化」処理が終了した電子放出素子を多数有する上記2種類の基板1を真空容器から大気中に取り出し、実施例1の電子放出素子C3の作成方法で述べたようにAFMを用いてカーボン形状を加工する処理を行った。
【0239】
尚、全ての電子放出素子のd1を、3.5nmに設定した。さらに、d2を5.0nm(d2/d1=1.4)に設定した。
【0240】
以上の工程で、本実施例の電子源(複数の電子放出素子)が配置された基板71が形成された。
【0241】
次いで、図14に示したように、上記基板71の2mm上方に、ガラス基板83の内面に蛍光体膜84とメタルバック85とが積層されてるフェースプレート86を支持枠82を介して配置した。
【0242】
尚、図14においてはリアプレート81を基板71の補強部材として設けた例を示しているが、本実施例では、このリアプレートを省いている。そして、フェースプレート86、支持枠82、基板1の接合部を、低融点金属であるインジウム(In)を加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
【0243】
本実施例では、画像形成部材であるところの蛍光体膜84は、カラーを実現するために、ストライプ形状(図15(a)参照)の蛍光体とし、先にブラックストライプ91を形成し、その間隙部にスラリー法により各色蛍光体92を塗布して蛍光膜84を作製した。ブラックストライプ91の材料としては、通常よく用いられている黒鉛を主成分とする材料を用いた。
【0244】
また、蛍光膜84の内面側(電子放出素子側)にはアルミニウムからなるメタルバック85を設けた。メタルバック85は、蛍光体膜84の内面側に、Alを真空蒸着することで作製した。
【0245】
以上のようにして完成した画像表示装置のX方向配線およびY方向配線を通じて、所望の電子放出素子を選択し、選択した電子放出素子の第2補助電極側の電位が第1補助電極よりも高くなるように、+18Vのパルス電圧を印加した。そして同時に、高圧端子Hvを通じてメタルバック73に10kVの電圧を印加したところ、長時間にわたって明るい良好な画像を表示することができた。
【0246】
以上説明した実施形態および実施例は、本発明の一例に過ぎず、上記した各材料、サイズなどについての様々な変形例を本発明は除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】本発明の電子放出素子の構成例を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図2】本発明の電子放出素子の別の構成例を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図3】電子放出素子の測定評価機能を備えた真空装置の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の電子放出素子の製造方法の概要を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例1における「活性化」処理後の電子放出素子を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図6】本発明の実施例2における「活性化」処理後の電子放出素子を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図7】本発明の電子放出素子の製造時におけるフォーミングパルスの一例を示す模式図である。
【図8】本発明の電子放出素子の製造時における活性化パルスの一例を示す模式図である。
【図9】本発明の電子放出素子の「活性化」処理における電流の進行を示す模式図である。
【図10】本発明の電子放出素子のカーボン膜を削る処理の一例を示す模式図である。
【図11】本発明の電子放出素子のカーボン膜を削る処理の別例を示す模式図である。
【図12】本発明の電子放出素子の電子放出特性を示す模式図である。
【図13】本発明の電子放出素子を用いた電子源基板を説明するための模式図である。
【図14】本発明の電子放出素子を用いた画像表示装置の一例の構成を説明するための模式図である。
【図15】蛍光体膜を説明するための模式図である。
【図16】本発明による電子源及び画像表示装置の製造工程の一例を示す模式図である。
【図17】本発明による電子源及び画像表示装置の製造工程の一例を示す模式図である。
【図18】本発明による電子源及び画像表示装置の製造工程の一例を示す模式図である。
【図19】本発明による電子源及び画像表示装置の製造工程の一例を示す模式図である。
【図20】本発明による電子源及び画像表示装置の製造工程の一例を示す模式図である。
【図21】従来の電子放出素子の一例を示す断面模式図である。
【図22】本発明の電子放出素子を観察する方法の一例を説明するための模式図である。
【図23】電子線処理を説明するための模式図である。
【図24】本発明の電子放出素子における凸部の各々間隔の分布を説明するための模式図である。
【図25】本発明の電子放出素子の3D−TEM観察像の一例を示す模式図である。
【図26】本発明の実施例における電子線照射によるカーボン膜形成方法を説明するための模式図である。
【図27】本発明の電子放出素子の構成例を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図28】本発明の電子放出素子の別の構成例を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図29】本発明の電子放出素子における凸部の各々間隔の理想的な分布を説明するための模式図である。
【図30】本発明の電子放出素子の構成例を模式的に示す平面図である。
【図31】本発明の電子放出素子の別の構成例を模式的に示す平面図である。
【図32】本発明のテレビジョン装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0248】
1 基板
2、3 補助電極
4a、4b 電極
21a、21b 導電性膜
8 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体表面上に配置された第1導電膜と第2導電膜とを備え、
該第1および第2導電膜の各々の端部は間隔を置いて互いに対向しており、
前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下であり且つ前記第2導電膜に向けられている凸部を、前記第1導電膜の前記端部が備えている電子放出素子であって、
前記第1導電膜の前記端部の一部であって前記凸部から前記最短距離d1離れた部分と、前記第2導電膜の前記端部との最短距離をd2とした際に、d2/d1が、1.2以上であることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記凸部から前記最短距離d1離れた部分が、前記凸部を含み前記基体表面と平行な平面内に位置することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記第1導電膜の端部が前記凸部を複数備えており、該複数の凸部の各々は、前記基体表面に対する垂直方向において互いに重ならないように配されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記複数の凸部の各々の間隔が3d1以上であることを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記複数の凸部の各々の間隔が2000d1以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の電子放出素子。
【請求項6】
基体表面上に配置された第1導電膜と第2導電膜とを備え、
該第1および第2導電膜の各々の端部は間隔を置いて互いに対向しており、
前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である部分を前記第1導電膜の前記端部が備えている電子放出素子であって、
前記第1導電膜の前記端部の一部であって前記第2導電膜までの最短距離d1が10nm以下である前記部分から前記最短距離d1離れた部分と、前記第2導電膜の前記端部との最短距離をd2とした際に、d2/d1が、1.2以上であることを特徴とする電子放出素子。
【請求項7】
前記間隔は、前記基体表面と平行な平面内を蛇行していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記第1および第2導電膜は、炭素を含む膜であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
前記第1導電膜と第2導電膜との間において、前記基体表面は凹部を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項10】
複数の電子放出素子を有する電子源であって、各々の前記電子放出素子が請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子放出素子であることを特徴とする電子源。
【請求項11】
電子源と該電子源から放出された電子の照射によって発光する発光体とを備える画像表示装置であって、前記電子源が請求項10に記載の電子源であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項12】
受信した放送信号に含まれる映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、該受信器に接続された画像表示装置とを少なくとも備える情報表示再生装置であって、前記画像表示装置が請求項11に記載の画像表示装置であることを特徴とする情報表示再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2006−185820(P2006−185820A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379955(P2004−379955)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】