説明

電子素子搭載用基板

【課題】絶縁基板とアルミニウム回路層との間のろう材、絶縁基板とアルミニウム層との間のろう材が反対面にしみ上がらない構造の電子素子搭載用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板11の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層12がろう付され、他方の面にアルミニウム層13がろう付された電子素子搭載用基板1であって、前記アルミニウム回路層12およびアルミニウム層13の少なくとも一方は、その側面の周方向の少なくとも一部に、絶縁基板11との接合面が外方に延長されたせり出し部20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層がろう付けされた電子素子搭載用基板、およびその関連技術に関する。
【0002】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
電子素子搭載用基板として、絶縁基板の一面側に金属回路層が接合したものが知られている。かかる基板において、絶縁基板は電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れているセラミックが用いられ、前記金属回路層は導電性が高くかつ前記絶縁基板と接合可能な金属として高純度アルミニウムが用いられ、これらはAl−Si系合金ろう材によってろう付される(特許文献1参照)。
【0004】
また、前記絶縁基板の他方の面にはアルミニウム製応力緩和材を介してヒートシンクを積層されることもある。ヒートシンクは軽量性、強度維持、成形性、耐食性が要求されることから、Al−Mn系合金等のアルミニウム合金を用いることが一般的であり、電子素子の熱サイクルにおいて絶縁基板とヒートシンクとの間に発生する応力を緩和するために、応力緩和材は高純度アルミニウムを用いるのが一般的である。前記絶縁基板と応力緩和材とは、前記金属回路層の接合と同じく、Al−Si系合金ろう材によってろう付けされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、電子素子搭載用基板において絶縁基板の両面には軟質の高純度アルミニウムがろう付される。アルミニウム回路層および応力緩和材は電子素子から発生する熱の排熱経路となることから、これらと絶縁基板との接合面はろう材不足による接合不良は避けなければならない。
【0007】
しかしその一方で、接合面の周縁部に至るまで確実にろう付するために十分な量のろう材を供給すると余剰のろう材が生じることも避け難く、図8に示すように、アルミニウム回路層(100)と絶縁基板(11)の接合面からはみ出した余剰ろう材(101)がアルミニウム回路層(100)または応力緩和材の側面からしみ上がり、絶縁基板(11)との接合面と反対の面にまで達することがある。金属回路層の反対面は電子素子をはんだ付する面であり、このはんだ付面に硬いろう材が付着していると冷熱サイクルにおいて硬質部分に応力が集中してはんだ層の母材破断や剥離が発生しやすくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とアルミニウム回路層との間のろう材、絶縁基板とアルミニウム層との間のろう材が反対面にしみ上がらない構造の電子素子搭載用基板の提供を目的とする。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]〜[10]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、側面の周方向の少なくとも一部に、絶縁基板との接合面が外方に延長されたせり出し部を有することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0011】
[2]絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層およびアルミニウム層の少なくとも一方は、その側面の周方向の少なくとも一部に、絶縁基板との接合面が外方に延長されたせり出し部を有することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0012】
[3]前記せり出し部のアルミニウム回路層の側面からの突出長さ(L)が20μm以上である前項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【0013】
[4]前記せり出し部の絶縁基板側の面と電子素子側の面とが鋭角をなす前項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0014】
[5]前記せり出し部の電子素子側の面が曲面である前項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0015】
[6]前記せり出し部がアルミニウム回路層の角部に形成されている前項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0016】
[7]前記せり出し部がアルミニウム回路層の辺部に形成されている前項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0017】
[8]前項1または前項2に記載の電子素子搭載基板に用いるアルミニウム回路層の製造方法であって、
アルミニウム板をアルミニウム回路層の平面形状に打ち抜く際にバリを発生させ、発生させたバリを曲げてせり出し部を形成することを特徴とするアルミニウム回路層の製造方法。
【0018】
[9]前項2に記載の電子素子搭載基板に用いるアルミニウム層の製造方法であって、
アルミニウム板をアルミニウム層の平面形状に打ち抜く際にバリを発生させ、発生させたバリを曲げてせり出し部を形成することを特徴とするアルミニウム層の製造方法。
【0019】
[10]前項2に記載の電子素子搭載用基板のアルミニウム層が応力緩和材であり、この応力緩和材にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0020】
上記[1]に記載の電子素子搭載用基板によれば、絶縁基板とアルミニウム回路層の接合界面からはみ出したろう材がせり出し部の電子素子側の面からしみ上がってせり出し部上の空間に溜まるので、アルミニウム回路層の電子素子搭載面へのろう材のしみ上がりを防ぐことができる。このため、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面に発生する応力を緩和することができる。また、絶縁基板とアルミニウム回路層の接合面の周縁部においては絶縁基板と厚みの薄いせり出し部との接合であるから、周縁部への応力集中が回避されるとともに高い接合強度が得られる。
【0021】
上記[2]に記載の電子素子搭載用基板によれば、せり出し部を有するアルミニウム回路層と絶縁基板との接合部およびせり出し部を有するアルミニウム層と絶縁基板との接合部において、接合界面からはみ出したろう材がせり出し部上の空間に溜まるので、アルミニウム回路層の電子素子搭載面へのろう材のしみ上がりを防ぐことができる。このため、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面に発生する応力を緩和することができる。また、絶縁基板とアルミニウム回路層、および絶縁基板とアルミニウム層の接合面の周縁部においては、絶縁基板と厚みの薄いせり出し部との接合であるから、周縁部への応力集中が回避されるとともに高い接合強度が得られる。
【0022】
上記[3]に記載の電子素子搭載用基板によれば、せり出し部上に十分な量のろう材を溜めてしみ上がりを確実に防止できる。
【0023】
上記[4]に記載の電子素子搭載用基板によれば、ろう材がせり出し部上にしみ上がり易い。
【0024】
上記[5]に記載の電子素子搭載用基板によれば、より多くのろう材をせり出し部上に溜めることができる。
【0025】
上記[6]に記載の電子素子搭載用基板によれば、冷熱サイクルにおいて応力が大きくなる角部において応力を緩和することができる。
【0026】
上記[7]に記載の電子素子搭載用基板によれば、ろう材が辺部を流れてより多くのろう材をせり出し部上に溜めることができる。
【0027】
上記[8]に記載のアルミニウム回路層の製造方法によれば、せり出し部を有するアルミニウム回路層を簡単な工程で製造できる。
【0028】
上記[9]に記載のアルミニウム層の製造方法によれば、せり出し部を有するアルミニウム層を簡単な工程で製造できる。
【0029】
上記[10]に記載の放熱装置によれば、せり出し部を有するアルミニウム回路層と絶縁基板との接合部およびせり出し部を有するアルミニウム層と絶縁基板との接合部において、接合界面からはみ出したろう材がせり出し部上の空間に溜まるので、アルミニウム回路層の電子素子搭載面へのろう材のしみ上がり、およびアルミニウム層の反対面(絶縁基板との接合面とは反対の面)へのろう材のしみ上がりを防ぐことができる。このため、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面に発生する応力、およびアルミニウム層の反対面に発生する応力を緩和することができる。また、絶縁基板とアルミニウム回路層、および絶縁基板とアルミニウム層の接合面の周縁部においては、絶縁基板と厚みの薄いせり出し部との接合であるから、周縁部への応力集中が回避されるとともに高い接合強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】ろう付後の電子素子搭載用基板の要部縦断面図である。
【図3】せり出し部の他の形状を示す縦断面図である。
【図4】せり出し部のさらに他の形状を示す縦断面図である。
【図5】アルミニウム回路層の角部にせり出し部を形成した電子素子搭載用基板の平面図である。
【図6】アルミニウム回路層の辺部にせり出し部を形成した電子素子搭載用基板の平面図である。
【図7】せり出し部の形成方法を示す縦断面図である。
【図8】従来の電子素子搭載用基板の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は本発明の電子素子搭載用基板の一実施形態と、この電子素子搭載用基板を用いて作製する放熱装置の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。以下の説明において、構成部材が積層する方向を縦または縦方向、縦方向の断面を縦断面と称する。
【0032】
電子素子搭載用基板(1)は、絶縁基板(11)と、この絶縁基板(11)の一方の面に重ねられた電子素子搭載用のアルミニウム回路層(12)と、他方の面に重ねられた応力緩和材(13)とにより構成されている。図1の仮組物においては、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間、およびアルミニウム回路層(12)と応力緩和材(13)との間にこれらを接合するためのろう材箔(14)(15)が配置されている。
【0033】
放熱装置(2)の仮組物は、前記電子素子搭載用基板(1)の絶縁基板(11)の応力緩和材(13)側に複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(16)を重ねたものであり、応力緩和材(13)とヒートシンク(16)との間には接合用のろう材箔(17)が配置されている。
【0034】
前記放熱装置(2)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、その後アルミニウム回路層(12)上に電子素子(18)が搭載されてはんだ付される。ろう付後の放熱装置(2)において、アルミニウム回路層(12)がろう付された絶縁基板(11)とヒートシンク(16)とは応力緩和材(13)を介して熱的に結合され、電子素子(18)が発する熱はヒートシンク(16)に排熱される。
【0035】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0036】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0037】
回路層(12)はアルミニウムであり、導電性が高くかつ絶縁基板(11)とろう付またははんだ付が可能なアルミニウムを用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0038】
応力緩和材(13)は本発明の電子素子搭載用基板におけるアルミニウム層に対応するものである。応力緩和材(13)は剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(16)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。また、図1に示した応力緩和材(13)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴を有するパンチングメタルである。
【0039】
ヒートシンク(16)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(16)は応力緩和材(13)側の外面がフラットであれば応力緩和材(13)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、応力緩和材(13)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0040】
前記ろう材箔(14)(15)(17)の材料は限定されないが、上述した回路層(12)、絶縁基板(11)、応力緩和材(13)、ヒートシンク(16)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。
【0041】
[せり出し部]
前記アルミニウム回路層(12)は、側面(12a)の絶縁基板側の全周に外方に突出するせり出し部(20)を有している。前記せり出し部(20)は縦断面三角形であって、絶縁基板側の面(21a)は絶縁基板(11)に平行で絶縁基板(11)にろう付される面であり、電子素子側の面(21b)は前記絶縁基板側の面(21a)と鋭角をなす面である。前記せり出し部(20)によってアルミニウム回路層(12)の側面(12a)の周りに空間(22)が形成される。
【0042】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)は、アルミニウム回路層(12)、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、応力緩和材(13)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(13)の順に重ねて仮組し、この仮組物を加熱し、これらの部材を一括してろう付することによって作製する。
【0043】
図2に示すように、絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)のろう付部において、これらの間に配置したろう材箔(14)が溶融して接合界面からはみ出すと、溶融したろう(14a)はアルミニウム回路層(12)のせり出し部(20)の電子素子側の面(21b)からしみ上がって側面(12a)の周りのせり出し部(20)上の空間(22)に溜まる。接合界面からはみ出したろう材量に見合う空間(22)を設けることによって、ろう材のアルミニウム回路層(12)の電子素子搭載面(12b)へのしみ上がりを防ぎ、ひいては冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層(12)の電子素子搭載面(12b)に発生する応力を緩和することができる。また、絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)の接合面の周縁部においては絶縁基板(11)と厚みの薄いせり出し部(20)との接合であるから、周縁部への応力集中が回避されるとともに高い接合強度が得られる。また、前記せり出し部(20)は絶縁基板側の面(21a)と電子素子側の面(21b)とが鋭角に形成され、かつ先端部が尖っているため、接合界面からはみ出したろう材(14a)が電子素子側の面(21b)上にしみ上がり易く、ろう材(14a)を空間(22)に溜めやすい。
【0044】
なお、本発明はせり出し部を上述した形状に限定するものではなく、接合界面からはみ出したろう材を空間に導きやすい形状として、絶縁基板側の面と電子素子側の面とが鋭角に形成された形状を推奨できる。せり出し部の他の形状として図3および図4に示したものを例示できる。図3のアルミニウム回路層(35)のせり出し部(30)は、絶縁基板側の面(31a)が絶縁基板(11)に平行であり、電子素子側の面(31b)が曲面で形成されたものである。このように曲面は多くのろう材を溜めることができるので、電子素子搭載面へのしみ上がり防止効果が大きい。図4のアルミニウム回路層(36)のせり出し部(32)は、図1のせり出し部(20)と同様に、絶縁基板側の面(33a)と電子素子側の面(33b)とが鋭角をなしているが、先端部(33c)が尖らずに絶縁基板側の面(33a)から直角に立ち上がっている。
【0045】
また、図1に参照されるように、前記せり出し部(20)において、アルミニウム回路層(12)の側面(12a)からの突出長さ(L)は20μm以上に設定することが好ましい。突出長さ(L)が20μm未満では溜めることができるろう材量が少なく、電子素子搭載面(12b)へのろう材のしみ上がりを防止する効果が少ないからである。特に好ましい突出長さ(L)は30μm〜1mmである。また、前記せり出し部(20)の積層方向における厚み(T)は最も厚い部分で10μm〜400μmが好ましく、特に20μm〜200μmが好ましい。
【0046】
本発明において、せり出し部はアルミニウム回路層の全周に形成されていることには限定されず、周方向の一部にせり出し部が形成されているものは本発明に含まれる。周方向の一部にせり出し部を形成する場合は、アルミニウム回路層の角部または辺部にのみ形成することが好ましい。図5はアルミニウム回路層(40)の角部にせり出し部(41)を設けた例である。冷熱サイクルにおいてろう材とアルミニウム回路層との線膨張係数の差によって生じる応力が角部で大きくなることから、角部にせり出し部(41)を設けることによって角部に生じる応力を緩和することができる。また、図6はアルミニウム回路層(42)の辺部にせり出し部(43)を設けた例である。溶融したろう材が辺部を流れることから、辺部にせり出し部(43)を設けることによってより多くのろう材を辺部に溜めて電子素子搭載面へのしみ上がりを防止することができる。
【0047】
図1の電子素子搭載用基板(1)は絶縁基板(11)の一方の面にアルミニウム回路層(12)を積層し他方の面にアルミニウム層としての応力緩和材(13)を積層したものであり、アルミニウム回路層(12)にのみせり出し部(20)を形成したものであるが、応力緩和材(13)の側面にもせり出し部を形成することが好ましい。応力緩和材(13)のせり出し部を形成することによって応力を緩和することができる。また、アルミニウム回路層(12)にせり出し部を形成せず、応力緩和材(13)にのみせり出し部を形成した電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。前記絶縁基板(11)の他方の面にろう付するアルミニウム層は応力緩和材に限定されず、ヒートシンク等のアルミニウム層をろう付する電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。さらに、絶縁基板にせり出し部を有するアルミニウム回路層のみをろう付するものとし、他方の面にはアルミニウム層が存在しない電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。
【0048】
前記アルミニウム回路層およびせり出し部の形成方法は限定されない。せり出し部を有するアルミニウム回路層を簡単な工程で形成する方法として、アルミニウム板を金型で打ち抜いて所要の平面形状のアルミニウム回路層またはアルミニウム層を得る際に周囲にバリを発生させ、そのバリをせり出し部として利用する方法がある。図7は、バリ(25)を発生させて打ち抜いたアルミニウム回路層(12)である。このようなバリ(25)を発生させた状態に打ち抜いた後、絶縁基板側の面からバリ(25)をたたき加工等によってアルミニウム回路層(12)の側面(12a)から突出するように曲げることによってせり出し部(20)に形成する。また、アルミニウム回路層の周方向の一部にのみせり出し部を形成する場合は、所要部分にのみバリを発生させるか、不要部分のバリを切除すれば良い。また、せり出し部(20)の突出長さ(L)は、バリ(25)を曲げる前または曲げた後に切り整えることによって所望の寸法に調節できる。
【0049】
せり出し部のその他の形成方法として、切削加工、面取り加工、面打ち加工を例示できる。また、絶縁基板(11)の他方の面にろう付するアルミニウム層、例えば前記応力緩和材(13)にせり出し部を形成する場合も同じ方法でせり出し部を形成することができる。
【実施例】
【0050】
図1に参照される積層構造の電子素子搭載用基板(1)を含む放熱装置(2)を、アルミニウム回路層のせり出し部の形状と位置を変えて作製した。積層した部材は、積層順に、アルミニウム回路層、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、応力緩和材(13)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(16)である。
【0051】
各例のアルミニウム回路層は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる28mm×28mm×厚さ0.6mmの平板であることが共通であり、せり出し部の有無、形状および位置が異なる。
【0052】
アルミニウム回路層を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0053】
絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。応力緩和材(13)は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板に切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものである。ヒートシンク(16)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。ろう材箔(14)(15)(17)は厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔である。
【0054】
[実施例1〜3]
側面の全周にせり出し部を有するアルミニウム回路層を用いた。実施例1で用いたアルミニウム回路層(12)は、絶縁基板側の面(21a)と電子素子側の面(21b)とが鋭角に形成され、かつ先端部が尖ったせり出し部(20)を有している(図1参照)。実施例2で用いたアルミニウム回路層(35)は電子素子側の面(31b)が曲面で形成されたせり出し部(30)を有している(図3参照)を用いた。実施例3で用いたアルミニウム回路層(36)は、絶縁基板側の面(33a)と電子素子側の面(33b)とが鋭角をなし、先端部(33c)が絶縁基板側の面(33a)から直角に立ち上がったせり出し部(32)を有している(図4参照)を用いた。
【0055】
[実施例4]
図5に示すように、4つの角部にせり出し部(41)を有するアルミニウム回路層(40)を用いた。せり出し部(41)の縦断面形状は実施例1と同じである。
【0056】
[実施例5]
図6に示すように、4つの辺部にせり出し部(43)を有するアルミニウム回路層(42)を用いた。せり出し部(43)の縦断面形状は実施例1と同じである。
【0057】
実施例1〜5のせり出し部の突出長さ(L)および厚み(T)は表1に示すとおりである。
【0058】
[比較例]
図8に示すように、せり出し部のないアルミニウム回路層(100)を用いた。
【0059】
[ろう付]
実施例1〜5および比較例の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0060】
ろう付した放熱装置について、アルミニウム回路層の電子搭載面へのろう材のしみ上がりの有無を観察するとともに、冷熱サイクルにおける耐久性を下記の方法で試験にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
[冷熱耐久性試験]
冷熱サイクル試験(125℃⇔−40℃)を2000サイクル行い、絶縁基板(11)(AlN)とアルミニウム回路層(Al)の接合界面の接合面積を超音波探傷機により測定し、剥離のあった部分の面積割合を測定して評価した。AlNに割れが発生もしくはAlN/Al接合界面での剥離が接合面積に対して5%以上剥離したものを△、3%以上5%未満のものを○、3%未満のものを◎とした。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示したように、アルミニウム回路層にせり出し部を設けることで電子搭載面のろう材のしみ上がりを防止できるとともに、冷熱サイクルにおける耐久性を向上させることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の電子素子搭載基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に応力緩和材を介してヒートシンクがろう付された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1…電子素子搭載用基板
2…放熱装置
11…絶縁基板
12、35、36、40、42…アルミニウム回路層
12a…側面
13…応力緩和材(アルミニウム層)
14、15、17…ろう材箔
18…電子素子
16…ヒートシンク
20、30、32、41、43…せり出し部
21a、31a、33a…絶縁基板側の面
21b、31b、33b…電子素子側の面
25…バリ
L…せり出し部の突出長さ
T…せり出し部の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、側面の周方向の少なくとも一部に、絶縁基板との接合面が外方に延長されたせり出し部を有することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項2】
絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層およびアルミニウム層の少なくとも一方は、その側面の周方向の少なくとも一部に、絶縁基板との接合面が外方に延長されたせり出し部を有することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項3】
前記せり出し部のアルミニウム回路層の側面からの突出長さ(L)が20μm以上である請求項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項4】
前記せり出し部の絶縁基板側の面と電子素子側の面とが鋭角をなす請求項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項5】
前記せり出し部の電子素子側の面が曲面である請求項1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項6】
前記せり出し部がアルミニウム回路層の角部に形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項7】
前記せり出し部がアルミニウム回路層の辺部に形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の電子素子搭載基板に用いるアルミニウム回路層の製造方法であって、
アルミニウム板をアルミニウム回路層の平面形状に打ち抜く際にバリを発生させ、発生させたバリを曲げてせり出し部を形成することを特徴とするアルミニウム回路層の製造方法。
【請求項9】
請求項2に記載の電子素子搭載基板に用いるアルミニウム層の製造方法であって、
アルミニウム板をアルミニウム層の平面形状に打ち抜く際にバリを発生させ、発生させたバリを曲げてせり出し部を形成することを特徴とするアルミニウム層の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の電子素子搭載用基板のアルミニウム層が応力緩和材であり、この応力緩和材にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate