説明

電子線照射方法および電子線照射装置

【課題】低エネルギーの電子線であっても、電子線を対象物に均一に照射できる電子線照射方法および電子線照射装置を提供する。
【解決手段】飲料容器30(対象物)まわりの雰囲気を負圧の状態に管理した電子線照射領域を形成するチャンバ1内に、電子線EBが不図示の電子偏向器で照射角度を変えられて入射される。チャンバ1壁面には円環状の磁界発生コイル71が複数配列される。交流電源72の通電を順次切り替えていき、発生させた磁界自身が対象物のまわりで回転する回転磁界を前記電子線照射領域内に発生させ、前記対象物の軸線方向に沿っても満遍なく且つ無秩序に照射されるようになっている。円環状に配置された複数の永久磁石を回転させ、対象物を軸線方向に移動させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に電子線を照射する電子線照射方法、および電子線照射装置に係り、特に、例えば、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料等、あるいはこれらに用いられる包装材料などを前記対象物とし、その殺菌を実施するために好適に使用しうる電子線照射方法、および電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電子線照射方法および電子線照射装置としては、従来、高エネルギーの電子線を、その透過作用を利用して対象物に照射するものが一般的であった。しかし、このような高エネルギー型の電子線照射方法および電子線照射装置では、その施設が大規模となる傾向があり、また、エネルギー効率が悪いという課題がある。そこで、施設の簡素化、エネルギー効率の向上を目的として、低エネルギーの電子線を用いるとともに、磁場を利用して電子を偏向させたり、あるいは電子を反射板にて反射させることで、対象物に電子線をできるだけ均一に照射させ得る低エネルギー型の電子線照射方法および電子線照射装置が提案されている。
【0003】
例えば、その代表的な例として、特許文献1、特許文献2に記載の技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、電子線照射領域に向けて電子線を照射する電子線照射手段と、電子線照射領域の周囲に配置されて複数の磁場を発生させる複数の磁場偏向器とを備えている。そして、立体的な対象物を電子線照射領域内に搬送する搬送手段をさらに備えた電子線照射装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術では、電子線照射領域内の立体的な対象物に電子線を照射する電子線照射手段と、対象物の下方に配置した磁場偏向器と、対象物を搬送する搬送手段と、を備えた電子線照射装置が開示されている。
これら特許文献1、特許文献2に開示されている構成によれば、搬送手段にて対象物を電子線照射領域内に搬送し、次いで、電子線照射手段にて電子線を発生して電子線照射領域内に照射し、この照射された電子線をそれぞれの磁場偏向器にて偏向することによって、対象物の各所に電子線を照射することができる。
【特許文献1】特開2002−308229号公報
【特許文献2】特開平11−281798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、対象物の全面に電子線を均一に照射するには、磁場偏向器の配置やその磁場強度をいろいろと変化させる必要がある。しかし、このような照射の均一性を保つための制御は、電子が高速で発射されているため非常に難しく、上記各特許文献の技術によっても、対象物の全面に電子線を均一に照射する上では未だ不十分である。
また、対象物が、例えば複雑な凹凸がある立体物である場合やシート状部材である場合は、電子線照射手段の照射部に対し、対象物の反対面側への照射は、電子を偏向した場合であっても、ラーマ半径が大きく、フリンジングがあるため照射が困難である。なお、対象物や反射板での二次電子によって、対象物の反対面側に電子線を照射する提案もされているものの、このような二次電子は空間距離による損失が大きいため、その照射量を確保し且つ均一に照射することはやはり難しい。
【0006】
さらに、この種の電子線照射装置から照射された電子線は、対象物以外に、その雰囲気である周辺ガス(気体)や装置の構造部に衝突して、そのエネルギーをさらに消耗してしまう。そのため、対象物への電子線の均一な照射をより難しいものとしている。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、低エネルギーの電子線であっても、電子線を対象物に均一に照射できる電子線照射方法および電子線照射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、対象物に電子線を照射する方法であって、電子線照射領域内に回転磁界を発生させ、該回転磁界内で対象物に電子線を照射することを特徴としている。
また、本発明は、対象物に電子線を照射する電子線照射装置であって、対象物を内部に収容して電子線照射領域をつくる照射槽と、その照射槽内に電子線を照射する電子線照射手段と、前記照射槽内に前記対象物を取り囲むような回転磁界を発生させる磁界発生手段と、を備えていることを特徴としている。
【0008】
ここで、本発明での「回転磁界」とは、発生させた磁界を、対象物を取り囲むように回転させるものであり、発生させた磁界自体が対象物のまわりで回転する場合、磁界自体は回転させないが対象物を取り囲む磁界内で当該対象物を回転させて相対的に回転する磁界とした場合、および磁界自体を対象物のまわりで回転させるとともに、当該対象物を取り囲む当該磁界内で当該対象物をも回転させる場合のいずれをも含む意味である。
【0009】
本発明によれば、電子線照射領域内で対象物を取り囲むような回転磁界を発生させている。そして、この回転磁界内で対象物に電子線を照射しているので、照射された電子線は、回転磁界内部にて回転方向に偏向されるため、そのエネルギーが、対象物以外の構成部に衝突することで消耗することがないとともに、対象物に照射する電子線を回転磁界で偏向させることによって、対象物に電子線を特に周方向において均一に照射することができる。
【0010】
ここで、前記磁界発生手段は、前記対象物を取り囲む範囲に亘って複数の回転磁界を発生させるように構成されていることが好ましい。このような構成であれば、複数の回転磁界が相互に繋ぎ合わされて、いわば対象物全体を取り囲むバリアとして形成される。これにより、電子を閉じ込めるようにすることで、エネルギーの消耗を好適に抑制し、対象物に電子線を均一に照射する上でより好適である。
【0011】
また、前記磁界発生手段は、前記複数の回転磁界を、それぞれ別個に発生可能な構成であればより好ましい。このような構成であれば、電子反射方向の無秩序性をより効果的に得られる。そのため、対象物に対して、より効率的な電子線の照射が可能となる。
また、例えば個別に発生させる回転磁界を対象物に対して段階的に(例えば上下に延びる部材であれば、その上部、中央部、下部等に区分した各区部毎に)移動させつつ電子線を照射すれば、対象物全体に満遍なく照射させる上で効果的である。
【0012】
また、前記磁界発生手段は、その発生させる回転磁界の回転方向を変えることによって、前記回転磁界内での電子線の反射方向を変えられるようになっていることが好ましい。このような構成であれば、電子反射方向の無秩序性をさらに効果的に得られる。そのため、対象物にさらに効率的で均一な電子線の照射が可能となる。
また、前記磁界発生手段は、前記照射槽内での対象物を取り囲むように配置されて磁場をそれぞれ発生する複数の磁場発生体を有することが好ましい。このような構成であれば、対象物を取り囲むような回転磁界を形成する上で好適な構成とすることができる。
【0013】
また、前記磁場発生体は、円環状の磁界発生コイルで構成されており、前記回転磁界は、当該磁界発生コイルに通電することで発生するようになっている構成も好適に採用できる。このような構成であっても、対象物を取り囲むような回転磁界を形成する上で好適な構成とすることができる。なお、上記の通電用の電源としては、交流電源を用いることができ、その相数は、例えば3相交流であってもよく、3相以上の多相交流であってもよい。そして、低エネルギーの電子線を用いつつ、対象物に電子を均一に照射する上で好適である。また、前記磁界発生手段は、前記磁界発生コイルに通電する交流電圧の、例えば実効値を変化させて、回転磁界の強度を変えられるようになっていれば好ましい。このような構成であれば、電子の回転する方向をより無秩序にし得て、さらに効率的で均一な電子線の照射が可能となる。
【0014】
また、前記磁場発生体は、円環状に配置された複数の永久磁石と、当該円環状に配置された複数の永久磁石をその中心軸まわりで回転させる磁場発生体回転手段と、を有して構成されており、前記回転磁界は、当該磁場発生体回転手段で、前記円環状に配置された複数の永久磁石を回転させることで発生するように構成されていることが好ましい。このような構成であれば、所望の回転磁界を適宜の条件に合わせて効率良く形成することができる。
【0015】
また、前記磁場発生体は、円環状に配置された複数の永久磁石と、当該円環状に配置された複数の永久磁石の中心軸まわりで前記対象物を回転させる対象物回転手段と、を有して構成されており、前記回転磁界は、当該対象物回転手段で、前記円環状に配置された複数の永久磁石の内側で前記対象物を回転させることで前記対象物に相対的に回転する磁界として発生されるように構成されていることが好ましい。このような構成であれば、所望の回転磁界を適宜の条件に合わせて効率良く形成することができる。
【0016】
また、前記磁界発生手段は、前記磁場発生体を、その発生する回転磁界の軸線方向で移動させる軸線方向移動手段をさらに備えて構成されていることは好ましい。このような構成であれば、電子反射方向の無秩序性をさらに効果的に得られる。そのため、対象物にさらに効率的であって、かつ、軸方向においてもより均一な電子線の照射が可能となる。
【0017】
また、前記対象物を内部に収容するとともに、当該対象物まわりの雰囲気を真空の状態、または、負圧から正圧までの雰囲気ガスで充満された状態に管理する照射槽をさらに備え、前記雰囲気ガスは、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであることが好ましい。このような構成であれば、特に雰囲気を真空の状態、または、負圧の雰囲気ガスで充満された状態に管理することにより、電子のエネルギーロスをより軽減することができる。また、常圧の雰囲気であっても、雰囲気ガスとして比重の小さいヘリウムなどのガスを用いれば、雰囲気ガスが空気など比重のより大きいガスである場合に比べて、電子のエネルギーロスをより軽減することができる。また、正圧の雰囲気であっても、その圧力レベルにもよるが、雰囲気ガスとして比重の小さいヘリウムなどのガスを用いることにより、電子のエネルギーロスを充分に少ないものとすることができる。
【0018】
また、前記電子線照射手段は、その照射する電子線の照射角度を変えられる照射角度変更手段を有することが好ましい。このような構成であれば、電子線照射領域内に照射する電子線の進入角度を変えることができる。そのため、電子が回転磁界にいろいろな角度で当たり、より多方向からの無秩序な照射が可能となる。したがって、対象物に対し、さらに効率的で均一な電子線の照射ができる。
また、前記対象物を前記電子線照射領域(または照射槽内)を通過可能に搬送する対象物搬送手段をさらに備えていることが好ましい。このような構成であれば、当該対象物を流している、バッチ式の生産ラインあるいは連続式の生産ラインの途中にて本発明を適用できる。
【0019】
また、本発明は、前記対象物を容器またはシート状部材とし、当該容器またはシート状部材に電子線を照射してこれの殺菌に用いる用途で好適に利用できる。すなわち、本発明は、複雑形状の立体物から平面状のものまで、対象物の種類や形状に応じて適用することができるものであって、その対象物に対し電子線を効率的かつ均一に照射することができるものであり、例えば、清涼飲料水用などのいわゆるPETボトル(ペットボトル)その他のプラスチック製の中空容器に電子線を照射してこれを殺菌する用途や乳飲料用などの紙容器として組み立てる前の紙製のシートに電子線を照射して、これを殺菌する用途などで好適に利用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低エネルギーの電子線であっても、対象物に対し、電子線を均一に照射し得る電子線照射方法および電子線照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、以下の各実施の形態では、対象物として、清涼飲料水用などのPETボトル(ペットボトル)等の複雑形状をした中空の飲料容器30に電子線を照射してこれを殺菌する用途に本発明に係る電子線照射装置を適用した例である。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。なお、同図では、電子線照射装置の本体部分をなす略円筒形状の電子線の照射槽を、その軸線を含む断面にて示している。
【0022】
この電子線照射装置は、同図に示すように、電子線EBの照射槽であるチャンバ1を備えている。このチャンバ1は、その内部に飲料容器30を収容するのに十分な大きさをもつ耐圧構造の密封容器であり、その軸線を上下とする略円筒形状に形成されている。このチャンバ1の材質は、鋼材、あるいはステンレス鋼製であり、さらに、その周囲はX線を遮蔽できる遮蔽材料2で囲われている。
チャンバ1の上部には、電子線照射領域となるチャンバ内に向けて電子線EBを照射する電子線照射手段である電子発生部3を備えている。この電子発生部3は、チャンバ1の上部に密接して設置される電子線照射窓5を複数箇所(この例では5箇所)有しており、各電子線照射窓5から電子線をチャンバ1内に照射できる構造となっている。
【0023】
チャンバ1の壁面(この例では内壁面)には、その内部の電子線照射領域の周囲を取り囲むように円環状をなす、複数の磁界発生コイル71が所定の位置に配列されている。これら複数の磁界発生コイル71は、上記磁界発生手段を構成するものであり、それぞれに交流電源72から通電することで電子線照射領域内に、発生させた磁界自体が対象物のまわりで回転する回転磁界を発生可能になっており、上記所定の位置としてチャンバ1内での飲料容器30を取り囲むように、飲料容器30の軸線の方向に沿って並列して3段に配置されている。これら複数の磁界発生コイル71は、回転磁界をそれぞれ発生するようになっている。すなわち、これら複数の磁界発生コイル71は、チャンバ内周壁18に沿って飲料容器30を取り囲むように3段相互の回転磁界が合成されることで、いわば磁場によるバリヤを形成可能になっている。なお、上記磁場発生体には、各磁界発生コイル71が対応する。そして、交流電源72から供給される交流電圧の実効値を変化させて磁界発生コイル71にそれぞれ通電することで、それぞれの回転磁界の強度を変えられるようになっている。さらに、その通電タイミングは、3段の並び方向で順次に切り替えていくように制御している。これにより、飲料容器30の軸線の方向に沿って順に電子線EBを偏向させることで、飲料容器30の上部、中央部、下部に区分した各区部毎に順次に切り替えていくようにして、飲料容器30のすべての部分を、満遍なく且つ無秩序に照射することができるようになっている。
【0024】
そして、上記電子発生部3は、低エネルギーの電子線をチャンバ1内に照射可能であり、その本体での出力は200kV以下に設定されている。なお、各電子線照射窓5とチャンバ1内との間には、チャンバ1内に向けていろいろな角度で電子を突入させるために、環状の電子偏向器(不図示)がそれぞれ介装されている。すなわち、この電子偏向器は、電子線照射手段5が照射する電子線の照射角度を変えられる照射角度変更手段になっている。
【0025】
ここで、この電子線照射装置は、チャンバ1内で飲料容器30まわりの雰囲気を所定の処理プロセスに必要な所定の負圧状態に管理可能になっている。この負圧状態は、例えばPETボトルなどの長くて細い容器であっても、その底部まで十分に電子が到達可能な圧力値にするものである。詳しくは、電子発生部3とチャンバ1とは、電子線照射窓5で相互が仕切られており、それぞれ個別に圧力を管理可能になっている。そして、電子発生部3内の圧力は、高真空に減圧されており、この状態を第一の負圧とするとき、チャンバ1内は、その第一の負圧より絶対圧力の高い低真空に減圧されており、この状態を第二の負圧としてそれぞれの圧力が管理されている。
【0026】
より具体的には、同図に示すように、チャンバ1の壁面には、ガス封入口6と、ガス吸引口7とが設けられている。ガス吸引口7は、配管を介して真空排気装置11に接続されている。一方、ガス封入口6は、所定のガスが貯蔵されたボンベ等(不図示)に接続されているガス封入口24から配管を介してチャンバ1内へクリーンエアやガス等をシリンダ弁41の動作制御により供給することで、チャンバ1内の圧力を制御可能になっている。そして、その圧力制御値は、電子の必要飛程や照射プロセス等により決定されたものに対応して適宜調整が可能になっている。なお、同図において符号25はリーク口、41はシリンダ弁、42は手動弁、43は可変流量弁、44はフィルタ、また、45は真空計である。
【0027】
これにより、この電子線照射装置では、チャンバ1内を負圧制御して、上記所定の状態として、真空排気装置11によってガス吸引口7からチャンバ1内部の空気ないしガスを吸引し、チャンバ1内を低真空状態(この例では0.05MPa〜0.1Pa)にするとともに、ガス封入口6からチャンバ1内へ、比重の軽いヘリウムガスを空気に替えて封入可能に構成されている。
【0028】
なお、この電子線照射装置は、チャンバ1の壁面に開閉可能に設けられた不図示の対象物搬入口を有する。そして、この対象物搬入口からチャンバ1内に飲料容器30を搬入出する対象物搬送手段である対象物搬送装置(不図示)をさらに備えている。対象物搬送装置は、ワイヤなどの線材で構成された固定具13を有する。この固定具13は、飲料容器30の首部分を係止しつつ搬送できるようになっている。これにより、飲料容器30は、対象物搬送装置の固定具13に係止されつつ対象物搬入口からチャンバ1内に搬入され、図1に示すように、固定具13によってチャンバ1内で垂下されることで、いわば浮いている状態でチャンバ1内での所定の位置に設置可能になっている。
【0029】
次に、この電子線照射装置の作用・効果について説明する。
この電子線照射装置では、まず、飲料容器30を対象物搬送装置にて、その固定具13に係止しつつ対象物搬入口からチャンバ1内に搬入し、チャンバ1内での所定の位置に設置した後に対象物搬入口を閉じる。このとき、飲料容器30は、チャンバ1内で固定具13によって垂下して、いわば浮いている状態にしている。
【0030】
次いで、真空排気装置11にて、チャンバ1内部の空気をガス吸引口7から吸引して、チャンバ1内を低真空状態(この例では0.05MPa〜0.1Pa)とする。さらに、照射プロセスに応じて、ガス封入口6から、比重の軽いヘリウムガスを封入することもできる。さらに、チャンバ1内に、チャンバ1壁面(この例では内壁面)に沿って設置された複数の磁界発生コイル71によって、飲料容器30を取り囲むようにチャンバ内周壁18に沿って回転磁界を発生させる。
次いで、電子発生部3で電子を発生させるとともに加速し、電子偏向器を通じて、電子線照射窓5から低エネルギーの電子線EBをチャンバ1内に突入させる。
【0031】
これにより、この電子線照射装置によれば、チャンバ1内部の空気をガス吸引口7から真空排気装置11で吸引して、チャンバ1内を低真空状態(この例では0.05MPa〜0.1Pa)としているので、つまり、飲料容器30まわりの雰囲気を負圧にしているので、照射された電子線EBが雰囲気ガスに衝突することが抑制され、電子線EBをチャンバ1内で運動しやすい状態(エネルギーロスの少ない状況)にすることができる。したがって、チャンバ1内部のガス(気体)での電子線EBのエネルギーロスがより軽減されるので、電子線EBの無秩序な運動がより加速される。したがって、チャンバ1内の飲料容器30に、効率良く電子線EBを照射することができる。
【0032】
そして、チャンバ1内部の空間に形成された複数の磁界発生コイル71による回転磁界内で電子線EBが無秩序なランダム反射をして、飲料容器30に対し電子線EBを均一に照射することができる。さらに、この回転磁界は、チャンバ内周壁18に沿って飲料容器30を取り囲むように形成されている。そのため、チャンバ1内の構造部に電子線EBがほとんど衝突しない。したがって、チャンバ内周壁18等での電子線EBのエネルギーロスをより軽減することができる。
【0033】
また、この電子線照射装置では、電子偏向器を通じて、電子線照射窓5から電子線EBをいろいろな角度でチャンバ1内に突入させている。そのため、電子線照射窓5を出た電子線EBは、チャンバ1内に、より無秩序に突入する。したがって、チャンバ1内の回転磁界でのランダム反射をさらに効果的に惹起して、チャンバ1内の飲料容器30に対し、さらにムラ無く、均一に電子線EBを照射することができる。
【0034】
また、この電子線照射装置では、ガス封入口6から、比重の軽いヘリウムガスを空気に替えてチャンバ1内に封入すること、あるいは、ヘリウムガスを常圧状態で吹き流すことでも同様に、電子線EBをチャンバ1内でさらに運動しやすい状態(エネルギーロスの少ない状況)にすることができる。なお、残留する酸素分子に電子線EBが当って発生するオゾンによる匂いや腐食などが問題となるような対象物に対しては、上記のような、チャンバ1内の雰囲気ガスをヘリウムガスとする構成が好適である。
【0035】
また、この電子線照射装置では、複数の磁界発生コイル71は、飲料容器30を取り囲む範囲に亘って複数の回転磁界(上記例では3段)を発生させるように構成されている。これにより、複数の回転磁界が相互に繋ぎ合わされて、いわば飲料容器30全体を取り囲むバリアとして形成されるので、電子を閉じ込めるようにすることで、エネルギーの消耗をより好適に抑制し、飲料容器30に電子線EBをより均一に照射することができる。
【0036】
また、この電子線照射装置では、前記複数の回転磁界を、複数の磁界発生コイル71毎に、それぞれ別個に発生可能に構成されている。これにより、電子反射方向の無秩序性をより効果的に得られる。そのため、飲料容器30に対し、より効率的な電子線の照射が可能となる。そして、個別に発生させる回転磁界を飲料容器30に対して段階的に、その上部、中央部、下部に適宜移動させつつ電子線を照射しているので、飲料容器30全体に、より満遍なく照射させることができる。
また、この電子線照射装置では、その複数の磁界発生コイル71毎に発生させる回転磁界の回転方向をそれぞれ変えることによって、前記回転磁界内での電子線EBの反射方向を変えられる。これにより、電子反射方向の無秩序性をさらに効果的に得られる。そのため、飲料容器30にさらに効率的で均一な電子線の照射が可能となる。
【0037】
次に、本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置について説明する。
図2は、本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図であり、同図(a)はその正面図、同図(b)はその一部分の平面図を示し、それぞれ電子線の照射槽を断面にて図示している。なお、上記第一の実施形態と同様の構成については同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
この第二の実施形態は、上記第一の実施形態に対し、磁場発生体が、円環状に配置された複数の永久磁石と、この円環状に配置された複数の永久磁石をその中心軸まわりで回転させる磁場発生体回転手段と、を有して構成されている点が上記第一の実施形態とは異なっている。
【0038】
つまり、この第二の実施形態は、前記回転磁界に対応する磁界は、発生させた磁界自体を対象物のまわりで回転させることで形成する例であり、当該磁場発生体回転手段で、前記円環状に配置された複数の永久磁石を回転させることで、前記回転磁界に対応する磁界を発生するように構成されている点が上記第一の実施形態とは異なっている。さらに、この第二の実施形態では、磁界発生手段は、磁場発生体を、その発生する回転磁界の軸線方向で移動させる軸線方向移動手段をさらに備えて構成されているものである。
【0039】
詳しくは、チャンバ21の外周には、その径方向で対向する位置に、一対の永久磁石73が配置されている。これら一対の永久磁石73は、径方向の外側を、それぞれヨーク74で相互に連結されており、磁界漏れを抑制可能に構成されている。そして、これら永久磁石73およびヨーク74は、チャンバ21の中心軸まわりで回転可能な回転テーブル70上に載置固定されている。回転テーブル70は、その外周面にスプロケット同様の歯が形成されている。そして、この回転テーブル70の外周面が、タイミングベルト75を介してプーリ76に連結され、プーリ76はモータ77の出力軸に連結されているので、モータ77を回転駆動することにより、その駆動力で回転テーブル70がチャンバ21の中心軸まわりで回転するようになっている。これにより、回転テーブル70上の永久磁石73およびヨーク74が回転して、チャンバ21内に、その壁面に沿って回転磁界を発生可能になっている。
【0040】
さらに、この回転磁界を発生させる構造全体は、同図に示すように、チャンバ21の軸方向に移動可能に配置されたリニアガイド等を備えるスライド移動装置90を介して壁面に支持されている。そして、同図でのモータ77の下端側には、チャンバ21の軸方向に移動可能な軸部を有するシリンダ78が配置されている。そして、モータ77下端部分が、そのシリンダ78の軸部に連結されている。これにより、シリンダ78を往復駆動することによって、回転磁界を発生させる構造全体が、チャンバ21の軸方向に移動可能になっている。
【0041】
さらにまた、この電子線照射装置では、前記回転磁界に対応する磁界を形成する手段として、同図に示すように、チャンバ21の底部に、往復駆動および回転駆動用の機構をさらに備えている点が異なっている。
すなわち、本実施形態においては、飲料容器30をも回転および上下動させる構成とすることで、実質的に回転磁界を形成可能な構成をさらにもう一組有している。つまり、この構成によって、対象物を取り囲む磁界内で当該対象物を回転させて相対的に回転する磁界を形成可能になっている。
【0042】
詳しくは、同図に示すように、飲料容器30は、これを載置する載置皿91上に設置される。この載置皿91は、いわばターンテーブルになっている。詳しくは、その載置皿91の底部側が連結軸92の一端に連結されている。そして、連結軸92は、その他端側の途中部分が、気密シールを有する軸受93で上下にスライド移動可能に支持されており、さらに、端部側が下方へ延出してチャンバ21の外部に張り出している。そして、その張り出している端部がシリンダ79の軸部にカップリングを介して装着されている。なお、同図では不図示であるが、この連結軸92についても、上記符号75,76,77と同様に、タイミングベルトを介してモータの出力軸に連結された回転機構を有しており、その軸まわりで回転可能に構成されている。
【0043】
これにより、載置皿91は、シリンダ79を往復駆動することによって、チャンバ21の軸方向へ飲料容器30を乗せた状態でスライド移動し、さらに、不図示のモータを含む回転機構によって連結軸92まわりで回転する。したがって、チャンバ21内で、対象物を取り囲む磁界内で当該対象物を回転させて相対的に回転する磁界とした回転磁界が形成される。すなわち、このような構成を備えた電子線照射装置によれば、チャンバ21内に飲料容器30を入れた状態で、載置皿91を回転しつつ上下方向での高さを調整して、回転磁界を形成することができる。そのため、特に同図での中央の電子線照射窓5からチャンバ21内に突入した電子線EBは、上記第一実施形態同様、電子線EBの反射距離および反射方向がランダム反射する。したがって、飲料容器30に、むら無く、均一に電子線EBを照射することができる。
【0044】
なお、上述の永久磁石73およびヨーク74を移動させない場合であっても、飲料容器30の底部側に取り付けた往復駆動および回転駆動用の機構で、飲料容器30の軸方向での位置を上下させ、さらに回転により周方向での向きを変更することにより、相対的に回転する磁界が形成されるので、実質的には上記第一実施形態での回転磁界と同様の効果が得られる。したがって、当該回転磁界によって、チャンバ21内に突入した電子EBを無秩序に運動させ得て、飲料容器30に均一に電子線EBを照射することができる。
【0045】
そして、本発明に係る回転磁界を実質的に形成可能であれば、上記例示した構成を適宜の組み合わせとすることができる。例えば、上記永久磁石73およびヨーク74を移動させないで、飲料容器30を回転させつつ上下に移動させる構成とすることができるし、また、飲料容器30を移動させないで、上記永久磁石73およびヨーク74を回転させつつ上下に移動させる構成とすることができる。あるいはまた、永久磁石73およびヨーク74を上下に移動させ、飲料容器30を回転させる構成とすることができるし、また、永久磁石73およびヨーク74を回転させ、飲料容器30を上下に移動させる構成としてもよい。
なおまた、上記第二の実施形態の構成を、連続ラインに適用する場合、飲料容器30等の対象物を搬送する脇に位置するように、永久磁石を種々配置して、対象物を自転させながら電子線照射領域を通過させるように構成するなど、照射プロセスによって適宜の構成とすることができる。
【0046】
次に、本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置について説明する。
図3は、本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置を平面視で示す概略構成図であり、電子線の照射槽であるチャンバ31を断面にて図示している。なお、上記各実施形態と同様の構成については同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
この第三の実施形態は、電子線照射領域を囲むチャンバ31内に磁界発生手段を備えており、特に、バッチ式の生産ラインで飲料容器30に電子線を照射するのに好適な装置構造とした例である。
【0047】
この電子線照射装置は、同図に示すように、チャンバ31を備えている。このチャンバ31は、ラインの流れ方向中央部に、平面視が略円形の電子線照射領域を有している。そして、その円形の部分を挟んでラインの流れ方向両側に、それぞれ内部が連通して延びる箱形の搬送路を有して形成されている。このチャンバ31は、上記各実施形態同様、耐圧構造の密封容器になっており、チャンバ31の壁面には、ガス封入口6と、ガス吸引口7とが設けられて上記同様に配管されている。つまり、ガス吸引口7は、配管を介して真空排気装置11に接続されている。また、ガス封入口6は、配管を介してガス封入口24からチャンバ31内へクリーンエアやガス等をシリンダ弁41の動作制御により供給することで、チャンバ31内の圧力を制御可能になっている。これにより、この電子線照射装置は、チャンバ21内で飲料容器30まわりの雰囲気を所定の負圧の状態に管理可能になっている。
【0048】
さらに、平面視が円形をなす、このチャンバ31略中央の上部には、電子線EBをチャンバ31内に広い面積で照射できる電子発生部3を備えている。また、チャンバ31略中央の周囲には、電子線照射手段の電子線照射窓下方の電子線照射領域に対応する位置に、磁界発生手段が設けられている。なお、チャンバ31は、飲料容器30のできるだけ近傍を囲い込むように構成されている。
ここで、この磁界発生手段は、磁場発生体として、電磁石83が複数個配置されている。詳しくは、この電磁石83は、円形をなすチャンバ31の周囲に沿って、周方向でほぼ等間隔に6箇所に配置されている。
【0049】
そして、6箇所に配置された各電磁石83は、隣り合う鉄心同士が連結部材94で相互に連結されているとともに、各電磁石83の磁界発生コイル71は、3相インバータ81に励磁可能にそれぞれ接続されている。なお、図3において、上記の連結部材94は、同図での奥側3箇所の電磁石83の部分についてのみ図示されており、上記の磁界発生コイル71と3相インバータ81との接続は、同図での手前側3箇所の電磁石83の磁界発生コイル71についてのみ図示されている。また、、同図で符号82はコンデンサ、符号80はコンバータである。このような構成により、この磁界発生手段は、3相インバータ81で6箇所の電磁石83を励磁することで、回転磁界を発生させることができるようになっている。したがって、電子線照射領域の周囲に、飲料容器30を取り囲む磁界が形成されることで、いわば高速に回転する磁場によるバリヤを形成して、上記回転磁界に対応する磁界を形成可能になっている。
【0050】
そして、この例では、3相インバータ81で、出力電流(または出力電圧)の実効値を変えることにより磁界の強度を変更可能であり、また、出力周波数を変えることにより、磁界の回転数を変更可能になっている。なお、上記の磁界発生コイル71と3相インバータ81との接続構成としては、例えば、6箇所の各電磁石83の磁界発生コイル71のうち、チャンバ31の円形部分を介して対向した位置にある3対の磁界発生コイル71毎に、3相インバータ81の出力のそれぞれの相を接続する構成とすることができる。また、この例では、磁場発生体における磁極構成として、チャンバ31の円形部分の周囲に沿って電磁石83を6箇所に配置してなる6極構成を示したが、磁極構成は、6極構成に限定されるものではない。また、この例では、磁場発生体における電磁石を3相交流で励磁する構成を示したが、励磁用交流電源の構成は、3相交流に限定されるものではなく、3相以上の多相交流を用いる構成としてもよい。
【0051】
さらに、この電子線照射装置は、対象物搬入口(同図右側の遮蔽扉27)からチャンバ31内に飲料容器30を搬入するとともに、対象物搬出口(同図左側の遮蔽扉27)から飲料容器30を搬出する対象物搬送手段である対象物搬送装置28を備えている。この対象物搬送装置28は、不図示の駆動機構と、上記同様の固定具13とを有する。これにより、対象物搬送装置28は、不図示の駆動機構を稼働させることによって、飲料容器30の首部分を固定具13で係止しつつ搬送して対象物搬入出口となる左右の遮蔽扉27から搬入出可能になっている。このとき、飲料容器30は、上記第一実施形態同様に、固定具13によってチャンバ31内で垂下されることで、いわば浮いている状態でチャンバ31内での所定の位置に設置可能になっている。なお、対象物搬入出口部分には、各遮蔽扉27の開閉に対して固定具13および飲料容器30が扉と干渉しないように、非干渉領域にこれらを退避できる不図示の退避機構を備えている。
【0052】
このような構成を備えた電子線照射装置によれば、まず、チャンバ31の対象物搬入出口の各遮蔽扉27が開いた状態で、固定具13に係止されているライン上の各飲料容器30を、対象物搬送装置28によって流れ方向に所定量だけ移動する。次いで、対象物搬入出口の各遮蔽扉27をそれぞれ閉じる。そして、上記各実施形態同様に、チャンバ31内を低真空状態にする。なお、残留する酸素分子に電子線EBが当って発生するオゾンによる匂いや腐食などが問題となるような対象物に電子線EBを照射する場合には、必要性に応じて、比重の軽いヘリウムガスを空気に替えて封入する。次いで、電子線照射窓よりチャンバ31内の電子線照射領域に電子線EBを照射する。これにより、電子線EBが電子線照射領域内の飲料容器30に照射される。このとき、電子線照射窓より電子線照射領域に照射された電子線EBは、チャンバ31内の各電磁石83で形成された磁場による回転磁界によって、上記各実施形態同様、電子線EBが回転磁界内をランダム反射して、回転磁界内を、いわば電子シャワー状態にすることができる。したがって、電子線照射領域内の各飲料容器30に、ムラ無く、均一に電子線EBを照射することができる。次いで、電子線EBを所定時間照射した後に、チャンバ31内を大気圧に戻してから、チャンバ31の対象物搬入出口の各遮蔽扉27をそれぞれ開く。
【0053】
以上の工程を繰り返すことにより、チャンバ31の対象物搬入口から順次搬入されたライン上の飲料容器30は、回転磁界により電子シャワー状態とした電子線照射領域内を通過し、各飲料容器30に電子線EBを均一に照射後、チャンバ31の対象物搬出口から順次搬出することができる。
特に、この電子線照射装置は、同図に示すように、電子線照射領域の周囲の複数の電磁石83を、いわば上下に二分割し、その間に飲料容器30を通過可能に配置しつつ、飲料容器30を取り囲む磁界を形成できる。そのため、この第三の実施形態は、バッチ式、あるいは連続して飲料容器30を搬送させるラインで回転磁界を形成する場合に好適である。
【0054】
すなわち、チャンバ31周囲の磁界発生手段は、チャンバ中央から、いわば半割りにして配置されており、それを相向かい合わせにしたものを、流れ方向両側に有する構成になっている。そして、各半割り毎の電磁石83は、その半割りされた各開口部が、飲料容器30の流れ方向に向いており、電子線照射領域内に飲料容器30が出入り可能な程度の出入口としてそれぞれ配置されている。これにより、この電子線照射装置は、電子線照射領域内に飲料容器30を通過可能にするとともに、電子線照射領域内の電子線EBは、電子線照射領域内部の回転磁界内から、その外部にほとんど出られないように構成することを可能としている。
【0055】
また、チャンバ31には、同図に示すように、飲料容器30の生産ラインの流れ方向入側と出側とに、所望のタイミングで開閉可能な遮蔽扉27がそれぞれ設けられている。
また、この電子線照射装置によれば、飲料容器30の近傍のみを囲い込むようにチャンバ31を構成している。これにより、X線遮蔽や飲料容器30まわりの雰囲気を所定の状態に管理する領域を最小限にすることができる。
また、この電子線照射装置によれば、チャンバ31に対象物搬入出口を設けそれぞれに遮蔽扉27を備えている。これにより、チャンバ31内を低真空や特定ガスの雰囲気にする等、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に保つことがより容易になる。
【0056】
次に、バッチ式、あるいは連続して飲料容器30を搬送させるラインを構成した他の例について、本発明の第四の実施形態に係る電子線照射装置を例に説明する。
図4は、その第四の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図であり、同図(a)は、その電子線照射装置を平面方向から見た上側半分を示す図、同図(b)は、対象物の送り方向での展開図、また、同図(c)は、回転磁界発生部および対象物を上下させるカム機構部分を拡大して示す図である。なお、上記説明した実施形態と同様の構成については同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
同図に示すように、この処理槽60は、電子線照射領域となる内部の空間が、円環状に形成されており、その電子線照射領域内に、円環状をなす形状に沿って、磁界発生コイル71と対象物受け台84とが一体になった搬送機構100が複数個設置されている。
【0057】
円環状の処理槽60の中心部分には、不図示の回転装置が設けられている。この回転装置は、上述した実施形態でのターンテーブル同様の構成を有しており、処理槽60の中心軸まわりで所定の角速度で回転可能になっている。そして、この回転装置の周囲に、上記複数の搬送機構100が、ほぼ周方向に等間隔に設けられている。さらに、各搬送機構100は、磁界発生コイル71と対象物受け台84とが、それぞれ支持腕95によって回転装置の外周面に連結されている。ここで、その連結部分は、上下方向にスライド移動可能なスライド案内装置を介して連結されている。これにより、周方向での移動が拘束されつつ、上下方向には移動可能になっている。そして、上記複数の搬送機構100全体が、上記円環状の処理槽60に沿って回転する。
【0058】
さらに、同図(b)に展開図にて示すように、磁界発生コイル71と対象物受け台84とは、それぞれカム機構86に連結されており、電子線照射領域内でそれぞれ独立して上昇および下降して、対象物である飲料容器30全体を容器の長手方向に沿って容器全体に亘って移動するように構成されている。詳しくは、それぞれの搬送機構100底部には、磁界発生コイル71と対象物受け台84とのそれぞれに対応して、カム面96、97に沿って移動するためのカム従動子98、99を有しており、それぞれのカム従動子98、99が連結ロッドを介して磁界発生コイル71と対象物受け台84とのそれぞれに繋がっている。そして、それぞれの搬送機構100のカム従動子98、99は、その下部に設けられたカム機構86のカム面96、97に沿って移動することによって、上下方向に所定の揚程で移動可能になっている。なお、カム面96は、磁界発生コイル用のカム面であり、また、カム面97は、対象物受け台用のカム面である。
【0059】
上述の構成を有する、この第四の実施形態によれば、バッチ式、あるいは連続して飲料容器30を搬送させるラインで回転磁界を形成する場合に好適である。
ここで、同図では、磁界発生コイル71と飲料容器30とが共に上下方向で移動する構成例を示しているが、いずれか一方を上下させるように構成してもよい。また、同図では、磁界発生部として、磁界発生コイル71を採用した例で説明しているが、永久磁石によって磁界発生部を構成してもよい。これらは、電子線の照射プロセスに応じて適宜選択することができる。また、上記対象物受け台84上面には、飲料容器30を保持するための吸着パットやエアークランプ等を設けて構成することができる。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る電子線照射方法および電子線照射装置によれば、低エネルギーの電子線EBであっても、対象物である飲料容器30に対し、電子線EBを均一に照射することができる。
なお、本発明に係る電子線照射方法および電子線照射装置は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、上記各実施形態では、対象物として飲料容器30を例に説明したが、これに限定されず、例えば、対象物として、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料等、あるいはこれらに用いられる包装材料などであっても適用することができる。すなわち、本発明は、複雑形状の立体物から平面状のフィルムまで、対象物の種類や形状に応じて適宜用いることができ、例えば、乳飲料用などの紙容器として組み立てる前の紙製のシートに電子線を照射して、これを殺菌する用途などにも適用することができる。そして、本発明によれば、上記のようなシート状部材に電子線を照射する場合に、シート状部材を回転磁界内に通すことで、回転磁界内に発生する電子シャワーにより、シート両面および端部に均一かつ効率よく電子線を照射することが可能となる。
【0062】
また、上記各実施形態では、対象物を殺菌する用途を例に説明したが、これに限定されず、殺菌以外の用途であっても適用することができる。
また、上記各実施形態では、電子線の照射槽は、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に管理可能な耐圧構造の密封容器であるチャンバを例に説明したが、これに限定されず、電子線の照射槽を開放型に構成してもよい。しかし、電子線のエネルギーロスをより軽減する上では、上記実施形態のように、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に管理可能な照射槽(チャンバ)とし、その処理槽内を負圧にするとともに、対象物を取り囲むように発生させた磁場によって回転磁界を形成し、対象物に照射する電子線をその回転磁界内で反射させすることが好ましい。
【0063】
また、上記各実施形態では、磁場発生体は、永久磁石、電磁石、および円形コイルで構成されている例でそれぞれ説明したが、これに限定されず、磁場発生体は、例えば、電磁石、円形コイル、あるいは永久磁石を含めてこれらの組合わせで構成されていてもよい。
また、上記各実施形態では、チャンバは、対象物の種類に合わせて外形形状が予め決められている例で説明したが、これに限定されず、その内形形状を対象物の形状に応じて変えられる内形形状可変構造を有する構成とすることができる。このような内形形状可変構造の例としては、外形を構成する隔壁をスライド可能な組合わせ構造とする。このような構成であれば、対象物の形状に応じて、チャンバの内形形状を適宜に可変して対応することができる。そのため、対象物に対し、さらに効率的で均一な電子線の照射が可能となる。
【0064】
また、上記実施形態では、チャンバ内の雰囲気管理の具体例として、チャンバ1内部の空気をガス吸引口7から吸引して、チャンバ1内を負圧状態(この例では0.05MPa〜0.1Pa)にすること、および残留する酸素分子に電子線EBが当って発生するオゾンによる匂いや腐食などが問題となるような対象物に対しては、必要性に応じて、空気に替えて比重の軽いヘリウムガスを封入する例で説明したが、本発明におけるチャンバ内の雰囲気管理の構成は、これに限定されるものではない。すなわち、チャンバ1内を負圧状態にする場合、上記のような例えば0.05MPa〜0.1Pa程度の低真空状態に限定されるものではなく、より真空度の高い高真空状態としてもよく、真空度が高いほど、電子のエネルギーロスをより一層軽減することができる。また、チャンバ内の雰囲気は、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであればよく、対象物の種類や照射目的に応じて、チャンバ内の雰囲気ガスを適宜に選択して、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に管理することができる。なお、常圧の雰囲気によるエネルギーロスを軽減する場合は、比重の小さいヘリウムなど用いれば、空気などの比重のより大きいガスである場合に比べて、好適に利用できる。なお、雰囲気ガスとして比重の小さいヘリウムなどのガスを用いれば、常圧の雰囲気であっても、雰囲気ガスが空気など比重のより大きいガスである場合に比べて、電子のエネルギーロスをより軽減することができる。また、正圧の雰囲気であっても、その圧力レベルにもよるが、雰囲気ガスとして比重の小さいヘリウムなどのガスを用いることにより、電子のエネルギーロスを充分に少ないものとすることができる。
【0065】
また、上記実施形態では、バッチ式の生産ラインで飲料容器30に電子線を照射するのに好適な装置構造とした例について説明したが、これに限定されず、例えば連続式の生産ラインで対象物に電子線を照射する際に本発明を適用してもよい。
また、上記各実施形態は、それぞれの構成を適宜に選択して相互に組み合わせることができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の第四の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0067】
1、21、31、60 チャンバ(照射槽)
2 遮蔽材料
3 電子発生部(電子線照射手段)
4、19、23 永久磁石(磁場発生体)
5 電子線照射窓
6 ガス封入口
7 ガス吸引口
10 電子偏向器(照射角度変更手段)
11 真空排気装置
13 固定具
14 ターンテーブル
15 支持軸
18 チャンバ内周壁
22 磁石支持部材
26 対象物回転機構
27 遮蔽扉
28 対象物搬送装置(対象物搬送手段)
30 飲料容器(対象物)
41 シリンダ弁
70 回転テーブル
71 磁界発生コイル
72 交流電源
73 永久磁石
74 ヨーク
75 タイミングベルト
76 プーリ
77 モータ
78 シリンダ
81 3相インバータ
83 電磁石
90 スライド移動装置
91 載置皿
92 連結軸
93 軸受
94 連結部材
95 支持腕
96 (磁界発生コイル用の)カム面
97 (対象物受け台用の)カム面
98 (磁界発生コイル用の)カム従動子
99 (対象物受け台用の)カム従動子
100 搬送機構
EB 電子線
MF 回転磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線照射領域内に回転磁界を発生させ、該回転磁界内で対象物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法。
【請求項2】
対象物を内部に収容して電子線照射領域をつくる照射槽と、その照射槽内に電子線を照射する電子線照射手段と、前記照射槽内に前記対象物を取り囲むような回転磁界を発生させる磁界発生手段と、を備えていることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項3】
前記磁界発生手段は、前記対象物を取り囲む範囲に亘って複数の回転磁界を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記磁界発生手段は、前記複数の回転磁界を、それぞれ別個に発生可能になっていることを特徴とする請求項3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記磁界発生手段は、その発生させる回転磁界の回転方向を変えることによって、前記回転磁界内での電子線の反射方向を変えられるようになっていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記磁界発生手段は、前記照射槽内での対象物を取り囲むように配置されて磁場をそれぞれ発生する複数の磁場発生体を有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記複数の磁場発生体は、円環状の磁界発生コイルでそれぞれ構成されており、前記回転磁界は、当該磁界発生コイルに通電することで発生するようになっていることを特徴とする請求項6に記載の電子線照射装置。
【請求項8】
前記磁界発生コイルは、その通電する交流電圧を変化させて、発生する回転磁界の強度を変えられるようになっていることを特徴とする請求項7に記載の電子線照射装置。
【請求項9】
前記磁場発生体は、円環状に配置された複数の永久磁石と、当該円環状に配置された複数の永久磁石をその中心軸まわりで回転させる磁場発生体回転手段と、を有し、前記回転磁界は、当該磁場発生体回転手段で、前記円環状に配置された複数の永久磁石を回転させることで発生するようになっていることを特徴とする請求項6に記載の電子線照射装置。
【請求項10】
前記磁場発生体は、円環状に配置された複数の永久磁石と、当該円環状に配置された複数の永久磁石の中心軸まわりで前記対象物を回転させる対象物回転手段と、を有し、前記回転磁界は、当該対象物回転手段で、前記円環状に配置された複数の永久磁石の内側で前記対象物を回転させることで前記対象物に相対的に回転する磁界として発生されるようになっていることを特徴とする請求項6に記載の電子線照射装置。
【請求項11】
前記磁界発生手段は、前記磁場発生体と前記対象物とを、その発生する回転磁界の軸線方向で移動させる軸線方向移動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項12】
前記対象物を内部に収容するとともに、当該対象物まわりの雰囲気を真空の状態、または、負圧から正圧までの雰囲気ガスで充満された状態に管理する照射槽をさらに備え、
前記雰囲気ガスは、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであることを特徴とする請求項2〜11のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項13】
前記電子線照射手段は、その照射する電子線の照射角度を変えられる照射角変更手段を有することを特徴とする請求項2〜12のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項14】
前記対象物を前記電子線照射領域を通過可能に搬送する対象物搬送手段をさらに備えていることを特徴とする請求項2〜13のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項15】
前記対象物は容器またはシート状部材であり、当該容器またはシート状部材に電子線を照射してこれの殺菌に用いることを特徴とする請求項2〜14のいずれか一項に記載の電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−113935(P2007−113935A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302875(P2005−302875)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】