説明

電子機器の接続構造

【課題】溶接状態のばらつきを低減するとともに、樹脂絶縁部材の変質による絶縁性の低下を抑制する電子機器の接続構造を得る。
【解決手段】樹脂絶縁部材で構成され、電子回路基板11の収納スペース12を有する容器13と、容器13に保持されるコネクタ端子15と、樹脂により構成される絶縁性の連結部材14に保持されるとともに、電子回路基板11に接続されるバスバー16とを備え、コネクタ端子15とバスバー16とをビーム熱源により重ね合わせ溶接する電子機器の接続構造であって、バスバー16とコネクタ端子15の先端部をそれぞれ樹脂容器13、絶縁性の連結部材14から同一方向に突出して重ね合わせ溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器の接続構造に係り、特に、樹脂からなる絶縁部材で構成された容器を有する電子機器の接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、基板あるいは電子部品がバスバーや端子といった導電部材により相互に接続された電子回路を容器に内蔵しており、導電部材を樹脂からなる絶縁モールドにより絶縁と保持を兼ねながら構造体を形成している。これらの導電部材同士の接続部は、複雑に入り組んだ箇所に設けられることが多いため、非接触で熱影響領域の狭いビーム熱源を用いた溶接が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−144436号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献に開示された電子機器の接続構造では、溶接部がコントロールモジュールや絶縁モールドといった樹脂絶縁部材に囲まれた構造となっている。一般的に、樹脂絶縁部材は蒸発温度が低いために、特にエネルギー密度が大きいビーム熱源の場合には、樹脂絶縁部材の熱影響が大きくなる恐れがある。
【0005】
従来の電子機器の接続構造の課題について図9を用いてさらに詳しく説明する。図9において、銅合金のバスバー16は一端が電子回路基板(図示しない)に、他端が銅合金のコネクタ端子15に接続され、コネクタ端子15は機器外部に突出させて他の機器や回路(図示しない)に接続される。バスバー16とコネクタ端子15はそれぞれ絶縁性を有する樹脂により構成される連結部材14、二方向に開口部17、18が形成された樹脂容器13にインサートされて保持され、それぞれの端部が対向して突出されて重ね合わされ、バスバー16にレーザ光20を照射して溶接される。
【0006】
ここで、レーザ光20の中心線21(図中一点鎖線で示す)は、反射光22(図中点線で示す)がレーザ出射口に戻り、レーザ光20を発振器から導くファイバ(図示しない)などに損傷を与えないようにするために、バスバー16に対する垂線23(図中破線で示す)との間に入射角度24を設けて反射角25を有するようにして、反射光22が前記ファイバへ再入射しないようにしている。
【0007】
レーザ光20は、レンズなどの光学系でビーム形状が調整されて照射されるが、反射光22は、照射面の表面状態や形状ばらつきなどで入射光に比べると分布が大きくなる傾向がある。さらに、溶接部が複雑で入り組んだ箇所に設けられており、反射光22が樹脂容器13の溶接部近傍に干渉する恐れがあり、その結果、樹脂容器13が焼かれて蒸気が発生してレーザ光20を散乱させるため、溶接状態にばらつきが生じる。また、樹脂絶縁部材が変質し、電子機器にとって必要な絶縁性能が低下する懸念がある。
【0008】
溶接状態のばらつきを考慮した上でバスバー16とコネクタ端子15の接合強度を確保するために、レーザ条件を高エネルギー入力側にシフトする条件として設定することが多い。しかし、レーザ条件を高エネルギー入力側の条件設定とした場合には、スパッタの発生が増加する懸念がある。電子機器においてスパッタは、電子回路基板や電子部品の端子間に付着した場合、短絡等の電気的異常の原因となったり、コネクタなどに付着した場合には異物かみこみ等の接続信頼性低下の原因となったりする問題がある。
【0009】
この発明は、上述のような問題を解消するためになされたもので、溶接状態のばらつきを低減するとともに、樹脂絶縁部材の変質による絶縁性の低下を抑制する電子機器の接続構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る電子機器の接続構造は、樹脂絶縁部材で構成されるとともに、電子回路の収納スペースを有する容器と、前記樹脂絶縁部材に保持される第1の導電部材と、前記電子回路に接続される第2の導電部材と、を備え、前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とをビーム熱源を用いて重ね合わせ溶接する電子機器の接続構造であって、前記第1の導電部材と前記第2の導電部材を前記樹脂絶縁部材から同一方向に突出して重ね合わせ溶接するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る電子機器の接続構造によれば、ビーム照射部位と樹脂絶縁部材との距離を離して反射光が樹脂絶縁部材に影響する領域を小さくできる。これにより、樹脂蒸気の影響を軽減することができ、溶接状態のばらつきを低減するとともに、樹脂絶縁部材の変質による絶縁性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して、この発明に係る電子機器の接続構造について好適な実施の形態を説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る電子機器の接続構造を示す断面図である。図1において、電子機器10は、電子回路である電子回路基板11などを収納し、その収納スペース12を有する樹脂容器13や樹脂により構成される絶縁性の連結部材14に、第1の導電部材である銅合金のコネクタ端子15あるいは第2の導電部材である銅合金のバスバー16をあらかじめインサート成形などの方法で一体的に保持する構造を有する。
【0014】
バスバー16は、絶縁性の連結部材14に保持されるとともに、一端が電子回路基板11に接続され、他端がコネクタ端子15に接続される。コネクタ端子15は、絶縁性を有して外枠をなす樹脂容器13に保持され、機器外部に突出させて他の機器や回路(図示しない)に接続される。バスバー16とコネクタ端子15は、その先端部がそれぞれ樹脂容器13、絶縁性の連結部材14から同一方向に突出して重ね合わされ、後述するようにレーザ光をバスバー16に照射して溶接される。
【0015】
ここで、樹脂容器13は対向する二方向に開口部17、18が形成されており、電子回路基板11はバスバー16とコネクタ端子15のレーザ溶接後に取付けられる。なお、バスバー16とコネクタ端子15は樹脂容器13に同時にインサート成型して保持する構成にしてもよい。
【0016】
実施の形態1に係る電子機器10の接続構造について、図2を用いてさらに詳しく説明する。図2において、レーザ光20の中心線21(図中一点鎖線で示す)は、反射光22(図中点線で示す)がレーザ出射口に戻り、レーザ光20を発振器から導くファイバ(図示しない)に損傷を与えないようにするために、バスバー16に対する垂線23との間に入射角度24を設けて反射角25を有するようにして、反射光22が前記ファイバへ再入射しないようにしている。
【0017】
ここで、入射角度24は、反射光22が絶縁性の連結部材14とは逆側に返るように垂線23に対して絶縁性の連結部材14側に傾くように設ける。また、入射側のレーザ光20は光学系によって所定のビーム形状となり、照射位置と絶縁性の連結部材14との間に所定の距離を設けることでレーザ光20を絶縁性の連結部材14、あるいは樹脂容器13に干渉しないようにすることができる。
【0018】
反射光22は、照射面の表面状態や形状ばらつきなどで入射光に比べると分布が大きくなるが、このような構造にすることにより、反射光22の影響する領域に絶縁性の連結部材14、あるいは樹脂容器13が無いため、樹脂蒸気の影響によるビーム散乱が少なくなり、溶接ばらつきを小さくすることができる。また、絶縁性の連結部材14、あるいは樹脂容器13などの樹脂絶縁部材における樹脂焼けの影響による絶縁性能の低下も抑制できる。更には、高めのエネルギー入力条件に設定する必要が無くなり、スパッタも低減することができる。なお、バスバー16をコネクタ端子15の裏側に配置して、レーザ光20をコネクタ端子15に照射してもよい。
【0019】
以上のように、実施の形態1に係る電子機器10の接続構造によれば、バスバー16とコネクタ端子15を、それぞれ絶縁性の連結部材14からその先端部を同一方向に突出して重ね合わせてレーザ溶接するため、レーザ照射部位と絶縁性の連結部材14、あるいは樹脂容器13との距離を離し、反射光22が絶縁性の連結部材14あるいは樹脂容器13に影響する領域を小さくでき、樹脂蒸気の影響を軽減することができる。従って、溶接状態のばらつきを低減することができるとともに、樹脂絶縁部材の変質による絶縁性の低下を抑制することができる。更には、レーザ溶接するに際し、低いエネルギー入力条件に設定することができ、スパッタを低減することもできる。
【0020】
実施の形態2.
次に、実施の形態2に係る電子機器の接続構造について説明する。図3は実施の形態2に係る電子機器の接続構造を示す断面図である。
【0021】
図3において、実施の形態2に係る電子機器30は、電子回路基板11の収納スペース12を確保するため、電子回路基板11を樹脂容器13の下方に配置し、電子回路基板11側の樹脂容器13の開口部18からバスバー16とコネクタ端子15の溶接部の位置まで必要な高さを設けている。この場合には、バスバー16とコネクタ端子15の溶接部は、図3に示すように、電子回路基板11側と異なるもう一方の樹脂容器13の開口部17側近傍に配置されることになって、レーザ光20を開口部17から入射すると、入射側のレーザ光20が絶縁性の連結部材14に影響する領域や、反射光22が樹脂容器13に影響する領域が極めて小さくなり、溶接品質ばらつきが著しく低減できる。
【0022】
更には図3に示すように、電子回路基板11側と異なるもう一方の樹脂容器13の開口部17側が上方になるように樹脂容器13を設置し、鉛直方向上方からレーザ光20を照射するようにすれば、金属蒸気や樹脂蒸気が発生しても、それらの蒸気は上方に立ち上がり、電子回路基板11の収納スペース12の方向に輸送されないため、これらによる樹脂の絶縁性の悪化や、電子回路基板11との接続部位の汚損などを回避することができる。なお、コネクタ端子15をバスバー16の裏側に配置して、レーザ光20をバスバー16に照射してもよい。
【0023】
ここで、図4に示すように、バスバー16とコネクタ端子15を実施の形態1と同様に
バスバー16とコネクタ端子15を、それぞれ樹脂容器13、絶縁性の連結部材14から同一方向に突出して重ね合わせてレーザ溶接することにより、さらに樹脂への影響を低減する電子機器40を得ることができる。
【0024】
なお、図3および図4において、実施の形態1を示す図2と同一符号は同一または相当部分を示し、重複する説明を省略している。
【0025】
実施の形態3.
次に、実施の形態3に係る電子機器の接続構造について説明する。これまで説明してきた実施の形態1あるいは実施の形態2に係る電子機器の接続構造によれば、ビーム熱源による溶接状態のばらつきを小さくすることができる。したがって、図5に示すように、樹脂容器13から突出したコネクタ端子15と電子回路基板11側に接続されるバスバー16との溶接を下側部材であるコネクタ端子15の下面まで溶融させない非貫通溶接の溶融部50であっても、入射エネルギーのばらつきが小さいため、溶融部50の大きさにばらつきが少なく、安定な非貫通溶接部の形成が可能となる。非貫通溶接とすることにより、溶接部裏側から発生するスパッタの影響を著しく低減することができる。
【0026】
ここで、溶接部の溶接状態の可否判別を行う場合、貫通溶接では上面と裏面が溶融形状によって、接合状態を推定することが可能であるが、非貫通溶接の場合は、裏面には溶融部が形成されないため、接合状態の判別は上面の溶融形状で判定せざるを得ない。しかし、上面の溶融形状と接合面の溶融形状の間には相関性があまり無いために上面の溶融形状からのみでは可否判別の判定が難しい。
【0027】
そこで、図6に示すように、バスバー16側からレーザ光20を照射する場合、バスバー16のレーザ照射部付近60の幅60aを、コネクタ端子15の溶接を行う部分61の幅61aより小さく形成する。このように、コネクタ端子15の接合面における溶融部50の幅50aをバスバー16の小さくした幅60aより大きくなるようにして溶接することにより、コネクタ端子15まで溶け込んだ場合は図6(b)の斜視図、あるいは図6(c)の溶接部周辺の上面図に示すように、溶融部50がコネクタ端子15の表面に拡がるため、その様子を上面から目視や画像処理装置により確認することができる。したがって、一層の溶接状態の品質ばらつき低減を図ることができるばかりでなく、特に電子機器においては、多数のバスバーやコネクタ端子の溶接箇所を有するため、品質判定が容易になれば生産性が向上し、工業的な価値が高い。
【0028】
なお、図7(a)〜(c)に示すように、バスバー16の先端部70の幅70aを小さくしてもよい。
【0029】
さらに、図8(a)〜(d)に示すように、バスバー16の先端部16aとコネクタ端子15の先端部18aをずらすことにより、溶融部50の形状は幅50aだけでなく、8(b)の斜視図、あるいは図8(c)、図8(d)の溶接部周辺の上面図に示すように、先端50bがバスバー16の先端部16aよりコネクタ端子15の先端部15a側へ拡がる様子も上面から見ることができるため、より溶融状態の可否判断がしやすくなり、溶接状態の品質ばらつきをさらに低減することができる。なお、図7、図8において、図6と同一符号は、同一または相当する部分を示している。
【0030】
前記各実施の形態においては、バスバー16とコネクタ端子15の接合部にレーザ光20を照射してレーザ溶接する場合について説明したが、接合部の溶接は、非接触で熱影響領域が小さい熱源であればよく、レーザ光以外にプラズマアーク溶接や電子ビーム溶接を用いてもよい。
【0031】
また、前記各実施の形態においては、バスバー16とコネクタ端子15の接合部の溶接について図示説明したが、この発明をバスバー16とコネクタ端子15の接合以外に、パワーモジュールやコンデンサ、コイルなどの電子部品の端子に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係る電子機器の接続構造は、樹脂からなる絶縁部材で構成された容器を有する電子機器の接続構造として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電子機器の接続構造を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電子機器の接続構造の接続部付近を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る電子機器の接続構造を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る電子機器の接続構造の他の例を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係る電子機器の接続構造を示す溶接部の断面図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係る電子機器の接続構造における溶接方法を説明する図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係る電子機器の接続構造における溶接方法の他の例を説明する図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る電子機器の接続構造における溶接方法の更に他の例を説明する図である。
【図9】従来の電子機器の接続構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10、30、40 電子機器
11 電子回路基板
12 収納スペース
13 樹脂容器
14 連結部材
15 コネクタ端子
16 バスバー
17、18 開口部
20 レーザ光
21 中心線
22 反射光
23 垂線
24 入射角度
25 反射角
50 溶融部
50a 溶融部の幅
60 レーザ照射部付近
60a レーザ照射部付近の幅
61 溶接を行う部分
61a 溶接を行う部分の幅
70 バスバーの先端部
70a バスバーの先端部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂絶縁部材で構成されるとともに、電子回路の収納スペースを有する容器と、
前記樹脂絶縁部材に保持される第1の導電部材と、
前記電子回路に接続される第2の導電部材と、を備え、
前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とをビーム熱源を用いて重ね合わせ溶接する電子機器の接続構造であって、
前記第1の導電部材と前記第2の導電部材を前記樹脂絶縁部材から同一方向に突出して重ね合わせ溶接することを特徴とする電子機器の接続構造。
【請求項2】
樹脂絶縁部材で構成されて、対向する二方向に開口部が形成されるとともに、電子回路の収納スペースを有する容器と、
前記樹脂絶縁部材に保持される第1の導電部材と、
前記電子回路に接続される第2の導電部材と、を備え、
前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とをビーム熱源を用いて重ね合わせ溶接する電子機器の接続構造であって、
前記重ね合わせ溶接部を前記容器の一方の開口部近傍に設けるとともに、前記電子回路の収納スペースを前記重ね合わせ溶接部と前記容器の他方の開口部との間に設け、
前記ビーム熱源からのビームを前記一方の開口部から入射して前記重ね合わせ溶接部を形成することを特徴とする電子機器の接続構造。
【請求項3】
前記重ね合わせ溶接部は、溶融部が前記ビーム熱源からのビームが照射される導電部材の下側の導電部材の裏面まで達しない非貫通溶接部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子機器の接続構造。
【請求項4】
前記ビーム熱源からのビームが照射される導電部材のビーム照射部付近の幅は、前記ビームが照射される導電部材の下側の導電部材の溶接部付近の幅より小さく構成し、前記下側の導電部材の溶融部の幅は、前記ビームが照射される導電部材のビーム照射部付近の幅より大きく構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の電子機器の接続構造。
【請求項5】
前記下側の導電部材の溶接部の突出方向側の先端が、前記ビームが照射される側の導電部材の突出方向側の先端より外側にあることを特徴とする請求項4に記載の電子機器の接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−69516(P2010−69516A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241308(P2008−241308)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】