説明

電子楽器の発音制御装置

【課題】ソロ機能により優先順位に従って選ばれる鍵に対する楽音のパラメータを、演奏者が意識的に明確に変化させることができるようにして表現豊かな演奏を行うことがことができる電子楽器の発音制御装置を提供すること。
【解決手段】鍵盤イベントが有った場合(S23)、優先鍵選択処理(S27)により優先鍵を選択する。その優先鍵が今までの発音を変更するものである場合(S27)、消音処理(S27)を実行した後、オンイベントの場合には押鍵速度からベロシティ値を生成し、オフイベントの場合には離鍵速度からベロシティ値を作成する。作成されたベロシティ値により発音処理(S32)でのパラメータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器の発音制御装置に関し、特に、複数の鍵が押鍵された場合に所定の優先順位に従って選ばれた1つの鍵に対応する楽音のみを発音するソロ機能を備えた電子楽器の発音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソロ機能を備えた電子楽器が知られている。ソロ機能を備えた電子楽器では、複数の鍵が押鍵された場合、所定の優先順位に従って選ばれた1つの鍵に対応する楽音のみが発音され、また、離鍵時にはその時点で押鍵されている複数の鍵の中から優先順位に従って1つの鍵が選ばれ、該鍵に対応する楽音が再発音(リトリガー)される。
【0003】
下記特許文献1には、ソロ機能を備えた電子楽器が記載されている。これでは、優先順位に従って選ばれた鍵に係るタッチ検出値と最新の鍵に係るタッチ検出値に基づいて楽音の音量を制御することにより、リトリガー音を用いて自然で好ましいレガード演奏が行われるようにしている。
【特許文献1】特開2001−100750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された電子楽器によれば、ソロ機能を用いた違和感のないレガード演奏を行うことができる。これでは、優先順位に従って選ばれた鍵の音量がタッチ検出値により制御されるが、タッチ検出値を用いただけでは演奏者が意識的に音量などを変化に富んだものにして表現豊かな演奏を行うことが困難である。
【0005】
例えば、押鍵していた複数鍵のうちの1つの鍵を離鍵し、その時点で押鍵されている複数の鍵の中の1つの鍵による楽音を発音させる場合、押鍵時点と離鍵時点とは時間的に離れているため、演奏者が意識的に押鍵時のタッチを変えたとしてもそのタッチ検出値とリトリガー音との対応関係が明確に把握できなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題にかんがみなされたものであり、ソロ機能により優先順位に従って選ばれる鍵に対する楽音のパラメータを、演奏者が意識的に明確に変化させることができるようにして表現豊かな演奏を行うことがことができる電子楽器の発音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、複数の鍵が押鍵された場合に所定の優先順位に従って選ばれた1つの鍵に対応する楽音のみを発音するソロ機能を備えた電子楽器の発音制御装置において、発音していた鍵の離鍵動作により押鍵されている鍵の中から所定の優先順位に従って1つの鍵を選択する鍵選択手段と、前記鍵選択手段により選択された鍵に対応する楽音を発生させる楽音発生手段と、発音していた鍵の離鍵動作におけるオフベロシティを検出するオフベロシティ検出手段と、前記楽音発生手段により発生させる楽音のパラメータを、前記オフベロシティ検出手段により検出されたオフベロシティに基づいて制御する発音制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、鍵の押鍵動作におけるオンベロシティを検出するオンベロシティ検出手段を備えさせ、前記発音制御手段が、前記楽音発生手段により発生させる楽音のパラメータを、前記オフベロシティ検出手段により検出されたオフベロシティに基づいて制御するか、前記オンベロシティ検出手段により検出されたオンベロシティに基づいて制御するかを選択できるようにすることができる。また、前記所定の優先順位は、任意に設定可能にすることができる。ここで、楽音のパラメータは、音量、振幅に対するエンベロープ、周波数に対するエンベロープ、波形のパラメータのうちの少なくとも1つとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ソロ機能で楽音発生手段により発生させる楽音のパラメータを、前オフベロシティに基づいて制御するようにしたので、演奏者は離鍵時の離鍵速度を意識的に変化させて楽音のパラメータを変化させることができ、表現に富んだ演奏を行うことができる。また、演奏者は、優先順位を任意に設定したり、オフベロシティに基づいて制御するか、オンベロシティに基づいて制御するかを自由に選択できるので、使い勝手がよくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明について説明する。図1は、本発明が適用された電子楽器の一実施形態を示すブロック図である。同図において、CPU1は、ROM2に格納されている制御プログラムに従って電子楽器全体の制御を行うものであり、タイマ割り込み回路を備え、さらにMIDIインタフェース回路との接続用シリアルポートを備えてもよい。
【0011】
ROM2は、例えばフラッシュROMなどの書き換え可能なものであり、制御プログラム、音色パラメータやエフェクトパラメータなどの演奏状態を設定するための発音データを記憶する。RAM3は、CPU1のワークエリアとして使用され、例えばバッテリによりバックアップされる。
【0012】
鍵盤装置4は複数のキーを有し、それぞれのキーのキーオン/キーオフを示すキーイベント情報や押鍵強さ(ベロシティ)を示すタッチ情報を検知するためのタッチセンサを有する。鍵盤インタフェース(I/F)部5は、鍵盤装置4を走査し、キーイベント情報やタッチ情報を生成する。これらの情報はRAM3に記憶される。
【0013】
パネル操作部6は、音量ボリューム、音色やスタイル、エフェクトなどを選択するスイッチ、例えばLCDスクリーンからなるディスプレイを有する。パネルI/F部7は、パネル操作部6のスイッチイベント情報を生成し、また、CPU1での制御結果などをディスプレイに表示させる。スイッチイベント情報はRAM3に記憶される。
【0014】
CPU1は、例えば鍵盤装置4から鍵盤I/F部5を介して読み取った情報とROM2やRAM3から読み出したデータとの演算結果のデータ、あるいはROM2やRAM3から読み出した発音データを楽音発生回路(TG)8に送出する。TG8は、入力された発音データに基づいて楽音信号を生成する。この楽音信号は、DAコンバータ(DAC)9でアナログ信号に変換され、アンプ10により増幅されてスピーカ11に供給され、スピーカ11から楽音が発生される。バス12は、電子楽器内部の各回路を接続し、各種情報を伝送する。
【0015】
図2は、本発明による発音制御動作の一例を示すフローチャートである。以下では発音制御が音量制御である場合を例として説明するが、本発明は音量に限らず、振幅や周波数に対するエンベロープ、波形などのパラメータを制御するものでもよい。
【0016】
電源がオンされると、まず、初期化処理を実行する(S21)。この初期化処理では、CPU1、RAM3、楽音発生回路を構成する音源のLSIなど、電子楽器の各構成部分が初期化される。
【0017】
次に、鍵盤走査を実行し(S22)、鍵盤イベントが有ったか否かを判断する(S23)。ここで鍵盤イベントなしと判断されれば、その他の処理S24を実行してS22に戻る。その他の処理は、パネルイベント処理、自動演奏処理など、鍵盤イベント処理以外の電子楽器で一般的な処理を含む。
【0018】
S23で鍵盤イベントありと判断された場合、押鍵マップを更新する(S25)。押鍵マップは、例えば、鍵盤の各鍵に対応するビットを有し、押鍵された鍵に対応するビットを反転することで各鍵の押鍵、離鍵を表す。
【0019】
次に、優先鍵選択処理を実行する(S26)。優先鍵選択処理は、押鍵マップを参照し、押鍵状態にある鍵の中で優先される鍵を一定のルールに従って選択することにより実行できる。優先鍵選択のルールは、例えば「最高音程の鍵を選択」、「最低音程の鍵を選択」、あるいは「最後に押鍵された鍵を選択」などである。なお、1つの鍵のみが押鍵された場合には、その鍵が選択される。
【0020】
次に、S26での選択が優先鍵変更に該当するか否かを判断する(S27)。優先鍵変更でないと判断された場合、すなわち今まで発音させていた音と同じ音を継続して発音させたままでよい場合には、その他の処理S24に移る。
【0021】
S27で優先鍵変更であると判断された場合には、今まで発音させていた音の消音処理を実行する(S28)。なお、1つの鍵のみが押鍵された場合には、S27で優先鍵変更と判断されるが、S28での消音処理は不要である。
【0022】
次に、鍵盤イベントがオン(押鍵)イベントか否かを判断する(S29)。ここでオンイベントであると判断された場合、押鍵速度からベロシティ値を作成し(S30)、該ベロシティ値に応じた音量で発音処理を実行する(S32)。なお、この場合の押鍵速度は、直前に押鍵された鍵の押鍵速度でも、発音させる鍵が押鍵されたときの押鍵速度でも、複数の鍵の押鍵速度から導出された押鍵速度でもよい。
【0023】
また、S29でオンイベントでない、すなわちオフイベントであると判断された場合には、離鍵速度からベロシティ値を作成し(S31)、該ベロシティ値に応じた音量で発音処理を実行する(S32)。その後、その他の処理に移る。
【0024】
図3は、本発明による発音制御の例を示す説明図である。図3は、同図(a)の1オクターブ分の鍵盤C〜Bにおいて、同図(b)の左端欄下方向に向かってC鍵オン、G鍵オン、E鍵オン、C鍵オフ、C鍵オン、G鍵オフの操作が順に行われた例を示している。
【0025】
例えば、常に最高音程の鍵(TOP(最高鍵))が選択されるように優先鍵選択順位が設定されているとすると、上記操作に従い順次C音発音、G音発音、G音発音のまま、G音発音のまま、G音発音のまま、E音発音がなされる。ここで、G鍵がオフされたときにE音発音がなされるときをみると、このときのE音発音の音量は、従来技術では直前のC鍵オンの押鍵速度やその前のE鍵オンの押鍵速度などで制御されるが、本発明では、E音発音の元となったG鍵オフの離鍵速度(オフベロシティ)で制御される。
【0026】
また、常に最低音程の鍵(BOTTOM(最低鍵))が選択されるように優先鍵選択順位が設定されているとすると、C鍵がオフされたときになされるE音発音の音量は、従来技術では直前のE鍵オンの押鍵速度やその前のG鍵オンの押鍵速度などで制御されるが、本発明では、E音発音の元となったC鍵オフの離鍵速度(オフベロシティ)で制御される。
【0027】
なお、図3(b)には、常に最後に操作された鍵(LAST(最後鍵))が選択されるように優先鍵選択順位が設定されているとした場合に発音される音も示している。
【0028】
以上実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々に変形することができる。例えば、鍵の押鍵動作におけるオンベロシティをも検出し、発音制御にオフベロシティを使用するかオンベロシティを使用するかを演奏者が任意に選択し得るようにすることができる。また、優先鍵選択順位は、上記具体例に限られず、任意に設定可能にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用された電子楽器の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明による発音制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明による発音制御の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・CPU、2・・・ROM、3・・・RAM、4・・・鍵盤装置、5・・・鍵盤I/F部、6・・・パネル操作部、7・・・パネルI/F回路、8・・・楽音発生回路、9・・・DAコンバータ、10・・・アンプ、11・・・スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵が押鍵された場合に所定の優先順位に従って選ばれた1つの鍵に対応する楽音のみを発音するソロ機能を備えた電子楽器の発音制御装置において、
発音していた鍵の離鍵動作により押鍵されている鍵の中から所定の優先順位に従って1つの鍵を選択する鍵選択手段と、
前記鍵選択手段により選択された鍵に対応する楽音を発生させる楽音発生手段と、
発音していた鍵の離鍵動作におけるオフベロシティを検出するオフベロシティ検出手段と、
前記楽音発生手段により発生させる楽音のパラメータを、前記オフベロシティ検出手段により検出されたオフベロシティに基づいて制御する発音制御手段とを備えたことを特徴とする電子楽器の発音制御装置。
【請求項2】
さらに、鍵の押鍵動作におけるオンベロシティを検出するオンベロシティ検出手段を備え、前記発音制御手段は、前記楽音発生手段により発生させる楽音のパラメータを、前記オフベロシティ検出手段により検出されたオフベロシティに基づいて制御するか、前記オンベロシティ検出手段により検出されたオンベロシティに基づいて制御するかの選択が可能であることを特徴とする請求項1に記載の電子楽器の発音制御装置。
【請求項3】
前記所定の優先順位は、任意に設定可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子楽器の発音制御装置。
【請求項4】
前記楽音のパラメータは、音量、振幅に対するエンベロープ、周波数に対するエンベロープ、波形のパラメータのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電子楽器の発音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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