電子線滅菌用搬送容器および電子線滅菌方法
【課題】被照射物の密度分布などの条件に関わらず、適切な線量で電子線滅菌を行うための電子線滅菌用搬送容器および電子線滅菌方法を提供する
【解決手段】電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器1であって、被照射物が配置される収容部3と、前記収容部3に配置された被照射物と電子線出射部24との間に配置され、被照射物およびその周囲を覆う散乱板14A,14Bを有し、前記収容部3と散乱板14A,14Bの間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されている。
【解決手段】電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器1であって、被照射物が配置される収容部3と、前記収容部3に配置された被照射物と電子線出射部24との間に配置され、被照射物およびその周囲を覆う散乱板14A,14Bを有し、前記収容部3と散乱板14A,14Bの間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物の体積などの条件に関わらず、適切な線量で電子線滅菌を行うための電子線滅菌用搬送容器および電子線滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具は、生体へ使用されるという事情から、滅菌される必要がある。従来の滅菌技術として、EOG(エチレンオキサイドガス)を用いたバッチ滅菌があげられるが、この方法は、残留ガス除去のため、出荷前にエアレーションの期間を設ける必要がある。また、EOGは特定化学物質に指定されており、その取り扱いには厳重な管理が必要となる。
【0003】
これに対し、電子線滅菌は、製品及び包装の中にも透過し、残留物を残すこともないため、短時間で滅菌でき、かつ滅菌直後に出荷が可能となるなどの利点があり、電子線滅菌への転換が促進されている。
【0004】
しかしながら、電子線は、電子線照射源から照射された電子線が適切な量、被照射物の隅々まで当たらなければならないため、電子線照射方向における被照射物の密度が大きい、又は密度分布が大きい場合には、端部や深部にまで滅菌のための適切な線量を照射することが難しい。また、強すぎる電子線の照射は、材質の劣化などの悪影響を起こす可能性がある。
【0005】
特許文献1には、被照射物である中空糸型ダイアライザを電子線滅菌する際に、筒状容器にいれて電子線照射することによって、被照射物内での吸収線量分布(以下、単に線量分布という)のバラツキを押さえる方法が開示されている。しかしながら、この方法では、筒状容器の寸法に限界があるため、被照射物の寸法もおのずから限定され、寸法の大きい被照射物に対しては使用できない。
【0006】
また、近年では、手術に使用される数十種類もの大小複数の医療器具をひとつに包装してキット化し、購入や配置の手間を簡略化するとともに、医療現場での誤使用や誤準備を防止しようとする動きがある。このようなキット製品は、非常に体積が大きく、かつ密度分布が大きくなるものであり、電子線滅菌が困難となる。
【特許文献1】特開2000−325434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、被照射物の密度分布などの条件に関わらず、均一な線量分布で電子線滅菌を行うことができる電子線滅菌方法および電子線滅菌用搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記(1)〜(25)に記載の発明により達成される。
【0009】
(1)電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器であって、被照射物が配置される収容部と、前記収容部に配置された被照射物と電子線出射部との間に配置されるとともに被照射物およびその周囲を覆う散乱板と、を有し、前記収容部と散乱板の間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されていることを特徴とする電子線滅菌用搬送容器である。
【0010】
(2)前記収容部から電子線照射方向へ延びる支柱と、前記散乱板に固定されるとともに前記支柱の長手方向の任意の位置に連結可能な連結部と、をさらに有することを特徴とする上記(1)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0011】
(3)前記散乱板は、一方に対して他方が回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0012】
(4)前記散乱板には、少なくとも1つの開孔が設けられることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0013】
(5)前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられて、前記散乱板にスリット状の開孔が形成されることを特徴とする上記(3)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0014】
(6)前記第1散乱板または第2散乱板のいずれか一方は、当該第1散乱板および第2散乱板の互いに隣接する側辺において、屈曲された側壁を有することを特徴とする上記(3)または(5)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0015】
(7)前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0016】
(8)前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、当該長方形形状の四隅の外側に、前記収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0017】
(9)前記収容部には、1列に並ぶ複数の孔部が設けられ、外部装置により、当該孔部の有無を読み取るように構成されたことを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0018】
(10)前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、前記収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0019】
(11)前記散乱板は、金属板であることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0020】
(12)前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0021】
(13)前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって2.1mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0022】
(14)前記散乱板は、板厚が0.6mm以上であって1.0mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0023】
(15)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって1000mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0024】
(16)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって500mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0025】
(17)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって350mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0026】
(18)前記散乱板は、被照射物の外周から端部までの長さであるひさし長さが40mm以上設けられるとともに、幅長が電子線照射可能な範囲以下であることを特徴とする上記(1)〜(17)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0027】
(19)前記ひさし長さが100mm以上設けられることを特徴とする上記(18)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0028】
(20)電子線照射により被照射物を滅菌する電子線滅菌方法であって、
前記被照射物を載置できる収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆うとともに、前記被照射物を電子線照射方向と交差する方向に露出させつつ、散乱板の前記被照射物およびその周囲を覆う部位に前記散乱板を介して被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線滅菌方法である。
【0029】
(21)前記収容部から前記電子線照射方向へ伸延する支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部により前記散乱板を固定し、前記被照射物と前記散乱板の間の距離を調整することを特徴とする上記(20)に記載の電子線滅菌方法である。
【0030】
(22)前記散乱板を構成する互いに回転可能に連結された第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて、前記収容部に被照射物を収納することを特徴とする上記(20)または(21)に記載の電子線滅菌方法である。
【0031】
(23)少なくとも1つの開孔もしくはスリットを設けた前記散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする上記(20)〜(22)のいずれか1つに記載の電子線滅菌方法である。
【0032】
(24)前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられた散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする上記(23)に記載の電子線滅菌方法である。
【0033】
(25)前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置することを特徴とする上記(20)〜(24)のいずれか1つに記載の電子線滅菌方法である。
【発明の効果】
【0034】
上記(1)に記載の発明によれば、被照射物およびその周囲を覆う散乱板が設けられるため、被照射物に対してバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌を行うことができる。また、収容部と散乱板の間が開放されているため、電子線照射により発生した熱を効率よく放熱できる。
【0035】
また、上記(2)に記載の発明によれば、支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部が設けられるため、散乱部の高さを調整することができ、または他の散乱板と取り替えることも可能であり、様々な滅菌条件を実現できる。
【0036】
また、上記(3)に記載の発明によれば、回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有するため、散乱板を開閉することができ、被照射物の載荷作業性に優れている。
【0037】
また、上記(4)に記載の発明によれば、散乱板に開孔が設けられるため、開孔設置部の下方において、開孔を通り抜けた直進分と散乱板において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量を増加させることができる。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物の質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物全体における線量の均一化を図ることができる。
【0038】
また、上記(5)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の間にスリット状の開孔が形成されるため、散乱板を開閉可能としつつ、同時に開孔を形成することができる。なお、開孔が設けられることによる効果は、上記(4)と同様である。
【0039】
また、上記(6)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の一方に屈曲された側壁を設けるため、散乱板に必要な剛性をこの側壁により確保しつつ、電子線の透過を極力阻害しない構造とすることができる。
【0040】
また、上記(7)に記載の発明によれば、載荷面に、被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されるため、被照射物の周囲に散乱板に覆われる所定の寸法を確実に確保でき、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0041】
また、上記(8)に記載の発明によれば、収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられるため、電子線滅菌用搬送容器を搬送する際の容器部の損傷を防止でき、また、搬送中で容器が搬送路のカーブ部の凸部などと干渉し、引っかかることを防止できる。
【0042】
また、上記(9)に記載の発明によれば、1列に並ぶ複数の孔部に、例えば孔部のそれぞれに嵌合可能なピンにより数を調整可能なものとし、それぞれの孔部におけるピンの有無によって、2進法によるシリアル番号を表示することができる。このシリアル番号により、被照射物の種類、電子線滅菌を実施した場所や日時、電子線滅菌の条件等の情報を特定することが可能となる。なお、単純に孔部の数の異なる収容部を多数用意することももちろん可能である。
【0043】
また、上記(10)に記載の発明によれば、収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられるため、複数の電子線滅菌用搬送容器を並べて使用する際にも、電子線滅菌用搬送容器同士が互いに乗り上げることを防止することができる。
【0044】
また、上記(11)に記載の発明によれば、散乱板がステンレス鋼板であるため、電子線照射環境下における繰返しの使用に耐えうるとともに、錆が生じ難く管理が容易である。
【0045】
また、上記(12)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0046】
また、上記(13)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.3mm以上であって2.1mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をよりバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0047】
また、上記(14)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.6mm以上であって1.0mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をさらにバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0048】
また、上記(15)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって1000mm以下であるため、被照射物の収容性に優れ、同時に、必要十分な線量分布が得られる。
【0049】
また、上記(16)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって500mm以下であるため、被照射物を収容できるとともに電子線照射装置の走査ホーンに接触せず、より作業性がよい。
【0050】
また、上記(17)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって350mm以下であるため、被照射物を収容できるとともに電子線照射装置の走査ホーンに接触せず、載荷作業性に優れている。
【0051】
また、上記(18)に記載の発明によれば、散乱板のひさし長さが40mm以上であり、幅長が電子線照射可能な範囲以下であるため、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0052】
また、上記(19)に記載の発明によれば、散乱板のひさし長さが100mm以上であり、幅長が電子線照射可能な範囲以下であるため、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0053】
また、上記(20)に記載の発明によれば、収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆っているため、電子線を照射した際に、被照射物の外周部に至る全ての範囲でバラツキの少ない均一な電子線滅菌を行うことができる。また、被照射物を電子線照射方向と交差する方向に開放させているため、電子線照射により発生した熱を効率よく放熱できる。
【0054】
また、上記(21)に記載の発明によれば、被照射物と散乱板の間の距離を調整することができるため、散乱部の高さを調整することができ、または他の散乱部と取り替えることも可能であり、任意の線量分布を実現できる。
【0055】
また、上記(22)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて収容部に被照射物を収納するため、被照射物の収納が容易である。
【0056】
また、上記(23)に記載の発明によれば、開孔もしくはスリットを設けた散乱板を介して電子線を照射するため、開孔設置部の下方において、開孔を通り抜けた直進分と散乱板において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量を増加させることができる。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物の質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物全体における線量の均一化を図ることができる。
【0057】
また、上記(24)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられた散乱板を介して電子線を照射するため、散乱板を開閉可能としつつ、同時に開孔による効果を得ることができる。なお、開孔が設けられることによる効果は、上記(23)と同様である。
【0058】
また、上記(25)に記載の発明によれば、載荷面に、被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置するため、被照射物の周囲に散乱板に覆われる所定の寸法を確実に確保でき、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0060】
図1は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器を示す斜視図、図2は図1のII−II線に沿う側面図、図3は図1のIII−III線に沿う側面図、図4は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の下面を示す斜視図、図5は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の散乱部を開いた際を示す斜視図、図6は図1のVI−VI線に沿う断面図である。
【0061】
本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、滅菌される被照射物Wを収容して電子線出射部までコンベア等により搬送するためのものであり、電子線出射部においては、被照射物Wを内部に収容したまま、内部の被照射物Wに電子線が照射される。
【0062】
電子線滅菌用搬送容器1は、図1〜4に示すように、被照射物Wを収容するための開口部2が設けられた収容部3と、収容部3に対して開口部方向に配置される散乱部4と、収容部3と散乱部4を連結する支柱5と、を有している。収容部3と散乱部4の間には、被照射物Wに対して電子線照射方向と直交する方向が開放されるように所定の間隔が設けられ、開口部2が散乱部4により完全に覆われることなく、被照射物Wが常に外部に露出される。
【0063】
収容部3は、搬送方向に長い長方形の載荷面6を有するトレー形状であり、この四隅の近傍に、支柱5が固定されている。具体的には、収容部3の四隅に対して、収容部3の搬送方向両側(短辺側)に支柱5が設けられており、それぞれの短辺側において設けられる2つの支柱5の間に、収容部3の下端から所定厚さの補強板7が設けられる。補強板7は、短辺側の中央部において、搬送方向外側から窪んだ切り欠き部8が設けられている。また、収容部3の四隅の両短辺側には、収容部3の下端から上方へ伸延する筒状のガイドローラ10が設けられる。ガイドローラ10は、回転可能に設置されており、収容部3の四隅を接触から保護する機能を有している。
【0064】
収容部3の搬送方向に沿って延びる側面側(長辺側)には、収容部3の上端から側方へ延びる鍔部11が設けられる。
【0065】
両側の鍔部11のそれぞれには、搬送方向に沿って複数の貫通孔である孔部12が1列に並んで設けられている。本実施形態では、両鍔部11の任意の位置に孔部12A,12Bが、それぞれ8つずつ並んで配置されている。この孔部12は、それぞれの孔部12の開孔の有無によって、2進法による8桁のシリアル番号を表示することができる。このシリアル番号を搬送路に設けた外部装置で読み取ることにより、被照射物Wの種類、電子線滅菌を実施した場所や日時、電子線滅菌の条件等の情報を特定することが可能となる。なお、孔部12の数は一例であり、特に限定はない。
【0066】
孔部12は、予めシリアル番号に応じた位置に必要な数だけ形成するものとしてもよいが、予め所定範囲の全ての位置に孔を開けておき、シリアル番号に応じて図示しないピン等を挿入することで不要な孔を閉鎖しても良い。このようにすることで、状況に応じて自由にシリアル番号を変更することができ、効率的な運用を行うことができる。
【0067】
なお、外部装置による孔部12の有無(または、ピンの有無による閉鎖の有無)の判別には、例えば磁気センサや光学センサを使用することができる。
【0068】
また、図1に示すように両鍔部11の孔部12A,12Bがそれぞれ電子線滅菌用搬送容器1における回転対称的な位置に配置されていると、電子線滅菌用搬送容器1を180度反転させても、同一の磁気センサ等の読み取り装置によってシリアル番号を読み取ることができる。
【0069】
収容部3の底面には、図4に示すように、搬送方向および搬送方向と交差する方向に延びる複数の補強梁13が設けられる。本実施形態では搬送方向に延びる4つの補強梁13Aと、搬送方向と交差する方向に延びる1つの補強梁13Bを備えているが、補強梁13の数および構成は、これに限定されない。補強梁13には、矩形断面を有する中空部材が用いられている。したがって、中実部材を用いた場合よりも、電子線が照射された際の補強梁13の発熱量を低減させることができ、また迅速に冷却される。
【0070】
散乱部4は、載荷面6の両長辺側に沿う2つの第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bを有し、第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bがヒンジ15により回転可能に連結されている。したがって、この第1散乱板14A(または第2散乱板14B)に対して、他方の第2散乱板14B(または第1散乱板14A)が、ヒンジ15を支点に上方に折り返されて上面に開放部を作ることができる構造となっている。
【0071】
第1散乱板14Aは、図6に示すように、収容部3と対向する面の外周に、収容部3方向へ折り曲げられた一対の側壁17Aが形成されている。これにより、第1散乱板14Aの剛性が向上されている。以下、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bとを合わせて、散乱板14と称す。
【0072】
第2散乱板14Bも同様に、収容部3と対向する散乱面の外周のうち、第1散乱板14Aと接する側を除く部位が収容部方向へ折り曲げられて側壁17Bが形成されている。
【0073】
このように、2つの散乱板14A,14Bの接する側面において、一方の第1散乱板14Aには側壁17Aを設け、他方の第2散乱板14Bには側壁を設けないことにより、必要な剛性を第1散乱板14Aの側壁17Aにより確保しつつ、電子線の透過を極力阻害しない構造とすることができる。なお、2つの散乱板14A,14Bの接する側面において、第1散乱板14Aではなく第2散乱板14Bに側壁17Bを設けることもでき、また両方に側壁17A,17Bを設けることも可能である。側壁17A,17Bおよび収容部3の各側壁は、散乱された電子線を収容部3および散乱部4の内部方向へ反射させ、効率的な照射を促進させる。
【0074】
第1散乱板14Aの搬送方向両端部は、搬送方向両端部に設けられるそれぞれ2つの支柱5に連結可能な2つの連結梁18に固定されている。連結梁18には、支柱5に対応する位置に、支柱5が嵌合可能な連結孔を有する連結部20が設けられる。連結部20は、例えばネジ等により2つの部材が近接離隔可能な構造となっており、2つの部材の間に形成される連結孔に、支柱5の長さ方向の任意の位置を固定することができる。
【0075】
なお、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1のそれぞれの部材は、電子線照射環境下における繰返しの使用に耐えうるように金属製であることが好ましく、例えばステンレス製である。ステンレス製であれば、錆が生じ難く管理が容易である。
【0076】
それぞれ固定される部材同士は、ボルトやネジ等により締結されたり、または溶接によって固定される。
【0077】
次に、本実施形態に係る電子線滅菌方法について説明する。
【0078】
図7は電子線照射室を上方から見た様子を示す図、図8は電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図9は電子線滅菌用搬送容器とともに使用される位置決め部材を示す斜視図、図10は図9のX−X線に沿う断面図、図11は電子線滅菌用搬送容器に位置決め部材を適用した際を示す断面図、図12は位置決め部材の他の例を示す斜視図、図13は図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。図14は1つの開孔31が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図15は3つの開孔31が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図16は散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図であり、図17は3つの開孔31が設けられた散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【0079】
電子線滅菌を行う際には、前述した電子線滅菌用搬送容器1に被照射物Wを収納し、コンベアに電子線滅菌用搬送容器1を載せて、電子線照射装置が備えられた電子線照射室22に搬送する。電子線照射室22は、例えば図7に示すように、電子線照射室22の搬入口23から電子線出射部24まで、および電子線出射部24から搬出口25までの搬送路26が、コンクリート壁27を複数回屈曲させて設けられている。これにより、電子線出射部24から照射される電子線が、搬入口23および搬出口25に至るまでに減衰される。また、電子線滅菌用搬送容器1を搬送するコンベア21も、搬送路26に沿って屈曲して施設されている。
【0080】
初めに、電子線照射室22の外部において、図8のように電子線滅菌用搬送容器1に被照射物Wを収納する。この際に、電子線滅菌用搬送容器1の第2散乱板14Bを開くことができるため、容易に収納が可能である。
【0081】
被照射物Wは、収容部3の中央部に配置されることが好ましく、また、搬送容器1は、被照射物Wの外周(搬送方向及び電子線走査方向周囲)に、後述する所定長さ以上のひさし長さLを有している。また、被照射物Wを収容部3の載荷面6の中央部に位置決めするために、図9,10に示すような位置決め部材30を、図11のように被照射物Wを囲むように設けてもよい。位置決め部材30の材質は、ダンボール等の厚紙、木材、またはステンレスやアルミ等の金属とすることができるが、これらに限定されず、様々な材質を適用することが可能である。位置決め部材30の形状は、本実施形態では、周囲に等しい幅を有する”ロ”字形状であるが、他の形状でもよく、例えば被照射物Wの形状に応じて変更することが可能である。
【0082】
本実施形態に係る位置決め部材30は、断面が一定の位置決め高さh1を有しているが、断面形状を変更することもできる。例えば、図12,13に示すように、被照射物側の端面の位置決め高さh2を高くすることも可能である。この位置決め高さh1,h2は、被照射物Wの動きを最低限抑制できる程度の高さを有することが好ましく、本実施形態では、5mm程度としている。また、電子線の被照射物Wへの照射が阻害されないように、位置決め部材高さhは被照射物Wの高さ以下であることが好ましく、また当然に、収容部3と散乱板14の間の間隔以下である必要がある。また、本実施形態における位置決め部材30は中実部材であるが、中空部材とすることもできる。
【0083】
収容部3の載荷面6と散乱板14の間には、散乱板14によって散乱された電子線を被照射物Wに効率よく照射させるために、所定長さ以上の散乱板離隔距離X(図8参照)が設けられることが好ましい。この散乱板離隔距離Xおよび散乱板14の板厚dの好ましい寸法については、後述する。
【0084】
次に、コンベア21によって電子線滅菌用搬送容器1を電子線照射室22に搬入し、電子線照射位置まで搬送する。電子線滅菌用搬送容器1は、両短辺側のどちら側も搬送方向とすることができるが、作業者が位置する側に、開閉可能な第2散乱板14B側が位置することが好ましい。
【0085】
電子線環境下では、コンベア21に樹脂ガイドを設置できないため、電子線滅菌用搬送容器1の搬送においてコンベア21と電子線滅菌用搬送容器1の角部が接触し、磨耗が生じる可能性がある。特に、電子線照射室22内では搬送路26が屈曲しているため、搬送の際のコンベア21と電子線滅菌用搬送容器1の接触が生じやすい。しかし、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、四隅にガイドローラ10が設けられるため、搬送の際に角部の磨耗を防止することができる。
【0086】
搬送の際には、複数の電子線滅菌用搬送容器1をコンベア21に並べて連続的に搬送することができる。それぞれの電子線滅菌用搬送容器1は、収容部3の搬送方向に設けられる補強板7が所定の厚さを有しているため、連続して搬送される電子線滅菌用搬送容器1同士が接触する際に、互いに乗り上げることを防止することができる。また、補強板7の中央に切り欠き部8が設けられるため、接触してしまった場合でも電子線滅菌用搬送容器1同士の間に必ず隙間が確保される。したがって、移動中の電子線滅菌用搬送容器1を停止させる際に、コンベア21から進退動して(突出して)切り欠き部8に挿通可能な止め部材(不図示)をコンベア21に設けることにより、電子線滅菌用搬送容器1を所定の位置に確実に停止させることができる。
【0087】
電子線照射位置に到達した電子線滅菌用搬送容器1は、所定の速度で進行しつつ、電子線を照射される。
【0088】
電子線照射位置は、電子線を電子線滅菌用搬送容器1の幅方向(搬送方向と交差する方向)に所定の走査幅で高速で往復運動させつつ、所定の速度で移動する電子線滅菌用搬送容器1の散乱板14に向って照射する。この走査幅は、散乱板14の幅よりも長く設定されており、散乱板14の全範囲にわたって照射される。
【0089】
電子線は、例えば散乱板14に入射する電子が、被照射物Wに照射され、線量がいずれの位置においても25kGyとなるように照射される。なお、この線量は一例であり、被照射物上で必要な線量を限定するものではない。滅菌に適した線量の範囲としては、15〜90kGyを想定している。
【0090】
電子線は、散乱板14によって散乱された後、被照射物Wに照射される。被照射物Wの表面に照射される電子線は、所定の条件において、散乱板14の影響により散乱板14に入射する線量よりも大きくなる。この効果は、被照射物Wの周囲に散乱板14によって覆われるひさし長さLを設け、被照射物Wよりも広い散乱板14が設置されることにより、被照射物Wの外周部においても得られる。
【0091】
散乱板14へ入射される電子線の線量が25kGyであり、散乱板14の厚さが0.8mmの場合に、被照射物表面での線量を25kGy以上とするには、ひさし長さLが40mm以上であることが好ましく、さらにひさし長さLを100mm以上とすることで、被照射物表面での線量を30kGy以上とすることが確認されている。ただし、散乱板14の幅長は電子線の照射可能な範囲(走査幅)以下である。
【0092】
また、この散乱板14の影響により、被照射物W内部の線量比(最大線量と最小線量の比、最大線量/最小線量)を低減させることができる。
【0093】
この線量比が大きい場合には、例えば最小線量を所定値以上に設定すると、最大線量の位置で線量が過大となり、材料の劣化や着色等の不具合が生じる。また、例えば最大線量を所定値以下に設定すると、最小線量の位置での線量が不足し、滅菌が不十分になる。内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wにおいては、線量比が大きくなる傾向にあり、電子線による滅菌が困難となる。内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wとしては、例えば注射器、プラスチック製鉗子、金属デバイス等が1つにパッケージされた医療用機器セット等が挙げられる。
【0094】
しかし、本実施形態では、内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wであっても、散乱板14の効果により、線量比を減少させることができる。この際には、散乱板14の厚さ、材質、離隔距離、およびひさし長さの条件を最適化することにより、線量比を減少させることが可能である。
【0095】
また、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、コンベア21の幅や走査幅等の条件さえ満たせば従来よりも大きく作製できるため、比較的大きな被照射物Wであっても収納して滅菌することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、収容部3と散乱板14の間に間隔が設けられて被照射物Wが常に外部に露出されているため、電子線照射時に被照射物Wおよび電子線滅菌用搬送容器1に生じる熱を、効率よく放熱できる。
【0097】
また、散乱板14に開孔31を設けることも可能である。本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1の散乱板14は、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bが設けられているため、図14のように、この第1散乱板14Aと第2散乱板14Bの間に間隔を設けることにより、スリット状の開孔31を任意に形成できる。
【0098】
開孔31を設けると、開孔設置部の下方において、開孔31を通り抜けた直進分と散乱板14において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量が増加する。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物Wの質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物W全体における線量の均一化を図ることができる。
【0099】
なお、開孔31の形状はスリット状に限らず、線量を増加させたい部位の大きさや形状等に応じて、円形や矩形等の任意の形状とすることができ、また、開孔31の数も限定はない。例えば、図15に示すように、被照射物Wに3つの質量密度が高い部位Aがある場合には開孔31を3つ設けることも可能である。この場合には、被照射物Wの表面における線量を、図16のように開孔31のない場合に比べて図17のように例えば10〜15%程度増加させ、結果として、被照射物全体(内部)における線量の均一化を図ることができる。
【0100】
ここで、開孔31が大き過ぎると、散乱板14を設けない場合と条件が変わらず散乱板14による効果が得られないため、散乱による効果を得るために幅が50mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以下、更には1〜5mmの範囲内であることが好ましい。
【0101】
次に、実験により散乱板14の板厚dおよび散乱板14の散乱板離隔距離Xについて検討する。
【0102】
<透過性による散乱板の板厚の検討>
散乱板14の板厚dを、実験による電子線の透過性により検討した。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVである。
【0103】
実験に用いた散乱板14はステンレス鋼板であり、この鋼板表面における目標照射線量を33kGyとした。実験に使用するステンレス鋼板は、板厚dが0.3,0.5,1.0,2.0,3.0,4.0および4.4mmの7種類とした。
【0104】
これらの鋼板を、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1の第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bが設置される位置に設置し、鋼板の上下面に三酢酸セルロース(CTA)線量計(富士フィルム製FTR−125)を設けて、透過側で計測される線量と入射側で計測される線量の比(透過側線量/入射側線量)を求めた。計測においては、載荷面6とステンレス鋼板の間にダンボール紙を5枚(約3cm相当)介し、載荷面6からの反射の影響を無視できるものとした。
【0105】
また、CTA線量計はステンレス鋼板の中央部に配置させ、電子線の回折の影響を無視できるものとした。
【0106】
結果を、表1および図18に示す。表1は、散乱板の板厚に対する散乱板表裏の線量比および透過線量を示し、図18は、散乱板の板厚に対する線量比を表すグラフである。
【0107】
【表1】
【0108】
図18中のプロットは実測結果である。表1および図18より、最大線量比は1.5と推測できる。加速電圧が10MeVの電子線において、ステンレス鋼板(比重ρ=7.8)の板厚が約4.0mmの場合に線量比1が得られており、実測値と理論値が略一致する結果が得られた。
【0109】
これらの結果より、ステンレス鋼板(散乱板14)が1より大きい線量比を発揮する、すなわち散乱板14が線量を増加させるには、ステンレス鋼板の板厚dは4.0mm以下であることが好ましい。実際には、板厚は、強度、発熱性(厚いほど発熱しやすい)、被照射物の材質や大きさを考慮して選定されるが、0.3〜2.0mmがより好ましい。
【0110】
<被照射物内の線量比による散乱板の板厚の検討>
散乱板の板厚dを、被照射物内の線量比(被照射物内の最大線量と最小線量の比)を実験により計測して検討した。被照射物Wは、数十点の手術用医療器具をプラスチックトレイに入れて一まとめに包装したキット製品であり、重量約2.8kgf、平均比重約0.08g/cm3、製品高さ約14cmのものを使用した。構成する各医療器具の比重は約0.1g/cm3(脱脂綿等)から約8g/cm3(注射針、メス等)の範囲に渡る。従って、線量比が大きい。
【0111】
散乱板には、板厚dが0.3,0.6,1.0,1.2および1.5mmの5種類を使用し、散乱板離隔距離Xを350mmとした。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、散乱板14表面の照射線量を20kGyとした。被照射物内の線量(吸収線量)の測定位置は、事前の試験により確認されている最大線量位置、最小線量位置を含む製品内の代表点とした。線量の測定には、CTA線量計(富士フィルム製FTR−125)および線量計リーダー(仏国・アエリアル製)を用いた。なお、表中の管理点線量は、線量監視位置(管理点)における線量である。
【0112】
結果を、表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
結果として、散乱板を適用しない場合の線量比が2.2であるのに対して、試験に使用した散乱板の全てにおいて(板厚dが0.3〜1.5mmの範囲で)線量比が改善され、十分な結果が得られた。特に、板厚dが0.6〜1.0mmの範囲の散乱板を適用することにより、線量比が1.4まで改善された。線量比が小さいほど滅菌性と製品材料への影響抑制の両立が容易となり、かつ滅菌管理がし易くなるため、好ましい。したがって、板厚dは0.6〜1.0mmの範囲の値であることが好ましい。一方で、散乱板を構造的に観ると、0.3mm厚では剛性が不十分であり、0.5mm以上が好ましいと考えられる。
【0115】
したがって、上述の<被照射物内の線量比による散乱板の板厚の検討>をも同時に考慮すると、散乱板14の板厚は4mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上であって1.2mm以下、さらには0.6mm以上であって1.0mm以下であることが好ましい。
【0116】
<被照射物内の線量比による散乱板の離隔距離の検討>
散乱板14の散乱板離隔距離Xと、被照射物内の線量比(被照射物内の最大線量と最小線量の比、最大線量/最小線量)との関係を実験により計測して検討した。被照射物Wは、上述のキット製品であり、質量約2.8kg、製品高さ約14cmである。
【0117】
散乱板には、板厚dが0.6および1.2mmの2種類を使用し、被照射物載荷面6に対する散乱板離隔距離X(搬送容器下面から散乱板までの距離)を150,350,500および750mmとした。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、散乱板表面における照射線量を33kGyとした。被照射物内の線量(吸収線量)の測定位置は、事前の試験により確認されている最大線量位置、最小線量位置を含む製品内の代表点とした。線量の測定には、CTA線量計(富士フィルム製FTR−125)および線量計リーダー(仏国・アエリアル製)を用いた。
【0118】
結果を、表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
結果として、それぞれの散乱板離隔距離Xにおいて、散乱板の板厚dが0.6〜1.2mmの範囲で良好な被照射物内の線量比が得られた。また、散乱板離隔距離Xを比較すると、散乱板離隔距離Xが150mmにおいて、最も線量比が下がり改善された。この散乱板離隔距離X150mmは、製品高さが約140mmであることから、被照射物Wから散乱板14を約10mm離隔した位置である。
【0121】
散乱板離隔距離Xは、被照射物高さ以上が必要であり、また電子線照射装置の出射部に至るまでの高さ以下である必要がある。また、被照射物の種類にもよるが、作業性の観点から必要以上に大きいと不便であることから、散乱板離隔距離Xは、好ましくは被照射物高さ以上であって1000mm以下であるが、より好ましくは750mm以下、さらには500mm以下であることがより好ましい。また、電子線滅菌用搬送容器1への被照射物Wの載荷作業性を考慮すれば、350mm以上であることが好ましいといえる。
【0122】
次に、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1を用いて滅菌を行う際の電子線照射装置の運転条件の例を示す。
【0123】
表4は、滅菌線量が25kGyの場合の電子線照射装置の運転条件例である。
【0124】
【表4】
【0125】
電子線照射装置は、加速電圧が10MeVであり、電流、走査幅およびコンベア速度が可変となっている。運転条件例2は、運転条件例1に対して電流およびコンベア速度を下げることにより、運転条件例1と同等な線量25kGyを実現している。
【0126】
表5は、滅菌線量が40kGyの場合の電子線照射装置の運転条件例である。
【0127】
【表5】
【0128】
電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、運転条件例3〜5では、電流を5mA、走査幅を700mmとして、コンベア速度を変化させている。また、運転条件例3では照射回数が1回であるのに対し、運転条件例4では運転条件例3に対し、1/2の線量を2回照射し、運転条件例5では異なる線量の和が運転条件例3の線量と等しくなるように2回に分けて照射している。上記した表4および表5の運転条件により、電子線照射装置を用いて被照射物Wを滅菌した結果、良好に実施できることが確認されている。
【0129】
なお、本実施形態において使用された電子線照射装置は、加速電圧が一定であるが、可変の装置を使用することもできる。加速電圧を変化させると、被照射物Wの表面の線量を同等とすることはできるが、この際の被照射物内部の線量分布は同等とは限らない。被照射物Wの厚さや質量密度が十分に小さければ同等の滅菌作用を得られるが、被照射物Wの厚さや質量密度が大きい場合、またはこれらにばらつきがある場合には、被照射物Wの内部の線量分布が異なるため、運転条件として別途のバリエーションが必要となる。
【0130】
しかし、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、上述のように運転条件が変った場合であっても、散乱部4を連結部20において容易に取り外せるため、散乱板14の材質や板厚d等を容易に変更することができる。また、連結部20において散乱板14の高さを調整できるため、運転条件に応じて散乱板離隔距離Xを容易に変更することも可能である。
【0131】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々改変することができる。例えば、散乱板14が第1散乱板14Aと第2散乱板14Bに分かれて折り返せる構造でなくてもよく、一枚の散乱板とすることも可能である。逆に、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bの板厚dを互いに異なるようにしても良い。また、被照射物Wが常に同種のものである場合など、板厚dや散乱板離隔距離Xを変更する必要がない場合には、必ずしも散乱部4の高さを変更可能としたり、取り外し可能としなくてもよい。また、上述の実施形態は、電子線照射が搬送路の上方からなされるものとして説明したが、本発明はそれに限定されず、例えば、搬送面と平行な横方向から照射されるものに適用することもできる。その場合は、散乱板を照射方向に対し垂直な位置、すなわち被照射物の側方に設置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う側面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う側面図である。
【図4】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の下面を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の散乱部を開いた際を示す斜視図である。
【図6】図1のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】電子線照射室を上方から見た様子を示す図である。
【図8】電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図9】電子線滅菌用搬送容器とともに使用される位置決め部材を示す斜視図である。
【図10】図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】電子線滅菌用搬送容器に位置決め部材を適用した際を示す断面図である。
【図12】位置決め部材の他の例を示す斜視図である。
【図13】図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。
【図14】1つの開孔が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図15】3つの開孔が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図16】散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【図17】3つの開孔が設けられた散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【図18】散乱板の板厚に対する線量比を表すグラフである。
【符号の説明】
【0133】
1 電子線滅菌用搬送容器、
3 収容部、
4 散乱部、
5 支柱、
6 載荷面、
7 補強板、
8 切り欠き部、
10 ガイドローラ、
12A,12B 孔部、
14A 第1散乱板、
14B 第2散乱板、
17A,17B 側壁、
20 連結部、
24 電子線出射部、
30 位置決め部材、
h1,h2 位置決め高さ、
L ひさし長さ、
W 被照射物、
X 散乱板離隔距離。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物の体積などの条件に関わらず、適切な線量で電子線滅菌を行うための電子線滅菌用搬送容器および電子線滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具は、生体へ使用されるという事情から、滅菌される必要がある。従来の滅菌技術として、EOG(エチレンオキサイドガス)を用いたバッチ滅菌があげられるが、この方法は、残留ガス除去のため、出荷前にエアレーションの期間を設ける必要がある。また、EOGは特定化学物質に指定されており、その取り扱いには厳重な管理が必要となる。
【0003】
これに対し、電子線滅菌は、製品及び包装の中にも透過し、残留物を残すこともないため、短時間で滅菌でき、かつ滅菌直後に出荷が可能となるなどの利点があり、電子線滅菌への転換が促進されている。
【0004】
しかしながら、電子線は、電子線照射源から照射された電子線が適切な量、被照射物の隅々まで当たらなければならないため、電子線照射方向における被照射物の密度が大きい、又は密度分布が大きい場合には、端部や深部にまで滅菌のための適切な線量を照射することが難しい。また、強すぎる電子線の照射は、材質の劣化などの悪影響を起こす可能性がある。
【0005】
特許文献1には、被照射物である中空糸型ダイアライザを電子線滅菌する際に、筒状容器にいれて電子線照射することによって、被照射物内での吸収線量分布(以下、単に線量分布という)のバラツキを押さえる方法が開示されている。しかしながら、この方法では、筒状容器の寸法に限界があるため、被照射物の寸法もおのずから限定され、寸法の大きい被照射物に対しては使用できない。
【0006】
また、近年では、手術に使用される数十種類もの大小複数の医療器具をひとつに包装してキット化し、購入や配置の手間を簡略化するとともに、医療現場での誤使用や誤準備を防止しようとする動きがある。このようなキット製品は、非常に体積が大きく、かつ密度分布が大きくなるものであり、電子線滅菌が困難となる。
【特許文献1】特開2000−325434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、被照射物の密度分布などの条件に関わらず、均一な線量分布で電子線滅菌を行うことができる電子線滅菌方法および電子線滅菌用搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記(1)〜(25)に記載の発明により達成される。
【0009】
(1)電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器であって、被照射物が配置される収容部と、前記収容部に配置された被照射物と電子線出射部との間に配置されるとともに被照射物およびその周囲を覆う散乱板と、を有し、前記収容部と散乱板の間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されていることを特徴とする電子線滅菌用搬送容器である。
【0010】
(2)前記収容部から電子線照射方向へ延びる支柱と、前記散乱板に固定されるとともに前記支柱の長手方向の任意の位置に連結可能な連結部と、をさらに有することを特徴とする上記(1)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0011】
(3)前記散乱板は、一方に対して他方が回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0012】
(4)前記散乱板には、少なくとも1つの開孔が設けられることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0013】
(5)前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられて、前記散乱板にスリット状の開孔が形成されることを特徴とする上記(3)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0014】
(6)前記第1散乱板または第2散乱板のいずれか一方は、当該第1散乱板および第2散乱板の互いに隣接する側辺において、屈曲された側壁を有することを特徴とする上記(3)または(5)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0015】
(7)前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0016】
(8)前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、当該長方形形状の四隅の外側に、前記収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0017】
(9)前記収容部には、1列に並ぶ複数の孔部が設けられ、外部装置により、当該孔部の有無を読み取るように構成されたことを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0018】
(10)前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、前記収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0019】
(11)前記散乱板は、金属板であることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0020】
(12)前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0021】
(13)前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって2.1mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0022】
(14)前記散乱板は、板厚が0.6mm以上であって1.0mm以下であることを特徴とする上記(11)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0023】
(15)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって1000mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0024】
(16)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって500mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0025】
(17)前記収容部の被照射物が配置される載荷面と前記散乱板との間の散乱板離隔距離は、前記被照射物の高さ以上であって350mm以下であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0026】
(18)前記散乱板は、被照射物の外周から端部までの長さであるひさし長さが40mm以上設けられるとともに、幅長が電子線照射可能な範囲以下であることを特徴とする上記(1)〜(17)のいずれか1つに記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0027】
(19)前記ひさし長さが100mm以上設けられることを特徴とする上記(18)に記載の電子線滅菌用搬送容器である。
【0028】
(20)電子線照射により被照射物を滅菌する電子線滅菌方法であって、
前記被照射物を載置できる収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆うとともに、前記被照射物を電子線照射方向と交差する方向に露出させつつ、散乱板の前記被照射物およびその周囲を覆う部位に前記散乱板を介して被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線滅菌方法である。
【0029】
(21)前記収容部から前記電子線照射方向へ伸延する支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部により前記散乱板を固定し、前記被照射物と前記散乱板の間の距離を調整することを特徴とする上記(20)に記載の電子線滅菌方法である。
【0030】
(22)前記散乱板を構成する互いに回転可能に連結された第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて、前記収容部に被照射物を収納することを特徴とする上記(20)または(21)に記載の電子線滅菌方法である。
【0031】
(23)少なくとも1つの開孔もしくはスリットを設けた前記散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする上記(20)〜(22)のいずれか1つに記載の電子線滅菌方法である。
【0032】
(24)前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられた散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする上記(23)に記載の電子線滅菌方法である。
【0033】
(25)前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置することを特徴とする上記(20)〜(24)のいずれか1つに記載の電子線滅菌方法である。
【発明の効果】
【0034】
上記(1)に記載の発明によれば、被照射物およびその周囲を覆う散乱板が設けられるため、被照射物に対してバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌を行うことができる。また、収容部と散乱板の間が開放されているため、電子線照射により発生した熱を効率よく放熱できる。
【0035】
また、上記(2)に記載の発明によれば、支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部が設けられるため、散乱部の高さを調整することができ、または他の散乱板と取り替えることも可能であり、様々な滅菌条件を実現できる。
【0036】
また、上記(3)に記載の発明によれば、回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有するため、散乱板を開閉することができ、被照射物の載荷作業性に優れている。
【0037】
また、上記(4)に記載の発明によれば、散乱板に開孔が設けられるため、開孔設置部の下方において、開孔を通り抜けた直進分と散乱板において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量を増加させることができる。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物の質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物全体における線量の均一化を図ることができる。
【0038】
また、上記(5)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の間にスリット状の開孔が形成されるため、散乱板を開閉可能としつつ、同時に開孔を形成することができる。なお、開孔が設けられることによる効果は、上記(4)と同様である。
【0039】
また、上記(6)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の一方に屈曲された側壁を設けるため、散乱板に必要な剛性をこの側壁により確保しつつ、電子線の透過を極力阻害しない構造とすることができる。
【0040】
また、上記(7)に記載の発明によれば、載荷面に、被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されるため、被照射物の周囲に散乱板に覆われる所定の寸法を確実に確保でき、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0041】
また、上記(8)に記載の発明によれば、収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられるため、電子線滅菌用搬送容器を搬送する際の容器部の損傷を防止でき、また、搬送中で容器が搬送路のカーブ部の凸部などと干渉し、引っかかることを防止できる。
【0042】
また、上記(9)に記載の発明によれば、1列に並ぶ複数の孔部に、例えば孔部のそれぞれに嵌合可能なピンにより数を調整可能なものとし、それぞれの孔部におけるピンの有無によって、2進法によるシリアル番号を表示することができる。このシリアル番号により、被照射物の種類、電子線滅菌を実施した場所や日時、電子線滅菌の条件等の情報を特定することが可能となる。なお、単純に孔部の数の異なる収容部を多数用意することももちろん可能である。
【0043】
また、上記(10)に記載の発明によれば、収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられるため、複数の電子線滅菌用搬送容器を並べて使用する際にも、電子線滅菌用搬送容器同士が互いに乗り上げることを防止することができる。
【0044】
また、上記(11)に記載の発明によれば、散乱板がステンレス鋼板であるため、電子線照射環境下における繰返しの使用に耐えうるとともに、錆が生じ難く管理が容易である。
【0045】
また、上記(12)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0046】
また、上記(13)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.3mm以上であって2.1mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をよりバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0047】
また、上記(14)に記載の発明によれば、散乱板の板厚が0.6mm以上であって1.0mm以下であることにより、電子線が散乱板を十分に透過できるとともに散乱板の強度を確保でき、かつ被照射物全体をさらにバラツキの少ない均一な線量分布で電子線滅菌することができる。
【0048】
また、上記(15)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって1000mm以下であるため、被照射物の収容性に優れ、同時に、必要十分な線量分布が得られる。
【0049】
また、上記(16)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって500mm以下であるため、被照射物を収容できるとともに電子線照射装置の走査ホーンに接触せず、より作業性がよい。
【0050】
また、上記(17)に記載の発明によれば、散乱板離隔距離が被照射物の高さ以上であって350mm以下であるため、被照射物を収容できるとともに電子線照射装置の走査ホーンに接触せず、載荷作業性に優れている。
【0051】
また、上記(18)に記載の発明によれば、散乱板のひさし長さが40mm以上であり、幅長が電子線照射可能な範囲以下であるため、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0052】
また、上記(19)に記載の発明によれば、散乱板のひさし長さが100mm以上であり、幅長が電子線照射可能な範囲以下であるため、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【0053】
また、上記(20)に記載の発明によれば、収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆っているため、電子線を照射した際に、被照射物の外周部に至る全ての範囲でバラツキの少ない均一な電子線滅菌を行うことができる。また、被照射物を電子線照射方向と交差する方向に開放させているため、電子線照射により発生した熱を効率よく放熱できる。
【0054】
また、上記(21)に記載の発明によれば、被照射物と散乱板の間の距離を調整することができるため、散乱部の高さを調整することができ、または他の散乱部と取り替えることも可能であり、任意の線量分布を実現できる。
【0055】
また、上記(22)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて収容部に被照射物を収納するため、被照射物の収納が容易である。
【0056】
また、上記(23)に記載の発明によれば、開孔もしくはスリットを設けた散乱板を介して電子線を照射するため、開孔設置部の下方において、開孔を通り抜けた直進分と散乱板において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量を増加させることができる。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物の質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物全体における線量の均一化を図ることができる。
【0057】
また、上記(24)に記載の発明によれば、第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられた散乱板を介して電子線を照射するため、散乱板を開閉可能としつつ、同時に開孔による効果を得ることができる。なお、開孔が設けられることによる効果は、上記(23)と同様である。
【0058】
また、上記(25)に記載の発明によれば、載荷面に、被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置するため、被照射物の周囲に散乱板に覆われる所定の寸法を確実に確保でき、被照射物の外周部に至る全ての範囲で、バラツキの少ない均一な線量分布による電子線滅菌を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0060】
図1は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器を示す斜視図、図2は図1のII−II線に沿う側面図、図3は図1のIII−III線に沿う側面図、図4は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の下面を示す斜視図、図5は本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の散乱部を開いた際を示す斜視図、図6は図1のVI−VI線に沿う断面図である。
【0061】
本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、滅菌される被照射物Wを収容して電子線出射部までコンベア等により搬送するためのものであり、電子線出射部においては、被照射物Wを内部に収容したまま、内部の被照射物Wに電子線が照射される。
【0062】
電子線滅菌用搬送容器1は、図1〜4に示すように、被照射物Wを収容するための開口部2が設けられた収容部3と、収容部3に対して開口部方向に配置される散乱部4と、収容部3と散乱部4を連結する支柱5と、を有している。収容部3と散乱部4の間には、被照射物Wに対して電子線照射方向と直交する方向が開放されるように所定の間隔が設けられ、開口部2が散乱部4により完全に覆われることなく、被照射物Wが常に外部に露出される。
【0063】
収容部3は、搬送方向に長い長方形の載荷面6を有するトレー形状であり、この四隅の近傍に、支柱5が固定されている。具体的には、収容部3の四隅に対して、収容部3の搬送方向両側(短辺側)に支柱5が設けられており、それぞれの短辺側において設けられる2つの支柱5の間に、収容部3の下端から所定厚さの補強板7が設けられる。補強板7は、短辺側の中央部において、搬送方向外側から窪んだ切り欠き部8が設けられている。また、収容部3の四隅の両短辺側には、収容部3の下端から上方へ伸延する筒状のガイドローラ10が設けられる。ガイドローラ10は、回転可能に設置されており、収容部3の四隅を接触から保護する機能を有している。
【0064】
収容部3の搬送方向に沿って延びる側面側(長辺側)には、収容部3の上端から側方へ延びる鍔部11が設けられる。
【0065】
両側の鍔部11のそれぞれには、搬送方向に沿って複数の貫通孔である孔部12が1列に並んで設けられている。本実施形態では、両鍔部11の任意の位置に孔部12A,12Bが、それぞれ8つずつ並んで配置されている。この孔部12は、それぞれの孔部12の開孔の有無によって、2進法による8桁のシリアル番号を表示することができる。このシリアル番号を搬送路に設けた外部装置で読み取ることにより、被照射物Wの種類、電子線滅菌を実施した場所や日時、電子線滅菌の条件等の情報を特定することが可能となる。なお、孔部12の数は一例であり、特に限定はない。
【0066】
孔部12は、予めシリアル番号に応じた位置に必要な数だけ形成するものとしてもよいが、予め所定範囲の全ての位置に孔を開けておき、シリアル番号に応じて図示しないピン等を挿入することで不要な孔を閉鎖しても良い。このようにすることで、状況に応じて自由にシリアル番号を変更することができ、効率的な運用を行うことができる。
【0067】
なお、外部装置による孔部12の有無(または、ピンの有無による閉鎖の有無)の判別には、例えば磁気センサや光学センサを使用することができる。
【0068】
また、図1に示すように両鍔部11の孔部12A,12Bがそれぞれ電子線滅菌用搬送容器1における回転対称的な位置に配置されていると、電子線滅菌用搬送容器1を180度反転させても、同一の磁気センサ等の読み取り装置によってシリアル番号を読み取ることができる。
【0069】
収容部3の底面には、図4に示すように、搬送方向および搬送方向と交差する方向に延びる複数の補強梁13が設けられる。本実施形態では搬送方向に延びる4つの補強梁13Aと、搬送方向と交差する方向に延びる1つの補強梁13Bを備えているが、補強梁13の数および構成は、これに限定されない。補強梁13には、矩形断面を有する中空部材が用いられている。したがって、中実部材を用いた場合よりも、電子線が照射された際の補強梁13の発熱量を低減させることができ、また迅速に冷却される。
【0070】
散乱部4は、載荷面6の両長辺側に沿う2つの第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bを有し、第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bがヒンジ15により回転可能に連結されている。したがって、この第1散乱板14A(または第2散乱板14B)に対して、他方の第2散乱板14B(または第1散乱板14A)が、ヒンジ15を支点に上方に折り返されて上面に開放部を作ることができる構造となっている。
【0071】
第1散乱板14Aは、図6に示すように、収容部3と対向する面の外周に、収容部3方向へ折り曲げられた一対の側壁17Aが形成されている。これにより、第1散乱板14Aの剛性が向上されている。以下、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bとを合わせて、散乱板14と称す。
【0072】
第2散乱板14Bも同様に、収容部3と対向する散乱面の外周のうち、第1散乱板14Aと接する側を除く部位が収容部方向へ折り曲げられて側壁17Bが形成されている。
【0073】
このように、2つの散乱板14A,14Bの接する側面において、一方の第1散乱板14Aには側壁17Aを設け、他方の第2散乱板14Bには側壁を設けないことにより、必要な剛性を第1散乱板14Aの側壁17Aにより確保しつつ、電子線の透過を極力阻害しない構造とすることができる。なお、2つの散乱板14A,14Bの接する側面において、第1散乱板14Aではなく第2散乱板14Bに側壁17Bを設けることもでき、また両方に側壁17A,17Bを設けることも可能である。側壁17A,17Bおよび収容部3の各側壁は、散乱された電子線を収容部3および散乱部4の内部方向へ反射させ、効率的な照射を促進させる。
【0074】
第1散乱板14Aの搬送方向両端部は、搬送方向両端部に設けられるそれぞれ2つの支柱5に連結可能な2つの連結梁18に固定されている。連結梁18には、支柱5に対応する位置に、支柱5が嵌合可能な連結孔を有する連結部20が設けられる。連結部20は、例えばネジ等により2つの部材が近接離隔可能な構造となっており、2つの部材の間に形成される連結孔に、支柱5の長さ方向の任意の位置を固定することができる。
【0075】
なお、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1のそれぞれの部材は、電子線照射環境下における繰返しの使用に耐えうるように金属製であることが好ましく、例えばステンレス製である。ステンレス製であれば、錆が生じ難く管理が容易である。
【0076】
それぞれ固定される部材同士は、ボルトやネジ等により締結されたり、または溶接によって固定される。
【0077】
次に、本実施形態に係る電子線滅菌方法について説明する。
【0078】
図7は電子線照射室を上方から見た様子を示す図、図8は電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図9は電子線滅菌用搬送容器とともに使用される位置決め部材を示す斜視図、図10は図9のX−X線に沿う断面図、図11は電子線滅菌用搬送容器に位置決め部材を適用した際を示す断面図、図12は位置決め部材の他の例を示す斜視図、図13は図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。図14は1つの開孔31が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図15は3つの開孔31が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図、図16は散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図であり、図17は3つの開孔31が設けられた散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【0079】
電子線滅菌を行う際には、前述した電子線滅菌用搬送容器1に被照射物Wを収納し、コンベアに電子線滅菌用搬送容器1を載せて、電子線照射装置が備えられた電子線照射室22に搬送する。電子線照射室22は、例えば図7に示すように、電子線照射室22の搬入口23から電子線出射部24まで、および電子線出射部24から搬出口25までの搬送路26が、コンクリート壁27を複数回屈曲させて設けられている。これにより、電子線出射部24から照射される電子線が、搬入口23および搬出口25に至るまでに減衰される。また、電子線滅菌用搬送容器1を搬送するコンベア21も、搬送路26に沿って屈曲して施設されている。
【0080】
初めに、電子線照射室22の外部において、図8のように電子線滅菌用搬送容器1に被照射物Wを収納する。この際に、電子線滅菌用搬送容器1の第2散乱板14Bを開くことができるため、容易に収納が可能である。
【0081】
被照射物Wは、収容部3の中央部に配置されることが好ましく、また、搬送容器1は、被照射物Wの外周(搬送方向及び電子線走査方向周囲)に、後述する所定長さ以上のひさし長さLを有している。また、被照射物Wを収容部3の載荷面6の中央部に位置決めするために、図9,10に示すような位置決め部材30を、図11のように被照射物Wを囲むように設けてもよい。位置決め部材30の材質は、ダンボール等の厚紙、木材、またはステンレスやアルミ等の金属とすることができるが、これらに限定されず、様々な材質を適用することが可能である。位置決め部材30の形状は、本実施形態では、周囲に等しい幅を有する”ロ”字形状であるが、他の形状でもよく、例えば被照射物Wの形状に応じて変更することが可能である。
【0082】
本実施形態に係る位置決め部材30は、断面が一定の位置決め高さh1を有しているが、断面形状を変更することもできる。例えば、図12,13に示すように、被照射物側の端面の位置決め高さh2を高くすることも可能である。この位置決め高さh1,h2は、被照射物Wの動きを最低限抑制できる程度の高さを有することが好ましく、本実施形態では、5mm程度としている。また、電子線の被照射物Wへの照射が阻害されないように、位置決め部材高さhは被照射物Wの高さ以下であることが好ましく、また当然に、収容部3と散乱板14の間の間隔以下である必要がある。また、本実施形態における位置決め部材30は中実部材であるが、中空部材とすることもできる。
【0083】
収容部3の載荷面6と散乱板14の間には、散乱板14によって散乱された電子線を被照射物Wに効率よく照射させるために、所定長さ以上の散乱板離隔距離X(図8参照)が設けられることが好ましい。この散乱板離隔距離Xおよび散乱板14の板厚dの好ましい寸法については、後述する。
【0084】
次に、コンベア21によって電子線滅菌用搬送容器1を電子線照射室22に搬入し、電子線照射位置まで搬送する。電子線滅菌用搬送容器1は、両短辺側のどちら側も搬送方向とすることができるが、作業者が位置する側に、開閉可能な第2散乱板14B側が位置することが好ましい。
【0085】
電子線環境下では、コンベア21に樹脂ガイドを設置できないため、電子線滅菌用搬送容器1の搬送においてコンベア21と電子線滅菌用搬送容器1の角部が接触し、磨耗が生じる可能性がある。特に、電子線照射室22内では搬送路26が屈曲しているため、搬送の際のコンベア21と電子線滅菌用搬送容器1の接触が生じやすい。しかし、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、四隅にガイドローラ10が設けられるため、搬送の際に角部の磨耗を防止することができる。
【0086】
搬送の際には、複数の電子線滅菌用搬送容器1をコンベア21に並べて連続的に搬送することができる。それぞれの電子線滅菌用搬送容器1は、収容部3の搬送方向に設けられる補強板7が所定の厚さを有しているため、連続して搬送される電子線滅菌用搬送容器1同士が接触する際に、互いに乗り上げることを防止することができる。また、補強板7の中央に切り欠き部8が設けられるため、接触してしまった場合でも電子線滅菌用搬送容器1同士の間に必ず隙間が確保される。したがって、移動中の電子線滅菌用搬送容器1を停止させる際に、コンベア21から進退動して(突出して)切り欠き部8に挿通可能な止め部材(不図示)をコンベア21に設けることにより、電子線滅菌用搬送容器1を所定の位置に確実に停止させることができる。
【0087】
電子線照射位置に到達した電子線滅菌用搬送容器1は、所定の速度で進行しつつ、電子線を照射される。
【0088】
電子線照射位置は、電子線を電子線滅菌用搬送容器1の幅方向(搬送方向と交差する方向)に所定の走査幅で高速で往復運動させつつ、所定の速度で移動する電子線滅菌用搬送容器1の散乱板14に向って照射する。この走査幅は、散乱板14の幅よりも長く設定されており、散乱板14の全範囲にわたって照射される。
【0089】
電子線は、例えば散乱板14に入射する電子が、被照射物Wに照射され、線量がいずれの位置においても25kGyとなるように照射される。なお、この線量は一例であり、被照射物上で必要な線量を限定するものではない。滅菌に適した線量の範囲としては、15〜90kGyを想定している。
【0090】
電子線は、散乱板14によって散乱された後、被照射物Wに照射される。被照射物Wの表面に照射される電子線は、所定の条件において、散乱板14の影響により散乱板14に入射する線量よりも大きくなる。この効果は、被照射物Wの周囲に散乱板14によって覆われるひさし長さLを設け、被照射物Wよりも広い散乱板14が設置されることにより、被照射物Wの外周部においても得られる。
【0091】
散乱板14へ入射される電子線の線量が25kGyであり、散乱板14の厚さが0.8mmの場合に、被照射物表面での線量を25kGy以上とするには、ひさし長さLが40mm以上であることが好ましく、さらにひさし長さLを100mm以上とすることで、被照射物表面での線量を30kGy以上とすることが確認されている。ただし、散乱板14の幅長は電子線の照射可能な範囲(走査幅)以下である。
【0092】
また、この散乱板14の影響により、被照射物W内部の線量比(最大線量と最小線量の比、最大線量/最小線量)を低減させることができる。
【0093】
この線量比が大きい場合には、例えば最小線量を所定値以上に設定すると、最大線量の位置で線量が過大となり、材料の劣化や着色等の不具合が生じる。また、例えば最大線量を所定値以下に設定すると、最小線量の位置での線量が不足し、滅菌が不十分になる。内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wにおいては、線量比が大きくなる傾向にあり、電子線による滅菌が困難となる。内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wとしては、例えば注射器、プラスチック製鉗子、金属デバイス等が1つにパッケージされた医療用機器セット等が挙げられる。
【0094】
しかし、本実施形態では、内部の質量密度分布が不均一な被照射物Wであっても、散乱板14の効果により、線量比を減少させることができる。この際には、散乱板14の厚さ、材質、離隔距離、およびひさし長さの条件を最適化することにより、線量比を減少させることが可能である。
【0095】
また、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、コンベア21の幅や走査幅等の条件さえ満たせば従来よりも大きく作製できるため、比較的大きな被照射物Wであっても収納して滅菌することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、収容部3と散乱板14の間に間隔が設けられて被照射物Wが常に外部に露出されているため、電子線照射時に被照射物Wおよび電子線滅菌用搬送容器1に生じる熱を、効率よく放熱できる。
【0097】
また、散乱板14に開孔31を設けることも可能である。本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1の散乱板14は、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bが設けられているため、図14のように、この第1散乱板14Aと第2散乱板14Bの間に間隔を設けることにより、スリット状の開孔31を任意に形成できる。
【0098】
開孔31を設けると、開孔設置部の下方において、開孔31を通り抜けた直進分と散乱板14において散乱されて照射される散乱分の電子線が重なり、相乗効果によって線量が増加する。この効果を利用して、線量が増加する位置に被照射物Wの質量密度が高い部位を配置することで、電子線の透過し難い部位に対する電子線の照射量を増加させ、結果として被照射物W全体における線量の均一化を図ることができる。
【0099】
なお、開孔31の形状はスリット状に限らず、線量を増加させたい部位の大きさや形状等に応じて、円形や矩形等の任意の形状とすることができ、また、開孔31の数も限定はない。例えば、図15に示すように、被照射物Wに3つの質量密度が高い部位Aがある場合には開孔31を3つ設けることも可能である。この場合には、被照射物Wの表面における線量を、図16のように開孔31のない場合に比べて図17のように例えば10〜15%程度増加させ、結果として、被照射物全体(内部)における線量の均一化を図ることができる。
【0100】
ここで、開孔31が大き過ぎると、散乱板14を設けない場合と条件が変わらず散乱板14による効果が得られないため、散乱による効果を得るために幅が50mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以下、更には1〜5mmの範囲内であることが好ましい。
【0101】
次に、実験により散乱板14の板厚dおよび散乱板14の散乱板離隔距離Xについて検討する。
【0102】
<透過性による散乱板の板厚の検討>
散乱板14の板厚dを、実験による電子線の透過性により検討した。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVである。
【0103】
実験に用いた散乱板14はステンレス鋼板であり、この鋼板表面における目標照射線量を33kGyとした。実験に使用するステンレス鋼板は、板厚dが0.3,0.5,1.0,2.0,3.0,4.0および4.4mmの7種類とした。
【0104】
これらの鋼板を、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1の第1散乱板14Aおよび第2散乱板14Bが設置される位置に設置し、鋼板の上下面に三酢酸セルロース(CTA)線量計(富士フィルム製FTR−125)を設けて、透過側で計測される線量と入射側で計測される線量の比(透過側線量/入射側線量)を求めた。計測においては、載荷面6とステンレス鋼板の間にダンボール紙を5枚(約3cm相当)介し、載荷面6からの反射の影響を無視できるものとした。
【0105】
また、CTA線量計はステンレス鋼板の中央部に配置させ、電子線の回折の影響を無視できるものとした。
【0106】
結果を、表1および図18に示す。表1は、散乱板の板厚に対する散乱板表裏の線量比および透過線量を示し、図18は、散乱板の板厚に対する線量比を表すグラフである。
【0107】
【表1】
【0108】
図18中のプロットは実測結果である。表1および図18より、最大線量比は1.5と推測できる。加速電圧が10MeVの電子線において、ステンレス鋼板(比重ρ=7.8)の板厚が約4.0mmの場合に線量比1が得られており、実測値と理論値が略一致する結果が得られた。
【0109】
これらの結果より、ステンレス鋼板(散乱板14)が1より大きい線量比を発揮する、すなわち散乱板14が線量を増加させるには、ステンレス鋼板の板厚dは4.0mm以下であることが好ましい。実際には、板厚は、強度、発熱性(厚いほど発熱しやすい)、被照射物の材質や大きさを考慮して選定されるが、0.3〜2.0mmがより好ましい。
【0110】
<被照射物内の線量比による散乱板の板厚の検討>
散乱板の板厚dを、被照射物内の線量比(被照射物内の最大線量と最小線量の比)を実験により計測して検討した。被照射物Wは、数十点の手術用医療器具をプラスチックトレイに入れて一まとめに包装したキット製品であり、重量約2.8kgf、平均比重約0.08g/cm3、製品高さ約14cmのものを使用した。構成する各医療器具の比重は約0.1g/cm3(脱脂綿等)から約8g/cm3(注射針、メス等)の範囲に渡る。従って、線量比が大きい。
【0111】
散乱板には、板厚dが0.3,0.6,1.0,1.2および1.5mmの5種類を使用し、散乱板離隔距離Xを350mmとした。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、散乱板14表面の照射線量を20kGyとした。被照射物内の線量(吸収線量)の測定位置は、事前の試験により確認されている最大線量位置、最小線量位置を含む製品内の代表点とした。線量の測定には、CTA線量計(富士フィルム製FTR−125)および線量計リーダー(仏国・アエリアル製)を用いた。なお、表中の管理点線量は、線量監視位置(管理点)における線量である。
【0112】
結果を、表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
結果として、散乱板を適用しない場合の線量比が2.2であるのに対して、試験に使用した散乱板の全てにおいて(板厚dが0.3〜1.5mmの範囲で)線量比が改善され、十分な結果が得られた。特に、板厚dが0.6〜1.0mmの範囲の散乱板を適用することにより、線量比が1.4まで改善された。線量比が小さいほど滅菌性と製品材料への影響抑制の両立が容易となり、かつ滅菌管理がし易くなるため、好ましい。したがって、板厚dは0.6〜1.0mmの範囲の値であることが好ましい。一方で、散乱板を構造的に観ると、0.3mm厚では剛性が不十分であり、0.5mm以上が好ましいと考えられる。
【0115】
したがって、上述の<被照射物内の線量比による散乱板の板厚の検討>をも同時に考慮すると、散乱板14の板厚は4mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上であって1.2mm以下、さらには0.6mm以上であって1.0mm以下であることが好ましい。
【0116】
<被照射物内の線量比による散乱板の離隔距離の検討>
散乱板14の散乱板離隔距離Xと、被照射物内の線量比(被照射物内の最大線量と最小線量の比、最大線量/最小線量)との関係を実験により計測して検討した。被照射物Wは、上述のキット製品であり、質量約2.8kg、製品高さ約14cmである。
【0117】
散乱板には、板厚dが0.6および1.2mmの2種類を使用し、被照射物載荷面6に対する散乱板離隔距離X(搬送容器下面から散乱板までの距離)を150,350,500および750mmとした。使用した電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、散乱板表面における照射線量を33kGyとした。被照射物内の線量(吸収線量)の測定位置は、事前の試験により確認されている最大線量位置、最小線量位置を含む製品内の代表点とした。線量の測定には、CTA線量計(富士フィルム製FTR−125)および線量計リーダー(仏国・アエリアル製)を用いた。
【0118】
結果を、表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
結果として、それぞれの散乱板離隔距離Xにおいて、散乱板の板厚dが0.6〜1.2mmの範囲で良好な被照射物内の線量比が得られた。また、散乱板離隔距離Xを比較すると、散乱板離隔距離Xが150mmにおいて、最も線量比が下がり改善された。この散乱板離隔距離X150mmは、製品高さが約140mmであることから、被照射物Wから散乱板14を約10mm離隔した位置である。
【0121】
散乱板離隔距離Xは、被照射物高さ以上が必要であり、また電子線照射装置の出射部に至るまでの高さ以下である必要がある。また、被照射物の種類にもよるが、作業性の観点から必要以上に大きいと不便であることから、散乱板離隔距離Xは、好ましくは被照射物高さ以上であって1000mm以下であるが、より好ましくは750mm以下、さらには500mm以下であることがより好ましい。また、電子線滅菌用搬送容器1への被照射物Wの載荷作業性を考慮すれば、350mm以上であることが好ましいといえる。
【0122】
次に、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1を用いて滅菌を行う際の電子線照射装置の運転条件の例を示す。
【0123】
表4は、滅菌線量が25kGyの場合の電子線照射装置の運転条件例である。
【0124】
【表4】
【0125】
電子線照射装置は、加速電圧が10MeVであり、電流、走査幅およびコンベア速度が可変となっている。運転条件例2は、運転条件例1に対して電流およびコンベア速度を下げることにより、運転条件例1と同等な線量25kGyを実現している。
【0126】
表5は、滅菌線量が40kGyの場合の電子線照射装置の運転条件例である。
【0127】
【表5】
【0128】
電子線照射装置の加速電圧は10MeVであり、運転条件例3〜5では、電流を5mA、走査幅を700mmとして、コンベア速度を変化させている。また、運転条件例3では照射回数が1回であるのに対し、運転条件例4では運転条件例3に対し、1/2の線量を2回照射し、運転条件例5では異なる線量の和が運転条件例3の線量と等しくなるように2回に分けて照射している。上記した表4および表5の運転条件により、電子線照射装置を用いて被照射物Wを滅菌した結果、良好に実施できることが確認されている。
【0129】
なお、本実施形態において使用された電子線照射装置は、加速電圧が一定であるが、可変の装置を使用することもできる。加速電圧を変化させると、被照射物Wの表面の線量を同等とすることはできるが、この際の被照射物内部の線量分布は同等とは限らない。被照射物Wの厚さや質量密度が十分に小さければ同等の滅菌作用を得られるが、被照射物Wの厚さや質量密度が大きい場合、またはこれらにばらつきがある場合には、被照射物Wの内部の線量分布が異なるため、運転条件として別途のバリエーションが必要となる。
【0130】
しかし、本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器1は、上述のように運転条件が変った場合であっても、散乱部4を連結部20において容易に取り外せるため、散乱板14の材質や板厚d等を容易に変更することができる。また、連結部20において散乱板14の高さを調整できるため、運転条件に応じて散乱板離隔距離Xを容易に変更することも可能である。
【0131】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々改変することができる。例えば、散乱板14が第1散乱板14Aと第2散乱板14Bに分かれて折り返せる構造でなくてもよく、一枚の散乱板とすることも可能である。逆に、第1散乱板14Aと第2散乱板14Bの板厚dを互いに異なるようにしても良い。また、被照射物Wが常に同種のものである場合など、板厚dや散乱板離隔距離Xを変更する必要がない場合には、必ずしも散乱部4の高さを変更可能としたり、取り外し可能としなくてもよい。また、上述の実施形態は、電子線照射が搬送路の上方からなされるものとして説明したが、本発明はそれに限定されず、例えば、搬送面と平行な横方向から照射されるものに適用することもできる。その場合は、散乱板を照射方向に対し垂直な位置、すなわち被照射物の側方に設置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う側面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う側面図である。
【図4】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の下面を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に係る電子線滅菌用搬送容器の散乱部を開いた際を示す斜視図である。
【図6】図1のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】電子線照射室を上方から見た様子を示す図である。
【図8】電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図9】電子線滅菌用搬送容器とともに使用される位置決め部材を示す斜視図である。
【図10】図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】電子線滅菌用搬送容器に位置決め部材を適用した際を示す断面図である。
【図12】位置決め部材の他の例を示す斜視図である。
【図13】図12のXIII−XIII線に沿う断面図である。
【図14】1つの開孔が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図15】3つの開孔が設けられた電子線滅菌用搬送容器に被照射物を載置した際を示す断面図である。
【図16】散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【図17】3つの開孔が設けられた散乱板に電子線が照射された際の被照射物の表面における線量分布を模式的に表す図である。
【図18】散乱板の板厚に対する線量比を表すグラフである。
【符号の説明】
【0133】
1 電子線滅菌用搬送容器、
3 収容部、
4 散乱部、
5 支柱、
6 載荷面、
7 補強板、
8 切り欠き部、
10 ガイドローラ、
12A,12B 孔部、
14A 第1散乱板、
14B 第2散乱板、
17A,17B 側壁、
20 連結部、
24 電子線出射部、
30 位置決め部材、
h1,h2 位置決め高さ、
L ひさし長さ、
W 被照射物、
X 散乱板離隔距離。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器であって、
被照射物が配置される収容部と、
前記収容部に配置された被照射物と電子線出射部との間に配置されるとともに被照射物およびその周囲を覆う散乱板と、
を有し、前記収容部と散乱板の間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されていることを特徴とする電子線滅菌用搬送容器。
【請求項2】
前記収容部から電子線照射方向へ延びる支柱と、
前記散乱板に固定されるとともに前記支柱の長手方向の任意の位置に連結可能な連結部と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項3】
前記散乱板は、一方に対して他方が回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項4】
前記散乱板には、少なくとも1つの開孔が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項5】
前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられて、前記散乱板にスリット状の開孔が形成されることを特徴とする請求項3に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項6】
前記第1散乱板または第2散乱板のいずれか一方は、当該第1散乱板および第2散乱板の互いに隣接する側辺において、屈曲された側壁を有することを特徴とする請求項3または5に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項7】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項8】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、当該長方形形状の四隅の外側に、前記収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項9】
前記収容部には、1列に並ぶ複数の孔部が設けられ、外部装置により、当該孔部の有無を読み取るように構成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項10】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、前記収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項11】
前記散乱板は、金属板であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項12】
前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることを特徴とする請求項11に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項13】
前記散乱板は、被照射物の外周から端部までの長さであるひさし長さが40mm以上設けられるとともに、幅長が電子線照射可能な範囲以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項14】
電子線照射により被照射物を滅菌する電子線滅菌方法であって、
前記被照射物を載置できる収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆うとともに、前記被照射物を電子線照射方向と交差する方向に露出させつつ、散乱板の前記被照射物およびその周囲を覆う部位に前記散乱板を介して被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線滅菌方法。
【請求項15】
前記収容部から前記電子線照射方向へ伸延する支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部により前記散乱板を固定し、前記被照射物と前記散乱板の間の距離を調整することを特徴とする請求項14に記載の電子線滅菌方法。
【請求項16】
前記散乱板を構成する互いに回転可能に連結された第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて、前記収容部に被照射物を収納することを特徴とする請求項14または15に記載の電子線滅菌方法。
【請求項17】
少なくとも1つの開孔もしくはスリットを設けた前記散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の電子線滅菌方法。
【請求項18】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置することを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の電子線滅菌方法。
【請求項1】
電子線照射により滅菌される被照射物を収容し、電子線が照射される電子線滅菌用搬送容器であって、
被照射物が配置される収容部と、
前記収容部に配置された被照射物と電子線出射部との間に配置されるとともに被照射物およびその周囲を覆う散乱板と、
を有し、前記収容部と散乱板の間は、被照射物に対して電子線照射方向と交差する方向が開放されていることを特徴とする電子線滅菌用搬送容器。
【請求項2】
前記収容部から電子線照射方向へ延びる支柱と、
前記散乱板に固定されるとともに前記支柱の長手方向の任意の位置に連結可能な連結部と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項3】
前記散乱板は、一方に対して他方が回転可能に連結される2つの第1散乱板および第2散乱板を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項4】
前記散乱板には、少なくとも1つの開孔が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項5】
前記第1散乱板および第2散乱板の間に隙間が設けられて、前記散乱板にスリット状の開孔が形成されることを特徴とする請求項3に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項6】
前記第1散乱板または第2散乱板のいずれか一方は、当該第1散乱板および第2散乱板の互いに隣接する側辺において、屈曲された側壁を有することを特徴とする請求項3または5に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項7】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材が配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項8】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、当該長方形形状の四隅の外側に、前記収容部に対して回転可能なガイドローラが設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項9】
前記収容部には、1列に並ぶ複数の孔部が設けられ、外部装置により、当該孔部の有無を読み取るように構成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項10】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面が長方形形状であり、前記収容部における載荷面の短辺側に、補強板が設けられることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項11】
前記散乱板は、金属板であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項12】
前記散乱板は、板厚が0.3mm以上であって4.0mm以下であることを特徴とする請求項11に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項13】
前記散乱板は、被照射物の外周から端部までの長さであるひさし長さが40mm以上設けられるとともに、幅長が電子線照射可能な範囲以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の電子線滅菌用搬送容器。
【請求項14】
電子線照射により被照射物を滅菌する電子線滅菌方法であって、
前記被照射物を載置できる収容部に配置された被照射物およびその周囲を散乱板により覆うとともに、前記被照射物を電子線照射方向と交差する方向に露出させつつ、散乱板の前記被照射物およびその周囲を覆う部位に前記散乱板を介して被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線滅菌方法。
【請求項15】
前記収容部から前記電子線照射方向へ伸延する支柱の伸延方向の任意の位置に連結可能な連結部により前記散乱板を固定し、前記被照射物と前記散乱板の間の距離を調整することを特徴とする請求項14に記載の電子線滅菌方法。
【請求項16】
前記散乱板を構成する互いに回転可能に連結された第1散乱板および第2散乱板の一方に対して他方を回転させて、前記収容部に被照射物を収納することを特徴とする請求項14または15に記載の電子線滅菌方法。
【請求項17】
少なくとも1つの開孔もしくはスリットを設けた前記散乱板を介して電子線を照射することを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の電子線滅菌方法。
【請求項18】
前記収容部の被照射物が配置される載荷面に、前記被照射物の外周を囲う位置決め部材を配置することを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の電子線滅菌方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−237362(P2008−237362A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79550(P2007−79550)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
【Fターム(参考)】
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